双極の理創造   作:シモツキ

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第二十九話 襲来せし魔人

「なぁ時宮、一つ訊いていいか?」

「何よ?」

「…お前、庶民的過ぎない?」

 

ある日の夕方、学校からの帰り道。ついで、という事で下校の途中でスーパーに寄り、買い物をしてきた俺と時宮。スーパーから出て数分程したところで、俺は買い物中ずっと思っていた事を口にした。

 

「庶民的って…何よ藪から棒に」

「言葉通りの意味だよ。まぁ過ぎるかどうかはともかく、庶民的ではあるだろ?」

「そうかしら…私は普通だと思ってるけど…」

「じゃあ訊くが、この挽肉を選んだ理由はなんだよ?」

「え、値引きされてたからだけど?」

「この牛乳を選んだ理由は?」

「今日牛乳が安いからよ?」

「わざわざ俺に『空いてる袋かバックかない?』って訊いたのは?」

「エコポイントが貰えるから「やっぱ庶民的過ぎるじゃねぇかッ!」えぇっ!?」

 

自分から訊いた俺だが……最後まで聞いていられなかった。だってあんた、時宮はデカい組織のお嬢様だぞ!?何不自由ない生活どころか、さぞ贅沢な暮らしをしていたであろうお方だぞ!?そんな奴が値引きシールを気にして、安くなる日を覚えてて、エコポイントもきっちり確保しておこうとするか普通!?…いやそういう人達の普通は知らないが…イメージ的におかしいだろ!?

 

「……まさか時宮、お前時宮家の中じゃシンデレラみたいな扱いされてたのか…?」

「は?…よく分からないけど、その憐れむ様な目は止めて頂戴…そんな憐れに思われる様な扱いはされてないから…」

「じゃあ時宮の庶民派思考はどこから来るんだよ…なんか抱えてるものでもあるのか?同じ家で住んでる間柄なんだ、悩みがあるなら聞くぞ?」

「だからなんで私を心配してるのよ!?それ遠回しに時宮家悪く言ってる様なものだからね!?」

 

俺の気遣いに結構強めの反論を返してくる時宮。その様子から察するに、俺に迷惑をかけまいと隠している…とかじゃないらしい。…うーむ、だったら一体なんなんだ…?

 

「…ねぇ、私ってそんな庶民的っぽく見える?」

「見えるから言ってるんだ」

「そう…さっき言った通り私にその自覚はないけど、そうなんだとしたらそれは多分、暫く一人暮らしをしていたからでしょうね」

「…一人暮らしの間、あんまり家や協会から金銭的支援をしてもらえなかったとか?」

「まさか。支援してもらえなかったどころかお金には十分な余裕があったわ」

「じゃ、なんでだよ?金に余裕があるのに節約を意識するなんておかしくないか?」

「そうかしら?なら逆に訊くけど、普段より安くなってる物を買ったりマイバッグでポイント貰ったりするのは悠弥にとって大変な事なの?」

 

どうも納得出来ずに問い詰めていったところ、俺は逆質問を受けた。質問に質問で返すな…なんて言ったってしょうがないし、時宮なりの考えを話してくれそうな雰囲気だった為俺は取り敢えずそれに答える。

 

「そりゃ……別段大変な事ではないな」

「でしょ?別に大変でもなければ手間がかかる訳でもない事をするのってそんな変かしら。毎回何軒もスーパー回ってどこが安いか確かめたり、ポイント効率が最もいい時以外は頑なに買い物へ行かないとかなら確かにケチ臭いかもしれないけど、なんの苦もない事で利益を得られるならそっちの方が合理的だと私は思うわ。戦場でも日常でも、無駄は減らすのは当たり前の話だし」

「…そんなもんかねぇ」

「そんなものでしょ」

 

時宮の言う事は至極全うで、その意見に関しては完全に同意ではあるが……やっぱりそれを金銭的に余裕があって、多少の無駄は無視出来る様な人が言うと違和感があるんだよなぁ。けど考えてみりゃ金持ちは案外倹約家だとか言うし、そういう無駄を金があるからっておざなりにしない、金に糸目をつけ『る』からこそ金持ちなのかもしれないな。

