お気に入りは100件を突破しました!ありがたいです。
しかも評価バーに色がつきました…これは夢ですか?一瞬、自分の目を疑いました。
この結果を受け止めて、もっと頑張ろうとおもいました!
やはり本編の話を皆さんは読みたかったんですかね…。これからは自分のペースで更新を始めていきますが、これからも読んでくだされば幸いです。
「はぁ、……」
「大丈夫か、雪音?ため息なんてらしくないな」
「こんな状況でため息が出なかったら、逆にすごいよ…」
騒がしかったSHRが終わり、先ほどまで行われていた一時間目の授業が終わったばかりだと言うのに、雪音は机に手をおいた状態のまま深いため息を吐いていた。
それもそのはず、雪音達のクラスである一年一組には休み時間ということで、他クラスの女子達のほとんどが押しかけてきて、たった二人だけの男子生徒をヒソヒソと見ている状態だった。
その中には同学年だけではなく、上級生までもが混じり入っていたほどだった。それに加え、クラスの女子達の視線さえもこちらに向けられているのだから、鋼のメンタルの持ち主でもないかぎりは、誰だってため息ぐらいは出てしまうであろう。
「まぁ、確かに雪音の言う通りだな。なんか動物園にいるパンダになった気分だぜ。」
「あながち間違ってないけど…どっちかって言うと、珍獣扱いじゃないかな?」
「それだけ俺たち男子二人の存在が珍しいって言うのも、あるからだと思うぜ?」
「…多分、それだけじゃない気がするよ…。」
雪音は一夏の顔を見ながらもそんな風に思う。おそらくここに来ている女子達のほとんどが、世界でたった二人だけのIS男性適正者を見たいと同時に、一夏のことも見に来たのであろう。
一夏が世界最強である千冬さんの弟であるのだから、その注目度は半端なものではないではないはずだ。加えて一夏自身の整った顔立ち。その二つが重なれば本人にその気がなくても異性からの注目は高いものだ。
「(中学の頃はそれで、どれだけ苦労したことか…。)」
そんな風に自分はあまり関係ないといった様子の雪音だが、実際のところは半分正解で半分不正解といったところであった。
確かにここに来ている女子は世界で二人しかいないIS男性適正者を見に来たのは事実だ。しかしその後の、一夏だけを見に来ているというのは間違いである。一夏を見に来ているものが女子の半分だとすれば、もう半分は雪音のことが目当てであったのだ。
雪音自身はまったくの無自覚であるが、彼自身の容姿も一夏に負けず劣らずなくらいの高レベルである。
絹糸のように艶に帯びており、色素が薄い為か、新雪のような白に近い灰色の髪。少し垂れ目ながらも女性が羨むくらいに長い睫にまるで、淡い夕焼けの空をひとつの宝石に閉じ込めたかのように美しい橙色の瞳。
先ほどSHRで見たものならば分かるであろう、そのすべてが揃った彼が笑うだけで男女共に一度は沈黙し、その美しさに見惚れてしまう。ぶちゃっけ言えば、その笑顔を忘れることが出来なくなってしまうのだ。
はっきり言おう、そう、可愛いのだ。かっこいいが一夏ならば可愛いが雪音である。
中学の頃は、一夏のモテぷっりに隠れていてあまり知らないだろうが、彼に好意を寄せていた女子もかなりいたくらいだ。まぁ、雪音はちょうどオメガ<Ω>の発覚とトラウマの時期と重なってしまい気づいてないが…。
おまけに雪音がオメガ<Ω>ということの為かその身からは発情期ほどでないにしろも、普段から少量のフェロモンが漂わせている。
そのせいで雪音は一般人でありながらも一夏同様に、女子からの注目を浴びる羽目になったのである。もちろん、雪音自身はそんなことなどは露知らずだ。
ぶちゃっけ言えば、彼も人のことが言える立場ではないのだ。
そんなこんなで、一夏と雪音が女子達の視線に堪え続けている中ーー。
「すまない、少しいいだろうか?」
ふと、誰かに声を掛けられる雪音と一夏。そこにいたのは先ほど、雪音と目を合せて思いきっり目を逸らした、篠ノ之箒その人であった。
「あれ?…もしかしてお前、…箒なのか?」
「久しぶり、箒ちゃん」
「あぁ、久しぶりだな。雪音、一夏」
一夏は6年ぶりに再会した幼馴染みに驚きの表情を隠せず、雪音はやっぱりと言った様子で口元に笑みを浮かべた。
すると、箒は雪音のほうへと目を向け、喋り始めた。
「すまないが、雪音。少し付き合ってもらいたいんだが、今は平気そうか?」
「…?うん、別に大丈夫だよ。なにか話でもあるのかい?」
「あぁ、だがここでは話づらいからな…少し場所を移そう」
