双極の理創造   作:シモツキ

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第二十八話 意外な事、微妙な事

「高次、突っ込むぞ!唯は中距離、顕人は長距離からの火力支援を頼んだ!」

『了解!』

 

ゴリラとイタチを合わせた様な、ゴツいんだか可愛いんだかなんともよく分からない魔物を前に指示を飛ばす上嶋さん。上嶋さんと高次さんこと赤松高次さんが左右から突撃を仕掛け、魔物の退路を塞ぐ様に俺と唯ちゃんさんこと杉野唯さんが射撃を撃ち込む。

剣を構えて接近する二人に、退路を断たれた魔物は両腕の爪を露わにして待ち構える姿勢。それを見た前衛二人は……両脚を地面に突き立てる様にして急ブレーキをかけ、それと同時に抜き放ったライフルでもって十字砲火を敢行した。

 

「うっし!顕人、お前の得意らしい大盤振る舞いを見せてやれ!」

「お、俺ですか!?…分かりましたッ!」

 

部隊員の二人は上嶋さんの意図を理解していた様だけど、共に戦うのが初の俺は近接格闘ではなく射撃をかけるとは思っておらずに若干驚いていた。そんな中で飛んだ、俺への指示。一瞬俺は何も考えずに訊き返してしまったが…昔から人前に立つ役目をよくやっていたおかげか、俺にはそこそこアドリブ力というものが備わっており、振りに動揺はしつつも動く事が出来た。

園咲さんに用意してもらって以降メイン火器の一つとして使い続けており、今回も火力支援に使っていた二門の砲は展開状態にしたまま飛び立つ俺。魔物へと接近をかけながらも拳銃を抜き、元々左手で持っていたライフルと合わせて二丁銃スタイルに。そして……

 

「一気に…決めますッ!」

 

連射しても確実に当てられる距離まで近付いた俺は両脚を前に振って身体を起き上がらせ、空気抵抗を使ってブレーキング。その状態で二丁の銃と二門の砲の砲口を魔物へと向け、都合四門からなる一斉射撃を叩き込む。

フルオートにより次々吐き出されるライフル弾。セミオートで一発一発撃ち込まれる銃弾。霊力で編まれ、駆け抜けるが如く砲口から放たれる霊力ビーム。それら全てが一度に魔物へと殺到し……魔物は文字通りの蜂の巣状態となった。

 

「……ふ、ぅ…」

「おーおー、聞いてた通り消耗に躊躇いがねぇなぁ…だが、よくやった顕人」

「あ……はい!」

 

足止めの射撃でダメージを受けていた事もあり、蜂の巣状態の魔物は悪足掻きも無しに消滅。それを見た俺が銃を降ろしつつ息を吐くと…にっと笑みを浮かべた上嶋さんが近くにやってきた。

 

「ふふ、中々見込みのある後輩ね」

「だな。けど、市街地でこれをやったら…」

「あー、そういやそうだな。今回は流れ弾を気にせず戦える場所だったが、もし街中で戦う事になった場合は気を付けろよ?」

「そ、それはそうですね…気を付けます」

 

自分でも結構気に入っている一斉射撃が上手く決まり、内心やったぜ状態だった俺。だが赤松さんと上嶋さんに問題点を指摘されてクールダウン。それと同時に少し前まで魔物がいた場所へと目を移す。

俺は確実に当てられる距離にまで近付いてから撃った。…が、それはあくまで初撃に関しての事で、次弾以降はどうしても多少のブレが生じてしまうし、実際地面をよく見ると弾痕が残っていた。それに…もう少し高所から撃っていたら、霊力ビームも魔物を貫いた後に地面も抉っていたかもしれない。…そこら辺、全く気にしてなかったな…。

 

「何が何でも勝てばオールオッケー、なんて戦いは殆どないからな。戦った後の事も考えるのが現代じゃ重要だぞ。…っつっても、俺もお前も過去の戦いなんざ知らない訳だが」

「ですよね…場所に沿った戦いをする様、今後は意識しておきます」

「おう。……だが、命あっての物種だ。特にお前みたいに経験が浅い奴は、余裕を無くしてまで気を付ける必要なんてねぇから無茶はすんなよ?」

 

落ち着いた、低い声で上嶋さんは俺へと注意を口にし……その後すぐに、軽い調子でフォローもしてくれた。何かを注意、或いは叱咤する際は同時に褒める事もするなり認めるべき部分はきちんと認めるなりするのが必要…ってのが指導の基本で、そんなの俺だって知ってるが…知っていてもやっぱり、フォローをしてくれると気持ち的に楽になる。…とはいえ上嶋さんはあんまそういうのを意識するタイプじゃなさそうだし、きっと意識せずにフォローしてくれたんだろうなぁ。

