双極の理創造   作:シモツキ

35 / 245
第三十四話 友人のすれ違い

霊源協会本部である双統殿は、支部に比べても戦力的に整っているらしい。実際生半可な部隊じゃ成功出来る訳がない今回の魔人の拠点強襲作戦において、戦力の全力投入はせずにそこそこの人数(双統殿の警護部隊とは別)が残っているんだからその点について疑うつもりはない。

しかし戦力が余るという状況は維持費やら統制の効率やらの問題で基本的には回避されるべき事で、今の双統殿内戦力はスカスカではないものの普段に比べて大きく劣ってしまっている。そんな時に一騎当千の力を持つ敵が攻め込んできたとすれば……それは、ピンチ以外の何物でもない。

 

「おいおいマジかよ…」

 

数十秒前、俺はいきなりついさっきまで話していた少女がぶっ倒れた事に驚き動揺した。その少女が意識を取り戻し、ほっと一息…したのも束の間、ダウナーな雰囲気がどっかいった少女にまくし立てられ、その意図を教えてもらった次の瞬間には爆発音が聞こえてきて、そこで再び俺は動揺した。

 

「……っ…間に合わなかった…」

「どこだ、どこで何が起こってやがる…!」

 

先程までとは打って変わって項垂れる少女に対し、俺は音と振動の方向を頼りに近くの窓を開け、頭の中で可能性を模索しながら発生源を探し始める。

普段緋奈や時宮に振り回され(俺もちょくちょく振り回してるが)、場合によっては結構慌てる俺。さっきも少女が倒れた事に慌てたばかりだし、お世辞にも俺は『どんな事にも動揺しないクールな大人』ではないと思う。…だが、俺は何度も何度も経験したおかげで命のやり取りや、炎や爆発が巻き起こる状況に関してはかなり慣れていて動揺してもすぐにやるべき事へと移行出来る。こんな能力が身に付いている事が幸せなのか不幸なのかは知らないが……それが役立つ状況となれば、それはもうありがたい事この上ない。

視線を走らせる事約二秒。左右を見て、その後上を見たところで俺は原因を発見した。

 

「あれか……!」

 

青い噴射炎を引きながら飛び回る十数人の霊装者と、その霊装者の攻撃を悉くはたき落とす、魔人と思しき存在。爆発した場所はまだ未特定なものの…これが分かればもう十分だった。

 

「おいあんた!俺はあんまりここの造りについて詳しくねぇから自分で安全な場所に移動しろ!ここでぼさっとしてたらどうなるか分かったもんじゃねぇぞ!」

「あ…あたしに命令しないでよ、あんた何様よ…!」

「命令じゃねぇよ提案だ!お前だって意味もなく危険な場所には居たくないだろ!?」

「そ、そりゃそうだけど…ふん、そんなの言われなくてもわかってるっての…!」

「なら良かった、俺は行くからな!」

 

それだけ言って俺は駆け出す。何が起きているか、どこで起きているかは分かった。ならもう……やる事は一つだッ!

走る速度を上げていく。やれるかどうかは分からない、どこまで出来るかも分からない、だがそれでも…何も出来ない訳じゃないんだから。

角を右に曲がって、一つ目の交差点を抜けて、二つ目の交差点を左に曲がって、そして突き当たりを…突き当たりを……突き、当たりを…………

 

…………。

 

 

 

 

 

 

「……突き当たりを左だったよな!?そうだよなぁ!?」

 

 

 

 

緊急事態を伝えるアナウンスが館内に響く。とは言っても具体的な事は言わず、ただ手の空いている霊装者の招集とまだまだ半人前ですらない者への誘導だけで細かな状況はアナウンスから伝わってこない。それが情報不足によるものなのか、敢えて言わないのかは分からないけど……只事じゃないのは、それだけで十分に伝わってきた。

 

(……どう、する…?)

 

手の平にじっとりとした汗を感じながら、俺は目だけを動かして周りを見る。俺の周りにいる人は大半が後者に該当する霊装者で、怯えたり俺と同じ様に周りを見回したりと反応自体は三者三様なものの、全体的にはアナウンスに従って安全な場所へと移動し始めている様に見える。俺も経歴的に考えれば一人前な訳が無くて、指示に従わない事が格好良いと思う様な思考も持ち合わせていないから、普通に考えれば周りと一緒に移動するべきだと思う。……だと、思うけど…

 

(……それで良いのか…?)

