GM(ゲームマスター)は異世界に行ってもGMのようです。 作:桐生 勇太
その後、こってりと怒られた。さすがに3人で変わりばんこに説教されるとは思ってなかったぞ。結構地獄だった…「「「次にやったら承知しない」」」そうで、まあ、何だ、ちょっとは自重してやらんこともない。とりあえずその日は近くの宿に1泊し、次の日の朝に全員で散歩をしていたが…
「何かしらね、あの男」
「いやだわ、黒髪かい?」
「早く出て行ってほしいねぇ」
それにしても、ほんとに黒髪は嫌われているな…ちょっと想像以上だ。道行く人のほぼすべてがぎょっとした顔で見てくる。ええい、こっち見んな。
「黎斗神様、やはりカツラをつけたほうが…」
「却下」
「…はい…」
こうなったら意地だ。ちくしょい。
「屋台で何か食べていくか…」
「あまり裏路地のほうにはいかないようにしてくださいね」
「? 何かあるのか?」
「スラムになっていまして…大人と子供合わせて50人ほどがいるそうです」
やはりこの世界にもあったか…なんだかWで嫌な気持ちになってくるな…
「おお、この焼き鳥もうまいな! もう1つくれ!」
おのれ、この辺の屋台、どれもこれも暴力的にうまいな。「腹八分目がちょうどいい」とよく言うが、おなか1杯に食べてしまいそうだ。その時、後ろで立っていたミリカに歩いてきた子供がぶつかった。
「む? 悪いね」
そう言ってミリカは道を譲るが、ちょっと待っただ。
「待て」
子供に駆け寄り、腕をつかんでひねりあげる。
「い、いたい、はなして…」
「ちょ、アンタ何して…」
「盗んだものを返せ」
服の中にしまい込んでいた、革袋でできた財布を取り上げる。
「あ、それ、アタシの…」
「スリか、いい度胸してるな」
「ご、ごめんなさい…」
子供が泣きそうな顔になる。…まったく、身なりからしてスラムの子供だろう。同じタイミングで、子供の腹が鳴った。
「腹が減ってるのか?」
「もうなんにちもたべてなくて…それで、それでその、おねえちゃんのおかねを…ごめ、ごめんなさい…」
「もういい。分かった。こっちへ来い」
腕を引っ張りながら連れ出す。いやに抵抗するな。こいつ。
「黎斗神様、相手は子供です! あまり乱暴は…」
「ごめんなさい… えぐっ ひっ ころさないで…」
うおい、めっちゃ怖がられてるな私。
「…てやる」
「…え?」
「何でも買ってやる。好きなだけ食わせてやる。何が食いたい?」
子供はきょとんとした顔をしている。まあ当然か。
「どうした? 腹が減っていたのは嘘か?」
「えと…じゃあ、あれ」
焼き鳥屋か…あそこはうまいからな…よし、幸旅の支度金と言い割れてかなり金はある。買ってやるか。
「いくつだ?」
「ごじゅうさんこ…」
いや、多いなおい。ん? いや、そういうことか…後、個じゃなくて本だ。
「ありがとーございました。やさしいおにーさん。ばいばい」
「うむ、神の恵みだ。ありがたく食え」
「よかったんですか?」
子供と別れた後、クライシィに言われた。後ろのミリカとクリスも同意見のようだ。
「ちょっと甘やかしすぎたんじゃないかい?」
「あの子1人で53本などいくら何でも食えんだろう」
「甘やかして何が悪い?」
思ったことが思わず口から出た。
「スラムで生きているくらいだ。あの子供たちは、これまで甘やかされたことなどないだろう。親の顔をお知らなかったり、死に分かれた子供も多いはずだ。あの程度の甘やかし、むしろ足りないぐらいだ。それに、さっきの53という数、それに近い数字をさっき聞いたが、何か思い出さないか?」
「…あっ、スラムの住人の数…」
やはりクライシィが一番に気づいたようだな。
「おそらく、実際には53人いたということだろう。1人1人に配るつもりだろうな…さて、それで、話を戻すが、さっきの私の行動、まだ文句があるか?」
「「「…………………」」」
む、なぜだかムキになってしまったな。
「まあいい、少し疲れた。私はもう宿に帰るぞ」
後ろでクライシィ達の私への好感度が跳ね上がっていたらしいが、私はそんなことはつゆ知らず、微妙に落ち込んだまま宿に帰って、自部屋で「ガシャット製造用携帯端末」を使って、爆走バイクガシャットとスマホにちょっとした改造を施して1日を終えた。
お読みいただきありがとうございました。
次回は、新登場のヒロイン視点での話です。