新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

14 / 36
チャプター13

 

 

チャプター13 夢の中の殺戮者

 

久遠教授が1人で街へ出ると言うのは凄く不安だったけど、力強い笑顔で必ず戻る言ったので信じて待とうと思い。美雪先輩と一緒にテントの中で毛布に包まり目を閉じると疲れもあっただろうけど、美味しいご飯を食べたと言う事もあり、久遠教授は心配だったけど直ぐに眠ってしまった

 

「えっ!?」

 

それはホームセンターで眠っていたときと同じ夢……夢だと判っているのに妙に意識がハッキリしている。薄暗い無尽駅……もしこれがあの夢の続きなら……そこまで理解した所で恐怖で身体が震え始める

 

『間もなく電車が参ります、間もなく電車が参ります……その電車に乗れば貴女は恐ろしい目に会いますよ~』

 

生気の無いぼそぼそとした男性の声。怖がる私を嘲笑うかのよう声が聞こえたと思った瞬間、目の前に電車が停まる。逃げなくてはと思い背を向けるが

 

「嘘ッ!?」

 

私は電車に背を向けたはずなのに、何時の間にか電車の中に乗っていた。慌てて電車から出ようとするが、電車は走り出してしまう

 

(これ……絶対あの時の夢の続きだ)

 

ただの怖い夢だと思って楓に相談しなかったが、今なら判る。これも悪魔の攻撃だったのだと、電車の中には私以外に何人も乗客が乗っていたが、やはり顔に生気は無く何処を見ているのか判らない

 

『次は活造りー活造りー』

 

『ぎゃああああああああッ……』

 

活造りの声の後にボロボロの服を纏った小人が現れ、生きたまま男性を切り裂いていく

 

「うっぷ」

 

噎せ返るような血の匂いに吐き気を感じていると今度は抉り出しー抉り出しー

 

『きゃあああああああッ!!!』

 

「い、いやあああああああ!!!」

 

目の前の女性の目玉がスプーンで抉り出される。その目が私のほうに飛んできて、思わず悲鳴を上げた瞬間

 

「桃ッ!桃!!起きろ!!!どうした!!」

 

「桃子さん!桃子さん!どうしたんですか!?」

 

楓と久遠先輩の私を呼ぶ声が聞こえたと思った瞬間。私はテントの中で横になっているのに気付き、心配そうにこっちを見ている楓を見て

 

「楓ッ!助けてッ!」

 

「っとと、どうした?怖い夢を見たのか?」

 

楓に抱きつきながら助けてと叫ぶと困惑した表情でどうした?と尋ねて来る楓に

 

「で、電車の中で……い、活造りとか……抉り出しとかで……人が死んでいって……」

 

私が夢の内容を話すと、楓は顔色を変える。やっぱりこれも都市伝説であるの?

 

「美雪先輩!着替えてください!俺は雄一郎を起します!」

 

そう避けんでテントを出て行く楓。これはもしかし物凄く不味い状況

 

「桃子さん。とりあえず着替えましょうか」

 

「は、はい」

 

パジャマに着替えていたわけじゃないけど、外に出れる服装ではないので慌てて制服に着替えてテントの外に出る

 

「ふわあ……悪魔の襲撃か?」

 

欠伸をしている雄一郎君の頭を叩いた楓は充電器からスマホを外して、私達に手渡しながら

 

「間違いない、桃が見ているのは猿夢だ」

 

「「「猿夢?」」」

 

私達が首を傾げると楓は深刻そうな顔をして猿夢の説明をしてくれた、それは必ず死ぬとされる悪夢。活造り、抉り出し、挽肉と進んで行き目覚める事が出来なければ死んでしまう夢だとその説明を受けてガタガタ震えてしまう。今は目覚める事が出来たが、もしそうじゃなかったら私も死んでいたことに

 

「か、楓君。対処法は?」

 

