魔人は、自身と妃乃との戦いの一部始終を語った。どう戦い、どういう流れになり、どうなった結果今に至るのかを、演説者が如く身振りを加えて俺に伝えてきた。
「流石のお嬢さんと言えど、地面を背にした状態で傷付けられない者達に邪魔されては身動きも取れないというもの。よってお嬢さんは私の力から逃れる事が出来ず…哀れにも牙を抜かれてしまったという訳さ」
首を横へと振りながら、魔人はそう締め括った。ちらりと妃乃の顔を見てみると、そこには苦渋の感情はあっても異を唱えようとする様子ない。…って事は、奴の語った内容にゃ偽りはないのか…。
「…哀れだってんなら、解放してやれよ。言葉と行動が合ってないんじゃねぇの?」
「そうはいかないよ。私は慎重派だからね」
「慎重派、ねぇ…一体どこの世界に自分の能力や戦法をべらべら喋る慎重派がいるんだか」
「慎重と臆病は違うんだよ、少年。時には手の内を明かす行為も策となり得る事を覚えておくといい」
「そりゃどうも。…そんなの言われなくたって知ってるっつの…」
小声で悪態を吐きながら、得られた情報を元に作戦を構築する。感情的に言えば一刻も早く叩き潰してやりたいところだが…下衆な策と言えど妃乃が嵌められたという事実が、理性の働きを強めてくれていた。勝ちたくば考えて動け…ってな。
「しかしお嬢さんの行動は本当に理解出来ないよ。如何なる理由があろうと、どんな状況であろうと、最も大切なのは自身の命。命を投げ出してしまえばその後何があろうと全て無駄になる…違うかい?」
「…あんたには、理解…出来ないわよ…絶対にね……」
「だから私は訊いているんだよ。…少年、少年はどう思うかい?」
「……命あっての物種、っつー言葉がある。死んでしまえば全てお終いだってのも、それは正しいだろうな」
「ふふ、同意を得られて何よりだよ。やはりおかしいのはお嬢さんの方……」
「…だが、命を危険に晒してでも貫きたいものがあったっておかしくはねぇよ。てか、妃乃も別に命を捨ててた訳じゃないだろうしな」
命を捨てる行為と、命懸けの行為は違う。その身を危険に晒すという意味ではどちらも似たようなものだが、両者の間には大きな違いがある。……命を手放すつもりか、そうではないか。その違いは意思にも、結果にも大きく響いてくる。
「命を危険に晒してでも貫きたいもの…まさか別の人間の守護が、その貫きたいものだとでも?」
「…………」
「…確かにお嬢さんの言う通りだ。私は君のその意思を、欠片も理解出来ないよ」
「…安心しろ魔人、これに関しちゃ別にテメェが間違ってるって事じゃねぇ。個人の価値観の違いで済む話だ」
誰かの身代わりになる事。命懸けで何かを成す事。それはいつの時代も美談として語られ、実際それが出来る人間というのは特筆すべき精神を有してると見て間違いない。……が、その行為は凄くはあっても立派とは限らない。美しくはあっても、正しいとは限らない。というかむしろ、生物的に言えば間違っている可能性が高い。魔人の論通り死とは積み上げてきたものが崩れる現象であり、御道の知り合いである上嶋さんが言った通り自身の命は軽んじるべきではないのだから。……けれど、だとしても……
「……だが、理解出来ねぇ理解出来ねぇと言うばっかりのテメェより、見ず知らずの相手の為に無茶が出来る妃乃の方が、俺にはよっぽど凄ぇ奴に見えるけど、な」
