双極の理創造   作:シモツキ

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第五十七話 お勉強、開始

綾袮さんのテスト勉強を手伝う上で、最も大切なのは何か。……それは、手伝う俺自身がきちんと勉強を行う事。別に家庭教師をやる訳じゃないから、全教科のテスト範囲を完璧にしておく…なんてレベルに仕上げる必要はないと思うけど、それでも綾袮さんを引っ張っていける程度にはなっておかなきゃいけない。で、なんだかんだ言っても一番のテスト対策は学校(や塾等)の授業をちゃんと受けておく事だから、俺は普段以上にしっかり先生の話を聞き、板書を行っていくつもりで授業に望んでいる。俺はちゃんと授業を受けたい。…受けたいんだが……

 

「…へへ…触り心地抜群だぜ……」

 

……すぐ近くの席にいる千嵜の寝言が、非常に鬱陶しかった。

 

(普段から千嵜は寝てる事あるからそれ自体はいいが…なんで今日に限って寝言言ってんだよ!言うならせめて聞こえない位の声で言えよ!てか、触り心地抜群って何!?何の夢見てんの!?)

 

真面目に授業を受けようとする中で、気持ち良さそうに寝ながら寝言を呟く奴がいるというのは非常に鬱陶しい。もう気が散っちゃって散っちゃってしょうがない。くそう…なんで今日なんだよ!なんで本気で授業受けたい時になんだよ!…普段言ってなかったかと言われるとちょっと自信ないけど…とにかく叩き起こしたい!黙って寝ろと言いたい!

 

(……って、んな余計な事考えてる場合じゃねぇっての…!)

 

黒板に書かれた内容はよっぽど遅れない限り何とかなるけど、口頭でしか説明されない部分はその瞬間を逃してしまえば即アウト。聞いていない間に「これに似た問題テストでも出すからなー」とか言われてしまったらもうやりきれない気持ちになるんだから、千嵜の事を気にしている場合じゃない。…集中しろ俺、綾袮さんだって頑張ってるんだから。

 

 

…………。

 

(…え、頑張ってるよね!?寝てたりしないよね!?)

 

千嵜同様夢の世界へダイブしてるんじゃないかと慌てて綾袮さんを見る俺。授業中寝ちゃ駄目だよ?…とは言ってないけど…授業中に寝てるんじゃ話にならないし、俺も流石にそれはイラッとくる。昨日のやる気は嘘だったのか、と怒りたくなる。

……が、見てみれば綾袮さんはノートにシャーペンを走らせていた。どうやら俺の不安は杞憂だったらしい。

 

(…よかった……なら、俺も気は抜けないね…)

 

軽く頭を振って、気持ちを整える。綾袮さんの為とはいえ、頑張るよう言ったのも、協力するって言ったのも、それは俺自身。綾袮さんに協力してもらう者としての責任があるならば、俺にはやる気にさせた者としての責任がある訳で、俺はその責任を全うしたいと思っている。そしてその為にはやはり、俺は授業に集中しなければならない。

そんな思いで授業を受ける事数十分。それからの俺は無事授業に集中する事が出来て、時間は昼休みへと突入した。

 

「はぁ……これで午前中は終了、っと…」

「疲れてんなぁ…もう高校入って一年以上経ってるのにそれじゃ、受験なんて乗り越えられないぞ?」

「……千嵜、ぶっ飛ばしてやろうか…?」

「返答怖っ!?え、ちょっ、御道!?お前の突っ込みってそんな物騒だっけ!?」

「誰のせいで疲れてると思ってんだ…!」

「いや知りませんが!?てか流れ的に俺のせい!?……まぁ、それだったらすまん…」

「直接的には千嵜だが、間接的には綾袮さんのせいだ…!」

「なら半分は八つ当たりじゃねぇか!」

 

直接悪事を働かれた訳じゃないものの、集中の邪魔を大いにされた俺はその仕返しを実行。若干ギャグテイストになっちゃったが…うん、相手に全力突っ込みさせるって結構気分良いねこりゃ。千嵜や綾袮さんが俺にしっかり突っ込ませたい気持ちが少し分かるわ…。

 

「…ったく…俺が悪い部分は不満持たれても仕方ないが、綾袮の分まで不満ぶつけんなよ…」

「あれは冗談だよ、少なくとも千嵜へと違って綾袮さんには不満持ってる訳じゃない」

「冗談なら冗談でタチ悪いっての…てかおい、その呼び方でいいのか?」

「ん?…あー…聞かれてる感じないしいいでしょ。聞かれても他の所で宮空さんって呼んでいればその時は偶々か、って思ってくれるだろうし」

 