「対処法はありません……だけど、夢の中で退ける事が出来れば……この都市伝説は夢を見ている人と手を繋いで眠れば、同じ夢の中に行ける筈。俺は……行きます。桃を死なせる訳には行かないから、雄一郎と美雪先輩はどうする?」

 

楓が私の手を握り締めながら言う。痛いほどに握り締められたが、それは私を助けようとする楓の意思だと思ってその手を握り締める。本当は楓を巻き込みたくないからその手を放すべきだと思った、でも楓は私が話そうとしているの気付くと更に力強く握り締める。放さないと言っているように思えたから、逃げようとするのを止めて楓の手を柔らかく握り返した

 

「悪魔を連れて行くことは?」

 

「多分召喚して触れていれば一緒に行けると思います」

 

でも可能性の話だから嫌ならいいです、俺だけでもと言う楓に美雪先輩と雄一郎君は

 

「何を言っているんですか?私も行きます」

 

「ああ、桃子を死なせる訳には行かない、勿論お前もだ。楓」

 

力強く言う2人に続くように楓が私の目を見て

 

「絶対助ける、皆で生き残ろう……」

 

「う、うん。ありがとう、皆」

 

思わず泣いてしまった私の頭を楓は優しく撫でて、絶対大丈夫だと力強く微笑む。

 

「じゃあ皆手を繋いだな?カソ達は足でもどこでもいい、俺達に触れていてくれ」

 

カソ達を呼び寄せカソ達が足や腰に触れる。そして私達は4人で手を繋ぎ目を閉じると、どこかに落ちていくような感覚

 

『次は活造りー活造りー今度は逃がさない』

 

頭の中に先ほどの電車の中で聞いた精気のない男性の声を聞きながら、私達の意識は闇の中へと落ちていくのだった……

 

 

 

 

何処までも沈んで行くような感覚の後、急速に意識が浮上してくる。視界に飛び込んで来たのはボロボロの無人駅の姿だ……そして両手に感じる人の体温。桃と美雪先輩。そして真向かいにいる雄一郎の姿

 

「皆……だよな?」

 

ここはもう猿夢の支配する世界だ。もし誰かが猿夢にすり替わっていてもそれが俺達には判らない。桃達が不安そうな顔をしているのと同じく、俺も不安そうな顔をしていたが

 

【ワレガしょうめいする。ワガケイヤクシャだ】

 

【ではワシも、雄一郎はワシの契約者じゃ】

 

【はーい、美雪もだよ。私の契約者だよ】

 

【桃子もそうだよ。私の契約者さん】

 

俺達が契約している悪魔達がそれぞれ間違いないと証言してくれた事で漸く安堵の溜息を吐き、繋いで居た手を放す

 

「皆一応持ってきたものがあるか確認しよう」

 

久遠教授が居ない、この状況を俺達だけで解決しなければならない。ちゃんと眠る前にもってきた物があるか?と確認しようと言うと雄一郎が不思議そうに首を傾げながら

 

「だけどこれは夢なんだろう?現実で身につけていた物があるとは……あ、ある」

 

雄一郎が見につけていたスマホと鞘に納めた鉈がある、俺もスマホに鉈それと魔石などもしっかりと身につけている

 

「多分夢だけど夢じゃないんだ。現実とこの夢は繋がっている……んだと思う」

 

確証は無いけど、その可能性が高い。だってそうでなければ現実で召喚したカソ達が一緒にいる理由が説明出来ない、だからこれは夢ではあるが夢ではない。ここでの死は現実での死……なんとしても猿夢を撃退し、この悪夢から脱しなければならないのだ。

 

『けけけけっ!そっか……お前達は悪魔使いか!!けけけけけっ!!!』

 

突然聞こえて来た嘲笑う笑い声を聞いて、鞘から鉈を抜き放ちそれを構え周囲を警戒する

 

『いいよ、いいよ。始めようか?ボクとお前達のゲーム!お前達が夢から脱出すればお前達の勝ちだ!さーゲームスタートだ!

