新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター27

 

チャプター27 脱出そして黒龍塾へ

 

このデパートを住処にしていた悪魔を倒して、1度4階のバックヤードに戻って楓が目を覚ますのを待ってから脱出しようと言う話になったんだけど……楓が目覚めるのを待つ余裕が無いのでは?と私は感じた

 

「久遠教授……これ不味いんじゃないですか?」

 

今の時刻は14時。コカトリスを倒したのが11時になるか、ならないかと言う時間だった筈。3時間近く経って居るのだが、眠っている楓が目を覚ます気配はなく、更に言えば急に熱が出たと思ったら、氷みたいに身体が冷えるを繰り返している。今は熱が出ているので氷水で冷やしたハンカチで冷やしているが直ぐに蒸発してしまうのだ、この場所で安静にしていても楓に負担を掛けるだと思う

 

「MAGの枯渇が原因かもしれない……しかし今移動させて大丈夫なのかが判らないんだ」

 

久遠教授が珍しく動揺している。それだけ不味い状況なのだと判り顔が青褪めて行くのが判る、このままでは楓が死んでしまうかもしれないのに何も出来ないのかと、何とかしたいと思い慌ててナジャを呼び出す

 

「ナジャ、ディアとかじゃ駄目なの?」

 

ナジャに回復魔法で治療できないと?と尋ねる。だけどナジャは首を横に振る

 

【回復魔法じゃMAGは回復出来ないよモモコ。意識があればチャクラドロップを舐めさせれば回復するけど……】

 

今の意識が無く完全に脱力している楓には飴はおろか、水さえも危険だろう

 

「危険ですが、移動するしかないと思います。この場所は不潔ですし、肌寒いです。こんな場所で休ませても悪化するだけだと思います」

 

「ですが、この状況の楓君を動かすのは危険だと思いますよ?イザベラさん」

 

イザベラさんが移動するべきだといい、久遠先輩が意識の無い楓を移動させるのを危険だと言う。私もそう思うけど、このままだと悪化する一方だと思う

 

「久遠教授。黒龍塾へ行きましょう、避難している人間がいると克巳は言っていた。なら医療施設やもしかしたら医者もいるかもしれない」

 

雄一郎君が意を決したように言う。久遠教授は目を閉じて考え込む素振りを見せてから

 

「多数決を取ろう。私は移動するべきではないと思う、リスクが高すぎるな」

 

久遠教授は移動するべきではないと断言した後で私達を見て、皆の意見を聞かせてくれ。私の意見に従うのではなく、自分の意見を教えてくれと言ってから久遠教授は楓のスマホを手にして

 

「楓君のスマホからヤタガラスに連絡して保護して貰うという選択肢もある訳だしな」

 

楓の従兄妹だと言う魅啝がいる組織。確かにあそこなら医療施設もあるだろうし、暖かい寝床も用意して貰えるかもしれない。だけどその代わり楓と引き離させれる可能性も高い

 

「私は黒龍塾とやらに行くべきだと思いますわ。ヤタガラスは見ましたが、民間人を蔑ろにしていましたから」

 

そしてイザベラさんは黒龍塾へと行くべきだと言う。民間人を蔑ろにしていた……それは私も見ていて思っていた事だから嘘ではないと思った

 

「……私は移動するべきではないと思います。今楓君を移動させて症状が悪化したらそれこそ死んでしまうかもしれないですから」

 

「……ですが、久遠先輩。このままでも楓は死ぬかもしれない。それなら俺は移動するべきだと思います」

 

これで意見は2ー2……私は……意識の無い楓を見て、私はゆっくりと口を開いた

 

「……ごめんなさい。久遠教授、久遠先輩」

 

デパートを脱出し、黒龍塾へ向かう道を走りながら私は謝罪の言葉を口にした。移動する危険性も、移動しない危険性も両方を考えた。どっちも危険ならば助ける事が出来る方を私は選んだ。黒龍塾へ向かうというその選択をだ

 

「いや、謝る事は無い。慎重に動きすぎて、好機を失う可能性もある」

 

それこそ楓君が死んでから後悔したのでは遅いという久遠教授にありがとうございますと呟き、毛布で包んでいる楓をしっかりと抱きしめる。かなりのスピードで車は砂利道を走っている、凄まじい振動があるのに楓は目を覚ます気配は無い

 

「やっぱり移動したほうが正解だったかもしれないですね」

 

「当たり前ですわ。ヤタガラス全員がそうとは言いませんが、私は見ましたわ。助けてくれと叫ぶ人間に金をよこせといった浅ましい姿をね、信用するべきではないですわ」

 