 

心の中で待て待てと異を唱える自分がいる。アナウンス、そして先程聞こえた爆発が事故や災害によるものなら手の空いている霊装者を呼ぶ事には繋がらない訳で、そこから考えば恐らく今起きているのは戦闘絡みの事。それでもって今は、力のある霊装者が軒並みここを離れてしまっている事を俺はよく分かっている。

 

(もし、戦いなら…戦力が足りてるのか?俺でも戦力が足りていない状態なら、何か出来る事があるんじゃないのか…?)

 

普段はなりを潜めている積極的且つ行動的な自分が、常識的な判断を覆そうと可能性を投げかけてくる。確かにその通り今戦力的余裕ば多分なくて、よっぽど弱くもない限り力になれる可能性はゼロじゃない。それに自分で言うのもアレだけど…火力支援だけなら、俺はそこそこのレベルにあると自負している。だから、状況によっては…必要とあらば……

 

「……いや、そうだ…状況だよ状況、兎にも角にもそれが分からなきゃどうしようもない…!」

 

椅子から立ち上がって、俺は走り出す。それは誘導されている場所へじゃない。でも、招集をかけられている場所でもない。行き先は、とにかくここより情報が集まっていそうな場所。

俺にも何か出来る事があるのかもしれないけど、俺は即座にそれを理解出来る程戦い慣れてる訳でも戦場慣れしている訳でもない。そんな俺がひょっこり出ていって「なんか手伝う事あります?」…なんて言ってたら、まぁそりゃ邪魔になるだろうし心象としてもよくないだろう。そう考えればとにかく行くよりちゃんと情報収集を……それこそ上嶋さんの言う『準備』をきっちりしてから行った方が、俺の為にも周りの為にもなるのは明白。ベストを尽くすのが戦いにおいて肝心な事な筈…!

そうして移動する事数分。俺が辿り着いたのは…技術開発部の研究室。

 

「すいません!園咲さんはおりますか!?」

 

開いた扉から少々大きめの声で園咲さんを呼ぶ俺。状況が状況だしここにいない可能性も十分にあるけど、他に園咲さんがいそうな場所を知らないんだからここに頼るしかない。そう思いながら見回すと……そこには女性の姿があった。どう見ても研究中だったっぽい様子の、園咲さんの姿が。

 

「……って、今平常業務してたんですか!?」

 

園咲さんがいてくれた事にほっと一息…するよりも早く俺の口から突っ込みが飛び出す。だって…そら近くで戦闘が起きてるらしき時に研究なんてしてたら誰だってそう思うでしょう…。

 

「そうだよ、それが私の役目だからね」

「や、役目って…今はそれよりすべき事があるでしょう…」

「いいや、確かに今は非常事態だけど…私は霊装者としては特に目立った点もない平凡な人間、だから出張るよりここで私の得意分野を進めていた方が協会の為になるというものさ」

「は、はぁ……」

 

得意でもない事は他社に任せ、自身は得意な事を行う…その理屈は分かるし、下手になんでもやろうとするよりそっちの方がいいというのも同意だけど……それはもっと共通する目の前の目的に対する時に扱われる理屈なんじゃないだろうか。…なんて俺は思ったけど、博士として信頼されている園咲さんがそう判断したんだから多分正しいのは園咲さんの方。納豆はしてないもののそう考えて飲み込み、俺は本題を口にする。

 

「あの、園咲さん。今起きてる事について教えて頂けませんか?」

「ふむ…という事は、君は今の状況を詳しく知らないままここに来たんだね」

「はい。園咲さんならば知っていると思い、ここを訪ねました」

「そうか。…うん、君の思った通り私は今の状況を聞いているよ。何せ聞いた上で作業を続けると判断したんだからね」

「…では、改めてお願いします。教えて下さい、園咲さん」

 

足を揃え、頭を下げる。時々ちょっとした事でも真面目にやり過ぎと言われる俺だけど…相手が嫌がらない限りは真面目にやって損はないと思う。…いや断定は出来ないけど、少なくとも俺の経験からは損はなかった。だからこういう時は…真面目に丁寧に頼むに限る。

