詩乃の部屋に入ると冷房が効いており外が暑かったことも相まって快感を感じる。部屋の中は綺麗に片付けられているがあまり想像した女の子の部屋、と言ったイメージではなく余計なインテリアなどは無く硬派なイメージを持つ。
俺は部屋の真ん中にある机に、詩乃は斜め横にあるベッドの上に座り俺の膝に足を伸ばしている。
「あのな詩乃、俺の中での常識というものではな、女子は好きでもない男に対して家に上げたり手料理を振る舞うなんてことはないと思うんだよな。しかしながら新川くんの話によれば詩乃はそれをやってると聞く、相違ないか?」
「うん、そうだけど?」
何を言ってるんだこのノータリンは?
常識とは大人になるまでに集めた偏見のコレクションという言葉があるがその偏見に同意する人が多ければ常識と言っていいだろう。
「で、そのようなことをされた新川くんは当然詩乃に好意を向ける」
「それは人それぞれでしょ、変なふうに言わないでよ」
「男の子ってのはアイドルとかになればウンコはしないし処女だとか女の子に夢見がちなことを言うんだ、そして自分に少し良くしてくれたら確定で好きになる、それもこんな可愛い娘だったら尚更だよ」
「偏見だらけじゃない」
男はそんなレベルで女の子ってものに夢を持ってるんだ。だから女性の有名人に彼氏がいるってだけで殺害予告とかしてるんだよ。
俺はいたって真面目に話をしているつもりだが、以前として詩乃はニヤニヤと緩んだ顔で話を聞いている、少しは真面目に聞いてくれてもいいだろう?
「それは女にとっては『たかが』だろうけどな、男にとってはそれはもう空に舞いあがるような気持ちになる。男の俺が言うんだ、間違いない」
「仁はそういうことなくない?」
「鈍感気取ってるんだよ、そっちの方が人生楽なんで」
机に頬杖を着き詩乃から目を逸らしつつの言い逃れ、情けないのはわかってます。ただ鈍感が過ぎればなお面倒なことになるということも知っている、ありがたいことに目の前の娘が教えてくれた。
「俺を男の代表として見るでないぞ。現にこう簡単に家に上げると男は狼なんだから大変悲しいことになってもおかしくないからな」
「私がそんな尻軽に見えるの?」
「現にやってんだろが、新川くんのことどう思ってるんだよ」
「友達」
「だよな、それで恋人とか言われたら俺がショックだったわ。それは良しとしてそれ相応の対応があるだろ? 俺なら友達程度の女性を家に上げたりしねぇ」
「え? 前家あげてくれたじゃん?」
あ、そういや俺にも前科あったか。
「いやあれは詩乃だからOK、結果そういう関係ではあるし」
「でもまだ告白されてないよ?」
詩乃はニンマリとした笑顔で返す。
楽しんでいらっしゃるようですけどこっちは若干イラついてんですよ。
「ちゃんとミホとかからもしっかり話を聞いてみろ」
俺はそこで話を切る。
めんどくさくなってきたからミホに丸投げしておこう、同性の方から言われた方がわかりやすいこともあるだろう。
「ねぇねぇ」
先ほどまで詩乃は腕を後ろに着き斜に構えた姿勢で話を聞いていたが俺の話が終わったと気付き、机の上で腕を組みこちらへニンマリとした顔のまま体を寄せる。
「なんや? そのニヤついた顔にイラついてきたよ」
初めからずっとニヤついた顔で話聞きやがって、これが体育会系の部活ならビンタ飛んでるぞ? もしくは俺の右腕がグラインドブレードだったら一撃だよマスブレでも良いぞ? よかったなここがVじゃなくて。
「嫉妬してくれてる?」
俺を試すような目で俺を見やったまま詩乃はそう囁く。
その言葉を聞いて全身の筋肉が硬直してそのついでに背中か首がピシリと音を立てる。
うわ恥ずかし、これが嫉妬か?
顔に血が集まるのが自分でもわかるほどに熱を帯びる。
「あれあれ? どうしたのかな〜顔赤いよ〜」
俺たまにあるんだよな・・・戦闘中にブチ切れて記憶が飛んだりとか・・・。
ゲームの世界よりも機敏な動きで俺は足の下から座布団を引き抜き詩乃へと投げつける。詩乃の顔へと座布団シュゥゥゥーッ!!