 

【次は活造りー、活造りー】

 

悪魔の声の後に電車のアナウンスが響き、電車が俺達の前に停まる。そしてそれと同時に無人駅が消えて行く、乗り込めという事か……お互いに目配せをし、俺達は電車の中に乗り込む。それと同時にゆっくりと走り出す電車……スピードはそれほどでもないが、震動はかなり激しい。バランスを崩しそうになるのを踏ん張って耐えながら桃と美雪先輩に注意を口にする

 

 

「桃、美雪先輩。間違っても椅子に座らないでくださいね」

 

「は、はい、わ、判っています」

 

「きゃっ……、で、でもこれ結構きついよ」

 

この電車の中は愚か、この世界全てが猿夢の領域だ。何があるのか判らないから、電車の中の物に触るのは控えるべきだ

 

【判った。じゃあ、私が手を繋ぐよ。転んだり、物を掴んだりしない様にね?】

 

桃の契約悪魔のナジャが美雪先輩と桃と手を繋ぐ、見た目は少女でもそこは流石悪魔だ。かなり揺れている電車の中でも微動だにせず桃と美雪先輩を支えてくれている。これで一安心だな

 

「カソ、悪魔の気配はするか?」

 

【……ミョウナケハイはする……このハコノなかゼンタイカラ】

 

やっぱりこの電車自体が猿夢か……ただ猿夢なら他にも犠牲者が居る筈なのだが、それらしい姿は無い。つまり活造りや抉り出しと言う殺す為の放送が流れたら俺達を襲ってくるという事か……

 

「先に進んでみるか、このままここで猿夢の行動を見るか?どうします?」

 

猿夢を見た人間は必ず死ぬ。それがこの都市伝説の流れだ、進んでも危険だが、このままここに居ても危険だ。行動に出るか、向こうが行動出るのを待つか?どうします?と尋ねると美雪先輩は考え込む素振りを見せてから

 

「進みましょう。確か猿夢はどこかで窓から飛び降りる事で目覚める事ができるって言うパターンもあったはず。ここの窓は割れていて外には出れませんから」

 

そう言われて見るとここの窓はかなり歪な形で割られている。美雪先輩の言う通り窓から脱出するパターンもあったので、脱出しやすい窓を探すべきかと思い。最後尾の車両から前の車両へ移動する

 

「見た所、何も見えないな」

 

「油断するな、雄一郎」

 

次の車両へ続く扉の窓を見て扉を開こうとする雄一郎の手を掴む。ここは猿夢が支配者だ。それこそ最後尾を過ぎたら、そこから人間を惨殺する小人が出てくる可能性もある。だが先に進まなければ何も判らないが、容易に進むのは危険すぎる

 

「カソ。アギ」

 

『アギ』

 

カソに魔法を使わせて扉ごと粉砕する。扉が炎で吹き飛び隣の車両が見えた瞬間。桃と美雪先輩が小さく悲鳴を上げる

 

【【ケタケタケタ】】

 

2人の小人が両手に鉈を持ち人間を引き裂いていたのだ。それを見て扉を開かなくて良かったと安心すると同時に小人が動き出す前にとカソに指示を飛ばす

 

「カソ!行けッ!ひっかきだ!」

 

【マカセロ!】

 

カソは弾丸のように飛び出すと炎を纏った爪で小人を吹き飛ばす。だが大したダメージが通っているようには見えないが、次の車両に移動する隙は出来た

 

「雄一郎!前に出るぞッ!」

 

「ああ!!」

 

小人達が美雪先輩と桃の方に行けない様に、車両同士の出入り口の前に立ち迎え撃つ構えを取ると、小人が態勢を立て直し鉈を振りかざし、飛び掛って来たのを俺と雄一郎も鉈で受け止めたのだが……

 

「「ぐうっ!?」」

 

