GM(ゲームマスター)は異世界に行ってもGMのようです。   作:桐生 勇太

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これはかつて作者が設定のみ作り、本編を進めるために出番を消されてしまったキャラクター達のお話です。

「せっかく設定があるのに出さないのもったいなくない?」と思い立ち、最終回のその後の物語を舞台にした「未公開話」の場を借りて登場していただきます。基本的にバトル描写は絶無の予定ですのでそこだけご容赦ください。

 まさしく日常パートその物。

※現在は未公開話を不定期で書き続けますが、現在書いている三部作が終わったら、この作品「GM(ゲームマスター)は異世界に行ってもGMのようです」の『真の最終章』を書かせていただきます。その時までお楽しみに。


未公開話:よし飛ぼう

「そんなことがあったのか………私はそういう風に扱われたことがないが、やはり辛かったかい?」

 

 気まずそうに眼を泳がせ、それでもこちらを見ながら黒髪の方は私に声をかけた。

 

「辛かった………です。でも、優しい父様と母様の期待に応えようと婚約は拒みませんでした………思えば、あの人は今日私に恥をかかせるために婚約者の関係を続けていたのかもしれませんね………」

 

 そう言うと、黒髪の方は首を傾げ、眉をひそめて言いました。

 

「………? 今日恥をかかせるためと言うと?」

 

「………………はい?」

 

 まさかこの人、知らないのだろうか、私がついさっきに婚約破棄を言い渡されたことを。知らずに声をかけてきたと?………そういえば、思い返してみればこの方は最初に声をかけた時に「具合でも悪いのかい?」と聞いてきた。

 

「あの………」

 

「…?なんだい?」

 

「今から半刻ほど前………広間にはいましたか?」

 

「いや、トイレにいた。戻る途中に君を見つけたんだ」

 

 知らないとは思わなかった。てっきり貴族系の客人はあの場に全員いたと思っていたのだ。

 

「つまり………好きでもない男と婚約した挙句、公の場で大々的に破棄されたわけだ。………よし、行こう」

 

「………? あの、失礼ですがどちらへ………?」

 

「決まっているだろう。一発、いや二発は殴る権利があるはずだ。行こう」

 

「はい!?」

 

 驚きのあまり淑女にあるまじき大声をあげてしまいました。この人は一体………?

 

「何言ってるんですか!相手は第一王子ですよ!」

 

「そんなのどうでもいいだろう。殴るのは無しにしても、向こうに何かケジメをつけさせるべきだ」

 

 なぜこの人はここまで大きく出れるのだろう。もしや、隣国の大貴族………いや、向こうの家計には黒髪の跡継ぎはいないはず………

 

「まあ、どうでもいいか。気分を変えよう。城から出ないかい?」

 

 一瞬、断ろうとも思った。………けれど、よく考えれば待ってくれている人間もいない。現状私はここにいても何の意味もないことに気付いた。

 

「えぇ………どこへでも行きましょう。今日は遊びたいわ」

 

 もう今日あったことから少しでも離れられればそれでいい。自棄になった私は彼についていこうとしたが、何か変だ。おもむろに窓を開けて手を差し出し、「さあ行こう」と言ってきた。

 

「………あの………?」

 

「ほら、早く」

 

「は、はあ………」

 

 訳も分からず手を取ると、(婚約者の王子以外の男性の手を取ったことがないので緊張していた)急に浮遊感に包まれた。窓から落ちたと確信し、大声が出た。

 

「きゃぁぁ!!!」

 

「落ち着いて。ほら大丈夫」

 

 何が大丈夫なものかと思いながら、歯を食いしばり固く目を閉じて衝撃を待つが………

 

「………………あ、あら?」

 

 一向に地面にぶつかる気配がなく、恐る恐る目を開けてみると………

なんとその逆。二人とも夜空に向かって登り続けていた。

 

「と、飛んでる………!」

 

「なんのことはない。ただの飛行魔法さ。種も仕掛けもある。手を放すよ」

 

