双極の理創造   作:シモツキ

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第八十九話 素直な気持ち

霊装者は、武器に注入するように身体へ霊力を流す事で、身体能力の大幅向上を行える。どれだけ向上させられるか、どれだけ少ない霊力で高効率の向上を実現出来るかは個人個人で違う(勿論訓練で伸ばす事も可)ものの、ある程度のレベルまでは割と誰でも出来て、誰でも出来るレベルでも普通の人とは桁違いの身体能力に到達する。

それ故に協会が筋トレを訓練とする事はほぼない。霊力による身体能力強化に比べれば、通常の筋トレによる身体能力向上なんて微々たるもので、わざわざ推奨する程でもないから実施されない。つまり、協会手段の訓練は……一発目から、結構本格的な事が行われる。

 

「あー……疲れた」

 

最初の訓練を終え、部屋へと戻る途中の俺。訓練の内容は…まぁ特筆する点のない、軍の訓練もこれに似た感じなんだろうなぁと思う(実際はどうか知らないよ?)ものだった。基本綾袮さんとワンツーマンだった俺にとっては、集団で訓練を…という状況自体に目新しさを感じたものの、それも終わり頃には慣れていた。

 

「…上手く出来たかなぁ……」

 

それより気になるのは、やはり綾袮さんのご両親に言われた事。一応普段通りに出来た気はするけど、それがご両親の目にどう映ったかは分からない。それが分からないんだから改善のしようもないし、もしかしたら改善の必要性自体がないのかもしれないけど、「でも何か悪い点があったら…」と思ってしまうのが人というもの。って訳で俺はどうすっかなぁと考え始め……丁度最上階に着いたところで、見覚えのある後ろ姿×2を発見した。

 

「……?どしたの二人共。綾袮さんに用事?」

「あ、顕人さん」

 

声をかけると、その二人組…ロサイアーズ姉妹が振り返る。二人も先程の訓練に参加してはいたものの、二人の立場はどちらかと言うと教える側。…まぁ、それもそうだよね。ラフィーネは綾袮さんと正面から戦えるだけの力がある訳だし、そんなラフィーネさんがコンビ組んでる相手がフォリンさんなんだから。

 

「綾袮さんの部屋なら俺が案内するよ?」

「……?いえ、綾袮さんに用事はありませんが…」

「じゃあ、別の人?」

「…えぇと…何故私達が誰かに用のある前提なんですか…?」

「あれ、違った?じゃあどうしてここに……」

「わたし達は、部屋に戻る途中なだけ」

「へ?……あ…」

 

フォリンさんが俺の言葉で不思議そうにする中、ラフィーネさんの発言によって俺は自分が勘違いしていた事を理解する。…二人の部屋も、この階だったのね……。

 

「…ごめん、ここまでで出た質問は全部忘れて」

「あ、はい。…顕人さんも部屋に戻るところだったんですか?」

「そだね。…しかし……」

『……?』

 

恥ずかしさから意識を別の方向へ切り替えようとした俺は、二人が涼しげな顔をしている事に気付く。屋内は冷房が効いているとはいえさっきまで訓練してた訳で、にも関わらず然程汗をかいた感じも疲れた様子もない二人は、やっぱり凄いなぁなんて思い……

 

「……顕人、変な事考えてる?」

「ぶ……っ!?は、はい!?」

「…突然何を考えているんですか、貴方は……」

「えぇ!?いや考えてない考えてない!二人は訓練後なのに余裕そうだなぁって思ってただけだからね!?ど、どこをどう判断して変な事考えてると思ったの!?」

「…何となく?」

「何となくでフォリンさんから白い目で見られるような事言わないでくれる!?」

 

……謂れのない誤解を必死に解く羽目となった。ラフィーネさんに悪意がない事は分かってる。でも、だからこそ厄介なんだよなぁ…。

 

「あぁ、それなら良かったです。もしラフィーネを邪な目で見ていたのなら、制裁を加える必要があったので」

「う、うん…俺もそうならなくてよかったよ…(目が怖い…じょ、冗談なんだよね…?)」

「…フォリンを変な目で見てたら、わたしも多分制裁してた」

「は、はは…ほんとに勘違いだって分かってもらってよかったよ…(この姉妹愛怖っ!多分両方冗談じゃねぇ…)」

 