全員がそうではないとは思うますが、それでもそういう人間がいる組織を頼りにするのは危険だと言うイザベラさん。

 

「ウロボロスも信用出来る訳ではないと思いますが、雄一郎の友がいるのなら、1度接触して其処から判断すれば良いですわ」

 

ヤタガラスとウロボロス。その両方が信用出来る訳ではない、ならばその両方を利用するくらいの気持ちで行くべきですわと呟く

 

「利用ですか?」

 

「そう利用ですわ、私達には食料や水、それに悪魔もいますが、情報が無い。これから先生き残るには何よりも情報です、どこに生き残りがいるのか?どこにどんな悪魔がいるのか?それを恐らく情報として持っているはず。それを知った上で与するのか、それとも距離を置くのか?それを判断するのです」

 

今この状況で生き残ることを考えれば、綺麗事だけでは生きていけないですよ?と言われ、私は思わずデパートのことを思い出した。悪魔に犯されていた女性はまだ何人もいた、助けるという事も出来たかもしれない。だけど私達は見知らぬ女性よりも、楓を助けるという選択を選び見捨てたのだ

 

「……桃子は。悪くない、俺も同じ選択をする」

 

知らない人間と友人。迷うまでも無い、俺は楓を助ける道を選んだ。罪悪感を感じる必要は無いと言った雄一郎君

 

「生き残るためには必要な事だから、仕方ない。仕方なかったんだ」

 

自分に言い聞かせるように言う雄一郎君に私はそうだねと呟き、氷のように冷たい楓の身体が少しでも温まるようにと強く、その細い身体を抱きしめるのだった……

 

 

 

 

 

勇作と一緒に黒龍塾周辺の瓦礫の撤去や逃げ遅れた民間人がいないか?と言う確認をしているとトランシーバーで

 

【拓郎さん、今悪魔を連れた車が通り過ぎました。後30分くらいでそっちに到着すると思います、どうしますか?蒼太さんか、克巳さんに連絡しますか?】

 

周囲の警戒をしていたウロボロスのメンバーから通信が入る。俺は少し考えてから

 

「克巳に連絡するのは待て、俺と勇作で当たる。もう少し情報を得れたら連絡をくれ」

 

【判りました。少し待ってください】

 

トランシーバーを戻し、瓦礫に腰掛けていた勇作の方を見ると仕方ないと肩を竦める

 

「克巳と蒼太だと話を聞く前に殺すかもしれないからな」

 

「そういう言い方は止めろ。いらぬ誤解を生む」

 

確かに克巳と蒼太は最も人を殺しているが、ちゃんと理由があっての殺人だ。もちろん俺は殺人を認めている訳ではないが、決して殺人凶ではないのだから

 

「冗談だよ、冗談。とりあえず見に行こう」

 

「ああ」

 

復興作業を中断し、道路のほうに移動する。車で移動しているのなら間違いなくこっちに来るはずだ

 

【拓郎さん、悪魔は見たことの無い黒い鎧姿の女の悪魔とリリムとピクシーです】

 

リリムとピクシーは対峙した事はあるが、その特徴の女の悪魔は見たことが無いな

 

「勇作。アガートラームを頼む」

 

「あいよ」

 

勇作の背後に巨大な鎧姿の悪魔が姿を見せ道路の真ん中を塞ぐ。これで強行突破はされないはずだ、俺も腕に見に着けたCOMPを起動し

 

「頼む。ジャックランタン」

 

【ひーほー♪オイラにお任せホー♪】

 

これで襲撃を受けても大丈夫だと身構えていると遠くに車の姿が見える。向こうも俺達に気付いたのか、車を停める、その行動に敵対するつもりが無いと判り、攻撃しようとしたジャックランタンを手で制す。俺達が悪魔を帰還させるのを見てから、運転席と助手席から女性と俺達と同年代の少年が姿を見せる

 

「お前は……笹野か?」

 

「俺を知っているのか?」

 

助手席の少年には見覚えがあった。確か克己の試合を見に行った時に克巳を三振させた神無市大学付属高校の投手だった筈だ

 

「知り合いか?拓郎?」

 

「いや、俺の知り合いではないが、克巳は知っているかもしれない。お前達は克巳を知っているのか?」

 

もしかすると克巳の知り合いで保護を求めてきたのかもしれないと思いそう尋ねると、車を運転していた女性が頷きながら自己紹介をしてくれた

 

