頭が痛い、多分何度か息止まったな。
朝になった。
片手は詩乃を抱いて、そしてもう片手には詩乃のブラ。
なんとも清々しい朝だ、まるで新しいパンツを履いた元旦の朝のような。
「詩乃さ、抱き心地何でこんないいんだよ、これはちょっとヤバイな」
「よかったわね、そろそろ動きたいんだけど。てか返してよ」
「あいあい」
手を離せば詩乃はするりと腕から抜け出してブラを俺から受けとる。
テントから出れば噎せそうなほど澄んだ空気が肺を満たす、背中と首と腕が痛い、詩乃の下に敷いていたからか若干の痺れが残っている。
母さんたちの方を見れば既にテントを畳んでおり朝ごはんの準備をしている、まぁ昨日作っておいたサンドイッチを広げているだけだが。
「仁、詩乃ちゃんも呼んできなさい」
「はいはい・・・いらんこと言わんでいいからな」
「・・・」
テントに向かう前に母さんに釘をさす。
風船渡したのは一日寝たくらいで忘れねぇからな、どうせ年取ったらばあちゃんみたいに俺が子供の頃童謡歌いながら寝てこと繰り返し言ってるように、私がこの二人のキューピットよ!とか誇らしく言ってんだよ。
それが手に取るようにわかる。
現に母さん、いやババアはニヤニヤとした顔を隠す気もない。
それからサンドイッチを食ってテントを畳んだ、荷物は既に載せ終わっている。
「静かに白い、この音が車を蘇らせる、何度でもよ」
またも独り言を呟きながら親父がエンジンをかける。
せめて車ネタにしろよ蘇らねぇと困るの俺たちだよ、だが途中のガソリンスタンドで給油をしている様を見てなるほどな、ガス欠近かったのね、とは思った。
帰りの車の中は静かだった、みんな疲れたんだろう。
「コーナーで差をつけろ」
その中で親父だけが元気にハンドルを回しながら独り言を呟いていた。
詩乃は窓に頭をつけ眠っている、こっちにこねぇのかよと思ったが安定感を優先したんだろう。
「仁、なんか進展あった?」
「恋バナする年かよ」
「・・・そうやってはぐらかすから進展ないのよ、お父さんに似たのかしら」
流石、俺のことよくわかってんじゃねぇかいろんな意味でよ。
家に着くと皆で片付けを始める。
親父は洗車、母さんと詩乃は洗濯洗い物、俺はガレージに道具の片付け。
親父は何故俺を手伝わない、そう文句を言いたいが洗車道具を準備しホースでタイヤ周りに水をかけて笑顔になっている姿を見て、俺は一人で片付けをすることを決意した。
「なぁ仁」
「ん?」
笑顔のまま親父は俺に話しかける、今は乾いたタオルで水を拭き取っている、ワックスは無いから車体とホイールの水を拭いて終わらせるつもりなんだろう。
「父さんもなぁ母さんと付き合うまで色々あったさ、いろんなことでうじうじ悩んでて最終的に母さんから婚姻届出されてプロポーズするってほどの弱虫だったさ」
唐突な自分語り、いや茶化さんとこう。
親父はホイールを拭きつつ話を続ける。
「母さんはそれがあってあんな言ってるんだろうよ、俺が情けなかったのが悪いだけどさ、仁も俺と一緒で色々考えがあるんだろうけどな」
親父は拭き上げを終わらせ車を車庫に入れる。
「まぁ別に俺はお前に任せるさ、人生何やっても後悔するからお前の好きにすればいいさ。それで結果どうなろうとも後で笑い話になればいいさ」
そう言って親父はガレージから出て行く。
ありがたいお言葉をいただいたが俺から言えることは一つ。
こっちも手伝えよ。
「ありがとうございました、楽しかったです」
「はい、またおいでね」
話し声が聞こえチラと玄関を見れば詩乃が玄関で母さんと話をしていた、中も片付けが終わったんだろう。自分の車を愛でた後、一人颯爽と家に帰った親父は多分寝ているのではないだろうか。
あいにくこちらは片付けが終わってない、古い漫画を見つけてそっちに熱中してたのもあるがものが多いから仕方ない。
「それより仁は何やってるのかしら、送らないといけないのに・・・サボってるのかしら」
「片付けやりよるぞ!!」
真面目に片付けしている俺の耳に失礼な言葉が聞こえた、ガレージに響く自分の声がうるせぇ。
「仁まだ終わってないの?」
「あぁ送ってくよ」
「いや、いいよ別に近いし」
「あぁそう?」
そう言って詩乃はそそくさと帰って行った、何だかこれはこれで寂しいものがあるな、話し相手くらいなってくれても・・・。
最後に飯盒やら小物が入ったコンテナを棚の上に置いて片付けを終わらせた。
次からはまた少しGGOに戻ります。