訓練前俺は千嵜のシスコンっぷりを目に(耳に)した訳だし、千嵜兄妹も仲は良いけど…なんかこの姉妹は一味どころか三味位違う気がする。主に行動の面で。

 

「…さて、それじゃ俺は行くよ。夕飯前に軽くシャワー浴びておきたいし」

「そう。じゃあ、夕飯の時に呼びに行く」

「あ、うん。…え、呼びに来るの?なんで?」

 

身の危険を感じた俺は逃げようと…とかではなく、単に若干べたつく身体を何とかしたくて話を切り上げようとする。するとラフィーネさんは呼びに行くと言い、俺はそれに同意し……一拍置いてから訊き返した。あんまりにも自然に言うものだから、一瞬違和感なく同意してしまった。

 

「理由?それは一緒に食べようと思ったから。顕人は嫌?」

「い、いや別に嫌って訳じゃないよ?そっかそっか、なら了解」

「うん。フォリンもそれでいい?」

「あ……はい、それでいいですよ」

 

理由を聞いて、理解した上で改めて俺は了承。いつものようにフォリンさんはラフィーネさんの選択を肯定して、それで俺達はその場を後に。来るという事なので去り際に部屋番号だけは教えておいて、俺は部屋へと帰還。…って言っても、まだ自分の部屋である事に多少の違和感を感じるけど。

 

(…軽くのつもりだけど…ま、いっか)

 

別段風呂が好きという訳でもない俺は、夏という事もあってぱぱっと入ってさっさと出る。入る前は食後なり寝る前なりもう一度入ろうかとも思っていたけど…出る頃には、もうこれでいいやとか思ってしまった。…はい、どうでもいい話ですね。

で、着替えをしてから十分弱。部屋を訪れた姉妹(ノックしてもらえなかった…俺が風呂上がりを下着で過ごすタイプとかだったらどうするつもりだったのか…)と共に、俺は食堂へと移動。

 

「おー、賑わってるねぇ…当たり前だけど」

 

ここでの食事はバイキング形式。という訳で俺達は各々好きなように取り、空いている席へ腰を下ろす。

 

「…そういえば、綾袮さんとか茅章とかは呼ばなかったの?」

「…呼んでない。呼んだ方が良かった?」

「うーん…良い悪いじゃなくて、単に訊いただけって感じかな」

「…多分、ラフィーネにその気があっても呼ばなかったと思いますよ?茅章さんはどこにいるか知りませんし、綾袮さんや妃乃さんはご覧の通りですし」

「ご覧の通り…?…あー……」

 

俺の言葉に反応しつつある方向を見るフォリンさん。そちらに俺も目を向けてみると……そこには魔王迎撃後のパーティーでもあったような人集りが出来ていた。多分、その中心にいるのが綾袮さんと妃乃さんなんだと思う。

 

「じゃ、茅章は……っと、茅章も別の人に呼ばれててこっち来れないみたいだね。何でも普段世話になってる部隊の先輩に声かけられただとか」

「では、何れにせよ呼べなかった訳ですね」

 

携帯で連絡を取ってみた結果、茅章は先約があった事が判明。…となると、俺はイギリスの女の子二人と食事をする訳で……う、うんまぁ食事のメインは文字通り食べる事だからね!ここに更に綾袮さんが入った四人で食事した事もあるし、何ら気にする事はないんだよね!

 

「…し、しかしバイキングなんて久し振りだなぁ」

「……バイキング?」

「…いるんですか?バイキング……」

「い、いる?…え、と…俺が言ったのは芸人さんの方じゃないよ…?」

『芸人?』

「へ……?」

 

…どうもちょっと俺は頭が空回りしていたらしく、例のパーティーでもあった筈なのに(あれはビュッフェ…?)バイキングを久し振りだとか言ってしまう。しかも、何やら突然二人との会話に齟齬が発生。…俺、なんか分かり辛い表現でもしたっけ…?

