昨日お試し小説置き場に投稿してみたのですが、短編で投稿した方がいいのでは?と言うアドバイスを貰ったので短編で投稿してみることにしました
女神転生シリーズやデビルサバイバーなどのアトラスの作品が好きなので、それらを参考資料とし書いてみました
稚拙な所もあると思いますが、ご意見や、連載希望などありましたら続編も考えてみようと思っています
それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします
チャプター0
どうも混沌の魔法使いです
最近スランプなので気分転換でダークファンタジー風の小説を書いてみました
私としては珍しい「Rー15」「残酷描写」ありの作品です
試作作品なので荒い所もあると思いますが、よろしくお願いします
後ご意見などをいただけると非常に嬉しかったりします
試作作品
「守護霊様、守護霊様。どうか私の呼びかけにお答えください」
暗い部屋の中で青年の言葉が響く、その青年は窶れ、無精ひげも伸ばしっぱなし、しかし眼だけは異常な光を帯びていた
「どうか私の前にその姿を現し、私をお守りください」
男の前に血文字で描かれた魔法陣が描かれた紙と蝋燭の炎だけがゆらゆらと揺らめいていた
「……っくそ……だよなあ。んなもん出てくるわけねえよなあ……都市伝説だもんなぁ」
血文字で書いた魔法陣の中心に座り、守護霊様に呼びかけ守護霊様を現世に呼び出す。そんな下らない都市伝説……
「くそ……こんな筈じゃ、こんな筈じゃなかったんだ……」
男は地元では天才児と持て囃され、田舎から都会に出て来たのだが、苦しい家計をやりくりし神無(かんな)市の大学へと通わせてくれた両親。確かに男は地元では優秀な男だったが、神無市では下の下。とてもではないが大学に付いて行けるだけの学力は持ち合わせていなかった。
「くそくそくそっ!!父さんと母さんに何て言えば良いんだよッ!!!」
男は努力した。だが所詮は田舎で天才と言われた男、勉強しても勉強しても授業に追いつくことは出来ず。遂には留年が決まり、そこからは負の連鎖が始まった。学業から逃れるようにギャンブルに、遊びに逃げ。気が付けば借金まみれなり、大学に行くことさえ叶わなくなった。追い詰められすぎた男は遂にこんな下らない都市伝説にまで手を出したのだ、守護霊様の力を借りればきっと何とかなる。そんな思いに突き動かされ、だが実際は守護霊様なんて現れる訳も無く、自分の惨めさを思い知らせる……だけの筈だった
「え?」
魔法陣が光り輝き、そこから何かが姿を見せる。それは巨大な獅子の姿。それを見た男は歓喜した、守護霊様が現れてくれた、これで勉強の遅れを取り戻すことが出来る。これほどまでに力強い守護霊様だ、きっと自分にもそれだけの才能が隠れているんだ……男はそう思い、獅子に手を伸ばしてしまった……
【グガアア】
「え……お、俺の……手……?あ、あぎゃああああ!?イダイ!イダイイイイイッ!!!!」
獅子は伸ばされた腕を一瞬で食いちぎった。一瞬で消え去った自身の腕に一瞬呆けた男だが、噴水のように噴出す血を見て脂汗を流し、その場にのた打ち回る。だが獅子はそんな男を見て、食べかけた腕を吐き出し、その牙を男に向ける
「あ、いや、来るな。いや、いやだああああああああ!!!がぼあっ!?」
自分が呼び出した物が守護霊などではなく、自分を喰らおうとする捕食者だと気付いた男は、泣きながらその獅子から逃げようとしたが逃げ切れるはずも無く……男は頭から一気に食いちぎられ絶命した……
【ガルルルルルルッ!!!】
男の悲鳴が収まったその部屋からは肉を租借する不気味な音だけが響き続けるのだった……
