双極の理創造   作:シモツキ

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第六十三話 再開、謎の人

テスト明けの週の週末。朝から緋奈も妃乃も出かけてしまい、これといってやる事のなかった俺は、同じく暇人をしていた御道を呼んでゲームセンターへと訪れた。

 

「おい待て、何勝手に暇人扱いしてんだ」

「じゃ、忙しかったと?」

「……千嵜、今度はあれやろうぜ」

「碌に誤魔化しも思い付かねぇなら地の文に突っ込んでくるなよ…」

 

すっと顔を逸らして別のゲームへ向かう御道に呆れつつも、その後を追う俺。…この様子だと誤魔化しを思い付かなかったってより、考えようともしてないな…。

 

「…そういや、綾袮は?なんか性格的にしれっと着いて来そうな感じあるんだが…」

「綾袮さん?綾袮さんなら朝から出掛けたよ、妃乃さんと約束があるからって」

「あ、そうなのか…で、俺等もこうして会ってる訳か…」

「世間は案外狭いもんだよ、うん」

 

備え付けのバチでゲーム用の太鼓を引っ叩きながら、ぬる〜っと俺達は会話。野郎二人でゲーセンってのも華の無い話だが、華がなきゃ楽しめないなんて事はない。てか、華ならしょっちゅう家で見てるしな…って、これは色々不味い発想か…。

 

「…てか千嵜、俺そろそろお腹空いて来たんだけど」

「そこのUFOキャッチャーの商品は菓子だぞ」

「違ぇよ、昼食にしようって言ってんの…UFOキャッチャーで食料調達とかコスパ悪すぎるわ…」

「昼食ねぇ…俺は平日だけじゃなく休日まで御道と顔突き合わせて昼食食わなきゃいえないのか…」

「ならなんで午前中から呼んだんですかねぇ…!」

 

音ゲーしつつ御道弄りを楽しむ事数分。個人的には見ず知らずの人が沢山いる中で、どこまで御道はハイテンション突っ込みをせずにいられるか検証してみたかったが…実のところ俺もそこそこ空腹を感じていたのでゲームを終了。これまたぬる〜っと何を食べるか話し合い、ゲーセンを出て近くのラーメン屋まで移動する。

 

「…そういや、ラーメン屋の中にはカウンター席のみ且つ一席毎に仕切りが付いてる店舗があるらしいな」

「あぁ、なんか有名なところだっけ?…って、そこまでして俺と顔突き合わせたくないと!?」

「え、ふと思い出したから言ってみただけだぞ?」

「…ぐっ…ほんとお前は性格悪いよな…」

「すいませーん、注文いいですかー?」

「聞けよ!?」

 

……って事で俺と御道は昼食をとった。……ん?食事の描写?…欲しいか?それ。よく考えてみてくれ、男二人が特筆する事もなく飯食ってるシーンをじっくり見たいか?正直どうでもいいだろう?…そういう事だよ。

 

「ふぃー、ご馳走さんっと」

「ご馳走様。…で、この後はどうすんの?」

「特に何も考えてない。…と、いう訳で何か意見をくれ」

「えぇー…じゃ、ボウリングとかカラオケとか…?」

「意外性のない意見だなぁ…」

「意見求めておいて横柄な奴だなぁ…」

「冗談だ、安心しろ」

 

カラオケはともかく、ボウリングは悪くないかもしれない。そう考えて俺はテーブル上の伝票を手に取るが、そこでちょっと指が引っ掛かって伝票入れ(勘違いするなかれ。あの透明な筒は『伝票入れ』が正式名称らしいのだ)を落下させてしまう。

 

「あ、ミスった…」

「転がるなぁ…っと、座ったままじゃ取れないか…」

「いや俺が取るからいいぞ?ってか、落とした俺が取るべき物だからな」

 

御道が相変わらずの人の良さを発揮する中、落ちた伝票入れは転がってカウンター席の方へ。本当によくもまあ転がるなぁ…と思いつつ席を立って追いかけると……運悪く伝票入れは、カウンター席に座っていた客の足へと当たってしまった。…痛くはなかったと思うが…謝るべきだな、うん。

 

「すんません、不注意でした」

「……?何が、です…?」

「あーいや、今ちょっと転がったこれでご迷惑をおかけしてしまいまして……うん?」

「…あれ……?」

 

