チャプター5 Lからの手紙
あちこちに狼男の破壊の後がある大学棟の階段を駆け上る。その先に狼男が居ない事を祈りながら必死に走り続ける
「美雪先輩!もし出来るなら久遠教授の手綱を今度から握って下さい!」
「無理ですッ!!」
即答する美雪先輩にそりゃそうかと心の中で同意する。あの人のフィールドワークに着いて行けば地獄を見る、それが研究室に出入りする人間が最初に学ぶ事だ。民俗学の権威であり、そして美貌の久遠教授。彼女に憧れ研究室の扉を叩いた人間は最初のフィールドワークで挫折する。何故なら久遠教授のフィールドワーク=山などでのサバイバルを意味する。道無き道を行き、獣に襲われる可能性を考慮しなくてはいけない。俺は1度フィールドワークに付き添ったことがあるが、比較的なだらかで安全な山だったにも拘らず、俺はフィールドワークから戻った翌日は筋肉痛で休む事になった。着いて行くだけでも必死、驚異的な運動神経を誇る久遠教授は野球部員である雄一郎も信じられんと言わせて見せた
「ここだ。全員急げ!一気に運び出すぞ!!」
廊下の先から聞こえてくる久遠教授の声。本当早すぎる……階段を上り終えたら廊下をまだ走るというのに、俺達よりも先に到着している事に心底驚きながら俺は途中で立ち止まる
「ぜぇ……ぜぇ……楓は先に……」
「大丈夫だ。少し休もう」
桃は良く頑張った運動部じゃないのに、ここまで良く走り続けてきたがもう限界だろう。俺は同じ様に立ち止まっている雄一郎と美雪先輩の方を振り返り
「桃は俺が連れて行きます。2人は先に行って下さい」
幸いまだ狼男の気配は無い、それに俺にはカソが居る。悪魔に遭遇しても逃げるにしろ、戦うにしろ対応出来る。
「判った。久遠先輩行きましょう」
「え……あ、はい!」
雄一郎が美雪先輩を伴って走って行くのを見ながら階段に腰掛ける
「ほれ。少し座って休め」
「ご、ごめんね?私の所為で」
荒い呼吸を整えようとしている桃に気にするなと呟く、俺自身も正直言って右足が痛んで走るのはもう限界だった。ここで無理をするより1度休むという選択をしたのは桃が心配と言う事もあるが、俺自身ももう走れないと思ったからだ。暫く座り込んで呼吸を整える
「ねえ、楓……私も悪魔を召喚したら手伝いが出来るかな……」
確かに悪魔を桃が召喚すれば俺達の助けになるだろう。だがそれは桃も戦うって事だ……俺は自分勝手だと言われても良い、桃にはそんな事をして欲しくなかった。
「桃。お前はそんな事考えなくて良い」
「え、で、でも!私だけが足手纏いに」
「そんな事無い!桃が笑ってくれてるだけで俺は頑張れる。だから桃、お前は悪魔と契約しようなんて考えなくて良い」
息も整ってきたから行こうと桃の手を引き、久遠教授達から数分遅れて第二研究準備室へと足を踏み入れるのだった……
そしてそこで俺が見たのは
「良し、誰も持ち出してないな。これがあるか心配だったんだ」
「「久遠教授!?」」
拳銃を手に良かった良かったと笑っている姿を見て、俺と桃は声を揃えて叫び。雄一郎と美雪先輩は遠い目をして天井を見つめているのだった……
か、母さんが隣の部屋から持ってきたアタッシュケースに拳銃が3つと変えの弾丸のケースが3つ。それを見て私は気が遠くなった
「く、久遠教授……なんで銃を持っているんですか?」
遅れて来た楓君が顔を引き攣らせながら尋ねると母さんは穏やかに笑いながら
「海外のフィールドワークの時の護身用さ。まぁ滅多に使う事はないんだが……桃子や美雪はこっちのほうがいいと思ってねまぁ練習しないと使えない思うから暫くは私専用にするが」
……母さん。お願いですから、生徒と自分の娘に拳銃を持たせようとしないでください。そして練習なんてしたくないです……
「楓君と雄一郎君はそこにある棚から武器を選ぶといい。確か金属製のハンマーと槍が入っている筈だ」
