双極の理創造   作:シモツキ

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第三十八話 四人の奮戦

わたしとヒメは、大を三つ四つ付けてもいい位の親友だって思ってる。まだまともに喋る事も出来ない頃から遊んでる幼馴染みで、同じ立場だからこそ気心が知れていて、お互い才能に恵まれていたからライバルにもなれて……まぁとにかく、なんならもう家族って言っちゃってもいいと思うんだよね。その場合わたしがお姉さんかな〜、ヒメってちょっと頭固いところあるし、考えてばっかりだから、柔軟性のあるわたしが助けてあげなきゃいけない感じあるもん。……って違う違う、そんな話じゃなくて…そういう事もあって、わたしはヒメの動きが手に取る様に分かる。流石に二十四時間三百六十五日…なんてレベルじゃないし、昔に比べて今は一緒にいない事も増えたから、分かる範囲は狭まっちゃったけど……それでも、無意識にお互い昔の呼び方をする様な時は、わたし達の間に確認作業なんて必要ないんだよね。

 

 

 

 

「ふ……っ!」

「よ、っとぉっ!」

「そこ……ッ!」

 

斜め回転からの斬撃を放つヒメ。それを魔人…じゃなくて魔王なんじゃないかと思う位に強い襲撃者は回避。でもそれを予測していたわたしは回避先へと回り込んで、叩き付ける様に大太刀を振るう。魔王はまた回避。今さっきのわたしと同じ要領で刺突に入ったヒメの攻撃は、靄を纏った両腕で防御。…ここまでの流れにかかった時間は、僅か数瞬。

 

「良い、良いぞ…やっと我が出向いただけの甲斐がある例装者に出会えたというものだ…!」

「それはどーも、わたし達的には来ないでほしかったんだけどね!」

 

ヒメの攻撃で一瞬止まった間にわたしは魔王の背後に迫り、下段から一撃。腰から肩までばっさりやっちゃうつもりだったけど…わたしの攻撃も収束させ壁の様になった靄をによって防がれてしまった。ヒメの大槍と魔王の両腕、わたしの大太刀と魔王の靄の塊がぶつかり合う。

 

『……っ!』

 

魔王の肩越しに目の合ったわたし達は、それだけで息を合わせて魔王から後退。同時に霊力の翼を操作し、わたしとヒメによる左右×2の四方向攻撃を魔王へと仕掛け……たけど、それも魔王には届かない。

上へ飛ぶ事で回避した魔王は、お返しとばかりにわたし達へと光弾を飛ばしてきた。それをそれぞれで斬り払ったわたし達は、一旦魔王から距離を取って合流する。

 

「ここまで強い奴と戦うのなんて、いつ振りかな…」

「どうだったかしらね、もしかすると初めてかもしれないわよ?」

「それもそうかも…はぁ、こういうハプニングはやだなぁ…」

「こういうハプニングが好きな人はそうそういないでしょうね…」

 

合流したからって、別に作戦会議したりはしない。ただちょっとお喋りをするだけ。だって作戦会議なんてしなくても意思疎通は出来てるし、目的はお互い相手がまだ元気かなって確認する為だもん。後は心を落ち着かせるってのもあるかな。

 

「…よっし、もっかいいくよ!」

「言われなくても!」

 

まだまだ戦えるって分かったところでわたし達は解散。二人で別々の軌道を描いて魔王を翻弄しながら攻撃タイミングを計る。そうして先に仕掛けたのは、上方から接近をかけたヒメ……ではなくヒメの突撃からほんの少しだけタイミングをずらしたわたしの方。ちらりと魔王の視線がヒメへと行っている隙に、下方から肉薄をかける。

 

「とりゃぁっ!」

「ふん……」

「ふん、じゃないよッ!」

 

脇構えから横薙ぎ。それを腕で受け流された瞬間力の入れ方を少し変えて、そこから全力の連撃にシフトする。天之尾羽張は大太刀で、あんまり手数に優れてる武器じゃないけど…それを能力と技術でカバーしちゃうのが天才ってもの。遠心力を使ったり、体重移動を利用したり、時には型も何も無い滅茶苦茶な動きも混ぜたりする事で斬撃を絶やさず魔王を攻め続ける。

対する魔王は防戦一方…だけど、動きからしてわたしが隙を見せるのを待っている様子。それはつまりわたしの攻撃を冷静に見れているって事で、攻撃が絶えた瞬間鋭い反撃が飛んでくるって分かってしまうは正直心臓に悪い。けどいいもん。だって……

 

「これなら……どうよッ!」

 

