双極の理創造   作:シモツキ

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第九十一話 大規模模擬戦

三日間の訓練の、最後の一日。基礎的なもの、稽古的なものと来て、最後に行われるのは大規模且つ実戦的な演習訓練。それが今から……始まる。

 

(…やっぱ、緊張の雰囲気が強いな……)

 

演習の内容は、二つのチームに分かれての模擬戦。今はチームで集まっての作戦確認中で、これが終われば模擬戦開始となる。

 

「…という訳で、これは集団戦だが集団とは個人の集まりだ。誰かが、ではなく自分がという考えを忘れないように!」

 

台に立って話しているのは、リーダーに任命された一人の霊装者。年齢は上嶋さんと同じ位の…けどこれに参加してる以上は上嶋さんよりキャリアが短いであろうその人は、それなりの人数に注目される中でもはきはきとよく通る声で話している。…多分、それもリーダーに選ばれた要因の一つなんだろうね。

 

「じゃあ、以上!各自、持ち場へ移動してくれ!」

『はい!』

 

締めの言葉に全員で反応して、それから各々移動を開始。役割毎、部隊毎にその場を離れて、模擬戦開始のその時を待つ。…因みに俺は、継続的な砲撃が可能という点を見込まれ侵攻部隊の援護担当となった。

この模擬戦に、綾袮さんや妃乃さんを始めとするエース級の方々は参加しない。多少の差はあれど新人だけが戦闘を行う、正にこの二泊三日の仕上げというべき内容の戦い。…いや、仕上げる程訓練した訳じゃないけど。質はともかく量としては二日分だし。

 

「後数分、ね…二人共、精一杯やりましょ」

「はい、やれるだけやってみます」

 

声をかけてきたのは、俺の属する隊の隊長さん。俺の所は三人で一つの隊になっていて、彼女の言葉にもう一人のメンバーもこくこくと頷く。

 

(援護、か…まぁ普段通りにやればいいだけさ、俺)

 

大規模な集団戦なんて対魔王戦以来なものの、後衛としての援護自体はいつも綾袮さんとのコンビでやっているから不安はない。普段より多くの味方を意識しなきゃいけないだとか、前衛が綾袮さんのつもりでやったら噛み合わなくなるとか、気にすべき事もあるっちゃあるけど…何も俺一人で援護する訳じゃないんだから、やっぱり必要以上に不安を感じる必要はない。…と、思う。

そうして俺は模擬戦開始の時間を待った。そして、周りの人から緊張の空気を感じる中、予定された開始時刻となり……通信機へ合図が入る。

 

「……!行くよッ!」

 

その合図と隊長さんの声に弾かれるようにして、俺達援護担当部隊は飛翔。ある程度の間隔で展開し、侵攻部隊の後に続く。

本来なら…ってか実戦なら、開始から実際に戦いとなるまでは結構移動に時間がかかる場合もある。けどこれは模擬戦であり……戦闘は、すぐに始まった。

 

(この距離は…まだ遠い……!)

 

前方に見える、両陣の攻撃部隊同士による戦闘の光景。早速火力支援を行いたいところだけど……そうはいかない。

俺の背負う二門の砲は、射程距離もそれ相応に長い。けど狙撃とかそういうレベルではなく、注ぎ込む霊力量を増やせばある程度の水増しは出来るけど、決して収束させる能力が高い訳じゃない俺だと途中で少なからず拡散してしまう。そうなれば威力不足だったり拡散した砲撃が味方に当たったりする可能性があるから、結果距離には気を付けなきゃいけない。…まぁ勿論、そういう面があっても援護には問題ないと思われたから今俺はここにいる訳だけど。

 

「あまり前に出過ぎないようにね!」

「了解!」

「大丈夫です、ここから撃てます!」

 

前線からの距離を見て、俺が一番前、もう一人と隊長はその少し後ろという位置取りで援護を開始。二人の持つ大型ライフルはともかく、俺の砲は明らかに精密な攻撃には向いていない為狙い撃ちは端から諦め、とにかく相手の邪魔と注意を逸らす事を徹底する。

 