……わ、私の中の母さんの姿が崩れていく……日常が消え去っただけではなく、母さんが危険人物だと知った私は思わずその場に座り込んでしまうのだった……
「雄一郎はやっぱりハンマーか?」
「ああ、バットとは感覚が違うが、遠心力が付き易いし使いやすい。俺はこれにする」
錆付いたハンマーを振っている雄一郎君。かなりの重量がありそうだが、バットを振るように振り回しているのは悪魔と契約していることで筋力が上がっているから出来る事なのだろうか
「槍かぁ……うーん離れて攻撃出来るのは良さそうだけど……間合いに入り込まれたら不味いかな」
「レガースを足につけておいて蹴り飛ばすのはどうだ?」
それで行くかと三叉の槍を手にする楓君。出来る事ならそんな物は持って欲しくないですが、緊急時だから仕方ないと自分に言い聞かせるように呟く
「久遠教授。車の鍵は見つけたんですよね?じゃあ狼男が来る前に保健室に戻りましょう」
桃子さんがそう提案すると母さんもそうだな。見つかる訳には行かないと呟き研究準備室を出ようとした瞬間。止まっていたPCが勝手に起動する。それを見た楓君と笹野君が私と桃子さんを背中に隠し、PCの前に移動する。悪魔が出てくる可能性を考慮したのだろう……だが何時までまっても悪魔は出現せず。変わりに真っ暗な画面に白い文字が独りでに浮かび上がる
『高校の電子の部屋にて待つ。今君達に必要な力を授けよう L』
その一文が浮かび上がる。高校の電子の部屋……その言葉で思いつくのはコンピュータールームだが……
「罠っぽいですよね」
楓君の言葉に頷く、勝手にPCが起動し、そして入力していないのに文字が浮かび上がる。そして名前も言わずに呼び出される。罠としか思えない
「ああ、これはそのまま引き返して、車の確認をした方がいいんじゃないか?」
笹野君もコンピュータールームに行くのではなく、このまま高校棟へ戻り、脱出の為車の様子を確認するべきだと提案するが、母さんはいや、コンピュータールームへ向かうと口にし、その理由を話し始めた
「知り合いなんだ。そうか……あいつが居るならこの状況を打破出来るかもしれない」
え?母さんの知り合い?どうしてそんな相手が居るなんて今まで言ってなかったのに……私達の視線が集まる中母さんは溜息を吐きながら
「あいつは愉快犯なのさ、どうせ私のPCをハッキングして、悪戯を仕掛けていたんだろう。きっとあちこちの監視カメラもハッキングして私達の様子も伺っている筈だ」
こんな状況で?様子を伺っているなら助けに来てくれてもいいのに……そう思うと更に私の不信感は強くなった。こんな状況なのだから生き残っているのなら助け合うべきなのに……
「性格は最低だが、まぁそれなりに信用出来る奴だよ……そして私が合流しようと言う理由なんだが……あいつは悪魔研究の権威なんだ」
悪魔研究の権威……?そんな客賓教授は居なかったはずですが……それにそもそもこんな状況で外から高校に来れるとも思えない。悪魔の罠なのでは?と言う考えが脳裏を過ぎる
「久遠教授。その人は信用出来るんですか?コロポックルが言っていたじゃないですか、門を開いた存在が居るって。それがその人じゃないんですか?」
笹野君が疑いが篭った言葉で母さんに問いただす。だが母さんは違うと断言した
「あいつはそんな事はしない。あいつはな、人が足掻くのを見るのが好きなんだ。だから人が死ぬようなことはしない」
死にそうな目には合わせるがなと言う。そんなの唯の人でなしでどうしても信用出来る人間じゃないと思う
「久遠教授。会いに行くんですか?この危険な状態で会いに行くだけのメリットがあるんですか?」