数十にも及ぶ(正確な回数はちょっと分かんないや)連撃の末、一瞬途切れたところを即座に狙ってきた魔王。魔王の抜き手を大太刀の腹で受けたわたしは完全に攻撃が止まってしまったけど…その瞬間、わたしが仕掛けてる間に距離を取って加速準備を整えていたヒメが強襲。真上からのランスチャージを受けた魔王は腕で防御したけど、そのまま電車に撥ねられたみたいに下へと押し込まれていく。それを見たわたしは「ひょっとしたら地面に叩き付けられるかも…」なんて思ったものの…魔王はそんなに甘くなかった。

 

「今のは…流石に驚いた……!」

「……っ…どんな身体してんのよ…!」

 

ヒメのランスチャージを受けた魔王は防御をしたまま無理矢理身体を捻ってヒメへとキック。それをヒメが避けた事で力が僅かに緩んだ瞬間を狙い、身体を回転させて地面への押し込みから逃れてしまう。勿論わたしは何があっても大丈夫な様ヒメが通り過ぎた時点で後を追っていたけど、流石に予想外の動きをされたら『避けた先に予め攻撃を…』なんて真似は出来ない。

 

「では、次はこちらから仕掛けようではないか」

「うわ、っとと!?」

「ちぃ……っ!」

 

わたしとヒメの中間辺りに滑り込んだ魔王は、両手をそれぞれわたし達に向けて靄を収束させた光弾を発射。それをわたし達が斬り払って上下から斬り込んでいくと、今度は靄でわたし達の攻撃を防御。さっきみたいにまた押し合いになるのかと思いきや……魔王は靄を破裂させてきた。

特にダメージは無かったけど、二人まとめて弾かれてしまったわたし達。そこから魔王はヒメに向かってドロップキックを敢行し、ヒメは咄嗟に大槍の柄で防御……したけど、それは攻撃じゃなかった。柄で受け止められた魔王はそれが予定通りだったと言わんばかりに即膝を屈め、ヒメ諸共大槍を踏み台にわたしへと突っ込んでくる。

勢いよく飛び込んでくる魔王と、姿勢を立て直しつつ防御体勢に移ろうとしたわたし。これを受け止めるのは一筋縄じゃいかないかもとか、これも攻撃と見せかけた陽動なのかもとか頭の中では考えつつも、目はしっかりと魔王を見据えてわたしは防御を……

 

「む……!」

「……!そこっ!」

 

──その瞬間、斜め下から魔王の眼前に霊力のビームが駆け抜けた。その横槍によって魔王は一瞬動きが止まり、それを見逃さなかったわたしはもしやと思いつつすぐに防御体勢を解いて攻撃の為接近。その中でちらりと目だけを動かしてビームの発生源を探ると……ビームの発射主は、やっぱり顕人君だった。

 

 

 

 

「ちっ、ギリギリで反応しやがったか…」

 

綾袮さんと魔王がせめぎ合い、その背後から時宮さんが強襲をかける中で千嵜は舌打ちを漏らす。今砲撃を行ったのは俺だけど…千嵜の指示を受けての砲撃なのだから彼が不満気にするのも当然の話だ。

 

「まあでも、二人の援護にはなった…」

「そりゃ結果論だ。今回いい方向に転がってくれたからって、次もそうなるとは限らねぇよ」

「……了解、次の指示頼む」

 

真面目に魔王が戦い始めて以降はほぼ空の賑やかしにしかなっていなかった俺の射撃が、ここまで惜しく且つ二人への援護となった事は自分からすれば素直に嬉しいし、千嵜の持つ経験が伊達じゃないんだって証明する結果でもあった。……けど、千嵜のクールな判断を受けて俺も再び気を引き締める。こんな事で喜んでたら、勝てっこないって事だよな…。

 

「分ぁってる。…もう少し予測射撃の距離を広げるか?それとも止まった瞬間をピンポイントで狙うか…いや、止まった瞬間は時宮達の攻撃と被る可能性が高いな……」

 

二人と魔王の動きを目で追いながら思考を巡らせる千嵜。普段千嵜は感性型…というより物事を適当に決めてる節があるけど、今の千嵜からそれは微塵も感じられない。…割と料理も上手だし、こいつはやる気さえ出せば優秀な人間なんじゃないだろうか。この場には全く関係ないけど。

 

(…っと、何人任せにしてんだ俺は……)

 

砲撃指示は千嵜に任せているとはいえ、ぼーっとしている事など愚の骨頂。動きを見ておかなければ指示を受けても反応出来ないし、自分の糧にする事が出来ない。まだまだ俺は弱いんだから、吸収出来るものは片っ端から吸収していかないと…。

