工兵のGGO   作:流舞

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事後処理

「シノンいつ負けたの?」

 

 

 

「最後のスキャン始まる少し前よ、マップ見てたらシュピーゲルにやられてたの」

 

 

シノンはホームの机に腕を組み突っ伏して項垂れており、顔を上げようともしない。

 

 

「あらら、じゃあそのシュピーゲルを倒した俺の方が強いって事でFA?」

 

 

 

「だめ」

 

 

 

「俺何位だったでしょう?」

 

 

 

「うざい」

 

 

 

ホームの棚には燦然と輝く?銅のトロフィーが飾られている。

 

 

・・・燦然でないか、控えめの方がいいか。

 

 

 

 

「まぁさシノンも11位でしょ?まぁ頑張ったじゃん、なんか貰えたろ?」

 

 

 

 

「ジンはなんで3位になれたの?」

 

 

 

質問を質問で返すなぁぁぁぁ!

 

というのは冗談で。

 

 

 

シノンは顔をぐりんとひねりこちらを見ながら問いかける。

 

 

「どうってただ芋って真ん中の街でダラダラしててスキャン来たら近くにいる奴倒したり、俺のスキャンの場所を見れるところに移動して待ち伏せしたりしてたよ? 4キル位しかとってなかったはず」

 

 

 

 

 

「それで三位って嬉しい?」

 

 

 

「なっ・・・うん、シノンごめんな少し調子に乗った」

 

 

俺はその言葉な少しカチンと来てしまうが、少し遊びすぎたかなと自分の非もあるからあんま言わんとこう。

 

 

 

「いや、怒ってるんじゃないの。ほんとに嬉しい?」

 

 

 

「・・・」

 

 

 

どうした、マジでおかしくない?

 

 

 

 

「俺は別に結果があれでやり方には何も不満はないけど、シノンは俺のやり方が不満か?」

 

 

俺は素直に自分の考えを述べる、批判もあるだろうがこれが本心、変に嘘ついてもしゃーないし。

 

 

 

それを聞いたシノンの瞳はこちらを見つめたまま逸らそうとはしない。

 

こう見るとほんとに吸い込まれそうになるな。

 

 

 

 

 

「もし私と戦うことになったとしてもあんな戦い方だったの?」

 

 

 

 

 

「当然、俺としちゃ全力を尽くしてたんだけどな」

 

 

 

「あっそ・・・シュピーゲルと戦ってどうだった?」

 

 

 

「ん〜まぁそうだなぁ・・・」

 

 

 

立ち回り考えれば強くなれそうだし、VSS使われた時とかマジで負けててもおかしくなかったし、クリアリングした時も屋根にいるって気付かなかったり、変な煽りしなけりゃ負けてたし、なんだろなぁ。

 

 

 

「一言で」

 

 

 

 

「一言? なんか惜しい。」

 

 

 

 

「惜しいねぇ、ジンの戦い見てたよ。正面切って戦いに来たシュピーゲルを騙し討ちみたいに倒してたね」

 

 

 

漫画だったら俺のこめかみには血管が浮いているだろう。

 

 

 

でもクラン戦に負けた時とか俺もこうなってたの思い出すとシノンの気持ちもわからんではない、自分もそうだったし・・・。

 

 

こういうのは時間空けば機嫌直すかな。

 

 

 

「はぁ、まぁ俺のやり方の文句はわかるよ、あんな狡いやり方じゃ文句も出るだろうよ」

 

 

 

掲示板を見れば既に『(ジン)第二回BoB本戦スレ(クソ芋)』って立ってたし。

 

 

 

 

「なんであんなわけわかんない格闘術とか出来るのにそれをメインにして戦わないの?」

 

 

 

「お前がアムロだったとしてビームサーベルしか持たずにNフィールド出るかよ」

 

 

 

「は?」

 

 

 

すんごい冷めた目をされた、これまで吸い込まれそうだったのが急に弾かれた。

 

 

 

 

「あれだよ、銃で戦ってる中に全裸で突っ込むかって話だよ」

 

 

 

「そりゃそうだけど、でも闇風の時と戦い方全然違ったじゃない。私は負けたっても良いから強い人に立ち向かっていきたいの」

 

