新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター10

 

チャプター10 探索

 

赤い服の女性の近くを通り過ぎる僅か数秒で7人もの人が死んだ。余りにあっけなく人が死んだ……そしてなによりも首を切られて宙を舞う首と目が合った。余りに空虚なその目が脳裏から離れない……自分の身体を抱きしめるようにして震えていると車が停まる

 

「ふう……危ない所だったな」

 

「そ、そうですね……」

 

大きく溜息を吐く久遠教授とそれに相槌を打つ楓は震えている私と美雪先輩を見て、大丈夫か?と声を掛けてくれるが正直大丈夫なんて返事をする事は出来ない

 

「大分ショックを受けてるみたいなんだ。暫くは動かないほうがいいと思う」

 

雄一郎君が楓の言葉にそう返事を返しながら、後部座席のコロポックルの氷で冷やされているクーラーに手を伸ばし

 

「甘い物を食べたら落ち着くだろ?少ししかないけど、久遠先輩と半分こして食べてくれよチョコレート」

 

差し出されたチョコレートの包みを受け取り、のろのろとその包み紙を開けてそれを齧る。チョコレートの甘さでか少し気分が落ち着いてくる、だけどさっきの切られた首の事を忘れる事が出来ない……もしかすると次ぎああなるのは私かもしれない、そう思うと怖くて怖くて仕方なかった

 

「さてと、あんな衝撃的な光景を見たばかりで悪いが、あの赤い服の女について考えようか?今後の事を考えれば必要な筈だ」

 

出来れば思い出したくないんだけどなぁ……美雪先輩も同じで青い顔をして首を振っている。私と美雪先輩の反応を見た久遠教授は仕方ないと呟き、聞いているだけで良いと呟き楓と雄一郎君と話を始めた

 

「あの赤い服は見た目は人間と変わらなかったな」

 

マスクの下は耳元まで裂けていたがなと呟かれ、あの時の光景を思い返してしまった。自分でも判るくらい血の気が引いていく、美雪先輩の顔が青白くて、自分も同じだと思った。どうして楓達は平気なんだろう?と一瞬思ったが、2人の手も震えているのを見て、2人だって怖いけど我慢しているのだと判った。私や美雪先輩が不安に思わないようにしてくれているんだなと思うと嬉しくもあったが、情けないと思った。こんな状況だからお互いに助け合わないといけないのに、2人に頼りきっている自分が嫌だった

 

「はい、口裂け女でしょうか?」

 

都市伝説としては余りにも有名な話で、楓からも何回も聞かされた事がある。楓は悪意があったわけではない、ただ私が口裂け女を怖がっているので、それが口唇口蓋裂症と言う病気で普通の人なんだよと教えてくれていたと思うんだけど……正直言って病気だと判っていても怖かった

 

「私もそうだと思うんだが、あれも悪魔なのか?と言う疑問が残るだろ?」

 

「確かに口裂け女は都市伝説で悪魔って言われると何か納得出来ない物がありますよね」

 

私からすれば都市伝説でも、悪魔でも私にすれば恐ろしいだけなんだけど……それがどうとか?なんていう話し合いを聞いても、怖いと言う感想しか抱く事が出来ない

 

「雄一郎。コロポックルを呼んでくれよ。話を聞きたい」

 

「判った。コロポックル、来てくれ」

 

雄一郎君のスマホからコロポックルが現れ、雄一郎君の膝の上に座る。

 

【なんじゃ?ワシに何かようか?】

 

自分が見られている事に気付いたのか、そう尋ねるコロポックルに久遠教授が尋ねる

 

「先程、口が耳元まで裂けた女が人間を殺しているのを見たんだが、悪魔と言われると何か違うのでは?と言う話になった。お前は口裂け女は知っているか?」

 

そう尋ねられたコロポックルは首を振ってから、知らんなと返事を返したが、じゃがと付け加え真剣な表情をして

 

