新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター2

 

 

チャプター2 合流

 

久遠教授の研究室の隣にある準備室の扉の前にバリケードを組み上げる。この扉は研究室と隣接しているのでもし魔法陣からまた化け物が出てきた時僅かでも時間稼ぎが出来ると思ったからだ。ほんの数分の足止めでも、その間に体勢を整える事が出来る。そう思えば、その数分は貴重すぎる数分となるだろう。なんせ生死を分ける数分になるからな……額の汗を拭いながら振り返り、椅子に座っている楓と久遠先輩を見てかなり調子が悪いと言うのを一目で悟った

 

(楓と久遠先輩の顔色が悪いな)

 

あの燃える鼠に噛まれた楓は右足を引きずっているし、久遠先輩は睦月が死ぬ所を見ていたからか顔色が悪い。とは言え俺も気分は正直言って悪い、仲が良かった訳ではないが、一応はクラスメイトだ。それの死ぬ所を見て平気で居られる訳がない

 

「皆気分が悪いと思うが、これからの事を話し合おう」

 

久遠教授が机の上にこの学校の見取り図を広げる。俺も窓の外を見たが、まさに地獄絵図と言う感じだった。俺の知っている日常が消え去ってしまったのだと嫌でも思い知らされた。これからどうするのか?それを話し合うのは急務だ、だから気分が悪いなんて言っている余裕は無い。楓もそれが判っているのか、顔を歪めながら立ち上がり見取り図の前へ移動する

 

「まず皆判っていると思うが、スマホは通じないので連絡手段として用いることが出来ない。だから単独行動は厳禁だ、必ず全員行動これを心掛けるように」

 

落ち着いた所でスマホを試してみたが、電波が届いていないのかどこにも繋がることは無かった。この時点でもうスマホは連絡を取る道具としての価値を失い、時刻や写真を撮るためだけの道具へとなってしまった。だが仮に連絡を取れたとしても合流することも出来ないのだから通話が出来なくて帰って良かったかもしれない

 

「話を続けるぞ、今私達が居るのは、大学棟の2Fの私の研究室だ。ここから高校棟に行くには渡り廊下を使うのが早いが……正直言ってこのルートを使うのは危険だと思う」

 

「化け物が空を飛んでいるからですね?」

 

楓がそう尋ねると久遠教授がそうだと頷く。渡り廊下で襲われた場合逃げ道がない、更に廊下を破壊されれば全員が落下して死ぬだろう。桃子の事は心配だが、安全を考慮すると最短距離を使うことが出来ない

 

「だからまずは大学棟の1Fに降りて、そこからグラウンドを走って高校棟に入り保健室に走るのが一番だと思う」

 

今の所グラウンドに化け物の姿はない、だが走るのは楓には厳しいだろう。距離は30ちょいだが……見つかれば一気に襲ってくるだろう。素早く高校棟に逃げ込む事が出来るか?それが一番の課題だろう。楓も自分の足の事もあり、不安そうな顔をしている。久遠教授はやはり走るのは厳しそうだと判断したのか地図を少し見つめてから

 

「もし走るのが難しいのなら、「いえ、大丈夫です久遠教授。俺は走れます」

 

別のルートの提案をしようとした久遠教授の言葉を遮り、大丈夫だと言う楓。顔色の悪さから走る事は無理だと自分が1番判っている筈なのに……それだけ桃子が心配と言う事か

 

「楓君無理は……「無理なんかじゃありません」

 

久遠先輩も止めに入るが、楓は1度決めたら絶対に自分の意見を曲げることはない。なら俺は友人として楓の無茶の手伝いをしてやろうじゃないか

 

「判った。じゃあグランドは俺がお前を背負って走る」

 

「雄一郎!?」

 

「怪我人は黙ってろ、お前の意見は尊重してやる、桃子が心配って言うのも判る。だが桃子と会った時に血の気の引いたお前の顔を見てあいつはどう思う?」

 