 

「…えぇ、っと…バイキングがいる、ってどういう意味…?」

「どういうも何も、言葉通りの意味ですよ…?」

「言葉通り…?…って、あ……もしや、バイキングって語源の方…海賊の方だと思ってる?」

「…違うの?」

「あ、あー…そういう事か……(てかそういえば、バイキングって日本でしか伝わらない言い方だった気が…)」

 

日本の事しか知らない俺と、外側から見た日本しか知らないロサイアーズ姉妹。なまじ基本は滞りなくやり取りが成立する分、偶にこうして認識の差から勘違いが生まれてしまう。…国際交流って、難しいね。

 

(…というか、また俺勘違いしてる…駄目だなぁ…)

 

早とちりというか気が回らないというか、我ながらどうも残念さが抜けない。出来るならもっとスマートな思考を持ちたいところだけど、思うだけでどうにかなるなら苦労はしない。

 

「…顕人、また変な事考えてる……」

「…顕人さん、またですか…?」

「えぇっ!?いやだから変な事は…って、まさか俺は考え事してると邪な思考してるみたいな顔になっちゃうの!?」

「さぁ?…あ、この魚美味しい…」

「ちょっと!?俺にとっては結構重要な事なんだから、変って言った当人が速攻で興味なくすのは止めてくれない!?」

「顕人、食事中に騒ぐのは良くない」

「うぐっ、誰のせいで大声出してると思ってるの…!」

「……バイキング?」

「違ぇッ!」

 

自分から変だと言っておいてこの仕打ち。百歩譲って本当に変な顔をしていたとしても…こんなのあんまりだ……。

 

「……楽しそうですね、ラフィーネ」

「うん、楽しい」

「…そう、ですね…顕人さんは、結構愉快な人ですし」

「待って、その愉快な人ってどういう意味…まさか弄り甲斐のある人って意味じゃないよね…?」

「……フォリン、この魚食べてみる?」

「あ…じゃあ、一口貰いますね」

「そういう意味かよおぉぉぉぉ……」

 

ずがーん、という擬音が出てきそうな感じで頭を抱える俺。ちょこっと顔を上げてみると、ラフィーネさんは食事をしつつ本当に楽しそうな顔をしている。楽しそうと言っても、表情の変化は些細なものだけど……いつの間にか、俺はラフィーネさんの浮かべている表情がよく分かるようになっていた。流石に百発百中とはいかないだろうけど、感情が大きく動いている時なら大体分かる。

 

(…これも、仲良くなれたからこそのもの。そう考えれば、嫌な気は……するな、うん。経緯と結果は別物ですわ)

 

仲良くなれる事を、嫌だとは思わない。仲良くなれたのなら、素直に嬉しい。…でもそれはそれ、これはこれ。軽く弄ってくる程度ならまぁいいけど、あんまりがっつり弄ってくるなら俺もその内目にもの見せてやる…。

 

「…………」

「…フォリン?食べないの?」

「…え?…あ…いえ、食べますよ」

 

…そんな事を思っている間、フォリンさんは何か考え込むように手を止めている時間があった。ラフィーネさんに声をかけられるとすぐに我に返って、それからは普通に食事と会話をしていたけど……

 

(…俺の方、見てた……?)

 

考えている間、フォリンさんの視線が俺の方へと向いていた…そんな気が、俺にはした。……最も、向いていたのはこちらの方向であって、俺を見ていた訳じゃないのかもしれないけど。

 

「…って危ねぇ…この流れだとまた変な顔してるって言われる……」

「……?」

「…と、思ったら今回はこっち見てなかった…まぁいいや…」

 

それから食事を続ける事数十分。何度か追加で料理を取りに行って、各々好きなように食べる時間が流れていく。その内丁度ラフィーネさんとフォリンさんが、同時にナイフとフォークを使うタイミングがあって…そこでふと、疑問が一つ浮かび上がった。

 

「……そういえばさ、そっちの組織のトップってどんな人なの?」

「……どうして、それを訊くんです?」

「え?…いや、BORGにどんな人が所属してるのかなと気になって、でも二人がどういう部隊や立ち位置にいるのかはよく分からないから、いるかどうか分からない同僚より確実にいるであろう人物の事を訊こう…って思ったんだけど……」

「あぁ…そういう事ですか。あまりに唐突だったので、ちょっと不思議に思ってしまいました」

「それもそっか…こっちこそごめん」

 

そりゃ唐突過ぎる事訊かれたら困惑するよな…と反省すると、フォリンさんも気にしないで下さいと言いつつ肩を竦めてくれる。…因みにこの時ラフィーネさんは口に結構食べ物が入ってたから、一言も声を発さなかった。

 