 

「……ま、散財してるならともかくその逆なら問題はないし、そういう考えなんだって納得するか」

「えぇそうしなさい。……それより、意外ってなら貴方の方こそそうよ」

「……?俺がか?」

 

結論の出た話題を引き伸ばしてもしょうがないと思い、話を締めようとしたら俺は思ってもみない言葉を返された。

 

「だって、心配されるなんて思ってなかったもの」

「…心配?」

「悩みがあるなら聞く、なんて心配したからこその言葉でしょ?」

「…まあ、そりゃそうだが……そんな意外な事か?」

「意外だったから意外って言ったのよ」

「ですよねぇ…」

 

我ながら訊くまでもない事言っちまったなぁ…と思い、頬をかく俺。…てか、時宮は俺の事を『他人の事を全然気にかけない奴』とでも思ってるのか?……だとしたら流石にちょっと癪だな。

 

「…さっきも言ったろ、同じ家に住んでる間柄だって。確かに俺は無関係な相手でも率先して助けようとする出来た良心は持ち合わせてねぇし、面倒事は極力避けたいと思ってるよ。けど無関係でもない相手も放っておこうとする程血も涙も無い人間じゃないっての」

「そう…いや、確かに悠弥はそこまで非情な奴じゃなかったわね。ちょっと私、貴方への認識を間違えてたわ」

「お分かり頂けた様で何よりだ。……それにこの際だから言うが、俺はそこそこ時宮に感謝してんだからな?」

「え……感謝?私に?」

 

目を瞬かせ、驚きを隠さずに表した時宮。今さっきの事と違い、感謝については驚くだろうと思っていた俺はそのまま続ける。

 

「時宮には色々と気にかけてもらったし、魔物との二度目の邂逅の時は時宮が護身用にナイフを渡してくれいたおかげで俺も緋奈も難を逃れた訳だからな。それに、宗元さんに頼み込んだ時には俺の意思を応援してくれただろ?そんな相手に感謝しないなんて、人として間違ってるよ」

「……な、何なのよ急に…別に私は恩を着せたくてしたんじゃなくて、そうするべきだと思ったからしただけよ…応援したのだって、貴方の覚悟や決意が人として尊敬出来るから、素直に応援したいって思ったからだし…」

「だとしても…いや、なら尚更感謝しなきゃだな。……ほんとに、ありがとな時宮」

「……っ…らしくない事するんじゃないわよ…照れるじゃない…」

 

足を止め、隣を歩いていた時宮の目を見据え、俺ははっきりと感謝の言葉を口にした。こんなの時宮の言う通り俺らしくねぇし、恥ずいに決まってる。けど…だからこそ今言うべきだと思った。無愛想で面倒な事をなあなあで済ませようとする俺だからこそ、丁度いい機会に巡り会った時位真剣になった方がいいに決まってる。…じゃないと、ほんとに言わないままでいてしまいそうだもんな…。

そんな思いで口にした、ありがとうの言葉。それを聞いた時宮は……滅多に見せない表情を、もしかしたら始めてみるかもしれない『照れた』顔をしていた。ほんの少し頬を赤くして、気恥ずかしそうに目を逸らして、気を紛らわせたいのかツインテの先を指でくるくるやっている時宮は……

 

「……可愛い顔、するんだな時宮も…」

「……ッ!か、可愛いって…何ぬかしてるのよこの変態ッ!」

「へ、変態!?今のは別に他意も何にもない感想なんですが!?今のご時世可愛いって言うだけで変態になるの!?」

「うっさい!悠弥みたいに普段浮わついた事言わない奴が、こんな雰囲気の時にそういう事言うんじゃないわよ!馬っ鹿じゃないの!?」

「いやそれは理不尽過ぎるだろ!?確かに異性に対して軽々しく言うべきじゃないだろうが、それにしたってこんな糾弾しなくても────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──おやおや、随分と仲睦まじい事で」

 