「やった、当たっ……きゃぁっ!」

「大丈夫!?…向こうにもかなり長距離攻撃を得意とする人がいるみたいね…!」

 

射撃と砲撃を続ける中、不意に前線から…或いはその更に奥から放たれた光芒が俺達の近くを駆け抜けていく。幸いそれはもう一人を掠めただけで、被害はゼロと言って差し支えないものだけど……それまでただ攻撃していればよかった俺達にとっては、その攻撃によって更なる緊張が走る。

 

「どうします?回り込んで今の攻撃の射手を撃ちますか?」

「…いや、今のはまぐれかもしれないわ。脅威かどうかはっきりするまでは、このまま援護を続けるわよ!」

 

砲撃しながらの問いに、射撃しながらの回答。回り込むにしても援護を続けるにしても、手を止める事だけはしちゃいけない。状況は動き続けるというのが、戦闘の鉄則。

そして数分後、こちらを狙う攻撃に対して二つの事が判明した。一つ目はやはり向こうの後衛が放ってる攻撃らしいという事で、二つ目は相手の後衛もこちらの場所は正確には理解出来てないという事。つまり、相手の長距離攻撃は……半ば当てずっぽうで撃たれている。

 

(当てずっぽうの攻撃なんて、まず当たるもんじゃない。…ってのは分かってても、やっぱり心臓に悪いな……ッ!)

 

何度か光芒は近くを通っているものの、一番危なかったのは最初の一発。だから最低限の注意だけしていればいいんだけど……それがまた厄介というもの。気を付ける必要はほぼないよ、でも運が悪いと当たるかもね…なんてのは、ある意味狙われてるより心がざわつくんだっての……。

 

「…けど、何にせよやる事は一つだ……ッ!」

 

一進一退の攻防が続く前線へ目を走らせながら、砲へと霊力を充填。目標へと狙いを付け、偏差砲撃を二門同時で放つ。

俺達の役目は、攻撃部隊が少しでも優位に戦えるよう援護する事。それはこちらへ攻撃が飛んでこようと、当たりそうになろうと変わらない。そしてこの模擬戦も俺という存在の判断材料にされているだろうし……何より戦う以上は勝利を収めたい。その思いで俺は意識を前方に集中し、二人と共に援護を続けた。

 

 

 

 

まだ歴然とまでは言わないものの、全体的にはややこちらが優勢というのがここまでの状況。俺がいる戦場は拮抗しているけど、別方向から侵攻をかけた部隊や迎撃に当たっている部隊は相手を押しているというのが通信で聞こえてきている。

 

「…よしっ!アシスト成功…!」

 

良くも悪くも目立つ俺の砲撃につい目を向けてしまった相手チームの一人を、味方が撃破。援護開始から暫くしたところで俺は今のような『気を逸らす事に特化した攻撃』に専念していて、今のような事はもう何度も起きている。人によってはこれを折角の高威力が無駄になってる、と評するかもしれないけど……そもそも防御に重点を置いてる相手ならともかく、軽装の霊装者なら俺の砲撃はどっちにしろ過剰気味の火力になってしまうから同じ事。

 

「あっちの隊長さんから通信よ!ここを突破するのはまだ時間がかかりそうだから、無理はせず相手が別の戦場に向かえないよう押し留める事に重点を置くらしいわ!」

「なら、わたし達も援護続行でいいんですね?」

「そういう事。まだ残弾はあるわね?」

 

もう一人の人が俺の言わんとしていた事を言ってくれたので、俺は黙ってただ頷く。残弾に関しても、砲撃は実体弾を使っていないから問題なし。

 

(…にしても、流れとしてはゆっくりだな…やっぱ実際の大規模な戦闘、それもエース級がいないってなるとこんなもんなのか……?)

 

砲撃しつつ今分かっている状況を思い浮かべ、内心で呟く俺。一人一人の動きは勿論常人の域を遥かに超えたものだけど、それは個々の戦闘を見ればという話で、全体…所謂戦術だとか戦略クラスの視点で見ると、正直地味というのが俺の感想。…まぁ、それは俺に入ってくる情報が限定的だからであって、全体の指揮を取ってる人には目紛しく変わってるように見えている…って可能性もなくはないけど。

 

(……いや、そんな気の緩んだ事考えてる場合じゃないな。緊張感を持て俺、そんなんじゃ綾袮さんに叱られるぞ…!)

