双極の理創造   作:シモツキ

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第三十一話 色々と怪しき雲行き

「ふぃー、食った食った…」

 

夕食を終えてから数十分後。若干喉が渇いた俺は夕飯時の残りの茶っ葉でお茶を淹れ、冷蔵庫に寄りかかりながらまったり喉を潤していた。

元々食欲旺盛な十代後半真っ最中の俺だが、今日は魔人相手に大立ち回りしたからか普段以上に夕飯を沢山食べてしまった。別にこの後何か運動する訳じゃないし、それ自体は何か問題だったりはしないが…正直ちょっと食べ過ぎてしまった感がある。この「うっぷ……」ってなる感覚、好きじゃないんだよなぁ…吐き気しないだけまだマシではあるが。

 

「…魔人の件に誤魔化しの件と、今日は心身共に優しくない日だったなぁ……」

 

スーパーで割引商品をそこそこ買えたから懐事情的には優しい日だったが……流石にそれじゃプラマイゼロとはならない。特に後者は俺がどうにかしなきゃならない事なんだから、これに悩まずして何に悩むと言うのだろうか。

そんな事を考えながら、ちびちびと茶をすする俺。キッチンにもリビングにも俺以外誰もおらず、テレビも点いていない為に、耳をすまさずとも時計の針の音や時折通る車の音が聞こえてくる程ここは静かで……

 

「あら緋奈ちゃん、もしかして今からお風呂?」

「そうですけど…妃乃さんもそのつもりでした?」

 

我が家のガールズの声がはっきりと聞こえてしまった。会話内容と聞こえ具合からいって、二人は廊下にいるらしい。

 

「そうだけど…まさか三人しかいない家で被っちゃうなんてね」

「ですね……あ、お先どうぞ」

「いいのよ私に遠慮なんてしなくたって。この家じゃ私の方が新参なんだから、緋奈ちゃんが先に入って頂戴」

「でもわたしの方が年下ですし…もしうちのお風呂が大浴場とかなら、一度に入れるんですけどね」

「一般的な家のお風呂が大浴場になってたらびっくりよ…」

 

 

 

 

(……一緒に入らない?…とは言わねぇのかよ…!)

 

気付けば俺は、湯飲みを食卓に置いてリビングの扉に耳を当てていた。……要は、盗み聞きの真っ最中である。

 

「…あ、お風呂と言えば…妃乃さんって髪の毛綺麗ですよね。シャンプーも何か特別な物使ってるんですか?」

「シャンプー?…まぁ、色々試して自分の髪に合う物選んだりはしてるけど、使ってるのは市販の物よ?」

「なのにそんなに綺麗なんですか…いいなぁ…」

「緋奈ちゃんだって綺麗じゃない。少なくとも憧れる側じゃなくて憧れられる側だと思うわよ?」

「そうですか?…ふふっ、この髪はわたしのお母さん譲りなんです」

 

風呂の順番についてから脱線し、話の内容は女子お得意の美容の件に。本人達は楽しんで会話してるみたいだが…俺にとっては何にも面白くないね!何なら期待とは違う方向にいって不満だね!

…と、文句たらたらの俺だが…別に緋奈と時宮が百合百合な関係になってほしい訳じゃない。単に思春期男子にとってぐっとくる、邪ながらある意味健全な…要は妄想出来そうな展開を望んでいるだけなのだ。

俺は時宮に対して好きだとか付き合いたいだとかは思っていないが、異性としての魅力は感じているし、ぶっちゃけ顔もスタイルも申し分ない。そして緋奈だが…俺自身が今の日々を二度目の生涯、もう一つの人生…つまりは転生前の自分が本来のものだと考えてしまっているせいか、俺の中には緋奈が…そして両親すらも、義理の存在だと思っている部分がある。だからといって距離感を置いてる訳ではないし、何なら転生前の俺の両親へより今の俺の両親の方への方が家族愛を持っていると言っても過言じゃない(これは転生前の両親については顔すら知らないからという面が大きいが)。とにかく俺は緋奈に対して妹でありながら妹でない様な……言ってしまえば義妹の様に思っている部分があって、そのせいでこんなふしだらな事を考えいるのである。……言い訳ではない、これは断じて言い訳ではない!