【新しく生まれたという可能性はあるの】

 

「新しく生まれた?」

 

コロポックルの言葉に楓がそう尋ね返すとコロポックルはそうじゃと頷いてから、口を開いた。それは信じたくない話の内容だった

 

【元々悪魔と言うのは人によって作られた存在じゃ、人のインスピレーションがあってこそ個として存在しておる。そして今はあちこちに悪魔が出現し、高密度の魔力溜まりが出来ておる。本来なら生まれるまで時間が掛かる悪魔じゃが、生まれるに適した条件が揃っておる……そうなれば後は簡単じゃ、人の恐怖を核にし、人の話の中でその力を増して悪魔となる】

 

コロポックルの話が真実だとすれば、それはこれから見た事も聞いた事もない悪魔が増えていくと言う事だった。でも悪魔が人間の想像から生まれたというのは正直驚いた。私はてっきり人間が生まれる前から存在していると思っていたから

 

「そうか、都市伝説は言うなれば、最新の怪奇譚だ……悪魔が生まれる元としては十分って事か」

 

「だけど。それって凄く不味い事なんじゃないですか?都市伝説ってその……どう足掻いても死んでしまう物もあるでしょう?ベッドの下の斧男とか、てけてけとか……」

 

美雪先輩の言葉に楓達の表情が強張る。私はあんまり都市伝説とかには詳しくないけど、それでも恐ろしいってことは十分に知っている

 

「コロポックル。もしその伝承で悪魔が生まれれば、その伝承通りになるのか?」

 

【まぁ概はその話の通りになるじゃろうな。とは言え、生まれて直ぐはその力をフルに使う事が出来ないはずじゃから……対応できるじゃろう。寧ろ時間が経ってより強い力を手にされた時の事を考えるほうが恐ろしいの】

 

そう笑うコロポックルに雄一郎君がありがとうと礼を口にすると、コロポックルはスマホの中に消えて行く

 

「都市伝説が悪魔になるか……口裂け女はポマードだったな。もし遭遇したら唱えるんだ、良いな。あとは知らない着信からの電話は出るなよ?メリーさんはどうやっても死ぬ奴だからな」

 

久遠教授の警告に頷くと久遠教授は良し、良い子だと微笑みかけながらハンドルに手を伸ばし

 

「都市伝説の悪魔が出るのならば市街も危険だ。さっさと必要な物を集めて街を出るぞ」

 

出来れば街で救助か、信用出来る生存者を探すと思っていたけど、都市伝説の鬼が出て来る可能性を考えると早い内に市街を離れた方が安全だと思う。楓達も同じ意見なのか仕方ないですねと呟き、早くホームセンターで道具を集めて逃げましょうと提案し、久遠教授の運転する車は再びホームセンターを目指して走り出すのだった……

 

久遠教授の車が走り去ってから数分後。瓦礫の下から青白い顔をした女性が姿を見せる、その女性は走り去る車を空虚な瞳で見つめていたが、暫くすると瓦礫の下から這い出て来た。だがその女性には下半身がなく、両腕だけで身体を支えた女性は邪悪な笑みを浮かべると同時に凄まじいスピードで車の後を追いかけ始めるのだった……

 

 

 

 

文化祭の準備などで何度か訪れたホームセンター。キャンプ用品や、レジャーグッズに加えて、建築資材なども取り扱っていた大型のホームセンター……出雲から出て来た事もあり、家具などを揃えたり、自分で棚を作るために何度も訪れたその場所は白く綺麗な建物だったのだが、今は壁には大きな穴が空き、横転した車があちこちに転がり今もなお炎上しているという酷い有様だった

 

「これは酷いな。相当なパニックになったのは判るがまさかここまでとは」

 

