いやー、こうして評価してくださってるのを見ると、すごく嬉しくなりますね!
皆様いつもありがとうございます!
それでは、どぞ。
俺が一人プールで待っていると、銃声と何やら叫び声が聞こえてきた。
そして案の定、楽と鶫が3階の窓から飛び降りてきた。
ドドボオオン!!
と、普段では絶対に聞かないであろう水飛沫をあげて、二人は着水。
プールサイドへ上がり、着水したであろう場所へ歩いて向かうと、ちょうど楽がプールから鶫を引き上げているところだった。
「大丈夫か?」
「うおっ! ビックリした……。何だ弥柳か。まぁ俺は大丈夫だけど、鶫は……」
「ああ、ダメだこりゃ。完全にのびてる」
鶫の顔を覗き込んで見ると、原作のように目をぐるぐる回していた。
「はぁ……鶫は俺が運ぶから、一条楽は早く着替えてきな」
「ああ。でもどうせなら一緒に更衣室まで行こうぜ」
「ん」
軽く返事をしてから、鶫をお姫様だっこする。
「いや何でお姫様抱っこだなんだよ」
「濡れたくないからに決まってるだろ?」
「あ、はい……」
こんな会話をしつつ、更衣室にたどり着く。
「さて、鶫を起こすか」
「は? 別に起こさなくても更衣室で着替えさせたらよくないか?」
「……ああ、お前鶫が男だと思ってるのか? 鶫は女だぞ?」
「……は?」
「だから、鶫は女。オーケー?」
「……マジで?」
「マジで」
「でも名前……」
「ああ、誠志郎って名前は偽名でも何でもなく、正真正銘本名だ。ただこいつは俺と同じ拾われた子でな。ど言うわけかクロード様が鶫を男だと思ったらしく日本人の名前事典をパラパラめくってテキトーに名付けたんだってよ」
「……あのメガネ」
「しかも10年たった今でも男だと思ってるからなあの人。笑えるだろ」
「……10年!?」
「ああ10年。鶫が女だと気づいたクロード様、どんな顔するんだろうな」
そのシーンは、まだ漫画でも見たことがない。最終巻で見れたのだろうか。
「なぁ弥柳。鶫もってことは、お前も拾われたのか?」
「うん? ああ、そうだよ」
「じゃあお前の名前もあのメガネが考えたのか?」
「うんそうだよ。優には名付けた理由があるけど、名字の方は鶫と同じでテキトーに名付けられた」
「……ん」
と、不意に小さな声がして、鶫がゆっくりと起き上がる。
「お、起きたか」
「体は大丈夫か?」
「あ、ああ。一条楽に優か……。そうか、私は気を失っていたのか……」
何やら鶫の表情が優れない。大丈夫だろうか? 原作では特に問題なさそうだったが、もしかしたら何か体に異常をきたしたのかもしれない。
「おい鶫、大丈……」
「触るな!」
バシッ! っと、伸ばした手が叩かれた。
「うおっ! 何だよどうしたんだ?」
楽が素朴な疑問をぶつける。
しかし鶫は楽の言葉を無視して、俺を睨んできた。
いつもの光景に、俺は吐きたくなるため息をグッと堪えて、鶫に声をかける。
「鶫、取り合えずそこに更衣室があるから、脱ぐなりなんなりしてこい。着替えがないなら後でお嬢に着替え持ってきてもらうから……」
鶫は返事をせず、ただフンッと鼻をならして、女子更衣室に入っていった。
「鶫のやつ、何でお前にあんな態度を取ったんだ?」
「いや、あれでもましになった方だぞ? 昔は任務の時の必要最低限の会話しかしてくれなかったからな」
「……何か嫌われるようなことでもしたのか?」
「してない……と思うんだけどね」
そう言って、俺は苦笑する。
いや、ほんとにこればっかりは分からない。何故鶫に嫌われてるのか。そして何故最近少し口を聞いてくれるようになったのか。考えてみても分からない。
「そっか…」
「そうだ。……取り合えずお前も着替えてこいよ。そのままだったら風邪引くぞ?」
「ぶえっくしょん。……ズズ、そうする」
くしゃみをし鼻をならしながら更衣室に向かう。しかし楽はドアを少し開けたところで、不意に立ち止まり口を開いた。
「あ、そうだ弥柳。お前に言われてから色々考えて、その時ふと思ったんだけど……」
「……何だ?」
「…………お前って、人を殺したことがあるのか?」
「っ!!?…………」
心臓が跳ね上がった。
すぐに落ち着かせたし、表情にも出ていないだろうが、いま、いきなり、そんなこと聞くか!?