「…好きにするといい。私は君からの評価なんてどうでもいいよ」
「そうかい。……いい加減、テメェと話をするのも飽きたわ」
「ならば、どうする?お嬢さんからの真摯な訴えを受けても尚、私の話を聞いても尚、戦う気は衰えていないと?」
「俺はここから退こうとしていない。…それが答えだ」
魔人の顔を見据え、睨め付ける。妃乃の言葉を無視する形になるのは少し悪い気もするが…このまま妃乃を残して離脱したら、妃乃がどうなるか分かったものじゃない。もしかしたら何もされないかもしれないし、宗元さんがここへ部隊を出撃させていて、その部隊の到着はもうすぐかもしれない。……けど、そんな『かもしれない』で妃乃を置いていけるか?…そんなの、言うまでもなくNOだ。
俺が胸に秘めるのは、奴を倒し妃乃と被害者であろう周りの四人を助け出すという思い。そんな思いを知ってか知らずか、魔人は俺を見ながら肩を竦めた。
「やれやれ、君は頭は回るようだが…短絡的だね」
「短絡的?」
「あぁそうさ。…少年。君は私がただ雑談をしたくて、自慢話をしたくて長々と会話をしていたとでも思っているのかい?」
「…何だと…?」
その瞬間、ぞくりと背筋に冷えが走る。思わせぶりな発言をする魔人の目には……爛々とした光が灯っている。
「分からないかな?ならば教えてあげよう。…これが答えさ」
「…………」
「な……ッ!?」
不愉快な笑みを魔人が浮かべる中、ゆらりと妃乃が立ち上がり……魔人を守るように、俺の前へと立ち塞がった。その顔に、表情は…………無い。
「……テメェ、まさか…妃乃を支配する時間稼ぎの為に…」
「ご名答。一先ず攻撃されないよう抑え込んだはいいものの、そこから先へは中々進まなくてね。霊装者は皆そうなのか、それともお嬢さんが特別なのかは知らないけど……やっと、手駒にする事が出来たよ」
そう言いながら魔人は、手を妃乃の左肩へ。敵、それも妃乃にとっては忌々しい筈の魔人に肩へ手を置かれているにも関わらず、妃乃は振り払うでも眉間に皺を寄せるでもなく…ただその場に立っているだけ。それは、妃乃が魔人の支配に飲まれた事を如実に表していた。
「……っ…妃乃…」
「もし君が言葉を交わさず仕掛けてきたのなら、手中に収める事は失敗していただろう。けど、悔いる必要はないよ。その場合は私の力もお嬢さんが負けた理由も分からず、早々にお嬢さんと同じ道を歩んでいただろうからね」
「…何が言いたいんだよ……」
「どう転ぼうが、私の優位は揺るがないという事さ。…改めて訊こう。君は戦う気かい?この私を…そして、お嬢さんを相手に、勝てるつもりなのかい?」
その問いはこれまで二度受け、二度とも俺は戦う意思を示した。…だが、これまでの二度と今回とじゃ条件が違う。今は妃乃が、同居人であり恩人である彼女が、俺では到底敵わない協会のエースが、敵として立ち塞がっている。もし、正面から妃乃と戦ったとすれば……結果は、目に見えている。
じっとりと顔を伝う、嫌な汗。退きたくはないが、このままで戦おうとするのは『命を捨てる行為』と何ら変わらない。だから一時撤退する事がベストな選択だってのは、分かってる。……けれど、俺は理性と感情を完全に切り離せる程大人じゃない。
(くそっ、分かってる…分かってるけどよ……!)