拾い上げつつ謝罪すると、その客は当たった事を気にも留めていなかったのか不思議そうな顔で振り返った。とはいえ「あ、ならいいっす」…なんて適当に流す訳にもいかねぇし…と事情を端的に説明していた俺は、途中でその顔が見覚えのあるものだと気付く。そしてそれは相手も同じらしく、けどお互い誰だったかまでは思い出せないという状況になり……

 

「…千嵜?お前どうし……って…むむ?」

「…御道、俺どっかでこの人見た事ある気がするんだが…」

「だよね、確か……あ、前に書類落としてた…」

「あー…!」

「あぁっ!じゃあやっぱりお二人は…!」

『え……?』

 

俺に続いてやってきた御道の言葉で、俺は目の前の人物があの時の…偶々双統殿で遭遇した少女(…だよな?今日もズボン履いてるが…)である事に気付いた。そして、相手も同じく気付いたのか大きめの声を上げ……周りの視線が一気にこちらへ向いてしまった。

 

「あっ……す、すいません…」

「い、いやまぁ…取り敢えず俺等は、会計行く…?」

「そうだな…悪い、変な事になっちまって。んじゃ俺等はこの辺で…」

「ま、待って下さい。…少しお話、いいですか…?」

 

変な注目をされる事による居心地の悪さから、さっさと会計を済ませて退場しようとした俺と御道。それは当事者の過半数が出ていけば注目もなくなるだろうし…という考えもあっての事だったが、意外にもそれを呼び止めたのは視線を受けて恥ずかしそうにしていた少女。そして俺達は数分後……食事を終えたその少女と共に、店を出る事となった。

 

 

 

 

偶然千嵜が落とした伝票入れが当たったのは、意外な事に顔見知りの相手。その人から少し話せないかと言われた俺達は、食事が終わった店で長居をするのもアレだ…という事で、少女の完食を待って外へと出た。

 

「…ごめんなさい、時間を取らせてしまって…」

「気にすんな、こいつは今日暇人だからよ」

「俺だけ暇人みたいに言うのは止めてくれないかねぇ…」

 

流石に道端で突っ立って話すのも…と考えた俺は、近くの喫茶店まで行く事を提案。それを二人が快諾してくれた為に、現在俺達は飲み物だけ頼んで喫茶店にいる。

 

「んで、話ってのは?」

「あ、はい。…でもその前に自己紹介いいですか…?」

「あぁ、どうぞどうぞ」

「じゃあ…あの、僕は中佐賀茅章っていいます。現在高二で…こんな見た目ですが、一応お二人と同じ霊装者です…」

「(僕……?)へぇ、なら同い年だね。俺は御道……」

「知ってます。貴方が御道さんで、そちらは千嵜さん…ですよね?」

「おう。…っていやいや、なんで知ってんの…?」

 

見た目からして同年代というのは分かっていたけど、どうやら同年代どころか同い年だったらしい。それにも俺は多少驚いたけど…まさか名前(苗字)を知られているとは思っていなかった。そしてそれは千嵜も同じだったらしく、俺等二人は怪訝な顔に。

 

「それは聞いたといいますか、耳にしたといいますか…お二人は、魔王の一件で周知されているんですよ?」

「あー…そういう事ね…」

「周知、ねぇ…無謀にも突っ込んでった馬鹿者って評価でか?」

「い、いやそんな事はないですよ!?…確かに、軽率だって言ってる人もいますけど…僕は凄いって思いましたから!」

「はは…けど軽率だって言ってる人は間違ってないと思うよ。何せ俺自身がそう認識してるから…」

「まぁ、少なくとも賢明な判断はしてなかったよな俺等は…」

 

中佐賀さんは慌ててフォローしてくれるけど、それを受けた俺達二人は苦笑い。…あの時の事は後悔してないし、今の状態でやり直したとしてもきっとまた同じ選択をするだろうけど…千嵜の言う通り、それが賢明な判断だったとは微塵も思っていない。俺も千嵜も、あの時は死んでいたっておかしくなかったんだから。

 

「……それでも、凄いと思いますよ?僕なんて、あの時は何も出来なかったんですから…」

「…そう言われると、なんかこそばゆいね」

「正しい選択はそっちなんだがな…まあそれはいいんだよ。中佐賀の話ってのはこれじゃないんだろ?」

「あー…えっと、それは…全く違う話って訳でもないんですが…」

 

ストローでアイスティーの中の氷を回し、もじもじとこちらを伺うような様子を見せる中佐賀さん。…え、何?これに対して俺等はどんな反応をすればいいの?どんな反応が正解なの…?