「…あっ! いや何でもない! 今聞いたことは忘れてくれ! うわ……俺なんてこと聞いてんだ……。違うんだ、本当にちょっと疑問に思っただけで、つい口に出てしまったというか……取り合えず、忘れてくれ!」
楽のその物言いはすごく必死で、確かに少し気が緩んで、思っていたこと、聞きたかったことがポロっと出たんだろうという風に捉えられた。
何か楽の慌てようを見ていると、何だか笑えてくる。
「ハハハッ、気にしなくて良いよ。うん、そうだね。鶫は誰も殺してないから、安心して良いよ」
「……え?」
「あ! ダーリン! 優!」
追い付いてきた千棘の声がして、俺は声の方に視線を向けた。
◇
今俺は、弥柳から衝撃の真実を聞かされている。
まさか鶫が女だったとは……!! 男の制服着てるし、男みたいな名前しているし、屋上でのあの会話もあったし、てっきり俺は鶫は男だと思ってた……。
ていうか、あのメガネ……鶫が女だと気づいてないとかバカなのか? ……いや、俺も気づけなかったから人の事いえないけど……。
しかし、二人ともあのメガネに拾われたのか。何て言うか、そんなことってあるんだな。日本では考えられない。……って、二人とももしかして日本人じゃない? でも顔立ちは日本人っぽいよな? 日本語も普通に話せてるし……。
ま、いっか。
と、鶫が目を覚ました……んだけど、何でこいつ、こんなに弥柳に強く当たるんだ?
弥柳に聞いても分からんって言うし……意味わかんね。今度千棘にでも聞いてみるか。
「……取り合えずお前も着替えてこいよ。そのままだったら風邪引くぞ?」
という、弥柳の言葉に素直に従うことにする。
確かにちょっと寒いし、鼻もむずむずしてきた。くしゃみも出目来たし、鼻も出る。これは風邪を引いたかもしれん。
……あ、そうだ。俺弥柳に聞いてみたいことがあったんだった。今ちょうど二人っきりだし、聞いてみよう。
「あ、そうだ弥柳。お前に言われてから色々考えて、その時ふと思ったんだけど……」
「……何だ?」
「………お前って、人を殺したことがあるのか?」
…………。
…………………あれ? 俺今何聞いた?
ぶわっと嫌な汗が全身から出て、体が急激に暑くなった。
は!? 俺今何言った!? 「人を殺したことがあるのか?」って聞いたのか!?
うわ嘘だろ!? 何てこと聞いてるんだ俺!! 最低だ! 兎に角、直ぐに謝らないと!
「…あ、いや何でもない! 今聞いたことは忘れてくれ! ……うわ、俺なんてこと聞いてるんだ……。違うんだ、本当にちょっと疑問に思っただけで、つい口に出てしまったというか……取り合えず、忘れてくれ!」
って、結局謝れてねぇ!
直ぐに謝らないと!
そう思い、直ぐに口を開こうとしたその時には、弥柳が先に口を開いていた。
「ハハハッ、気にしなくて良いよ」
その言葉か聞こえてホッとしたのもつかのま。
「うん、そうだね。鶫は誰も殺してないから、安心して良いよ」
普段表情が変わらない優が、苦笑気味にそう答えた。
優が苦笑している、というところもそうだが、それ以上に気になることが。
(鶫は誰も殺してないから……って、どういうこと? ……それじゃあ、お前はーーー?)
そう思い、口を開こうとして。
「あ! ダーリン! 優!」
千棘の声が聞こえた。
声の方向に顔を向けると、千棘が手を振りながらこっちに歩いてくる。
ふと、隣にいる弥柳に視線を向けると、その顔はいつもの無表情に戻っていた。
これ以上話を聞いてよかったのか分からなかったし、うやむやに終わるような感じになって千棘には感謝だが、俺の心には大きなモヤモヤと、これまた大きな罪悪感が残り、胸の辺りが酷く痛んだ。
千棘が鶫の着替えを取りに行っている間に、弥柳が帰ると言って帰った。
引き留めたかったが、罪悪感があったし、何より弥柳が「今の鶫には俺がいない方がいいだろう」と言ったから、呼び止めようもなかった。
千棘が戻ってきて、千棘の体操服を着た鶫が戻ってきた。
「む……優はどうした?」
「弥柳の奴なら帰ったよ」
「……そうか」
そう返事をした鶫の表情……あれは、どんな感情から来るものなんだろう。落ち込んでいるようで、でもそれに勝る勢いで怒っていて、でもその怒りの方向は弥柳だけに向いているわけではなさそうで……。
悔しくて、辛くて、逃げたしたい……。いろんな感情が混ぜ合わさった、そんな表情をしていた。
「……で? どーなったのよ決闘は?」
千棘のその声に現実に戻される。
「え? ああ…………。えー………っと…………?」
チラッと鶫を見る。
すると鶫は俺に指を指して、こう言った。
「……言っておくが一条楽!! 私はやはり負けてなんていないからな……!!」
「あれ!?」
いや、お前気を失ってたし、あれは俺の勝ちだろう!?
……そのあと、結局決闘は無効ということになり、鶫の俺の処分は保留ということになった。そして俺はプール無断使用の反省文を書かなくてはいけなくなったのだった。
楽side
ありがとうございました。
今日は皆様に報告があります。
詳しくは活動報告に書きましたが、鶫とポーラが人を一度も殺したことがないという設定について、私の考えと、あとアンケートを活動報告で実施しています。
回答期間は今日より3日とる予定です。
皆様、良ければご協力ください。
ではでは。