車から降りた久遠教授が私の予想よりも酷いなと呟く。俺達が乗って来た4WDは悪魔に破壊されたり、狂った生存者達に奪われないようにコロポックルの氷で覆い隠して来た。アレなら破壊される事はないし、コロポックルが魔力を通せば簡単に溶けるらしいのでこれで安心して捜索出来るな。俺と雄一郎は車から取り出した錆付いたハンマーと槍を手にし、軽くストレッチをしながら振り返り

 

「桃、美雪先輩、鞄はよろしくお願いします」

 

俺と雄一郎。そして久遠教授で悪魔もしくは、襲ってくる人間の撃退。桃と美雪先輩が背負っているリュックに目的の物資を運んで貰うと言う計画だ。今の所確保したいのはやかんや飯盒と言った飲み水や、食料を煮炊きするの物の道具や夜に明かりを確保できるカンテラと言ったキャンプ用品と、海や川に出る事も考え釣り道具もしくは、それを作ることが可能な道具と言ったものを確保出来ればと言うのが大体の方向性だ

 

「任せてください、ピクシーもよろしくお願いします」

 

【OKッ!私に任せてよ!早速中を見てくるねー】

 

美雪先輩の言葉に頷き、ピクシーがホームセンターの方へ飛んで行く。突入する前の情報収集は当たり前だ、中で何が起きるのか判らないから安全を確保するのは当然の事だ。

 

「楓君も雄一郎君も言っておくが、悪魔との契約で身体能力が上がっているとは言え慢心はするな。ホームセンターに入ると同時に悪魔を召喚するんだ。良いな?」

 

強い口調で言う久遠教授。だけど悪魔を召喚し続けるのはMAGの消耗に繋がる、危険なのは判るが温存するべきでは?と考えていると久遠教授はこれから調べるのはホームセンターだぞ?その危険性を理解しているのか?と言われ思わず首を傾げると久遠教授は疲労で頭が回っていないんだなと呟いてから、丁寧に説明してくれた

 

「鉈や鉄パイプを扱っていた店だぞ?発狂した人間が武装している可能性もある。物陰から急に頭を鉄パイプや鉈で殴られたらどうする?間違いなく即死だぞ?その後桃子達がどうなるか考えてみろ」

 

先程のガソリンスタンドで鉈や釘バットを持って俺達を取り囲んだ男達の事を思い出す。もしこのホームセンターも同じだとしたら……そう考えると顔から血の気が引くのが判る。久遠教授はそんな俺達を見て判ったようだなと呟き

 

「良いか?よく覚えておけ、人間はな悪魔より恐ろしいんだ。悪魔よりも恐ろしいのが人間だ、よく覚えておくんだ。いいな?」

 

妙な重みを持つ久遠教授の言葉に俺達は何度も頷き、ピクシーが戻るのをただ待っているのもなんだと言う事で、ホームセンターで確保する物の話し合いを始めた。必要な物は決めてはいるが、個数などは考えていなかったと言う事もある

 

「まず一番重要なのはヤカンだ。今溜めている水もしくはライフラインが止まった場合、川の生水を飲む訳には行かない。沸騰させる為にヤカンは必要不可欠だ。出来れば2個は確保したいな」

 

手帳にヤカン×2と書く、別に覚える事も出来るが悪魔や発狂者に襲われればこっちだって混乱してくる。落ち着いて探せるようにメモしておくと安心だと思ったのだ

 

「次に飯盒かな。あれは煮炊きに便利だし、私と久遠教授は料理が得意だからあると嬉しいよ」

 

……美雪先輩が落ち込んでいるから出来れば料理の事は触れて欲しくないが、確かに飯盒が必要だ。これはホームセンターに向かうまでの間でも必要な物の1つになっていた

 

「個数は幾つくらいにしますか?やっぱり5人だから5個ですか?」

 

「いや、そんなにあってもかさ張るだけだ。1つは高校の備品であったから、2つ確保して3つもあれば十分だな」

 