俺の言葉に露骨に目を逸らす楓。きっとそんな無茶をさせたのは自分の所為だと桃子は自分を責めるだろう。俺から見れば相思相愛なのだが、どうもお互い妙なすれ違いをして居るように思える。こんな状況で何を考えていると怒られるかもしれないが、俺としては桃子の事を応援してやりたいと思う。だってそうだろ?幼馴染と一緒が良いと言う理由で態々民俗学に興味なんて無いのに田舎から進学して来たんだ。なんで桃子が自分を好きって連想出来ないのかが不思議でたまらない

 

「だからお前は笑顔で桃子を迎えに行くんだ。その為には無理をするな」

 

幸い俺は野球部でしかも投手だった。1ヶ月前までは毎朝20キロは走りこんでいたので、足腰には相当自信がある。更に言えば、俺の身長が181cmで、楓が167cm。身長の差もあるので楓を背負って走っても問題はない。足の事は別として桃子と再会する時は笑顔で再会させてやりたい

 

「判った。ではグラウンドは雄一郎君が楓君を背負って走る。これで決まりだ、では出発の前に……」

 

久遠教授が立ち上がり、何かを探し始める。暫くするとあったあったと笑いながら袋に包まれたお菓子とペットボトルを差し出してくる

 

「チョコレートバーだ。空腹を満たすことは出来ないが、少しはましだろう。後は水だ温いが、保存用の水だ。それは我慢してくれ」

 

そう言われるともう昼は完全に過ぎてるな、俺は差し出されたチョコレートバーと水のペットボトルを受け取り

 

「カツ丼は無理そうだな」

 

「だな……悪い」

 

楓に奢って貰う予定だったカツ丼は無理そうだなと笑い、俺はチョコレートバーを齧るのだった……こんな非日常の中でもやっぱり腹は減るし、喉も渇くな。こんな当たり前の事だがそれこそ生きている事を実感させてくれる、失った日常が確かに今俺の手の中にはあるのだった……

 

 

 

研究準備室で1時間ほど休み、僅かだが食事をとった後。準備室において合ったフィールドワークの際に持ち運んでいた、薬品や非常食をリュックと手提げ鞄に詰め込み。俺達は桃を助ける為高校棟の保健室を目指して移動を始めた

 

「うっ……ぐっ……」

 

階段を下りる、それだけの事なのにカソに噛まれた傷跡が傷む。心配そうにこっちを見つめている美雪先輩に大丈夫ですと返事を返し、歯を食いしばり痛みに耐えながら階段を下りる

 

「……廊下に化け物の姿は無いぞ」

 

先頭を歩いている雄一郎がリュックを背負ったまま金属バットを手に、柱の影から廊下の様子を伺う。今1番動けるのが雄一郎なので進んで先頭を進むと言ってくれたのだ。更にはリュックまで持ってくれているので、頭が上がらないとはこの事だなと思う。雄一郎が出した大丈夫だと言うハンドサインに頷き、ゆっくりと雄一郎の後ろに立つ、ここから昇降口に向かうには、1-C、1ーB、1-Aの教室の前を通り、昇降口を通りグランドに出る。保健室に向かう渡り廊下を使わない最短ルートがこれなのだが、化け物の存在もあるので柱の影から様子を暫く伺うことにしたのだが……

 

「静か過ぎるな……」

 

「ですね」

 

久遠教授の言葉に頷く、あれだけ化け物が窓の外を飛び、廊下を歩いているのにやけに静か過ぎる。パニックが起きて騒動が起きていると思っていたのに、静か過ぎるのだ

 

「雄一郎君。1-Cの教室を覗いて見てくれるか?」

 

こくりと頷き1-Cを覗き込んだ雄一郎は顔色を変えて、その場にしゃがみ込む。顔色が悪く、口元を押さえているのを見て生存者の存在が絶望的だと言うことを思い知らされた

 

「1-Cは死体の山だ。化け物が死体を喰ってる」

 

ありえるかもしれないと思っていたが、こうして口にされると吐き気がこみ上げてくる。廊下に血痕等がないので無事に逃げたのだと思っていたのだが、そうではなかったようだ……

 

「うっぷ」

 

「美雪。吐くなよ、それで見つかるぞ」

 

吐きそうにしている美雪先輩に久遠教授が強い口調で注意する。ここで下手に音や匂いを発すれば見つかる、見つかれば保健室に向かう前に俺達が死ぬかもしれない。だからここは絶対に見つかる訳には行かない

 

(それで雄一郎君。数は?)

