私はシード。サッカー界を支配する『フィクスセクター』という組織で育てられた強化選手。え? 何の選手かって? ここまで話してる競技なんてサッカーしかないでしょ。
なんか楽しく玉蹴りしてた幼少期、突然現れたゴッツイ男達に連れて行かれて地獄の訓練をさせられましたよ、えぇ。いや、ほんとに酷いよね。
親もフィクスセクターには逆らえないのか、私を簡単に引き渡したらしい。多分金が良かったんだと思う。人間そういうものだ。
ちなみにらしいというのも私はあんまり覚えてない。人伝てで聞いただけだ。だから、別に親は恨んでないし、私にとってはあの地獄の訓練が日常で普通だった。
ただ強くなる。言われた通りの訓練をこなして、ボールを蹴る。そして、訓練の前段階としてまず潜在能力を身につける。
普通である。普通ったら普通なのである。これが私の通常だ。
ちなみに私が強化教育された施設はゴッドエデンというフィクスセクターが誇る至高の育成機関だ。
もうほんとね、やばいよここ。まず殺される。いや、マジで。序盤で何人くたばったか。
え? 軽く言う?
仕方ないでしょ、他人がくたばろうがなかろうがそれに構ってる暇なんてない。だって死にたくないし。
まともに死地で玉蹴りできるようになるとやっと第二弾に移るのだ。多分最初の段階乗り越えた奴は戦場でサッカーできるよ、マジで。
んで、次の訓練なんだけど。
さぁ! 化身を出せ! 出さないなら死ね!
って言われる。いや、マジで。私は一言も嘘なんてついてない。
これが真実っていうんだからほんと世の中過酷よね。そりゃ死にものぐるいで化身出そうとしましたよ。大体化身なんて簡単に出るもんじゃない。
あれは心の問題、強い精神力を持ったものが死ぬくらいの障害を乗り越えてやっと出せるもの。それを何百人、何千人の子供達に出せ! 出さないなら死ね! と言うフィクスセクター。
マジで鬼畜。いやー、またいっぱいさようならするなー。私もここまでかー。とか思ってたら出ましたよ化身。
まぁ物心ついた時からゴッドエデンにいるからね、私。多分精神力強かったんだと思うのと割と慣れてたんだよ。
ここでハッキリした。私の『普通』、ぶっ壊れてるわ。
隣の男の子が泣いてうずくまってるこの訓練めっちゃ当然のことだと思ってるもん。つか化身出すための訓練なら効率悪いなーとは私も思うけどね。あいつら化身出すまで子供虐めてるけどそれじゃ心が弱って化身なんて出ないでしょ。
まぁそれを乗り越えて出して欲しいんだろうけどさ。相当ブラックだねぇ、フィクスセクター。
話がズレた。
とりあえず私はイカレてるのだ。オウ、アイアムクレイジー。
んでまぁ化身出せるようになればやっとサッカーっぽいことできるようになるのである。まぁ違う訓練方法もあるわけで参加メンバーの中には化身使いじゃない人もいるんだけど。
もう化身使いがわんさかいるんですよこれが。そんな方々が集まってちょっとハードなサッカーをします。
結果、めっちゃ断末魔を聴いた。たまにそれすら聴かずに潰れた子も……見なかったことにしよう。それにしてもあれやばいわ。てか私やばいわ。
なにがちょっとハードだよ。私でちょっとハードなら多分隣で転がってる僕からしたらここ地獄だよ。
いかに私の『普通』、その基準がイカレてたか理解できた。
まあ結局私から言わせればそれを実感しただけだったんだけどね。
そういえばここらでやっと他人を気にする余裕が出来た。
化身出せて余裕ができたのかな、割と一緒に訓練してた化身使いの中でも凄い方っぽいし。成長よ、成長。私凄い。
また話がズレた。
なんで急に他人の話をし出したかというと白竜君と剣城君ですよ。
訓練中、シードの中でもトップクラスだと謳われる2人組がね。それはそれは元気に化け物ぶってましたよ。
あいつらやべぇな。
他にも青銅弾君とかいう男だか女だかよく分からん子とかも居たね。あの子も凄いけど白竜君と剣城君はパネェ。
私? 私はまぁ……上の下くらいかな。これでも頑張ったし、凄い方だと思ってる。
少なくとも白竜君の取り巻きよりは強いよ、多分。
さぁ! 実はここまでどうでもいいのである!