【【ケタケタッ!!!】】

 

思わず苦悶の叫びを上げてしまった。外見からは想像も出来ないその重さと圧力に膝が折れそうになるが、歯を食いしばり必死にそれを耐える。ここで押し切られたら桃と美雪先輩が危ない。それが判っているから膝を付く事なんて出来ない。カソとコロポックルがアギとブフを放つが、小人はそれを受けても平然としている。こ、このままだと不味い……ッ!そう思った瞬間桃の声が電車の中に響き渡る

 

「ナジャッ!タルカジャッ!」

 

【OKッ!いっくよーッ!】

 

『タルカジャ』

 

ナジャの放った光が俺に当ると急に重いと思っていた小人が外見通りの重さに感じた。これなら行けるッ!!!

 

「おおおおおッ!!!」

 

【!?】

 

その場で力強く踏み込み、鉈を振るう重い金属音を響かせて弾け飛ぶ小人の鉈。それと同時に前に踏み込みながら拳を握り

 

「ぶっとべえッ!!!」

 

【げばあッ!?】

 

何かを砕く確かな感触と、小人が苦悶の悲鳴を上げて吹き飛ぶ。小人が消え去るのを確認せず、今度は雄一郎を押さえ込んでいる小人の頭に鉈を叩き込む

 

【!?!?】

 

まるで豆腐でも切り裂くような感触で小人が両断され消滅する。俺が殴り飛ばした小人も暫く苦しんでいたと思ったら溶ける様に消えて行く

 

「凄いなタルカジャって」

 

呆然とした様子の雄一郎にそうだなと呟く、自分でも信じられないほどに力が上がった。それは今も続いていて……これだけの効果なら移動するときに俺と雄一郎にタルカジャを掛けてくれれば安心して移動出来る。そこにラクカジャも掛ければ更に安心感は増すだろう

 

「桃、雄一郎にもタルカジャ……を?」

 

雄一郎にもタルカジャを頼むと言おうとすると、浮き上がるような感覚がした。そして気が付けば俺達は電車の中ではなく眠ったはずのビルの中にいた。

 

「お、終わったんですか?」

 

「そうなんですかね?」

 

小人は倒したが、余りに呆気なさ過ぎる。だがビルの中に居ると言う事は悪夢が終わったと言う事で思わずその場にへたり込む

 

「結構やばかったな」

 

「そうだな」

 

雄一郎の言葉に相槌を打つ。ナジャの力が無ければ、あのまま小人に切り裂かれていて死んでいた……俺も雄一郎もそれが判っていたから揃って安堵の溜息を吐く

 

「桃子さん良かったですね。これで安心ですよ」

 

「はいッ!皆ありがとう!」

 

そう笑う桃を見ていると違和感を覚えた。これだけ話をしているのにカソ達の声が聞こえないのだ、俺達と一緒にいたのだからカソ達もここに居る筈なのに……スマホの画面を見ると召喚中の文字が浮かんでいる……

 

「あ、母さん。用事は終わったんですか?」

 

「ああ、終わったよ。美雪」

 

扉が開き久遠教授が姿を見せる、だが胸の中を埋め尽くす嫌な感じは今も消えない……寧ろ久遠教授を見た事でその嫌な感じが強くなった。おかしい、これは絶対におかしい。慌てて立ち上がり、窓の外を見るとこっちに走ってくるカソ達の姿を見てまだ夢が終わっていないと確信した

 

「美雪先輩駄目だッ!近寄っちゃいけないッ!!!」

 

久遠教授に駆け寄ろうとしていた美雪先輩にそう怒鳴りつける。久遠教授は二ヤアっと絶対に浮かべるはずの無い邪悪な笑みを浮かべると、久遠教授の姿は4人の小人が肩車をしている姿へと変化する、馬鹿にするように笑う小人が呆然としている美雪先輩に飛び掛るのを見て、俺は咄嗟に手にしていた鉈を小人達へと投げつけながら叫んだ

