ペルソナ3×仮面ライダーエグゼイド【ゲンムがほぼメイン】   作:K氏

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 新たに社長とロボっ娘秘書(とついでにテレッテ)が仲間になったS.E.E.S! しかし、そんな彼らの前に現れる謎のライダー、ゲンム! 敵か味方か、その正体や如何に……!?(全部棒読み)


ゲンム、暗躍する。【Stage 1】

 檀黎斗、及びミネルバと伊織順平のS.E.E.S.入りが決定して、数十日が経過した。

 

 ミネルバの退院後、彼らは月光館学園に影時間のみに現れる塔型の迷宮――『タルタロス』に乗り込み、探索を続けていた。

 そして黎斗は、前線に出ながらも、彼らの支援を行っていた。

 

 シャドウとの戦闘というのは、普通の人間であればまず不可能。しかし、それを可能とする力、それこそはS.E.E.S.の創設メンバーたる美鶴や明彦が持ち、ひいては彼らが捜しだしたゆかりや順平が持つ素質――心の仮面にして鎧、『ペルソナ』の力である。世界各地の神話や物語に登場する神や悪魔の姿を借りて現出するこの力は、これまではシャドウに対抗しうる、唯一の力であった。

 その召喚に用いるのが、ゆかりが使用しようとした拳銃型の召喚器。安定してペルソナを召喚、制御する為のものだが、しかし黎斗とミネルバは、どういうわけかこれによる召喚ができなかった。

 

 ペルソナ使いの特徴として、影時間に適応できるというものがあるが、これに関してはペルソナ使いのみというわけではない。例えば幾月のように、影時間に動く事はできても、ペルソナを召喚できない人間もいる。

 二人もそういったタイプなのかと、美鶴と明彦は落胆したが、しかし彼らには代替となる仮面の力、即ち『仮面ライダー』の力がある。

 

……そして黎斗は、密かに自分達が『()()()()()()()()()()()()()()』理由について、既にアタリをつけていた。

 

 召喚器が拳銃の形をしているのにも、理由がある。

 死の恐怖を疑似的に体感し、そしてそれに対し覚悟し、克服する事でペルソナを呼び起こすのだ。

 これを乗り越えた事で、美鶴や明彦、最終的にはゆかりや順平もペルソナを呼び出す事に成功した。

 だが、二人にはそもそも『()()()()()()』そのものが無いのだ。

 

 ミネルバはともかくとして、黎斗にはその自覚も、原因に対する心当たりもある。

 

(恐らくは、元の世界においてあまりにも『死』を経験し過ぎた事が原因だろう。この世界での私は普通の人間の身体だが……まぁ、神の才能を持つ私にとっては、然したる問題ではない。死とは超克するもの。いずれ、この世界でも不滅の肉体――レベルXへの神化を成し遂げてみせるとも)

 

 内なる野望に、黎斗は人知れず笑みが零れる。そこにあったのは、圧倒的な自信だった。もっとも、その自信こそが、同時に彼の首を絞めかねないものでもあるのだが、本人はその可能性について全くという程考えない。檀黎斗は、どこまで行っても檀黎斗だった。

 

「……斗君。黎斗君ってば」

「ん? ……ああ、すまない。少しぼんやりしていた」

 

 自分の名を呼ぶ声に反応し、思考の海に潜っていた黎斗は声を掛けたゆかりに謝罪する。

 

 あれから、()()()()()人と交流していった事で、彼とS.E.E.S.の面々は()()打ち解けていった。

 桐条グループに対する技術提供。その見返りである情報面、技術面での協力。未だ完成しないガシャットのテストプレイの為のVRシミュレーションゴーグルの完成。ついでに部屋に設置された隠しカメラの排除、etc.。

 

 そういったやり取りもあってか、今では彼は、S.E.E.S.において頼れる博士ポジションとなっていた。本人にそのつもりは微塵も無いが。

 

「よし。これより、シャドウの反応があった電車内に乗り込んでもらう。準備はいいか?」

「いつでもOKッス」

「同じく」

 

 現在、5月9日の影時間。

 本来ならばシャドウはタルタロスの外には滅多に現れないらしいのだが、この日、人工島である辰巳ポートアイランドに向かうモノレール内部にその反応があったのだ。

 先んじて到着していた黎斗達二年生組と明彦に、少し遅れる形でバイクに乗り颯爽とエントリーをかました美鶴は、バイクに搭載されている通信機器を展開する。

 そして黎斗もまた、装備を整えて件のモノレールに乗り込もうとしていた。

 

