新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター25

チャプター25 デパート捜索 その4

 

目の前の砂煙が晴れた時、コボルト達の姿は無く、代わりに俺達の目の前に広がっていたのは凄まじい爆発の跡だった

 

「な、なにこれ……何が起きたの?」

 

呆然とした様子で呟く桃。だがそれは恐らく今ここで伏せている全員が思っていることだろう

 

「……リリムが言っていたのだが、魔法同士の組み合わせで威力を爆発的に跳ね上げると……まさかここまでの威力があるとは……」

 

久遠教授も信じられないと言う様子で呟く。あのままでは全滅していたと思うが、ここまでデパートを破壊する事になるなんて……

 

(悪魔の力を俺達はまだ甘く見ていたのかもしれないな……)

 

俺は目の前の光景を見て、超常の存在である悪魔の脅威と言うのを改めて実感するのだった

 

「げほ……こほ……これは酷い」

 

進む前にと俺と雄一郎でフロアへとい戻ったのだが、視界が悪すぎる……雄一郎が隣で咳き込みながら両手を振る。あの爆発で発生した煙はまだこのフロアを埋め尽くしていて視界が悪い。悪魔の奇襲があるかもしれないと言う恐怖が頭を過ぎり、どうしても歩みが遅くなる。こんな状態では体力も気力も消耗する事になるだろう、現に今の魔法の合体攻撃で美雪先輩の顔色がかなり悪いのも気になる。MAGを相当消費しているのかもしれない……雄一郎も合体魔法に参加していたが疲労は軽そうだ。この差は何なんだろうな……

 

「スパルトイ、悪魔の気配はするか?」

 

【いや、シナイ。いまのデだいたいのアクマハにげるかしょうめつしたな】

 

スパルトイの言葉にそうかと返事を返しながら振り返り

 

「久遠教授。このフロアに悪魔の気配はしないそうですが、どうしますか?」

 

「……一時悪魔を帰還させ、煙が晴れるまで階段に引き返そう。この煙の中移動するのは危険すぎる」

 

少し悩む素振りを見せた久遠教授だが、休憩にしようと言うその言葉に安堵の溜息を吐き

 

「スパルトイ、また後で頼む」

 

【うむ、デハナ】

 

緑の粒子になってスマホの中に消えていくスパルトイを見送り、俺と雄一郎も一時階段まで避難するのだった……

 

「大丈夫ですか?久遠先輩」

 

「ええ。少し楽になりましたが、合体魔法は……悪魔を召喚するのとは段違いの疲労です」

 

階段に座り込み、深呼吸を繰り返している美雪先輩の手当てをしている桃を見ながら階段の手摺に背中を預けているイザベラさんに

 

「イザベラさんは大丈夫なんですか?」

 

「……少し辛いですね。私も休ませて頂いても大丈夫ですか?」

 

イザベラさんの言葉に大丈夫ですと返事を返すと、イザベラさんも階段に座り込む。平気そうな顔をしているが、額に汗が浮かんで居る様子を見ると疲労の具合は美雪先輩と同じくらいだろう

 

「久遠教授も少し休んだほうが良いですよ?俺と楓で何とかしますから」

 

「……すまないな。少し私も休ませて貰う」

 

雄一郎の言葉にすまないなと微笑んだ久遠教授も階段に座り込み、壁に背中を預けて目を伏せる。悪魔を撃退できたが、その代償はあまりに大きい物となってしまうのだった……

 

(今日中に何とか4階のバックヤードに到着出来れば良いけど……)

 

最悪の場合6階の控え室に引き返す事も考えないといけないなと思いながら、フロアの出入り口の近くに陣取り、悪魔の襲撃の警戒を始めるのだった……

 

 

 

階段に座り込みながらスマホの画面を覗き込んでみるのですが、MAGはそれほど減少しているわけではないと言うのに体に重く圧し掛かる疲労感。足手纏いになる訳には行かないと判ってはいるのですがどうしても立ち上がることが出来ない

 

「大丈夫ですか?久遠先輩。チャクラドロップ舐めますか?」

 

「……いえ、結構です。MAGはそれほど減っている訳ではないんです」

 

スマホの画面を見せると桃子さんは本当ですねと驚いた表情をする。私もこれだけ消耗しているのだから、MAGを相当消耗したと思っていたのでこれは正直予想外です

 