 

(……って、何考えてんだ俺は…こんなの緋奈にも時宮にも失礼だっつの、そもそもこれ盗み聞きだし…)

 

謎の情熱に駆られていた俺だが、その事に気付いた瞬間一気に冷めていく。

同年代の女性二人と三人で暮らしている俺は、ご覧の通り時折欲望に正直な男子高校生的思考に陥る訳だが、二人に軽蔑される様な事になっていないのは偏にこの急にくるクールシンキングのおかげと言って間違いない。それが身体は十代後半でも中身はいい年した大人(に相当する年齢)だからか、それとも良心や理性といった御道辺りが豊富に持ち合わせてそうな要素を俺もそこそこは有しているっぽいからかは分からないが……これは大事にしなきゃいけないと強く思う。大切な妹である緋奈と、恩人である時宮を傷付けない為に…な。さて、こんな所で扉に耳当ててないで茶の残りを飲もう──

 

「ま、とにかく緋奈ちゃんが先に入って。私はお風呂出てからやろうと思ってた事先に済ませちゃうから、その間に…って事で」

「そ、そうですか?…そこまで言うなら、お先にお風呂頂きますね」

「えぇ、お風呂出たら教えてね。私はリビングで用事済ませるから」

(うぉぉぉぉぉぉっ!?来んの!?時宮来んの!?)

 

ぐっ、と床を蹴り、立ち幅跳びの様に跳びながら俺は湯飲みを掴みつつ食卓の椅子へと飛び込む。その動きは正に脱兎の如く、時宮が緋奈と別れリビングの扉を開けるまでの僅か数秒間の内に俺は食卓の椅子の上へと移動する事に成功し、さも最初からそこで茶を飲んでた風の状態を作り出したのだった。……椅子に飛び込んだ瞬間ガタガタガタン!…と大きな音を立てしまったり、湯飲みに残っていた茶がちょっと手に溢れたりはしたが。

 

「……なんか今、そこそこ大きい音が聞こえたんだけど…」

「あ、あー…ちょっと椅子の後ろ足だけでバランスを取る遊びをしててな。それで倒れかけてなった音だ、うん」

「あ、そ…阿呆な遊びするのは勝手だけど、それで怪我したって私は診てあげないわよ?」

「き、気を付けるわ…」

 

冷や汗だらだらでそれっぽい嘘を吐く俺。多分冷や汗は時宮に気付かれてただろうが…時宮はそれを倒れかけて焦ったからだと思ってくれたのか、特に追求を受ける事はなかった。……あ、危なかった…。

 

「ほんと何やってるんだか…けどここに居てくれたのは好都合ね。少し時間いいかしら?」

「俺に何か用事なのか?」

「そうよ。今日の事は勿論協会に報告するんだけど、その前にちょっと貴方の意見を聞きたいのよ」

 

湯飲みに残った茶を一気に飲み干し、手に溢れた茶をティッシュで拭いているところでそう言われ、俺は表情を引き締める。風呂出てからやろうと思ってた事って、それだったのか…。……それにしても…

 

「…時宮って何気によく俺に相談するよな。他に相談する相手いないのか?」

「いない訳ないでしょ、悠弥に相談するのは貴方が同じ家に住んでる霊装者だからってだけよ」

「本当か?」

「本当よ。後はまぁ貴方が経験豊富で、真面目になってくれさえすれば有意義な話が出来るってのもあるけど…」

「大概俺はふざけるか茶化すかをするんだけどな」

「分かってるなら止めなさいっての…」

「へいへい。…で、具体的にはどういう話だ」

 

この会話の時点で俺に分かってても止める気はないと分からないかね?…なんて茶化してやる案も思い付いたが、緋奈が予想外に早く出てきてしまった場合きちんと話が出来なくなると思い、それは却下。俺自身今回の戦闘について人と話してまとめておきたいという気持ちもあって、早々に真面目モードへ移行する。

 

「ざっくり言っちゃうと、私は二つあの魔人に関して気になる点があるのよ。悠弥は何か気になる部分なかった?」

「そうだな……俺も取り上げるとすれば、気になる点は…威力偵察云々って言ってた事だな」

「やっぱり貴方もそこ気になったのね」

「つー事は、時宮の言う二つの内一つはこれなのか」

 