「分かったよ。じゃあ一夏、少し行って来るけど、大丈夫かい?」
「あぁ、俺は平気だぜ。とりあえず行ってこいよ」
「ありがとう!」
そう言って、箒と雪音の二人は、一夏とクラスの女子達に見送られながら、教室から出たのだったーー。
◇◆◇
箒が雪音を連れて向かった先は、IS学園にある屋上だった。潮の匂いが漂う海風に当たりながらも、二人は屋上に備え付けられているフェンスに手を置いた。
「改めて言おう…、本当に久しぶりだな。雪音」
「こちらこそ、久しぶりだね箒ちゃん。元気だった?」
「まぁ、…何とかな」
なんだか急に暗い雰囲気と憂いを醸し出した箒。なんだかまずい事を聞いてしまったかな?そう思い、雪音は慌てて話題を変えたのだった。
「…そっか、そういえば剣道の全国大会で優勝してたよね?いまさらだけど、おめでとう」
「…っ!な、なんでそれを知ってるんだ?それに、もう一年半も前の事なのに…。」
「新聞で読んだからだよ。こうしてまた会えたから、どうしても直接言いたかったんだ」
「そっ、そうなのか…ありがとう」
少し照れくさそうな様子の箒だったが、どうやら話を逸らすことが出来たようで、雪音は少しほっとするのであった。すると、箒は落ち着きを取り戻したようでこちらを見て、話はじめるのだった。
「それにしても、ニュースでお前と一夏がISを動かしたと知った時は驚いたぞ。あの時は姉さんがなにかしたのではないかと思ってしまったくらいだからだ。」
「まぁ、僕の場合は動かしたというより、完全なとばっちりで動かしちゃたんだけどね…」
「…とばっちり?それはどういうことだ?」
「実は、こんなことがあって…」
雪音は、自分が一夏と一緒に行った受験会場先で、一夏がうっかりISを動かしてしまい、自分もそれに巻き込まれる形で動かしてしまったことを箒に話したのだった。
「それはまぁ…なんというか、…災難だったな。」
「まあね…、いまさら僕がどうこう言える立場じゃないんだけどね…けど、よかったこともあったよ。」
「よかったこと?、話を聞いても完全にお前は不幸でしかないと思うのだが?…私が言うのもなんだが、こんな女しかいない学校に放り込まれたというのに、お前はISを恨んだりしないのか…?」
「あははっ、恨んだりなんかしないよ。だって…」
雪音は穏やかで優しい表情になり、そして箒の顔を見て微笑みながら言葉の続きを口に出した。
「…だって僕がISを動かせたから、こうして6年ぶりに箒ちゃんとまた会えたんだよ?僕にとってはそれが何よりの幸福だったよ。…それに、束さんが夢のために作ったものに乗れたんだからね。」
その言葉を聞いた瞬間、箒の顔は一瞬で紅く染まり、思いっきり動揺してしまうのだ。
「…っ!?なっ、何を言ってるんだ、お前は!?」
「…え?言葉通りの意味だと思うけど…何か気に触ったかな?」
「気に触ったって、お前は!……い、いや、なんでもない、気にしないでくれ。」
「…?気になるけど、分かったよ」
僕は箒ちゃんが顔を紅くしていることが気になったが、あまり深く聞いてはいけない気がしたので、何も言わないことにしておく。だけどなんかブツブツと言っているけど大丈夫かな?
「まったく、無意識にも程があるぞ…。それにあの笑顔は何なんだ?…あんなこと言われたら心臓が持たないではないか…。」ブツブツ
「箒ちゃん、そろそろ戻らないと。もうすぐ予鈴のチャイムが鳴ちゃうよ?」
しかし、箒ちゃんの意識は完全に別のところにあるようで、僕の声が聞こえていないようだ。
「い、いや落ち着け私。雪音は天然だからな。昔からあんなことばかりを言っていたではないか…そうだ、本心を言っただけなんだろう…」ブツブツ
「箒ちゃん…。」
. . . .
「決して、そういう意味で言っているわけじゃない…だから勘違いをしてはーー」
「ーー箒ちゃんてば!!」
「ふぁ!?、なっ、なんだ?雪音、急に大声を出されたら驚くじゃないか!」
「…さっきから、ずっと呼んでるんだけどなぁ…てっ、そんなことよりも!!」
雪音は慌てて、屋上に設置されていた時計の時間を見やる。ーー時刻はちょうど次の授業が始まる5分前の時間に差し掛かっていたのだ。それにより雪音の表情は一気に青ざめた。
「まずい!…もうすぐで予鈴のチャイムが鳴ちゃうじゃないか!?…箒ちゃん!、申し訳ないけど…ごめん!」ガシッ
「お、おい、雪音!?」
そう言った瞬間、なんと雪音は箒の手を掴んだと思いきや教室に向け、全力で走り始めたのだ!