段々と心拍が速くなる。この迷ってる時間は無駄だってのも理解している。…それでも俺は、決心が付かない。そんな中魔人は、またも笑みを浮かべ……
「……なんてね。そう身構えないでくれないかな、少年」
…この場にはまるで似つかわしくない、穏やかな表情を俺へと向けてきた。
「…今度は何のつもりだ」
「いやいや、まずは一つ教えておいてあげようと思ってね。ついさっき私はさも彼女を完全支配したように言ったけど…実際にはまだ途中でね。今お嬢さんを戦わせたとしても、普通の人としての力しか引き出せない程度なんだよ」
「…それを俺が素直に信じると思ってんのか?」
「信じるか信じないかは君次第。お嬢さんは君達の憎む相手に簡単に支配されてしまう程度の人間だと思うのなら、信じなくても結構だよ」
魔人は言葉を続ける。言葉の端々に人への嘲りを馴染ませているにも関わらず、俺に対しても妃乃に対しても饒舌な魔人の意図を、俺はまだ測りかねている。単に優位な立場を楽しんでいるのか、それともこれもまた何かの時間稼ぎなのか…。
「…それと、私は戦う事が好きではなくてね。ただでさえ好みではないというのに、今日はお嬢さんにしてやられてこんな傷が出来てしまった。手負いだとしても君に遅れを取るつもりは一切ないけど…出来るならばここではもう戦いたくない、というのが本心なんだ。今日の私は万が一を引いてしまいかねない程に不運でもあるからね」
「…まどろっこしいな…結局は何が言いたいんだよ」
「私は君に取り引きを持ちかけているんだよ。互いに命を懸けずに済む、利益と利益による取り引きを…ね」
人を支配し手駒にしておいて、手駒にした人間を使い捨てようとしておいて、何が命を懸けずに済む取り引きだ…と反射的に思った俺だが、こいつにそれ言っても何ら響きはしないだろうと考え直し、出かかっていた言葉を飲み込む。
「…お互い矛を収めてこの場を後にしようってか?」
「それに加え、君にはここで私を倒したと仲間に報告してくれる事を望むよ。そうしてくれれば、私は今後嗅ぎ回られずに済むのだから」
「なら、テメェも俺は襲わないようにと他の魔人や魔物に伝えてくれんのかよ」
「残念ながら、それは出来ない相談だ。私は君達人間のように徒党は組んでいないし、君達の言う魔物はそんな器用な事は出来ないからね」
「はっ、そりゃ随分と素敵な取り引きだな。……自分は長期的な自由と安全を要求しておきながら、相手にゃお恵み程度なんて、とても取り引きとは言えねぇっての。…どうせテメェは優位な自分が譲歩してやってるとか、そういう感覚でしかないんだろ?」
元々取り引きに応じるつもりはないが、そのつもりはなくともここまで酷けりゃ取り引き内容に文句もつけたくなる。それはどうせ戦う事になれば自分が勝つのだから、という傲慢さを隠す気もない、いっそ『死にたくなければ自分に従え。従うなら見逃してやる』とシンプルに言ってくれた方がまだ気分的にはマシだと思える取り引き内容だった訳だが……その直後に俺は知る。魔人はそこまで傲慢ではなく……俺が思っているよりずっと、人間を軽侮しているのだと。
「心外だなぁ…けれど、その言い分は最もだ。取り引きというからには、要求するものに見合った提示をするべきだからね。故に、もし私の要求に応えてくれるというのなら──私はお嬢さんを君に譲ろう」
「は……?」
……一瞬、意味が分からなかった。意図が、ではなく言葉の意味そのものが。
「……っ…テメェ、何を言って……」
「言葉通りの事さ。さぁ、お嬢さん」
「…………」
肩から手を離し、魔人は勧めるかの様な声音で妃乃の名を呼ぶ。すると妃乃はふらりと身体を揺らし…俺の前へと歩いてきた。そしてそのまま、妃乃は俺へともたれかかる。
「なっ……妃乃!?」
「…………」
「これは…おい!譲るってまさか、テメェの支配下のまま引き渡すって意味じゃねぇだろうな!?」
「それでは何か不都合かい?」
「不都合も何も、こんなのどこが要求に見合った提示だってんだ!テメェの意思一つで命狙ってくる人間が近くにいて喜ぶ奴が、一体どこにいると思ってんだよ!」
