双極の理創造   作:シモツキ

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第七十五話 朝も昼もそれぞれに

「あっちぃなぁ…」

「暑いねぇ…」

「暑いわね…」

 

我が家は日当たりがよく、春先は勿論冬場だってその恩恵は相当なもの。それは洗濯も自分でするようになって以降、一層そのよさを感じるようになった訳だが……それと引き換えとして、夏場の強い日差しも諸に家が浴びてしまう。で、そんな日差しを浴びるとなりゃ……朝から暑いに決まってるんだよなぁ…。

 

「うぅ、ベタつく…」

「今日は特に暑いらしいわ…」

「これもう安眠妨害だっての…訴えようぜ…?」

 

例え気候が相手だったとしても、俺の眠りを邪魔するというなら容赦はしない。…と思ったものの、パジャマガール二人からの反応は大変薄い。…きっとこれも暑さとその弊害のせいだ。俺が滑ったんじゃないさ、あぁそうだとも。

 

「お兄ちゃん、今日朝食は…?」

「いつも通りの白米と味噌汁に、昨日の夜の残り物だな…それか暑いし朝から氷菓子でも食べるか?」

「あれ、アイスまだあったっけ?」

「いいや、アイスはもうないぞ?」

 

俺の受け答えに小首を傾げる緋奈と、会話に参加せずとも聞いていたのか怪訝な表情を浮かべている妃乃。……ん?いや、待てよ…?これは……

 

「…悠弥、貴方まさか暑さで頭が……」

「おかしくなってねーし!言うと思ったわ!」

「じゃあ、寝てる時に汗を……」

「かき過ぎて脱水症状になったりもしてねーし!緋奈まで乗っかるなよ!」

「って事は……」

「えぇ、多分これは…」

「あぁそうだよ、アイスじゃなくて氷菓子っつったのは……」

『……(悠弥・お兄ちゃん)は、元々おかしかった…?』

「よーし二人共こっち来い。殴り倒して夏の暑さ関係なしの眠りを提供してやるよ」

 

気付いた様子の二人にネタバラシしようと思ったら、二人揃って辛辣な事を言ってきやがった。…俺もあんまり人の事は言えないが、酷ぇなおい……。

 

「ま、冗談よ冗談。実のところは何なの?」

「ったく…出来合いのものがなくとも、料理なら作ればいい。そうだろ?」

「作る…あ、もしや……」

「そういうこった。朝から食うもんか?…って疑問はあるけど、な」

 

思い付いた様子の緋奈にそう言いながら、昨夜偶々見つけてキッチンの棚に運んでおいた物をテーブルの上へ。それを見た緋奈は納得したような表情を浮かべ…そして妃乃は、ゆっくりと目を見開く。

 

「貴方、それって…」

「…言ったろ?どっかにしまってあるって」

 

そう、俺が見つけたのはかき氷機。この時期店で売ってる物と比較すればやや古い…けど機能的には何の問題もない、家庭でかき氷を作れる道具。

 

「まさかこんなに早く出てくるとは…でも、シロップは?」

「蜂蜜があるし、あんまり多くは残ってないが練乳だってあるぞ」

「かき氷かぁ…出すの何年振りだっけ?」

「数年振り…じゃないか?去年は出してねぇし」

 

昔は俺も緋奈も毎年これを使ってかき氷を作りたいと言ったものだが、ホームセンターで手頃に買える程度のかき氷機じゃそこまで質のいいかき氷にはならないし(値段を考えれば十分な出来だがな)、成長すれば次第にかき氷機への興味も減っていく。だからどこにしまったのか忘れてしまう程使ってなかった訳だが…久し振りに仕事だぜ、かき氷機さんよ。

 

「…で、どうするよ?食べるか?」

「わたしは…うん、懐かしいし食べようかな。あ、でも多くなくていいよ?」

「はいはい。妃乃はどうするんだ?」

「じゃ、じゃあ…私も、頂くわ…」

「うーい。かき氷並に超特大入りましたー!」

「超特大!?な、なんで私のは超特大なのよ!?」

「これで作ったかき氷を初めて食べる奴は、必ず超特大にするという家訓が千嵜家にはあってな…」

「ある訳ないでしょうが!断言出来るわよ!そんなのないって!」

 