つい、可愛いなんて言ってしまったばっかりに怒り出す(流石に可愛いという評価が不服だった訳ではないだろう)時宮と、その理不尽な物言いに反論を飛ばす俺。俺が悪辣な冗談を振った時の様な…でもなんとなくそれとは違う言い争いを俺と時宮が繰り広げる中……()()は現れた。

 

 

 

 

長い間戦いから離れていたとはいえ俺には戦場で培ったものが確かに残っており、錆び付いていた感覚もある程度ではあるものの戻ってきていた。少なくとも、一般人や碌に戦い慣れてない霊装者、軍人なんかよりは危険な存在の接近に気付けると自負している。

名実共に天才で、同世代の中じゃトップクラスに戦闘経験もある筈の時宮は間違いなくプロの霊装者であり、時宮に気付かれず接近出来る魔物なんてそうそういる訳がない。

……だが、その俺でも時宮でも奴の接近には気付く事が出来なかった。その時点で、奴がただの人間でもなければ普通の魔物でもない存在……魔人である事は、ほぼ間違いない。

 

「…まさか、そっちから出向いてきてくれるなんてね」

「では、やはり貴女方霊装者は探りを入れていたのですね。無駄足にならず一安心です」

 

俺達へと声をかけたのは、くすんだ青髪の若い紳士か執事……を彷彿とさせる魔物。饒舌な日本語とぱっと見人間にしか見えない外見(服は能力で擬態してるか、どっかからくすねたのか……流石に買ったって事はねぇだろうな)を有している事からも、奴が魔人であると考えられる。…まさか、このタイミングで会敵するとはな…。

 

「無駄足って事は、あんたは私達の動きを確認しにきたって事なのかしら?」

「いいえ、ワタシは霊装者の実力を測りにきたのです。威力偵察、と言えばお分かりですか?」

「いやなんでお分かりですか?の側に分かり辛い方持ってくるのよ…」

「これは失礼。ワタシもまだまだ勉強不足ですね」

「なんかえらい話の通じそうな奴だな…まさかこいつ、魔人っぽい他国の霊装者とかだったりしねぇだろうな?」

「魔人でしょこいつは。現状表立って協会が探りを入れてるのなんて魔人に対してだけだもの」

 

と、言葉を交わす俺と時宮だが、視線は魔人から一切離さない。魔物だって油断すれば一撃喰らう可能性もあるんだから、その大概の魔物とは一線を画す魔人を相手に油断出来る筈がない。この魔人は慢心してる様子もねぇし、最新の注意を払わねぇと…。

 

「……悠弥、貴方武器は何かある?」

「…悪ぃ、今は短剣しか持ってない」

「気にする事はないわ、私も天之瓊矛だけしかないもの。むしろお互い一つでも武器を携帯してただけでも僥倖ってものよ」

「だな。後は奴がどういう能力を持ってるかだが…それは戦う中で見極めるしかねぇか…」

 

魔物を大きく変える身体能力、人間と遜色無い知能、個体ごとに違う固有能力。それはどれも軽んじる訳にはいかない、魔人を魔人たらしめている三大要素な訳だが、安定して厄介となるのはやはり固有能力だと俺は思う。一体一体まるで違う事もあれば似通っている事もある固有能力は、それ故に初見で看破する事が難しく、看破したとしても対応出来るとは限らないのだから霊装者としては恐ろしくて仕方がない。……というか、固有能力を持つ霊装者は一握りなのに魔人は全て固有能力を持ってるとかズルくないか?…まぁ、魔物含めりゃ魔人自体が一握りな訳だし、そもそも魔物だの魔人だのってのも人間側が勝手に呼んでるだけなんだけどな。

 

「…ふん、どこからでもかかってきなさいよ」

「ならば早速…と、言いたいところですが、まずは場所を変えましょうか」

「場所?…地の利を生かせる場所で戦いたいってか?」

「実力をきちんと測れる場所で戦いたいのですよ。この様な場所では、一般人を気にして全力を出せないでしょう?」

『…………』

 

