蟲毒の檻   作:丸焼きどらごん

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注)フリーザ様大勝利エンドになるかと思いきや、気づけば色んな人にとってのバッドエンドになっていたでござる(´・ω・`)


蟲毒の檻 おまけ

 遥かのちに、とある神がひとつの生命体をこう称す。

 

「歪だ。界王神でもないのに"創造"を可能としている。しかし、それがもたらすのは"滅び"だけ」

 

 

 

 

 

 その生命体は、たった一匹の虫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が子供たちの繁栄のため、フリーザの地位を盤石なものにするべく動き出してから早くも数十年の時が流れた。

 

 私にとって本来瞬く間であるはずの時間だが、安住の地を手にいれ、時間という概念をしっかりと知覚できるようになってからは以前より時間を長く感じるようになった気がする。これが喜ばしい事なのかどうかという判断は、残念ながら今の私にはできない。

 

 

 私はフリーザに「新たに予言の力が備わった」とほらを吹き、前世の記憶にある情報を伝えた。最初はうさん臭そうにしていたフリーザだが、私の「何もない所からエネルギーのみで物質や生物を生み出す」能力を省みれば、そのような特殊な力が備わってもおかしくないと思ったようである。最終的には「貴女が、私の機嫌を損なってまでわざわざくだらない嘘をつくとは思えません。……いいでしょう。破壊神にも届きうる強さには興味がありますし、修行とやらをしてみましょうか」という言葉を引き出すことだ出来た。

 たしかに、私はフリーザにすがるしか我が一族の繁栄を手助けすることができないため、彼の機嫌を損なう事は極力避けている。しかしそれが相手に伝わり、理解をしてもらえたのはひとえにこれまで友好関係を積み重ねてきた結果だろう。

 フリーザの気まぐれである可能性の方が高いが、そうだとしてもこんな戯言を受け止めてもらえたのだ。結果としては大成功、といったところだろうか。

 

 

 

 

 私はフリーザに、これから辿る可能性の高い未来について……私の中にある漫画やアニメ、映画においての「ドラゴンボール」と呼ばれる作品群の内容を「予言」として、情報のみを抜き取って伝えた。前世は忌々しい記憶ではあるものの、孤独な時間の中で唯一私が触れられた「自分以外のもの」。……何回、何十回、何百回、何千回、何万回…………飽くほど繰り返し脳内で再生した記憶は、忘れる事も無く未だに私の中に焼き付いている。

 

 そして私の持つ情報の中でも特に重要だったのはフリーザを倒すサイヤ人の男、孫悟空とスーパーサイヤ人についてだったが…………これに関しては、実はあまり心配していない。

 なにしろフリーザは、たった数か月修行するだけで孫悟空の長き研鑽の果てにある…………神の力をも宿したスーパーサイヤ人と同等の力を手にいれることが出来るのだ。だからたとえ孫悟空がスーパーサイヤ人になってフリーザの前に現れようとも、第一段階のスーパーサイヤ人では修業を経たフリーザ……ゴールデンフリーザには敵わない。

 

 故に、サイヤ人に関してはフリーザが修行するならば奴らの母星を消滅させた後、生き残りを泳がしても構わないと言ってある。

 むしろ孫悟空をはじめとしたドラゴンボールの主要人物たちの動向は、予言の信憑性を裏付ける大事な要因となりうるのだ。流石に私も前世の記憶の通りに全てが進むとは自分でも信じられないため、彼らは貴重な情報源。……故に、地球にはフリーザの部下から一名、私の子供たちの中でも優秀なものを一名、孫悟空らの監視のために送り込む予定だ。

 

 

 しかしフリーザは私の情報の中でも、スーパーサイヤ人よりも破壊神ビルスについて興味を示した。

 

 

「ホッホッホ、イプシロータ。この私が、破壊神をも越える可能性を秘めていると?」

『ええ。なにしろ、破壊神ビルスと互角とまではいかなくとも接戦を繰り広げた孫悟空と、修業したあなたは同格の力を有していた。たった数か月の修業でその域までたどり着けたなら、年単位で修業すれば破壊神をも越える可能性は十分にあるでしょう。……しかし破壊神は強さ以上に「破壊」の力を持っているため、界王神を殺してさっさと殺めてしまう事をおすすめしますが』

「破壊神を殺したら、貴女が言う「全王」とやらが私を消してしまうのでは?」

『その心配はいらないでしょう。なにしろ未来で界王神や破壊神をはじめとした、多くの神々を殺した「ザマス」という神に何も制裁を下さなかった方です。おそらく、何かあっても気づきもしない。……あの方にとって、一つの宇宙の事などほんの些事でしかないのでしょうね』

 