いつでも最大出力の一撃を撃てる様準備をし、戦闘を追いながらも身体の力を抜いて千嵜の指示を待つ。指示を反射的に実行する為には余計な事を考えない様にしなければいけないから極力雑念を廃し、でも吸収の為一部で頭をフル回転。正直自分でも力を入れているのか抜いているのか、思考をしてるのかしてないのかよく分からない状態が数十秒から数分程続いて……また、その瞬間はやってくる。

 

「……っ!魔王の背後約10mッ!」

「……──ッ!」

 

弾かれる様に砲の向きを魔王の背後へ向け、当たってくれと願望を込めて霊力ビームを放つ。俺の放ったビームは勢いよく伸び大凡千嵜の指示した通りの位置へ。…しかし、伸びるビームの先端が魔王を捉える事はない。

失敗したか、と一瞬思った。千嵜の読みが外れたのかとまずは思った。……が、そう思う最中魔王が俺の砲撃に気付かない様子で未だ射線上へと残るビームに向かって近付く姿を見て、気付いた。今の指示はこちらから当てる目的の攻撃ではなく、相手が引っかかるよう『置いた』攻撃だったのだと。

ビームに触れる寸前に気付き、靄で壁を作る魔王。それはビーム自体が消えかかっていた事もあってあっさりと防がれてしまったけど……その魔王へと二振りの刃が襲いかかった。左右から綾袮さんと時宮さんが位置をずらして斬撃を仕掛けて、そして……

 

「……やっと、捉えたわよ」

 

時宮さんの大槍から落ちる、魔王の血。それは極僅かな量で、魔王が受けたのも戦闘能力の低下にはほぼ繋がらないであろう小さな切り傷。……それでも、確かに魔王は傷を負った。綾袮さんと時宮さん、その両方の攻撃を完全に避け切る事は出来ず、魔王の鼻先は槍の穂先に捉えられて血を流していた。

どくん、と胸が大きく躍動するのを感じる。それは血を見たからじゃない。遂に攻撃が通ったから…というのも少し違う。そうじゃなくて……今の俺の砲撃は、今の一撃において注意を引くという活躍をした。その事により、傷という形を持った結果が現れた。そう…今の俺の砲撃は、間違いなく意味があったんだ。

 

「……まだ笑っていられる状況じゃねぇよ、馬鹿」

「…え…わ、笑ってた…?」

「あぁ、あんまお前らしくない笑みをな。…気ぃ引き締めろ、軽傷でも一撃貰ったんだ…奴がマジになってもおかしくねぇんだぞ」

「…すまん、気を付ける」

 

どうも俺は喜びが顔に出てしまっていたらしく、またも千嵜に注意される。我ながら単純な奴だな…と自嘲しつつ目を凝らすと、二人に刃を向けられている魔王は鼻先から垂れる血を指で拭いつつ……こちらを見ていた。

 

「……っ…」

 

俺は視力に自信がある訳じゃない。けど、魔王がこちらを…俺を見ているという事は、はっきりと分かった。脅威だと認定されたのではないと思う。千嵜のフォローを受けても所詮俺は霊力量だけが取り柄の雑魚で、魔王相手に脅威となれる筈がない。だから恐らく、俺は魔王から『邪魔』だと思われたんだろう。放っておこうと思えば放っておけるし、真面目に相手をするのも面倒だが処理しておいた方が戦い易い…そんな辺りの認識を、俺は受け──

 

「…目障りだな」

「……っ!顕人君ッ!」

 

……その瞬間、俺と魔王の距離は一気に近付いていた。魔王の目的を察知した時宮さんが割って入ったけど魔王はその時宮さんの大槍を掴み、綾袮さんの方へと投げ飛ばす事で一瞬二人を無力化し、その間に俺へと肉薄してきたのだった。

不味い、と思った時にはもう遅い。ライフルを向ける時間も砲の照準を合わせる余裕もなく、せいぜい俺に出来たのは僅かに後退する事位。どう考えても俺は攻撃の阻止なんて出来よう筈がなく……しかし、そこで千嵜が動いてくれた。

 

「新米虐めは止めてくれませんか、ね…ッ!」

「どけ、貴様の相手は後だ…!」

 

斜めから俺と魔王の間へ滑り込み、突き付ける様にライフルを向けた千嵜。魔王が千嵜に触れるよりも早く発砲音がその場で響き、1mもない距離から弾丸が魔王の顔面へと……届く、筈だった。けれど、届かなかった。顔の僅か数㎝前で靄によって阻まれ、弾丸はその場で停止してしまっていた。

