新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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分岐チャプター2

 

 

分岐チャプター1 ヤタガラス 異界 ひとりかくれんぼ その2

 

楓と共に足を踏み入れた屋敷。たった1歩……そして溜息を吐きながら振り返る。入ってきた玄関は消え、長い一本廊下に私と楓は立っていたのだ。どうもかなり複雑に異界化していると見て間違いないですわね

 

「楓。どうも脱出はそう簡単に出来そうにありませんわね」

 

「そうですね……でも予想の範囲内です。悪魔のテリトリーだから」

 

楓の言葉に笑みを零す。取り乱すでもない、悲観するわけでもない。恐怖を感じながらも適切に行動しようとしている。知性で恐怖を押さえ込もうとしている。強い、本当に強い男だ。久遠様が目を掛けるのも当然だと改めて実感する

 

「さてと、では楓。ここからどうしますか?」

 

「方位磁石で方角を確認しながら移動するか、ナイフで壁に印を付けながら移動する。出来ればどこかで休める場所を見つけることが出来ればそこを一時的な拠点にしたい」

 

「冷静な様で安心しましたわ。では行きましょうか」

 

今の質問は楓の冷静さを確かめる為の物。ただの学生だったと言うのに、動揺せず、そして冷静に頭を働かせている事に感心しながら楓とと共に薄暗い屋敷の中を進む

 

「イザベラさんは悪魔の契約数は残り2つで良いんですよね?」

 

「ええ、久遠様に報告したとおりですわ」

 

契約数がどうかしたのですか?と尋ねると楓はちょっと気になることがあってと呟き

 

「久遠教授と俺と雄一郎の契約数が2で、桃と美雪先輩が1のまま。それに対して、イザベラさんは契約数が3……何を条件にして契約数が増えているのか?それを知りたくて」

 

「そう言われるとそうですわね」

 

私は特に何かをしたわけではない。だが契約数が増えている。その理由は確かに私も知りたいと思う

 

「悪魔と戦うことが条件なのでしょうか?」

 

「それなら桃と美雪先輩も一緒に戦っているので増えてる筈」

 

何かもっと他に理由があると思うんだと言う楓。悪魔の契約数はそのまま戦力と生き残る為の戦術に繋がる、確かに狙って契約数を増やせるならそのほうが今後の為になるでしょうね

 

「しかし今考えるのはそれではないですよ。無事にこの屋敷を脱出し、なおかつ、貴方の血縁だと言う神堂魅啝を探す事ですわ。どうすれば契約数を増やせるかと言う今答えの出ないものを考えていても意味はありません」

 

そうだなと呟いた楓は背中に背負っている剣ではなく、ナイフを手にする。狭い屋敷の中では剣よりもナイフの方がいい。冷静で的確な判断だ

 

「召喚するのはカソにしようと思うんだけど、イザベラさんはスパルトイの方が安心できる?」

 

「いえ、カソで結構です。スパルトイは目立ちすぎますから」

 

この狭い廊下では大柄なスパルトイでは思うように移動できない危険性が高い。それならば小柄で嗅覚や夜目が聞くカソを召喚するほうが無駄が無い。

 

「私もカハクを召喚します。出来るだけ戦闘は回避する方向でいいですわね?」

 

2人だから続けて戦闘をすれば体力もMAGにも余裕が無くなる。出来るだけ戦闘は回避する方向でと言うとそれで行きましょうという楓と共に私は薄暗い屋敷の中をカハクとカソの明かりを頼りに暗い屋敷の中を進み始めるのだった……

 

 

 

外から見た通りと言う広さではない、やはりこれも悪魔の仕業と言う奴なのかと屋敷の中を観察しながら考える。板張りの廊下と障子……完全な日本家屋と言う感じだが、その奥行きが尋常じゃない。日本家屋特有のひんやりとした空気のせいで余計に恐ろしく思える

 

「カソ、悪魔の気配はあるか?」

 

【……ナイゾ。いまのトコロはシンパイない】

 

悪魔の気配がない、その言葉に安堵の溜息を吐きかけるがそれを飲み込む。どこか遠くから、何かを引きずる音が聞こえてきたからだ

 

「カソ、もう1度聞くぞ?悪魔の気配は?」

 

【……ナイ。ワレはにんしきデキヌ】

 