クラスメイトや学校の人に綾袮さんとの同居をバレないようにする為、変な関係だと思われないようにする為、俺は学校では宮空さんと呼んでいる。……が、それ以外の場所じゃ大概綾袮さんと呼んでるし、一日の内口にする回数も『宮空さん』より『綾袮さん』の方がずっと多いからか、最近はつい学校でも綾袮さんと言ってしまうようになってしまった。…改めて考えると他人の人の呼び方なんて、興味ない人の場合は気にも留めないものだし綾袮さんで統一しちゃってもいいかなぁ…。

 

「御道がそれでいいなら構わないがな…ふぁぁ…」

「眠そうだねぇ……昨日の事でよく眠れなかった?」

「よく眠れなかったってか、疲れがちゃんと取れてないんだよ。…っとそうだ、俺と妃乃の尻拭いさせて悪かった」

「尻拭い?…あぁ、そういう事か…問題ないよ。俺は綾袮さんに着いて行って一発撃っただけだから」

 

昨日の話で尻拭いと言われれば、満身創痍の魔人にトドメを刺した事以外あり得ない。…というか、魔人と戦ったのに千嵜は殆ど怪我してないんだな…妃乃さんはそうでもないみたいなのに…。

 

「…魔人とはどんな戦いになったの?」

「それを話したら長くなるんだが…ま、かなり精神をすり減らされたさ。…俺以上に妃乃は大変だったと思うけどな…」

「…二人共無事でよかったよ」

「俺もそう思ってるさ」

 

いつもは斜に構えているというか、どこか本気じゃないような顔をよくする千嵜だけど…今この瞬間は、良い微笑みを浮かべていた。……が、それも数秒間の話。俺が「良い顔してんなぁ…」なんて思っている間に、その表情は枯れていった。

 

「……ほんと、戦いが終わった直後は心から安堵してたんだがな…」

「…その後になんかあった?」

「その後ってか、帰ってからちょっと…」

「……?」

「……緋奈を誤魔化すの超疲れた。しかも夕飯作り忘れたから、緋奈の作った夕飯食う羽目になった…」

「あー……」

 

疲れた様子の千嵜に俺は苦笑い。確かに何も知らない妹へ上手く誤魔化すのは大変な気がする。後、妹さんの作る料理は決して美味しい訳じゃない事も知っている。…知らせない事を選んだのは千嵜自身だし、作り忘れたって事はこっちも千嵜のミスなんだろうけど……

 

「…同情するよ、千嵜…」

「はは、世の中以外と一難去ってまた一難があるもんだよな…」

「ほんと、どんまい…」

 

生まれ変わっている千嵜は、二度の人生での年数を合わせると二十歳を余裕で超えているらしい。……だからだろうか、苦労を語る千嵜からは哀愁をひしひしと感じられた。

 

「…まあ、いいんだそれは。一先ず過ぎた事だし。てかそろそろ昼飯食おうぜ?」

「あ、そうね。…というかさ、兄妹の事を差し引いても昨日は大変だったんだし、一日位休んだってよかったんじゃないの?協会もそこまで厳しくはないだろうし、妃乃さんもそっちの方が楽だろうし」

「それはつまり、更に緋奈へ嘘と誤魔化しを重ねなきゃいけない事になるんだが?」

「おっと、その問題があったか…マジで大変っすね…」

「そう思ってくれるなら課題写させてくれませんか、優しい優しい御道さんや…」

「この流れで言うのはセコいなぁ…いいけどさ」

 

弁当袋から一旦を離し、俺は課題のプリントを千嵜へ。こうも苦労を語られた後にお願いされれば、俺はどうにも断る事が出来ない。…まぁ、苦労を聞いてなきゃ渡さなかったかと言われるとそうでもないけれど。

 

「頂きます、と。…訊くまでもない質問だけど、千嵜テスト勉強は?」

「俺がテスト対策頑張ってると思うか?」

 

昼食を取り始めたところでふと訊く俺。普段こんな質問はしないけど…やっぱこれも綾袮さんに協力してる最中だからかなぁ…。

 

「だと思った…点数とか大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないが、大丈夫だ。家にテストや成績を見せなきゃいけない大人はいないからな」