「恐らくだが瞬間的に膨大なMAGを消費し、倒した悪魔のMAGを吸収してMAGが回復したんだろう。その急激なMAGの回復に身体がついていかない事による体調不良だと思う」

 

悪魔を倒す事でMAGは少量ながら回復していました。MAGで構成された悪魔を倒すのだからMAGが回復するのは当然の事なのですが、その回復量が今回は桁違いであった為に引き起こされた体調不良……もしかしてと思いスマホの画面を切り替えると

 

「母さん。私の悪魔の契約数が2になっています」

 

「あら、私もですわ」

 

イザベラさんも悪魔の契約数が増えていますと言うと母さんはペットボトルに封をしながら

 

「悪魔を倒し、MAGを集める事で契約数が増えるのか……私は……まだ2だな。他にも何か条件があるのかもしれないが、悪魔を倒せば契約数が増えるっと言うのは可能性としてありえるな」

 

契約数が増えれば戦略が変わる。雄一郎君が契約したノームのように死ぬ事を恐れ、命乞いからの契約を望む悪魔も居る。悪魔と言う存在と戦うには悪魔の力は必要不可欠で、そしてこれから皆で生き残っていく事を考えれば契約数が増える事は喜ばしい事なのですが……私には1つの不安があった

 

(悪魔を倒して、MAGを得て、契約数が増え、悪魔の術を覚える……では私達は?)

 

自分達も知らない内に私達自身も悪魔と成り果てているのではないのだろうか?契約とは対価が居るもの、その対価が何なのか……私達は本当に人間なのか、そんなどうしようもない不安を感じて思わず頭を振って、その思考を振り払う

 

「大丈夫ですか?美雪先輩、気分が悪いのなら少し寝てもらっても大丈夫ですよ?」

 

「いえ、大丈夫です。時間がそれほどある訳ではないのですから」

 

心配そうに尋ねて来る楓君に大丈夫ですときっぱりと口にする。口にした通り時間はさほどある訳ではない、食料も水も限りある量しかないのだ。どこかで補充するにしてもいつまでも休んでいる時間は無い

 

「美雪の言う通りだな。いつまでも休んでいる訳には行かない、少なくとも次の休憩場所のバックヤードを目指さないとな」

 

母さんも同じ意見で頭を振りながら立ち上がる。時間が経てば経つほど状況は悪くなる、30分は休憩したのだから多少しんどくても進まなければならない

 

「でも久遠教授。4階はコカトリスの巣だってノームが言っていたじゃないですか、ここはもう少し休むべきでは?」

 

「確かにそうだが、ノームはこうも言っていた。コカトリスが餌を探して移動する時間があると、4階から屋上に移動する時間は昼少し過ぎ……今は9時30分。時間的な余裕はあるが、足取りの重さ、暗い道に悪魔……不確定要素は嫌っと言うほどある。繰り返すが、時間が経てば経つほど状況は悪くなる。あの爆発で悪魔が散っている間に進もう」

 

それに今の爆発で通れた道が通れなくなっている可能性もあるんだ。常に最悪の可能性を想定して進もうという母さんの言葉に頷き階段から立ち上がると立ち眩みがしてバランスを崩す

 

「美雪先輩、荷物持ちましょうか?」

 

私の事を心配して荷物を持ちましょうか?と尋ねて来る楓君と雄一郎君。その気持ちは嬉しかったですが

 

「楓君と雄一郎君は私達を護るために先頭を歩いてくれるでしょう?私は大丈夫です。心配しないでください」

 

これ以上2人に負担を掛ける訳にはいかない、ピクシーを呼び出して警戒を頼んでから荷物を手にし

 

「行きましょう、時間は無いのですから」

 

きっぱりとこれ以上休憩するつもりは無いと口にし、私達は再び5階の捜索を再開するのだった……

 

 

 

 

 

美雪が精神的に強くなって来たか。私とイザベラは疲れた振りだが、美雪は間違いなくかなりの疲労があった筈なのに前に進もうと言った。楓君達の中では1番の年長者として責任感が出てきたのかもしれない

 

(このまま成長してくれれば良いかもしれないな)

 

いつまでも私に甘えられて居ては困る。自分達で行動出来るようにリーダーの役割を美雪が担うようになれば良いんだがなと思いながら5階を進む。合体魔法の威力は凄まじくあちこちにマッカや魔石が落ちているのをみて楓君が

 

「どうしますか?拾いますか?」

 