威力偵察。辞書的な意味は…実際に辞書なりなんなりで調べてもらうとして、噛み砕いて言えば戦闘を仕掛ける事で相手の迎撃から敵戦力を測るというアクティブな偵察方法。所謂隠密行動の偵察と比べ実際に戦う事で相手がどれだけ戦えるのか、自軍はどの程度まで通用するのかが体感として分かるのが利点だが……利点欠点以前にどうにも魔人の威力偵察は腑に落ちない。だってよ……

 

「…威力偵察って、リーダー格がするもんじゃねぇよな?」

「同感よ。あの魔人は間違いなくちゃんとした知性がある奴だし、威力偵察の意味を理解してない様子はなかったもの」

 

ただの戦闘ではなく威力『偵察』なんだから、その目的は敵戦力の調査に決まっている。威力偵察なんてものは敵戦力が未知数の状態の場合に行うのであり、何らかの制限や事情がない限りはその威力偵察に重要な人員(魔物はともかく一応魔『人』だしな)を投入するなど下策にも程があって、まともな指揮が出来るのならそんな選択する訳がない。無論、敵戦力が未知数だからこそ実力のある者に任せるという事であれば一理あるが、それでも魔物を率いる立場の魔人がわざわざ出向くというのは理解出来る事じゃない。……けど、現実としてあの魔人は威力偵察に来たんだよな…。

 

「……あいつは一匹狼なのか…?」

「単独の奴が威力偵察なんて言葉使う?…いやまあ奴は日本語の扱いが完璧って訳じゃなかったし、わざと気取って威力偵察って言ったとかの可能性もゼロではないけど…」

「そういう可能性を言い出したらキリがないな。となると…ふむ、あいつが実は超仲間思いで出来る限り危険な事は自分が請け負ってるとか…は無いな」

「無いでしょうね。だったらもっと目撃されててもおかしくない筈よ」

 

世の中どんな事象にも理由は存在しているが、事象が分かったからといって理由も分かるとは限らない。そして、当然の行動をしている相手ならその理由も簡単に予想出来るが、不可解な行動をしている相手の理由なんて得てしてそう簡単には予想出来ないというのも世の常で、それはちょっと頭を捻るだけじゃ思い付く訳がない。…てか最近、考えてもよく分からん事多い気がする…。

 

「…まぁ、理由については後回しにしようぜ。時宮の言うもう一つの点はなんなんだ?」

「悠弥はもう一つ思い付かない?」

「そうさな…魔人が作中最初に出てくるボス級らしからぬ性格をしていた事とかか?」

「そんなメタい事気にしてる訳ないでしょ。仮に思ってもそんなの貴方に相談しようとは思わないわよ」

「だよなぁ…思い付かないからふざけたんだ。勿体ぶらずに聞かせてくれ」

「そ、なら……私が気になったもう一つの点は、奴の能力よ」

「能力?…複数の能力を持ってるっぽい事か?」

「それもだけど…私は最初、あんな能力だとは思ってなかったの」

「うん?そりゃどういう……」

 

時宮は一体どういう事を言いたいのか。それが一瞬分からず訊き返しそうになった俺だが…すぐに思い出す。

そもそも何故、協会は魔人の探索を始めたのか。何があって魔人の存在を思い当たったのか。俺達が立てた推測とはどういうものだったのか。……そう。考えていた通りなら、これまでの状況から推理するならば、魔人の能力は…

 

「…魔人の能力は蘇生なり治癒なりの系統の筈じゃなかったのか?」

「その筈よ。その筈だし、私もそう思ってたわ。…けど、実際には違った。それが私は不可解でならないのよ」

「……魔人の能力に対する俺達の推測が間違っていた…って考えは色々辻褄が合わなくなるか。とすると…魔人は身体を伸ばす能力と瞬間移動能力、それに治癒らしき能力の三つも持ち合わせてるって事になるのか…?」

「まさか…と、言いたいところだけど、魔人に関しては殆ど戦闘での情報しかないからその可能性も否定出来ないわね」

「その口振りだと内心では否定してやがるな…」

「なら、貴方は三つも能力持ってると思ってるの?」

「うん、まぁ…そう言われると返す言葉がないんだが……」

 