ちょいと気恥ずかしそうにしながら首肯した妃乃。あ、このタイミングなら…と仕掛けてみた俺だが、残念ながら妃乃はきっちり反応してきた。相変わらず油断しない奴だ…。

それから俺達は手早く朝食(と空いた時間に着替え)を済ませ、かき氷機を準備。二人に注目される中、俺はハンドルを回して上部に入れた氷を削っていく。そして……

 

「…久し振りに食べると、これで作るかき氷も悪くないって思うもんだな…」

「だね…凄く、懐かしいや…」

(結構美味しい……でも、二人の懐かしいオーラが強過ぎて感想言い辛い…!)

 

…かき氷で朝からとても懐かしい気持ちになる、俺と緋奈だった。

 

 

 

 

部活だったり夏期講習だったり、夏休みが割と忙しい学生は多い。特に毎日部活があったり一日中塾に行ってたりする奴を見ると、そういう奴等にとって夏休みは休みなのかな…なんて思う俺だが、どうも今年は俺も少しだけ忙しい…てか用事があるらしい。

 

「何すか宗元さん……俺も暇じゃないんですよ?」

「嘘吐け。お前夏休みに色々あるような生活してないだろうが」

 

高級なソファにどっかりと座りながら、やる気のない目で宗元さんを見る。…が、宗元さんには軽くあしらわれてしまった。…何故分かったし……。

 

「…俺の生活は置いとくとして…用事は何なんですか?わざわざ呼ぶような事で?」

「別に呼ばなくてはならないような事ではないな。だが適当に話す程軽い事でもない」

「…そっすか」

 

朝からかき氷機を食べたのと同日の昼間。俺は宗元さんに呼ばれ、双統殿の執務室へと足を運んでいた。

呼ばなくてもいいなら電話でも…と内心思いはしたが、口にはしない。それは言ったって今更だから…なんて理由ではなく、そうは言いつつも…って部分があるんだろうなと感じたから。

 

「…最近、何か印象的な事はあったか?」

「…ありまくりですよ。この数ヶ月で色々な事が起こり過ぎてますからね」

「もっと直近の話だ。この数ヶ月で色々な事があったのは聞かんでも知っている」

「まぁそれもそうですね…ここ数日って意味なら、流石にないです。少なくとも、俺が認識している範囲では」

 

ぼんやりと執務室の壁を眺めながら、宗元さんからの問いに答える。印象的な事が全くないと言ったら流石に嘘で、それこそ今日のかき氷の件なんかもそれなりに印象に残っているが…そういう話じゃ、ないもんな。

 

「…なら、いい」

「……そんだけですか?」

「そんだけだ、帰っていいぞ」

「か、帰っていいぞって…こんだけで済むなら移動にかかった時間が無駄過ぎるっつーの…」

「なんだ、不満か?」

「不満だから言ってるんですよ。……別に俺の事気にかけて訊いたんじゃないでしょう?」

 

視線を壁から宗元さんへ移し、はぐらかすのは止めてくれ、というニュアンスを言葉に込める。それに対し宗元さんは、眉一つ動かさない。

 

「…何故、そう思う」

「貴方が手厚く気にかけてくれる人じゃないって知ってるからです。宗元さん、貴方は手を貸す事を惜しむ人じゃないが、基本は『黙ってても周りが察して助けてくれる…なんてのは思い上がりだ』ってスタンスの筈。違いますか?」

「…………」

「…まぁ、歳食って丸くなったっつーか、考えが変わったなら俺の見当違いかもしれませんがね。…話すつもりはないってなら、俺も言われた通り帰りますよ?」

「……ふん、お前は相変わらずだな」

「生まれ変わったってこういう部分は変わらないんです。数週間や数ヶ月でそれが直る訳ないでしょう」

「…気分を害しても知らんぞ?」

「そういう部分も相変わらずなんで、お構いなく」

 

交渉だとか、駆け引きだとか、そんなものは考えちゃいない。余程有利な取引材料でもない限り、優劣は目に見えているんだから。…だがそれでも、俺は言って…それは、価値のある結果へと繋がった。

 

