※注意事項※
オリジナルPオリジナル設定マシマシのギャグ小説です。
今回は鷺沢文香中心の三人称視点でお送りいたします。
ちひろさんは天使のようなお方です。
以上三点をご理解頂ける方はお進みください。
-追記-
自分で設定資料として名簿を作ったところ、早坂と福山の間に姫川が入ったため該当箇所修正。
「ねぇ、Pチャンってさ。ロリコンなんじゃないかにゃ」
はあ。不意をつかれた一言にため息とも呆れとも疑問とも取れない微妙な声が漏れ出た。当の少女は、特に何とも思っていないようでスマホをぺらぺらと流し見ながら続けた。
「だってほら、みくたちは『前川さん』とか『鷺沢さん』とか、苗字にさん付けで呼ぶじゃにゃい?」
「…………はあ、確かにそうですね」
手にしていた文庫本に栞を挟んでテーブルに置き、本格的に話を聞く姿勢をとる。その対面に座る少女も、横向きに寝転がっていたのを改めてソファの上にちんまりと膝を抱えていた。ご丁寧にも足下の靴をきちんと揃えて。
「ケドさ、舞チャンだけ『舞』だよ?」
福山舞。二人の後輩に当たる彼女は確か今年で10歳。普段は佐々木千枝、的場梨沙、龍崎薫達の年少組と共に仕事をしていることが多いイメージがあった。確かにPとも20以上は離れていて、十分幼女と呼べる年齢だ。
そして普段の光景を思い返せば確かに、彼は彼女のことを『舞』と呼び捨てにしていた。
「……ですが、Pさんは既婚者ですよね? それならば舞ちゃんを性愛の対象として見ているわけではないんじゃないでしょうか」
それはちがうにゃ!
いきりたち、ダンとテーブルを叩いた少女に少し驚いて、その身を跳ねさせた。驚いてしまったことに対する気恥ずかしさから、小さく身をよじり直ぐに姿勢を正した。
「Pチャンが今、休暇を貰って旅行に行ってるのは知ってるにゃ?」
「ええ、確か今日まで────」
「そう、そこ! そこでこのうちのアイドル全員分のスケジュール表!」
ビシィ、と力強く指差さされたホワイトボード。
それには、所属アイドルの名前のクリップと1週間先までのスケジュールがかなり細かく書かれている。安部、イヴ、一ノ瀬と始まり少し飛んでみればクラリスと佐久間に挟まれた鷺沢や、姫川と共に福山を挟む前川の名前もあった。そして、少女の指差す福山のスケジュール欄を見てみると。
「休暇…………ですね。ちょうど、Pさんの休みと重なってます」
「でしょー!?」
「………………??????????????????????????????????????????」
「文香チャンがガチで分からない時の顔久しぶりに見たにゃ……」
「つまり、前川さんはPさんが舞ちゃんと一緒に何処かへ行くために休日を合わせたんじゃないか、と?」
「そう!」
「…………ですが、新田さんやクラリスさんもそこの三日間はお休みですし、失踪分も合わせれば志希ちゃんさんもお休みですよね?」
志希ちゃんさん…………? 謎のあだ名センスにか、首を傾げながらも少女はやれやれと言った風にはふーとわざとらしくため息を吐いた。少しイラっとするのは何故だろうか。
「美波チャンは前日からお休みだし、クラリスさんは自動車の教習所、さらに言えば失踪は休暇じゃないにゃ。やっぱりPチャンは────」
「Pさんのお話ですかぁ?」
「マ゜ーッ!?!?!!?」
にょきり、と少女の後ろから赤いリボンが生えてきた。
奇声の後から横から飛び出さんとする喉を裂くような悲鳴を何とか圧し殺し、少女はバクバクと煩い心臓に手を当てて振り向く。
「ま、まゆチャン……もしかして、聴いてたり?」
「はい、まゆですけど。今来たばかりですよぉ?」
のほほんぱよえーんと効果音がつきそうなほどに平和な笑顔を見せる少女。優しく見えるが実際優しい。しかし少しばかり男女観念が旧式ザクでジムノットカスタム。生真面目な性格なのだ。
先ほど少女が言ったようにPが浮気をしている、それも20は離れた子供と。なんてことを聞いたら彼女のハイライトさんはたちどころにお亡くなりになってしまうだろう。その数十分後にはPとも今生の別れを済ませる羽目になることは想像に難くなかった。
「そ、そっか。なら良かったにゃ……」
「Pさんも、舞さんも今日帰ってくるんですよねぇ?」
「へ?」
「────たしか、兵庫のご実家に行ってるんでしたよねぇ」
ぴぃっ、と少女が小さく鳴いた。
Pは夫婦共に関西の出身だったはず。数年前までは向こうのTV局で働いていたが、ちひろさんからのお誘いを受けて東京に事務所を新設し、ちひろさん、P、そして初めてのアイドルである菜々さん、それにPの奥様に手伝ってもらい、3人+1人で始めたこの事務所ももう立派に成長したものだ、と懐古趣味のおじさんの様な声音でそんな話をお酒の席──無論、自身はオレンジジュースで乾杯した──で聞いた覚えがあった。
それでもPの実家が兵庫にあるなんて聞いた事はなかったし、今回の休暇で実家に帰るだなんて事も聞いていなかった。
彼女らでさえ知らない情報を、この少女が知っている。それが意味するのは何であろうか。つまりサイキックですね!