「ゆっ、雪音!?たっ、頼むから離してくれ!私は自分で走れるぞ!?」
顔を真っ赤にした箒にそんなことを言われるが、余裕のない雪音はそれに気づかない。箒の手を取った状態のまま、走るスピードを緩めることはしなかったのだ。
「今、止まったら予鈴に間に合わなくなっちゃうからね!僕に手を握られるのは嫌かもしれないけど…時間がないから、少しの間だけ我慢してて!」
「…っ!い、イヤな訳ではない!!…ただ、はっ…恥ずかしい…」ボソッ
「(…なにか最後に聞こえたような?)よかった、それは安心したよ。…よし、スピード上げるから足元に気をつけてね!」
「ばっ…だからと言って、それと今の状況とは別の訳で…!、たっ、頼むから止まってくれーーー!?」
◇◆◇
「なっ…何とかセーフ!!」ゼェゼェ
「雪音、…すこし…は、コチラの身にも…なって欲しいのだが…!?」ゼェゼェ
「あっ、ご、ごめんね?…箒ちゃん」
「まったく…そうやって夢中になると、周りが見えなくなるところは相変わらずだな…。」ハァ
「うぅっ……、返す言葉もありません。」シュン
「イ、イヤッ…そんなに気にすることか…?(うっ…どうしてコイツは表情ひとつ変わるだけでも、こんなに可愛いと思うんだ…!?)」
箒に痛いところを突かれた雪音は、まるで飼い主に叱られてしょんぼりとしている子犬のような表情をして、俯き加減のまま箒の顔を見ていた。そんな表情の雪音を見ているだけで、箒は表面上は冷静に、しかし裏では雪音の目の前で悶えかけそうになる自分を抑えるのに必死になっているのだった。
するとーーー
「おい、そこの生徒二人、なにをしている?もうすぐ次の授業が始まる…堀内と篠ノ之、なぜお前らは手を繋いでいるんだ……?」
「「えっ…うわっ!織斑先生!?」」
ふたりの前に現れたのは、自分たちのクラスの担任である織斑千冬だった。なぜか二人が手を繋いでる所を見た後に続いた千冬の言葉が、不機嫌そのものだったことを雪音だけは気付けなかった。
千冬に指摘されたことで、今の自分と箒がどんな状況なのかを理解することに、雪音は時間は掛からなかった。
「…ご、ごめん!箒ちゃん!!いきなり手とか掴んじゃって…!」バッ!!
雪音は慌てて、箒の左手を離した。
「あっ…イヤ、気にしないでくれ…」
「…?(なんか…様子が変な感じがするような…?)」
しかし、手を離した後の箒の表情はどこか残念そうなものだった。けれど、雪音にはその理由に辿りつくことは出来ず、頭に???を浮かべるばかりだ。
「…取り合えず、お前たちは早く教室に入れ。席に着いていないのは、お前たち二人ぐらいなものだぞ。」
どこか痺れを切らしたかのような千冬に声を掛けられ、二人は返事を返す。
「分かりました。箒ちゃん、早く入ろう!」
「あぁ、分かっーー「篠ノ之」えっ…」
すると、千冬は箒を引き寄せ、耳元で何かを囁いた。雪音にはその内容は聞こえなかったが、分かったことは、その瞬間に箒の表情が変わったことだけだった。
「早く、教室に入れ」
「…っ!!はっ、はい…。」
「…?」
二人の間に流れる空気が一変したようだが、雪音がそれに気付くことはなく、三人一緒になって教室の中へと入っていくのだったーーー。
◇◆◇
生徒の皆が授業に真剣に取り組みを果たしている中、篠ノ之箒だけは何処か浮かない表情を浮かべたままであった。原因は休み時間に千冬に言われた言葉に思考を持っていかれているためである。
「(…先程の千冬さんの言葉。)」
あの時、千冬が箒に向けて耳打ちして言ったのはこのような内容だった。
『雪音は絶対に渡さないからなーー。』
その時の千冬の表情を思い出す。
「(あの時の千冬さんの目、…本気だったな。)」
あの言葉はおそらく、自分が雪音に対して抱いている想いを見破られていたのだろう。その上で、あの人は自分の想いを打ち明けて私に宣戦布告をしたのだろう。
「(正直...相手が強敵すぎる...)」
6年間、それが自分と雪音が離れていた時間。その間に雪音の側には千冬さんがいたのだろう。それだけで、再会したばかりの自分が圧倒的に不利な立場にいることを、イヤでも自覚してしまう。自分ではこの恋は叶えられないのかもしれないと…。でもーー
「(それでも…雪音は私のことを覚えていてくれた。)」
箒はそっと、自分の左手を見る。
彼が先ほどまで握ってくれていた自分の手。いきなり掴まれた時は驚いたが、それでも自分の心臓は、正直なくらいに喜びと恥ずかしさの両方でドキドキしていた。
「(昔よりも、大きな手をしていたな)」
再会した時は、嬉しさで一杯だった。昔の面影を残しつつも、美しく、そして色気がある姿に成長した雪音に、自然と自分の心と体が強く、彼を求めていることに気が付いた。6年ぶりに再会して彼をもっと好きになっていたーー。
「(好きだ、雪音…私は諦めないからな。例え、世界最強が恋敵だとしても…必ず、お前を振り向かせて見せる…だからどうか…。)」
私だけを見てくれーー。
少女は決意する。自らの想いびとを振り向かせるため。そして、自分だけを見てもらうためにーー。
だが、少女はこれから先、その想いが彼を傷つけ、悩ませることになることを、少女はまだ知らないのだった…。
何か、先抜け感が半端ない感じですが、取り合えず今回はこれまで!
感想等があれば、どうかお願いします!