双極の理創造   作:シモツキ

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第八十話 海と水着と大打撃

夏と言えば海。それは毎年海水浴に行くような人間は勿論、滅多に行かない人だって普通に思い付くような、最早代名詞的なもの。…けど、俺はあんまり行かない…というか、行った覚えがない。

別にそこまで「海は嫌!」って気持ちがあった訳じゃない。ただ泳ぎたいならプールでいいし、プールなら流れるプールだったりウォータースライダーだったりと面白いものが海より多いし、砂浜で砂の城を作る事に興味はあんまりないし、設備や周りの施設的にもプールの方が快適だし…と、どちらかといえば海よりプール派だったというだけの事。そんな俺が……久し振りに、海水浴に来ました。

 

「あー、千嵜もうちょい前に傾けて」

「これ位か?」

「うぶっ…も、もうちょいって言ったじゃん!誰が俺の顔に当たる位傾けろって言ったよ!?」

 

到着後、早々に水着へ着替えた俺と千嵜はパラソルやらレジャーシートやらを設営中。一方女子の方々は、まだ着替え中。

 

「ったく…骨の先端が目に刺さったらどうするつもりだったんだ…」

「いや、妃乃が言ってたろ?目潰しは半分本気だって」

「千嵜から目潰し受ける理由はねぇよ!?」

「だろうな。実際は刺さらないよう上手く角度変えてたから安心しろ」

「…俺さ、千嵜がもっとその気遣いやら妙な優しさやらを普通の方向に向けたら自然と周りからの評価も変わると思うんだけど…」

「そーだなー」

 

見た目は多分良い方で、付き合ってみれば中々面白い千嵜は、少し努力すれば大きく変わる筈。そう、俺は思うんだけど…千嵜自身がその気ないんじゃ、まぁ何言ったってしょうがないか…。

 

「…にしても、大したもんだよなぁ…まさか島一つを所有してるとは…」

「それは大いに同意…サブカル業界じゃ時々出てくる展開だけど、実際経験出来る日が来るなんてね…」

 

一通り設営を終え、荷物の確認(重い物を中心に、大半を俺と千嵜が持たされた)もした俺達はパラソル下のレジャーシートに座り、改めて協会の存在の大きさに感嘆の声を漏らす。

右を見ても、左を見ても、俺達以外の人はいない。何故ならここは、協会の所有する小島だから。流石に宮空家と時宮家のプライベートビーチとしての為だけに所有している訳ではなく、人目を気にせず大規模な訓練や演習を行う為の土地というのが本来の目的(合宿?的なのもここでやるらしい)のようだけど…空いてるなら使えばいいじゃん、という事で俺達は今ここにいる。……そしてズルい事してる自覚も、一応ある。

 

「…茅章、ちゃんとここに来られるかな?」

「妃乃達が手配してるみたいだし大丈夫だろ。最悪あの二人は装備無しでも飛べるんだし、連絡さえくれれば……っと悪ぃ、電話だ」

「なんというタイミング…茅章から?」

「いや、宗元さんだ」

「宗元さん…って確か妃乃さんのお祖父さんだったよね…?」

 

俺の質問には答えず(答える前に通話開始した)、千嵜はどこかへ歩いていく。…同居してる異性のクラスメイトの祖父から電話がくるってだけでも中々に凄い事なのに、その人は協会のトップなんだもんなぁ…それ自体も物凄いし、それを割と平然に取る千嵜も色々ぶっ飛んでるよ…ぶっ飛んだ過去を持ってるんだから、これ位今更なのかもだけど…。

 

「…はぁ、俺もあれ位の余裕を心に持って深介さんや刀一郎さんと話せたら良いんだけどなぁ……」

「顕人くーん、お待たせ〜!」

「っと、来たね綾袮さ…ん……」

 