「ああ。間違いなくある。L……ルイ・サイファーは悪魔召喚の理論を学会で発表して追放された。それを更に進化させているとしたら?私達が悪魔を完全に制御する手段を生み出している可能性がある」
悪魔召喚を学会で発表し追放され、もしかしたら悪魔を完全に制御する手段を見つけているかもしれない……それは更に私達がルイと言う人物を疑う要因となったのだが母さんが断言した
「善人ではないが、悪人でもない。それに他にも生存者が居るかもしれない、危険ではあるが向かうだけの価値はある」
今まで私達の事を心配し、導いてくれた母さんの言葉だから私達は疑いを持ったままだが頷いた。どの道高校棟に戻るのだから、コンピュータールームで待つと言うルイさんに会っても良いかも知れない……そう思い。私達は次の目的地をコンピュータールームへと決め、狼男に見つかる前に大学棟を後にするべく移動を始めるのだった……
高校棟へ続く渡り廊下の前で俺達は足止めを喰らっていた。行く時は居なかったのだが、今は鳥の身体に人間の頭をした悪魔が群れで渡り廊下を埋め尽くしていた
「さて、楓君。こんな状況だが問題だ、戦国時代や平安時代の話だ、病気や争いで死んだ人間を放置しておくと出てくる怪
鳥の事を覚えているかな?」
アタッシュケースの拳銃を取り出し、弾を装填しながら尋ねてくる久遠教授。俺は小さく深呼吸をしながら
「イツマデです。人の死体を放置していると何処かから現れる怪鳥。それがイツマデです」
「正解だ。10点をあげよう。さて、雄一郎君なぜ私がこんな話をするか判るかな?」
警察が持っているリボルバーではなく、海外の映画で見ることの多い拳銃……多分べレッタかな?それのセーフティを外し照準を合わせながら尋ねる
「死体を放置していると……現れるんですよね?……ッ!まさかッ!?」
雄一郎も気付いたか……俺は悪魔なんて物が存在するから、もしかしたらイツマデも現れるかもしれないと思っていたが、こうして遭遇すると状況はたった1日で劇的に悪化していると言える
「そう、今この高校と大学は死体の山だ。悪魔に加えて、ゾンビにイツマデ……移動範囲はゆっくりだが、確実に狭められている。コンピュータールームに行くのも危険だが……きっとあいつはこの状況を打破できる何かを持っている筈だ。私を信じて着いて来てくれ」
真剣な表情で言う久遠教授。だが正直久遠教授が居なければ俺達はパニックになっていただろうし、明確な指針も無いまま脱出しようとして死んでいたかもしれない。だからここまで来たのなら最後まで信じると言う選択肢しか俺には無い
「教授の知り合いを信じますよ。行きましょう」
コンピュータールームに向かうという選択肢は変わらない。どうせ今のままでは打開策なんて無いんだ、ほんの僅かでも希望があるならそれに縋りたい
「良し、判った。君達の命は私が預かる……全員で無事に学校を脱出するぞ」
「「「「はいっ!」」」」
久遠教授の言葉に頷き、俺と雄一郎は渡り廊下を占拠しているイツマデへと走り出すのだった
【【【【イツマデッ!イツマデッ!!!!】】】】
俺達に気付いたイツマデが翼を広げて襲ってくる。人間の顔に鳥の身体……こうして見ると不気味だな
「てえいっ!!!」
第二研究準備室から持ち出した槍を全力で突き出す。それは俺の思っていたよりも素早く伸びる
【ギギッ!?】
反応の遅れたイツマデの胴を刺し貫く、バットよりかは手に来る感覚が薄いが……それでも嫌悪感は感じる。槍を振るいイツマデを振り飛ばすとそのまま消え去り魔石が廊下に転がる
「くっそお!俺も槍にすればよかった……かぁッ!!!」
雄一郎は巨大なハンマーを振り回しているが、イツマデが予想よりも早く捉えきれていない。当ればでかいが、当らないというのは問題があるな
「シッ!!!」
「母さん!?楓君と笹野君に当りますよ!?」
「な、なななな!なにやってるんですかあ!?」