「……悠弥。予言と予言者についてはどこまで知っている」

「唐突な話ですね…予言については俺に関するものがあったって事位。予言者は…二回会った事がある程度ってとこです」

「そうか…。…予言は時間も精度も曖昧模糊。これまで例外なく当たってきた事を除けば、はっきりとした部分が少ないのが現状だ」

 

大きく話を変えてきた宗元さん。一見全く関係のない話のように聞こえるが…宗元さんの顔は至極真面目なもの。なら、それはつまり……関係のある話だ、って事だろう。

 

「…俺と御道に関するものも、はっきりしてない部分が多い、と?」

「あぁ。何かしら重要な役目…或いは宿命とでも言うべきものがあるんだろうとは思っていたが、それもあくまで推測に過ぎん」

「…宿命…は、あってもおかしくありませんね。何せ俺は、イレギュラーそのものな訳ですし」

 

生まれ変わった霊装者が再び霊装者となり、しかも予言の対象となる…そんなの確率で表したらゼロが小数点第何位にまで付くか分からない程あり得ない事で、そうなると御道にも何か隠している真実があるんじゃないかと思ってしまう。…だが、それは今本題じゃない。

 

「そんなお前ともう一人…御道顕人がこちら側に関わる事となってから、複数の魔人出現と、魔王というその存在を確認する事なく生涯を終える者もザラにある魔物の襲撃があった。幸い魔王戦の被害は致命的でない程度に抑えられ、その後の魔人はお前含む計四人で片付けてしまうという良い結果で終わったが……どちらにせよ、珍しく事もあるもんだなぁで済む事じゃない」

「…俺もそう思います」

「加えて言えば、イギリスからの霊装者が向こうの二人とほぼ同年齢というのも気になるな。無論、初めて未成年が来たという訳ではないが…お前達二人が妃乃達二人と同年齢で、且つあの二人も一歳違いというというのは、俺にとって少なからず引っかかっている」

「……偶然にしちゃ、ってやつですか…」

 

一つ一つはなんて事ない偶然でも、重なっていけば違和感が生まれていく。どこで違和感を抱くかは個人差によるが…組織の長となりゃ、偶然だろ…じゃ済ませられなくなるんだろうな…。

 

「他にも気になる点はある。恐らく俺が知らないだけで、知れば気がかりとなる事もまだあるだろう。そしてそれが、全てお前達に起因している…言うなれば、因果の意図とでも言うべきものを有しているとしたら…」

「…いるとしたら?」

「……お前達は霊装者として何かを成す事のではなく…協会や世界に対し、災いを招く疫病神となるのかもしれない…俺は、そう考えている」

 

髪は白くなり、顔も皺だらけ……だが目の奥の光は俺の上司だった頃と変わらない宗元さんは、その目で俺を見据えている。そんな宗元さんからは、冗談の気配も…俺を脅そうとする雰囲気も感じられない。

十秒か、二十秒か、或いはそれ以上か。互いに何も話さない静かな時間が暫く訪れ……それから俺は、ゆっくりと息を吐いた。…疫病神、か……。

 

「……だとしたら、どうします?災いの芽は、早い内に摘んでおくと?」

「馬鹿言え。確たる証拠もない推測で俺がそんな事するとでも思ってんのか」

 

…自分で自分を誤魔化したかったのか、軽い調子で皮肉を言った俺。それに対して返ってきたのは……真顔の否定だった。

 

「…大を生かす為に小を切り捨てるのが、トップの判断なんじゃないんすか?」

「阿呆か。…いや、お前は阿呆だったか……」

「うぐ……そういう事じゃなくて…」

「……お前の言う事も一理ある。だがな、覚えとけ。トップはその小を切り捨てる事なく解決する為に頭捻るもんで、小を切り捨てなきゃならん時点でそれはもう普通の状態じゃねぇんだよ」

 

離していた背を背もたれに預け、呆れ声で宗元さんは阿呆認定をしてくる。確かにそう言われても仕方のない発言をしたっちゃしたが、別にふざけて言った訳じゃ……そう言い返そうとしたところで、俺の言葉は制止された。落ち着き払った、真剣な言葉で。俺という一個人を、真っ直ぐに見据えて。

 