どこかへ行った千嵜と入れ替わるようにして来たのは綾袮さん。声をかけられた俺は普段の調子で振り返り……目を、奪われた。

綾袮さんは、水着を着ていた。いや、それは当たり前なんだけど…水色のチューブトップビキニを着ていた。いやいや、それも当たり前なんだけど……トップスが自己主張の激しくない小振りな胸を、ボトムスがすらっとくびれた腰回りを包んでいて、どちらにしても健康的な身体を大胆に出していて、水色が水着も白い肌も両方を映えさせていて……うん、まぁ、なんていうか…ドキッと、しました。

 

「…あ…えと…その……」

「あー、さては顕人君、わたしに見惚れてるねー?もう、顕人君のえっちー」

「うっ…ち、違うよ!?俺は別に……」

 

何か訊かれた訳でもないのに一人で口籠って、それで心境を見抜かれた俺は若干声を裏返らせつつ目を逸らす。もうこの時点で半ば認めてるようなもので、冷静な時であれば絶対にしないようなミスだったけど……あろう事か、逸らした視線の先にも水着姿の女の子が二人。

そこにいたのは姉妹。姉の方はスレンダーな体躯にスポーツビキニを身に付けていて、妹の方は発育のよい肢体にクロスホルダービキニと腰にパレオという出で立ち。キュッと締まって無駄のない細さを押し出してる姉と、出るとこ出て膨らみをしっかりと伝えてきている妹の二人。外見は結構違って、水着の種類も違って、でも色はどちらも紺色(パレオは白)で揃えていて……またドキッと、しました。

 

「……?何?」

「…あ…いや…あの……」

「…男性ですし、反射的に湧いた感情にはとやかく言いません。ですがもし、良からぬ想像をしているなら……」

「し、してないです…すみません……」

 

視線に気付いたラフィーネさんにはいつも通りの調子で訊かれ、察した様子のフォリンさんには厳しめの視線を向けられ、なんか謝ってしまった。…良からぬ想像はしてないけど…ドキッっとしただけだけど…。

 

「…………」

「…ちらちら見るのは止めてくれないかな。なんか普通に見られるよりそれ嫌」

「……は、晴れてよかったよね…」

「…顕人。理由もなく相手に背を向けて話すのは良くない」

「…うぐ……」

 

基本下を向いて時々見るようにしたら嫌だと言われ、完全に違う方向を向いたら良くないと言われ、ならどうすりゃいいのって話。……思春期男子の方なら、俺の気持ち分かるでしょう…?

 

「…先に言っておくけど、やましい気持ちなんてないんだよ?ほんとにそういうつもりはなくて、ただ……」

「んもう、分かってるよ顕人君。まだ半年弱だけど、わたしは君と生活してきたんだから」

「綾袮さん……」

「それより、何か言う事はないの?顕人君の前で可愛い女の子が、水着を着てるんだよ?」

 

弁明するように、恐る恐る言葉を紡ぐ俺。すると綾袮さんは肩を竦めて…それから俺に優しく微笑みかけてくれた。今のギラギラとした夏の太陽とは違う、暖かな春の太陽のように。

それから綾袮さんは何かを求めるような質問を俺に。…幾ら俺でも、今は綾袮さんが何を求めているかは分かる。なら怒らず微笑んでくれた綾袮さんに、俺はそのお返しをしなきゃいけない。そう考えて、俺は立ち上がり……言った。

 

「…似合ってるよ、綾袮さん」

「そうそう、それ位は言ってくれなくちゃ。でも一言言うだけなら、見てなくても言えるよね?」

「え……そ、そうだね…。…こほん、じゃあ…可愛いけど子供っぽくなり過ぎてないのが、センスいいと思う」

「へぇ、他には?」

 

俺の言葉に満足そうな顔をしつつも、更に綾袮さんは要求してくる。多分これは俺へのからかいも含まれていて、言えなきゃ言えないで「はぁ、ここで少ししか言えないんだからモテないんだよ?」とか返されるんだろうけど……少しでも優しさに報いたいという気持ちと、まだ収まりきってないドキドキとが噛み合う事で、次第に俺は饒舌になっていく。

 

