ペルソナ3×仮面ライダーエグゼイド【ゲンムがほぼメイン】 作:K氏
今回はガシャット関連の独自解釈が含まれています。ご了承ください。
「私ね、檀君がいない今だから言うけど……実は、彼がゲンムだったんじゃないかって思ってたんだ」
突然のその告白に、その場にいる全員が目を丸くする。
結局、ミネルバはあまりにも自己主張をしなさ過ぎる為、とりあえず彼らの中で『ミステリアスな外人秘書』というポジションに収まった、その矢先の出来事だった。
「な、なんだよ藪からスティックに……」
「それを言うなら藪の事もbushと言え」
「先輩、今そういうのは良いですから」
明彦は後輩達からは筋肉バカだと思われつつあるが、意外と知能派でもある。しかしそこは特に触れられず、少しばかり落ち込む。
「……とにかく。私ね、最初は彼の事、そこまで信用して無かったって言うか」
「あー、高校生って言うのはちとかけ離れてるしなぁ」
「それもあるんだけど、なんていうのかな……モノレールの時の事、覚えてる?」
「あー、あの時もゲンムが来たんだよな」
俺っちその時気絶してたんだけど、と順平が密かに呟き、へぇ、と風花が声を漏らす。多分彼の呟きは、風花の耳には届いていないはずだ。多分。
「うん。……その時、こっちを見たゲンムの目がね。すごく似てたような、気がしたんだ」
そこまで言い、ゆかりは俯いた。
彼女の脳裏に、こちらを静かに見つめていたゲンムと、初めて出会った時の檀黎斗がオーバーラップしていた。
******
タルタロスのエントランスに足を踏み入れたゲンムは、悠然と二体の手負いの大型シャドウに歩み寄る。
対するシャドウ側も、彼が敵であると本能的に察したのか、『女帝』は手にした小さな杖を振りかぶり、『皇帝』は剣を振りかぶる。
「■■■ィィィーーー!!!」
金切り声を上げて『女帝』が杖を振るえば、その眼前に炎が浮かび上がる。その大きさたるや、順平のヘルメスのそれよりも一回り大きい。
その炎の塊が、ゲンムに向かって放たれるが、ゲンムは横に転がって回避。
続けざまに、『皇帝』がゲンムに斬りかかるが、これもジャンプで回避する。
「中々の機動力だが……しかし弱点を突かなければ奴とて……」
黎斗の呟きの通り、いくらゲンムが身体能力的に優れていたとしても、攻撃手段が限られていてはどうにもならない。手数が少ないという事は、この場においては非常にデメリットになる。現在確認されているだけでも、ゲンムの攻撃手段は格闘攻撃に、腕部のガシャコンバグヴァイザーによる斬撃と銃撃のみ。
どうやら物理攻撃が弱点らしい『女帝』はともかく、魔法攻撃が弱点の『皇帝』には届かない。
現に、ゲンムが格闘攻撃を『皇帝』に仕掛けるが、『MISS!』というエフェクトが発生している。あれは、攻撃が効いていない時に現れるエフェクトだ。
つまり、このまま戦っていたところでジリ貧というわけだ。
――そう、
「…………」
それを分かっていたのか否か、ゲンムは腰のガシャットホルダーからもう一本、ガシャットを抜く。
プロトバンバンシューティングのように黒一色のカラーリングのそのガシャットのラベルに描かれているのは、剣と盾を構えた騎士の絵。
そのタイトルは――
『TADDLE QUEST!』
『タドルクエスト』。剣と魔法のファンタジーRPGの、その試作品である『プロトタドルクエストガシャット』の起動スイッチが押されると、プロトマイティアクションXの時とは打って変わって、荘厳な音楽が辺りを包む。
そのガシャットを、ゲンムは前部のスロットには入れず、キメワザスロットに挿入。
すると、彼の周囲にガシャコンウェポンが呼び出される時と同じサークルが出現。
そこに一つだけ浮かぶ剣のアイコンにゲンムが触れる。
『ガシャコンソード!』
そこから召喚された剣――AとBのコントロールパネルが備わった、炎のような刀身を持つ西洋剣『ガシャコンソード』を左手に構え、おもむろに『皇帝』に飛び掛かる。
応戦しようとする『皇帝』。だが、ゲンムは空中で身体を捻り、それを回避。
そして、ガシャコンソードで『皇帝』に斬りかかる。
「なッ――」
なんと無謀な、と、ペルソナ使い達は同じ事を思っただろう。
だが――
「―――ッ!?!?!」
直撃する直前、ガシャコンソードがその刀身に超高温の炎を纏う。その炎の斬撃を食らった『皇帝』が転倒。今度は『HIT!』のエフェクトが発生する。どうやら、今は炎属性が弱点だったようだ。