 

 

「あれは失敗だらけだったんだよ、特に最後に庭に出た意味ねぇじゃん」

 

 

思い出したくないけど反省点が多いから思い出さないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジンってそんな戦い方だっけ、なんか違う」

 

 

シノンはようやく身を起こす、しかし顔色は良くない、寧ろ眉間にシワが寄って不機嫌丸出しといったところか。

 

 

 

 

あぁそういうことね。

 

わかったわかった、そう言えばそうだ、元々こんなクラン方針だったわ。

 

 

 

 

「わかったぞシノン、お前の不満の解決法が!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「お前の不満は俺の戦い方とゲームに対するスタンスの問題だろ?」

 

 

 

 

「う、うん」

 

 

 

 

「お前マジでリッツのとこ行ってこい!あそこ聞くだけの話だけど本気で金稼ぎたい奴らの集まりだから自然に現役ガチ勢が多いんだよ!俺とかみたいな『ガチ勢崩れ』みたいな奴とじゃこうなった時合わないのも納得だわ!」

 

 

そうだよ、別に俺が頑張る必要はない。

 

 

『人に任せる』

 

 

これだ!!!

 

 

 

 

「いやちょっと!」

 

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

 

「ジンは良いの?」

 

 

 

いいの?

 

 

何がよ、クランとかそんなもんだろ、自分と相性のいいクランに入る、そうしなきゃ解散する時とか後味悪くなるし。

 

 

「そんな今生の別れじゃあるまいし、掛け持ちだから大丈夫だよ。」

 

 

 

シノンの口はパクパクと開閉している、くるみ割り人形かな、どっかの副会長は素手で割るけど。

 

 

 

 

「それは・・・いや」

 

 

 

そのままシノンは覚束ない口調で拒絶をする。

 

 

正直めんどくさくて放り投げようとしたのは否めない。

 

 

ちゃんと話し合うか。

 

 

 

 

「いやさ、俺はただお前にこのゲームを楽しんでもらいたくて言ってるだけであってこれでさよならとかじゃなくてさ、テキトーに遊びたい時は付き合うし。だから一度ガチ勢に混じって見て、それで合わなかったらまた別のクラン探してみるし。な?」

 

 

 

 

「ん〜待って、そうじゃないの」

 

 

 

こういうとシノンはこめかみに指を当てて考える。

 

 

ちょっと待てって、そんな・・・そんなか?

 

 

これは真顔案件ですな、いやそうでもないか?

 

 

なんだろわけわかんね。

 

 

 

 

 

リッツのクランに入れるってのはマジで一つの手段ではあるんだがな・・・いろんな意味で。

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、ゆっくり待つよ、今回の賞金とかいろいろ確認したいし。頭の中整理して話をしよう、文句だけでも俺怒らないから、そらカチンとは来るだろうけど別に俺がキレたとことか見たことないだろ、安心して言ってくれよ。」

 

 

 

シノンは眉間にしわを寄せこめかみには指を添えまるで月末に家計簿を見つめる母さんのような仕草をしながら頷く。

 

 

 

 

 

・・・これ以上何も言うまい。

 

 

俺はそれだけ言い残しソファーに横になる。

 

 

 

 

 

今回の賞金は、と・・・500万C!?

 

現在の価値に直すと5万円!?

 

 

 

「フヒッ」

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

やったじゃん詩乃と遊ぶ金が出来たじゃん!

 

 

 

副賞は・・・なんかのアイテムか、何? ハンドガンのM500?

 

 

悪いね、俺の腰は既に満席なんで。

 

 

 

君は威力があるらしいけど実用性はないんじゃないかな?

