ニセコイ 〜転生者の軌跡〜   作:猫の休日

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さっそくお気に入り登録してくださった方がいるみたいで、ありがとうごさいます。

ほぼ自己満足で書いていますが、楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、どぞ。


1話 目覚め、そしてーー

目が覚めると、見知らぬ天井があった。

痛む頭でぼんやりとここがどこかを考える。

今俺は、とても暖かくてふわふわとしたものにくるまれていて、あのまま自分は死んでしまっていて、実はここが天国なのではないかと錯覚する。

途端、ここが天国なら、もしかしたら近くにエリーがいるかもしれないという考えに行き着き、跳ね起きた。

 

「エリー!」

「「きゃああ!」」

 

女の子の悲鳴が聞こえた。しかし、声は二つ。このどちらかがエリー?

バタバタバタと、駆けていく音が聞こえ、ドアを押し開ける音が聞こえる。

そちらに視線をやると、ちょうど部屋から出ていく長い金髪が流れていくのが見え、その後を一人の子供が追いかけていくのが見えた。

 

「お嬢! お待ちください!」

 

バタバタバタと、足音が遠のいていく。

俺はドアを呆然と眺めたあと、ゆっくりと部屋を見渡した。

白を基本とした、シンプルな部屋。しかし壁の出っ張っているところーー柱だろうか、そこには高そうなライトがあり、淡い優しい光をともしている。

カーテンから差し込む光は、高そうな絨毯をキラキラと照らし、迷い込んだ風は、これまた高そうなカーテンをヒラヒラと弄んでいる。窓から見える空は、きれいな青空だった。

 

エリーじゃなかった。ぼんやりと、そんなことを考えた。

黒色の長い髪。それがエリーだ。金髪で長髪出もなければ、黒く短い髪でもない。それに、声も違った。

エリーではなかったことに、失望と脱力感を強く感じ、視線を落とす。すると、視界の中に自分の骨と皮だけといっても過言ではない程の細い腕が映った。そして、肘裏からから延びる、細い管も。

細い管を目で追うと、自分の寝ていた側に、何やら液体名入ったものがぶらがっており、そこに管は繋がっていた。

 

(ーー点滴)

 

という言葉が頭に浮かんだが、点滴とは、何だろうか。どこかで聞いたことがあるような気がするが……分からない。

興味本意で、自分の腕に刺さっている管を抜いてみることにした。

怖いので、ゆっくり、そっと抜く。

小さな、けれど鋭い痛みが走るが、抜ききった。

抜いた場所には、小さな血の泡ができていた。

その泡を、何となく眺めていると、ドアの開く音がした。

見てみると、そこには自分に手を差し伸べた男がいた。

 

「起きたか。気分はどうだ?」

「ーー、ヒュー」

 

のどが痛い。声が出せず、空気の漏れる音がした。

 

「ほら、これを飲め」

 

差し出されたコップに、水がなみなみと満たされていて、俺はそれを受け取っては、慌てて飲んだ。

 

「落ち着け、ゆっくり飲めばいい」

 

案の定、むせて少なくない水を溢す。

再度渡された水を、今度はゆっくりと飲む。

のどが潤った。

 

「……ぁ、りがとぅ」

「ああ」

 

…………。

 

「わたしのこと、覚えているか」

 

男が聞いてきたので、頷く。

 

「そうか。私の名前は、分かるか?」

 

聞かれて、頭を振るおうとしてーークロード。

その名前が、出てきた。

ズキ、と頭が痛む。

俺はとっさに、血の出ていない左の手で、頭を押さえた。

 

「頭が痛いのか?」

「痛い。クロード、痛い」

「む、私の名前を覚えていたか、待ってろ。痛み止を持ってきてやる」

 

そういうと、クロードは早足で部屋から出ていく。

俺はそれを目で追うことすらせず、必死に頭を押さえていた。

何故か、先程から全く知らない言葉が出てくる。漫画、アニメ、ニセコイ、クロード、楽、千棘、鶫、小咲、るり、集、マリカ、ヤクザ、ギャング、警察、約束、結婚、大学、車ーー死。

 

瞬間、弾けたように頭の中に記憶が流れ込んできた。それは、これまでの地獄のような辛い日々ーーだけでなく、そのさらに前、まだ俺が別の人物であったときの、記憶。

 

 

転生。

 

 

その言葉が、頭に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

落ち着け、落ち着くんだ俺。

転生したなんて、そんな非現実的なことが起こるわけがない。

そう、頭では思いつつ……。

 

ーーでは、今の俺の状態は、どう説明する?

 

俺の記憶は、前世で過ごしたある程度の記憶、そして、この世で生きた地獄のような飢え、痛みの記憶がある。前世の俺の名前や年齢は思い出せない。しかし、大学の帰り道、儚く交通事故で死んだことは、朧気ながら覚えている。その記憶を夢だとは到底思えないし、思いたくない。

では、転生していないのだとしたら、今世の記憶は何だ? 俺は今事故による植物状態になっていて、夢を見ていると? それは、絶対にあり得ない。あの飢餓と痛み、そしてエリーの死は、絶対に夢ではない。

 

ーー転生、ということなのだろう。

 

それ以外に、考えられなかった。

バタンと、ドアの閉じる音がして、思考の渦が霧散する。視線を向けると、そこには前世でも見たことがある顔があった。

 

「く、ろー……ド?」

 

眼鏡をかけた白髪の男。この人物を、俺は知っている。今世だけではなく、前世の記憶としても。

何故? 答えは簡単。俺が前世で読んでいた、とある漫画の登場人物だからだ。

 

ニセコイ。

 

それがその漫画のタイトル。そこに、クロードという人物が出てくるのだ。眼鏡をかけた白髪の男が。

顔をまじまじと観察する。見れば見るほど、本人である。漫画のクロードよりかは幾分か若い。しかし、確実にクロードである。

……どうやら俺は、普通に転生しただけではなく、ニセコイという前世の漫画の世界に転生してしまったらしい。

 

なんてこったい。

 

いや、正直に言うと嬉しい。主人公の楽は正直あまり好きではないが、それでも俺の好きな漫画であることには代わりがなかったから。

ただ、1つ言いたい。

 

俺、最終巻だけ読んでないんだよー!