頭を下げて、待つ事数秒。園咲さんが、口を開く。

 

「……頭を上げてくれないかな。君の頼みはそこまでする程のものじゃないんだ、これでは君に悪いよ」

「では……」

「あぁ、私の知る限りの事を話そう。と言っても事が事だから、今は多少状況が変わっているのかもしれないけどね」

 

そう言って園咲さんは話し始めてくれる。今ここが強襲を受けている事を。偶然なのかどうかは謎なもののこちらの強襲と魔人側の攻撃とが被ってしまい、現在魔人らしき敵とここの警護部隊が交戦中である事を。手の空いている霊装者を招集していたのは、やはり防衛と迎撃に出てもらう為だという事を。

説明にかかった時間は一分かそこらで、すぐに園咲さんは話し終わる。その内容は大方予想通りで、説明を聞くというより確認を取るという感じだったけど……それでもやはり、敵…それも魔人の攻撃という事実には、緊張を感じ得なかった。

 

「…お分かり頂けたかな?」

「はい。…戦力的に余裕、だったりはしないんですよね…?」

「しないだろうね。勝敗については何とも言えないけど、少なくとも楽な戦況ではないだろう」

「ですよね…あの、訊いておいて何ですけど…これは話してもよい事だったんですか?」

 

園咲さんは責任ある立場な筈で、俺は協会の人間としてはヒラもいいところの存在。そんなヒラに話してしまうのは、責任ある立場として大丈夫なんだろうか、と不安になって問いかける。…いやほんと、なら訊くなよって話だけど…。…まぁそれはそうとして、訊いてみると……園咲さんは、不思議そうな表情を浮かべた。

 

「…君なら大丈夫だと思ったから話したのだが…不味かったかい?」

「え?…い、いや俺としては不味くありませんけど…」

「なら問題ない。綾袮君から聞いているよ?君はめきめきと成長し、どんどん実力を伸ばしているとね」

「あ、あー……はは、そっすねー…」

「……?」

 

何の疑いもなさそうな園咲さんに対し、俺は乾いた笑いを返す。…そうだ、園咲さんは天然(らしい人)だった…まさか完全に当てが外れたと思った事が、ここで生きてくるとは……そして綾袮さん、俺の事を誇張表現してくれてありがとう。マジグッジョブ。

 

「ま、まあとにかく知りたい事は分かりました。ありがとうございます園咲さん」

「なに、この位お安い御用さ。…出るのかい?」

「えぇ、折角戦える力も意思もあるんです。ここでまったりしてるなんて、俺には出来ませんから」

「士気は十分の様だね。なら、戦果を期待しているよ」

「はい、園咲さんの用意してくれた装備の力…引き出してみせます!」

 

もう一度、今度は軽く頭を下げて俺は回れ右。部屋から出る為出入り口へと向かって扉を開ける。

この時俺は、自分でも気付かぬ内に気分が高まっていた。大規模作戦中の緊急事態、強力な敵の強襲というある種ドラマチックな状況に興奮したのか、楽観視出来ない状況だと認識した事で生じた緊張感を高まりと誤認しているのかは分からないけれど、とにかく俺は今テンションが上がっている。それは戦闘中感じる高まりともどこか似ていて、その気分の中で俺は外に出てからどう立ち回るかのシュミレーションを始めて……廊下の角を曲がってきた人とぶつかりかけた。

 

「わっ、とと…!すいません…!」

「あ、あぁこっちこそ……ん?…あ、御道…」

「へ……?」

 

人が出てきたのとは逆側の道へ身を躱す様にして俺は跳ぶ。その流れの中でまたも(今度は相手別だけど)頭を下げて、相手もそれに応じてくれ……たところでまず相手が、続いて俺が気付いた。…千嵜じゃん。

 

「…お前ここで何してんの?」

「え、それはこっちの台詞なんだけど…」

「こっちの台詞でもあるわ。アナウンス聞いてなかったのか?」

「それもまたこっちの台詞でもある……って、千嵜…その格好は…」

 