「…千嵜さ、さらっとそういう事言うのはどうなの?俺はまぁ千嵜がそういう奴だって知ってるけど、然程親しくない人は今の発言聞いたら申し訳なく思うかもよ?」

「俺にとってはもう乗り越えた…ってか、事実として認めてる事だからつい言っちまうんだよ…悪いな、気を遣わせて」

「気を遣ったっていうか、なんていうか…とにかく気を付けた方がいいと思うよ、相手の為にも自分の為にも」

「へいへい。…これだとお前が俺の親みたいだな…」

「お前みたいな子供いるか。…あ、でも緋奈さんみたいな娘なら…」

「おいコラ、俺から言ったとはいえ何変な想像してんだ」

 

心配してみたり真面目な話になってみたり冗談を言ってみたり。我ながら実に多彩、或いは脱線しまくりな会話だけど、そういう雑多なのが昼休みでの会話というもの。……というか、こんな感じに気を抜かなきゃ午後の授業で集中出来ない…。

 

「…はぁ…魔人戦の翌日だろうとテスト前だろうと平常運転なところはある意味凄いよ…」

「ある意味じゃなくて普通に凄いと思ってくれよ。…んで、お前はどういう理由で疲れてんの?」

「お前が寝言言ってたから」

「俺の寝言はポケモンの技かよ!?…そうじゃなくてだな…」

「分かってるよ。…ちょっと色々あって綾…宮空さんのテスト勉強を手伝う事になってね…」

「勉強の手伝い、ねぇ…俺なら絶対出来ない事だな、うん」

「堂々と言う事じゃないよそりゃ…」

 

そんなこんなで食事を取りつつ過ぎる昼休み。食事して駄弁ってじゃ身体的な疲労の回復にゃイマイチ繋がらないけど、精神的な疲労は幾分か回復する。…疲労の原因の一つと談笑して回復、っていうのも中々に皮肉だけどね。

……と、言う事で午前の授業と昼休みは終了。一応のリフレッシュが出来た俺は気持ちを引き締め直し、午後の授業に精を出すのだった。

 

 

 

 

「綾袮さん、準備はいいかね?」

「世界はいつか終わるって誰かが噂してるの?」

「してないよ歌のワンフレーズじゃないよ歌わないよ!後それを言うなら準備は『いいんかね』だよっ!」

「わお、矢継ぎ早な突っ込み…ふざけてごめんなさい…」

 

その日の夜。夕食を終えた俺と綾袮さんはリビングのテーブルを囲んで勉強道具を出していた。……で、準備はどうか訊いたらいきなりこれである。

 

「…綾袮さんさ、俺だって怒る時は怒るし、今のは普通にイラッときたからね?ボケとしては悪くなかったから突っ込んだけど」

「う、うん。ほんとにごめんなさい、反省します」

「そうしてよね…で、準備は?」

「出来てます!」

 

びしっ、と何故か敬礼する綾袮さん。やる気を見せたかったのか、どうしても小ボケ位は入れたいのか…まぁ、今のはちょっと可愛かったしいいか…。……こほん。

 

「じゃ、今日は現代文をやろうか。と言っても現代文の用意してって言った時点で分かってると思うけど」

「一教科だけでいいの?」

「いいの、今日教えようと思ってるのは勉強そのものじゃなくて、現代文の勉強法と攻略法だし」

「え、攻略法?そんなありがたいものが?」

「あるんだよ。…と言っても、ゲームの攻略法と違ってその通りにやれば確実、なんてものじゃないけどさ」

 

あからさまに目を輝かせる綾袮さんに、俺は軽く肩を竦める。こうも嬉しそうにされちゃうと、逆にプレッシャー感じるなぁ…まぁ、今から話すのは下準備みたいなものだから間違える事は無いと思うけど…。

 

「確実じゃなくても攻略法があるだけで大助かりだよ!ささ、ご指導どうぞ!」

「ご指導どうぞって…こほん。ならまず綾袮さん、現代文のテストはどういう構成してるか覚えてる?」

「構成?…漢字の読み書きとか、文章読んで答えるやつとか、敬語の使い方とか?」

「そうそうそれ。大まかに分けると、テストは漢字の読み書き、作文の読解問題、言葉の活用やら敬語、それと作文…って感じに分かれてるんだよ」

「そうだね、わたしだってそれ位は分かってるよ」

「だよね。…ならそれを踏まえてまず一つ目。漢字の読み書きは、優先順位を一番低くしても構いません!」

 