「いや、止めておこう。荷物が増えると体力の消耗が大きくなる、進行方向にある物だけを拾ってそれ以外は拾わないで行こう。それに拾うといっても魔石や魔法石だぞ?マッカよりも今は生き残る事を最優先だからな」

 

死んでしまえばマッカなど何の役にも立たない、生存率を高める魔石やチャクラドロップを拾うようにと指示を出しながら、5階を見渡す。6階ほどバリケードは多くなく、普通に進む事が出来るが、合体魔法の影響であちこちに影響が出ているな

 

「楓君。スパルトイを戻してカソに切り替えてくれ」

 

悪魔の気配はしないので戦闘向きのスパルトイではなく、カソに切り替えるように頼み。紳士服売り場の服を何着か持ってくるように美雪と桃子に頼んで

 

「雄一郎君。鉈でこれを切れるか?」

 

「切り口が歪になると思いますけど、大丈夫そうです」

 

服のセールや、店の旗を掲げているプラスチックの棒を斬る様に頼む。美雪達が持ってきた服を雄一郎君が切ってくれた棒に巻きつける。持ち手がいびつなので持ち手にも布をシッカリと巻き付けているとイザベラが

 

「松明ですか?火事のリスクはありますけど……?」

 

「それでもだ。こうまで暗いとな……今の魔法の影響もある。カソの火やヘッドライトだけだと帰りが不安になる、それ以外の明かりを確保する事も……必要だ。良し、これで良い、楓君。そこの服にカソの火をつけてくれ」

 

楓君に松明を手渡し、カソの火をつける。それを数回繰り返して、私、楓君、雄一郎君が松明を手にし、桃子達がスペアを2本ずつ持った所で移動を再開する

 

「足元と頭上に気をつけるんだ、どこで崩落や陥没するか判らないからな」

 

判りましたと返事を返す楓君達を見ながら、5階を進んでいると桃子が待ってくださいと呟いた

 

「どうした桃?疲れたのか?」

 

「ううん、違うよ。ねえ、皆あれ……暗くてよく見えないけど……何かの足跡じゃないかな?」

 

桃子の指差す先を見ると暗がりの中にも巨大な足跡が見える。イザベラに松明を手渡し近寄る

 

「これは……悪魔の足跡ではないな」

 

「え?いやいや、久遠教授。どう見ても悪魔の足跡じゃないですか!」

 

雄一郎君が悪魔でしょう?と言うが、同じ様に観察していた楓君が違うと呟く

 

「これ……スニーカーの破片じゃないか?」

 

巨大な足跡の近くに落ちていたボロキレを持ち上げる楓君。それはスニーカーのソールで、急にはいていた人物の足が大きくなり内側から裂けたような破壊の後があった

 

「……母さん。もしかしてこのデパートの強力な悪魔って……」

 

青い顔をしている美雪に多分その通りだと呟きながら立ち上がり

 

「恐らく睦月君のように守護霊様に失敗して悪魔に寄生された人間か、もしくはその悪魔自身だろうな」

 

純粋な悪魔なら罪悪感も少ないのだが、人間が変異したかもしれないと言う私の言葉に顔を歪める楓君達

 

「悪魔召喚はリスクを伴って然り、私達が同類になるわけではないですわ。罪悪感や、不安を持つのは当然。ですが、それで動きを鈍らせれば死ぬのは私達ですわよ?」

 

イザベラが手を叩きながらそう言う。元々悪魔を召喚するなんてリスクがあって当然だ、そしてその制御に失敗し、悪魔の反撃を受けるのも当然の事。

 

「楓君達はカソ達と友好な関係を築く事が出来ている。容易に悪魔を召喚したり、契約しなければそうはならないさ」

 

悪魔召喚と契約の危険性だけを改めて実感してくれれば良い。悪魔の危険性を常に頭の中に入れておく様にと注意し

 

「先に進もう。この階はいいが、4階は危険だ。あんまり気を緩めすぎるなよ」

 

4階はコカトリスの巣と言うのをノームから聞いている。正直今の面子ではどう考えてもコカトリスには勝てない、だから遭遇する訳にはいかないのだからなと呟き。私達は4階へ続く階段へと足を向ける

 

「……これか。久遠教授、これはまだ使えると思いますか?」

 

「そうだな。少し判断に悩むところだな」

 

4階へ続く階段の近くの非常階段の前に捨てられていた斧。かなり大振りな所と柄の所に神無市消防団と書かれているのを見ると消防士の装備だったのだろう

 