綾袮さんと同じ様に千嵜も投げ飛ばされ、今度こそ魔王の攻撃を阻止する者がいなくなる。千嵜の作ってくれた一瞬でライフルを向ける事は出来たけど…今更この距離で、ライフル弾数発じゃ……

 

「──顕人君!動かないでッ!」

「む……!」

 

聞こえたのは、何かが凄まじい勢いで風を切る音。それに気付いたのは俺より魔王が先で、奴は俺への攻撃を中断するのと同時に反転しその音の発生源……飛来する斬撃を受け止めた。

魔王の腕と靄に阻まれ四散する斬撃。けれどその後を追う様に綾袮さんが魔王へと肉薄し、魔王へと更なる攻撃を仕掛けていく。

 

「……っ…綾袮さん、それに時宮さんと千嵜もごめ──」

「顕人君!今の攻撃はよかったよ!さっきは蹴っ飛ばすとか言ったけど…それでも最大限わたしは君を守るから!だから顕人君も……全力を尽くしてッ!」

 

大太刀で魔王と斬り結びながら、反射的に謝ろうとしていた俺へ綾袮さんは声を投げかけてくる。魔王に弾かれ最後の一言は吹っ飛ばされながら発する形になってしまっていたけど…その言葉は、俺の心の中で燃えていた炎を更に力強くさせた。

腕を動かし、ライフルの砲口を魔王の方へ。腕を振り抜いたばかりの魔王に向けて、射撃を放つ。

 

「ばら撒く……ッ!」

 

相変わらず俺の攻撃は靄によって軽々しく防がれ、もう悲しくなったしまう程放った弾丸は豆鉄砲状態。けれどそれでいい。ほんの僅かでも意識を俺の側に持ってこさせる事が出来れば、その隙間を綾袮さんと時宮さんが突いてくれるのだから。

 

「上手く合わせなさいよッ!」

「言われなくても…ッ!」

 

側面から大槍を構えた時宮さんが強襲。対する魔王は蹴りで時宮さんの迎撃を図るけど…攻撃の当たる距離へと入る直前で時宮さんは離脱。その結果魔王の迎撃は空振りし……彼女の背後から現れた千嵜が斬りかかる。

一瞬の時間を作って跳ね飛ばされてから今に至るまでの短い間に意思疎通を図った様子の千嵜と時宮さん。それによって生まれたのが今の二段攻撃だと、俺は思った。そして、魔王は二段攻撃だと『思わされ』た。

 

「その程度、後手に回ろうと遅れは取らん…!」

「だろう、なッ!」

「何……!?」

 

現れると同時に攻撃を放った千嵜だけど、魔王は落ち着いた様子で靄の壁を作り、その裏で腕を突き出す体勢を見せる。……が、千嵜は靄の壁に自身の刀が触れた瞬間腕を引っ込め後退した。力を込める事も、別方向から攻撃する素振りも見せずに、あっさりと千嵜は退いてしまった。

本命に見せかけた時宮さんが引っかけを行い、能力の劣る千嵜が逆に本命の攻撃を敢行する。そういう二段攻撃だと俺も魔王も思っていて、千嵜の攻撃を阻止した時点で終了だと思ってしまっていて……だから、フェードアウトしていた筈の時宮さんが風を唸らせながら再度の突撃をかけてきた瞬間には心底驚いた。

 

「いつまでも…余裕ぶってんじゃないのよッ!」

「……っ…舐めるな…!」

「なら、わたし達の事も舐めないでよねッ!」

「く……!」

 

再びランスチャージを魔王に叩き込んだ時宮さんは、先程同様その突撃で魔王を進行方向へと押し込んでいく。

前のランスチャージと違う点は二つ。一つは意表の突き具合が先程より深いという事。そしてもう一つは…迫るのが地面ではなく、牙突の様な構えで待ち構える綾袮さんであるという事。一層対応が遅れた状態で、ただ待っているだけの地面の数百倍の脅威度を持つ綾袮さんが刻一刻と迫るのだから、魔王としてはたまったものじゃないだろう。もしかしたら、それで決着が着いてしまうかもしれない。…けれど、俺は動く。感覚器官全てで可能な限り情報を集め、限られた知識で力一杯(思考について力一杯、と言うのは表現的におかしい気もするけど)先の展開を推理し、その時俺が出来る事を出来る位置に、状態にいようと飛ぶ。だって、綾袮さんは俺に全力を尽くせと言ったから。全力を尽くしてって、言ってくれたから。綾袮さんも、千嵜も、時宮さんも全力を尽くしていて、俺は傍観者ではなく戦ってる一人なのだから。だから、俺は……

 

(──俺も、全力を尽くす…ッ!)


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