肩を竦め、首を横に振りながらそんな事を言う魔人。そんな魔人の反応に、俺と時宮はほんの一瞬視線を混じらせる。

住宅街から離れられるなら、それは俺達にとってありがたい事。だが、それを魔人から提案されれば「あ、そりゃどうも」なんて感覚で受け入れられる訳がない。

 

「…俺等がそう簡単に魔人の言葉を信じると思うか?それが俺達の油断を誘う甘言じゃねぇって保証はあるのかよ?」

「残念ながら、保証は出来かねます。…が、ワタシはきちんと実力を測る為、お二人は人々の安全を確保する為と互いに利益がある行動ではあると思いますよ?」

「俺が場所を移動すると見せかけて武器を調達したり応援を呼んだりするかもしれないぜ?」

「そうなれば、ワタシはそこらの民家を破壊するだけです。ワタシは然程破壊力に長けている訳ではありませんが、民家の一つや二つ破壊するのは造作もありませんから」

 

まるでアリの巣を潰す子供の様な面持ちで、何の悪びれもなくそんな事を言ってのけた魔人を見て、俺と時宮は再び視線を混じらせた。そして…場所を移す事を決定した。

人と同じ見た目をしていても、人の言語を話していても、きちんと意思疎通が出来る相手だとしても……奴は魔人だ。人とは全く違う種の生命体だ。…そこを、忘れちゃいけない。

 

「……いいわ、場所を移しましょ。移動先は決めてあるの?」

「えぇ、伏兵の危険のない場所を予め調べておきました。さぁ、どうぞ着いてきて下さい」

 

くるり、と背を向け魔人は歩き出す。敵である俺達に躊躇わず背を向けるのは、自信の表れか、迂闊さの結果か、それとも俺達の攻撃を誘う罠か。

 

「……時宮、背後から刺す気は?」

「無いわ。魔人が相手じゃ一撃で仕留められるか怪しいし、仮に致命傷を与えられても悪足掻きで一般人を殺そうとするかもしれないもの」

「ま、そうだよな…」

 

時宮でも即死させられるか分からないなら、時宮より霊装者として劣っている俺はもっと即死させられる可能性は低いし、それ以前にカウンターを喰らいかねない。フル装備ならともかく、今仕掛けるのは愚の骨頂というものだろう。

いつでも抜刀出来るように神経を張り詰めつつ、魔人の後を追って歩く事数十分。魔人が足を止めたのは、近くの山の中腹…いい具合に開けた場所だった。

 

「ここならば、一般人の心配も必要ないでしょう。最も、タイミングの悪い方が山登りでもしているかもしれませんが」

「それについてはしていない事を祈るしかないな。…さて、お前にとっちゃお待ちかねの時間なんだろうな」

「…言うまでもないと思うけど、油断するんじゃないわよ」

「ご安心を。先程言った通り、ワタシの目的はあくまで威力偵察であって貴方方を殺すつもりはありませんから。…とは言っても、あまりに弱過ぎた場合はうっかり殺してしまうかもしれませんがね」

「…だとよ。こういうの慇懃無礼って言うんだっけ?」

「そうね。……ぶっ倒すわよ、悠弥」

 

イラついた様な言葉を合図に俺は短刀を、時宮は大槍を抜き放つ。魔人は俺達が抜刀した瞬間に薄く笑みを浮かべ、さぁどうぞと言わんばかりに突っ立っている。

構えた俺達と、棒立ちの魔人。その状態で一秒、二秒、三秒と時が過ぎ……時宮が動いた。

 

「先手、必勝ッ!」

 

乾いた破裂音と共に、地を蹴り霊力の翼をはためかせた時宮は一瞬で魔人の眼前へと肉薄。下段から突き出された大槍は真っ直ぐに魔人の胸元へと駆け…袖を斬り裂いた。

 

「っと…やられたのは服だけとはいえ、初撃から受けてしまうとは…油断していたのなら、ワタシは死んでいましたね」

「そう言う割には、随分と余裕があるじゃない…!」

「まさか。元々この様な性格というだけで、余裕があるのは口調だけです」

 