 

 

あぁUNICA、お前は大丈夫だぞ。

 

 

 

あとは、これは実家か、まぁ書いてないから来ることはねぇけど。

 

 

なんかテンション上がってきた、ソファーも興奮しておる。

 

 

 

 

 

 

 

俺がギシギシとソファーを揺らしながら喜んでいるのを見かねシノンが話し出した。

 

 

「楽しそうね。」

 

 

 

「んぁ?、あぁ楽しいけど、気に障った?」

 

 

 

こんなにテンション上がったのは久しぶりすぎる、いやぁ笑顔から表情が直らん。

 

 

 

「いや、もうそんな姿みてたら悩みとかどうでもよくなって来た。」

 

 

 

 

 

「えぇ?ここで不満残しとくと後が怖いんだけど、友達の喧嘩とかでよく聞くぞ、喧嘩した時こういうとこを女は後々根に持つって」

 

 

 

 

「誰からの情報よ、しないわよそんなこと。」

 

 

 

やっとシノンに笑顔が戻る、マジで大丈夫かなぁ、別に俺のこととか気にしなくていいのに。

 

 

 

「あの、これから少し別件で大変な話があるんだけどさぁ」

 

 

 

「・・・何よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

このままでいいとか言われた後にこの話するのもなぁ。

 

 

 

 

 

「あの〜夏休みに入ったじゃないですかぁ〜、それでですねぇ、夏休みは様々な予定を入れておりましてぇ、これから一週間インできないんですよぉ・・・」

 

 

 

「何するのよ、まさかそのために他のクラン入れって言ったの!?」

 

 

シノンの口調が急激に上がって最後は怒鳴りつけられていた、あれ俺怒ってなかったのに不公平じゃね?

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、そう言うわけではありませぬ、リアルの方で〜ちょっと近所の・・・彼女?ですかねぇ、今回のイベントとか先月のやつで遊びの金が十分溜まったからぁ、色々遊びに連れて行きたいんですよねぇ・・・クランもついでみたいなものでシノンが暇しないかなぁって思いまして」

 

 

 

こっちの女の子よりリアルを優先する、当然っちゃ当然だがシノンに言うのがなんでこんなに辛いのか。

 

 

 

 

あれ? 俺モテ期来てる? やばくね?

 

イカンイカン。

 

 

 

「へ、へぇ〜、その彼女さん可愛いの?」

 

 

 

「あっ、はい、親の策略がありましたが自分にはもったいのうございます」

 

 

 

いやほんと勿体無いよ。

 

 

 

「策略て・・・その娘に予定のことは言ってるの?」

 

 

 

 

 

 

「いえ、まだでございます。女の子はサプライズが好きとか聞きますんでちったぁやってみようかと」

 

 

 

サプライズもクソも少し言ってたかもしれんけど。

 

いやそう言う雰囲気が好きなんだ、吊り橋効果みたいなもんだ。多分違うが。

 

 

 

 

「ふ〜ん、まぁわかったわよ、じゃあ一人で色々やっとくから、もういいよ」

 

 

マジか!?

 

 

「いいんですか!?」

 

 

 

「いいって言ってるでしょ!」

 

 

 

 

ヒェェ!

 

 

 

「早く行きなさい!」

 

 

 

「アッハイ、すいません先に落ちさせていただきます、失礼しますぅ。」

 

 

ニヤケなさんなよ、やっぱ女の子ってこう言う話好きなのか?

 

 

そういつぞやのことを思い出しつつメニューを操作して落ちる。

 

さぁ銀行行かねば!財布が札を欲しておる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩が落ちた後、私もすぐに落ちた。

 

いつもの天井にいつものカーテン。

 

アミュスフィアを外してカーテンを開けると夏の日差しが目に痛い。

 

 

先輩、シノンが私って知ったらどう思うんだろ。

 

 

 

 

私は拳をまっすぐ伸ばす、そして親指と人差し指を伸ばす。

 

 

 

途端に目眩と吐き気がこみ上げ手が震える。

 

 

そこで先輩と話している時みたいに何も考えず、あの人を思い出す。

 

 

 

 

吐き気は前よりだんだんと軽くなってきた、震えもそう。

 

 

 

これは忘れてるだけなんだろうな、あの人みたいに遠回りして楽なやり方して自分を甘やかして。

 

 

 

あのクランが今私の居場所になってる、先輩何してくれるのかなぁ。

 

 

 

 

 

ふと、あの漫画でしか見ないような江戸っ子口調をしていた時の顔を思い出す。

 

 

 

 

「・・・フヒッ」




PTSDのこととかあまり書かずに置こうと思いましたが結局こうなってしまいました。


そしてこちらでも一度やっておきたく思いやらせていただきました。

これ以上はもういいかな。

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