隣にいるイザベラさんに目配せすると、イザベラさんは無言で障子を開けて中に入る。俺もそれから遅れてその部屋の中に入り、息を殺し何かを引きずっている何者かが通り過ぎるのを待つ

 

「もーいーかーい、もーいーかーい?」

 

壊れたラジオのようなノイズ混じりの声でもーいーかいと言う声が狭い廊下の中に響く

 

「おーかーしいなー、誰かの気配をかんじたんだけどー……」

 

けらけらと笑う不気味な声。障子に映った影は異様な影だった、片腕だけが異様に肥大化し、巨大な剣を手にした長い耳を持つ異形

 

「つーぎーのにげるひとはだーれかなー。かくれんぼーはたーのーしなー」

 

不気味なリズムで歌を歌いながら歩いて行く異形。その姿と声、更に何かを引きずる音が完全に消えるまで口に手を当てて、その声も呼吸も聞かれないようにする。永遠とも思える時間が過ぎ、その気配が完全に消えた所で

 

「最悪だ。よりにもよってあれか」

 

「楓はあれが何かご存知なのですか?」

 

私はあんな悪魔は知らないのですが?と言うイザベラさんに俺はあれは悪魔じゃないんですと呟く。確信がある訳ではない、その可能性が極めて高い。そう思いたいだけかもしれないのだが……多分当たっているだろう。あのノイズ混じりの声もおかしいと思ったが、もし俺の考えている通りならそれはある意味当然なのかもしれない

 

「1人かくれんぼって言う都市伝説だ」

 

ひとりかくれんぼ?と鸚鵡返しに尋ねてくるイザベラさんにひとりかくれんぼですともう1度言う

 

「最近有名になっている都市伝説で、手足のある人形の腹を割いて、そこに米と血液とか爪とかを入れて、赤い糸で縫い合わせて、余った糸は人形に巻きつけてやる。呪術とか、交霊術とか言われてる都市伝説だ」

 

都市伝説の中では猿夢かそれに等しい危険度を持つ極めて危険な物の1つだと説明する

 

「これは長時間やるとぬいぐるみに憑依した霊が暴走して危険とされるもので、出来るだけ短時間で終わらせる必要がある」

 

「なるほど、理解しました。つまりは短時間で終わらせる事が出来ず憑依した霊が暴れていると言う事ですね?」

 

その可能性が高いと思いますと呟き、それに続いて懐から手帳を取り出して

 

「次に最悪なのがこの部屋を見てください」

 

隠れていた部屋を見るように言うとイザベラさんは部屋の中を見て

 

「ぬいぐるみだらけ……まさか!?」

 

「そうだ。仮にあのぬいぐるみを破壊しても、中の霊はまだ生きている。それは新しいぬいぐるみに乗り移ってまた活動を再開する」

 

魅啝がぬいぐるみを破壊したのか、綺麗に並んでいるぬいぐるみの中にいくつか歯抜けがある。恐らく倒したのだが、別のぬいぐるみに憑依して動き出したのだろう。そう考えながら並んでいるぬいぐるみを確認して、舌打ちをする

 

「喋る機能があるぬいぐるみはあと2個だけだ」

 

今のは喋る機能があったからノイズ混じりでも声を発していた。だから事前に察知する事ができた、だがもしも発声機能の無いぬいぐるみに憑依されたら?事前に察知する事が難しくなるだろう。多分喋りながら歩いていたのは恐怖させ、動揺させる事で隠れている相手を見つけようとしたからだろう。それをしないのならば音を立てる必要は無い、獲物を変えてナイフなどで小さなぬいぐるみの身体を生かして襲った方が暗殺の成功率が上がる。それをしないのはあの霊……いや、悪魔は今の状況を楽しんでいる

 

「楓。ひとりかくれんぼを終わらせる方法は?」

 

「隠れた人間が口に含んだ塩水を吹きかけて、3回私の勝ちと言ってから、ナイフで人形を縛っている赤い糸を断ち切り燃やす事」

 

俺がそう言うと今度はイザベラさんが舌打ちをする。恐らくひとりかくれんぼを始めた何者かは既に死んでいる

 

「私か楓があのぬいぐるみに見つかり、かくれんぼの舞台に上がる必要がある。そういう事ですわね?」

 

「多分……」

 