急に部屋の温度が幾らか下がり、ずももと暗黒のオーラが優しかった少女を包む。
「お土産は何でしょうかねぇ。楽しみです♪」
…………なんて事はなく。少女はうきうきとした表情でPの帰りを楽しみにしているようだった。拍子抜けしたように少女と目を見合わせて何度が瞳を瞬かせる。
「ちょ、一回タイム! まゆチャン目瞑って!」
「は、はい? いいですけど」
落ち着くために少女は一度タイムアウトを貰い、意味も分からぬ状態でも言われた通り目を塞ぐ少女に一瞬ほっこりしつつ、ちょいちょいと手招きされるまま少女に近寄る。耳を貸してと言われたので少女に耳を近づけた。
「まゆチャンの言う通りなら、Pチャンと舞チャンはPチャンの実家に行ってるわけなんだよね?」
「…………ええ、そういうことになるのでしょうね」
ぽしょぽしょ、とこそばゆい感じを我慢して少女の小さな声に耳をすませる。目を瞑ってもらっても、会話しかしないのであれば筒抜けなのではとも思ったが、少女は興奮気味だ、小さなものでも刺激はしない方が良さそうだった。
それにしてもPの実家である。少女と、二人で? 何をしに? 両親への挨拶。最悪の言葉が脳裏をよぎる。肝が冷え、それに伴った脂汗がジワリと浮かんだ。
「それをまゆチャンは知ってるんだよね、もちろん」
「まあ、こうしてまゆさん自身が言っているわけですし……間違いないでしょう」
「つまりどういうことにゃ?」
どういうことなのだろう。首を捻り、全く分からないですのオーラを放つが、悲しいことに少女からも全く同じオーラが返ってくるだけだった。
ちらと様子を伺えば律儀に両手を使って目を覆う少女の姿。この少女もまた、Pに恋慕を寄せていた。彼が少女と出会った頃には既婚者であったが故に、間接的にフラれて成長したのだろう。今では大人しく優しい、少しポンコツな少女である。だが、その彼自身が幼い少女に手を出したなんて事を少女が知ったのなら…………誠氏ね大変なことになるだろう。
しかしその様子はない。今の彼女はどこからどう見ても大人しくて可愛くて少々抜けたところもあるが優しく重ねて可愛く可憐な少女である。
「みくちゃん、まだですかぁ?」
重ねて言うが少々抜けたところもあるのだ。そこもまた可愛いとネットでは評判なのである。
「…………推測ですが、あの年頃の児童が性愛の対象になり得る事を知らない、とか」
「…………ありそうだにゃ、それ」
ロリータは文学作品として目を通してはいる。趣味趣向としてあり得る事は分かっているが、そんな自身でさえロリコン、なる人物は容疑者を含めても1人しか知らないのである。ならば彼女がそんな嗜好自体を知らなくても何ら不思議ではない……と思う。
幼女は対象に取れない。そう思っていてもおかしくはない。
トリシュ「来ちゃった♡」
「ともかく、まゆチャンには言わない方がいいにゃ?」
「そうですね、我々だけで解決できるならそうすべきです。さすがに曰く付きの事務所で働く気はありませんから」
「う、うん、そだね。まゆチャン。お待たせしたにゃ」
「はぁい」
ふぅ、と3人の呼吸が揃った。
「ところで────」
「まゆに、何を言わない方がいいんですかぁ────?」
「もしかして────」
「なにか、疚しいことが────」
「あ る ん で す か ぁ ────?」
「ギニャァァァーッ!!??」
ネコキャラからネコミミを奪うという暴挙にでた少女。普段の温和な性格からは想像も出来ない残虐な行為に無意識に頭のアレを守るようにして震える。いや、
くるり、と少女であったナニカが此方を見た。それだけで空気が凍りついたような寒気が体を包み、身震いする。
「えいっ♡」
「…………あっ」
普通に頭のアレを取られてしまった。一生に何十回以上はあるくらいの小さな不覚であった。
「…………まゆには教えられないんですか?」
奪った頭のアレとネコミミを自分で身に着け、しょんぼりと凹む少女。ネコミミの持ち主は未だネコミミリアリティーショックから立ち直れずにいる。この場をなんとかしなければいけないのは自分であると気付いた。気付いてしまった。
「…………え、えっと、その」
カツン、カツン、と事務所入口の階段から音がした。これぞ正しく救世主の登場であるかと、期待を持って扉の奥の薄ぼんやりとした影を見つめる。背は低くはない、体格は細身、少なくとも大人ではあるだろう。そして髪型は────
「ただいま戻りました、お土産買って来ましたよー!」
「おはようございます!」
考えうる限りの最悪。少し長めのスポーツ刈りメガネ男子だった。さらに厄介なことに、両手に有名洋菓子ブランドの紙袋を提げたそいつは、お供に小学生を連れていた。
飛んでいきそうになる意識を抑えて、なんとか現世に留まることには成功した。むしろ飛んでいった方がマシだったかもしれない。
「Pさん、おかえりなさい」
「おっ、なんです今日は前川にゃんの代わりに佐久間にゃんですか。可愛いの二つも着けちゃって」
「えへへ」
まさかの当事者のご登場とはこの本のフミカの目を持ってしても見抜けなかった。旧ネコミミ少女は何かアヤシイお薬が切れたかのような挙動をしていらっしゃるし、どうすれば良いのか見当もつかず適当にゆさゆさとトリップしているネコを起こす。ふっと当事者がこちらに視線を向けた。
「そちらが被害者の会ですか」
「…………はぁ、そうですね。そう言えるかも、しれません」
「ハッ、ここはどこにゃ!? みくは誰にゃ!?」
「答え出てますよ」
キャラが崩れていないあたり狸だったなと軽く睨むがひょいと躱される。あっこの野郎。心の中で大凡そんな感じのもう少し丁寧な悪態をついた。
その時である。
「あ、舞。電話取ってくれ。母さんに着いたって連絡入れなきゃ」
「あ、うん!