この状況だと『こっちの台詞』という台詞を延々と取り合いになりそうなのはさておき、千嵜は協会所属霊装者にとっての制服(正確には制服の上へ着用するもの。場合によるけど基本着用は自由)であり戦闘服でもあるコートを身に纏っていた。まぁそれだけならきっちりした人か寒がりかという可能性も出てくるけれど千嵜はそのどちらでもないし…何よりコートの各部には縮小した状態の武器が懸架されている。それを見て「服選びのセンス変わったのかな?」と思う者がいるだろうか。

半ば問う様な声音を口にしていた俺。それもあってか千嵜は、俺がちゃんと質問をする前に言葉を返してくる。

 

「見ての通りだ。その様子だとお前も今の状況をそれなりに理解してるんだろ?」

「そこそこは、ね。…って、もう悠長に話してる場合じゃないか…」

 

必要な会話ならともかく、こんな半雑談的会話は外で戦闘が行われている真っ最中にするべき事じゃない。俺はさっさと準備しなきゃならないし、既に準備完了な千嵜を足止めさせる訳にはいかないんだから。

 

「だな。んじゃ俺は行くからお前も油売ってないでさっさと移動しろよ?」

「分かってるって。お互い最善を尽くさないとね」

「最善っつーか…まぁそうだな。……ん?」

「はい?」

 

そう言って千嵜と別れようとした俺。だが、背を向ける前に千嵜が怪訝そうな顔をしたものだから、ついそれが気になって止まってしまう。

 

「…ちょっと待て御道、最善って…お前、これから何する気だ…?」

「何って…そら、千嵜と同じ事だけど?」

 

怪訝そうな顔のまま訊いてくる千嵜に対し、俺は何の気なしに返す。さて、何でこんな確認したのかは知らんけどとにかく装備取ってこないと…………

 

 

 

 

 

 

「…馬鹿な事言ってんじゃねぇよ、御道」

 

 

 

 

────は?

 

 

 

 

言われた通りの道を通ってエレベーターに辿り着いた俺は一階へ移動。いつの間にか元々居た方の棟ではなく中央館に移動してしまっていた事に驚いたりそういえば何であの少女は襲撃を事前に察知出来たのか疑問に思ったりしながらもフロントの受付担当らしき人に少女からの情報を伝え(少女の連絡の方が早かったからか既に分かってた様子だったが)、その後装備を身に付けていざ魔人らしき奴と交戦中の奴等へ加勢を……そう思っていたところで、俺は御道と鉢合わせした。

 

「お前今さっきそこそこ状況分かってるっつったよな?分かってんならやるべき事も理解出来てるだろ…」

 

碌でもない俺と違って良識も分別もある御道なら少ない情報でもどうするべきかきちんと分かる筈で、ましてや自分の実力を正しく認識出来ていない筈がないと思っていた。後者に関してはどれ程の実力なのか詳しくは知らないが、まだまだ実力者と呼べるレベルではないだろう。……なのに、御道は今誘導に従った避難ではなく、霊装者として戦うという旨の返答を口にした。それを俺は…理解出来ない。

 

「…俺には出るな、って?」

「そうだよ、じゃなきゃこうは言わないだろ」

「…心配してくれてるならありがたいけどさ、別に俺はテンパってる訳じゃないよ」

 

俺の言葉を聞いた御道はまず思ってもみなかった、と言いたげな表情を浮かべて…そこから少し困った様な顔になった。まるでそんな事言われてもなぁ…と思っている様な、そんな顔。

 

「そうじゃなくてだな…御道、お前は勇敢と無鉄砲は違うって分かるだろ?気分悪くするかもしれないけどよ、俺からすればお前のそれは勇敢じゃなくて無鉄砲だよ」

「無鉄砲って…俺は見ての通り落ち着いてるし、ちゃんと考えて動いてるよ」

「少ない知識で動いてる時点で無鉄砲なんだよ。人に語れる程経験積んできた訳じゃないだろ?」

「それはそうだけど…経験少なきゃ絶対自己判断では間違うって決まってる訳でもないだろ?」

「そうだな、だが結果的にお前間違えてるじゃねぇかよ」

「……っ…その言い方はないんじゃない…?」

 