 

「…もしや、話し辛い事だったり?」

「い、いえ。…その、もし嫌でなければ…お二人がどうして霊装者になったか、これまでどうしてきたかを教えてもらえますか…?」

「そりゃ、構わねぇが…それを聞いてどうする気だ?」

「参考にしようかと…」

『…参考?』

 

話をいいか?…と訊かれたものだから、てっきり何か話したい事があるのかと思っていたけど…話を聞いてもらってもいいか、ではなく話をしてもらってもいいか、だったらしい。しかも参考って…。

 

「…不思議な奴だな」

「だね…でも雰囲気的に拒否したら凄い落ち込みそうだし、話してあげようよ。ってか、俺は話すよ」

 

若干の「何故?」は残るものの、参考になるかどうかはさておき話す事自体は別に嫌じゃない。…という事で、俺は多少端折ってこれまでの経緯を口にした。

 

「…で、ここのところは特筆するような戦闘も無かったかな。……って、感じだけど…これでよかった?」

「は、はい!とても参考になりました!ありがとうございます!」

「あ、う、うん…(そこまで食い気味に感謝されるようなこと言ったっけ…?)」

 

自分の話で誰かが感銘を受けてくれたのならそれは嬉しいし、どんな事でも役に立てたのなら喜ばしい。……けど、人間自分の価値観に合わない事を理解するのは難しいもので…ぶっちゃけ、なんで感謝されてるんだかよく分からない俺だった。

 

「んじゃ、次は俺か…」

「え、話すの?」

「何だよ悪いか?」

「いや悪くないけど…」

 

俺に続き千嵜も説明開始。流石に色々と特殊な事情があるからか千嵜の説明は俺以上に端折って…というか編集された形のものだったが、それでも経緯がそれなりには伝わってくるものだった。…言われなかった部分もある程度知っている俺だからちゃんと伝わった、って可能性もなきにしもあらずだけど…。

ともかく中佐賀さんの要望に応えた俺達二人。そして参考にしたいと言っていた中佐賀さんはといえば……

 

「凄い…やっぱり二人共思った通りの人だった……!」

 

……なんか、すっごい感動していた。…だからそこまで深い話したっけ!?少なくとも俺はしてないよ!?千嵜も全部話してたならともかく、言った部分だけだとそこまで凄くもないと思うよ!?俺等不当に高く評価されてません!?

 

「えーと…それはどうも、って言えばいいのか…?」

「お礼を言うのは僕の方です!ほんと、ありがとうございました!」

「お、おう……」

 

目を輝かせていたかと思えば、今度は座ったまま深く頭を下げる中佐賀さん。先程までのおどおどした感じはどこへやらの豹変に、俺は勿論千嵜ですら軽く気圧されてしまっていた。

 

「決断するべき時には躊躇わずに決断して、自分を信じて、自分の思いに正直でいる…二人共僕とは大違いだ……」

「…………」

「…………」

 

俺達の言葉を心の中で反芻していたのか、中佐賀さんは敬意と自嘲の混じったような言葉を口に。声の大きさからして、本人的には独り言なんだろうけど…同じテーブルに座っている俺と千嵜には、それがばっちりと聞こえてしまっていた。

初めはおどおどと気の弱そうな言動をしていて、俺達の話を聞いてからは様子が変わって、今は複雑そうな顔で……どれがこの人の素かと言えば、それは恐らく一番最初。

 

「あー…中佐賀さん、少し待っててもらっていい?」

「……?…いい、ですけど…」

「じゃ、ちょっと千嵜」

「あいよ」

 

千嵜を連れ立って、俺はドリンクバーコーナーへ。けど別に俺は喉が渇いた訳でもなければ、千嵜とトンデモミックスドリンクを作ってみたくなった訳でもない。

 

「……中佐賀さんの事、どう思う?」

「…どうってそりゃ…感情豊かな奴だよな」

「そうじゃなくて…俺が何を言いたいかは分かってるんでしょ?」

「……悩みなり何なりを抱えてるんだろうな。それも、自分が要因となってる類いの悩みを」

 

飲み物を選ぶフリをしながら訊くと、まず千嵜は俺の意図とは違う答えを口にし…訊き直すと、やはり分かっていたのか今度は真面目な顔でそう言った。

 