 

化け物の数を尋ねると雄一郎は指を4本立てる。通る必要のある教室は3つ……他の教室もそうなっている可能性を考えると、どれか1体でも見つかれば仲間を呼ばれて囲まれて終わりだろう

 

(息を殺してゆっくりと進む。見つかればピクシー達を呼び出して強行突破、それで行くぞ)

 

久遠教授の言葉に頷き、姿勢を低くし、音を立てないようにゆっくりと廊下を進む。自分の心臓の音がやけにうるさい、この音が教室の中に居る化け物に聞こえてしまうのではないか?とたった数m進むだけなのに凄まじい汗が額から流れるのが判る

 

(久遠教授と、美雪先輩は……良かった、昇降口に到着したみたいだ)

 

念の為に準備室から鞄に詰めて運んで来た荷物を運んでいる。俺と雄一郎は荷物の分もあるのでやはり動きが遅い、更に言えば俺は足を負傷しているので更に動きが遅い物になる

 

(よしっ、楓荷物をかせ)

 

俺よりも先に廊下を渡りきった雄一郎に手を伸ばし手提げ鞄を渡す、これで動きやすくなると思った瞬間。手提げ鞄から痛み止めスプレーが転がり落ち、スプレーが転がっていく金属音が静まり返った廊下に響き渡る

 

【【【???】】】

 

1-Aの窓が開き、そこから顔色の悪い異形が姿を見せる、慌てて昇降口の影に隠れる雄一郎達。俺は息を殺して壁に張り付くようにして気配を殺す。目の前に落ちてきた人間の手首と、血の混じった涎に吐きそうになるが、両手を口に当てて必死に声を殺す。早く、早く教室の中に戻れと念じる

 

【【??】】

 

暫く窓から顔を出して周囲を観察していた異形だが、頭はそれほど賢くないのか、周囲を確認するだけで足元を見る素振りを見せず、誰も居ないのを確認すると窓を閉める。壁に張り付いているから、教室の中から聞こえてくる何かを租借する音に眉を顰めながら4つ這いで一気に廊下を通り抜ける

 

「はぁッ!はぁ……あ、危なかった……」

 

柱の影に蹲り汗を拭いながら呟く、まさかスプレーが転がり落ちるなんて、想定外にも程がある……ここで痛み止めスプレーを失ったのは痛いが、命があるだけ良かった、見つからなくて良かったと思うべきだろう

 

「楓君。とりあえず水を飲んでください」

 

美雪先輩に差し出されたペットボトルを受け取り中身を口にする。それでやっと落ち着いた

 

「問題はここからだ。今の所グラウンドに化け物は居ない、だが走れば見つかる可能性もある。ここで少し休んで一気に高校棟に駆け込む」

 

ここで言葉を切った久遠教授は俺を見る。久遠教授の言いたい事は判っている……血痕の少ないこの状況でこれなのだ。高校がどうなっているのかは判らないが、こっちと同じような状況になっている可能性は高い。桃が死んでいる可能性言われるまでも無く頭を過ぎっていた……

 

「手遅れの場合も覚悟しろ」

 

「……はい」

 

1年生の教室を見て理解した。もうこの校舎の中に安全な場所など存在しない、保健室に向かっても桃が死んでいるかもしれない。その可能性を思い知らされた……でも生きている可能性もあるのだから、それを見ずに諦めることなんて出来はしない。それに俺は信じている、桃が生きていると……高校で俺が来るのを待っているとそう信じたい

 

「諦めるのは早いぞ楓。桃子は生きてる、行こうぜ」

 

俺の前にしゃがみ込む雄一郎にすまないと謝り、その背中におぶさる。荷物は全て雄一郎が抱え

 

「行きましょう。久遠教授、久遠先輩。大丈夫ですね?」

 

雄一郎がそう尋ね、2人が頷いてから俺達はグラウンドに飛び出したのだった……幸い化け物に見つかる事無く、グラウンドを走り抜けることが出来たが高校棟は酷い有様だった

 

「これは……酷いな」

 