「ぶふぇ」
俺の反応を見てかなお笑顔を深めた顔に座布団がゴール、下から間抜けな声が漏れる。
俺は投げたと同時に立ち上がり詩乃へと走り出す、言っても2mと離れてないため走り出すと言うより踏み込む程度だが。
詩乃が座布団を顔から剥ぎ取ったと同時に既に横に回り込んだ俺は右手で両脇に手を回すように抱きベットへうつ伏せに押し倒し、頭の上で両手を固める。
「こら、怒らないから離しなさい!」
「年上を茶化しおって、そう挑発ばかりしたらこうやってエキサイティンなことになるんだよ!」
「ちょっと! 何やらつもりよ!」
「一つの部屋に男と女がいればやる事は一つだろうが!」
「え!?まっ、待ってよこっちも準備が!」
いや準備とかしなくていいから、やらないから。
恥ずかし紛れにやっちゃったけどウェルカムなのは意外だよ。
「女が男を部屋にあげるってのはこうなってもおかしくないって事なんだよ、分かった?」
詩乃の頭上で固めていた両手を離し上から降りようと腰をあげるが・・・。
「そい」
腰に抱きつかれ立つことが出来ない。
「据え膳食わぬは?」
と詩乃が問う。
「男の恥?」
俺が返す。
「違う、女も恥。私はそんなに魅力ないの?」
「ぬ・・・」
チラと見た詩乃の瞳にふざけた印象はない。
確かにここまで何度もアプローチは食らっておりずっと流してきたがそれはただの引き伸ばし。問題を後に回しているに過ぎない典型的なクズの発想。
覚悟を決めるのが遅過ぎやしませんかねぇ、ゲームで困った時はどうする?
突撃あるのみだろ!
腰にへばりつく詩乃を引き剥がしベッドへと寝転ばす。
「やっとね、はぁ・・・」
「悪いね、思慮深いと思っといて」
「頭いい人は決断も早いの」
「バカはお嫌い?」
「大好き」
まだ何か言う前にその口は塞いでおこう。
俺が絶対に詩乃に勝てないであろうところは臆面もなくこういうことを言ってくること。
腰に手を回し体が密着すると詩乃も俺へ腕と足を絡ませて服越しに詩乃の体温が俺へと伝わり変な一体感を感じる。一つになるってこう言うことなんかなぁ。
口を離すと詩乃はわずかに微笑む、俺はと言うと余裕が無いギシギシとした動きで口角をわずかに上げることしかできなかった。
「フッ、何よその顔」
「よせって、どんな男もこうなるって」
「ん、フフッ、こんな仁珍しいなぁ」
「ちょ、焦るな焦るな」
詩乃は話しながらも足で俺のズボンを下ろしてくる。くそ、いつもは立場逆なのに何故詩乃はこうなるとこんな積極的なのか、将来絶対にヒィヒィ言わせちゃーけな。
「あ!」
急に下の詩乃から声が上がる。
やっと気付いたか? マウントポジションは全体的にしている方が有利と言うことを、俺がピョートルならお前もう血だるまなってるぞ?
「ねぇ、キャンプの時のアレどうしたっけ?」
アレ? あぁうすうすか。
「お前待ってなかった? 俺は・・・そうか俺が投げてそのままか」
責任転嫁をしようと思ったわけではないが記憶を思い出す内に段々と詳細を思い出す。
「今持ってる?」
「財布にゴム入れとくとモテないって聞いたから入れてない」
「モテる必要ないじゃない、入れときなさいよ」
「なるほど、以後気をつけます」
「今どうするの?」
「・・・」
「そのまm」
「それだけはない」
「よね・・・えぇ、せっかく仁が動いたのに、せめて抱きしめといて〜」
心底残念そうな顔で詩乃は体から力を抜きベッドと俺の狭間でうずくまる。その体を抱きしめる、思った以上に軽く
「今から買ってきましょうか?」
「・・・いい、帰る時買っといて、自分の分と私ん家に置いとく分」
「やけに用意周到だな」
「タイミング外したくない」
それから長々と愚痴を聞かされた、俺がヘタレだの水着はいつ着ればいいのかだのキャンプを外すからこうなるだの。
なんかすんませんでした。
オチをどうするか、この後めちゃくちゃエキサイティンしたとか書けばよかったか、しかしどうなのか。
難産の末こうなりました、自分でも納得いきませんがこれ以上投稿を伸ばしたくなかったです。
ちなみにタイトルと前書きネタなんですけどもわかる人(ごく一部)の人にはお分かりでしょうが暴走モードということです。