飯盒2個……っと、でもどうせ飯盒があるなら米とかを食べたいと思うが……荒れ果てたホームセンターを見るとそう言った食料品は絶望的に思える。スープや乾パンなどが主食になりそうだなと雄一郎と揃って溜息を吐く、やはり育ち盛りの男子だ。乾パンとかでは満腹とは程遠いし、物足りなさは感じている。だけどこの状況を考えれば物が食べれるだけでもありがたいと思うべきだよなとその言葉を飲み込む

 

「後はこれから山か川に出ることを考えて釣竿は欲しいな。動物性のたんぱく質で捕獲や処理が楽なことを考えれば釣竿は見つけておきたい。誰かこのホームセンターで釣竿を見たものは?」

 

そう尋ねられ、釣竿を見た事が無いか?と思い返す。川も海も近いから多分あると思うんだが、俺はあんまりキャンプ用品コーナーを見に行った事が無いしな。あるかもしれないっと言う訳には行かない……それに仮にあったとしても、これだけの破壊の後がある事を考えると棚が倒れて壊れている可能性もある……確かに釣竿は欲しいが、壊れかけとかを回収するくらいなら自分達で作った方が良いですかね?と久遠教授と話していると雄一郎が手を上げて

 

「釣竿なら問題無いと思う。確か鍵付きの棚の中に保存されていたはずだし、子供の小遣いでも買えるような安価な釣竿もかなりの数取り扱っていたはず……ルアーロッドや、渓流竿に投げ竿……かなり種類も豊富だった」

 

「お前釣り好きだったのか?」

 

俺の中では雄一郎と言えば野球だった。これだけ詳しいってことは釣り好きだったのか?と思い尋ねると雄一郎は小さくああっと頷きながら

 

「野球部の合宿とかでな……釣りをする事は案外多かったんだよ」

 

聞いてはいけない事を聞いてしまった……俺が罪悪感を感じていると久遠教授がパンパンっと手を叩き。雄一郎に謝ろうとしていた俺の言葉を遮る

 

「では釣竿と飯盒などの確保は同時進行で行う。その後はテントが1つと小さな折り畳みの机か椅子が確保出来れば良いが、これはあれば程度に考えておこう。見つけたとしても運ぶときの手間や車に搭載できるか?と言う課題もあるしな」

 

久遠教授の車は確かに大きいが、今は食料や武器を積んでいるので後部座席の半分が潰れている。確かに確保したい物資はあるが、それで欲張って車に積む事が出来ず、悪魔に襲われるリスクを考えれば欲深い事は考え無いほうが良い

 

【偵察終わったよー。悪魔もはそんなに多くないし、人間はいないから大丈夫っぽい、後商人の悪魔が店をやってるよ】

 

商人の悪魔……?ピクシーの言葉に首を傾げながらも、悪魔の数は少なく、そして人間もいないと言う言葉に安堵の溜息を吐く。幾ら襲ってくるとは言え、同じ人間と戦うのは出来れば避けたかったから

 

「良し、では必要な物資の回収に向かう。どこから悪魔が襲ってくるか判らない、全員細心の注意を払うようにッ!では出発!」

 

久遠教授の号令に頷き、歩き出すと久遠教授が近寄って来て俺の小さく耳打ちをする

 

(余り雄一郎君に罪悪感を持つな。普通に接してあげるんだ。こんな状況で気持ちの擦れ違いをしていたら、どこかで限界が来るからな。普通に友人として接してあげるんだ)

 

久遠教授はそう笑うと俺の前を歩き出す、こんな状況なのに俺を気遣ってくれた事に感謝し、俺は槍を握りしめ雄一郎の隣に立つのだった……

 

 

 

ホームセンターの中の捜索を始めて30分。たった30分で4回の悪魔の襲撃があった、しかし襲撃としても1体や2体程度の少ない悪魔だが。10分で1回と言うペースで戦っていると楓君と笹野君の体力が心配になってくる

 

「これでッ!終わりだっ!!!」

 

