晩飯は途中にある精肉店で買ってきた肉を使っての焼肉だった。
根が田舎っぺの俺はそこで猪を買い込んでいたからそれも焼いておく、いやぁ猪の油の量はたまりませんなぁ。
詩乃も猪はイケるようで半分以上を食い尽くした、詩乃は意外と食う、この間の祭りの時も思ったが改めてわかった。
そして今回のキャンプ、親達はどうも俺達に遠慮してるのか晩飯食い終わった後、そそくさとテントへと戻って行った。
して今火の前にいるのは俺と詩乃の二人、俺に至っては瓶コーラにサラミを薄く切り焚き火で炙ってつまんでいる。
「私にもちょうだいよ」
「ん」
詩乃にサラミを置いた皿を差し出すと爪楊枝で5つも突き刺して持って行く。
「肉余ってるけど焼く?」
「そこまではいいかな」
カリカリと音を立てながら返事をしてくる、まぁ変に取り繕ってるよりいいけどさ。
減った焼きサラミを再び薄くスライスして金網の上に乗せる。
ブスブスと脂が跳ね香ばしい香りが場に広がる。都内でよかったな、これがGUNMAなら熊が出るぞ。
「詩乃さぁ、なんか体型維持に関してやってることとかある?」
「デリカシーについて教本とか書いたほうがいいかしら?」
「単純な興味なんだけど、気にする?」
「これ言っとかないと何か終わりなきがするの」
だよね。
「別に体型とか気にしたこと無いわよ、困ったことも無いんだし?」
「お腹の予備タンクは?」
「黙ってくれない、あれ取れないのよ」
「わかる、マジ取れねぇ」
どれだけ腹筋をやろうとも臍の下の贅肉が取れない。
苦しみはよくわかるぞ。
「まぁ、あんま痩せすぎてもよくねぇからな、程々でいいんじゃね?」
「そのフォロー何か腹たつわね」
サラミのことは忘れてない、むしろこっちがメインだ。
「詩乃もまだいる?」
「いる」
「なんか腹減らねぇ?」
「・・・まぁ」
「余ったおにぎりでも焼くか」
夜は長い。
金網にはサラミ、そして醤油の垂らされたおにぎりが焼けている。
今更だがキャンプと言ったらこれだろ。
丸太には並んで座る男女。
「なぁ詩乃よお」
サラミ臭い口で詩乃に問いかける。
「何?」
詩乃も若干サラミの匂いを漂わせている。
「なんかムードもクソもねぇな」
「仁が悪い、言わなきゃ別にどうだって無かったのに。どうせ今もサラミ臭いとか思ってんでしょ?」
「よくわかってるじゃねぇか」
「でしょ」
パチパチと薪が弾ける音が響く、おにぎりをひっくり返せば綺麗に焦げ目が付いている。
サラミはちょうどいい頃合い、俺はベーコンもカリカリにならねぇと気が済まないんだ、ゆで卵もガチガチ。
「詩乃はベーコンカリカリ派?」
「は? そんなこだわりないわよ」
「じゃあゆで卵は?」
「半熟」
「あるやんけ」
手のひらクルー。
「俺はガチガチタイプだわ、合いませんな」
「ガチガチが好きとか悪趣味すぎるでしょ」
「お前戦争が終わらない理由を知ってるか?」
「ガンジーがそれでも戦うときがあるって言ってたのを知ってる?」
【もし心に暴力があるなら、暴力を振るう方が無力を隠すために非暴力の外套をまとうよりもましだ。】
俺達はどちらとも言わず丸太から立ち上がる。
「詩乃こっち」
「あぁうん」
でも流石に火の方は危ないからダメ。
「仁はガチガチじゃないとダメ、と」
「詩乃は半熟じゃないとダメ、と」
これを大きくすれば結論戦争へ行きつく。
そしてここでは喧嘩となる。