奇襲して倒したとしても、ひとりかくれんぼに決められた終わり方をしなければ俺達はこの屋敷から抜け出る事は出来ない

 

「まずは塩水だ。塩水を作る為にキッチンを探そう」

 

炎はカソとカハクがいるので心配する必要は無い。まずは霊を弱らせる為の塩を見つけることが最優先で

 

「こういうとき、普通の塩でも大丈夫だと思う?」

 

「……どうでしょう?」

 

清めの塩とかじゃなくて大丈夫なのか?と思うが、こんな場所で清めの塩などが手に入るとは思えない。とりあえず手に入る塩で何とかするしかないと判断し、俺とイザベラさんはキッチンを探して歩き出すのだった……

 

 

 

「しくじった……」

 

私は廊下の壁に背中を預けながらそう呟いた。恐ろしいほどの奇襲と速攻だった……小さな20センチほどのぬいぐるみ、それが手にしたカミソリの刃で切り裂かれた足の怪我は思ったよりも深い。仮に悪魔の魔法で回復したとしても、失った血液までは戻ってこない

 

「気絶していたとは……」

 

カミソリの刃で切り裂かれ、そしてその直後に落とし穴に落とされ私は無様にも意識を失った。どれほど気絶していたかは判らないが、老体には危険すぎる量の血液を失ったのは間違いない

 

(なんとかして魅啝様と合流しなければ)

 

連れてきた2人は恐らく既に死んでいる、あの力量ではこの屋敷の中のぬいぐるみに憑依した悪魔に勝つことは出来ない。恐らく既に死んでいると見て間違いない……その死んだ2人に魔石や、札を預けていたのが悔やまれる。本当ならば私か、魅啝様のサポートとして連れてきたのだが、そのサポート役が死んでは意味が無い。応急処置は済ませたが、とてもではないが、動ける状態ではない……せめて動ける状態になるまで隠れる事が出来れば……

 

「敵か!」

 

近くで障子が開いた音がする……悪魔か、それとも死んだと思っていたサポーターか?悪魔を召喚する準備をし、脇においていた刀を手にし廊下を睨む。だがその曲がり角から姿を見せた人物を見て私は驚愕の悲鳴を上げた

 

「楓様!?」

 

ここにいるはずの無い総司様の息子。新藤楓様が金髪の外人の少女を伴って目の前に現れたのだから……

 

「あんたは……確か、御剣だったか、怪我をしてるのか?ちょっと待ってくれ」

 

「楓。この老人は?」

 

「魅啝と一緒にいたんだ。何か知ってるかもしれない」

 

叫んだ事で貧血を起こし、揺らぐ視界の中。私は楓様に問いかけた

 

「何故楓様がここに?」

 

「魅啝からメールがあって危険だと聞いて、魅啝が心配で来た」

 

その言葉に内心舌打ちをする。危険だから遠ざけるつもりが本人が来てしまっては何の意味も無い。そして何よりもこの屋敷に入ってしまえば脱出する事はあの悪魔を倒すまで不可能なのだから

 

「どうしてここに「落ち着け、まずは怪我の処置をしてからと、血を流してるんだよな。えっと痛み止め効くか判らないけど」

 

私の足の怪我にガーゼを当てて、包帯を巻きながら楓様がそう呟く。その手が私の血で汚れるのを見て

 

「止めるのです!私は」

 

「下賤とかそういうのはいいから、生きて会えた。俺とイザベラさんはこの屋敷に入ったばかりだ。情報が欲しい、それにせっかく会えたのに死なれたら目覚めが悪い」

 

だから大人しく治療されろと言う楓様になにも言う事が出来ず。私は楓様にありがとうございますという事しか出来ないのだった……

 

「落とし穴?落とし穴で落ちてきたのか?」

 

「ええ。それで魅啝様ともはぐれてしまいました」

 

応急処置を終えた所で何があったと尋ねてくる楓様に自分におきたことを説明する

 

「イザベラさん。この屋敷外から見たら2階でしたよね?」

 

「ええ。その筈ですが……もしかすると悪魔の力で色々と変わっているのかもしれないですわね」

 

その外見からは想像できない流暢な日本語に驚きながら、私は気になっていた事を尋ねた

 

「ご友人と恩師の方は?」

 

「外で俺達が戻ってくるのを待ってる。全員で突入する危険性を考えて」

 