【ギガアッ!?】

 

笹野君が振り下ろしたハンマーがカソを叩き潰す。だがこれは楓君が契約したカソではない、このホームセンターに巣食っていたカソだ。楓君のカソが鮮やかな赤い焔なのに対して、このカソが纏っている焔は赤黒く、喋る事も無かった

 

「ふう、俺のカソと全然違って良かった。さすがに同じだったら罪悪感を感じるからな」

 

「だな。それに間違えて味方を攻撃するのも気分が悪いしな」

 

叩き潰されたカソはそのまま消滅せず、燃える皮と魔石を残して消え去った。魔石は何時も拾っていますけど、燃える皮を見たのは初めてかもしれない

 

【ほほう!素材が落ちたの。悪魔の商人に売れば結構なマッカになるぞ】

 

コロポックルがそれを拾い上げて嬉しそうに笑う。悪魔を倒すと魔石以外にもなるのね……初めて知った

 

「それでピクシー、悪魔の商人はどこら辺に居るんだ?」

 

【えーっとね。あっちのほう】

 

ピクシーが指差すのは運良くキャンプ用品コーナーの方角だったが、母さんはそれを見て眉を顰める

 

「どうしたんですか?どうせキャンプ用品コーナーに行くんですから丁度いいんじゃ?」

 

桃子さんがそう尋ねると母さんは違っていれば良いんだがと前置きしてから

 

「もし悪魔が私達が探しているものを全部自分の商品にしてたらどうするかと思ってな」

 

その言葉に思わずあっと呟いてしまう。悪魔を倒すと魔石と共に落ちているマッカと言う悪魔の通貨は桃子さんと2人で拾っているが、それほど量がある訳じゃない、もし悪魔がそれを商品としていたら資金不足で買えないかも知れないのだ

 

「目の前にあって買えないって言うのはつらいですね」

 

「ああ。悪魔にとっては意味の無いものだから、自分の商品にしてなければいいんだが……とりあえず行って見るしかないな」

 

もし売り物だったらその時に考えようと言う母さんの言葉に頷き、キャンプ用品コーナーのほうに向かって歩き出す。本来なら綺麗だったはずの床は悪魔の爪あとや焼け焦げた跡に倒れた棚や割れた硝子の破片が散乱していて、かつての姿は見る影も無い。しかし私が恐れていた殺された人間の手足や血痕が無い事には正直安心した。多分これは桃子さんも同じだと思う

 

「これからこういう歩きにくいとか普通の靴じゃ危ない所を歩く事があるかもしれないですから、登山靴とかもあると良いかも知れないですね」

 

生存者が積み上げたのだろうか、棚で作られたバリケードをある程度崩しながら楓君が母さんにそう尋ねる

 

「そうかもしれないな。それもどこかで入手する事を考えよう、楓君頼む」

 

「はい、久遠教授」

 

完全にどけるのは無理だと判断したのか、楓君がバリケードの上に上り母さんに手を貸して上に引っ張り上げる。笹野君はカソとコロポックルと一緒にバリケードの向こう側で悪魔が背後から襲ってこないかの警戒をしてくれている

 

「美雪先輩、手を」

 

「ありがとうございます、楓君」

 

楓君の手を引っ張り上げて貰ってバリケードの上に乗る。結構な高さで女子では登るのは厳しいですね……母さんが大丈夫そうだから早く来いと呼びかけるので判りましたと返事を返し、バリケードの向こう側に下りる

 

「桃。気をつけてな」

 

「うん、ありがとう。ごめんね、私運動音痴だから」

 

楓君と桃子さんの幼馴染だから出来る会話に少しだけ寂しいなと思ってしまった。それに正直私よりも桃子さんの事を心配している楓君にもう少し私の心配をして欲しいと思わず思ってしまった……そんな事を考えてしまった事がどうしようもなく嫌だった……

 

「うわ、これ凄いな」

 

