続、やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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第4話 俺と魔王と仁王立ちの

「今すぐ駅前に来てくれないか?」

 

事の始まりは平塚先生からの電話だった。

有無を言わせない口ぶりにそのまま電話を切りたい衝動に駆られる。いつぞやの千葉の件もあった訳だし。

 

「……理由を聞いてもいいでしょうか?」

が、電話を切ると後々面倒くさそうなので一応聞いてみる。

 

「比企谷。今までこういうやり取りはあった気がするが。今回ばかりは黙って従った方がいいぞ」

 

「いえ、そう言われても」

平塚先生は焦っているというか何か諦めているような口調でいつもの迫力があまり無い。

 

「まあ、何だ。やはりこういうのは君が適任だと思うのだよ」

 

「とりあえず、あれです。あれが、こう、調子が悪いので。すいません。切りますね」

 

「まてまてまてまて!!まず、待ちたまえ。言い方が悪かった。比企谷。お前を頼りたいんだ」

 

「すいません。俺ではお役に立てません。失礼します」

 

「大丈夫だ!!信じろ比企谷!!私が信じたお前を信じるんだ!!」

 

「先生が信じた先生を信じてますから。ではー」

 

「『静ちゃん誰とお話してんの~』」

 

「……へ?」

通話口から聞こえたのはよく知る声だった。

 

「まて!陽乃!急に立つな!」

「まだふらついて『次いくよ~!!』」

「次じゃない!まず座れ!!そして水を飲め!」

「『え~、お酒がいい~』って、いいから水を飲め!!」

「『嫌だ~』立つな!水を『もしかして彼氏~』」

「彼氏じゃない!というかお前の比企谷自慢は聞き飽きた!帰らせてくれ!!」

「『え~。まだ話足りない~』

 

「………」

 

「すまないな。しかし、事情は分かった『静ちゃん行こうよ~』だろう」

 

「……すぐ行きます」

 

 

 

×××

 

 

駅前で上機嫌の陽乃さんとげっそりとした平塚先生を見つけた。その場ですったもんだあったものの何とか平塚先生と協力して陽乃さんを自宅のマンションまで連れて行くことができた。

 

「ゆきのちゃんなら実家だから!上がっても大丈夫だから!」という謎理論に押し通され「十分ぐらいだけですよ」と部屋に上がることになる。

 

「何か服がタバコくさい。シャワー浴びる!!」

 

と陽乃さんがバスルームに行った隙に平塚先生は玄関を出ようとする。

 

「比企谷!思い出してくれ。君の使命を」

 

「って何逃げようとしてるんですか?俺一人じゃまずいでしょ!」

ってどこのハイパーエージェントですかあんた。

 

「なあ、比企谷。君は陽乃と付き合ってるんだよな」

 

「…ええ。まあ」

改めてそう言われると何とも答えづらい。

 

「なら、何も問題はあるまい」

 

「いや。あるだろ」

 

「なあ、比企谷。三時間だ」

 

「え?」

 

「陽乃と夕方早くから飲み始めて」

 

「ずっと比企谷との自慢話を聞かされた時間だ」

 

「……」

 

「なあ、比企谷。なぜ私は独りなんだ」

 

「…すいません」

 

「こんなに酔わなかった酒は久しぶりだよ」

 

「…マジすいません」

 

「帰って録画したガンダム見ていいだろ?ミスターブシドーの正体が気になるんだよ」

 

「……本当にすいません」

それネタですよね。乙女座の人ですよ。誰が見ても分かりますから。

 

「あー、独りって気楽だよな。いっそマイスターになりたいよ」

 

そのまま泣き出しそうな顔の平塚先生に思わずもらい泣きしてしまいそうだった。

 

「じゃあな。比企谷」

 

「先生。お気をつけて」

今ばかりは神に祈りたい。この人の幸せを。

 

「今日はな。本当は私の異動祝いだったのだよ…」

 

いやいや、そんな重要なことを帰り際にさらっと言われても。

 

 

 

×××

 

 

 

シャワーから戻った陽乃さんは家で軽く飲み直すらしい。「軽くだから大丈夫だから!八幡が見てる間だけ!」という謎理論で押し切られた。

 

ちなみに何故か部屋着に着替えている。

 

薄いパステルピンクのボーダー柄のフード付きパーカーに、何かモコモコした素材のショートパンツ。パーカーの前のチャックは開けたままで、同系色の下着のようなキャミソールっぽいのはその双丘を大いに主張している。肩紐がずれて、ブラジャーの肩紐がまんま見えちゃってるし。同じピンクっぽい色なんですね。ええ、全く視線誘導なんかされてませんよ。

 

「はちま~ん」

 

「な、なんですか?」

 