 するりと手が離れ、私は空中で大の字に広がった。城や周りの建物がぐんぐん小さく、小さくなる。もう城は輪郭がぼやけ、街並みの明かりの光が小さく星のように輝いている。

 

「ほら、空も地面も一面の星だ。私のお気に入りの遊びさ」

 

 彼の言う通り、目を見張るほど美しい光景に私は言葉もなかった。

 

「すごい………とても、綺麗………」

 

 空中で二人で浮かび続ける。不思議なもので、行きたいと思った方向にすぐに飛べる。

 

しばらく遊んでいると、彼が申し訳なさそうに私に声をかけてきた。

 

「すまない。私は魔力使用の効率が悪くてね。そろそろ戻らないと、二人で地面へ真っ逆さまだ」

 

 そこまで申し訳なさそうに謝られると、こちらも我が儘は言えない。素直に頷いて下へ向かおうとしたけれど、後ろからお姫様抱っこで抱き上げられた。

 

「えっええ!?」

 

「済まない。君と私両方を別々に動かすよりも私一人を浮かせた方が魔力が長く持つんだ。申し訳ないが耐えてくれると助かる」

 

 驚きながら、そんなにギリギリまで気を使われていたのかと思うと、さっきまではしゃいでいた自分が急に我が儘な女に思えてきた。

 

「そ、そういえば、今日は王宮にあの伝説の勇者王様が最後に挨拶をしにいらっしゃるそうですよ!」

 

「勇者王? 勇者じゃないのか?」

 

 知らない?いや、そんなはずはありません。世界を救った勇者を、知らないはずが………

 

「邪竜と魔王、それに邪神を倒した勇者様ですよ!功績が過去の勇者たちと比べ物にならないので、勇者王や勇神と呼ばれているんです」

 

「へえ、そういう風に呼ばれていたのか」

 

「勇者王様の姿は国民は皆見たことがあるそうなのですが、貴族である私たちはないので、とても楽しみなんです!」

 

 これは事実だ。初めて勇者王様が現れて旅立った時は「どうせ今回の勇者も魔王やその配下に殺される」と思っていた貴族がほとんどで、まともな挨拶や見送り何かはほとんどしなかった。

 それはその後に勇者王様が勝ち、凱旋するときにも問題があった。

誰も友好的な挨拶をしなかったため、凱旋に参加して万が一勇者王の機嫌が悪くなったら一大事と言う理由からだった。当然どの貴族も参加せず、今回の社交会が貴族たちが初めて勇者王を見る場なのだ。

 

「ふ~ん、ということは、君はその勇者王とやらを見た後すぐに帰るのかい?」

 

「ええ………まあ、家に居場所があればの話ですが………」

 

 そう言うと彼はまた一つため息をついた。

 

「君はずいぶんネガティブになっているな。自分の髪は好きかい?」

 

「………いえ、黒の時も、今も、私はこの髪が嫌いです」

 

「そうか………でも、私は好きだよ。美しいと思う」

 

 その一言で、少しだけ救われた。嬉しくて、涙をこぼしそうになってしまった。

 

「………………ありがとう、ございます………あの、失礼ですが奥様は?一緒にいないで大丈夫なのですか?」

 

「ああ、今日は来てないな。お腹の中の子供と一緒に家だ。関係ないが、私の歳は32だ」

 

 ………そんなに年上なのね。それに、奥様もいるんだ………

一瞬、考えてしまった。優しいこの方と暮らす自分の姿を。

 

私は今年で16歳。

 

相手は32で子供もいる。

 

諦めたほうがよさそうだ。

 

「………あ、そういえば、聞きたいことがあったんだが、いいかい?」

 

「え?ええ。もちろん………」

 

「君は、もし私が結婚を申し込んだら、受けてくれるかい?」

 

 きっと冗談半分で行ったのだろう。そう思った。

 

「ええ。もちろん受けたいです」

 

 だから、私も嘘偽りなく答えた。




お読みいただきありがとうございました。

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