久遠教授が目を背ける。高校側の昇降口は血に濡れ、あちこちに人間だった物が転がっている。思わず胃酸が喉までこみ上げて来たが、それを必死に飲み込む。雄一郎も口元を押さえ必死に吐き気と戦っていた

 

「……」

 

「美雪先輩!?」

 

美雪先輩が白目を向いて倒れてくる。咄嗟に抱きとめるが完全に意識を失っているので、足を負傷している俺では支えきれず

 

「うっぐっ!」

 

美雪先輩に押し潰される形で廊下に倒れる。幸い血溜まりになっていない所だったのが幸いしたが、背中がめちゃくちゃ痛い

 

「雄一郎!先輩を頼む!!」

 

「おい!馬鹿!楓!1人で行くんじゃねぇ!!!」

 

必死に先輩の下から這い出し、雄一郎の制止の言葉を無視し、痛む右足を我慢し廊下を走る。ここまで来れば保健室はもう目の前だ。桃の無事だけを祈り、血溜まりに時折足を取られながら保健室を目指し走り続ける

 

(桃!桃ッ!!!)

 

無事で居てくれ、それだけを考えて保健室の扉を開く、そこには2体の異形の姿と血溜まりがあった

 

【ううう……?】

 

手足がやけに細く、腹だけが妙に肥大化した異形と、保健室の真ん中で胴体だけで転がっている死体……そして異形が手にしている人間の手を見た瞬間。女子なのか白く細いその手を見た瞬間。目の前が真紅に染まった……

 

「カ、カソオオオオオオオオッ!!!!!!」

 

【ソノイカリ、ワガカテとナルゾ!ケイヤクシャッ!!!】

 

炎の柱から現れたカソが雄たけびを上げると凄まじい炎が巻き起こり、異形を焼き尽くす。それと同時に凄まじい倦怠感が襲ってくるが、きっと走って来た影響だと思う。膝に手を当てて身体をくの字に折りながら必死に荒い呼吸を整える

 

「はぁ……はぁ……」

 

落ち着いてきたので顔を上げる。きっとあれだけの炎だったので保険室はもう使えない、そう思っていたのだが、俺の予想に反して保健室には火災の後1つ無く。血溜まりも炎で蒸発したのでいつもの保健室の姿が目の前にあった。だがそこにあるべき少女の姿がない、何時もニコニコと笑う幼馴染の姿がない

 

「桃……桃ッ!桃ーッ!!!居ないのか!桃ッ!!どこに居るんだ!桃ーッ!!!!!」

 

目の前が涙で歪む。どこかで隠れているなら出て来てくれ、どうか無事で居てくれそれだけを考え俺は桃の名を叫ぶのだった……

 

 

 

怖かった。突然あちこちの教室から悲鳴が響き、なんだろうと思い、保健室を出ると廊下では異形が逃げる生徒を追いかけ食い殺している姿があった

 

「ひっ!?」

 

光を宿さない下級生の首が足元に転がってくる。恐怖で失神しそうになった時。様子がおかしいと言って保健室の外を見に行っていた先輩と先生が保健室に逃げ込んでくるなり私を見て

 

「桃子ちゃん!貴女は隠れて!」

 

「早く!ここへッ!」

 

一緒に薬品の補充をしていた保健室の先生。「御神楽凛」先生と先輩の「藤島葵」さんに、訳も判らないうちに薬品を保管する部屋に押し込められる

 

「先生ッ!先輩ッ!?」

 

あの化け物が居るのだから先輩と先生も!と叫ぶが、先輩と先生は静かに、救助が居るまで隠れてなさいと言うと2人の気配が遠ざかっていく……出ようと思えば出ることは出来た。だが恐ろしくて棚の陰に隠れて頭を抱えて蹲る

 

(楓……楓……怖いよ、助けてよ……)

 

朝嫌いだって言ってしまった。あれが最後の会話になったかもしれない、どうして私はあんなことを言ってしまったのだろうか……

 

(好きで、大好きだから……離れたくなくて一緒に来たのに)

 