 

【【【【ケタケタケタッ!!!】】】】

 

「まだ猿夢は終わってないッ!!!」

 

タルカジャで強化されていた事が幸いしたのか、俺の投げつけた鉈は小人達を纏めて吹き飛ばし、ビルの出入り口の扉に突き刺さる

 

「ま、まだ終わってない!?」

 

「桃!美雪先輩!ビルから出るんだッ!雄一郎!俺が最後に出る!お前は2人を連れて外に出ろッ!」

 

「わ、判った!桃子!久遠先輩ッ!こっちです!」

 

ビルの中は狭すぎる。小人なら問題無いが、俺や雄一郎では鉈を振るう事が出来ない。そうなると避けるしか出来なくなる、早くビルから出るように叫ぶ。雄一郎が2人の前を走り、この部屋を出る。吹き飛ばされた小人はまだ起き上がる気配が無いのを見て、俺も走り出し扉に突き刺さっている鉈を抜いて雄一郎達の後を追ってビルを出ると

 

「嘘……だろ!?」

 

ビルから出たはずなのに、俺達は再び電車の中に居た。足元にはカソ達が居て、雄一郎達も呆然とした表情をしている。ビルの外に出たと思ったら電車の中にいる……訳が判らない。自分がパニックになっているのが判るのだが、混乱しすぎて声すらも出ない

 

『まーだだよ。夢と現実お前達が見ているのはどっちでしょー?』

 

【【【【けたけたけた】】】

 

嘲笑うかのような奇妙な声……そして前の車両から鉈を持って現れた大量の小人……悪夢はまだ終わらない……

 

 

 

念の為の細工を施してから楓君達をビルに残し、私はある場所に向かっていた。リリムが情報収集を行い、そして私の事を伝えてくれていたからか、目的の人物はビルを後にして数分で見つけることが出来た。この場には似つかわしくない紅いドレス姿の少女は私を見ると嬉しそうに笑いながら駆け寄ってくる

 

「すまないな。わざわざ」

 

「いえ、構いません。リ「久遠だ」失礼。久遠様の御呼び出しですもの、何を差し置いても参上致しますわ」

 

私の言葉に失礼しましたと頭を下げた少女はこちらですと笑い。私をある場所へと案内する

 

「良くやるな……」

 

「私の居城ですもの、妥協は致しませんわ」

 

神無市でも有数の高級ホテル。それを自分の城に改造している少女に苦笑しながら

 

「お前は変わらないな。イザベル」

 

「当然ですわ。私は何よりも美しく、そして偉大でなければならないのです」

 

私よりもか?と尋ねるとイザベラは久遠様の次でよろしいですと呟く。その仕草に笑みを零しながらイザベラの案内でホテルの中を進む。血の染みを必死に落としているタキシード姿の男達を見ながら、相変わらず綺麗好きな奴だと思いながら最上階へ続くエレベーターに乗り込み最上階のイザベルの部屋へ向かう。

 

「ワインはどうしますか?」

 

「いや、構わない。直ぐに出る」

 

そうなのですかと落胆した様子のイザベルにすまないなと思いながら話を進める

 

「それでこの街はお前がいるようだが、他には誰が一緒に来た?」

 

「別行動ですが、不死身の馬鹿が居ますわ。目障りですから他の街へ追い出しましたが後は何体か出て来たようですけど、私は知りませんわ。偶然あの馬鹿が近くに居たのを見かけただけで」

 

あいつは美しくないと言うイザベルに苦笑する、プライドの高さもそうだが己を磨く事を好み、停滞を嫌うイザベルは他の奴らとはやはり違う。

 

「天使のほうは?」

 

「天使ですか?この街に来たのは消し飛ばしました、目障りですもの。人間は醜いですが、天使はそれよりもなお醜悪ですわ」

 