廊下に銃声が響く、撃ったぁ!?俺達が直ぐ近くに居るのに撃ったぁ!?護身用として持っていると思ったのに躊躇わず引き金を引く久遠教授に美雪先輩と桃の悲鳴が重なる中
「今だ雄一郎!」
「おうっ!!!」
翼を打ち抜からふらふらと飛んでいる2体のイツマデを雄一郎のハンマーの薙ぎ払いが殴り飛ばす。廊下を転がりながら魔石へと変わって行くイツマデを見て、やっぱり当ればでかいな……それを振り回す雄一郎の筋力に驚きながら桃と美雪先輩の方を見て
「今のうちに高校棟へ!早く!!」
またイツマデが飛んでくるかもしれない。その前に2人を高校棟へ移動させる。2人が高校棟に駆け込むと同時に、大学棟から餓鬼が2体。空から更に3体のイツマデが姿を見せる
「楓君!雄一郎君!頼んだ!」
久遠教授の言葉に頷き、俺達も高校棟へと下がる。この道があればまた悪魔が襲ってくる、狼男が戻ってくる可能性もある。生存者を見捨てる事になるかもしれないが……ここまで騒いでいるのに姿を見せないので大学棟に生存者は居ない。そう判断し向かってくる餓鬼達を睨みつけ
「カソッ!!!」
「コロポックルッ!!!」
俺と雄一郎の呼び声と同時に俺達の目の前にカソとコロポックルが姿を現す。カソとコロポックルは俺と雄一郎を見て自信満々に笑いながら
【オオオオオオッ!!!!】
【ワシの全力を見よッ!!】
『マハ・ラギ』
『ブフーラ』
今でとは比べられない炎の壁が向かってきた餓鬼達を一瞬で焼き払い、渡り廊下を巨大な氷柱が粉砕する。その凄まじい光景に驚くよりも先に、俺と雄一郎は揃ってその場に膝を付いた
「っはあ……半端無いな、疲労感」
「だ、だな……これはきつい……」
魔法を使うには俺達の力を使うと言っていたが、これはめちゃくちゃきつい。もう動くのも嫌になるほどの疲労感だ……
「楓。大丈夫?」
心配そうに近づいてきた桃に大丈夫だと返事を返し立ち上がる。だが正直かなりきつい……手にしている槍も重くて手放したいと思う……
【ウ。ハリキリスギタ】
【じゃな、気合を入れすぎたワイ】
すまんすまんと笑うコロポックルと申し訳無さそうにしているカソ……気合を入れてくれるのはいいが程々にしてくれと呟き、俺は雄一郎の肩を借りて目的地とするコンピュータールームを目指して移動を始めたのだった……
コロポックルとカソの全力攻撃。それは思ったよりも凄まじい疲労感を俺と楓に与えていた
(持久走として直ぐ筋トレって感じだな)
楓はまだ荒い呼吸を整えようとしているが、俺は既に落ち着いている。確かに凄まじい魔法だったが、そう連続で使用できる物ではなく、ここぞと言う時に使う物だということを改めて思い知った
「やれやれ。弾薬が勿体無いが仕方ない」
コンピュータールームへ向かう時も餓鬼やイツマデに遭遇したが、久遠教授が現れると同時に撃ち殺している。歩きながら平然とそれを行う姿にこの人何者なんだと思ったのは言うまでも無い。俺が追いつけない脚力に、銃を扱いなれている。本当にこの人は民俗学の権威なのかと疑ってしまう。そんな事を考えているうちにコンピュータールームに到着する
「では行くぞ。あいつめ、要らない情報だったら撃ち殺してくれる」
そんな恐ろしい事を口にしている久遠教授を見て、久遠先輩を思わず見る。この人も穏やかそうな顔をしているが、切れるとあんな風になるんだろうか?と言ったら悪いが、正直少し怖かった
「心配ない。美雪先輩と久遠教授の性格はまるで違うからな」
「それはそれで複雑な気分になるんですが……」
すいませんと頭を下げる楓と共にコンピュータールームに足を踏み入れると、そこには見たことの無い白人の姿があった。黒のスーツに金髪をオールバックにした。いかにもマフィアと言う感じの男性だった
(久遠先輩、久遠教授って本当に民俗学の先生ですよね?)