 

「さて、そんじゃ任務は終了だ。さっさと引き上げるとしようぜ」

「あーい。しっかし、けろっと大盤振る舞いなんてほんと凄いなお前は」

「い、いえ。偶々霊力貯蔵に恵まれていただけですから…」

「偶々でも何でも、能力は能力よ。今回は君のおかげで援護の負担も小さかったし、お姉さん助かったわ」

「え、と…恐縮です…」

 

赤松さんも杉野さんも上嶋さんと同年代位…つまりは俺より一回り大人の人達で、そんな中一人の俺は皆気さくに接してくれていても落ち着かない…というか落ち着けない。

 

(部活やサークルみたいな雰囲気ったって、何歳も年上の人達ばっかりじゃ気楽も何もないよ…)

 

せめて一人でも、年の近い人が居れば…と思う俺だが、思ったところでひょっこり現れたりぬるっと生えてきたりする訳がない。そして後者はあり得たとしても、ビビってしまって結局楽にならないだろう。これぞ、ジェネーションギャップである。…語感的にそれっぽいだけで、実際は違うけど。

 

「よーしそんじゃ、顕人を加えての初任務成功を祝って飲みに行くか!」

「いいじゃない、じゃあお代は建持ちね」

「おいこら…と言いたいところだが、折角の機会って事で今日はその要求も飲んでやろうじゃねぇか!飲みだけにな!」

『…………』

「…うん、すまん。今のは俺も寒いと思った…」

 

──それは、硬くなっていた俺を除いて和気藹々としていた空気が凍り付いてしまった瞬間だった。言葉の力は恐ろしいのである。……まぁ、それはそうとして…

 

「…あのー、上嶋さん…」

「なんだ?『俺は面白いと思ったっすよ?』みたいな慰めはしなくても大丈夫だぞ?…俺が辛くなるからな…」

「い、いやそうではなく…俺、未成年です…」

「ん?…あー、そういう事か。別に飲めって言ってる訳じゃねぇし、俺等の事気にせず普通の飲み物飲んでくれればいいさ。一応俺等もいい年した大人なんだ、お前に迷惑もかけねぇよ」

「隊長は飲んでなくても時々絡みがウザいんだけどな」

「はっはっは。よし高次、お前の分は払わん」

「ちょっ、本当の事言っただけじゃないか!」

「訂正どころか追撃かよ!?おま、本当に払わねぇぞ!?」

 

…と、冗談なんだか本気なんだか分かり辛い言い争いを始める上嶋さんと赤松さん。…そういや杉野さんも上嶋さんに敬語使ってなかったし、この部隊は俺と綾袮さんみたいな関係でやれてるんだろうなぁ…。

 

「よくもまぁ戦闘の後にそこまでギャーギャー言い争えるわね…ま、うちは基本こんな感じだから、君も肩の力抜いて大丈夫よ」

「みたいですね…まだちょっと緊張はありますけど、これならすぐ馴染めそうでよかったです」

「馴染むなんて無意識に進むものだし、深く考えなくてもいいのよ?…で、あんた達はいつまでふざけてんのよ。私は早く行きたいんだけど?」

「ならちょっと待ってろ。すぐにこいつを片付ける」

「片付けられてたまるか…あーもう分かったよ。悪かった悪かった、だからちゃんと奢ってくれや」

「最初からそう言えばいいんだよ。じゃ、先に報告だけしておくか」

 

杉野さんに注意され(文句を言われ?)、緩い感じで終わった言い争い。その後上嶋さんは携帯で協会に連絡を入れ、装備を持ったまま飲みには行けないという事で双統殿へと──

 

 

 

 

 

 

「……え、それを俺等がですか?」

 

……その瞬間、何やら予定が狂いそうな発言が上嶋さんから聞こえてきたのだった。

 

 

 

 

「…で、それが俺の戦ってた魔物の討伐任務依頼だった訳か」

「そうそう。そんで行ったみたら、なんと千嵜が魔物を追い詰めてたって訳よ」

「……偶然って凄いな」

「凄いねぇ、偶然って…」

 

魔物を満身創痍状態まで追い詰めていたのが千嵜だったと判明してから数分後。取り敢えず空中にいても霊力無駄にするだけだという事で、俺達は千嵜家の庭に着地した。

 