バリケードを最後に下りて来た楓君がそう呟く。目の前には今までの荒れ果てたホームセンターではなく、奇妙なデザインのオブジェが飾られた店が待ち構えていた。

 

【いらっしゃいませ。メルコムの雑貨屋へ、マッカさえ出して頂けるのなら、悪魔でも人間でも商品をお売りしますよ】

 

黒いスーツ姿に、首から下げたがま口にいかつい顔をした悪魔がその外見からは想像出来ない穏やかな声で私達を出迎えてくれて、思わずはぁっと言う間抜けな声で私達は返事を返してしまうのだった……

 

 

 

見た目の厳つさに思わず身構えてしまった。メルコムと名乗った悪魔はそんな俺に嫌ですねと笑いながら

 

【私は会計官。それほど強い悪魔ではありませんよ。それにマッカさえ払ってくれるのなら人間であれお客様です、お客様に敵対するような真似は致しませんよ】

 

にこにこと笑う姿に思わず毒気を抜かれかけたが、悪魔は悪魔。警戒を緩める事はできない、俺がメルコムを見つめていると久遠教授が小さく耳打ちしてくる

 

(契約していない悪魔だ。信用するな)

 

久遠教授の言葉に判っていますと返事を返すと、久遠教授が前に出てメルコムに声を掛ける。メルコムは久遠教授を見て一瞬驚いたような顔をしたが、次の瞬間には穏やかな笑みを浮かべながらいらっしゃいませと頭を下げた

 

「人間の品もお前の所の商品になっているのか?今の所私達が欲しているのは、お前の店の先の品物なんだが?」

 

【そうでしたか、それは残念です。私はあくまで悪魔の商人、私が取り扱うのは魔界の品です。なのでお探しの物を見つけましたら私の商品も是非ご覧ください】

 

そう笑い、どうぞお通りくださいと笑うメルコムに拍子抜けしながら、メルコムの店の前を通り過ぎようとすると

 

【ああ。そうでしたそうでした、一応この先の悪魔は私の商売の邪魔なので排除しております。ごゆっくり】

 

笑顔のまま怖いことを言うメルコムにやはりこの悪魔も強力な悪魔なんだと実感し、俺は小さく震えながらありがとうと返事を返すのだった……

 

【怖いのう、メルコムはかなり強力な悪魔じゃから】

 

メルコムの店を通り過ぎ、目的地としていたキャンプ用品コーナーに付いた所でコロポックルが震えながら呟く

 

【だよねー。メルコムって言えば魔界の会計官、強い悪魔にも物怖じせず発言する悪魔だからね、そもそも魔界の悪魔の給料を決めて支払っているのがメルコムだし……なんでこんな所に居るんだろ?】

 

リリムも私も正直苦手なんだよねと呟く。悪魔って給料制なのか……知りたくない事実を知った事に思わず苦笑しながら、キャンプ用品コーナーを見る。あちこちの商品は運び出された痕跡があるが、それでもかなりの商品がそのままの姿で残されている

 

「この様子なら目的としている道具も確保出来るだろう。だが、単独行動は厳禁だ。排除したと言っても何処まで本当か判らないからな」

 

強い口調の久遠教授の言葉に頷き、5人でキャンプ用品コーナーで商品を探す。バリケードの向こう側と比べるとこちらは血痕等があり、壁に空いている大穴と壊れて停車しているトラックを見つけた

 

「恐らく中に居る生存者から連絡をもらって、トラックで壁を破壊したという辺りか……それで何人かの生存者は助かっただろうが、恐らくこの穴から悪魔が進入して来たんだろうな」

 

久遠教授が周囲を観察しながら呟く、空けられた缶詰や、乾パン。そして空のペットボトル……ここいらで生存者が暮らしていたのは一目瞭然だった

 

「もしかしたら生存者が居るかもしれないですね」

 

「居たとしても、男かもしれないぞ?」

 