(そ、その筈ですが……)
桃子の問いかけに久遠先輩が引き攣った顔で返事を返す。まさか自分の母親がいかにもマフィア見たいな人間と知り合いなんて夢にも思わないだろう
「おい、馬鹿者。いつもの貴族服はどうした?」
「サプライズだよ「黙れこの人格破綻者」うっ!!」
「「久遠教授ッ!?!?」」
べレッタのグリップで男性の頭を殴りつける。うっと呻いて倒れる男性を見て思わず絶叫すると、久遠教授は肩を竦めながら
「この程度じゃこいつは死なない。どうせ悪ふざけだ、おい起きろ」
倒れていた男性に蹴りを入れる久遠教授。この人本当に民俗学者なのか!?やってることがまんま犯罪者なんだがッ!!
「はっは、久しぶりの再会だが。いつも通りで安心したよ久遠」
「お前もな。で?態々こんな状況で私達を呼び寄せた理由は何だ?」
旧友との再会をさっさと切り上げられたのが面白く無さそう顔をした男性は青い顔をしている楓を見つめ
「ふんふん、なるほど。大体判ったよ、初めまして久遠の教え子の皆さん。私はルイ、ルイ・サイファー。よろしく」
人のいい顔で笑うルイさんだが、その笑顔に何故か背筋が冷える物を感じるのだった……
「さてと態々来て貰ったのはこれを渡そうと思ってね」
そう笑って俺達のスマホを貸してくれと言うルイさん。こんな状況でスマホを貸してくれと言う意味がわからない、電波も何も無いので電話としても使えない、インターネットにも繋げない。スマホの価値はもう無いと言える筈だが……久遠教授に貸してやってくれと言われたのでスマホを貸したが、もう何の意味も無い道具なんだが……
「電話として使うわけじゃないさ、ただインストールする物が必要なんだ。PCではかさ張るし、タブレットは持ち運びに不便だ。となると消去法でスマホになる。……そしてスマホにインストールするのは私の研究の成果悪魔召喚プログラム!」
悪魔召喚プログラム!?笑いながら告げられた言葉に俺達が絶句する中。ルイさんは上機嫌に笑いながら
「私は何年も悪魔を研究してきた。そして得た結論は1つ、悪魔とは一種のデータの生き物であり。プログラムで制御出来るという事だ」
俺達のスマホをPCに接続し、上機嫌にキーボードを叩きながら告げるルイさん。悪魔召喚プログラム……今この状況を引き起こしたのがルイさんではないのか?と言う疑念を抱く。それはきっと楓達も同じだろう、ルイさんの背中を睨みつけるようにして見つめているとルイさんはその視線に気付き、困ったなあと笑いながら頭を掻いて
「この状況では疑われるのも当然さ。でもね?もし私が犯人ならどうしてこんな事をするんだい?私自身も死ぬかもしれない。そんなメリットのない事をやって私に何か得があると思うかい?」
それを言われると辛い……確かにこの人が犯人なら俺達に悪魔召喚プログラムなんて物を授ける理由はないだろうし、嘘だとしてもそんな話をする必要性が無い。と言うことはこの人の言っていることは本当の事なのか?