 まあ、消されるなら消されるで、我が子ら共々滅べるのなら私はそれでかまわないのだが。

 しかしそんなことを考えているなど悟らせぬよう、全王に関しては心配いらないだろうと私は堂々と言い放った。ここで躊躇されては困るのだ。

 ……私の中には死ぬならそれでもかまわないという考えと同時に、子供らをいつまでも見守っていきたいという矛盾した気持ちがある。だからこそ、出来る限り「死」という終着点を選ばざるを得ない時が来るまでは……どんな手を使ってでも、愛する我が子達を生かし、繁栄させたいと願う。

 

 それこそが、今の私の全てなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事は面白いように順調に進んだ。

 

 惑星ベジータ消滅後、私とフリーザの遣わした監視の下……主人公孫悟空は、物語通りにその人生を進めていった。そしてベジータと地球での戦いの後、息子の孫悟飯と友であるクリリン、ブルマをはじめとした者達がナメック星へとドラゴンボールで願いを叶えるべくやってきた。その後を追い、孫悟空も。

 赤ん坊のころから私と共に悟空を観察していたフリーザは、何を面白がったのか私の「予言」の通りにナメック星でのストーリーを進めた。そしてクリリンを爆死させたことによって、怒りで孫悟空がスーパーサイヤ人に目覚めると……それを容易く圧倒したのである。それも現在の最終形態であるゴールデンフリーザになるまでもなく、本来のこの時間軸の最終形態である小柄な姿のままで。

 

 しかし、フリーザは悟空を殺さなかった。

 

「思っていた以上に弱いんだね、君。スーパーサイヤ人、ちょっと期待していたんだけど……こんなものか」

「ぐ……がっ」

 

 倒れ伏し、フリーザの脚で腹を踏まれてうめく孫悟空。それを私はすぐそばでじっと見守っている。フリーザはこのあと、どうする気なのだろう。

 フリーザは無様に地を這う孫悟空を見下ろしたまま、なぜかしばし考え込む。そしてこう言った。

 

「フフフ……。君、もっと強くなれるんだろう? なら僕にそれを見せてくれ」

『フリーザ、何を? 殺さないのですか?』

「ああ。君のお陰で修行し始めてどんどん強くなれるのはいいけど、少し退屈でね。折角の力を振るう相手が欲しいのさ」

 

 これはいけない、と。私は焦りを覚える。こんなの、後でその慢心が原因でやられる悪役のいいパターンではないか!

 

『慢心は死を招きますよ』

「でもねぇ……。今の僕の力を越えられるとは到底思えないよ。今なら君の予言にあった破壊神が、スーパーサイヤ人ゴッドを求めた理由が少しわかるかな」

 

 フリーザの楽しそうな様子に、これは言っても無駄だろうなと悟る。伊達に長い付き合いではない。

 

『…………わかりました。ですが、いずれ必ずあなたに牙をむく相手です。そのことはお忘れにならないでくださいね』

 

 

 

 

 その後、フリーザに見逃されて地球へ帰還した孫悟空達は、多少ずれはあるものの人造人間という新たな敵達との戦いを進めた。ちなみにフリーザの要望があって、彼らの記憶を私が多少改変している。……フリーザとつるむようになってから知ったのだが、どうやら私は精神に干渉しうる力を持っているようなのだ。

 だから彼らはフリーザを倒したものと思いこみ、地球での日々をおくっている。……私が言えた事ではないが、少々憐れだ。

 

 今思えば、フリーザは幼少期から見続けている孫悟空の成長を最後まで見ていたかったのだろう。しかしそこに情などがあるわけでなく、あくまでも「暇つぶし」。地球人とサイヤ人は、フリーザにとっていい玩具となっていたようだ。

 そういえば、この世界にはベジータの息子である「トランクス」はやってこなかった。だから孫悟空は心臓病に倒れたのだが、それでは面白くないとフリーザは孫悟空にわざわざ薬を与える始末。……薬を開発し投与したのは監視のために送り込んでいる私の子供だが、もとのストーリーを知る私としては少々複雑である。なんなのだ、このフリーザは。

 

 

 

 

 

 

 

 そして物語は進み、いよいよ魔人ブウの登場だ。

 

 原作で言うところの「絶望の未来ルート」を進んだために人造人間編の敵は17号と18号であり、セルも少々遅い登場となったが先に17号18号を倒されていたため完全体になることもなく倒されたので戦士達の強化具合は正直おそまつだ。しかしこれに関しては「流れ」に関与した代償だと、私もフリーザも納得している。……いや、なぜ敵である戦士達のパワーアップがいまいちだからと「代償」なのか。

 いけない、最近私もフリーザのお遊びに影響されている。

 

 しかし、ここまで来たら私もフリーザもお遊びだけではいられない。何故なら、魔人ブウ編は何処とも知れない界王神界に引きこもっている界王神が地球まで出向いてくるからだ。奴を殺せば破壊神ビルスも死に、この宇宙での最強は間違いなくフリーザとなる。

 これに関してはフリーザもビルスの強さ以上の「破壊」という力の危険性と、彼の付き人である天使ウィスの脅威を考慮して納得済みだ。いくら退屈していようが、わざわざ彼らと事を構えるほどフリーザはサイヤ人のような戦闘狂ではない。