中々理解しない御道に、些かながら俺は苛立ってくる。外で戦っている以上ここで時間を無駄にする訳にはいかないのに、何故分かってくれないのか。というか普段ならどう行動すべきなのかちゃんと分かる筈の御道が、どうして今に限って分からず屋となるのか。それに、俺自身これまで教わる立場になった事はあっても教える立場になんてほぼなった事が無かった点も手伝って、元々ショボかった俺の言葉のオブラートが日頃以上に機能しなくなっていく。

 

「普通に言って理解してくれりゃそれで済んだんだよ。とにかく新米の御道が出る幕じゃねぇし、まずは自分の身を最優先にするべきだ」

「…なら、千嵜はどうなんだよ…霊装者としては俺と変わらないってか、むしろ若干ながら俺の方が現代では経験上じゃないか」

「現代では、な。俺は結構な修羅場を潜り抜けてきたんだ、現代での微々たる差なんてそれこそ微々たるレベルだっての。…分かってくれよ、俺は馬鹿な真似をしてほしくないだけなんだよ……」

「……馬鹿な、真似…?」

「あぁそうだよ。さっきも言った通り俺と違ってお前は本当にただの新米なんだから、馬鹿な真似はせずさっさと他の奴等と一緒に避難を……」

「……っさい…」

「は…?」

 

本当に分かってくれない御道に痺れを切らし、つい本当に思っている事をそのまま口にしてしまう。けど別に何か間違った事を言ったとは思っていないし、恐らくこの状況下の影響で普段より気が早くなっいるんだろう御道にとっては、もしかするとこれ位の方がちゃんと伝わるのかもしれない。……なんて、それまでは思っていた。

ぼそり、と何かを口にした御道。それをきちんと聞き取れず、何の気なしに聞き返して……

 

「うっさいんだよ…分かった様な事言って、お前は何様のつもりなんだよ…?」

「え…み、御道……?」

「新米?そうかもしれねぇよ。少ない知識?あぁその通りだよ。けどな…俺は本気なんだよ。本気で戦おうと思ってて、本心から霊装者になろうと思ってここにいるんだよ。それを、馬鹿な真似だと?……ふざけんじゃねぇよ千嵜ッ!」

 

いつもは柔らかく中性気味な言葉使いの御道が、語気を荒らげ怒りを露わに睨み付けてくる。なんならナヨナヨ系っぽい筈の御道が、俺へ敵意を露わにして怒号を浴びせてくる。それに俺は一瞬呆気にとられてしまった。そして……そこで俺が素直に謝っていれば、まだマシな結果になったのかもしれないと、後になって思う事になる。

 

「お…落ち着けよ御道、キレるなんてお前らしくねぇよ…」

「他人を怒らせた本人が言う事じゃないだろ!てか俺らしいかどうかは俺自身が決める事だっつの!」

「い、いやそれはそうかもしれないけどよ…とにかく怒る様な事じゃないだろ。戦いってのは、お前が考えてる程甘くないんだって…」

「……ッ!だからッ!何で千嵜は俺の事を決め付けてんだよ!上司でも何度も一緒に戦った訳でもない千嵜が、勝手に俺の事決め付けて否定するんじゃねぇよッ!」

「あ、あのなぁ…俺はそういうところが分かってないって言ってんだよ!お前がどう思おうが、お前が霊装者としてはまだまだ経験も知識も足りてないって事は変わらないだろ!?俺は曲がりなりにも生まれ変わる前に長い間霊装者をやって、魔物とも同じ霊装者とも何度も戦ってきたんだよ!俺とお前とじゃ違うんだから、少しは殊勝になって人の話を……」

「黙れよッ!お前と俺とが違うってなら、俺の意思に口出しするんじゃねぇッ!」

「あ…おい御道!待てよ!」

 

俺の言葉を遮り、荒々しく吐き捨て、踵を返して御道は俺の前から去っていく。反射的に俺は止めようとしたが…数歩歩いて、俺は足を止めてしまった。自分でもよくは分からないものの…何故か、追おうとする事が出来なかった。

 

「……どうしたんだよ、御道…」

 

御道が立ち去り、俺だけとなった廊下の十字路。遠くに戦闘音の聞こえる廊下で一人立つ俺は、何とも言えないモヤモヤした感情を胸の中で燻らせながら、ただ立ち尽くすばかりだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。