GM(ゲームマスター)は異世界に行ってもGMのようです。   作:桐生 勇太

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これはかつて作者が設定のみ作り、本編を進めるために出番を消されてしまったキャラクター達のお話です。

「せっかく設定があるのに出さないのもったいなくない?」と思い立ち、最終回のその後の物語を舞台にした「未公開話」の場を借りて登場していただきます。基本的にバトル描写は絶無の予定ですのでそこだけご容赦ください。

 まさしく日常パートその物。

※現在は未公開話を不定期で書き続けますが、現在書いている三部作が終わったら、この作品「GM(ゲームマスター)は異世界に行ってもGMのようです」の『真の最終章』を書かせていただきます。その時までお楽しみに。


未公開話:対等の関係

「あ、あの………仰る意味が分かりかねますが………」

 

「え? だってそうだろう。たかが1日ちょっとで男に惚れる女性がいるわけないじゃないか」

 

 あっけからんとした表情で黎斗様が笑う。いきなり発生した予想外の言葉に私は言葉が出ません。

 

「だから、一緒にここで暮らして、いつか私の事を好きになってくれるのを待たせてもらうよ」

 

「………………なぜ……」

 

「ん?」

 

 頬をこわばらせながらも、それでも私は黎斗様にどうしても聞きたいことがあります。

 

「なぜ………分かったのですか?」

 

「ん~………まあ、君は貴族の令嬢だしね」

 

 たはは、と黎斗様は笑う。そして不意に真面目な顔になり、暗い焦げ茶色の瞳が私を真っ直ぐ射すくめるように見つめます。

 

「この世界の場合…特に貴族の間での女性の扱い方は「道具」だ。政略の手段であったり、置物であったり………」

 

「道具………」

 

「王家と伯爵家をつなぐための橋の役割を担う「道具」、まさしく君の事だね。美しい妻を抱えるという名誉や地位としての「道具」と、基本的に主が夫で従が妻とか他にもいろいろあるし。本気で愛し合ってる夫婦も、どれほどいるのやら…」

 

「そ、それでも自分の妻や娘にいろいろ高価なものを買い与えたりと、大切にされている方は沢山…」

 

「それは家が妻や娘の散財を許せるほど財力に溢れていることを表す指標だろう? 金に卑しい女として世間では扱い、そんな金のかかる女を満足させられるあの貴族家はなんと…と言った具合にね。第一、月並みな言葉になるが物を与えてもそれと愛がイコールではないよ」

 

「………お詳しいのですね」

 

「人の悪意は見慣れてるからね」

 

 まるで昨日の夜に見せていた隙だらけで、誰の言うことでも簡単に信じてしまいそうな笑顔が全て演技だったかのような堅い顔。黎斗様がここまでしっかり裏の事を考えている方だったなんて……

 

「君が私の婚約を受けたのも、本音は自分のためだろう? 王子に婚約破棄されてはあの国で君が健やかに過ごせる可能性はゼロに近いからね。女性一人では生きられない。それが今この世界の貴族の間で流れているルールだ」

 

 私はそのまま黎斗様の顔を見続けることができずに俯いた。どうやら私の打算は全部バレてしまっているようです。

 

「私の故郷と違い、この世界での女性の立場はとても弱い。それこそちゃんと恋愛をして結ばれているのが平民くらいしかいないなんていうのも皮肉な話だ。あの場で国からも家からも友人たちからも見限られた君の最良の手段は、一刻も早く次の婚約者を探すこと…だから私の婚約に飛びついたんだろう?」

 

「そこまで分かっていらっしゃるのなら………どうして私を………」

 

「はは、そんなのもう言ったじゃないか。そのうち好きになってくれるのを楽しみにしてるよ」

 

 その言葉にハッとして顔をあげると、黎斗様が顔を近づけて私の頬に唇を落としました。顔を赤くする私に微笑みかけて黎斗様が私の頭を優し気に撫でます。

 

「不快だったらゴメンね。でも、私は君が好ましいと思っているからこそ連れて帰った。それは嘘じゃない本当の事だよ。君は道具じゃない。私は君を愛しているよ」

 

「それは………私がいずれ黎斗様を好きになるということでしょうか…」

 

「ああ、そう見込んだからこそ君をここに連れてきた。帰りたければ言ってくれればすぐにでもあの国に帰すし、もちろんここに居たいけど私の妻は嫌だというのも受け入れるよ」

 

「そこまで我が儘になるわけには………」

 

「君がしたいことを決めてくれ。それに私は殉じよう」

 

 私の名前は、アルテ=フレンツェ・ベロニカ。自分の両親に決められた婚約者であった王子から婚約を破棄されて利用価値がなくなった「元」ベロニカ侯爵家令嬢。

 

心の底から愛されて、本気で私を人として初めて愛してくれた人との関わり方が分からない娘です。

 

 




お読みいただきありがとうございました。

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