まるで妃乃を物の様に扱われた事、提示内容が杜撰にも程があるレベルの酷さだった事で、つい俺は声を荒げる。やっぱりこいつは自分によってるだけの傲慢野郎だった。反射的に話に合わせちまったが、もうこいつの話を聞く意味なんて欠片もねぇ。今奴が取り引きのつもりでいるんだったら、その油断を突いて速攻で……
「はぁ…話は最後まで聞くべきだよ、少年。確かに私の意のままの状態で譲ったのら、君の言う通りだけど……もし意のままに出来るのが、私ではなく君だとしたら?」
「……っ!?」
ぞくり、と身体に衝動が走る。恐怖でも焦りでもない、もっとプリミティブな感情が、俺の思考に横槍を入れる。そしてそれを感じ取ったかの様に、言葉を続ける魔人。
「意のままに出来るのが私なら、お嬢さんは君にとって危険な存在。だが、君が意のままに出来るのなら…お嬢さんは君の自由だ。何をしようが、何をさせようが…ね」
「……今度はどんな冗談だ。そもそも、俺がどう意のままにするってんだよ」
「簡単な事さ。私がお嬢さんに、彼の従者となるよう命令する…そうすれば主人の立場は君のものになるだろう?支配の原動力はそのままに、権利のみを譲渡する…いや、君へと付加させると言うべきかな」
「…なら、そうした場合テメェの立場はどうなる」
「原動力は所詮原動力、付加してしまえば私の支配権はなくなる筈だよ。支配の上書きをすればまた別だろうけど、それに確証はない。何せ付加も上書きもやった事はないからね」
「…………」
魔人の支配が、命令がどこまで効力を持っているのかは謎だが…仮に命令が半永久的に効くのであれば、魔人の言う通りになるだろう。上書きに関しても、下手に妃乃へと近付けば自分の存命がバレてしまう危険があるのだから、そう簡単には出来ない…というかやらない可能性が高い。…確かにこれなら、要求に対する提示としちゃ一応通るな…。
「お嬢さんを手放すのは残念な事だ。私に一矢報いた彼女をどう愛玩してあげようか、考えていたのだからね」
「…だからそれで手を打て、ってかよ」
「彼女一人じゃ足りないかな?」
「そういう事じゃねぇ…人を馬鹿にするのもいい加減にしろよ…」
発散させられぬまま溜まり続けていた怒りが、更に注がれ煮えたぎる。人の心を理解してほしいとは思っていないが、ここまで人というものを蔑ろにされれば許せる筈など到底ない。ましてやこの取り引きに乗る事なんて……
「馬鹿に?…なら、君はこの取り引きに何の魅力も感じないのかい?」
「…………」
「……っ…妃乃…」
ぐっ、と胸元を押されるような感覚。それに触発されて下を見れば、そこにあるのは妃乃の顔。感情の感じられない、妃乃の顔。例えそれが普段の妃乃とはかけ離れた、ある種異質な表情だったとしても……少女としての可愛らしさと、女性としての美しさが入り混じった顔で見つめられれば、それをもたれかかりによって異性である妃乃の身体が密着している中で向けられれば、心が乱れない訳がない。
「お嬢さんを監視する中で、君とのやり取りも多少目にしたけど…君は彼女に少なからず苦労させられているようじゃないか。その現状を変えたくはないのかな?自分の理想通りに物事を動かせた方が、よっぽど幸せだとは思わないかな?」
「…それがなんだってんだよ…支配する大義名分か?」
「大義名分ではなく、正当な理由だよ。現状に甘んじず、現状をより良く変化させる事は、何もやましくはないのだから」
「欲望だ、それは…」
「そう、これは支配欲とでも言うべきものだ。…けれど、この欲求は誰にでもあるものだと私は思うね。誰にでもあるのなら、それは間違っていない当然の性質だろう」
ぺらぺらと、魔人は自分と自分の考えに都合が良い理屈を並べ立てる。そのどれとして俺は耳を傾けるつもりはないが……それでも俺は、妃乃の生気のない瞳を…どうしても湧き上がってしまう支配欲を振り切れない。
(違うだろ…妃乃は恩人だ。俺の我が儘を応援してくれて、俺の馬鹿な事にもちゃんと付き合ってくれる、俺にとっての恩人だろうがよ…だったらやるべき事は一つに決まってんだろ…!)