「楓が斧を使うの?」

 

「いや、違う。雄一郎が契約したノームに斧の心得って言うスキルがあってな。雄一郎の獲物に丁度良いかと思うんだが」

 

俺もスパルトイの剣の心得で剣の扱いが上手くなったと思うからなと呟く楓君だが、捨てられていた斧となると既に利用価値がない可能性も高い

 

「刃こぼれしていたら武器としての価値はありませんもんね」

 

斧を観察してみるが、刃こぼれはそれほどしている訳ではないか……持って見ようとするが、それなりの重量がある割りに、刃はそれほど大きくはない

 

「武器として使うにはコツを掴む必要があると思うが、使えなくは無いと思うぞ」

 

刃の部分が20センチ弱に対して、柄は1メートル近い。上手く使わないと柄の部分で殴る事になり、壊れやすくなるし、刃を当てなければダメージにはなりにくいぞ?と注意しながら斧の前から退く

 

「多分大丈夫だと思います、それに鉈も持って移動しますから、どっちでも使えるように準備するつもりですから」

 

雄一郎君が斧を両手で握り締める、重さなどを確かめているのだろう。流石に振り回す事は出来ないが、その表情を見る限りでは使うことに関しては不安は無さそうだ

 

「どうだ?使えそうか?」

 

「ああ。手にしっくり来る。これが斧の心得の効果なのかもしれないな」

 

心得は武器の扱いのレベルを上げる。もし今後契約するのならば、槍の心得や弓の心得を所有している悪魔と契約できればいいが、そうそう上手くは行かないだろうな、もし契約して心得を持っているのならラッキー程度に思うべきだろう

 

「良し、では4階へ降りるぞ。全員気を緩めるなよ」

 

3階に降りる前にして、休憩所となりえるバックヤードに向かう前の最大の鬼門。コカトリスの巣となっている4階フロアに私達は足を踏み入れるのだった……

 

 

 

ノームがここからは小声でね?と言う注意を聞いてからゆっくりと4階に足を踏み入れる。その瞬間思わず鼻をつまむ

 

(むぐっ……これは強烈だな)

 

(ですね……く、くさい)

 

鶏小屋なんてレベルじゃない、噎せ返るような獣臭に思わず吐き気がこみ上げてくる

 

(うぷ……気持ち悪い)

 

(ほ、本当ですね)

 

ハンカチで口を押さえている桃と美雪先輩も相当きつそうなのだが、久遠教授とイザベラさんは顔を歪めるだけだ。フィールドワークでこういうのに慣れているんだろうか?と考えているとノームが振り返り

 

(皆悪魔は戻して、コカトリスは縄張り意識が凄く強いから悪魔が多いと気付いて動き出すかもしれないから)

 

悪魔を戻すのは不安だが、ノームの話ではコカトリスしか居ないから大丈夫と言う事でカソ達をスマホの中に戻す

 

(行くよ。騒いだりしないでね?)

 

ノームの言葉に頷き、俺達は4階フロアへと足を踏み入れるのだった

 

(これは酷い)

 

4階フロアの光景を見て思わずそう呟く、このフロアはゲームショップや音楽ショップなどに大型家具コーナーもあり比較的きれいなフロアだったのだが、今はコカトリスの糞や抜け落ちた羽毛で足元すら良く見えない。翼を踏んで滑って転んだなんて事が起きたら洒落にならないな

 

(すり足気味で進め。靴が汚れても、それが1番安全だ)

 

(……不快ですわ)

 

久遠教授の言葉にイザベラさんは嫌そうにしているが、その指示に従いすり足でフロアを進む。間違いなく普通に歩いていては滑って転ぶからだ。警戒しながら進んでいるとフロアの中心近く、ゲームショップだった場所が一段とあらされておりその中心にコカトリスが居た

 

(でけえ……)

 

コボルトも大きかったが、コカトリスの大きさとはそれとはまた別次元の大きさだった。縦に大きいコボルトと違い、縦にも横にも大きく、この距離でも判る鋭い爪の存在感。もし遭遇していたら戦う、戦わないじゃなく、間違いなく死んでいたと確信するほどの力強さ……

 

(今コカトリスは昼寝の時間だから今の内にバックヤードに)

 