「他……綾袮さんってイメージ的には黄色とかオレンジだけど、だからこそそれとは離れた水色が映えてるっていうか…綾袮さん肌綺麗だし、瑞々しい感じもあるし…」

「あ、うんありがと…」

「それとチューブトップってのも良い感じ。こう…きゅっってなってるのが、綾袮さんの身体のラインを良い意味で強調出来てるし」

「…えと、その…顕人君…?なんか段々雰囲気が…」

「後下手に隠そうとしてないのが逆に良いよね。さっきも言ったけど子供っぽくなり過ぎないよう抑えられてるから、単純なメリハリとは違う魅力が出てるっていうか、そういう方向に走らない事で綾袮さんの持つ魅力を存分に発揮出来てるっていうか、ほんともう身体の節々まで見たくなる……──はっ…!?」

 

首筋、腋、胸元、お腹。くびれに腰に、腕や脚。気付けば俺は全身を次々と見ていって、抱いた感想を次から次へと口にしていた。その状態がある程度続いたところでやっと俺は自分のヤバさに気付いて、言葉を止めるけど……時既に遅し。

 

「う、うぅぅ……そんなにじろじろ見ないでよぉ、馬鹿ぁ…!」

「…あ、ぁぁああああすみませんでしたああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

自分の身体を抱くようにして顔を真っ赤にする綾袮さんに対し、俺は謝罪の言葉を叫びながら土下座。ちらちらも目を背けるのも駄目で、今度はしっかり見るのも駄目なの!?…なんて思わない。だって今のは完全に俺が悪いから。間違いなくセクハラ発言だったから。

 

「……少し、失望です」

「今のはわたしでも分かる。顕人……最低」

「はい、これに関しては言い訳のしようがありません…どうぞ叩くなり埋めるなりして下さい…」

 

冷たい声音の避難に晒されながら、砂浜に頭を擦り付けて土下座続行。砂浜は熱々だけどそんな事気にしていられる立場じゃない。スイカ割り用の棒で叩き潰されようと、砂遊び用のスコップで頭から埋められようと……今は、反論のしようがない。

 

(ほんとに今のは酷い…反省しろ俺ぇ……)

 

正直言って、自分がこんな事するとは微塵も思わなかった。夏の暑さに頭やられたのかなぁ…とか言って誤魔化す気にもならないし、綾袮さんを嫌な気持ちにさせてしまったのなら冗談抜きに反省しなきゃならない。

そうして訪れた気の重い静寂。それが暫く続いて……

 

「……顕人君、顔上げて」

「え……綾袮、さ…ぐほぉっ!?」

「い、今のは一言で終わらせようとしなかったわたしにも非があるし、これで許してあげる。けど、また同じように見てきたら…その時は目潰しするからねっ!」

 

綾袮さんの声で顔を上げた俺は、次の瞬間思いっきり引っ叩かれていた。ばたーんと横に倒れる俺の耳に、綾袮さんからの割とマジな言葉が届く。

実のところ俺は一度綾袮さんの裸を見てしまっているし、それがあるからまぁ大丈夫だろうなぁ…なんて思っていた節がある。でも現実はこれで、結果はこのざまだった。……ほんと、反省しようね…俺。

 

 

 

 

「あーはいはい分かってますって。俺にだってそれ位の分別はあります。…えぇはい、気を付けますよ。んじゃ」

 

馬鹿な真似はするなだとか、万が一の事があったら責任取って切腹しろだとか釘を刺しまくってくる宗元さんとの通話を何とか乗り切り、携帯を羽織っていたシャツのポケットにしまう。…俺ってそんなに信用ないかね……。

 

「…まぁ、緋奈が男と仲良くしてたら俺も思うところがあるし、そんなものか……緋奈をそんじょそこらの野郎にやるつもりは毛頭ねぇけど」

 

兄と祖父という違いはあれど、守りたい身内に対する思いって意味じゃ変わりはない。最も緋奈と妃乃じゃ自衛能力が全然違う訳だが…それはまた別の問題。

 

「しかし、思ったより歩いたな…ここは……」

 