「…てか、来るなら早く来いや。俺風呂上がりだったんだぞ?湯冷めしちまったじゃねぇか」

「いやこれでも結構な速度出来たんだけど…ですよね?上嶋さん」

「ん?まぁそうだな、途中マックのドライブスルー寄ったが」

「あぁ!?やっぱ遅いんじゃねぇか!」

「なんでそうなるし!こんな時にマック寄ってる訳ないでしょうが!てか何故に上嶋さんも嘘吐くんですか!後我々は誰も車両で移動してませんが!?」

『相変わらず突っ込みキレッキレだなぁ…』

「それが狙いか!しかも二人してか!……この二人初対面じゃないの…?」

 

社交性の差はあれど、冗談に関しては近しいものを感じる千嵜と上嶋さん。だからこの二人が会ったらそこそこ気が合いそうだとは思っていたが……これは流石に、というか普通に予想外だった。そして赤松さんと杉野さんは漫才でも見てるかの様な顔して全然助けてくれなかった。……はぁ…。

 

「被ったのは俺も意外だったな。…さて、一応自己紹介はしておくか。俺は上嶋建、見ての通りの霊装者で部隊長だ」

「あ、どうも。俺は千嵜悠弥、見ての通りの取り立てて特筆する点のない霊装者です」

「取り立てて特筆する点のない、ねぇ…そんな奴は協会から指示受けた部隊より先に戦場に着いて、単騎で魔物を追い詰めてたらはしないと思うぜ?」

「偶々ですよ、偶々。追い詰める云々はともかく、見つけたのはほんと偶々気付いたからなんすよ」

「ほぅ…ならまぁそういう事にしておくか。お前の事情はよく知らんし、わざわざ首突っ込む様な事でもなさそうだからな」

 

口振りはお互い軽い感じに、でも言葉の裏に若干相手を見定める様な意図を潜ませながら二人は会話を交わす。現在二度目の人生であり最初の人生でも霊装者だった千嵜は、どう考えたって特筆する点ありまくりな霊装者な気がするけど…本人に言う気がないなら俺も黙っておくか。

 

「そうしてくれると助かります。んで御道、お前宮空と組んでるんじゃなかったのか?人事異動?」

「や、綾袮さんは魔人調査の方に行ってるから、一時的に俺がここの部隊に参加してるんだよ。そっちこそ時宮さんは?」

「そっちと同じ理由だ。で、その結果俺は一人で戦う羽目になってしまった…来るなら早く来いや」

「話戻ってる話戻ってる…千嵜は他の部隊に合流したりはしないの?」

「俺は色々特殊な立ち位置なんだよ。つっても自分でそういう立ち位置になった訳だが」

 

事情が事情という事で、あんまり詳しくは聞いていないけど、千嵜が千嵜なりの思いがあって再び霊装者になったんだという事は分かっている。だから千嵜も冗談の域を超えたレベルで文句は言ったりしないし、俺もそれに突っ込んだり呆れたりの反応を示す。…そう、普段通りに接するのが俺達の会話。……そういや今のところ、お互い霊装者になっても話す雰囲気は変わってないな…。

 

「…さて。魔物討伐の為にここに来た俺達だが、その魔物がもう討伐出来ちまった以上もうやる事はねぇ。一応はまだ任務中だしそろそろ帰還するぞ」

「そうね。それで、討伐報告に関してはどうするの?トドメはともかく、追い詰めるところまではうちの部隊ノータッチよ?」

「あ、それについては俺がいなかったって事にしてもらって構わないっすよ?俺は家族守れりゃそれで十分なので」

「そりゃ嬉しい提案だ。…が、そういう嘘は好きじゃねぇんだよ。って訳で今回の件はきちんと起きた通りの事を報告する。お前等もそれでいいな?」

「おう、俺は何もしてないし大丈夫だぞ」

「俺もそれでいいです。後味悪くなるのも嫌ですしね」

「なら決定だな。お前とは指揮系統が違うから若干時間はかかると思うが、お前さんの方でもきちんと情報は通ると思うぞ。……よし、行くか」

 

そういうと同時に飛び立つ上嶋さん。続いて俺達も飛翔し、夜空へ。

 

「…じゃ、湯冷めしたなら風邪引かない様にね」

「…御道、お前ほんとにいい奴だな…じゃあな」

 