神無市に進学すると言う楓と離れたくなくて、必死に勉強してこの高校に進学したのに……何時も2人で居るのが当たり前で2人で話をしながら寮に帰って、偶に一緒にご飯を食べる。そんな毎日がずっと続くと思っていた。それが急にこんな事になるなんて思ってなかった

 

【【ギギィ】】

 

隣の部屋から聞こえて来た異形の声と何かを噛み砕く音。先輩と先生が喰われてしまった……こ、今度は私の番かもしれない。冷たい床に座り耳を押さえて震えながら楓に助けてと繰り返し呟いていると

 

「桃……桃ッ!桃ーッ!!!居ないのか!桃ッ!!どこに居るんだ!桃ーッ!!!!!」

 

隣から聞こえてきた楓の声。その声が聞こえた瞬間、私は立ち上がり保管室の扉を開ける。そこには足を引きずりながら私の名前を叫ぶ楓の姿があって……涙で視界が歪む、楓が無事で良かったと言う安堵の思いだけが胸に広がっていく

 

「楓ッ!楓ーッ!!!」

 

「桃ッ!!良かったッ!!良かった無事でッ!!!」

 

泣きながら楓に抱きつく、暖かい……楓は確かに今私の目の前に居る。その事に安堵し私は涙を流しながら楓の名を呼び続けるのだった……

 

「楓!この馬鹿野郎ッ!!!1人で突っ走るんじゃねぇッ!!!」

 

保健室の扉が荒々しき開き、雄一郎君が入ってくるのを見て抱き合っている姿を見られたッ!恥かしくて顔が赤くなるのが判るが楓も私の背中に手を回しているので離れる事が出来ない。それに今楓から離れるのは私も嫌だった、楓の胸に顔を埋め雄一郎君から顔を隠す

 

「桃子、生きてたのか……良かった」

 

抱き合っている姿には触れず私の無事を喜んでくれる雄一郎君の後ろから黒髪の女子生徒が入ってくる

 

「楓君!1人でなんて無茶を……あ、紅……桃子さんでしたよね?貴女も無事だったんですね。良かったです」

 

今度は久遠教授の娘である、久遠美雪さんが入って来て抱き合っている私と楓を見て表情を一瞬曇らせたが、良かったですと微笑みかけてくる

 

「保健室は……綺麗だな。暫くここで休んで、次の方向性を決めようか?」

 

久遠教授が入って来た所で楓も見られている事に気付いたのか、私の背中に回した手をゆっくりと離す。若干の名残惜しさを感じながら一歩下がって

 

【ケイヤクシャヨ。オボエテオケ、ワレラノチカラハオマエノカンジョウニサユウサレルト】

 

楓の後ろに居る燃える鼠の存在に始めて気付き

 

「っきゃああああ……ふうっ」

 

「桃!?桃ッ!?!?」

 

楓と再会し気が緩んでいた事もあり、突然目の当たりにした異形に完全に脳がオーバーヒートして私の意識は深い闇の中へと沈んで行くのだった……

 

 

 

気絶した桃をベッドに寝かせる。保健室が綺麗になったのは正直ありがたい、ベッドもあるし、薬品もある。近くにトイレもあるので暫くはここを拠点にすると良いかも知れない。それに幸いだったのは、カソの炎で血溜まりが全て蒸発したのでここに死体があったと誰も思わない事だと思う。ただ保健室の先生や桃の先輩の保険委員の人ではなく、恐らく逃げて来た女子生徒……だと思う。僅かに残っていた制服のスカーフの色は白。3年生は赤だし、2年は青だ。だから下級生だと判断した。その遺体を燃やしてしまったのは俺なので罪悪感を感じたが、桃や美雪先輩に見せる訳には行かなかったので、仕方なかったんだと心の中で繰り返し呟く

 

「楓君。貴方も少し休んでください」

 

「お前気付いてるか?自分の足」

 

強い口調の美雪先輩と呆れたような口調の雄一郎の言葉に足を見ると、ズボンが赤く染まっていた。走った事で傷口が開いたのかもしれない……

 

「楓君。桃子も気絶している、暫くの間は動く事が出来ない。今の内に治療をして、休んでおくんだ」

 

久遠教授にまで強い口調で言われ、とても大丈夫だと言える雰囲気ではない事に気付き。渋々判りましたと返事を返し、美雪先輩に手当てを受けて桃の隣のベッドに座り込む

 