流石に林の中だとか変な所には入っていないが、期せずして結構離れてしまった。その事に頭を掻きつつ元来た道を歩いていると……更衣室から出てくる、妃乃と緋奈を発見した。

 

(……水着着た後ろ姿というのも中々…っといかんいかん、これじゃ宗元さんに文句言えねえっての…)

 

さも普通の事かのように出てきた変な思考を振り払い、俺は二人の方へ。

 

「女子はこういう時の着替えも時間かかるもんなんだな」

「へ?……あ、悠弥…」

「あれ、どうしてお兄ちゃんが後ろに?……まさか覗…」

「してねぇよ。電話が来たから、御道から離れつつ話してたらこの付近まで移動しちまったんだ」

 

振り返った緋奈から半眼を向けられるも、言い切られる前にそれを否定。場合によっちゃ通話履歴見せなきゃいけないか…とも思ったが、その言葉だけで二人は信じてくれた。…まぁ緋奈はともかく、妃乃は緋奈が言わなきゃそもそも疑わなかった可能性もあるが。

 

「…ふぅん……」

「…何だよ」

「貴方ってそれなりにいい身体してるのね」

「えっ……そ、そのだな妃乃、幾ら俺が頼り甲斐のある男だからって、水着になって早々に逆ナンするのは……」

「な……ッ!?ち、違うわよ馬鹿!そんな訳ないでしょ!そんな訳ないでしょ!?てか何しれっと自分で頼り甲斐のある男とか言ってんのよ!?」

「どーどー落ち着け。今のは紛らわしい表現をした妃乃にも責任があるんだからなー」

「あんたがふざけた解釈しただけでしょうがッ!そういう意味じゃなくて、そこそこ鍛えてるのねって言ったのよ!」

 

殴りかかってきそうな勢いで突っ込んでくる妃乃を、軽ーい調子で受け流す。海でも妃乃の気の強さは変わらんなぁ…。

 

「はは…お兄ちゃんは昔から日課で筋トレしてるもんね。ムッキムキって感じじゃないけど、わたしはそれ位シュッとしてる方が良いと思うよ」

「おう、ありがとな緋奈」

「…で、わたしを見て何か感想はない?」

「え、感想?…それは、体格「じゃないよ?」…じゃないのか……」

 

まだ肩を怒らせている妃乃に続き、緋奈の視線も開いている俺の腹部へ。何気に二人から評価された事でちょっぴり良い気分だった俺が感謝の言葉を返すと…緋奈はその流れで自分に関する事を訊いてきた。そんで体格の話かと訊き返してみようとしたら、即否定された。

 

「…こういうのって、兄から言われて嬉しいものなのか…?」

「わたしは嬉しいかな」

「……適当に言ったら?」

「不機嫌になるかな」

「じゃあ、こほん…。…似合ってるし、可愛いと思うぞ」

 

遠慮なく言い合える関係の俺と緋奈だが、一応…てかしっかりと性別的には異性の関係。だから流石にそれは…と思ったが、緋奈自身が望んでいるなら話は別。俺は一度咳払いをし、それから素直な感想を口にする。

緋奈が着ていたのは、オフショルダービキニと言われる水着。隣にいる妃乃に比べれば控えめだが緋奈にも女性的な膨らみやラインはあって、それが年相応の可愛らしさと上手く噛み合っている。加えて水着は翡翠色と呼ばれる類いの色で、その色のおかげで落ち着いた印象も合わさっており……冗談抜きで、緋奈は魅力があると思った。

 

「…まぁ、お腹冷やさないかちょっと不安だがな」

「ひ、冷やさないよ…今夏で、ここ海だよ…?」

 

褒めた直後、すかさず懸念も口にする俺。夏だって湯冷めや寝冷えで身体冷やす事はあるし、海でもその場の雰囲気でかき氷食べまくったら普通に冷える。

緋奈には魅力的だと思った。だが勘違いしないでほしい。それは男として客観的に見た場合であって……断じて俺は、緋奈に欲情している訳ではない。

 