ふ、と二人の時間が止まった。これはマズい。しかし余りにも突然のことだ。少女の耳を塞ぐことも、Pの口を塞ぐこともできず、不幸にもその文章を耳にしてしまう。全てきっちりと。無駄に良い滑舌のせいで聞き違いも期待はできない。恐る恐る、少女の様子を伺う。
「「…………あれ?」」
佐久間まゆにゃん、ニッコニコであった。
それはもうニコニコである。微笑ましいものを見るような、愛おしいものを見るような。オフショットとして高値がつきそうな。
まるで、
「…………あの、非常に申し上げづらいのですが」
「…………うん、みくも文香チャンと同じこと考えてると思う」
「すっごい恥ずかしい勘違いしてませんかこれ」
「うふふ、ふふ。Pさん、お二人には言ってなかったんですかぁ?」
「福山舞は芸名なんです、本名は都築舞ですよ」
「まあウチのの旧姓なんですけど。まあ、うん、娘です。そうね、言ってませんでしたね。ごめんなさい!」
ペコリと頭を下げるP。静かに笑う少女たち。返事も出来ずぽかん、と大口を開ける二人。注ぐ言葉があるわけもなく思考も吹っ飛ぶ。
娘。Daughter。つまりそれは一等親の直系であり云々。
「それで、様子がおかしかったんですねぇ」
「それにしても、僕が舞とですか? ははは、随分年の差がありますね」
「それにゃ! 元はと言えばPチャンが舞チャンだけ下の名前で呼び捨てにするから紛らわしい話になったのにゃ!」
ほう、と息を吐く。
重い空気など何処へやら。にゃんにゃんと騒がしさが帰って来た。五人でテーブルを囲み、ちひろさんの入れたお茶を飲む。無事、この事務所にもありふれた日常が戻って来たのであった。
すごいぞ! 我らのにゃんみく探偵団! 行け行け! 我らのにゃんみく探偵団!
これ以上文字数が増えると片手間には読み辛いから巻きでお願いしますとかいうカンペなどないのである!
-おまけ-
「や、そんな事を言われましてもね。逆に聞きますけど前川さんは自分の子供を苗字で、しかもさん付けで呼べるんですか?」
「え、呼べるわけないでしょ」
「ほらー」
「にゃああ゛あ゛!!! そっちに合わせなくてもいいじゃん! ほら、プリーズコールミーみく!!!」
「まゆ」
「え、ええ……?」
「まゆ」
「み・く!!!」
「まゆ」
「…………わ、私も、文香で────」
「まゆ」
「いや、あのですね」
「まゆ」
「ダメですっ! お父さんをこまらせないでくださいっ!」
「まゆ」
「ふふん、お父さんを取られるのが怖いのかにゃー?」
「まゆ」
「そんなことないですっ!」
「まゆ」
「いや、ちょっと」
「まゆ」
「「Pチャン/お父さんは黙ってて(ください)!!!」」
「まゆ」
「どうしろってんですか…………?」
「まゆ」
「佐久間さん怖いです」
「まゆ」
「…………まゆ」
「はい、まゆですよぉ♪」
「「ぐぬぬぬ………!」」
「…………ああもう! みく! 舞! 喧嘩おわりっ! ほら、文香もまゆも。ちひろさんも二人を止めてくださいよ!」
「私は読び捨てにしてくれないんですか?」
「えっ、いやちひろさんはちひろさんっていうか…………」
「……スタミナドリンクのお買い上げですね♪ ありがとうございます!」
「なんで!?」
何?娘ならばセーフではないのか!?
雑なのは生まれつきなんです……ユルシテ……(小声)