「…その悩みはさ、今の俺等の話を聞いただけで解決するものかな?」

「それは分からねぇよ。…けど、そこまで親しくもない奴の話をちょっと聞いた程度で解決する悩みなら、そもそも気に病む程度の事でもないと思うがな」

「でも、中佐賀さんは偶然とはいえわざわざこうして聞きにきた。って事は……」

「…藁にもすがる思い、或いはそこまでじゃなくても誰かを頼りたいってだけの思いがあるんだろうよ」

 

店内の仕切りに軽く背を預けながら、千嵜はそう言った。…ったく、千嵜め……

 

「…そこまで考えてあげてたなら、すっとぼけてるんじゃないよ」

「あれはお前の訊き方が悪い」

「言い訳がましいな…」

「うっさい。てか、そういう御道はどうなんだよ?人に訊いておいて自分は何も言わない、ってのはアンフェアじゃないのか?

「俺?…まぁ、心配にはなったね。話した事がプラスになってくれるならいいけど、マイナス側に作用したら申し訳ないし」

 

俺は自分の経験を話しただけで、更に言えば訊かれたから答えただけ。そこに責任が発生する訳がないし、例えマイナスになっても俺が申し訳ないと思う必要はない。……けど、俺はそういう論理的な事じゃなく、感情として心配になった。だから、出来るならばその心配な部分に対しても手助けをしたいと思った。ただ、それだけの話。

 

「…そういうのは、余計なお世話かもしれねぇぞ?」

「頼るだけ頼って、いざ自分に恩恵がなくなったら余計なお世話だ、なんて言い出すような人には見えないけどね」

「そうかい。…で、御道はどうする気なんだ?」

「…それは……」

 

話の流れからして、どうするんだって旨の質問がくるのは当然の事。…けど、情けない事にここで俺は言葉に詰まってしまった。だって、どうするかまでは思い付いてなかったから。

 

「……お前…俺引っ張ってくる前にそこまで考えとけよ…」

「う…面目無い…」

「はぁ…大方俺と話してる内に何か思い付くだろう、とか考えてたな?」

「その通りでございます……」

 

溜め息を吐く千嵜の言葉に、俺は反省の意を示すしかない。思い付いてない事がバレるわ、内心の算段まで見抜かれるわ、シンプルに今は恥ずかしかった。…まぁ、自業自得だけど…。

 

「……お前さ、人が良いのは何ら問題ねぇし、御道は俺よりよっぽどちゃんとした人間だとは思うけどよ、人の内面に踏み込む気ならもっと考えるべきだぞ?じゃなきゃ相手の為にも、御道自身の為にもなんねぇよ」

「……すまん」

「分かりゃいいんだ。…そんで、まだ何か出来る事があればしてあげたい…とか思ってんのか?」

「…………」

 

俺の返答を聞いた千嵜は軽く頭を掻き…それから真面目な顔になって、そう言った。

言われてみれば…いや、言われなくてもそれは、当たり前の話。他人が意識して公開していない部分ってのは、何らかの理由で見せたくないが為に公開してないんだから、そこへ軽い気持ちで踏み込むべきじゃない。勿論俺だってこのまま中佐賀さんに訊いてみようなんて考えてはいないし、訊くのは考えてからにしようと思っていたけど…そういう部分を含めて、『もっと考えろ』と千嵜は言ったんだろう。

……でも、俺は千嵜の問いに首肯した。千嵜の指摘には返す言葉もないが、それは反省すべきだと思うが…それでも俺は、頷いた。

 

「……ったく、しゃーねーなぁ…ここは俺が一肌脱いでやるから、お前は上手く合わせろ」

「…恩に着るよ、千嵜」

「ま、俺は大人だからな。貸しって事にしておいてやる」

「……人が良いのは千嵜もじゃん」

「うっせ。……俺だって、見て見ぬ振りは目覚めが悪いんだよ」

 

仕切りから背を離し、さっさと一人で戻る千嵜。それは千嵜の無愛想さ故か、それとも人が良いと言われて恥ずかしくなったのか。或いは、恥ずかしいというのは自分も中佐賀さんを心配していたのを口にしてしまった事へなのか。……まぁ、とにかく…千嵜は素直じゃない奴だ。

 

「はいはい、頼みますよおっさん」

「頼む時はもっと丁寧に言いましょうね〜」

 