「油断が体調不良を呼び寄せるんだぞ?…それはそうと、ほんと気を付けろよ?今日はいいが、普段友達と海やプール行く時はどんな男がいるか分からねぇんだから」

「はいはい。…でも、よかった…」

「…どうした?」

「いや…ほら、妃乃さんって美人だし、わたしよりスタイル良いでしょ?だから妃乃さんと比較されてお兄ちゃんからの評価が下がっちゃったら嫌だなぁって思ってて……ちょっとだけどね」

「あぁ……」

 

会話の最中緋奈がこの格好で他の海やプールに行く事もあるのか気付いた俺は、真面目な顔で念押し。すると緋奈は軽く返した後少しほっとしたような表情を浮かべ……それから不安を抱いていた事を打ち明けた。…妃乃と比較されて評価下がったら、か……ったく…。

 

「あのな緋奈、美人云々言うなら緋奈だって十分そうだと思うし、スタイルにおいては大が小を兼ねるとは限らねぇ。それに…隣に誰がいようが、緋奈は俺の可愛い妹だ。そもそも比較出来る相手なんてどこにも存在しないんだよ。だからそんな事気にすんな」

「…お兄ちゃん……うん、ありがと…」

 

緋奈の頭に手を乗せ、話しながら軽く撫でる。言葉はともかく、手はどっちかっていうと昔からの癖でやったようなものだが……緋奈の安心したような照れ笑いが見られたからいいか。

……と、思いきや…。

 

「……貴方達って、偶に普通の兄妹の域超えてそうな雰囲気になるわよね…」

「は?…い、いや違ぇよ!?緋奈を大事にしてる事は否定しねぇけど、兄妹の域は断じて超えてないからな!?」

「ほんとでしょうね…?」

「毎日お腹家で暮らしてる奴が疑うなよ!俺と緋奈がそんな訳…って、緋奈も止めろ顔赤くすんな!確かに妙な事言われて恥ずかしくなるのは分かるが、そんな顔されると俺が言い訳してるみたいになっちゃうんだって!」

「ま、まぁ…そういうのは人それぞれだものね……」

「だから違うからな!?ちょっ、マジでふざけんなよ!?」

「普段ふざけまくってる貴方がそれ言う?」

「それは……うん、まぁ…すんません…」

 

すぐ側に妃乃がいる事を失念していた俺と緋奈は、あらぬ誤解を受ける羽目になってしまった。しかも途中で緋奈は顔を赤くするし、妃乃も気を遣ったみたいな発言するしでもく大変。で、結局なんか謝る事となった俺は…妃乃の口の端がひくひくと動いているのを見て気付いた。……からかってやがったな…。

 

「…えぇと、一応言っておくと……」

「あ、大丈夫よ緋奈ちゃん。貴女がちゃんとしてる子だってのは分かってるから」

「けっ……見た目はそこそこでも、そんなんじゃ緋奈の足元にも及ばないぞ」

「足元とは失礼な、第一貴方は緋奈ちゃんを誰かとの比較には……って、待った。そこそこって何よそこそこって」

 

俺は立派な人格をしている訳でもなければ、御道のように柔らかな態度を自然に出せるような人間でもない。それがなんだ、って言うと…原因が俺側がこっちにあっても、つい言い返したくなるのである。

 

「そこそこはそこそこだ。それとも何か?褒めてほしかったのか?」

「べ、別に…貴方だってそこそこ、なんて評価されたらいい気分にはならないでしょ?」

「そうでもないぞ?俺はそういうの気にしないし」

「あのねぇ……とにかく訂正するか以後気を付けるかして頂戴。あんまり期待はしないけど」

「ふむふむ…じゃあ、べた褒めしてみるか。可愛い、可愛いぞー妃乃」

「へっ……?」

 

大人気なく(よく考えたら二度目の人生なんだから、俺相当大人気ねぇよな…今更だけど)俺が言うと、売り言葉に買い言葉。ただ俺は別に口喧嘩したい訳じゃねぇから……今度は違う切り口で攻め込んでみる事にした。