大量の本が積み重ねられた机に頭を預け眠っている青年。よほど疲れているのか、窓から明るい光が差し込んでいるのだが青年は気持ち良さそうに寝息を立てていた
【♪~♪~♪】
「ふがあ!?」
携帯から流れてきた軽快な音楽によって目を覚ましたのだが、それが良くなかった……勢いよく立ったことで積み重ねていた本が崩れ落ちてきたのだ
「あわわわ!!!あいたたた」
崩れてきた本の角が当たり、痛い痛いと叫びながら青年は本をどけながらスマホを手にし
「やば!もう8時!?やっべえ!間に合わない!!!」
慌てて机の上から昨日徹夜して作ったレポートを取り、鞄の中に詰め込み慌てて家を飛び出す。
「っとと!鍵っと!」
階段を駆け下りかけたが、慌てて引き返し家に鍵を掛ける。表札に掛けられた青年の名前は「新藤楓(しんどうかえで)」と書かれていた
「うっわ……やっちまった」
電車に乗ろうと走ってきたのだが、ギリギリ間に合わず。行ってしまった電車を見て深く溜息を吐く。ギリギリで間に合うはずだったのだが、パトカーや警察が何人も居て、通行止めの場所もあったので出発時間に間に合わなかった
「今日教授来てくれてるのにぃ……」
俺が通う神無私立高等学校は隣の敷地に大学と隣接した高校で、大学まではエスカレーター式になっており、偏差値の高さから入学難易度は当然高い。俺はお世辞にも頭が良いとは言えないが、俺がこの高校に入れた理由の1つとして、高校にしろ大学にしても、民俗学に力を入れており、民俗学の研究をしている生徒は優先的に入学させてくれる。高校自体も4階建てのかなり巨大な学校で、学校の中に様々な民俗学の研究室などを幾つも所有しており、更にはその道の専門家も教員として雇って居るのだ。故に民族学者を志す物にとっては登竜門とも言える。そして俺がこの高校を選んだ理由の1つに久遠教授を1週間に1度招いてくれているのが最大の理由だ。彼女は民俗学の権威で、彼女の論文は俺も何度も何度も目を通した。そして彼女に教えを請うために俺は態々地元の出雲から神無市に来たのだ。
「うっわあ……これ間に合わないよなあ」
走って行ってもどう考えても間に合わない。教授に見てもらおうと思っていたリポートが……タクシーを呼ぶか悩んでいると
「おーい、楓ー!」
俺の名前を呼ぶ声に振り返ると、健康的に日焼けをした長身の男子が単車から手を振っている
「神の助け!!雄一郎!乗っけてくれえ!!!」
「笹野雄一郎(ささのゆういちろう)」。クラスメイトで野球部のエース……だったんだが、去年の地区大会で肘を故障し、
今は野手に転向しようと努力している。俺の友達の1人だ。学力はそれほどではないのだが、スポーツ推薦と父の転勤と言う事でこの高校に入学してきたのだ
「良いぜ、じゃ!学食でカツ丼な!!」
「くっ!判った!それで頼む」
今月はアルバイトも減らしているので、正直カツ丼を奢るのは厳しいが、遅刻するわけにも行かないのでその要求に頷くと、即座にヘルメットが投げ渡される、俺は雄一郎に駆け寄りながらヘルメットを被り、雄一郎の運転する単車の後ろに乗るのだった……
「セーフッ!!!」
慌てて教室に駆け込む。今日は1日自身の所属する研究会での講義。もし遅刻していたら生徒指導の教員に捕まって、長話と反省文を書かされる事になる。そうなると下手をすると、2時間は補習室に缶詰になる。当然そんな下らないことで時間を潰すのは無駄以外の何者でもない、だからチャイムの前に来れて本当に良かった……机の上に突っ伏し安堵の溜息を吐いていると、視界の隅に赤いスカートが入って来た
「楓~また夜更かし?駄目だよ?夜更かしは健康に悪いんだから」
頬を何度も突かれ、溜息を吐きながら姿勢を正すと幼馴染が悪戯っぽく笑っていた
