GM(ゲームマスター)は異世界に行ってもGMのようです。   作:桐生 勇太

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これはかつて作者が設定のみ作り、本編を進めるために出番を消されてしまったキャラクター達のお話です。

「せっかく設定があるのに出さないのもったいなくない?」と思い立ち、最終回のその後の物語を舞台にした「未公開話」の場を借りて登場していただきます。基本的にバトル描写は絶無の予定ですのでそこだけご容赦ください。

 まさしく日常パートその物。

※現在は未公開話を不定期で書き続けますが、現在書いている三部作が終わったら、この作品「GM(ゲームマスター)は異世界に行ってもGMのようです」の『真の最終章』を書かせていただきます。その時までお楽しみに。


未公開話:独りぼっち

「こまったなぁ………イノシシ君やぁい………」

 

 とっぷりと日が暮れた宵闇の、人気がまるでない森の中に、茂みをかき分けながら彷徨う一人の男の姿。

我らが創生神、檀 黎斗だ。いま黎斗は困り果てた表情で……と言うより、半ば半泣きの表情で森に棲むある一頭の猪を探している。

 

 何故なんでもできる「万能超人」を地で行くような男がたかが猪一頭ごときにここまで執心なのか、第一そんなものは【レーダー】の魔法でもとっとと使って見つけてしまえと言う話である。

しかし黎斗にはそれができない哀しい理由があった。

 

 話は5時間ほど前にさかのぼることになる。

 

「かみさま、ありがとーございました!」

 

「いやいや、君が無事でよかった。さ、お父さんとお母さんが心配しているよ。速くお家に帰ってあげなさい」

 

 森に迷い込んで行方が分からなくなってしまっていた辺境の村の子供をスキル【悲劇看破】で感じ取り、現場に急行した黎斗は【レーダー】の魔法を使うことで難なく子供を見つけ、村の入り口まで連れ帰った。

 

一刻も早く家に帰してあげたかったがためにワープ用のゲートを展開することになり、変身を解除しなかったがために神様と間違われたわけだがそこはどうでもいいだろう。

 

 子供と別れたのちに黎斗はすぐに帰ろうと思ったが、ここ最近黎斗は一人の時間が取れていなかったことを思い出した。もちろん、妻たちが負担になっていることなど決してない。しかしいくら親しいとはいえ、たまには一人きりで趣味に没頭する時間も欲しいものだ。どれだけ親しい友人でも毎日遊ぶのは流石に…と言う話だ。たまにはいいかと判断した黎斗は村で買った小説片手に森の中へ入っていった。

 

 しばらくの間は森の中の澄んだ空気や動物たちの生活を垣間見ることを楽しみ、時には怪我をした青い小鳥を回復魔法で治したりをしているうちに川に辿り着いた。

 

「綺麗だな…おおっ冷たい…」

 

 川に少しだけ入って足を濡らし、魚を見て満足した黎斗は近くにしれっと創生魔法で腰かけるのにちょうどいい岩を作りって少し休んだ。

 

同じく創生魔法でサンドイッチをバスケットごと作り、川のせせらぎや木々の葉っぱのざわめきをBGMとして楽しみながら昼食を取り、その後はさらにクッキーをつまみながら持ち込んでいた小説を読んだ。

 

 始めは調子よく読み続けていた黎斗だったが、ぽかぽかと暖かい日差しにさらされ、しかし冷たい清流の近くなために程よく涼しい環境が徐々に黎斗の思考を奪っていった。

 

昼寝をすることに決めた黎斗はクッキーをハンカチで包んで小説と一緒にバスケットにしまい、他の寝転ぶうえで邪魔になりそうなポケットに入っていた小物類も全てバスケットに入れた。

 

暫く横になるとすぐに睡魔に襲われ、黎斗は抵抗せずにその睡魔に身を委ねた………それがよくなかった。

 

 黎斗はある瞬間ふっと目覚めた。その理由は単純で、何か聞きなれない音がしたからだ。

 

目をこすりながらフゴフゴと言う不思議な呼吸音のする方向に何の気なしに視線をやると、バスケットに顔を突っ込んだ大きな猪が一心不乱にクッキーを貪っていた。

 

ここでその光景に驚き、黎斗が「おっ」と声をあげてしまったのは致し方ないと言える。

 

しかしその黎斗の声に驚いた猪は、喉を引くつかせてバスケットの中に入っていたある物をゴクリと飲み込んでしまった。

 

何であろうか、否、もはや説明の必要性すらないと思うが、クッキーと共に飲み込まれたのは、小物類としてバスケットに入れていたガシャット、【ハイパークリエイターゴッドX ガシャット】である。

 

「わ~~~~~~!!!!?」

 

そしてその珍事態に、否大事件に黎斗が驚いて絶叫してしまったのも、これもまた仕方のないことだ。その大声に二度ビックリさせられた猪は反転して走り出し、一目散に逃げだした。

 

「ちょ、ちょっと待て~い!!」

 

 逃げる猪、追う黎斗。今回は逃げる方の勝ち。

 

「に、逃げられた………………」

 

 もちろん、黎斗もただで逃げられたわけではない。バスケットの編み込みの一部を引きちぎって蔓にして猪の尻尾に結んでおいた。

 

ただし、この広大な森の中から猪一頭を、変身できずに探さねばならぬという地獄の始まりだった。

 

「こまったなぁ………イノシシ君やぁい………」

 

 とっぷりと日が暮れた宵闇の、人気がまるでない森の中に、茂みをかき分けながら彷徨う一人の男の姿。

我らが創生神、檀 黎斗だ。いま黎斗は困り果てた表情で……と言うより、半ば半泣きの表情で森に棲むある一頭の猪を探している。

 

 




お読みいただきありがとうございました。

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