 

「いやほんと可愛い。さっきそこそこって言ったが、ありゃ嘘だ。照れ隠しってやつだな」

「い、いやちょっ…貴方急に何を言って……」

「あ、勿論可愛いだけじゃなくて綺麗だぞ?ぶっちゃけ妃乃と同じ屋根の下で過ごすなんて、男にとっちゃ色々とヤバい訳だ」

「だ、だから何言ってるのよ貴方は…そ、そんな事…悠弥に言われたって……」

「そしてこの水着だ。肌は白いし、大人っぽくも微妙に子供のそれを残してるスタイルなんかもう言葉に出来ないレベルだし、水着が醸し出すエロスは最早危険の域で……控えめに言っても、最高だなっ!」

「……──っ!ば、馬鹿な事言ってんじゃないわよ変態がああぁぁぁぁッ!!」

「ぐべらッ!?」

 

褒めて褒めて褒めまくる。押して駄目なら引いてみろの発想で攻めた…いや責めた結果、完全に俺の作戦勝ち。すぐに妃乃は勢いが削がれて、それからしおらしくなっていった。そうなると気分が良いもので、俺の言葉も加速していく。

……が、そこで調子に乗ったのがいけなかった。どんどんがっつり、エグい方向に進んでいった事で妃乃を過剰に刺激してしまい……気付いたら顎を蹴り上げられていた。何という身体の柔軟性。てか、超痛い。

 

「ふんッ!行きましょ緋奈ちゃん」

「あ、はい……お兄ちゃん、そういう事は…止めようね」

 

ひっくり返ってぶっ倒れる中、妃乃は俺を見もせずに、緋奈は心配してる雰囲気…の裏に冷たい感情を孕ませて、パラソルとレジャーシートを設置した場所へと歩いていく。そんな訳で…俺はまた一人。

 

「痛た……まさかキックが飛んでくるとは…」

 

顎をさすりながら、ゆっくりと立ち上がる俺。何も蹴らなくても…とも思ったが、怒る事自体は当然の反応。……俺だって、やり過ぎたら「やっちまったなぁ…」とは思うさ。

 

(……けど、誇張はしても嘘は言ってないんだよな…)

 

それから俺は、そんな事も思った。妃乃が着ていた水着は、黒のトライアングルビキニ。それ自体はまぁ…所謂シンプルな水着な訳だが、シンプルだからこそ元々スタイルが良い方で、全体的なバランスも取れている妃乃の魅力をよく出している。で、その良いスタイルと、黒という大人っぽさを湧き立たせる色が合わさって……ほんとに正直言えば、可愛いし綺麗だって俺は感じた。

そして、それから数分後……

 

「……え、その顎どしたの?」

「そりゃこっちの台詞だ。その頬の紅葉はどうした」

 

機を見て戻った俺は、どう見ても何かあった様子の御道と合流した。…俺よりずっと紳士的であろう御道でもこうなってんのか…。

 

「…海水浴って、こんなに大変だったのか……」

「だね……けど、悪くない」

「…だな」

 

俺は蹴りを受け、御道は恐らく引っ叩かれた。おまけに目潰しの危機もある。だが、俺も御道も何だかんだ言って男な訳で……もう帰りたいかと言えば、そんな事は全然ない俺達だった…………

 

「お待たせー」

「ん?この声…茅章か?」

「茅章だね。無事来られたみたいで良かっ……」

 

……と、そこで聞こえてきたのは茅章の声。やっと来たかと思いつつその声の方を見ると、やはり声の主は茅章だった。…だったんだが……茅章は男としては長い髪を後頭部で纏め、上には白のTシャツ、下は身体にフィットするタイプの水着を着用し、首筋や華奢な手脚を露出させた格好だった。──具体的に言えば、普段より数割増しで中性的な感じに。

 

『……おおぅ…』

「……?え、どうしたの二人共?顎やら頬やら赤くなってるし……何よりなんでちょっと拳をグッてしてるの…?」


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