人間は醜いか……楓君達を連れてこなくて正解だったなと苦笑する。だがいつかはバレるので先に伝えておくか

 

「イザベル。私は今人間を育てているのだが?」

 

「え?な、何故ですか!?」

 

明らかに不機嫌そうな顔をして立ち上がるイザベルに座るように促す

 

「目的があっての事だ。素晴らしい逸材が居るんだよ。イザベル、お前も見れば気に入るよ。今度紹介しよう」

 

「久遠様が仰られるなら……会うだけくらいなら……」

 

明らかに納得していない表情のイザベルだが、きっと見れば気に入るだろうな

 

「それで申し訳ないのだが。私達はもしかするとこの街を出る、その時に襲撃は止めて欲しい」

 

自然発生の悪魔ならまだしも、イザベル配下の悪魔に襲われては楓君達では対処出来ない。死なれては困るので止めてくれと言うとイザベルは判りましたと頷き

 

「その変わりまた尋ねて来てください。久遠様」

 

「ああ、判ってるよ」

 

既に私の手を離れているのに、それでもまだ私を慕ってくれているイザベルを見つめていると、ピリッとした電撃が走る。音を立てて椅子から立ち上がる

 

「久遠様?」

 

「すまない、教え子が襲われている。申し訳ないが、ここで失礼する」

 

あのビルから楓君達が出たのを確認した、2時間以内に戻ると言った上に疲労で目覚めるはずが無い。それなのにビルを出た……それは私の結界をすり抜ける事が出来る悪魔に襲撃されたか、それとも自分達で外に出たか?の二択だが。前者の可能性はまず無い、イザベルの配下の悪魔は私の魔力を知っている、つまり私に敵対すればイザベルに殺される事が判っているので襲うわけが無いとなると後者になる、精神感応系の能力を持つ悪魔かそれとも都市伝説の悪魔か……どちらかはわからないが不味い状況なのは確実だ。早く合流しなければ

 

「そ、そんなあ」

 

明らかに落胆しているイザベルにすまないと謝り駆け足でエレベーターに乗り込み、楓君達が居るビルへと走っていると、廃墟の影から何かが投げられる。舌打ちしながら立ち止まり

 

「ちっ!何者だ!」

 

私がそう怒鳴ると下卑た視線を私の身体に這わせながら、崩壊した建物の影から何人もの男達が出てくる。見れば手には猟銃やマチェットなどが握られている。

 

「へっへ、あのホテルには良い女が隠れてるって言ったろ?」

 

「ほんとでしたねぇ!待ち伏せをしてて良かったぁ」

 

「おとなしく俺らの言う事をきけば痛い思いはしなくて済む、むしろ、最高に気持ちいい思いができるぜ?!ギャハハハハ!」

 

「リーダー、早くヤろえぜ?オレ我慢できねえ」

 

「俺も俺も」

 

蛆虫の糞にすら劣る男どもが近付いてくる。人が焦っていると言うのに……激しい苛立ちを感じる。どうしてこんな馬鹿共に足止めをされなければならないんだ。

 

「大人しくしろよ?長く楽しみたいからな」

 

「足だけにしろよ?胸や顔に当てるんじゃねえぞ?萎えるからな」

 

じりじりと近寄ってくる男達。荒い呼吸をしながらにじり寄って来る屑共を見て

 

「消えろ、今の私は機嫌が悪いんだ」

 

私の言葉に男たちは、「は?」や「なんて言ったんだ?」とか言っている、急に吹いた突風で周囲が暗闇に満ちたのと同時に私は、軽く身体を捻り、その場から走り出した。月夜に照らされたその廃墟は辺り一面、真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 




チャプター14 神堂との遭遇

今回は少し短めの話となりました。もう1度楓達の視点を入れようと思ったのですが、長くなると思ったので丁度良いここで1度切ることにしました。久遠教授はもう判ると思いますが、カオス陣営ですね、多分正体も判っていると思いますが、口にチャックでお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。