 彼としては現在の状況を鑑みて、前線よりも後方支援に徹する方がいいと考えたが、何分シャドウの反応を探知できるペルソナを持っているのが今のところ美鶴しかいない。その為、彼はミネルバの事もあるので、念の為に武器と防具、そして回復アイテム等を持ち、前線のメンバーの支援に回る事となったのだ。

 どうも、黎斗はペルソナこそ出せないが、それを補えるだけの戦闘技術はあるらしかった。一応、桐条グループが特別に製作した武器はシャドウにも通用するので、自衛ぐらいはできるのだ。

 本人曰く、「素晴らしいゲーム作りの為にリアリティを追求するのは、クリエイターとして当然さ」、だそうである。

 

 その時の穏やかな声調に対するどや顔を見て、S.E.E.S.の(幾月を含む)面々は、何となく檀黎斗という人間を理解してしまったとか、していないとか。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

――数分後。

 

「そっ、そんな……」

『どうした岳羽! 檀の反応が消えたぞ! 何があった!?』

 

 通信機越しに、美鶴が叫ぶ。それに対し、ゆかりは声を震わせる。

 代わりに応えたのは、順平だった。

 

「くっ、黎斗がっ、俺を庇って……俺……」

 

 順平の目には、明らかな恐怖の色が伺える。

 

 つい先ほどの出来事だった。戦闘メンバーの中で最も統率力と指揮力に優れた黎斗の指示の元、停車したモノレールに乗り込んだ一行だったが、それはシャドウの罠だった。

 突然モノレールが動き出し、シャドウが襲い掛かってきたのだ。

 

 種類こそ、タルタロスを徘徊するような雑魚シャドウと変わりないが、戦いの場は広く安定した立地のタルタロスに非ず。

 横幅が狭く、動くモノレールの上では自由に戦う事すらまかり通らない。

 そんな状況でもその場を切り抜けられたのは、一重にメンバーが必死の覚悟でシャドウと対峙したからか、それとも檀黎斗の指示が良かったのか。

 

 そんな中で、生き残った一体のシャドウが、前方の車両に向かって逃走を図る。

 直感で「罠だ」と判断した黎斗は、一旦体勢を立て直すよう指示を飛ばすが、ここで彼に気に食わない事態が起こる。

 

『何ビビってんだよ、たかが雑魚一匹だぜ?』

 

 順平である。黎斗の中で伊織順平という人間に対する評価がゼロを下回った瞬間だった。

 あくまでも、表向きは平静にしつつ、彼を止めようとした黎斗だったが、それでも、名誉に対する欲があったのか、「ビビってんのか? だったらここで待ってろ。俺が片付けてやる!」と、勇み足で前方車両に突っ込んでいったのだ。

 

(クソッ、だからああいう低能は嫌いなんだッ!)

 

 元々、順平がこのS.E.E.S.に入部したのも、『自身が特別であるから』という、そんな単純極まりない理由だったのだ。黎斗なりに分かりやすく解釈するなら、仮面ライダーの適正があるからとはしゃぐようなものだ。

 この手のお調子者な現代っ子がそうした特性を持っている事もあるというのは黎斗自身も知ってはいたが、まさかここまで自惚れ、現実を見れていないとは思わなかった。

 

……と、黎斗は思っているが、実際のところ自惚れて調子づくという点においては黎斗も人の事は言えない。

 が、残念ながらその辺りの自覚がそもそもないので、棚に上げている事にすら彼は気づいていないのである。

 

 ここ一ヵ月間の中で何度目かもわからない想定外の事態に、同じく何度目かもわからない心の中での舌打ちをし、残りのミネルバとゆかりを伴い、順平の後を追う。

 

 先頭車両にてようやく追いついた時、順平は荒く息をし、剣を杖にしなければ倒れてしまいそうな程に疲弊していた。

 その眼前には、運転室への道を塞ぐように触手の如き髪を、そしてあろうことか股をも広げる女の大型シャドウの姿があった。その顔面には、先日出現した大型シャドウとは異なる仮面が。

 

『あ……ああ……』

 

 黎斗達からは見えないが、恐らくその時の順平の顔は、絶望の色に染まっていただろう。

 

『順平、逃げて!』

『――チィ! 世話を焼かせるッ!』

 