「寝転んだ方が良いですよ?」

 

「寝転ぶと寝ちゃいそうですから、それにこれからの事も話し合わないといけない、眠っている場合じゃありませんよ」

 

まだ外は明るい、さっき窓の外から見たが、こんな状況だというのに暢気に寝ている時間は無い。明るいうちにやらないといけないことはまだ残っている、体力も気力もまだ残っている内にやらなければならないことは山ほどあるのだから

 

「それもそうだな。少なくとも今は楓君と雄一郎君、そして美雪が頼りの綱だからな」

 

カソ達の力を借りる事が出来る。つまり化け物に対抗出来るのは俺達だけだ、もし生存者を探すにしろ、食料を探すにしろ、俺達が率先して動かないといけないのだ。正直休んでいる時間は無い

 

「それでカソ、俺の感情がお前の力になるって言うのはどういう意味だ?」

 

今まではおざなりにしてきたが、ここら辺でカソ達が何なのか?それを知る必要がある。そう思いカソに尋ねるが

 

【ム、アマリカシコクナイ。コロポックルにタノメ。ワレハテキヲホフルソレダケ】

 

カソはそう言うと保健室の出入り口に陣取った。俺達を護ってくれるつもりらしいが、そうじゃなくて話を聞きたかったんだが……

 

「じゃあ、雄一郎。頼む」

 

「ああ、コロポックル?出てきてくれるか?」

 

おっかなびっくりと言う感じで雄一郎が呟くと、コロポックルが現れ俺達を見上げながら

 

【うん?なんじゃ?ワシになにか聞きたい事でもあるのか?】

 

見られているので何か用事があると判断したのか、そう尋ねて来るコロポックルにその通りだと呟き。気になっている事をコロポックルに尋ねることにするのだった

 

「ではまず私が聞こう。私が書いた魔法陣。あれからもしかするとこの敷地内の悪魔は現れたのか?」

 

もしそうだったらこの惨劇は俺達の責任と言う事になる。久遠教授の問いかけにコロポックルはNOと答えた

 

【あれは偶然ワシらを呼び寄せただけじゃ。本来はあんなものではワシらは呼ばれん、じゃがどこかで門が開いたんじゃろうな。それによってワシらは呼び寄せられた、開いた門を潜ることが出来ず、はみ出し者となったワシらがこの魔法陣を門として召喚された】

 

「門とは何だ?」

 

【んーこの世界とワシらの世界を繋ぐ扉とでも言おうかの?巨大な門がどこかで開き、それが無差別に呼び寄せているんじゃよ。ワシら悪魔をな】

 

コロポックルの言葉を手帳にメモしながら、今度は俺が気になった事を尋ねてみた

 

「悪魔なのか?お前達は?悪魔ってもっとこう禍々しいというか……なんと言うか」

 

もっとこう禍々しい物を想像していたのだが……確かに恐ろしいと思ったが、なんと言うか……

 

【普通じゃろ?ワシらは一種のデータの塊じゃ、それがこの世界に出た事でこういう形を取っておる。今見ているものが真実とは限らぬ、こんな姿をしているが、実際はもっと巨大な姿をしているかもしれんぞ?】

 

くっくっと笑うコロポックルは更に説明を進めてくれた。彼らが存在はしているが、存在しない存在だと、人間がこうあれと思ったことで存在している存在だと。故に人間が居なければ彼らは存在出来ないのだと

 

【契約者を得ることで完全に具現化するんじゃが、弱い契約者に付き従えばワシらも死ぬ。ワシらのルールは単純じゃ、強い者が正しい、だからワシらに勝った御主達に従う。そして契約者の魂の高ぶりでワシらは強くなる、共存共栄の関係じゃな】

 

共存共栄か……確かにカソ達は最初こそ俺達を襲ってきたが、あの狼男と戦う時は俺達を助けてくれた、そして今も俺達を護ってくれている。強い者が正しい、それは余りに単純にして原始的だが、力を示すことで助けになってくれるのは正直ありがたいと思う。あれを寄越せ、これが欲しいなんて言われるよりも簡単な話だからだ