「…俺、そんな判断や思考をしなきゃならない立場になる事はないと思いますよ?」

「だろうな。だから頭の隅にでも入れておけ。お前に直接縁はなくとも、妃乃にはあるんだからよ」

「……それはつまり、将来的に妃乃を支えてほしいと?」

「張っ倒すぞクソ坊主」

「おっそろしいんでマジトーンでそういう事言うの止めてもらえませんかねぇ!?」

 

それから俺は、追い払われるように宗元さんの執務室を後にする。…いやほんとマジ、人を張っ倒しそうな顔してたぞ…?あのままいたら絶対ヤバいって…。

…というのはともかくとして、適当にあしらえばいいものを宗元さんは俺に話してくれた。俺の皮肉に、真剣な態度で返してくれた。俺をビビらせたのも、帰る口実を作ってくれたんだと思う。……全く…相変わらず俺とは格の違う人だぜ、宗元さん…。

 

 

 

 

「……なんなの、あんた…」

「千嵜悠弥だ。てか、前会った時もそれっぽい事言わなかったか?」

 

執務室を出てから十数分。用事は終わったんだから帰りゃいいんだが、一番暑い時間帯に外へ出るのはなぁ…と思った俺は双統殿内をぶらつき……気付けば篠夜の部屋の近くに来ていた。しかも丁度そのタイミングで、篠夜が部屋から出てきた。

 

「…あたしを監視でもしてんの?」

「してねぇよ…偶然だ偶然」

「ここは偶然で来るような場所じゃないと思うんだけど…」

 

鉢合わせした篠夜はすぐに部屋の中へと戻り、その数秒後に扉を少しだけ開いてこちらを見てきた。その対応は、完全に怪しい人に対するものである。……流石にちょっと酷い。

 

「狙ってきたって事はねぇよ。…まぁ、完全な偶然…って訳でもないが」

「…はぁ……?」

「宗元さん…時宮のご党首様とさっき話したんだが、その中で予言関連の話も少し出たんだよ。それが頭の端にでも引っかかってたんだろ」

 

トップとは…というのを頭の隅にでも入れとけと言われた俺だが、どうも違うものが引っかかっていたらしい。勿論言われた事はちゃんと覚えてるが…頭に残っていた事が無意識の行動に影響する、ってあるよな。

 

「…まるで近しい上司みたいな言い方ね」

「俺にとっちゃそんな感じなんだよ。てか、知らないのか?」

「…知ってる。…ざっくりと、だけど…」

 

ほんの一瞬だけ目を泳がせて、それから反応した篠夜。これはざっくりってか、ほんとに少ししか知らないんだな…と思ったが、そんな重箱の隅を突くような指摘はしたりしない。

 

「…見上げられるって、ちょっといいよな」

「はい…?……何、言ってんの…?」

「……すまん、完全に選択をミスった…これについては自分でも何言ってんだかよく分からんから追及しないでくれ…」

「……そうね…」

 

思考のメインにあったのが重箱の隅を突くような気付きで、それ以外を口にしようと思った結果、無意識に思っていた意味不明な事を言ってしまった。そして、扉の隙間が若干狭まった。…は、発言には気を付けよう……。

 

「…あー、それで…篠夜はどっか行くんじゃなかったのか?」

「別に……って、あれ…?」

「ん?」

「…な、なんであたしの名字知ってるの…?」

「妃乃から聞いた。文句は妃乃に言ってくれ」

「……っ…い、言える訳ないでしょ…」

 

そういえば直接聞いた訳じゃなかったなぁ…なんて思いながら返答をすると、篠夜は苦々しげな表情を浮かべていた。……やっぱりこいつアレだな。俺と同じ位捻くれてる割に、弄ると面白いタイプっぽいわ。

 

「いいのか?言いたい事あるなら電話するぞ?」

「し、しなくていい!って言うかするな!」

「おっとすまん、もう呼び出ししちまった」

 

にやっとしそうになるのを我慢しながら、携帯を取り出し耳に当てる。さてさて次は…。

 

「ちょっと!?もうって…早過ぎるでしょ!?どのタイミングで始めてたの!?」

「さてどうなんだろうな。…お、妃乃今話せるか?」

「……!で、出ない…あたし出ないから……!」

「あーそうそう。んで妃乃に文句言いたいって人がいてな。…名前?名前はし──」

「わああああッ!?」

「ぐぇええっ!?」

 

わざと篠夜に聞こえるようはっきりした声で話し始めると、篠夜は一層あたふたとしながら扉を閉めようとする。そこでそうはさせまいと俺が名前を言おうとした瞬間……勢いよく扉が開かれ篠夜が突っ込んできた。

飛び出した篠夜は、前進しながら身体の前で腕を交差。まさかこんな行動に出るとは思っていなかった俺は、咄嗟に避ける事が間に合わず……肺の辺りを諸に直撃!