 ここで初めて、黎斗は人前で素の部分を露呈させたが、この極限状態では誰も気にも掛けない。

 

 黎斗は支給された片手剣を構えると、順平の前に躍り出る。

 

『く、ろと』

『いいから立て。死にたいのか』

 

 今の順平にかける言葉は、それで十分だ。

 この際、素地が出てしまっているのはやむを得ない。

 黎斗は剣を構え、まるで囮にでもなるかのように迫る触手に自ら飛び込んでいき――

 

『クッ……この速度では、流石に……』

 

 黎斗が走るモノレールから叩き落されたという事実を聞いた美鶴は、苦しい表情を浮かべる。

 

 前回は運よく助かったものの、今回もそうとは限らない。まして、速度の出ているモノレールからの転落など、ただではすまない。

 

『……とにかく、まずはシャドウを倒し、列車を止めるんだ!』

「でも!」

『いいか岳羽! そいつを倒さない限り、現実に被害が出る。それに、お前達もモノレールから出られないし、何より檀の救助もできない!』

 

 最もな理由を突き付けられ、ゆかりはただ、「わかりました」と返し、主武装たる弓を背中に背負い、代わりに太股のホルスターから召喚器を抜く。

 

「来て……『イオ』ッ!」

 

 自身の額に突きつけた召喚器のトリガーを引くと、ガラスが割れるような音と共に、ゆかりの身体から青いオーラが発生。立ち昇るオーラと、トリガーを引いた時に発生した破片のような光が集まり、それは牛の頭を模した玉座の上に、腕を組み座する乙女の姿を為す。

 かの名高き嫉妬深い女神の巫女であった者の名を冠するそのペルソナが手を広げると、順平を緑の光が包む。

 イオが得意とする、癒しの力だ。

 

「すっ、すま――」

「謝る暇があるならさっさと戦って!」

「今は緊急時です。謝罪は後で聞きます」

 

 普段通りの冷たさで、しかしどこか怒気を含んだ声で順平にそう言い放ったミネルバは、ロボ娘らしく腹部に格納されていたゲーマドライバーを展開。

 

「変身!」

『BANG BANG SHOOTING!』

 

 更に懐から取り出したプロトバンバンシューティングガシャットの起動ボタンを押し、ゲーマドライバーに装填。

 

「開幕から、第弐戦術であります!」

 

 そこからレベル1になる事無く、ベルトのレバーを展開し、ミネルバは仮面ライダープロトスナイプ レベル2に変身する。

 

「私が前進します。ゆかりさんは援護射撃を!」

「わかった!」

「お、俺だって!」

 

 ガシャコンマグナムをハンドガンモードのまま前進を開始したプロトスナイプを、後方からゆかりが弓矢を射り援護。立ち直った順平も、疲弊した状態ながら、召喚器をこめかみに当て、自らのペルソナを呼び出す。

 

「来やがれ、『ヘルメス』!」

 

 彼の叫びと共に、手から足にかけて繋がる真鍮の翼を備えた鳥のような鎧の人型が現出する。

 ギリシャ神話にて俊足を誇る伝令の神の名を冠したそのペルソナが翼を広げると、前方にいる大型シャドウが突如として炎上する。

 しかし、威力としてはまだ弱いのか、大型シャドウは今だ健在だった。

 

「来ます!」

 

 プロトスナイプのその言葉通り、大型シャドウは赤黒いオーラを立ち昇らせる。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「……やれやれ。まさかまた落ちるとは」

 

 二度目の落下に、流石の唸ざるをえない。しかし、存外にきつい。身体の方はまだ17歳という事もあってか、ダメージが尋常ではない。オマケに、モノレールから飛ばされながらも、後方の車両に無理矢理捕まったのもあり、右腕が痛くて痛くて仕方がない。

 

「……肉体の酷使は、いつぶりだったか」

 

 思えば、この世界に生まれ変わって、あの時のような無茶な身体の使い方をした事がない気がする。

 なお、徹夜はもはやゲームクリエイター的には日常生活と変わりないので特にカウントしない。

 しかし、今は好機である。

 

「……む」

 

 と、そこで前方の方を見やると……辰巳ポートアイランド側の駅が見えてきていた。

 流石に事故を起こすのは、個人的にはあまりよろしくない。

 

「ミネルバ達も、順調に攻略を進めているようだな。……では、私も仕事を始めるとしようかァ……」

 