 

模擬戦であろうとここは戦場。戦いの場で気を抜いて良い事なんて、一つもない。どうせこれが最後の訓練なんだから、集中力を全て注ぎ込む位で丁度良いじゃないか。

そう思って俺は気持ちを引き締め直し、次の狙いへと砲口を向ける。……その、瞬間だった。

 

「……え…!?」

『……?』

 

後ろから聞こえた、只ならぬ雰囲気の「え」。戦闘中なんだから一つや二つ驚く事があってもおかしくはないけど、隊長さんが発したのはそういう往々にしてあり得る事の域の声じゃない。

 

「…り、了解……」

「…何か、あったんですか?」

「えぇ…どうも今戦ってる部隊を含め、向こうの攻撃部隊は全部陽動だったらしいわ」

「陽動って…じゃあ、本命は……」

「向こうの本陣からかなり離れた場所に、突然現れたんだって。…察知されないよう、徒歩で移動したのね……」

 

明らかに妙な様子の隊長さんへまず俺が、次にもう一人の人が質問。それに返ってきたのは、今のこの戦況が向こうの想定通りなんだという事実の宣告。

 

「けど…徒歩とはいえ大部隊なら気付きますよね?だったらその本命は防衛部隊で何とかなるんじゃ……」

「…残念だけど…少数は少数でも、少数精鋭らしいわ」

(少数精鋭…だから全体的には押せてたのか……)

 

二人のやり取りを聞く中で、俺はこっちが優位になっていた最大の理由を理解。基本戦力を偏らせないようにしてるこっちに対し、向こうは実力者を集めた少数精鋭を作っていたって事なら、そりゃ確かに精鋭部隊以外は実力者が抜けててこっちより平均戦力で劣るよなって話。そしてそうなると恐らく、攻撃…もとい陽動部隊は、最初から時間稼ぎを狙っていた可能性が高い。それは丁度、こっちの攻撃部隊がそれを狙っていたように。

 

「…………」

『…………』

「…顕人クン、君にここを任せちゃっても大丈夫?」

「それは……」

「えぇ、転進して防衛部隊と挟撃をかけるつもりよ。精鋭と言っても、別格なんてレベルじゃない筈だもの」

 

状況説明を受けてから十数秒後。隊長さんから俺に、そんな問いかけがあった。

隊長さんが言うのは、これまで三人で請け負っていた事を一人でやってほしいという要望。三人分は無理でも、一人で前線が求める援護を続けてほしいという事。それは難しく、プレッシャーだって一気に大きくなる。けど……

 

「分かりました、お二人は行って下さい!」

「…ありがとう。じゃあ、任せるわ!」

「が、頑張って!」

 

…俺は迷う事なく、それを受け入れた。楽じゃない事だとは分かっている。けど、俺の心にあったのは、やってやろうじゃないかという思いだったから。それに俺だって、隊長さんの選択が間違ってないと思うから。

反転した二人が離れたのを確認した俺は、ライフルを握り直す。一人で援護を続けるなら、やり方も変えなきゃいけないと考えて前進する。

 

「さーて、それじゃ……やってやろうじゃねぇか!」

 

掛け声と共にライフルを持ち上げ、三門同時に発射。三門全てを別の方向に向けて、相手部隊へビームと弾丸を叩き込む。

 

「うおっ、当たった…よっし……ッ!」

 

残念ながら俺に三方向全てを正確に認識する力はなく、狙いはこれまでよりも雑。でもよっぽど滅茶苦茶な攻撃でもしない限りは最低限の効果が見込めるし、今みたいに運良く当たる事だってある。だったらやらない道理はない。

 

「…っと……やっぱ流れ弾も飛んでくるか…!」

 

何度か攻撃をかけたところで、俺の方へと飛んでくる弾丸。早めに察知出来たおかげで安全に回避出来たものの、たらりと汗が頬を伝う。

前進した事で俺は、援護による圧力を引き上げた。けど当然前線へ近付くというのはその分狙われ易くなる行為で、今みたいに流れ弾が飛んでくる事だってある。……が、それがなんだってんだ…ッ!