なんか一応私の生い立ち? みたいなの言っておこうかなぁと思っただけであって別にここまで話してきたこと深い意味がある訳ではない。
思えば私なんでここまで回想してたんだろう。
誰に話してるわけでない。自分自身で心の中で言ってただけなのに。
まぁそんなことも今ではどうでもいい訳で。
急ですが私、運命の出会いをしました。
シードとして育てられた私の人生。
ただ強くなることと御飯食べることくらいしか興味なかったんだけどさ。
なんと『恋』をしました。
それはとある試合観戦の時。
なんか偉い人達に上位クラスのシードの子達がなんかフィクスセクターに反旗を翻した雷門とかいうチームとうちの最強チームが戦う試合を見学しろと命じてこうして無理矢理試合を見せられてるのである。ほんと無理矢理よ。
応援の仕方とか指定されてるの。試合前はずっと『フィクス! フィクス!』って叫んどかなきゃいけない。キツいわ、ほんとに。
また話がズレた。応援なんてどうでもいい。
『究極』を求めた最強のチーム・ゼロがこの試合で成長経て究極へと近付くらしい。それを目に焼き付けろとのことで見せられた試合だ。
正直心底どうでもよかったがなんとあの剣城君が敵で出てきたのは驚いた。が、それ以上はほんとになんとなくで見てた。
チームゼロに徹底的にボコられる雷門とかいうチーム。
なんとか向こうも化身使いが3、4人いるようでその内の3人が頑張ってるけど白竜君1人に倒される始末。白竜君を3人で抑えようとしたのは良かったけどチームゼロには私が知ってるだけでもまだ4人化身使いのシードがいるのよね。
5対3で完敗よ。これは負けるわ雷門。そう思ってた後半。
序盤で驚きの展開があった。
雷門中学の1年松風天馬君。
なんと彼が無謀にも白竜君に突っ込んだのである。向こう側の中ではかなり才能ある方だなと私も睨んだたけどそれにはさすがに驚いた。
さすがに無謀だと思った。
でも監督らしき人からアドバイス受けてその瞳に宿す力強さに私もちょっと惹かれたんだよね。
無謀だと思ってるんだけど何故か彼は白竜君に勝てるとも思った。
そして、それは本当に起きた。
「天まで届けぇ! 魔神ペガサスアーク!」
松風君の化身・魔神ペガサスが進化した。
嘘、化身って進化とかするの? とか思ったけど彼にはそれだけの力があるんだ。
きっと彼は特別。『革命』を起こす力がある。
そして、私はこの時松風君に惚れた。恋をしました。
大事なことだから2回言いました。
私だったら諦めてた時も松風君は諦めない。チームが肩を落とす時も松風君は「なんとかなるさっ!」とチームを元気付ける。
かっこいいよ、松風君は。
彼のその時のプレーは試合の流れを変えた。私が不可能だと思ってたことを可能にしたんだ松風君は。
そこから私は試合を食いつくように見た。白竜君がヤケになって敵陣を切り裂こうと繰り出した聖獣シャイニングドラゴンを意図も簡単に魔神ペガサスアークは勝って見せた。松風君のアタックが白竜君を破った。
彼に恋した私はそれが誰よりも何倍も輝いて見える。ただ彼が走ってるとこを見るだけで心臓が張り裂けるほど跳ねる。
白竜君とチームゼロの化身使いがまた5対3に持ち込もうとしてDFの霧野蘭丸君って子がDFを率いて化身使い2人を退けたのも松風君が試合の流れを変えたお陰だと私は思う。
その後大人気ないフィクスセクターは大人組を試合に介入してきたけどまぁそれはどうでもいい。汚ぇ、フィクスセクター。それしか感想は出てこないし。
ゼロがピンチになった時シュウ君っていうゼロのもう1人のエースストライカーが強力な化身を出現させてまた雷門がピンチになった。さらに雷門を絶望させるため白竜君とシュウ君の化身がなんと合体してそれにも私はびっくりしたんだけど、松風君達も化身を合体させたのには私も確信した。
やっぱり彼は凄い力を持ってるよ。松風君の言葉で何かが晴れたような顔をしてるシュウ君。白竜君も何かを思い出してそこからの試合は雷門もゼロのメンバーも凄い楽しそうだった。
そう、楽しそうにサッカーしてるんだよね皆。
これには観戦してたシードの子達も感動して試合終わりにでっかい歓声をあげた。
私だってでっかい声出したよ。
「雷門ありがとう! 松風君大好きー!!」
ってね?
その試合のあとゴッドエデンは危険な訓練が公共にバレて訓練施設としてのゴッドエデンは無くなった。居場所を無くした私は親を探したけど居なくて、雷門を訪問しようとしたけど松風君に会う勇気がなくていつの間にかタイミングを無くした。
「はぁ……松風君元気かな?」
ある日、なんとか生きてた生存力長けてる私は今も尚ゴッドエデン島で雷門サッカー部の近況を探るだけの寂しい女となっている。
今日もいつもの端末を片手で弄って雷門サッカー部を調べようとした。
しかし、検索には雷門サッカー部はヒットしない。
「あれ? なんで?」
最初は端末のバグかと思ったけどどうも端末は正常っぽい。
そんな正常な端末で調べた結果私は異変に気付いた。
あれだけサッカーサッカーと騒いでた世界。今日は何故かサッカーの存在が薄い。これは……何かが起きている。私は瞬間的に察した。
こうしちゃいられない。松風君が危ない気がする。
この日、私はゴッドエデン島を旅たち、雷門中学へと行くことを決意した。
無事でいてね、松風君。それが1番なんだから。