久遠教授の言葉にうっと呻く桃に大丈夫だと声を掛けながら頭に手を置く。仮に生存者を見つけたとしても4WDはもう定員だ。一緒に脱出する事ができない以上見捨てる事になる、それなら最初から生存者なんて見つけない方が良いな。人でなしと言われるかもしれないが、今の俺達は5人で行動して良い具合に動けている。ここに別の人間を入れるのは、このグループの崩壊の原因となるかもしれないので受け入れる事が出来ないと言うのもある

 

「早く目的の品を見つけるとしようぜ。血が多すぎて正直気分が悪い」

 

雄一郎の言葉に判ったと返事を返し、俺達はヤカンや飯盒を探して歩き出すのだった……

 

「ちょっと凹んでいるみたいですけど、どうですかね?」

 

カソ達が警戒してくれる中、必要な道具を探す。カソ達が見張ってくれているから安心して捜索する事が出来る、その安心感はやはり大きいなと思いながら、倒れている陳列棚が飯盒などの棚で、その下から引っ張り出した飯盒を久遠教授に見せながら尋ねる。久遠教授は凹んでいても使えれば構わないと言ってくれたので、雄一郎が棚を持ち上げてくれている間に飯盒を2つ引っ張り出す

 

「サンキュ。もういいぜ」

 

雄一郎は棚をゆっくりと下ろし、額の汗を拭いながらYシャツのボタンを外し手で扇ぎながら

 

「どうもここら辺は蒸し暑いな、それに獣臭い」

 

【ヌ、すまぬ……だがテキドにセマク、クライここはイゴコチガイイ】

 

そう言われるとそうだよな……カソがいる事でホームセンター全体の温度が上がっているらしい、俺の契約しているカソがすまないと言うが、カソが悪いわけじゃないので気にするなよと笑うが、汗臭いのはさすがに問題か……風呂やシャワーなんて出来る訳が無いし、服だってずっと着たままだからめちゃくちゃくさい。俺や雄一郎はいいけど、美雪先輩や桃、久遠教授の替えの服はどこかで手に入ると良いんだけどな

 

「確かに……結構匂いますよね」

 

「うん……お風呂入りたいなあ……」

 

はあっと深い溜息を吐く桃と美雪先輩。久遠教授はそんな2人を怒る訳でもなく、顎の下に手を置いて

 

「ドラム缶でも見つけて五右衛門風呂でもするか?まぁ、街中では無理だけどな」

 

ドラム缶かぁ……でもそれを見つけても運ぶ手段も無い。やっぱり風呂は今は諦めるしかないなと思いながら歩いているとスポーツタオルを見つける、袋に包まれているのを見て間違いなく新品

 

「コロポックルに氷を作ってもらって、それを溶かしてお湯にしてそれで身体でも拭きましょうか?」

 

これくらいしか出来ないけど、少しは気分転換になるかもしれない。そう思いタオルを桃に手渡すとコロポックルとカソが

 

【氷作るか?ワシは別に構わんぞ?】

 

【ホノオもヨウイスル】

 

俺達を気遣ってくれているカソとコロポックルにありがとうと返事をするが、ホームセンターでそんな事をするわけにもいかないので後でなと声を掛け、倒れている棚を雄一郎と見て回る。桃や美雪先輩はまだ辛うじて経っている棚や、商品の陳列台を重点的に見て貰っている

 

「ありました!ヤカンです!これはちゃんとしてますよ」

 

「ありがたいな。飯盒と違って、ヤカンは凹んでいると不味いからな」

 

ヤカンと飯盒……あとは釣竿とテントか……テントは最悪無くても良いけど釣り竿は確保したいな。雄一郎にどの釣り竿を確保するんだ?と尋ねると雄一郎は少し考え込む素振りを見せてから

 

「渓流竿で良いだろう?ルアーがあるならルアーロッドもいいと思うが、渓流竿なら地面を掘ってミミズでも見つければ釣りになるからな」

 