薄く笑みを浮かべながら、ついでに軽口も叩きながら千嵜を追って、テーブルへと戻る。…想定してたよりは戻るのが遅れちゃったな…。

 

「ごめん、待たせちゃって」

「あ、気にしないで下さい。そんなに長い時間でもなかったですし」

「そう?ならいいけど…」

 

なんか待ち合わせしてたっぽいやり取りの後、俺は千嵜に目配せ。合わせろ、って言われてるし当然タイミングは千嵜次第なんだけど、それはそれとして「こっちはいつでも大丈夫」って合図はしておいた方がいい。……上手く伝わってなかったら悲しいけど。

 

(どう切り込むつもりなんだろう…流石にストレートに訊く訳はないし、身の上話で中佐賀さんの警戒を解いて…って、千嵜の身の上話は雰囲気を和ませるのに向いてないか……なら、一体…)

 

千嵜に目配せしてから目線を戻すまでの間に、俺はそんな事を考えていた。そして、丁度俺が目線を中佐賀さんの方へ向けた時……千嵜が口を開く。

 

「…なぁ中佐賀、唐突なんだがこれから俺等に付き合ってくれるか?」

「へ……?」

「いや、付き合ってくれったって別に任務とかじゃないぞ?単に…んー、まぁなんつーか、有り体に言えば遊べるか…って奴だ。折角の休みも相手が御道一人じゃ虚しいしな」

(こ、この野郎……!)

 

にやり、と性格の悪い笑みを見せながら言った千嵜。その内容は、中佐賀さんを休日の娯楽に誘うというもの。

それは素直に良いと思った。中佐賀さんの緊張も解れるだろうし、その中で今より親しくなれれば訊き易くもなる。…けど、けどさ……

 

(そこに俺をdisる必要はあるんですかねぇぇぇぇッ!?)

 

怒りたい、また言ったなテメェ!…的な感じに言い返したい。…でも、出来ない!そうしたら話が逸れるし、それを喧嘩だと捉えられたら中佐賀さんに「帰りたい」と思われてしまうかもしれないから!千嵜め…そこまで見越して言いやがったな!ほんっとに酷い神経してやがるなぁおい!

 

「え……い、いやその…」

「ん?何か用事あるなら断ってくれて構わないぞ?」

「いえ、用事はないですし、お誘いは光栄なんですけど…いいんですか?御道さんにそんな事を言ってしまって…」

「あ、そっちか…いいのいいの気にすんな。この位で傷付く程御道は繊細じゃな痛ぁっ!?」

「は、はい?」

「あー、大丈夫。千嵜は偶に突然変な事したりするから。それに千嵜の口が悪いのは前からだし、俺の心配はしなくても大丈夫だよ」

 

意地の悪い千嵜に比べ、なんと中佐賀さんの優しい事か。そう思いながら俺は……千嵜の足を踏み付けた。それはもう、グッ!…っと。

 

(御道テメェ!何しやがる!)

(何しやがる、じゃねぇわ!それはこっちの台詞だ!)

(あぁ!?だったら言葉で返せよ!言葉に対して何暴力使ってんだ!)

(涼しい顔して悪口言う奴が何様だ!踏まれたくなきゃお前も…痛い痛い痛い!ちょ、おまっ、脚抓ってんじゃねぇよ!さっきの暴力反対発言どこ言ったコラァァァァッ!)

(テメェが脚退かしゃ解決する事だオラァァァァッ!)

 

 

「……?」

 

全力で足を踏み付ける俺と、フルパワーで太腿を抓ってくる千嵜。普段はやりもしないアイコンタクトをガンガンに使い、中佐賀さんに気取られないようテーブル下で行う攻防戦(攻撃一辺倒だけど)は、この時熾烈を極めていた。

 

「えーっと、あの…?」

『何ッ!?』

「ひぃっ!?」

「…あ、ごめん」

「悪い…」

「…よ、よく分からないですけど…僕は暇なので、もしお二人が嫌でないのなら…ご一緒させて頂きますね」

『あ……はい』

 

そして気付けば、中佐賀さんが同意してくれていた。…という訳で、俺等のパーティー(?)に中佐賀さんが参加する事になるのだった。

 

 

……因みにこの店を出る際、俺と御道はそれぞれ脚を押さえてたり引きずっていたりしていた。これから中佐賀さんに同行してもらうのは意図があっての事だってのに…何してんだろうね、俺達……。


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