「桃かぁ……久遠教授にレポートを見て欲しくてな。つい張り切っちまった」
それは仕方ないねとくすくす笑う女子生徒。若干茶色の掛かった黒髪をツインテールにしたその女子生徒の名前は「紅桃子(くれないももこ)」俺と同じ出雲の中学からこっちに来た生徒で幼稚園・小学校・中学校と全部同じクラスの幼馴染だ。俺は民俗学を学びたいのでこの高校を選んだが、桃は民俗学に興味など無く、この高校に来ることに何の旨みも無いのだが、俺と一緒の高校に行くと言って着いて来たのだ。ただ俺としても、知り合いが誰も居ない神無市で学生寮で暮らすという不安はあった。だから着いて来てくれた桃には正直感謝してる
「楓、知ってる?今日駅の近くのマンションで人が死んだんだって、ニュース見た?」
駅前?だからあんなに警察が居たのか……桃から聞いた話で何であんなに警察が居たのか?その理由が判り納得していると
「ああ、その話か。俺も知ってるぜ、なんでもまるで獣に食われたみたいにボロボロだったらしいな」
獣?こんな街の真ん中に?そんなのはありえない。となると色んな器具を使って、喰われたかのように偽装工作をしたんだろうが、正直そんな事をするならどこか山の中にでも埋めたほうが見つからないだろうに……
「随分と猟奇的な犯人だな。態々そんな風に偽装して殺すなんて」
獣に食われたように現場を演出すれば、それだけ指紋などの痕跡が残り特定されやすくなる。よほど殺された人間を憎んでいたのか、それともただ単に猟奇的な殺人鬼なのか……何にせよ、1人で電車に乗るのは危ないかもしれないな。駅前で次の犠牲者を物色している可能性も考えると着いて来る危険性が高い。
「桃、なんかあったら危ない。今日は一緒に帰ろうぜ」
「うん♪なにかあったら護ってね♪」
桃は俺から見ても美少女だ。犯人に目をつけられる可能性も高い、だから今日は女子の学生寮まで桃を送って行こうと思っていると、教師が入って来たので俺達は自分達の席へと戻るのだった……
「桃は今日どうするんだ?お前って何かの研究室に所属したのか?」
SHRも終わり、研究室に行く準備をしながら桃にどうするのか?と尋ねる。研究室に所属していない桃は今日は休んでも良いのだが、学校に来ている桃にそう尋ねると
「んー今日は保険室で薬品のチェックとか、搬入の日だからね。手伝いに来たの、終わったら楓の研究室に行くね?一緒に帰るんだし」
「別に良いけどまた泣くなよ?」
久遠教授の専門は妖怪学。存在しない筈の妖怪や悪魔がどうして生まれたのか?その理由となった昔の出来事や、悪魔や妖怪の話を専門としている。そして桃は怖がりで何度も研究室に来ているのだが、その度に号泣しており。来るのは良いが、泣くなよ?と言うと
「もう!楓のバーカッ!そんな事言う楓は嫌いだよーだ!!!」
べーっと舌を出して走って行く桃。この子供見たいな反応が可愛くてついからかっちゃうんだよなあっと苦笑していると相変わらず仲が良いなと雄一郎が笑いながら近寄ってくる
「楓、今日は俺もお前の研究室に行って良いか?」
バットケースを担ぎながら尋ねて来る雄一郎。今は練習しないといけないって言ってたのにどうしたんだ?と尋ねると
「部活に参加できないなら、研究室に行けって言われてな。そう言う訳で知り合いの居る研究室が良いと思ってるんだ」
他にも見学しろって言われてるけど、やっぱり知り合いのいる方が心強いだろ?と笑う雄一郎に頷き
「うっし、じゃあ行こうぜ!久遠教授には俺が説明してやるからよ」
「助かる」
そう笑う雄一郎と一緒に教室を後にしたのだが、ずっと続くと思っていた日常が後数時間の間に崩れてしまうなんて、俺も雄一郎も、そして誰も想像なんてしなかっただろう……
教室を出て、大学へ続く渡り廊下を通って大学の2Fの久遠教授の研究室に雄一郎と向かう