じゃあ、テグスと釣り針が確保できるといいなと話をしながら、久遠教授達に釣具コーナーを見ましょうと声を掛け、そちらに歩き出したのだが

 

「うっわ……殆ど何も残ってねぇ」

 

かなりの品数と種類があったはずの釣具コーナーは殆ど空っぽだった。ショーケースや、棚の中に保管されていた竿も何かで破壊されたのか、ボロボロの状態で中身は空っぽだった。やっぱり海が近いから、考える事は同じか……

 

「楓。無理そう?」

 

「楓君。笹野君、大丈夫ですよ。皆いますから、自分達で釣竿だって出来ますよ」

 

心配そうに尋ねて来る桃と励ましてくれる美雪先輩に大丈夫ですと言いながら陳列棚ではなく、倒れている商品棚を見ながら腕まくりをして

 

「雄一郎手伝ってくれ」

 

「ああ」

 

2人で倒れている棚を掴んで持ち上げる。するとバラバラと小物が床の上に落ちる、棚を離れた所に下ろし雄一郎と一緒に落ちた品物を確認する。テグスの1.5と2.5……少し太めだけど、これは我慢するしかないな。

 

「ガン玉と針もある、やっぱりこっちも大きめだが何とかなりそうだ」

 

よし、竿は最悪木を削るか、手釣りでやれば良い。それを不思議そうな顔をしている桃と美雪先輩に手渡す、多分釣りと言えばリールを使うものしか知らないんだろうなと苦笑しながら

 

「竿が無くても、糸と針があれば釣りは出来る。これで魚も捕まえれると思うよ」

 

ただ糸と針が大きいから、そこが不安だけどと付け加える。でも入手出来ただけ良しとするべきだ。その後もキャンプ用品コーナーを捜索し、テントも見つける事が出来たが、カンテラやマッチを見つける事は出来なかったが、使える人間が居なかったのか、ファイヤースターターを見つけた。だけどカソが居るから火については心配していないが、念の為に確保しメルコムの店の方にに戻ろうとするとバックヤードの扉が開き

 

「よ、良かった!ま、まともな人にやっと会えた!!!お願い!助けて!」

 

ぼさぼさの長い髪の女性が俺達を見て助けてと叫んで俺達の方に走り出した瞬間。生々しい音が響き、女性の上半身が消し飛ぶ。突然の事に一瞬呆けたが、血溜まりの中に上半身が落ちた事で正気に返り

 

「「うわあああああああッ!?!?」」

 

「「きゃあああああああッ!?!?」」

 

ついさっきまで生きていたのだ、それが突然死んだ。その光景に思わず俺も雄一郎も美雪先輩も桃も叫び声を上げた、人の死を見て完全に平常心を失った俺達の目の前に上半身だけで動く青白い顔をした女性が現れる。だがその目は真紅に輝き、口元から鋭い牙が生えているのを見て人間じゃないのは一目で判った。そしてその異形を見た久遠教授が顔を歪めながら呟いた。その異形の名前を口にした……

 

「てけてけかッ!」

 

それは口裂け女よりも遥かに厄介で生きている人間を全て殺す事を目的にした都市伝説の存在……列車事故で下半身を失ったとされる女性の異形……てけてけが俺達を見据え不気味に笑うのだった……

 

 

チャプター11 想鬼てけてけ

 




次回はてけてけ戦となりますが、てけてけってかなり有名ですが、知らない人は居ませんよね?実はそこが心配なのですが知っていると言う前提で進めさせてもらいます。もし知らない人は検索してみてください、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

PS

種族は想鬼(そうき)、都市伝説全般の悪魔は想像された鬼と言う事でオリジナルの種族として出します。基本的には都市伝説に語られる情報で撃退出来るまたは都市伝説の流れの通りになると必ず死ぬ。対処法を知らなければパトラッシュになるイベントボスと思ってください

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