「…で、うちのトップですか……中々難しい質問ですね…」

「一言じゃ言い表わせない人物、って事?」

「まぁ、それもありますが…一番の理由はそもそも話す機会がない事ですね。私達は別に組織内で高い地位にいる訳ではないので」

「あー…そっか…」

「表面的な事なら言えますよ?若いだとか、一見穏やかそうだとか」

「…でも、あの人は底が知れない。同じ穏やかそうでも、綾袮のお父さんとは何か違う」

 

反省すべき事に質問の内容も加えるとして……二人からの返答に俺は、深介さんベースで考える。深介さんも俺の父親と同年代(の筈)なのに年齢より若い感じで、間違いなく穏やかな人。そこに底が知れない感じを加えて…って、底が知れないってどういう意味だろう…。それ位懐が深そうって意味か、得体が知れないって感じなのか…二人の表情的には後者っぽいけど…。

 

「…もっと詳しく訊きたいですか?それなら考えますけど…」

「いや、いいよ。あんまり盛り上がりそうにない話題だしさ」

「うん、この話は絶対盛り上がらない。だから別の話を考えて」

「え、何その雑な振り……えーとじゃあ、さっきラフィーネさんがフォリンさんに勧めてたその魚って、どんな味だったの?」

 

折角二人と夕飯を食べてるんだから、話題も盛り上がる内容の方がいい。その思いでトップに関する話は止め、これよりは盛り上がりそうなネタを引っ張り出す。

ネタになればいいし、もし美味しそうなら取りに行こう。そんな気持ちで訊いてみると、ラフィーネさんは数秒程考え込み、それから皿にあった(また取ってきたやつ)魚の一切れへフォークを刺して……

 

「……なら、食べてみる?」

 

フォークで刺した一切れを、俺の方へと向けてきた。渡すではなく、フォークを自分で持ったまま。

 

「へっ……?」

「ら、ラフィーネ…それは……」

 

さも当然であるかのように向けたラフィーネさんに俺は目を瞬き、フォリンさんは動揺を見せる。…まぁ、そりゃそうだ。だって自分の姉が、年上の異性に対して所謂『あーん』をしようとしているんだから。

 

「……?…もしかして顕人、この魚にアレルギーがあるの?」

「い、いやアレルギーはないけど……」

「じゃあ、もうお腹一杯?」

「そういう訳でも、ないかな…」

 

俺の驚きもフォリンさんの動揺にもピンときた様子はなく、そのままフォークを向けているラフィーネさん。悪意は勿論の事他意もなく、純粋に「気になるなら一口あげよう」という思いで近付けてくれてる事は分かってるから、どうにも俺は断り辛い。

 

「あ、あのラフィーネ…そういう事は、あまり軽々しくやるべきでは……」

「…どうして?フォリンには時々してるし、フォリンも私にしてくれるのに」

「いやそれは…私と顕人さんは違いますし……」

「……顕人、人間じゃなかったの…?」

「な、なんでそうなるの!?いや人間だよ!?そこは疑わなくて大丈夫だよ!?」

 

ラフィーネさんの天然さ、ここに極まれり。…なんて言いたくなる位、ラフィーネさんは独自路線を突っ走っていた。……ど、どうしろと…?ねぇこれ俺はどうしろっての…?

 

「……顕人さん」

「…なんでしょう…?」

「…これはラフィーネが優しいからです。ラフィーネは善意でしてくれてるんです。その意味は……分かりますよね?」

「あ、はい…分かっております……」

 

静かな圧力たっぷりで釘を刺してくるフォリンさんに気圧され、俺は二、三回首肯。それをラフィーネさんはきょとんと見つめていて、それが終わるとまたフォークを俺へと近付けてきた。

 

「…口開けて」

「あ、あー……むぐ」

 

言われるままに開けた口へ、フォークの刃とそこに刺さった魚の一切れが入り込む。そこで口を閉じるとフォークは引き抜かれ、何ともロマンの感じられない…でも気恥ずかしいあーんは終了した。……あ、これ美味し…。

 

「…ふぅ……」

「フォリン、どうかした?」

「何でもないです……あ、普通にそのフォーク使うんですね…」

「……?」

 