「楓、忘れるなよ。カツ丼を」
「判ってるって」
カツ丼を忘れるなよ?という雄一郎にくどいぜと笑いながら歩いていると、雄一郎が立ち止まる
「どうしたんだ?」
雄一郎の視線の先には野球部の練習している姿があった。肘の故障さえなければ雄一郎もあそこで練習していた筈だ……真剣な表情でグランドを見つめている雄一郎を見ていると
「あ、すまない。急ごう、遅れたくないんだろ?」
俺の視線に気付いた雄一郎が頬を掻きながら笑う。ここで下手に気遣うと雄一郎が可哀想だと思い
「ああ、急ごうぜ。久遠教授にも紹介しないといけないからな」
だからあえて野球部の事には触れず。急ごうと声を掛け研究室に向かって歩き出した
「楓君おはようございます……あら?後ろの方は?」
「ちっ、もう少し空気読めや」
ニコニコと笑う美しい黒髪を腰元まで伸ばした女子生徒と、俺を見て不機嫌そうな金髪の男子。女子生徒は「久遠美雪(くおんみゆき)」さん。名前から判るが、久遠教授の娘さんだ。そして金髪の男子は「浜村睦月(はまむらむつき)」だ
(また居るよこいつ)
民俗学などに全く興味の無い睦月だが、1年先輩で学校NO1美少女で生徒会長の美雪先輩に惚れており。こうして入り浸っているが、美雪先輩は睦月を完全無視だ。睦月は空気を読めと言っているが、全く読むべき空気など存在せず。睦月が1人でいい空気だと思っているだけだ
「笹野雄一郎です。研究室見学で友人の居る久遠教授の研究室を見学させて頂きたいと思いまして」
雄一郎が頭を下げながら美雪先輩に言うと、美雪先輩は穏やかに笑いながら
「ええ、判りました。では母が来ましたら私から伝えておきますね」
「え?今日久遠教授遅れているんですか?」
予定時間の5分前行動を心掛けなさい、そう言っている久遠教授が遅れていると聞いて驚きながら尋ねると
「ええ、何でも古い友人が尋ねて来ているらしいので、少し遅れるそうです。所でどうです?今回のレポートは良い出来ですか?」
レポートの仕上がりはどうか?と笑顔で尋ねて来る美雪先輩。
「はい!今回もバッチリです!資料ありがとうございました」
鞄から美雪先輩に借りていた資料を取り出しながら頭を下げる。かなり貴重な文献で借りる事が出来たので今回のレポートは自分で言うのもなんだが、かなりの自信作だ
「美雪先輩。どうですか?俺と一緒に映画館でも「睦月君。邪魔をするならば帰ってください」
俺と美雪先輩が話しているのが面白くなかったのか、映画館にと誘ったが、美雪先輩はきっぱりとした口調で帰れと言う。美雪先輩自身も迷惑しているのに付き纏っている睦月。そのうち何か犯罪でも犯すんじゃないか?と俺は正直思っている。舌打ちしながら邪魔しませんと言って椅子に乱暴に腰掛ける睦月を見ていると
「やあ、遅れてすまないね」
久遠教授が笑いながら研究室に入ってくる。そして久遠教授を見て俺が思うのは何時も同じ事だ
(本当に綺麗だ)
久遠玲奈(くおんれな)40を過ぎているのだが、透き通るような白い肌と腰元まで伸ばされた艶やかな黒髪。そして男性だけではなく、同姓さえも惹きつけるであろう完璧すぎるプロポーション……とても子供を1人生んでいるようには見えない、そして本当に何度見ても緊張する。あの闇夜に浮かぶ三日月のような目で見つめられるだけで、心の中まで覗かれている様な気がする……隣であんぐりと口をあけている雄一郎に
(おばさんとでも思っていたか?)
名前は有名だが、あんまり表に出ることの無い久遠教授だ。40過ぎという年齢でおばさんだと想像していたであろう雄一郎にそう言うと、雄一郎は
(あ、当たり前だ。あれで45だと!?どう見ても20代後半にしか見えないぞ!?)