満を持して…はいないけど、上手い事流れを作って言った方法その一。案の定綾袮さんはきょとんとした表情。…あ、この反応嬉しい…。

 

「…いいの?優先順位とか付けず、満遍なくやった方がいい気がするけど…」

「それはその通り、でも全教科満遍なくやってたらとんでもない量になっちゃうからね。で、漢字を低くしていいのは効率の問題なんだよ」

「効率、って…毎回漢字は数十から数百字っていう沢山の中で出題されるから、って事?」

「それプラス配点だよ。漢字と読解問題の大体の配点覚えてる?」

「えと、漢字は10点位だよね?それで読解問題は…あー、そっか。そういう事ね」

 

理解した様子の綾袮さんに俺は首肯を一つ。かなりの範囲から出るにも関わらず10点前後の漢字問題と、30〜40点になる読解問題ならどっちが高効率かは火を見るより明らかだよね。

 

「おまけに漢字の場合、元々知ってる字が出てくる可能性もあるからね。網羅しても10点前後しかとれなくて、逆に全く点を取れなくても10点前後しか損にならないのが漢字なんだから、これを優先するのはあんまり賢明とは言えないんだよ」

「そう考えると、漢字の問題って酷いトラップだねぇ…」

「あはは、まぁ漢字は漢字で引っ掛け問題と呼ばれるものがまずないから、ちゃんと覚えれば確実に取れるって面もあるけどね。文章をちゃんと読まなくて誤字する可能性はあるけど」

「ふむふむ…じゃ、逆に一番優先するべきなのはどれ?やっぱり読解問題?」

「そうだね、これは人によるかもしれないけど俺は読解問題を押すよ」

 

漢字は後で、と女の子らしい丸っこい字でノートにメモして次の質問を投げかけてくる綾袮さん。綾袮さんの積極性に安心感を抱きつつ、俺は説明を続ける。

 

「読解問題は基本二つ。その内片方は授業中やった文章が出てくるから、そこにまず重点を置くんだよ」

「それは、その文章をやった時点である程度の理解が出来てるから?」

「それもあるし、授業で使ったものなら先生がプリント作ってくれたりドリル的なのがあったりするからね。プリントやらドリルやらからそのまま同じ問題が出る事もあるんだよ?」

 

先生だって人間で、教える立場な以上は努力している子が報われてほしいと思っている筈。だからきっとその努力が直接反映される形として、『同じ問題を出す』という事をする先生がいるんだと思う。…少なくとも俺なら、引っ掛け問題や授業とは関係ない知識が必要になる問題を増し増しにはしたくない。

 

「そうだったんだ…わたしそういうの全然やってなかったから知りませんでした、てへっ☆」

「はいはい。読解問題の次に優先するべきなのは、言葉の活用やら敬語やらね。と言っても作文は題材が分からない以上対策が出来ないし、消去法での優先だけど」

「がーん、軽く流された…漢字よりは優先するべきなの?」

「活用にしても敬語にしても、一応は当てずっぽうが効くからね。よっぽどの幸運でもない限り大体外れるだろうけどさ」

「運かぁ…まあでもわたし、敬語なら割といけるんだよね。双統殿行けば敬語に接する機会なんて幾らでもあるし」

「あー、そういやそっか。考えてみれば綾袮さん意外とちゃんと敬語使えてるもんね。普段は使ってないだけで」

「む、意外とは心外だなー」

 

意『外』と心『外』をかけたっぽい言葉で綾袮さんは不満を述べてくるものの…実際意外だったんだから仕方ない。っていうか最初は綾袮さんがお嬢様だって事自体知らなかったんだから。……さて。

 

「ここまでが攻略法…てか、攻略順だね。ここから話すのは、どういう勉強の仕方をすればいいかだよ」

「努力あるのみ!とか言ったらわたししょんぼりモードに逆戻りするからね?」

「何その新手の脅し…けど残念。漢字や活用は何度も書いたり読んだりして覚えるしかないね」

「えぇー……そこを何とか!」

「何とかも何も、俺だってそれしか手段思い付かないし…後更に言うと、作文もそうだよ?これに関しては読書をして文章を学ぶって手もあるけどさ」

 

結局のところ、勉強というのは反復練習であり、効率を上げる為のコツはあっても楽に点数を稼ぐ手段なんてあんまりない。……そう、()()()()ないのだ。

 