これまた普段通りの挨拶で別れ、俺は上嶋さん達の後に続く。今度こそ帰ろうとしたところで別任務の依頼が…なんて展開にはならず、無事双統殿まで到着した俺達は一旦解散し、例の地下通路に繋がるエレベータ前で再合流する。

 

「追加任務のせいで少し遅くなっちまったが……えーはい、顕人を加えての初任務成功を祝して、飲みに行きます!」

「…え、えぇと…いえーい…?」

「いやこれはそういうの必要ないぞ。なんとなく音頭っぽいの取ってみただけだからな」

「そ、そうなんですか…」

 

毎回こんなノリなのかな、と思ってぎこちないながらも乗ってみたら、なんだか逆にノリを間違えてる奴みたいになってしまった。……内輪ノリを理解するのって、難しいよね…。

まぁそんな事はどうでもいいとばかりにさっさと双統殿を後にする俺達。一体どこ行くんだろうか…と思いながら着いていくと、目的地は隠し入り口となっている建物から徒歩数分の小料理屋だった。

 

「あ、結構近場なんですね。…居酒屋と小料理屋って、どう違うんです?」

「そりゃ……言われてみると俺もよく知らないな、ここは隊長様に訊いてみようぜ」

「何でだよ……昔はどうだったか知らないが、現代においては明白な違いは無いんじゃなかったか?雰囲気とかメインにするものとかで区別しようと思えば一応出来る…程度のふわっとした感じで」

「そもそも双方明白な定義が無いでしょ。オーナーさん、席空いてます?」

 

俺のふとした疑問を話題にしながら入店。店内は大盛況…とまでは言わないものの、ちらほらお客さんがいて経営は安定してる…といった感じだった。……てか、そんな事を考えてる俺は一体何様なんだろうか。何様だろうと関係ないけど。

 

「おーいらっしゃい、空いてるから好きなとこに座ってくれや」

「んじゃ、ここ使わせてもらうぜ」

「……皆さんここのオーナーとお知り合いなんですか?」

「知り合いっつーか、ここのオーナーは現役離れた霊装者なんだよ。だからここは協会の人間行きつけの店って訳よ」

「え、じゃあ他のお客さんも皆関係者…?」

「そりゃないだろうな。普通の土地に店構えてるんだから、普通の客も来るに決まってる」

「はー…なんか行きつけの店、って感じでいいですねそれ」

 

未成年で外食する事も碌にない俺…というか大概の未成年にとっては行きつけの店なんてある筈がなく、それ故に店長やオーナーとは顔見知りの店というものに対し少なからず憧れを持ってしまうのが子供の性。早い話が、今の俺はちょっとテンションが上がっていた。

 

「メニューはこれな、中にゃ酒使ってる料理もあるから選ぶ時は確認するんだぞ?」

「い、いやそれは流石に言われるまでもないですから…俺一応常識はありますよ?」

「一応なのか、困った奴だな」

「今の一応は謙遜の意味を込めた一応です…」

 

気を遣い過ぎてるのか、わざと言ってるのか。とにかく俺は上嶋さんに弄られてばっかりだった。

その後すぐに俺は注文を決め、メニューをテーブル上へ。三人は元々何を頼むか決めていたらしくてメニューを見る事はなく、上嶋さんが店員さんを呼んでそれぞれ注文。こうして俺は上嶋さん達と共に、人生初の仕事終わりの一杯(俺は当然アルコール飲料以外)を────

 

「あ、君やっぱり新しいバイトの子だよね?やー、通りで見覚えない可愛い子がいると思ったよ。ところでさ、好みのお酒ってある?」

「え?……えと、梅酒…とか…?」

「あー、さっぱりしてていいよね梅酒。よしじゃあ梅酒を追加で注文!俺の奢りだから君が飲んじゃってよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

ノリノリで店員さん(女性)へ注文と同時に口説き紛いの言葉をかけ、しかも好きなお酒を聞き出した挙句に梅酒を奢ろうとした上嶋さん。俺は一瞬訳が分からず、数秒経ってもやっぱり分からず、呆然としたまま首を回したら…赤松さんは苦笑いを、杉野さんはこれでもかという位の呆れ顔を浮かべていた。そして…俺は思い出す。数日前、綾袮さんが言っていた事を。…女として『うーん』って思う部分って……

 

(これの事かぁぁぁぁああああああああッ!!)

 

と、いう事で上嶋さんがこのご時世では珍しい、真性のナンパ男だという事を知る俺だった。

 

 

……世の中、知らなきゃよかったと思う事ってあるもんだね…。

 


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