初撃を避けられたと見るや否や、避けた魔人を薙ぎ払いで追撃する時宮。それもまた魔人は避け、そこからの連撃はオーラの様にも靄の様にも見えるエネルギー(恐らくは人間でいう霊力の様なもの)を纏った腕で捌いていく。

位置を変え場所を変え、手を替え品を替えて仕掛け続ける時宮の攻撃を捌き続ける魔物だったが、数十回目の衝突で遂にたまらないとばかりに後ろへ跳んだ。それを、俺は見逃さない。

 

「体勢なんか…立て直させるかよッ!」

「まぁ、だとは思いましたよ」

「うわ、実際言われるとこの余裕かなり腹立つな…時宮!」

「えぇ!」

 

魔人が跳んだ瞬間に、俺もまた地を蹴った。跳ぶ瞬間は当然後を追う形の俺の方が遅く、元々十数m離れていたが…俺はその分万全の状態で跳んでいる。だからこそ、俺は着地の瞬間に魔人へと斬撃を放つ事が出来た。

連撃に堪え兼ね跳んだ魔人だが、余力ゼロという訳では無かったらしく、俺の攻撃は受け止められてしまった。…が、何も問題はない。端から俺の攻撃は、体勢を整えるのを阻止出来れば十分なのだから。

 

「貴方は合間を縫う事に徹するおつもりですか…厄介ですね」

「スペックだけが力じゃねぇからな。半端者には半端者の立ち回りってもんがあるんだよ」

 

俺が止めた一瞬の間に再び距離を詰め、時宮が背後から斬り込む。それも魔人は受け止め、右手で時宮の大槍を、左手で俺の短刀を相手する形となったが、元は一対一でも互角前後の時宮に、今は俺も加勢した状態。ならばどちらが優勢なのかなんて、言うまでもなく……

 

「…やり、ますね……!」

 

身体を捻り、俺達の攻撃を逸らしながら再び距離を取ろうとする魔人。俺も時宮も追撃しようと思えば出来たが……それまでずっと穏やかだった魔人の目が、他者を睨む時のそれとなっていた事に気付いて断念した。…ありゃ、向こうもこっちを脅威認定した様子だな…。

 

「私の攻撃をここまで捌くなんて、あんたは魔人の中でも結構やる方みたいね。…けど、このまま能力を使わず戦うのは無理があるんじゃないかしら?」

「その様ですね。出来るならば手の内を明かさずにおきたかったのですが、出し惜しみしていては退治され兼ねませんし…本気を出すとしましょうか」

「らしいわよ。私はともかく貴方は油断しないで、しっかりと奴の能力を見極めなさ──」

 

い。恐らく時宮は『なさ』の後に五十音順における二つ目の言葉を言おうとしたのだろう。だが、俺はそれを聞く事が出来なかった。だって、俺は吹っ飛ばされていたのだから。

 

「ぐっ…ぅ……ッ!」

 

意識の上では理解出来ておらずとも、無意識の部分で反射的に防御体勢を取った俺は直撃こそ防ぐ事が出来たが衝撃はもろに受けてしまい、おまけに吹っ飛んだ先にはそこそこな太さの木の姿。一瞬俺は、息が詰まってしまっていた。

 

「ちょっ…ゆ、悠弥大丈夫!?」

「……っ…あ、あぁ…それより、今…奴が何をしたか、見えたか…?」

「そ、そりゃ……伸びてたわね…」

「やっぱりか…」

 

木の幹に手を当て、立ち上がる。時宮は俺に声をかけつつも魔人へと刃を向け、隙のない構えで牽制をしていてくれた。

伸びてた、と時宮は言った。言うまでもなく主語の抜けた言葉だが、俺にはしっかり伝わっている。何故なら俺も、吹っ飛びながら同じ意図の事を思ってたのだから。こいつ、今腕が伸びやがったな…と。

 

「……お前はもっとスマートかスタイリッシュな能力だと思ってたんだがな…」

「ご期待に添えずすいません。しかしワタシ自身は気に入っているのですよ、この力を」

 

俺が構え直す中、魔人はまた余裕のある様子に戻り、軽く腕を振っている。俺が構え直す最中の魔人は……不敵な笑みを浮かべていた。


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