 普段とはまるで違う、ねっとりとした口調でそう呟き――

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

「もう……精神が……持たない……」

「俺も……きっちぃ……」

 

 戦いが始まってそれ程時間は経過していない。だが、彼らにとっては、かなり長い間戦ったような気がする。不思議なものだ。電車を止める為に早急にシャドウを倒さねばならないというのに。

 

 だが、ダメージは確実に入っている。それは、どこか力の無い様子の大型シャドウを見ればわかる。

 

 あと、もう少し。

 

「これで……決めます!」

 

 疲弊しきったゆかりや順平に代わり、まだライダーゲージにも体力にも余裕のあるプロトスナイプが、再びガシャットをガシャコンマグナムに装填し――

 

 

 

 

『ギュ・イーン!』

 

 

 

 

――ようとした時だった。

 

 突然、モノレールの天井から火花が飛び散り、段々とそれが、四角を描くように移動していく。

 

「な、何!?」

「なんだなんだ!?」

 

 疲弊していた二人も、これには仰天せざるを得ない。

 

――まさか、新手か?

 

 疲れ切った身体に鞭打ち、二人はそれぞれ武器を構える。

 

 やがて、飛び散っていた火花が鳴りを潜め――ガコン、という音と共に、天井が落下した。

 

「……ゲンム」

 

 そこから降りてきたのは、いつぞやに現れた黒いライダー、ゲンム。

 

「こ、こいつが、ゲンム……にしてもマジでマイティに似てんな……」

 

 その顔を見た順平は、直感的にマイティとの関連があると感じたものの、当のゲンムは全く意にも介さない。

 

『…………』

 

 一瞬、プロトスナイプとその背後の二人を、黒いゴーグルの中の血のような赤い目で視認すると、どうでもいいと言わんばかりに大型シャドウに向かい合う。

 

「それが、命取り!」

 

 だが、ミネルバにとっては千載一遇のチャンス。

 

『BANG BANG CRITICAL FINISH!』

 

 ガシャットをガシャコンマグナムに装填したプロトスナイプは、そのままこちらに背を向けるゲンムに照準を合わせる。

 だが、その引き金が彼女によって引かれる事は無かった。

 

「……なッ!? 消え――」

 

 突然視界から消えたゲンムに、驚愕の色を隠せないプロトスナイプ。だがそれを言い切る前に、ゲンムがスライディングで彼女の足を蹴りつける。

 意識外からの突然の攻撃に驚きの声を上げる間も無く、ゲンムは膝でプロトスナイプを打つ。

 

「ぐっ」

 

 しかし、変身者自身に物理的な攻撃への耐性のあるプロトスナイプはそれを耐える。だが、ゲンムは()()()()()()()()()()()()()()()()、アクロバティックな動きで伏せた状態で回し蹴りを放つ。

 プロトスナイプの身体が浮き上がったところを、ゲンムは容赦なく、その腹部に痛烈な蹴りを入れる。

 蹴りを入れられたプロトスナイプは、そのまま後方にいた二人を巻き込み、車両同士を繋ぐドアをぶち破り、二号車へと吹っ飛ばされた。

 

「が、は」

「きゃあ!?」

「うげっ」

 

 苦悶の声を上げるプロトスナイプ、否、ミネルバとゆかり、そして順平。

 

『…………』

 

 そんな彼女らの苦し気な様子を、ゲンムはまるで感情を感じさせない目で見る。

 その手には、プロトスナイプが持っていたガシャコンマグナムが――しかもガシャットがスロットに挿さったまま――握られている。

 

「そ、そん、な」

 

――まさか、ゲンムはシャドウの味方なのか?

 

 そんな考えが、ゆかりの脳裏に過る。

 

「お、起きて、起きてよミネルバ!」

 

 プロトスナイプの下敷きになったまま、ゆかりはプロトスナイプを揺する。

 スマートな見た目に反し、意外と重量感のある彼女から脱出するのはかなりの時間を有するだろう。

 しかも、先程の一撃が効いたのか、プロトスナイプは気を失ってしまっているらしく、声を掛けてもまるで反応を示さない。

 

 なんという絶望的状況。もう時間がない。

 

『…………』

 

 そして、ゲンムはガシャコンマグナムを構える。

 ゆかりは、次に来るであろう衝撃への恐怖から、顔を地面に伏せ――

 

 

 

 

『会心の一発ゥ!』

 

 

 

 

「……え」

 

――しかし、いつまでたっても痛みが来ない。

 あの武器の爆音は聞こえた。なら、一体誰が……。

 

 

 

 

「キャアァァァ……」

 

 

 

 

 その異様な悲鳴は、女の姿をした大型シャドウのものだった。見れば、大型シャドウの腹部に、大きな穴が開いているではないか。

 ゲンムは、奪ったガシャコンマグナムのキメワザ『バンバンクリティカルフィニッシュ』を、大型シャドウに撃ち込んだのだ。

 

 そのまま、使い終わったガシャコンマグナムを二号車の方へと放り投げると、大型シャドウが抵抗とばかりに飛ばしてきた触手をいなし、後方に下がって距離を取る。

 そして、自身のゲーマドライバーに挿さっている紫のガシャット――『プロトマイティアクションX』を抜き、左腰のホルダー――『キメワザスロットホルダー』のキメワザスロットに装填。

 そのまま、キメワザスロット上部のボタンを押す。

 

『ガシャット! キメワザ!』

 

 すると、独特のゲームチックな音楽が流れ、ゲンムは再度ボタンを押す。

 

『MIGHTY CRITICAL STRIKE!』

 

 ガシャコンマグナムに装填した時とはまた異なる音声と共に、ゲンムが大型シャドウ目掛けて駆け出す。

 

 対する大型シャドウも、当然ただではやられるつもりは毛頭ない。無数の触手を飛ばし、ゲンムを迎撃せんとする。

 

『ギュ・イーン!』

 

 だが、そんな最後の悪足掻きも空しく、ゲンムの右手に装着されたゲームパッド型の紫の装備――『ガシャコンバグヴァイザー』から伸びるチェーンソーによって、触手が切り落とされ、切り刻まれていく。

 

 後5メートルもあるかないかというところで、ゲンムは片足に力を籠め、独特のジャンプ音と共に飛び上がる。

 そして、懐がガラ空きになった大型シャドウの顔面目掛け、紫のエネルギーを収束させた右足による飛び蹴りを食らわせる。

 

『会心の一発ゥ!』

 

 瞬間、派手な爆発音と共に、大型シャドウが爆ぜる。

 

「キィィイヤァァァ……」

 

 甲高い断末魔の声が、二号車にいるゆかりの耳にも届く。

 

「お、終わっ、た?」

 

 なんとかプロトスナイプの下から這い出したゆかりは、同じように下敷きになっている順平も気絶している事に気付く。

 同時に、一号車の先頭の方で巻き上がる黒い瘴気のようなものの中から、こちらを見ている赤い瞳にも。

 

「ひっ」

 

 ゆかりは顔を引きつらせる。

 

 ミステリアスなんてもんじゃない。理解不能どころじゃない。そもそも、奴はその理解できる範疇の存在なのか?

 

 何もわからないという、無知への恐怖。ゲンムのゲームキャラクターめいた顔が単なる『仮面』でしかない事への唯一の理解が、その恐怖を増長させる。

 

『チュ・ドーン!』

 

 ゲンムは、ガシャコンバグヴァイザーの向きを入れ替える。チェーンソーの代わりにこちらに向けられたのは、二門の銃口。

 

 ゆかりの身体がこわばる。もう駄目だ、おしまいだと、本能が叫ぶ。

 

『…………』

 

 怯える彼女に対し、ゲンムは容赦なくバグヴァイザーで撃つ――というわけでもなく、代わりにモノレールの連結部分を撃ち抜く。

 

 困惑する彼女を他所に、連結部分が火花を散らす。すると、何故か身体が前のめりになり、視界に移る先頭車両が、そこに乗るゲンムがどんどん小さくなっていく。

……否。決して小さくなっているわけではない。連結部分が破壊され、先頭車両だけが進行しているのだ。

 

 そのまま先頭車両は遠くへと走っていき……やがて停車した。

 

 そこまで行くと、ゲンムの姿は見えなくなっていた。

 

 だが、あの時向けられた無感情でありながら禍々しさすら感じるあの赤い目が、ゆかりの脳裏に、記憶に、そして心に焼き付いて離れなかった。

 

 しばらく、ゆかりの寝付けない夜が続く事となった。




 ゲンムこわ……とづまりすとこ……(檀黎斗神の動画見ながら)

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