 

「な、何言おうとしてんのよッ!?馬鹿じゃないの!?」

「あ、阿呆の後は馬鹿か……安心しろ、ほれ…」

「……へっ…?」

 

俺も篠夜も揃って倒れ込むが、篠夜は即座に立って怒号を口に。対する俺は軽くぐったりしながら一先ず聞いて、それから廊下に倒れたまま携帯を見せた。……妃乃との通話どころか電話の画面にすらなっていない、ホーム画面の携帯を。…いや、そりゃあの短い時間で通話まで持ってける訳ないっしょ。

 

「…………」

「…………」

「……ふざけんじゃ…ないわよぉおおおおおおッ!!」

「あ、ちょっ……ぐぎゃあぁぁぁぁっ!」

 

数秒の沈黙を経て、ずどんと俺の腹に叩き込まれる篠夜の脚。そんなに篠夜は力がある訳じゃないみたいだったが……それでも横になってる状態で腹を踏まれるのはとんでもないダメージ。多少なりとも筋トレをしていなかったら、或いは篠夜に脚力があったら、えらい事になってたんじゃないだろうか…。

 

「はぁ…はぁ……内臓潰れてしまえ…」

「つ、潰れてしまえって…エグい事言うんじゃねぇよ……」

「じゃあ…背骨……」

「内臓無事でその裏の背骨潰れたらそりゃもう波紋使いじゃねぇか…ういしょ、っと……」

 

壁にもたれかかりながら座った篠夜は、ギロリと俺を睨み付けてくる。100%…は流石にないと思うが、多分40%位は本気なんじゃないかと思う。…ってか……

 

「…疲れ過ぎじゃね?」

「…疲れさせた奴が言うな……」

「いやそれにしたって疲れ過ぎだって。もしや飛び出す前にルームランナーでも使ってた?」

「部屋入ってすぐの場所にルームランナーなんか置く訳ないでしょうが…」

 

胸元と腹をさすりながら立ち上がると、篠夜もよろよろと立ち上がって部屋に入っていく。……やっぱり明らかに、篠夜は疲れ過ぎ…というか、体力がなさ過ぎる。

 

「…余計なお世話だと思うが「余計なお世話よ…」いや言わせろよ!?こういうの時々あるけど、普通イエスかノーかで答えられるものに対してだよね!?こういうのは聞いてから判断しろよ!」

「……どうせ、運動しろとか言うんでしょ」

「…ま、まぁそう言うつもりだったが……」

「だと思ったから、余計なお世話だって言ったの。当たってたんだからいいじゃない…」

「お、おう……」

 

うーん…とは思うものの、言い伏せられてしまった俺。間違いなく聞く前に判断していた訳だが、その判断が正しいとなると強くは出辛い。…いや言える事はあるぞ?合ってる間違ってるじゃなくて、ちゃんと聞かずに判断するのは失礼だって感じにな。でもそんな説教臭く言うのもなぁ…。

 

「……いつまであたしの部屋の前にいるのよ…」

「…邪魔か?」

「邪魔」

「あ…はい。それじゃお暇させて頂きます…」

 

割と本当に嫌そうな顔と、純度100%の「邪魔」を受けた俺は、そのままちょっと低姿勢の態度で退散。…いや、だって……ここまでストレートにぶつけられると、さ…。

 

「……嫌われてる…のは多分間違いないが、なーんか違ったような気もするなぁ…」

 

廊下を進み、エレベーターに乗ったところで頭をかきつつそう呟く。気のせい、って可能性もあるっちゃあるが…何となく、最後の方の篠夜は様子が違うようにも思えた。……さて、まだまだ外はあっつい訳だし、後はどうしますかね…。


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