 

 

 

 事は実にあっけなく終わった。

 

 魔人ブウ編を最初から観察していた私たちは、界王神界の場所も特定できた。そして密かに孫悟空の瞬間移動の技術を見よう見まねで盗み取ってしまっていたフリーザの瞬間移動により、ブウ編の決着がついた後の界王神界へ。……勝利に湧き、他の惑星へ避難していた界王神が戻ってきたところでその胸をフリーザが貫いたのである。

 

「ぐ、あ!?」

「な、オメェはフリーザ!?」

「お久しぶりですねぇ、孫悟空。まあ私としては、久しぶりという気はしないのですが。……なにしろずっと見ていましたから。ブウとの戦い、お見事でしたが少々残念です。あなただけの力で勝利したわけではありませんからね」

「何言って……」

「ところで、界王神。あなた、神でありながらずいぶん見る目がないんですねぇ……。私程度なら一撃で倒せる? ほっほっほ。いつの私の事を言っているのでしょう。まったく……腹立たしい!」

 

 言うなり、フリーザは界王神の胸から腕を引き抜きその首を落とした。

 

「か、界王神様!」

 

 その突然の事態にうろたえる孫悟空達を尻目に、私はフリーザに提案する。

 

『生き返らされても面倒ですし、すぐにナメック星人を全滅させましょう。そうすれば時間が経とうとも、ドラゴンボールは使えません』

「おや、それはもったいない」

『ですが、今さら叶えたい願いがあるわけでは無いでしょう? …………不老不死も、すでに手にいれているのですから』

 

 そう。フリーザはすでにナメック星のドラゴンボールで念願の不老不死を手にいれていた。

 ナメック星人たちは、実はすでに私たちの監視下にある。その自由も、ドラゴンボールも私たちのもの。

 

 しかし私の願いはただ一つであり、それはフリーザが居れば叶えられる。そしてフリーザも願いを叶え、そうなればドラゴンボールはもはや用済み。……破壊しても、かまうまい。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そうして宇宙を手にいれたフリーザだったが……その末に、私の予想外の事が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 フリーザは「退屈」に耐えられなかったのだ。私がかつて「孤独」に耐えられなかったように。

 

 宇宙の全てを手中に収め、正真正銘の最強となったフリーザ。だが、やがてその日々は単調な物へと変わってゆく。惑星支配という趣味もコンプリートしてしまった今、意味はない。

 

 ……そして刺激を求めたフリーザは、私に敵を求めたのだ。

 

「創造しなさい、私の敵を。知っていますよ? あなたは創造した肉体に、意図的にあの世から魂を引っ張って来て入れることができると。つまり、今まで死んでいった戦士達の復活が可能! フフフフフ、いいですねぇ。それから、貴女が知る別の世界の戦士達も呼んでもらいましょうか! 気まぐれにきかせてくれた物語。……当然、それらも創造できるでしょう? ああ、本当に退屈で退屈で死にそうですよ。だけど死にたいわけじゃない。私には、私を満たす何かが必要なのです! さあ、それを満たすために私の求めに応じなさいイプシロータ!」

 

 私の生み出す生命体は、例外を除いてみな弱い。……その例外を、長い時を共に過ごすことでフリーザに知られてしまったのが運の尽きだったのだろう。

 例外とは、以前生きていた生物を想像した時。それを生んだ瞬間、その体にはもとの人物の魂が宿るのだ。……そしてそれは、信じられないことに前世の私が物語として知っていた他の世界にまで影響を及ぼす。だから私は未だ見ぬ強者を呼び出すことが出来るのだが、それらは私の生み出した生物でありながら一切私の言う事をきかない。

 

 私はフリーザに逆らう事が出来ない。それはすなわち、この宇宙で生命が生存可能な星の過半数を占める我が子供らの死を意味するからだ。

 だから私はフリーザの求めに応じた。…………フリーザが求める激しい戦いの末に、やがて宇宙が滅びる可能性を知りながら。

 

 

 

 応じても、応じてなくても我が子供らは死に絶える。……だが、ほんのわずかでもいい。長く生きてほしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この宇宙は、まるで檻。呪いをもたらす、蟲毒の檻だ。

 有象無象が生み出され、やがて喰われて最強の一匹だけが生き残る。そしてその一匹は、術者に繁栄と…………やがて滅亡をもたらす。

 

 この宇宙を呪いの坩堝にしたのはこの私。だからこそ、最後に檻もろとも不老不死のはずの最強の生命が消滅して……それでも私だけが滅びず生き残っても、それが私にとっての最大の呪い。最大の罰。

 

 

 

 

『ああ、孤独だわ』

 

 

 

 

 宇宙でもない、なにもない、どこでもない、過去でも未来でもない、虚無の中。

 

 

 私は一匹(ひとり)、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回と違って主人公は今回ほぼ語り部。お粗末様でした。

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