「ぶー、顕人君のけちんぼ…」

「出し惜しみしてる訳じゃないんですが……あーあ、でもそんな言われ方されるとやる気なくしちゃうな〜。折角読解問題で楽出来るやり方を教えてあげようと思ったのになー」

「えっ……?…や、やだなぁ顕人君。今のは冗談だよ冗談。ひゅーひゅー、顕人君の太っ腹〜!格好良いよー!」

「うっわ、清々しい程の掌返し……はいはい大丈夫大丈夫、ちゃんと教えますよー」

「やった、それじゃあ伝授カモーン!」

「…………」

 

ご指導どうぞ!…の次は伝授カモーン!…だった。この人ほんとに本気なのかなぁ…それともまさか、おふざけが身体に染み付き過ぎて真面目にやっててもこうなっちゃうのかねぇ…。……と、それはさておき。

 

「一つ確認だけど、綾袮さん記憶力が悪かったりする?」

「記憶力?…どーだろ…多分極端に悪かったりはしないと思うけど…」

「なら大丈夫かな。…えー、ドリルもプリントも、ぶっちゃけ何回もやり直す必要はありません。それなりに記憶力があれば一回やれば十分だよ、基本」

「え、そなの?」

「そなの」

 

目を瞬かせる綾袮さんに、そのまんまの言葉を返す俺。そのまんま返した意味は……特に無い。

 

「…一応訊くけど、一回で全部覚えちゃえ的な事じゃないよね?」

「違うよ?現代文…ってか国語の読解問題は、数式や人物名みたいに決まった答えがある訳じゃないのは分かってるよね?…重要なのは出題の意図に合った回答を書く事。その上で絶対入れなきゃいけない単語があったりはするけど……」

「それと全体のイメージさえ頭に入っていれば、後はうろ覚えでも正答を書ける…って事だね。でもそれ、一回で頭に入るかな…?」

「ちゃんと自分で考えて、実際に書いて、その後回答を見て書き直す事をすれは、割と覚えられるものだよ。その一連の行為って、実は反復練習になってる訳だからね」

「そうなのかなぁ…いやでも、考えてみるとわたしも真面目に勉強してた頃はそういう事してたし……そう考えると、あながち間違いでもないのかも…?」

「俺が嘘を教える訳ないでしょうが…一回で十分って言ってもそれはその一回を真剣にやる前提での話だから、そこは勘違いしないようにね?」

 

長時間だらだらとやるより、短時間でも集中してやった方が身につくというのは運動でも勉強でも同じ事。それは霊装者の訓練でも同じだったんだから、きっと分かってる事だよね…と俺はそれ以上の釘を刺す事はしなかった。

そうして俺はこれまでの経験から得た知識を、余す事なく綾袮さんに伝えていった。ちょこちょこボケる綾袮さんも、よくよく見てみればちゃんとメモをしたり質問をしてきたりしていて、綾袮さんは綾袮さんなりにやる気を持って聞いているんだという事が次第に伝わってきた。…そういう気持ちで聞いてもらえるのは、やっぱり嬉しい。

 

「……ってな訳で、時間が余ったら取り敢えず埋めてみるといいよ。読解と作文…特に作文は部分点だけならそこそこ楽に狙えるからね」

「はーい。後はどこ気を付けたらいいかな?」

「後は……もう思い付かないかな。これ以上の事は、むしろ俺も教えてほしいよ」

「そっかぁ…でも、今教えられた事だけでもなんだか高得点が取れそうな気がしてきたよ!まだ最初だけどありがとね!」

「ならまだ最初だけどどう致しまして。……けど、まだ実際の勉強は何もしてないんだからね?それは分かってる?」

「分かってる分かってる。顕人君もまだ沢山教える役目が残ってるんだから、気を抜いちゃ駄目だよ?」

「了か……いやだから何故偶に謎の立場からの言葉になるの!?流石にそろそろ突っ込まないと俺気になっちゃってしょうがないよ!」

 

ところどころでボケと突っ込みが差し込まれたり、何やら話が脱線したりと些か真面目さに欠ける勉強会初日。まだまだやらなきゃいけない事は沢山あるし、俺自身も勉強しなきゃいけないから安心には程遠いけど……期待の持てる初日ではあったんじゃないかなぁ、と思う俺だった。

 

 

 

 

「……ところでさ、こんな真面目に勉強のコツを描写する必要あった?」

「それは、まぁ…はは……」

 

……例えその通りだったとしても、触れちゃいけない事ってあるよねっ!


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