ゲンムは続けざまに、『皇帝』に斬撃を加える。しかし、背後で『女帝』が杖を振るう。
「……!」
次に放たれたのは、電撃の魔法。
突然上空から降ってきた電撃を、ゲンムはまともに食らってしまう。
だが、ゲンムは怯まない。
『女帝』は立て続けに電撃魔法を飛ばすが、今度はゲンムに回避され、『皇帝』の体表を電撃が跳ねる。
電撃を回避したゲンムは、ガシャコンバグヴァイザー・ビームガンモードで銃撃を加えるが、『女帝』には全く効かない。
それを確認すると、ゲンムはガシャコンバグヴァイザーをチェーンソーモードに変更。その太った腹に斬撃を加える。
チェーンソー特有の駆動音がけたたましく鳴り、嫌な音を立てて『女帝』の腹が斬り裂かれる。
「■■■ャアァァ!!!」
手負いの『女帝』は、悲痛な叫びを上げる。だが、ゲンムは一切手心を加えるつもりは無く、そのまま一閃する。
弱点を突かれた『女帝』は、そのまま膝をつく。
そんな『女帝』を庇うように『皇帝』が躍り出ると、その胸元辺りが再び光る。
「――! また弱点が変わりました! 今度は氷です!」
この時、ゲンムを敵だとは知らない風花は、アナライズで『皇帝』の弱点属性を叫ぶ。
『皇帝』は、先程のガシャコンソードの攻撃が炎属性
――だが、他のガシャコンウェポンがそれぞれ二つの形態を持つように、ガシャコンソードも例外ではない。
風花の声を聞いていたゲンムは、ガシャコンソードのコントロールパネルのAボタンを叩く。
『コ・チーン!』
ガシャコンソードから音声が流れ、その炎の刀身が
先の炎の刀身を持つ形態――『炎剣モード』から、氷の刀身を持つ形態――『氷剣モード』に切り替えたゲンムは、更にBボタンを三度連打。
一体どうするつもりなのかと見守るS.E.E.S.メンバーの前で、ゲンムはガシャコンソードを逆手に持つと、それを地面に突き立てた。
瞬間、突き立てられた場所から凍り付き、それが冷気の衝撃波を伴い、地面を走る。
「―――!?!」
仮面以外に顔の無い『皇帝』はたじろぎ、それを防ごうと剣を構えるが、無意味だ。
『皇帝』に到達した冷気が、『皇帝』、ひいては後ろに庇われた『女帝』ごと、足元から凍らせる。
そして、遂には全身を氷漬けにしてしまう。
「す、すげぇ……」
その威力に、順平も感嘆の声しか上げられない。
「…………」
二体の大型シャドウが氷漬けになったのを確認すると、ゲンムはキメワザスロットのプロトタドルクエストガシャットを抜く。
『ガッシューン』
そして、ガシャコンソードの鍔にあるスロットに装填。
『ガシャット! キメワザ!』
キメワザ音声が鳴ると、ゲンムは再び、ガシャコンソードを逆手に持ち、構える。
『TADDLE CRITICAL FINISH!』
その音声と共に、先程凍った地面の上を、ゲンムが滑る。
更に、刀身から溢れる冷気が地面に触れ、それが傾斜を描き、簡易的なジャンプ台が作られる。
氷のジャンプ台から飛び上がったゲンムは、逆手持ちのまま、氷漬けになった『皇帝』に横一閃の斬撃を加え、そのまま『女帝』諸共斬り込む。
二体の大型シャドウを通り過ぎ、残身を決めるゲンム。
その背後で、巨大な氷塊が切り口に沿って切り裂かれ、上半分が少しずれたかと思うと、激しい爆音と『PERFECT!』というヒットエフェクトと共に、派手に砕け散った。
「うわ――」
砕け散った氷と一緒に周囲に飛んできた冷気に、その場にいた全員が顔を庇う。
「……あれ、ゲンムは?」
気付いた瞬間には、もう遅い。
ゲンムは既に、影も形も無くなっていた。
******
「……でも、あの時は黎斗もいたぜ?」
「うん。てことは、ゲンムは檀君じゃないって事になるんだよね……」
「それに、ミネルバはプロトスナイプという奴に変身するしな」
「じゃあ、一体誰が……」
そこまで考えると、ゆかり、順平、明彦は揃って腕を組み、考え込む。一体、ゲンムの正体は誰なのかと。
しかしただ一人、風花が考えている事は違っていた。
おずおずと手を上げた風花は、「あのー」と切り出す。
「ゲンムって、本当に敵、なのかなって……あれ?」
そこまで言ったところで、風花が他の3人の顔を伺ってみると、なんとも不思議そうな顔をしているではないか。
「ごっ、ごめんね! 私、変な事言っちゃって……今言ったのは――」
「……いや、確かにその通りだな」
「忘れて……へ?」
最初に立ち直り、風花に同意を示したのは明彦。
「そういや、黎斗の奴もガシャット盗まれたーって事以外、なんも言ってなかったっけ」