「えへへ。呼んだだけ~」

 

何このカワイイいきもの。

思わず鼻血が出そうだった。

 

だって普段はしっかりした美人なお姉さんタイプの女性が、なんか甘えた猫みたいにゴロゴロしてんのよ。ギャップ何たらとかで簡単に語れないでしょうこれ。

 

というか、いまのお互いの体勢なんですけど。

 

陽乃さんは俺の太ももに腰をかけ、右手は俺の肩を摑みながら左手でグラスを持っている。ほとんどお姫様抱っこをしているような状態だ。というかこれ俺が陽乃さんの肩を抱くのが前提の座り方ですよね。モコモコした素材越しとはいえ抱いている手からがその体の柔らかさと温かさがダイレクトに伝わってくる。

 

っていうかこの体勢おかしいですよね?

あまりにも自然に座られたんで動けませんでしたよ!!

 

それに、シャワー上がりのふんわりとした甘い香りは、鼻をツンとさせるようなアルコールの強い香りと相まって俺の思考をまともに働かせない。そして俺の内なる化け物達は銀等級の冒険者に狩られるのを待つゴブリンのように怯え出す始末だ。

 

 

「はるのって呼んで~」

 

「いや、その」

 

「呼んで~」

 

「まあ、その」

 

「呼んでー」

 

「ええ、その」

 

「呼んで…」

 

いやいや三点リーダーは止めましょうよ。後、若干涙目も拗ねたような態度も反則ですからね。そのまま干妹にでもなりそうな勢いだし。まあ姉だけど。ちなみにその内容は笛内で素晴らしい作品により開拓済である。

 

「八幡のいじわる…」

 

「いや、その、すいません…」

 

「謝ってもだめ。悪い八幡だね」

 

「悪い八幡じゃないですよ。良い八幡ですよ」

と転生しなくてもいいように敵意が無いことをアピールしてみる。

 

っていうか駄々こねるように動かないで!!元からいろいろ当たってんのがさらに大変なことになっちゃうから!俺の中の暴風竜の封印が解けてしまう!助けて大賢者!!

 

「その…子供じゃないんですから。大人しくして…」

苦し紛れに何とか口から声をひねり出す。

 

「……じゃないよ」

 

「え?」

 

「私はそんなに大人じゃないよ」

 

いや十分大人でしょう。一瞬いろんなところに視線が誘導されそうになる。

 

「私ね。大人って、大きくなったらみんな自然となるものだと思ってた」

 

「そうなんですか…」

 

「ずっと早く大人になりたいって思ってたから」

 

「でもまだ子供で、どこにもたどり着けていない」

 

「……少なくとも俺からしたら十分に大人っぽいですよ」

 

「『大人』じゃなくて『大人っぽい』なんだね」

 

「……正直。何を持って大人なのか子どもの俺にはよく分かりませんから…」

 

「私もそう。よく分からないんだよね…」

 

そう言ってどこか遠くを見るように天井を見上げる陽乃さん。

 

「で。そろそろ止められた方が」

 

陽乃さんはずっとグラスを持ったまま。

というか会話の度にグビグビしてるし。

次第に俺の胸元に寄りかかってくるし。

自分の胸の鼓動が耳で聞こえそうだし。

 

 

「八幡とも飲みたいな」

 

「…まだ未成年ですから」

 

「オレンジジュースでないとダメなの?」

 

「いや、それは…」

 

「じゃあ大人になればいいんだよ」

 

「そうは言っても…」

 

「早く大人になってよ…」

 

「……」

 

「私も大人になるから」

 

「……そうですか」

 

「あんまり待ちたくない」

 

「……はい」

 

「待ちたくないんだよ…」

 

そう言って陽乃さんは手に持ったグラスを一気に飲み干す。

 

その際、口からわずかにもれた分が朱色づいた頬を伝い、胸元に雫を落とす。

 

「ねえ、八幡」

 

落ちた雫は衣服に広がり、その痕跡を大きく残していく。

 

「わたし、初めてー」

 

痕跡は曖昧だった輪郭を徐々にはっきりさせて。

 

 

 

 

「本当に酔ったかも」

 

 

俺の頭の芯を猛烈に痺れさせる。

 

 

いつの間にか陽乃さんの左手が俺の頬に添えられていた。

 

その熱さに意識が刈り取られそうになる。

 

目の前の何かを求めるような美しい瞳が。

 

俺の視界を段々と占めていくのを。

 

 

 

 

 

俺はただ為すがままにー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたたちは私の家で何をしているのかしら?」

 

部屋の温度が一気に氷点下になるような声。

 

 

腕組で俺たちを見下ろす、

すんごい笑顔の雪ノ下雪乃。

 

 

 

 

 


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