それは正しい判断だろう、私達でさえ落とし穴などのトラップで分断されたのだから、全員で行動するのは全滅の危険性を上げる以外の何者でもない

 

「ですが、楓様。どうしてこんな無謀な事を」

 

危険だと伝えたのにどうして来たのですか?と尋ねると楓様は立ち上がって背伸びをしながら

 

「せっかく会えた従兄妹が死ぬかもしれないと思ったら黙っていられるわけが無い。それに父さんは昔の事を何も教えてくれなかった……もう会えないかもしれないから、父さんを知る人の話を聞きたいと思ったんだ」

 

「楓様……」

 

悪魔が出現しているのは神無市だけではない、他の都市でも少なくとも悪魔は出現している。きっと総司様がいる場所も同じなのだろう

 

「それにだ。あんた達は都市伝説に詳しいのか?」

 

「いえ。それは……」

 

私達は悪魔に対する専門家だ。都市伝説などの最近生まれた怪奇伝説などは正直言って詳しいとは言いがたい

 

「なら教えるよ。この屋敷の悪魔は「ひとりかくれんぼ」特殊な交霊術で、特定の順番で終わらせないと決して終わらない、そして時間が経てば経つほど、危険度を増させる都市伝説だ。俺達はこの屋敷に入って1時間くらいだが、どれくらいいるんだ?」

 

その言葉を聞いて納得した。私と魅啝様で何度もぬいぐるみを撃退したのに数分と立たずまた襲ってくるその謎が……

 

「気絶したので覚えてないですが……少なくとも5時間は経っているかと」

 

時間が経てば立つほど強力になり、そして倒しても無限に復活する悪魔……それはある事実をこれでもかと示していた

 

「つまり力技では決して勝てないと言うことですね?」

 

「そうなる。だから早く魅啝とも合流したい」

 

楓様の言う事が間違いではないのなら戦っても、悪戯にMAGと体力を消耗するだけでいずれは殺されるという事だ。

 

「どうすれば……いいのですか?」

 

「まずはキッチンを見つける。そこで塩水を作る事、それと追いかけてくるぬいぐるみに見つからない事。御剣はぬいぐるみに見つかってるよな?」

 

確認と言う感じで尋ねてくる楓様に頷くとそうかと呟き、好都合だと笑う。確かに強力な悪魔である事は事実だが、かくれんぼの名前の通りかくれんぼのルールから逃れる事はできない。それが唯一の攻略する糸口になると楓様は呟く

 

「これで塩水が有効か確かめることが出来て、囮にするようで悪いが御剣と俺達どっちを優先するのか?それを調べる事もできる。それともしそれならもう1つ確かめる事が出来る事がある」

 

冷静だ、そしてそれでいて残酷だ。助けはしたが、それは自分の考えを確かめる為の物……

 

(味方と認めれば全力で助けてくれるが、やはり私は警戒しているか)

 

最初の出会いが最悪だったなと後悔しながら、楓様が口にした確かめる事があるという言葉の意味を尋ねると楓様は深刻な表情で口を開いた

 

「ここまで来るのに、部屋を6つほど見たけど、その中に2つの部屋の押入れに空っぽのコップがあった」

 

その言葉を聞いて楓様が何を言いたいのか理解した。楓様はこうおっしゃっているのだ、ぬいぐるみに憑依している霊または悪魔は2体……もしくはそれ以上存在する

 

「ひとりかくれんぼをそれだけ大勢でやったとは思えない。だけど……複数体存在する……その可能性は高いと思う。この屋敷には複数体のぬいぐるみに憑依した悪魔がいるかもしれない」

 

それは最悪の予想であったが、それであると同時に極めてその可能性が高いと言う事実を持っていた。そしてそれを証明するかのように

 

「「もーいーかーい」」

 

進んでいる廊下と背後から聞こえてきた声に複数体の悪魔がいる。と言うその可能性が信憑性を帯びてきたのだった……

 

かくれんぼはまだ始まったばかりだ……

 

 

分岐チャプター1 ヤタガラス 異界 ひとりかくれんぼ その3へ続く

 

 




ひとりかくれんぼについては皆さん知っていると思いますが、今作では倒してもぬいぐるみは復活すると言う設定になっています。それは屋敷自体が触媒であり、その屋敷の中では不死身であると言う設定にしているので、次回は御剣を加えての捜索になります。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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