「……思えば、今のところゲンムって、大型シャドウをやっつけてるぐらいしかしてない……あれ? って事は案外悪い奴でもない……?」
非常に単純な話、ゲンムは今のところ、シャドウの討伐を掲げるS.E.E.S.にとって、得な事しかしていないように思える。
その最中にプロトスナイプを含め、被害を被っているところは多少なりともあるが、単にこちらが大型シャドウ退治の邪魔になっていたと考える事もできるわけだ。
順平が調子づくように、むふーと鼻を鳴らす。
「ま、なんだ? 確かにドロボーはよくねぇけどよ。でも実質手伝ってくれてるならいいじゃん? えと、こういうのなんて言うんだっけ? ビンビン?」
「Win-Winだ」
「そーそーそれそれ」
檀黎斗、ミネルバ、ついでにこの日、家の事情で不在の桐条美鶴の預かり知らぬところで、謎のライダーゲンムが味方として認識され始めた瞬間だった。
――その仮面の下に、何を隠しているのかも考えずに。
******
――その頃。桐条グループの本社ビルにて。
「……『黄昏の羽根』。確かに受けとりました。感謝致します」
「何。礼を言うのは此方もだ、檀君」
「気軽に黎斗と、そうお呼びください」
その社長室で、檀黎斗はある人物と取引を行っていた。
「しかし、良いのかね?」
「何がです?」
「『仮面ライダーシステム』……ペルソナ使いでなくとも、シャドウに対抗できる技術と力。当然、君の会社が表立って公表しているゲームとは異なる。つまり……」
「企業秘密レベルのものだろうと、仰りたいわけですね?」
「そうだ」
「……なんら問題はありませんよ、桐条武治さん。これは我が幻夢コーポレーションからの、桐条グループへの親交の証のようなものなのですから」
あくまでもにこやかに、黎斗は目の前のスーツを着た眼帯の男――桐条武治に、そう返答する。
「元々、私から幾月理事長や、ご息女の美鶴さんと約束した事です。だというのに、それを反故にするわけにはいかないでしょう。……それに」
「それに、なんだね?」
にこりと、黎斗の口元が弧を描く。
「いえ。シャドウのせいで、我が社のゲームのファンやプレイヤーを失うなど、耐えられませんから」
「……そうか」
一瞬、ほんの一瞬だが、武治の黎斗を見る目が厳しくなったが、次の瞬間には、いつも通りの威厳ある仏頂面へと戻った。
(……この少年、侮れん)
武治は内心、黎斗に対し複雑な感情を抱いていた。
未成年でありながら、自ら会社を起業。そして、今では世界有数のゲーム会社としてその名を轟かせる、『幻夢コーポレーション』の社長。
特別な家柄の人間ではないが、だからこそ、怪しむ。
(……自分の身一つで成り上がった人間というものは、得てして腹に何かを抱え込んでいるもの。その点で言えば、この少年は……分からない)
以前にも、武治は一度だけ、黎斗と会った事がある。その時はまだ中学2年生だったが、その風格は少年とはとても言えない程に堂々たるものだった。
まるで、
(仮面を被るのが得意なのか、それとも心の底からそう思っているのか……)
問いただすべき事はいくらでもある。例えば、ゲーマドライバーにガシャット。あれらが一体、如何なる理屈で動いているのかを。
現在、彼が知る中で唯一影時間で機械を動かす方法は、今しがた黎斗に渡した『黄昏の羽根』と呼ばれる物質である。
だが、黎斗が開発したそれらが、一体どうやって動いているのか、そこまでは把握できていない。
武治の予想としては何処からか『黄昏の羽根』を入手したとしか思えないのだが、もしそれ以外、何らかの方法でそれを成し得たのだとしたら――
(……若者に頼らず戦えるというのなら、今すぐにでも彼らを元の生活に戻し、我々の手でケリを着けたい。……そうだ。本来なら全て、我々が精算すべき事なのだ……)
厳格ながら、内心では娘を思いやる父。それが、桐条家の現当主、桐条武治という人間であった。
先代のような冷酷な人間には、彼はとてもなれそうになかった。
そんな悩める父親を前に、黎斗はただただ、にこやかに微笑むだけだった。
シャカリキスポーツが来ると思った? 残念、プロトタドルクエストでしたー! ……はい。エグゼイド本編でも奪った事のあるガシャコンソード君の出番でした。
本編では奪ったら自動的に所持品みたいな扱いでしたが、急に出してもアレなので今回はシャカリキスポーツの初登場時みたいにしてみました(ゲンムが地上波初登場時のアレ)。
おかしい……アイゲフンゲフンミネルバが全然目立ってないぞ……?