今まで妃乃を異性として意識した事は…無いと言えば嘘になるが、それは言うなれば突発的な事で、これまではそれをすぐに振り払ってきた。振り払う事が出来ていた。だが、今日は…その瞳に煩悩を刺激され、服越しに感じる柔らかな身体に劣情を触発されている今は、思考を完全には切り替えられない。もし、それを含めて魔人がこの提案をしてきたとするならば……奴の方が、一枚上手だったってのかよ…。
「ゆっくり考えてくれ…と言えるといいんだけど、悠長にしていると更に増援が来てしまうかもしれないからね。だから早く決めてもらえるかな?」
「うっせぇ…テメェの都合なんざ知るか…!」
「ふぅむ、強情だね…ならば逆に考えるのはどうだい?欲に駆られて乗ったのではなく、確実にお嬢さんの安全を確保する為に応じた…とね」
「…物は言いよう、ってかよ…」
「状況を多方面から且つ総合的に考える、って事だよ。ここで戦った場合、私はお嬢さんに対してやったように投身させ、君が受け止めた瞬間お嬢さん諸共君を討とうとするかもしれないよ?強引に力を引き出させた結果、彼女の身体は負担でボロボロになってしまうかもしれないよ?…君は私を倒せれば、彼女の生死はどうでもいいのかな?」
「……脅してんのか…」
「可能性を口にしただけさ。ゼロではない可能性をね」
一方前へと前進する魔人。魔人の意図は分かっている。実際に行うつもりなのかどうかはさておき、これは俺に取り引きを飲ませる為の弁に過ぎないのだと。俺に言い訳作りをさせようとしているだけなんだと。
だが一方で、魔人は必要とあらば本当にやるであろうという事、妃乃との戦いで証明されている。そしてもし、戦った結果魔人が言った通りの策を取り、更にその結果妃乃が命を落としたとすれば……その時俺は、間違いなく後悔するだろう。こうなる位なら、魔人との取り引きに乗っておけばよかった…と。
(…もう、積んでんのか…?妃乃の命を確実に守る為には、乗るしかないのか……?)
互いに利のある取り引きとはいえ、その提案を行ったのは卑劣で不快な魔人。そいつの提案になんか乗りたくないし、これが平等な取り引きではない事も分かっている。だが…リスクが、あまりにも大き過ぎる。例え策に乗っかる形だったとしても、戦うのは危険過ぎる。……だからもう、俺は半ば心が傾いていた。
「…………」
「まだ、決められないのかな?」
「…………」
「全く、責任感というのは厄介だね。それは人に余計な重荷を負わせるものだろう?こうなってしまったのはお嬢さんのミスで、君はそれに巻き込まれた身だというのに。…もう、分かっているだろう?正しい選択が何かは」
この段階に来ても尚よく喋る魔人は、恐らく単に饒舌なだけなのだろう。既に決断が…いや、諦観の念が固まりつつあった俺は、そんな事をふと考えていた。
俺が反論を口にしない事が奴にとっての決定打になったのか、魔人は確信の表情を浮かべる。そうして魔人は数秒の沈黙の末口を開き……言った。
「……さぁ、時間だよ少年。君にとって…そして彼女にとって最も幸せな答えを、聞かせてもらうよ」
「……っ!」
──あぁ、そうか…何を迷っていたんだ俺は。何を躊躇していたんだ俺は。端から分かりきっていた事に、どれだけ時間をかけていたんだ。…そうだ、これは妃乃の招いた事で、妃乃の行動の結果。妃乃が好きにやった末がこれなんだから……俺だって、それでいいじゃねぇか。
「……ああ、そうだな…答えは決まったよ」
その言葉と共に、右手で妃乃を抱き寄せる俺。既に俺へともたれかかっていた妃乃の身体は、この行為によってより俺へと密着する。そうして俺が魔人のそれにも似た、表情を歪ませるような笑みを浮かべる中……数瞬間前まで右手に携えていた直刀が、カシャンと音を立てて床へと落ちた。