 

【外に居る奴らはどうかは知らんが、ワシらは味方じゃよ】

 

にっこりと笑うその姿に俺は初めてカソ達に対する警戒心を緩める事が出来るのだった……

 

「ではコロポックルの話を聞いた上で今後の計画を決めよう」

 

話し終えたコロポックルは年じゃから休むと言って、現れた時と同じように消えていった。判った事は3つ

 

1つ目は コロポックル達は門と言うものが開いているからこの世界に現れた。そしてその門が開いている限り、コロポックルのような存在は無限に呼ばれ続ける

 

2つ目は 守護霊様で呼び出された時点で仮契約が結ばれるが、契約は一蓮托生の物。弱い主に従うつもりはないと言う事で襲って来た。だが強さを示したので従う事にした。

 

3つ目 契約が結ばれた段階で俺達とカソ達は共存共栄の関係にある。俺達の感情がカソ達を強くする、そしてカソ達はより強くなる為に俺達を護ってくれるとの事だ

 

「まず最優先は食料の確保だ。皆も知っての通り学食が狙い目だが……異形が住み着いている可能性がある」

 

契約者を持たぬ悪魔は食事によって自分の身体を維持する。無論その食事とは普通の食事では無く、人間を喰らう必要があると言っていた。つまり学食に陣取り食料を求めてきた人間を自分達に餌にしようと思っている存在が居ると見て間違いないだろう

 

「だからまずは食事は後回しにして、武器を集めたいと思う。それに伴い候補になるのは2つ」

 

学校の見取り図を黒板に張った。場所は同じ1階で保健室から移動できる範囲だが、分かれて行動するのは無謀なのでどちらかを選ぶ必要がある

 

「1つは剣道場だ。剣道の防具と竹刀がおかれている筈だ。そしてもう1つは野球部の部室。目的の物は金属バットとヘルメット、レガース等になる。さてここで聞こう。楓君、君ならどっちを選ぶ?」

 

野球部の部室か剣道場……どっちを選ぶか?と尋ねられた俺は少し考えてから自分の考えと共に目的地を口にした。

 

「野球部の部室を目指すべきかと思います。理由としては竹刀はあくまで木です。そこまで打撃に効果があると思えません、ですが金属バットは雄一郎が現に武器としてあの狼男を何度も殴っていますが、まだ変形していません。武器としての価値はやはり金属バットかと、それにもしかすると野球部の部員が生き残っている可能性もありますし」

 

竹刀ではやはり心許ない、金属製の金属バットのほうがよほど信頼できると思う。それに野球部員が生き残っているのなら、味方として迎え入れたいし、雄一郎も気にしている筈だから部室を見ておきたいと言うのもある、久遠教授もその通りだと頷き

 

「ではその方向性で動く、武器を確保したら、1度高校の購買と大学の購買を確認し食料のあるなしを確認してから、大学の私の第二研究準備室へ向かう」

 

第二研究準備室?そこは確か準備室と言う名目だが、特に何も置いてないと聞いていた空き教室の筈だが……俺が首を傾げていると久遠教授は笑いながら説明を始めてくれた

 

「あそこは私が海外のフィールドワークに行く時の道具が置いてある。この状況できっと役立つ筈だ」

 

自信満々と言う表情をしながら、間違いなく役に立つ。そこまで言われてしまうと、行きたくないと反論するわけには行かない。それに大学棟は高校棟と比べると綺麗だったし……美雪先輩や桃にもそんなに負担にならないかもしれない。それに綺麗だったことを考えると生存者が居る可能性もあるので調べておく価値は十分にある

 

「納得してくれたようで何より、では桃子が起きたら出発とする、それまでは皆身体を休めるように!」

 

久遠教授の言葉に頷き、今の内に水分補給や、準備室から持ち運んでいた乾パンなどで空腹を満たし、桃が起きるのを待つのだった……

 

チャプター3 死の先に へ続く

 

 




保健室が当面の間の拠点となります。ゲームで言えばHP/MP回復スポットとなりますね。生存者を探す、高校から脱出するにしろ身を守る武器は必要となります。なので次回は武器の確保をメインに書いて行こうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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