「私は久遠玲奈。神無市大学付属大学の客賓教授をしている、克巳と言う少年から黒龍塾に民間人が集まっていると聞いて、この場に来た。不躾な願いだが、私の教え子の1人が体調を崩している。保護を頼めないだろうか?」

 

その言葉を聞いて、確認を取ると呟きスマホで克巳に連絡を取る

 

『もしもし?どうした拓郎?』

 

「すまない、今黒龍塾へ続く道路に久遠教授と笹野と言う人物が尋ねて来ている。お前から聞いたと聞いているが、どうする?病人がいるので助けてくれと言っているんだが」

 

早い段階で黒龍塾周辺の悪魔の駆逐は終わり、そして略奪行為をしている連中も全員捕らえたから食糧などの備蓄もあるし、医者も何人かは居る。だが俺の独断で決めるわけには行かないのでどうする?と尋ねると

 

『オッケー!私が許可するよ、拓郎』

 

聞こえてきたのは克巳の声ではなく、明るい女性の声。俺は思わず眉をしかめながら

 

「良いんですか?ナイアさん?」

 

ナイア。ウロボロスの副リーダーの女性だ、明るくムードメーカーで扇情的な衣装に身を包み軽い性格だが、思慮深いと相反する要素を持つ褐色の女性だ。確かに克巳よりも権限があるのは彼女かリーダーしか居ない、だが今そう簡単に保護をしていいのか?と尋ねる

 

『いいよ~久遠教授って言えば伝説とかの権威でしょ?情報交換出来るじゃない?私は情報を貰う、向こうは治療をする。Win-Winの関係ってやつよ、私が玄関で待ってるから、こっちに寄越してくれる?あっ!こらー克巳!……そういう訳だ。保護はウロボロスの中で決定した』

 

疲れたように言う克己にお疲れ様と呟き、電話を切る。ナイアさんは悪い人じゃないんだけど、あのノリには正直ついていけないな……終わるのを待っていた笹野と久遠教授に

 

「ウロボロスの副リーダーがOKだと言っています。このまま道なりにまっすぐなので迷う事も無いでしょう」

 

よほど教え子の調子が悪いのか、ありがとうと言って車に乗り込み走っていく。一瞬見えた車中には青い顔をした男子が毛布に包まれていた。その死人のような顔色に心配になるが、何時までも心配している時間はない。俺と勇作は再び逃げ遅れた民間人の捜索と瓦礫の撤去作業を再開するのだった……

 

 

 

 

 

拓郎からの連絡で黒龍塾の門の所で車を待っていると、15分ほどで車が到着する。車を護るように空を飛んでいる悪魔を見て、もしかするとウロボロスの悪魔使いよりも強いかもと思い、警戒心を強めながらも笑みを浮かべる。これくらいの腹芸が出来て当然だ、そうで無ければウロボロスなんて組織の副リーダーなんて出来ないのだから

 

「今回は保護を受け入れてくれて感謝する」

 

「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ~」

 

お互いに笑いながらも観察視線を緩めない。姿は人間でも、中身は違うという存在はこれでもかっと存在するのだから……あれだけ強力な悪魔を使役しているのを見るとどうしても警戒心が表に出てしまう

 

「すまないが、私の教え子が相当危険な状況なんだ。早い所見てくれないか?」

 

「そうでしたね~ごめんなさい。それで病状は?骨折とか、何かの感染病かしら?」

 

車の中を覗き込もうとすると久遠に背中で隠される。ま、流石に直ぐは信用はされないわよね

 

「MAGの枯渇が原因なんだ、体温が安定せず、意識も戻らない」

 

MAGの枯渇かぁ……なんともタイミングの良い時の来訪ねと笑う

 

「今丁度、ここら辺の霊脈の操作をした所なのよ」

 

ここを拠点にして、捜索や防衛の幅を広げるつもりだったので霊脈を操作したのよと笑うと久遠は怪訝そうな顔をする

 

「霊脈の操作?……お前がか?」

 

「そうよ~私はほら、ヤタガラスの独善的なのが嫌で逃げてきた科学者だからそれくらい出来るわよ~」

 

克巳達が持っているCOMPを作ったのも私なのよ?と笑いながら

 

「まずは治療でしょ?話は後でも出来るわ、運んでもいいかしら?」

 

私の後ろで担架を持っている隊員を見せながら運んでもいいかしら?と尋ねると久遠はすまないと頭を下げながら

 

「よろしく頼む」

 

「任せておいて~」

 

車から降りてきた2人の女子と1人の男子を見ながら、車の中を覗き込むと、小柄な少女が毛布に包まれた男子を抱き抱えていた

 

「大丈夫よ。私が助けてあげる、彼を連れて行ってもいいかしら?」

 