ある意味俺以上にドギマギしていたかもしれないフォリンさんは、何やらもう「そうですよね…知ってます、ラフィーネがそういう人だっていうのは…」みたいな雰囲気になっていた。そして、今ラフィーネさんの手にあるフォークは一回俺の口の中に入ってる訳で、そのフォークでラフィーネさんは食事を続けてる訳で、つまり俺とラフィーネさんは互いに間接キスをし合ってる訳で……

 

(……やっべ、意識したら段々顔熱くなってきた…)

 

愛らしいとは違う、どちらかと言えば美人なラフィーネさん。大人っぽい訳じゃない、でも端正な顔付きにきめ細かかな肌をした、一つ年下の女の子。その子とフォーク越しにでもキスをしているとしたら…互いの唾液が相手の口に入ってるんだとしたら……そんなの、興奮するに決まってるじゃないか……ッ!

 

「…お、俺は飲み物取ってくるかな……」

「じゃあ、わたしも行く。フォリン、何か欲しい?」

「えっ!?ら、ラフィーネさんも来るの!?」

「うん、わたしも飲み物空になった」

 

これまで不当に変な事考えてると言われてきた俺だけど、今回ばかりは完全に変な事考えてしまっている。だからそれを悟られては不味いと立ち上がったものの、あろう事かそのラフィーネさんまでも立ち上がってしまい、むしろ余計厄介な事に。

 

「な、なら俺がついでに取ってくるよ!」

「それはいい。何飲むかはまだ決めてないから」

「な、なら決めるまで待つよ!別に急ぐ事でもないし!」

「…ドリンクバーに何があったか、全種類は覚えてない」

「えーいなら見てきてあげる!それなら決められるよね!?」

「……顕人。顕人は、わたしに着いてきてほしくないの…?」

「あ…いや、それは……」

 

焦る俺は、あたふたしながらラフィーネさんが行かなくてもいい展開を模索。でもそれが裏目に出て、ラフィーネさんが悲しそうな顔になってしまった。

着いてきてほしくないかと言われれば…まぁ煩悩を払いたい&それに気付かれたくないというのが理由だから、その通りだというのが正直なところ。でも多分、ラフィーネさんは自分が嫌われたからそう言われたんだ…って思っている。そんな感じの顔を、ラフィーネさんはしている。同じく気付いたフォリンさんは俺に厳しい目を向けているし…俺の邪な感情と短絡的な思考でラフィーネさんが悲しい気持ちになったのなら、俺はそれを放置出来ない。勝手に勘違いしただけだろなんて考える人間には、なりたくない。

 

「…ごめん、一緒に行こうかラフィーネさん」

「…うん」

 

こくんと頷いて、立ち上がるラフィーネさん。今の言葉で勘違いが解けたかどうかは分からないけど、ラフィーネさんの瞳は、俺の目から俺の心を感じ取っていた…ような、気がする。その場合変な事考えてた…ってのもバレるんだけど…悲しませる位なら、変態だと思われる方がずっといい。

フォリンさんから何とも言い難いじーっとした視線を受けながら、俺はラフィーネさんと共にドリンクバーへ。変な顔は…もうしてるならしてるでしょうがないな、はは……。

 

「…ほんとに、嫌じゃない?」

「へ?」

 

その移動の最中、ラフィーネさんからかけられた言葉。何だろうと思って見てみると…ラフィーネさんは、不安そうな顔で俺を見ていた。

 

「ほんとに嫌じゃない?嫌だったから、着いてこないように言ったんじゃないの?」

「あぁ……そんな事はないよ。さっきのはちょっと事情があったんだけど…別にラフィーネさんへ悪い感情を持ってる訳じゃないから、安心して」

「…絶対?」

「うん、絶対」

 

俺は千嵜との電話でも触れた通り、断定の表現はあまり好きじゃない。それは後々の事を考えた保険なんだけど……今は躊躇う事なく、すっと「絶対」という言葉を言う事が出来た。…それは何故かって?そんなの…俺が本当に、1㎜足りともラフィーネさんへ悪い感情を持っていないからに決まっている。

 

「そっか…なら、良かった」

 

不安の色が掻き消え、小さくだけど笑みが浮かぶラフィーネさんの顔。…しょっちゅう思ってるけど、ラフィーネさんの感情は分かり辛いし、表情の変化も少ない。けど、今の俺は思う。それもまたラフィーネさんの個性の一つで、分かり辛くても、少なくても……その内側には確かに、ラフィーネさんの魅力が詰まっているんだって。


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