元タイトル
朝田さん朝田さん
祭り
夜になった。
俺を今悩ませるはサプライズ、さてどうするか。
家の前で花火を打ち上げるか、キレるのが目に見えてるから却下。
ドアを蹴り破るか、キレるのが目に見えてるから却下。
いきなり押し倒すか、警察呼ばれるのが目に見えてるから却下。
キルの取り方ならいくらでも思い浮かぶのに女の子を喜ばせられないなんて、poison。
詩乃の家の前で考えることでもないだろうけど。
うーん、こうなっては最有力は朝田さんと連呼しながらドアをノックする。か?
こんなことただのガイキチしかしなかろう。
俺はそう思われたくない。
数分後
「先輩、何やってるんですか・・・」
「取り敢えず花火買ってきた」
俺がコンビニで花火セットを買ってきたら家の前にはTシャツ短パンの詩乃が待っていた、キャップ逆向きに被ったらなんかラッパーみたいだな。
「家の前で不審者がいると思ったら先輩ですもんね」
「見てたの、早く言ってくれよ・・・」
ラッパー詩乃は放置プレイがお好きなようだ。
「何するのか興味あったんで」
ここで花火上げちゃろかいな。
「さ、今から何するんですか?」
詩乃は自分の部屋の鍵を閉めながら俺に尋ねる。
「お祭りに行きませんか?」
「喜んで」
階段から降りてきた詩乃はそう言って詩乃は手を差し出す。
これはそう言うことか。
俺はその手に静かに爆竹を乗せた。
「・・・」
詩乃は黙って先に歩き始めた。
ごめんなさい。
祭りがある神社は歩いて十数分とすぐ近く。
遠目からでも提灯の光が目立つ。
鳥居をくぐるとやはり人で賑わっていた。
「へぇ、ここのお祭りって結構大きいんですね」
「神社も大きいからなぁ、さぁ何食う?」
「ゆっくり全部見てからにしましょう、そんないっぱい入らないんですから」
「うん、そうだね」
両サイドに並ぶ屋台を仰ぎ俺が尋ねるが詩乃はなんとも賢い提案をしてくれる。
多分詩乃はバイキングとかでも席に着くのが最後の人だな、ちゃんと吟味して皿も一つにまとめるタイプの人だ。
俺は手当たり次第だからここで学ばせていただこう。
ちっさな敗北感を感じつつ詩乃について行く。
「たこ焼きはありきたり・・・お好み焼きは大きい・・・焼きとうもろこしは・・・バター醤油じゃないからダメ・・・」
後ろからてれてれと詩乃について行くがもう見る目が違う。
「かき氷・・・はこの間原価率おかしいってテレビでやってたからダメ・・・綿菓子も同じ」
とうとう原価率まで言い出した。
そしてもう一度鳥居の所に戻って来た。
「お好み焼きとたこ焼きと焼き鳥にしましょう」
「大体そうだろうね、花形だね」
あんだけ吟味したくせに結局それかい!