焦らず、急ごうと難しいことを言うノームだが、その通りだと頷きゲームショップから背を向けて、大型家具コーナーに近づく。フロア全体が荒れていると思っていたのだが、大型家具コーナーは比較的綺麗で、コカトリスの羽などもなかった

 

【ふう、ここまで来たら大丈夫。こっちのほうはコカトリスの縄張りじゃないからね】

 

普通に喋っても大丈夫だよと笑うノームに思わずその場にしゃがみ込んで深く溜息を吐く

 

「物凄く怖かった……」

 

「ですね。あんなのとはとてもじゃないですが、戦えないですよ」

 

深呼吸を繰り返している桃と美雪先輩に頷く、あの巨体で毒まで持って居ると言うのだから戦うと言う選択肢はまず存在しない

 

「ここまで来たらバックヤードも近い……ッ!」

 

バックヤードで休もうと久遠教授が言いかけた瞬間。地鳴りのような音が響き、久遠教授の足元の床が大きく割れる

 

「久遠教授!」

 

1番近くに居た雄一郎が駆け出し手を伸ばすが、一瞬遅く久遠教授の姿はその地割れの中に消えた

 

「嘘……だろ?」

 

「か、母さん?いや、いや……いやあああああああッ!!!」

 

「く、久遠様……?」

 

目の前の光景が信じられない。完全に思考が止まっていたのだが、美雪先輩の悲鳴で止まっていた思考が動き出す

 

「早く!バックヤードに!今の悲鳴で【コケエエエエッ!!!】コカトリスがッ!」

 

遠くから聞こえてくるコカトリスの鳴き声に半狂乱になっている美雪先輩の手を掴んでバックヤードに走る

 

「雄一郎!桃を頼む!イザベラさんも!」

 

呆然としているイザベラさんの手を掴みながら、雄一郎に桃を頼むと叫んでバックヤードに走る

 

【早く!早く!!!】

 

バックヤードに続く扉を開けてくれているノームに礼すら言えず、慌ててバックヤードの中に駆け込むと、ノームは即座にマグナと叫んで巨大な石槍でバックヤードの扉を塞ぐ。それから数秒後ズシンっと何かが扉にぶつかる音がする……ノームがマグナを唱えてくれてなかったら全員死んでいたかもしれないなと思わずその場にしゃがみ込む

 

「母さん……いや、いや……こんなの……嘘……」

 

首を振り、こんなの嘘と繰り返し呟いている美雪先輩。桃も俯いて涙を流している、俺もどうすればいいか判らなかった。久遠教授が居たからここまで来れたのに……俺達だけではどうすれば良いか……全員が黙り込んでいると俺のスマホに着信音が響く、まさかと思いスマホを見ると久遠教授の文字

 

「もしもし!?久遠教授!大丈夫なんですか!」

 

スピーカーにして叫ぶとスマホからは少し苦しそうな声で

 

『ああ。大丈夫だ、2階まで落ちたが寝具コーナーでベッドの上に落ちたから骨折とかもしていない。そっちは大丈夫か?』

 

「こっちは大丈夫です、母さん。無事で……良かった」

 

『すまない、想定外の自体だ。幸い近くに隠れ場所もある、そっちで休んでから私も3階へ向かう。楓君達だけでは難しいと思うが、合流するのは3階になる。厳しいと思うが、3階の悪魔に先に挑んで欲しい。もしかするとその悪魔が死ななければ合流できない可能性もある』

 

厳しいなんて物ではないが、やるしかないのならやるしかない

 

『イザベラ、この中ではお前と美雪が最年長だ。2人で何とかしてくれ』

 

「判りました。お任せください、またお会いしましょう」

 

「母さんも無理はしないでください」

 

『楓君達もな。今日の所はバックヤードで休め、無理をするなよ?ではな、また連絡する』

 

その言葉を最後に久遠教授の声は聞こえなくなったが、久遠教授が無事と言うだけで精神的な余裕が生まれた

 

「とりあえず休みましょう。また久遠教授と合流するためにもね」

 

3階の悪魔を倒さなければ久遠教授とは合流できない可能性があるのだ。体力も、MAGも万全にしましょうと声を掛け、俺達はバックヤードの奥に向かって移動を始めるのだった……

 

 

 

チャプター26 デパート捜索 その5へ続く

 

 




久遠教授一時離脱。次回は最初は久遠教授の視点で進めて行こうと思います。そしてやっとこのデパートのボス戦です、どうやって戦うのかを楽しみにしていてください、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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