だから最後、どうなったのかすごく気になる! 結局楽はどっちを選んだんだー!?

 

俺が一人頭を抱え悶々としていると、クロードが慌てたように声をかけた。

 

「そ、そんなに頭が痛いのか!? 取り合えずこの薬を飲みなさい!」

 

何やら盛大な勘違いをされたが、前世の記憶を思いだした反動か頭はまだ痛むので、ありがたく頂戴する。

 

「取り合えず、今日はこのまま寝なさい。まだ顔色も悪い。明日にでも、また話をしよう」

 

そう言って、クロードは電気を消して部屋から出ていった。

静かになった部屋で、俺はこれからを考える。

まず、この世界がニセコイの世界だということは、ほぼ確定でいいと思う。多分だけど、さっきいた二人の女の子は、千棘と鶫だろう。

一瞬、俺が鶫になるのではないかと思ったのだが、流石にそれはなかった。だって俺、男だし。聖剣あるし。伝説の剣装備してるし。

じゃあ、俺は何者? 原作に出てこないビーハイブのヒットマンのうちの一人……なのだろうか?

それとも、よくSSとかで見る……オリ主、という奴なのだろうか。

 

「ん〜…………」

 

ん、分からん。なるようになるでしょう。

と、思考を放棄する。

原作に介入するようならオリ主。違うならただのヒットマン。それでいいではないか。

でも正直、漫画の続き、というか最終話がどうなったのか知りたいから、できるだけ原作に介入していけるように行動したい。

ではどうするか。取り合えず、ヒットマンになるのは確定。だって、この世は力が全てなんだから。当たり前だろう?

 

あと、俺には1つ、漫画を読んでいて気になっていたことがある。それは、鶫やポーラが人を殺していたのかいないのか、ということだ。

彼女たちは原作後、恐らくヒットマンとは違う道に進むのではないかと思う。何故なら彼女たちは明らかに、表の人間になっていた。平和ボケとも言う。

これは俺のかってな妄想だったのだが、鶫やポーラが人を殺したことがあると仮定する(絶対あると思うけど)。だとすると、やがて表舞台で生きていくことになるであろう彼女たちの、足かせになるのではないかと思うのだ。

 

ーー人殺しは、光ではなく闇の中で生きるべきだ。

 

みたいな。

そんな考えを、持たないだろうか。少なくとも、精神的な葛藤、苦痛を味あうことになるのではないだろうか。

もっといってしまえば、原作中、学校生活で。

こんな平和な世界に、手が血で汚れきった自分はいるべきではない。……とか、思わないだろうか。

 

……………。

 

目標。彼女たちに人殺しをさせない。その役目は、全部俺が背負う。

 

それを、今世の俺の目標にしたいと思う。

原作に介入していくのか、しないのか。どうすれば介入できるのか分からない。だから、取り合えずこの目標だけは、達成しよう。

 

そう固く誓って、俺はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「お前の名前は、弥柳優(みやなぎゆう)だ」

 

次の日の朝、クロードが部屋に入ってくるなり、そう言った。

 

「……はい?」

 

こんな反応をした俺は、何も悪くない。

というか、今世でのこれまでの暮らしを夢で見て、精神が大分まいっているその状況下で突然話しかけられたら、内容問わず誰でも俺のような反応をするだろう。

 

ってちょっと待て。今名前って……。

 

「だから、貴様の名前だ。弥柳優。それがお前だ」

「……な、まえ? ……おれ、の?」

 

名前。名前。俺の、名前。

みやなぎ、ゆう。

 

「お前は見たところ、日本人のようだからな。日本人の名前にすることにした」

 

俺の、名前ーー。

 

スー……と、頬を何かが伝う。

 

「"優"にしたのは、お前に優しい人間になってほしいからだ。力を求めるなら、優しさを知らなければ、本当の力意味での力なぞ分からんからな。弥柳は、私がテキトーに決めた。悪く思うな」

 

そう言って、フフンと笑うクロード。

 

「お前には、これから我々の組織ビーハイブのヒットマンになってもらう。力をつけるには最適だと思うぞ?」

 

ああ、涙が、止まらない。

俺に、名前が付いたーー。

 

夢で荒んだ心が、ぽかぽかと暖まっていく。

 

冷たい雨が止み、お日様が顔を出したように。

エリーが初めて、俺に笑顔を見せてくれたあの日のように。

 

俺の冷えきって、荒んで、壊れている心に。

 

確かな温もりを感じて、俺は静かに泣いた。

 

 

 




ありがとうごさいました。
ヒロイン誰かわかりました? 分かる人には分かるはずです!

………。

最後の方、もう少し上手く書けなかったのか……。
と思ったそこのあなた! 私もそう思う。でも、この辺りが私の限界なのです許してください。

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