「……お、お願いします。楓を助けてください」

 

泣きそうな顔で言う少女に任せておいてと笑い。担架で楓君を保健室に運ぶ様に指示を出す

 

「貴女達も疲れているでしょう?彼の治療が終わるまでは休んでいると良いわ。信二、彼らを食堂に案内して。私の客人だから丁寧にね?」

 

「判りましたナイアさん。どうぞ、こちらです」

 

車をどうするかと尋ねてくる久遠にグランドに適当に停めてくれたら良いわと言って、私は保健室へと足を向けるのだった……

 

「ふーん、凄い逸材ね」

 

意識が無いと聞いていたが、これはMAGの枯渇が原因ではない。MAGの内包量を身体が増やそうとしている事による、意識の喪失だ

 

「ふっふふ……面白い事になってきたかもしれないわね~」

 

保健室は霊脈を操作して、MAGの濃度を上げてある。このまま寝かせておくだけで回復するだろうが、せっかく私の領域に来てくれたのだ……

 

「ちょーっとだけ、サービスしてあげちゃおうかなあ?」

 

このまま治療するだけなんて勿体無い。これだけの逸材をそのままにしておくなんて勿体無いことは出来ない。あの久遠と言うのが只者ではないと言うのは一目で判った。だから克巳達にしたような事は出来ないけれど……少しだけ、これからも生き残れるように手助けしてあげる。私はそう笑いながら注射器を手にするのだった……

 

 

 

 

 

「う、う……ここは?」

 

鈍い頭痛に顔を歪めながら身体を起こし、周囲を確認する。白いシーツに白い布団……それとこの医薬品の臭いは

 

「病院?」

 

「残念、黒龍塾の保健室よ」

 

自分の呟きに返事があった事に驚いていると、カーテンが開き。そこからやたら肌を露出している褐色の女性が姿を見せる

 

「えっと……貴女は?」

 

その露出の激しい服に紅くなりながら、誰ですか?と尋ねるとその女性は穏やかに笑いながら

 

「ウロボロスの副リーダーのナイアです。保護を求めてきた久遠達から話を聞いて、貴方の治療をしていたの。気分はどう?」

 

ナイアと言う名前と褐色の肌から外人かと思ったが、流暢な日本語でもう1度気分はどう?と尋ねられた。俺は少し痛む頭に顔を歪めながら頭が痛くて、ぼーっとしているがそれ以外の身体の不調は無い。むしろ調子が良くなっている様な?と呟くとナイアさんはよかったと笑いながら

 

「点滴が利いてるのね。まだ動いたら駄目よ?」

 

点滴?そう言われて初めて気付く、左腕に点滴用のチューブが挿されている事に

 

「とりあえず、点滴が終わるまでは横になっていると良いわ」

 

「皆は?」

 

寝ていると良いと言われたが桃や雄一郎。それに久遠教授に美雪先輩の事が心配になり皆は?と尋ねる。ナイアさんは心配ないわと笑いながら教えてくれた

 

「今食堂で食事と休憩を取っているわ。後で案内してあげるから心配ないわ」

 

「ありがとうございます」

 

皆も無事だと判ると一気に睡魔が襲ってくる。まだ身体が睡眠を欲しているのだと判りゆっくりと目を閉じようとして、ふと気になった

 

「あの1つだけ質問いいですか?」

 

1つだけよ?貴方はまだ休まないといけないのだからと笑うナイアさんにすいませんと謝る。だがどうしても気になったのだ、ナイアさんは副リーダーと言っていたから……今の黒龍塾。そしてウロボロスを統括している人間がどうしても気になってしまったのだ

 

「そのウロボロスのリーダーさんって?」

 

もっと別の事を尋ねられると思ったわと苦笑したナイアさんはちゃんと休むのよ?ともう1度口にしてから教えてくれた

 

「私達のリーダーは私と同じく、ヤタガラスから逃亡してきた悪魔使い「周防達哉」って言うのよ」

 

さ、貴方の知りたいことには答えてあげたわ。もう休みなさいと言うナイアさんに判りましたと返事を返し、目を閉じた。それから俺の意識は泥に飲まれるように深い闇の中へと沈んでいくのだった……

 

 

チャプター28 周防達哉と言う男

 

 




今回は短めの話となりました。周防達哉と言う名前にうん?っと思う人もいると思いますが、彼については次回の話で書いて行こうと思うので今は何者なんだ?と思っていただければ幸いです。次回のリポート終了後からルート分岐が入っていきますので、ご理解のほどよろしくお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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