その言葉には俺も同意しよう。俺も初めて久遠教授を見た時に久遠教授の娘さんですか?と尋ねてしまったのだから
「楓君。今回のレポートを見せてもらおうか?君のリポートは実に面白いからな」
「よろしくお願いします!」
自信作のレポートを手渡すと久遠教授は穏やかに微笑みながら、リポートをゆっくりと捲り始める
「うん……うん……なるほど、今回は都市伝説も調べてみたのか、良い着眼点だ」
褒められた事に思わず笑みが零れそうになるが、雄一郎や睦月もいるのでそれを必死に耐える
「うん。今回も良いレポートだ、10点をあげよう」
初めて10点評価を貰った!今までは7点や8点だったので10点評価は本当に嬉しい、それから久遠教授の講義が始まる。ノートを取り始めて1時間ほど経った所で
「よし、美雪。今日は実験をしてみようか」
実験?久遠教授の言葉に驚く、フィールドワークなどは何回もあったが、実験というのは初めてだ
「実験ですか?一体何の?」
美雪先輩も驚いた表情をして、久遠教授に何の実験をするのですか?と尋ねる。すると久遠教授は今まで見たことも無いぞっとするような笑みを浮かべて
「守護霊様というのは知っているかな?」
もしこの時知っていると返事をしなければ……あんな悲劇は起きなかったのかもしれない……今思えば、これが人類に与えられた最初で最後の選択肢だったのだ……
「守護霊様ですか?最近の都市伝説ですよね?」
確か血で魔法陣を書いて、その中心に座って呪文を唱えるって言う……思い出しながら言うと、睦月と雄一郎が露骨に嫌そうな顔をするが、久遠教授はその通りと笑いながら
「守護霊を呼び出す儀式。当然ながらそんな物は存在しないと思うが、なんでそれが生まれたのか?というのは気になる。もしかすると一種のトランス状態で本当に守護霊を呼び出しているのかもしれない、実験してみる価値はあるだろう?」
確かにその通りだと思うが、血文字で魔法陣を描くと言うのは些か度が過ぎているのは?
「まぁ物は試しだ、伝手のある病院から輸血用の血液パックを貰って来た。これで早速やってみようじゃないか」
準備が良いなと思いながらも、血液で文字を書く。その事に若干の恐怖心を抱きながらも、好奇心を押さえ切れず俺は久遠教授にやります!と返事を返すのだった
「美雪、そこから40度の角度で鋭角文字を書くんだ。睦月君はゆっくり丸を描け、雄一郎君、筆がもう駄目だ。新しいのを寄越せ」
久遠教授の指示に従い、研究室に置かれた机を部屋の隅に動かしてから魔法陣を描くのだが。大きい、小さな紙に描くものだと思っていたのだが、12畳ほど研究室のほぼ全体を使った巨大な魔法陣を5人で描く。これで書き始めて2時間だが、まだ書き終わらない、何度も輸血パックを開けている上に、血の匂いがすれば邪魔が入ると言う事で研究室の中は吐きそうなくらい血生臭く、早く実験を終わらせて窓を開けたいと思いながら、必死に筆を動かし続ける。正直なんでこんなに巨大な物を書く必要があるのか?という疑問は残るが、久遠教授には何か考えがあるのだろうと思い、その指示に従う。
「おえっ……気持ちわる」
「うむっぐ」
「母さん、流石にやりすぎなのでは?」
吐き気を抑えきれない雄一郎と睦月を見て、美雪先輩がそう声を掛けるが、久遠教授はまだまだと笑い、それから30分後。やっと魔法陣が書き終わった。血の匂いが充満していて、吐き気が収まらない。もしこれを見られたら大変な事になるかもなと思っていると、久遠教授は魔法陣を見て満足そうに頷きながら
「なに、これで終わりだ。よし、では楓君、睦月君、雄一郎君、そして美雪。魔法陣の中で呪文を唱えるんだ」
呪文を久遠教授に教わり、4人で魔法陣の中に入る。そしてその瞬間に思ったのは
(なんか生贄みたい)
俺達自身が生贄みたいだなと思いながら、4人で声を揃えて
「「「「守護霊様、守護霊様。どうか私の呼びかけにお答えください、どうか私の前にその姿を現し、私をお守りください」」」」
目を閉じて教わった呪文を唱える……だがやはりと言うか、当たり前と言うか……何も起きない
「守護霊様なんて出るわけねえよなあ。ったく気持ち悪いだけだぜ」
睦月が不機嫌そうにそう言った瞬間。バシっと言う強い音が研究室の中に響き渡り
「え?嘘……本当に!?」
美雪先輩の前に光の柱が現れ、そこから10センチほどだろうか?小さすぎる人影が姿を見せる、だがその背中には蝶を思わせる羽が存在していた
(ピクシー?イングランドの?)