どんな事柄でも決め付けは間違いの発端となる訳だが…威力偵察の件同様、断言出来ないからといって何でもかんでも同じ優先度で考えていたら本当にキリがない。比較的でもあり得そうな事を中心に、あり得そうにない事は頭の隅に残しておく程度にしておくのが上手く推理を進める鉄則…だと思う…で、それを踏まえて俺は自分の意見を頭の隅に押しやったが……ふと時宮の顔を見ると、時宮はそこまで悩んでいなさそうな表情をしていた。

…………。

 

「……何?時宮は俺を試してんの?」

「え?い、いやそんなつもりはないけど…」

「ならその表情は何なんだよ。さっきから相談というよりクイズ形式になってるし、能力についても時宮は何か思い付いてるんじゃないのか?」

「……もしかして、気分悪くさせちゃった…?」

「ちょっとな。ま、それ相応の理由があるなら別にいいんだが」

「…悪かったわ。実のところ、私は相談っていうより私の考えがおかしくないか、貴方に確認してほしかったの。だからちょっと意図せずクイズ形式にしちゃったのかもしれないし…それで貴方の気分を害してたなら、謝るわ」

「……そんな真面目に謝られると、こっちもなんか申し訳なくなるんだが…」

「な、なら話の最中じゃなくて話の終わりにサラッと言う位にしてよ…」

 

…なんだかちょっと気まずい雰囲気になってしまった。うむむ、こういう時気の利いた事の一つでも言えればいいんだが…思いつかん。けどこの雰囲気のまま再開するのも気が重いし……仕方ない。

 

「あー…時宮、先に謝っておくな」

「はい……?」

「うーん…ま、これでいいか。…よっと」

 

予め謝った俺は食卓に置いてあったチラシをくしゃくしゃと丸め、軽くシュート。飛んでいったチラシ玉は俺の狙い通り時宮の頭にヒットする。

 

「…何すんのよ」

「いや、突然こういう事すれば時宮気分を害するかな〜、と」

「は?…まさか、私が気分害させた事への仕返しのつもり?」

「ぶっちゃけちゃうと、そうなるな。ほら、これでお互い様だろ?」

「…あぁ、そういう事ね…正直これだと気分害するってより、貴方の意味不明な行動に呆れる気持ちの方が強いわよ?」

「そ、そうなの?」

「これで害する程心狭くないから…でもそういう貴方らしくない配慮、嫌いじゃないわ」

「ちょっと上から目線な上に俺らしくないと言うか……まぁいいや。で、何か思いついてるのか?」

 

多少disられる形になったが…そんなの慣れっこだし、雰囲気を元に戻せたのだから問題なし。それよりこの話は緋奈が出てくるまでに済ませるに越した事はないんだから、と考え本筋に戻す。

 

「あ、そうね…こほん。悠弥の予想通り、私は威力偵察の件と能力の件、その両方に説明がつく仮説を思い付いているわ」

「じゃ、聞かせてもらおうか」

「えぇ。ある意味考えとしては単純明快よ。……もしかしたら、魔人は複数いるんじゃないかしら」

「ふ、複数?…それは……」

 

俺の言葉を受け、時宮が言ったのは突拍子もない……とは言い切れない事だって。時宮は続ける。

 

「本来魔人は滅多に現れないもので、同じ時同じ地域に複数の魔人が……なんてまあまずあり得る事じゃないわ。けど、世界単位で見れば前例が無い訳じゃないし、今さっき言った通り複数魔人がいるとすれば二つの事にも一応納得がいくでしょ?」

「…そうだな、確かに説明の上での不足は無いと思う」

 

もし魔人が複数体いるのなら…未だ姿を見せていない魔人が今日の奴と同格、或いはより高位なのであれば奴が威力偵察に来たのも分かるし、瞬間移動の件も別の魔人が隠れていて撤退時に能力を行使した、という事で説明がつく。治癒だってあいつが複数能力を持っている、よりは別の魔人の能力だって考える方が納得はいく。あぁ、仮説としては全く問題ないだろう。…ないだろうが……。

 

「……そうすると…魔人が三体いる、って事になるのか…?」

「私の仮説通りなら、ね…」

「えぇー……」

 