 

(全力を尽くすなら、遠方でちまちま撃つよりこっちの方がずっといい…ッ!)

 

ライフルで弾をばら撒く。砲撃で前線に光の線を作る。狙い易い場所を得る為に、或いは狙い撃ちされないように、撃ちながら何度も位置を変える。援護を続ける中で、もし集中攻撃を受けたらどうしよう……なんて事は、浮かびはしてもそれが不安に変わる事は微塵もなかった。

 

 

 

 

更に時間が経った。目に見えて相手部隊の人数は減っていて(撃破認定されて退場した)、こっちも明らかに人数が減っている。俺もここまでで数発射撃が掠ったけど……まだ、やられてはいない。

 

「……っ…収束が…!」

 

撃ち込んだ砲撃を、射線上にいた相手が避ける。別にそれはいい。避けるというアクションを取らせただけでも撃った意味はあるんだから。

問題は、思っていたより早く光芒の拡散が始まった事。想定より早く拡散するのは収束率低下の証明で、低下の要因は……俺の疲労と、それによる集中力の低下と見て間違いない。

 

(少しペースを落として、パフォーマンスの維持に努めるか…?それとも……)

 

人数の減少で戦闘の規模が縮小してる分、要求される援護の最低ラインも落ちてる筈。だから多少ペースを落としても問題はないだろうけど、前線が望んでいるのはきっとペースを落とさない事。…なら、俺の負担を減らす為にペースを落とすか、前線の負担を増やさない為そのままにするか。そんな二択を考える中…攻撃部隊の隊長さんから通信が入る。

 

「調子はどうですか?まだ戦闘を続けられますか…!」

「はい、まだいけます…ッ!」

 

攻撃部隊の隊長さんからは、これまでにも何度か短い通信で指示が入った。なら今回もそれだろうと思いつつ俺が答えると…次に彼から発されたのは、予想とは大きく違う言葉。

 

「では、貴方には進軍部隊への参加をお願いします!合図と共にこの戦域から突破して下さい!」

「了か……えぇッ!?ど、どういう事ですか!?」

「ご安心を、端的ですが説明は……します…ッ!」

 

戦闘特有の音や息遣いを混じらせながら、隊長さんからの説明が入る。前置き通り説明は端的で、しかも結構分かり易い。けど……それ以前のところが引っかかってる俺にとっては、どれだけそれ以降が分かり易くたって意味がない。…な、何故に援護担当の俺が…?

 

「…説明は以上です、何か質問……ぐぅ…ッ!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「え、えぇ…ですがすみません、質問に答える余裕はなさそうです…!」

「わ、分かりました…(おおぅ、訊けない雰囲気に…!)」

 

今も侵攻した相手の精鋭部隊は撃破出来ず、このままでは一方的にこちらが焦りを感じてしまう。そんな状況を打破するには『焦りの要因を排除する』か『相手にも同等の焦りを与える』事が必要で、行うのは後者を成立させる為の強行突破。……それが目的である事は分かった。突破後どうするかも聞いた。でも俺に白羽の矢が立った理由は説明されず、質問の機会もたった今なくなってしまった。そして…多分もう、隊長さんは俺が了承したつもりでタイミングを計っている。

 

(ぐぅぅ、理由をはっきりさせたいところだけど……やるしかねぇ…!)

 

はっきりとではないけど了解と俺は言った(言いかけた)し、分かりましたって返答も、作戦に対するものと捉えることも出来る。何より雰囲気なんて無視して言う事だって一応は出来たんだから、それをしなかった以上はもうやるしかない。

それに、実を言うと……援護を一人で任された辺りから、俺は燃え始めていた。闘争心に火が点いていた。だから……断るつもりなんて、最初からゼロ。

 

「すぅ…はぁ……」

 

気合いを入れ直すように深呼吸。援護という元々の役目は果たしながら、注意を隊長さんからの合図に注ぐ。そして、少しずつ前線部隊の動きが変わり……

 

「……ここですッ!総員、一斉掃射ッ!」

 