妖精ピクシー。色々な神話に登場する悪戯好きの妖精……だよな?本当に妖精なんて存在していたのか?と言うか美雪先輩って悪戯好きなのか?守護霊様という割には美雪先輩とは随分イメージが違うな
「うおっ!?こ、今度は俺か!?」
雄一郎の悲鳴に振り返ると、鮮やかな色合いの着物を着たこれまた10センチ程度の大きさの人影が現れる。その手には蕗の葉っぱ……
(今度はアイヌのコロポックル!?)
蕗の下の住人と言われる、かつて北海道に暮らしていた民族アイヌ民族の伝承に出てくる妖精だった。当然ながら屈強な雄一郎のイメージからは程遠い
「はっはははは!すっげえ!なんかすっげえの出てきたぜえ!!」
睦月の興奮した声に振り返ると、睦月の目の前には鉄の鎧を来た、狼人間が現れようとしていた
(狼人間?いやあれは何だ?)
犬の顔に人間の身体?……なんだ?どっかで見たような……判らない何かを必死に思い出そうとしていると
「うわあ!?え!?え?今度は俺か!?」
俺の足元から光が放たれ、そこから姿を見せたのは小型犬ほどの大きさの燃える鼠……燃える鼠……燃える鼠?
「火鼠の皮衣の火鼠か!?」
あの有名な竹取物語で出てくるかぐや姫が要求したと言う火鼠の皮衣。その火鼠か!?本当に存在したのか!?伝説上の生き物を前に興奮していると睦月が火鼠を見て馬鹿にしたように笑いながら
「はっはあ!お前鼠かよ!情けねぇ!見てみろ!俺の凄い守護霊をなあ!!!」
興奮した睦月が自分の目の前に現れた狼人間に手を向けた瞬間。まるで木の枝が折れたような音が響き
「あ?……あ?え……ぎゃああああああ!?!?俺の腕アアアアアアアア!?!?」
睦月の右腕がありえない方向に曲がっている。そして次の瞬間
【グルゥッ!!!】
「げぼあッ!?」
狼人間の振るった右拳が睦月の右頬にめり込む。その瞬間骨の折れる音が響き、睦月の首が捩れる、背後に居た俺と光を失った睦月の目が交差する。スローモーションのように倒れこんだ睦月……一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、狼男が倒れている睦月の腹に噛み付いた瞬間……噴水のように溢れ出した血液と肉を租借する音が研究室に響いた瞬間……停止していた時間が一気に動き出した
「「う、うわあああああああああッ!?!?」
「ッきゃあああああああッ!!!!」
俺と雄一郎と美雪先輩の悲鳴が重なる。最初俺は自分自身が叫んでいる事に全く気付かなかった、だが気が付けば俺は自分でも驚くような叫び声を上げていた
「逃げろッ!!!」
自分が叫んだのか、雄一郎が叫んだのか判らないが、誰かがそう叫んだ。逃げる為に研究室の出口に向かった瞬間
「止まれ!!」
久遠教授の怒声に立ち止まった瞬間。俺達の目の前を電撃の塊が通過していく……まさか……冷や汗を流しながら振り返るとそこには俺の予想とおり
【くすくす♪当らなかったね】
【かっか!仕方あるまいて。だがそれも長くは続かぬよ】
【カイホウサレルタメ、キサマラハシネ】
狼人間と同じように、はっきりと目の前に存在している俺達自身が呼び出した者達が存在し、その目に殺意を浮かべて俺達を見据えていた、睦月が狼人間に喰われる音だけが響く研究室に閉じ込められた。次は自分達が睦月と同じ目に会う、それを理解した瞬間俺は恥も外聞も捨て
「なんだよ。何なんだよ!何なんだよ!!!これはあああああああ!!!」
理解出来ない現象に俺は混乱したままそう叫んだ……この日から、人類と悪魔の種の存亡を賭けた戦いが始まるのだった……