一体でも並みの霊装者では敵わず、かなりの人数を用意するかエースに任せるかしなきゃならない魔人が同じ地域に三体もいて、しかも組織として動いているなんて、考えるだけで頭が痛くなってくる。通販番組で偶に『今お買い上げなら、なんと同じ商品をもう一つ!』ってのがあったりするが、ここまで嬉しくないもう一つ(正確には二つ)なんて世の中にはそうそうないんじゃないだろうか。…てか、一介の霊装者である俺ですら頭が痛くなるんだから、時宮や宗元さん達時宮家、それに別派閥の宮空家の方々は頭だけでなく胃も痛くなってくるんじゃ…。

 

「…胃薬、買っておくか?」

「気遣いありがと…でも要らないわ、面倒事の度に胃薬飲んでたら指導者なんて務まらないもの」

「しっかりしてんなぁ…で、えーっと…時宮は俺に確認してほしかったんだっけ?」

「そうだけど…なんか貴方が言うと『ったく、しょうがねぇなぁ…ほら、聞いてやるから話してみな』感があるわね…」

「……時宮、お前はサイコメトラーだったのか?」

「そう思ってたの!?」

「まぁカッカすんなって。思ってたのなんて精々七割位だし」

「な、何だその位なら…って過半数超えてるじゃない!ほんっと性格悪いわね!」

 

そういうお前はスルースキルが足りないな、と言おうと思ったが…それを言うと手を出してきそう&もしこれを機にスルースキルを身につけてしまったらつまんないという事で飲み込む俺。…というかそもそもの話として、煽る方じゃなく煽られた方が悪いところ直せって言われるのもおかしな話か。

 

「あー、すまんすまん。反省するから話を続けてくれ」

「貴方の反省するって言葉はあんまり信用出来ないんだけど…まぁいいわ。……それで、何か思ったところある?」

「んー…いや、憶測の域を出ないって事と本当なら相当厄介だって事以外は特に思い付かんな」

「って事は、大きな見落としがあったりはしないのね?」

「しないと思うぞ」

「ならよかったわ。後で一応文章にまとめておこうかしらね」

「んじゃ、俺は部屋に引っ込むとしますかね…」

 

恐らく時宮は仮説だけでなく今日起こった事全てを宗元さんに伝え、時宮の考えたものより優秀な仮説が出ない限りは複数いる前提で捜索が続けられるのだろう。まぁ仮説や捜索がどうなるにしろ、俺にはさほど関係無い話……とは言えないだろうなぁ。

そんな事を考えながら立ち上がった俺。自分で言った通り、俺が自室に行こうとすると…時宮に止められた。

 

「…一つ、聞かせてくれない?」

「何だ?」

「もし、私の仮説通りなら魔人討伐はかなりの規模の作戦になるだろうし、そうなれば悠弥にも討伐命令…とは言わずとも、協会からの要請で動かなきゃいけなくなる可能性は十分にあるわ。…悠弥は、それで大丈夫?」

「大丈夫…って、言うと?」

「嫌じゃないか、って事よ。貴方にとっては緋奈ちゃんと今の生活が最優先事項なんでしょ?」

「あぁ…それなら問題ねぇよ、ちゃんと要請があれば動くよ」

 

何かと思えばそんな事か、と心の中で言いつつ俺は返す。流石にそういう事になったりしても不満を持ったり従わなかったりする俺じゃない。

 

「そら、俺でなくとも何とかなる事なら極力呼ばないでほしいが…俺は我が儘で宗元さんに譲歩してもらった身だし、譲歩してもらった際にそういう時は要請に従うって言ったんだからな。俺は不真面目な人間だが、権利や利益だけ享受して責任や責務を望んでないからと放棄する程落ちぶれちゃいないさ」

「だったら心配なさそうね。万が一の時は霊装者として頼むわよ?」

「はいよ、時宮も責任ある立場なんだからってオーバーワークしたりすんなよ?」

「ま、程々に気を付けておくわ」

 

程々かよ…とは思ったが、俺よりずっと責任ある立場とはなんたるかを知っている時宮の事だから、多分色々な考えがあっての『程々』なんだろう。少なくとも、俺がこんな平時にちょろっと言ったところで何か変わる訳じゃないだろうし、それよか何か不味そうなら出来る範囲での事をしてやる方が時宮の為になると考え、俺はそれだけで済ます。これから一体どうなっていくか…それは協会と魔人側の動向次第だろうな。あんまりヤバい自体にならなきゃ良いが……。

 

 

 

 

「……って、これはフラグになるか…」

「フラグ?……何が?」


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