「なんですか、文句あるんですか?」
「いや、好みが合って俺は嬉しいよ」
ここで文句を言うことはない、こう言うことは楽しんでる方に任せた方がいい。
「焼き鳥は何?」
「ズリ2、バラ2、ネギま2」
「ですっておっちゃん」
最初っから決めていたようで俺が詩乃に尋ねるとシャカシャカ注文をする。
『ジンその娘ぉ、彼女かぁい?』
「うん、まぁそんなとこ」
『おお、ならぁバラ追加2本なぁ!』
「やるねぇ、ツイッターにカップルできたらサービスしてくれるかもって上げとくよ」
『おう!どうせ最後は余るんだから構わんぜ!』
抜けた歯が目立つ笑顔で俺たちと別れる、あの人差し歯作らないのかな、昔っからあんままだけど。
「何?あぁサービスしてくれたんだ、おじさんありがとうございます」
『こりゃジンにゃ勿体ねぇ!ありがとよ!』
ちなみに声がでかい、こう言う仕事やから仕方ないけどこの人の声は境内中に響く。
でもこれがセミ以上に夏を感じるのが悔しい。
次はお好み焼き。
「一つ?」
「ん」
詩乃は効率を極めようと言葉も少なくなっている。
「老師、お好み焼き一つ」
「・・・」
スーッと鉄板で保温されたお好み焼きをトレーに移しながら俺に尋ねる。
「詩乃、青のりどうする?」
「は? いや、つけていいけど、聞こえる?」
「慣れ慣れ」
「・・・」
「うんまぁそんなとこ、サービスだからってお好み焼きのフチはいらねぇよ!」
「・・・!」
老師はお好み焼きのフチをなめるな!と声を荒げる。
「まぁよく食べてたけどさ、十年食ってりゃ飽きるよ、ほら子供達にあげなよ、そして未来の俺を量産しなよ」
「・・・」
老師は鉄板の端に溜めたお好み焼きのフチをトレーに入れて子供に差し出す。
「老師ありがとー」
子供たちは適当に摘んだあとテクテクと去っていった。
「・・・」(詩乃)
老師はソースにまみれたお好み焼きを俺に差し出す。
「・・・」
「ん?ん、うん、うん、老師もね、じゃありがと」
元気なようで何より。
久しぶりに話したなぁ、下手すりゃこの世から消えてもおかしくねぇ人だし、今のうちに話しとかねぇと。
「何言ってたの?」
「あぁ大体焼き鳥屋のおっちゃんと一緒」
「あぁ大体わかった、ありがとうございます」
「・・・」
「はい、あ、はい大丈夫ですよ!」
最後に老師に手を振り帰ってきた。
「わかった?」
「わかんない」
だよね。
最後にたこ焼き。
「へいらっしゃい!」
「よかった普通の店で」
詩乃もここの出店のことを理解し始めたようだ。
「じゃあ、ソースで」
「へい!青のりは?」
「お願いしまーす」
「はいかしこまりました!」
両手がふさがっているので詩乃が注文をしてくれた。
普通の店でよかったな。
「仁坊、なんだいこの娘。これかい?」
そう言ってキリを持ち上げる。
「いやどれだよ」
「フヘェェ、仁坊に彼女かぁ、時間が過ぎるのは早えなぁ」
「龍さんはうまくいってる?」
「嫁の尻に敷かれてりゃ大体のことはうまくいくんだよ」
「貫禄出てきたねぇ」
「だろ?」
「「へへへへへ」」
笑い方は顎を引く感じ。
「何やってんのよ。」
詩乃は既に遠い目をしている。
「まぁ十年以上通ってたら仲良くなるわな」
「違ぇねぇ」
俺は龍さんが十代の頃からの付き合いだ、俺が小学校上がってから。
十二年か、長いな。
話している間も龍さんは手を止めない。
「彼女できた祝いに二個多く詰めといたよ」
「ありがてぇ、こんなんなら早めに作っときゃよかった」
「こら、そんなこと言うもんじゃねぇぞ?」
「出来てたらこんなこと言ってねぇよ」
「「へへへへへ」」
「もういいから、ありがとうございます」
そう言って詩乃がたこ焼きを受け取る。
「じゃあどこ行こっか、境内は多めだけど。」
「じゃああそこの石って大丈夫ですか?」
「墓石じゃなきゃ大丈夫だろ」
「・・・まぁ行きましょう」
石のある場所は提灯の光がギリギリ通る程度の明るさ。
「はい先輩、あーん」
詩乃はそう言ってたこ焼きを差し出す。
「これまさかUあーんとかじゃないよね」
「なんですかそれ」
疑いかかる悪い癖、もしくはこんななりして恥ずかしがる癖。
「俺が食べようとしたら自分が食べるみたいな?」
「あー腕がキツイなぁ」
「ハイ、イタダキマス」
詩乃がプルプル揺らしているたこ焼きを頬張る。
「ん、旨、あっつぁ!?」
「えぇ?そんななります?」
俺は爪楊枝を刺し詩乃へ差し出す。
さぁ、この動作の中に何が足りない!
口は必死にたこ焼きを転がしていて話すことなどできるわけがない!
「えぇ?天丼するんですか?」
なんでその言葉知ってんだ!
「あん、あぁおいしゃっつぁ!?」
ほら見たことか!
フーフーくらいしてくれよ!
今回の勝負、痛み分け。