「君達は正規の方法で悪魔と契約した、だがこれは召喚者の命を奪いかねない危険な手段だ。私も学者の端くれだ、悪魔召喚の儀式に興味を持ち召喚してみようと試みた事がある。案の定命を狙われ必死に逃げたのを覚えている」
聞いていないのに悪魔召喚の危険性を話し始めるルイさん。俺達も事実死に掛けたのだからその話が本当だと判る、確かに後ほんの少し楓が消火器を手にするのが遅かったら全員死んでいたかもしれない
「だから私は考えた。たとえ悪魔の力を落としたとしても、安全に悪魔と契約する方法は無いだろうか?それを何年も研究し、辿り着いたのが悪魔を空想の存在として考えるのではなく、一種のデータの塊として考えることだった。そしてそう考える事で別の見方をする事が出来た」
そう笑うルイさんはケーブルに繋いでいたスマホを外し、俺達に手渡しながら
「そのプログラムに干渉し、相手のデータを書き換える。そう君達を殺すと言う意思を君達を守るに書き換えるんだ」
差し出されたスマホの画面には魔法陣が描かれたアプリがインストールされていた。これが話しにあった悪魔召喚プログラム……これで悪魔を仲間に出来るのならば、狼男を倒し街へ脱出することも出来るかもしれない
「私も実験したが、悪魔を仲間とする事が出来る。現に私もその方法で彼に連れて来て貰ったんだ」
ルイさんの視線の先を見るとライダースーツを着た骸骨が壁に背中を預けて立っていた。その圧倒的な存在感はカソやコロポックルよりも遥かに強力な悪魔なのだと俺達に雄弁に語っていた
「そのプログラムで悪魔を呼び出し、倒すもしくは交渉することで使役する。きっと君達の力になると思うよ」
そう笑ったルイさんはライダースーツの骸骨の方に歩き出す。それを見た久遠教授が
「お前これからどうするんだ?」
「見定めるのさ、悪魔と人間。どっちが地球を支配するのに優れた種か?それを見てみたいんだ……だって地球は有史からそうして来ただろう?争い、憎み、殺しあって来た。それが今までが人間同士だったのが、人間と悪魔になった。それだけさ、だからここで人間が滅ぶのもきっとそれは運命なんだ。それに抗うことは出来ない、そうだろ?」
人間が滅ぶのも仕方ない事なんだと笑うルイさんが同じ人間には思えず、俺達が後ずさるとルイさんは楽しそうに笑いながら、冗談だよっと呟く
「だけど君達に会ってちょっと考えが変わったかな?君達が無事に生き残る事を祈ろうと思うよ。お互いまだ命があったのなら、また会おう」
子供のように笑ったルイさんと骸骨はまるで始めからそこに居なかったように何時の間にか消えているのだった……ルイさんが確かに目の前に居た。その証拠は俺達の手の中のスマホに残された魔法陣が刻まれたアプリ……それこそが俺達の目の前にルイ・サイファーという人物が居たという確かな証拠だった……
狐につままれたような気分だ。今確かに俺達の目の前にはルイ・サイファーを名乗る人物が居た。そして彼がくれた悪魔と契約するためのアプリも手元にある……居ないのはルイさんだけ……この密室から完全に消え去ったルイさんが何者なのか?と考えたい所だったが
【ウォオオオオンッ!!!!!】
狼男の憎悪に満ちた咆哮がグラウンドの外から響いて来る。何かを破壊するような音も響いてくるから、間違いなく俺達を探して暴れまわっているのだろう
「久遠教授どうしますか!!」
このまま隠れて狼男が通り過ぎるのを待ちますか?と尋ねると久遠教授は首を振り、親指の爪をかみながら
「昨日は襲ってこなかった。だが今日は昼間から仕掛けてきた、それはきっと君達が負わせた傷が回復したからだろう。となるとあいつは私達を見つけて殺すまできっと立ち止まることは無い」
本当はもっと準備してから戦いたかったんだがと呟いた久遠教授はスマホを握り締め
「どこか安全な所で悪魔召喚をする!その後狼男を倒し、脱出する!とりあえずこの部屋を出るぞ!ここで見つかったら逃げ道も何も無いからな!」
久遠教授の言葉に頷き、階段を駆け上っているとコンピュータールームから破砕音が響き渡る。
「野生の勘か、それとも鼻が利き始めたか……どっちにしろ時間が無い!急いで準備を整えるぞ!悪魔を召喚して、倒して契約、そのままあの狼男と戦うなんて事は出来ないからな、なんとかして時間を稼ぐぞ!」
階段と廊下に犬避けの薬剤を撒きながら走る久遠教授の後を追って、俺達は悪魔召喚の為の場所を探して走りだすのだった……
チャプター6 悪魔召喚
次回で学校編のボス。コボルトとの戦いの備えになります、名称こそコボルトですが、魂食い・同族食いで強化されているのでボスに相応しいスペックになっているのでご安心ください。次回は悪魔をメインにした戦闘シーンを書こうと思っています。ですのでどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします