ペルソナ3×仮面ライダーエグゼイド【ゲンムがほぼメイン】 作:K氏
そういえば、けものフレンズのアニメが二期からたつき監督が外されるそうですが、つまり仮面ライダークロニクルの製作者やら運営がコロコロ変わる的なアレなのでは……?(飛躍)
「ひ、やめ――」
「ろ」、あるいは「て」と続くはずだったであろうその言葉は、一発の銃声と共に消え、そして辺りには静寂が満ちる。
ここは、港区某所の路地裏。普段であれば学校、あるいは社会からドロップアウトした不良達がたむろしている場所である。
以前、山岸風花が行方知れずになった時も、檀黎斗と岳羽ゆかり、伊織順平、ミネルバの四人が、ここに手掛かりを求めてやってきた。
なお、当然不良達は彼らからカツアゲするなり、女性二人に舌なめずりしていたが、黎斗の圧倒的交渉力(金)で丸く収まった。
しかし、今現在は、ほとんど人気が無い。それどころか、そこかしこにいるであろう無視やら動物やらの生気すら感じられない。
それもそうだろう。今は影時間。普通の人間には認識できない時間である。
そして稀に、適性を持たない人間でも、シャドウの「声」に招かれてこの時間に入ってくる事もある。そうした人間の多くは、シャドウに襲われ、最終的に無気力症患者――S.E.E.S.の面々が言うところの影人間――となる。
S.E.E.S.の活動は、そうした被害を最小限に食い止める為のものでもある。だが、それとは真逆に、影時間の性質を利用し、血生臭いビジネスを行う者もいる。
ストレガ。イタリア語で『魔女』を意味する言葉だが、この港区では、ネット上で囁かれる、復讐代行を行う集団の事を指す。
曰く、ネットの何処かに、隠された彼らのサイトがあるという。そのサイトに、自身が復讐したい相手を入力すれば、彼らがその復讐を代行するのだ。
普通なら到底上手く行かないだろうが、彼らには可能なのだ。そう、影時間で象徴化した人間を、影時間に引きずり込む事が出来る彼らならば。
この日も、ストレガのメンバー――と言っても、ここにいる三人の少年少女しかいないのだが――の手により、一人の男への復讐代行が完遂された。彼らもまた、影時間に適応できるだけではない。出自は異なれど、ペルソナ使いである。
「はー、楽な仕事やわ全く」
「……そうね」
奇抜なファッションに、どこか生え際が危ない頭髪の眼鏡の少年――ジンが、言葉とは裏腹に退屈そうに首を捻り、コキコキと音を鳴らす。
それに対し、真っ白のゴスロリファッションというこれまた浮世離れした格好の少女――チドリが、ジンの言葉に同意を示しつつも、全くジンの方を向いていない。
「そうは言いながら、随分と退屈そうですね? ジン」
「……まぁ、普段俺がやっとる事なんて、薬の商売とサイトの運営ぐらいやし」
そして最後に、両腕に刺青の入っている、やせ細った上半身を堂々と晒しているという、三人中ダントツで浮世離れし過ぎている少年――その異様な雰囲気といい、大して整えている様子も無く伸びた頭髪や無精髭を見る限りどう見ても少年とは呼べないが、とにかく少年なのだ――、ストレガのリーダー、タカヤがジンに微笑みかける。
その手には、不気味に光る月に照らされた、銀色のリボルバー――S&W M500が握られている。ただでさえ銃刀法違反だというのに、加えて
そこに、影時間特有のルールや法則とでも呼ぶべきものが絡んでくるのだ。
当然の事だが、影時間の最中であろうと、生命活動が不可能になれば人間は死ぬ。現実と同じだ。
しかし、現実と大きく異なるのは、シャドウや人間によって物理的な死をもたらされた場合、影時間が終わると、全く別の死因に置き換わるのだ。
例えば、今のようにタカヤが銃で誰かを殺したとしても、現実世界においては別の死因――例えば、病死や事故死となるのだ。そして、銃撃を受けた痕跡も、跡形も無く消える。
更に彼らは、ターゲットとした人間を影時間に引きずり込む事が出来る。それを利用して、完璧な復讐代行を行ってきたのだ。
「……では、帰りましょうか。彼は来ていないようですし」
「せやな……ん?」
今日も非合法にも程がある仕事を終えた彼らだったが、ふと、ジンは足を止める。
仲間のチドリが、何故か後ろを向いているのだ。
「どないした、チドリ」
「……誰か、いる」
「なんやて?」
それを聞き、ジンの脳裏に浮かんだのは一人の少年。こちらも、少年と呼ぶには乾いた雰囲気を醸し出している、訳有りの少年だが、チドリの言葉を聞く限りではその少年ではないらしい。
彼女のペルソナがもつ固有能力。その応用のようなもので、隠れた人間やシャドウも判別ができるのだ。
「……隠れてないで、さっさと出てきてはどうです?」
一連のやり取りを聞いていたタカヤは、ベルトにそのまま差していたリボルバーを抜き、背にした路地裏の闇に向かって突きつける。
ジンもそれに続き、警戒するようにジェラルミンケースから、何と手榴弾を取り出す。
一方チドリは何もせず、構えもせず、相も変わらずの無表情でゆらゆらと揺れていた。
明らかに非合法な手段で手に入れたと思しき、危険な武器を突き付けられたその謎の人物は、しかし、闇の中から悠然と出てきた。
『……ほぅ。随分と、物騒なものを持っているな』
――果たして、それは常人では無かった。毒々しい紫のラインが走る黒いアンダースーツに、両肩には紫の装甲。胸にはゲームを意識しているとしか思えないボタンやゲージのついた銀色のプロテクターがあり、何よりも目立つのはその顔。
赤く、妖しく光る大きな眼をゴーグルで隠したその頭部は、髪の毛のように逆立ってはいるが、見るとそれは、何かしらの仮面か、もしくはヘルメットのようなものであるとわかる。
「……ああ。貴方は最近、大型シャドウが現れるところに必ず出現するという」
その人物を見て、しかしタカヤは動じなかった。それどころか、手にした拳銃を下ろしたのだ。
「タカヤッ!」
「良いのです。彼には、前々から興味がありましたので」
『それはまた、好都合だ』
なおも謎の人物に警戒するジンを、タカヤが諫める。そして、そんなタカヤの言葉に、謎の人物が口無き口を開く。その声は、どうやら合成音声のようで、男か女かも判別できない。
『復讐代行屋、ストレガ。君達の事は既に調べてある。……故に、自己紹介は私だけしよう。私は、ゲンム。仮面ライダーゲンム』
その人物――ゲンムが自己紹介をすると、ジンの顔が更に険しくなる。
「……なぁ、コイツ此処で殺しといた方がええんとちゃうか?」
『無駄だ。手榴弾程度では、私には通用しない』
ギョッとした表情を浮かべるジン。何故なら彼は、タカヤにしか聞こえないように小声で話したつもりだったのに、このゲンムなる人物は、それを聞き取ったのだ。
その言葉には、「タカヤは自分に攻撃を仕掛けてこない」という、そんな確信すら感じられる。
「……今日は、一体どのような要件で我々に接触をしたのです? 何の用もないというわけではないでしょう?」
『ああ。では、手っ取り早く話を進めるとしよう。夜は長いが、影時間は短い』
タカヤに同意するように、ゲンムはストレガ三人の方へと歩み寄っていく。
話を聞くつもりのタカヤ。構えこそしていないが警戒するジン。そして、我関せずとでも言いたげなチドリ。
三者三様ではあるが、ゲンムもまた、気にしていないように見えた。
『今日は、君達に新しいビジネスを提案しに来た』
言いながら、ゲンムは右手に提げた黒のアタッシュケースを両手に持ち、三人に見えるように掲げる。
その表面には、世界的に有名なゲーム会社、『幻夢コーポレーション』のロゴマーク。
これにはタカヤも、思わず怪訝そうな表情を浮かべてしまう。
「……まさか、我々にゲームをしろとでも?」
『似たようなものだ』
訝し気に問いかけるタカヤに、ゲンムはなおも態度を変える事無く、そのアタッシュケースを開く。
その中にあったのは――
「……なんやこれ? 幻夢コーポレーションのゲームカセットに……玩具みたいな……ベルトかこれ?」
『少し違うが、これらこそが、君達に新たなビジネスのカタチを提供するものだ』
紺色のゲームカセット。そして、ライトグリーンの大きなバックル。言わずもがな、ライダーガシャットと、ゲーマドライバーである。
『ゲーマドライバー、そしてライダーガシャット……君達の為に用意したものだ』
そう言われ、タカヤは目の前にいるゲンムの格好をもう一度思い出す。
確か、腹部にこれと同じものがあったはずだ、と。
そこまで考えて、これが如何なる用途の物かを、タカヤは把握する。
「……なるほど。しかし、解せない事がいくつか」
『何だ』
「この道具の使用が、私のデメリットにならないか、という事です」
当然の疑問だ。例え強力な力を秘めていても、そういうものは肉体へのフィードバックが激しいのが大半だ。事実、彼らのペルソナも強力な力を秘めているが、その反面、暴走という危険が秘められているように。
『問題ない。君がこれを使って『変身』できたならば、余程のダメージが無い限りは死ぬ事は無い』
「『できたならば』、やて? そら、何かしら必要な適性があるっちゅうことか?」
『問題ない。君達が影時間に適応している。それこそが、このドライバーに必要な適性なのだから』
ジンの疑問を、ゲンムはあっさりと一蹴する。
『君達のビジネスは、確かに理に適ったものだろう。復讐代行。金を貰い、ターゲットをあり得ざる方法をして殺害。君達の痕跡を残す事無く、依頼を達成する。……しかし、それでは限界がある』
「と、言いますと?」
『君達の商売に足りないもの……それは『循環』だ』
「循環、やて?」
『そうだ。如何に面白いゲームを創り上げ、それを世に送り出し、賞賛の声が上がったところで、その現状に甘えたままでは、いずれは衰退の一途を辿るのみ。だからこそ、新たなゲームを生み出し、そして売れる。そういった一つの循環を生み出さねば、君達に明日は無い』
「……えらい大層な物言いやんけ。お前に何がわかるんじゃ、ああ?」
ジンがゲンムを睨む。だが――当然ゲンムの表情は変わらない。無機質で、色を全く見せない。
『分かるとも。言っただろう? 「君達の事は調べてある」と』
「……んのッ!」
「ジン」
「タカヤ! なんで止めんねん!」
「……別に、知られたからと言ってどうというわけではないでしょう? 我々は」
思わず拳を振り上げかけたジンを、タカヤが語気を強め戒めた。
「つまり、貴方は我々の復讐代行に、一種のパターンを作れと、そう仰りたいのですね?」
『そうだ。復讐と憎悪が、輪廻の如く続く。そのシステムこそが、君達が生きていくには必要だと、そう思ったまでの事』
「……いいでしょう。その話、乗りましょう。あと一つだけ、聞かせていただければ」
『……なんだ』
辺りの空気が、重々しく彼らにのしかかる。だが、この場にいるのは手練ればかりで。
ジンの視界に、タカヤとゲンムが、いつぞやに見たウェスタン映画で、荒野で向かい合うアウトローと保安官の決闘のシーンがオーバーラップする。
「まさか、タダでこれを渡していただける、という事ではないでしょう?」
この世は、ギブ&テイクで成り立っている。食べ物を買うのに、定められた値段と同じ金を払う。良い物品を得るのに、相応の価値があるものと交換する。
彼らストレガもまた同じだ。復讐を代行する代わりに、相応の金を貰う。等価交換、それこそが世の常である。
そして――
『……フム。見方によっては、そうなる』
「……は?」
流石にタカヤも、これには拍子抜けした声を上げる。ジンも同じく。チドリは……やはり無関心だった。
『何、そう変わった事でもない。私にとって重要なのは、君が、それを使い続ける事にあるのだ』
「……どういう事です?」
『それは不必要な詮索だ。心配はいらない。それを使えば、少なくともペルソナを使うよりも遥かに燃費がいい』
「…………」
当然、怪しむ。何故、使い続ける事に価値があるのか? 理由は?
だが、恐らくゲンムは答えようとはしないだろう。そえに――彼らにとって、悪くない話でもある。
「……分かりました。詮索はしません。特にリスクが無いというのなら、それでいいでしょう」
『理解して頂けたようで何よりだ。……では、早速使ってみたまえ。心配はいらない。それが、君に新たな世界を見せるだろう』
そう促されるままに、タカヤはケースの中のガシャットと、ゲーマドライバーを手に取る。
ジンが心配そうに見ているが、タカヤは違った。
手に取った瞬間感じたもの。それは――
「――ああ」
そして、タカヤはそのガシャットの起動スイッチを押した。
そのガシャットの名は――
『FORTUNE GAMBLER!』
この夜、タカヤは、ジンは、そしてチドリは、己の運命をベットした。
そしてそれから程なくして、復讐代行屋『ストレガ』は、より悪名高き存在として、ネットはおろか現実にも、その名を轟かせる事となる。