上下左右に広がった味方の集中砲火により、敵陣の一区画に大きな穴が開く。…そこへ味方から離れて突入する、数人の霊装者。

 

「押し、通る……ッ!」

 

反動の大きい砲での攻撃を止め、代わりにその分の霊力をスラスターに回して俺も突進。距離の関係からどうしても俺は出遅れる形となり、反応の早い相手が妨害に動くも、それを味方が受け止めてくれる。

これまでとは逆の、俺が援護をしてもらう展開。そこに不思議な感覚を覚えながら、俺は開かれた道を突き進む。

 

「逃がすか…ッ!」

「逃してもらいます…よッ!」

 

突破メンバーは、俺含めて全員が穴を抜ける事に成功。けど当然後ろに行かれたからって相手が諦める筈もなく、攻撃を避けながら追い縋ろうとする霊装者も現れる。その内一人は俺の後ろ上方に位置取り、距離を詰めてくるけど……それは俺にとってありがたい位置だった。何せ、そこは砲を数十度だけ上に回せは砲撃出来る場所なんだから。

 

「ぬわ……っ!?」

 

ここだと思ったタイミングで砲を起動させ、撃ち込む。振り向いていないから今のは勘頼りの砲撃だけど、聞こえた声からして牽制にはなった様子。それと同時に感じるプレッシャーも減って、無事俺は追撃を振り払えた事を確信した。……てか、背面射撃なんて初めてやった…。

 

「よし、全員無事なようだね…皆着いてきてくれ!オレが先行する!」

 

少し先を飛んでいた数人に追い付いたところで、その中の一人が声をかけてくる。自分から、それも決定事項のように話す点から見て、多分彼がこの分隊のリーダー役なんだろう。

 

(林の中を抜けて、可能なら敵中核への打撃、出来ずとも出来る限り敵陣を引っ掻き回す、か…とにかくまずは枝や幹に気を付けないと……!)

 

幾ら霊力で強化されているとは言っても、木と正面衝突なんかしたらただじゃ済まない。けど障害物が多い場所なら攻撃され辛く、侵攻するなら空よりこっちの方が良いという事で、俺達は今神経を張り詰めながら突っ走っている。

相手陣の奥へ進めば進む程、迎撃を受ける可能性は高まる。それを含めて俺達は油断なんて出来ないし、予定通りにいかない前提でいる位の意識が必要。……そう考えている、時だった。

 

「そろそろ相手から何らかの動きがあってもおかしくない筈…正面と上空以外にも気を配ってくれ!……って、ん…?これは……ぐぁぁっ!?」

『……っ!?』

 

指示の途中、何かに気付いたような声を上げるリーダーさん。その次の瞬間、彼は何かにぶつかったかのように落下した。それに俺達が驚く中、林の先から弾丸と光芒が襲いかかる。

 

「くっ…噂をすれば何とやらじゃない…!」

「それより今何が…って、それを調べる余裕もないか……!」

 

迎撃に対し、一先ず俺達は散開し回避。無論俺も下がりつつ避け、どう反撃するか考える。同時に頭の片隅にはリーダーさんに起こった事態の事も考えていて……気付きは突然にやってきた。

 

(…うん?今何か引っかかって……って、これ……糸…?)

 

俺が引っかかったのは、ワイヤーの様な硬度を感じる糸…らしき物。けど植物の蔓ならともかく、ワイヤー的な物が林の中に普通にある筈がなく、即ちこれは不自然な物。そしてそれは、取り敢えず糸より迎撃の対処が重要だと考え動こうとした瞬間……俺の腕へと絡み付く。

 

「んな……ッ!?なんで糸が…ってまさか…これも攻撃…!?」

「捕まえたよ、顕人君……!」

「……!この声…!」

 

斜め上へと引っ張られる俺の右腕と、咄嗟に手近な木を掴んで抵抗する俺。そんな中で上から聞こえた、聞き覚えのある声。半分は攻撃の正体を確かめたいという思いで、もう半分は声の主が俺の知ってる相手なのかという思いで、声のした方向へと視線を向けると……そこにいたのは、木の枝に片膝を突いた茅章だった。


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