双極の理創造   作:シモツキ

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第二十七話 疑惑が起こしていくもの

魔人の件は協会も組織として調査を始めたらしく、時宮からちょいちょい話を聞く様になった。と言っても経過報告というよりただの愚痴で、万が一に備えてずっと待機してたのに何もなかっただの、魔人がいなかったらどう責任を取るんだって人の足引っ張ってばかりの高官が五月蝿いだの、俺にとってはかなりどうでもいい話が大半だった。…てかそもそも、協会は魔人の調査をしていても俺はこれまで通りの生活してるしな。

 

「あーお兄ちゃん?今日野菜安い日だけど、何か買っておく?」

「そういやそうだったか…んー、冷蔵庫見るからちょっと待ってくれ」

 

携帯片手に冷蔵庫の前へと向かう俺。10代の女性の例に漏れず買い物に行く事が好きな緋奈は、こうして買い物のついでに俺へ何か買ってくるか電話で訊いてくる事が時々あった。俺は特に買い物が好きという事はなく、冷蔵庫の中身が減ってきても基本「補充しなきゃなぁ…」より「今あるもので作れる料理といえば…」という思考が先行してしまうせいか買うのを忘れてしまう事が偶にある為、緋奈が気を遣ってくれるのは大変助かる。…まあ、最近は交代で飯を作ってる時宮が買ってくる事もあるけど。

 

「……よし、アイス買ってきてくれ」

「うん、何でお兄ちゃんは野菜室じゃなくて冷凍庫見てるのかな。今日安いのはアイスじゃなくて野菜だからね?」

「えー…じゃあ、冷凍の野菜を…」

「いや、冷たいものに引きずられないでよ…次ふざけたら冷凍マグロを丸々買ってくるからね?」

「普通のスーパーにそれはないだろ…人参とジャガイモ、それにパプリカを買ってきてくれるか?数はまぁ、いつも通りで」

「はーい」

 

いつも通り、でちゃんと伝わる辺り流石我が妹。…なんて考えながら俺は元いたリビングのソファへ。実際にちゃんと伝わってたかどうかは分からんが…足りなきゃ買えばいいだけだし、少ない分には問題ないだろう。逆に多過ぎた場合は…野菜料理が捗るんだろうなぁ……。

と、思ったところで玄関の扉が開く音が聞こえてくる。…え、まさかもう緋奈帰ってきたの?早過ぎない?

 

「ただいま…あら?緋奈ちゃんは出かけてるの?」

「なんだ時宮か…」

「なんだとは何よ、いきなり失礼ね…」

 

そんな馬鹿な…と思いつつ玄関に行くと、居たのは緋奈ではなく時宮だった。玄関の時点で緋奈の不在に気付いたのは…恐らく緋奈のスリッパを見つけたからだろうな。

 

「別に期待外れだったとかじゃねぇよ、緋奈かと思っただけだ」

「ふぅん…ま、いいわ」

 

靴を脱いで家にあがる時宮。最近は俺の無愛想さにも慣れたらしく、こうして失礼な事を言っても特に怒ったりはしなくなった(勿論それは俺に悪意がない場合)。

 

「…で、魔人捜索はどうなってんの?」

「相変わらず進展無しよ。そもそも特定の魔物や魔人を見つけようとする事自体が困難とはいえ、そろそろ手がかりの一つでも見つかってくれないかしら…」

「そうさなぁ……あぁそうだ、今一ついい案が思い付いたぞ?」

「いい案?……ほんとでしょうね?」

「そう思うなら聞いてみな。まず、当たり前の話として魔人は何の理由もなく徘徊したり騒ぎを起こしたりはしない、そうだろ?」

「…そうね、人間もだけどそんな無駄な事を理由もなくやるとは思えないわ」

 

俺が思い付いたと言った直後、時宮は疑いの視線を向けてきたが…確認の意味も込めた質問をしてみると、視線に含まれる疑いの成分が少なからず薄まった。これなら、ちゃんと最後まで聞いてもらえそうだな。

 

「そう。魔人は知性があるからこそ、無駄な事や迂闊な事は基本やらない。…まぁ、知性があるからこそ余計な事しちまったり生きるのに必要不可欠でもない事に手を出しちまったりする場合もあるんだが…少なくとも、魔物と同じ感覚じゃ簡単には見つからねぇだろうな」

「それは分かってるわよ。それで?」

「だから、逆に考えるんだよ。無駄な事をしないなら無駄じゃない事柄を、迂闊な事をしないなら安心出来る事柄を用意してやるんだ。そうすりゃ魔人もおびき出せると思わないか?」

「…ゆ、悠弥がこんなに早く真面目な事を言うなんて…熱でもあるの?」

「いや話脱線させんなよ…ちゃんと話す気ないのか?」

「うっ…ごめんなさい、今のは私が悪かったわ」

 

時宮はそこそこ人を煽るタイプ(がっつり煽られるのは俺や宮空みたいな霊装者且つ不真面目なタイプばかりだが)で、なんならそれでちょっと楽しんでる節もあるが…根が真面目だからか、自分が空気を乱したと思うとこうしてちゃんと非を認めてくれる。正直、この反省してちょっと下を向いてる時宮は目の保養になるのだ。……さて、そろそろ結論だな。

 

「つまり、だ。魔人にとっての一番の利益は、勿論霊装者…それも魔人クラスですら満足いくだけの優秀な人間を喰らう事。その霊装者が、反撃や逃走の出来ない状態に陥っていれば、魔人も興味を示す可能性は少なからずあるんだよ」

「そ、それって…まさか…」

「そういうこった。だから時宮……お前が仲間である霊装者にボッコボコにされた状態で、蓑虫の様に吊るされてたら魔人だって現れるっつー寸法よ!」

「…………」

「…………」

「……はぁ…」

 

わざわざ溜めを挟み、はったと時宮の目を見据えて俺は言ってやった。そう、単にボケたんじゃない。一度真面目な流れを作って、『あれ?悠弥が名案言いそう…?』みたいな雰囲気にした上での渾身のボケ。どうだ時宮!

……なーんて思ってた俺だが、時宮から返ってきたのは数秒の沈黙の末の溜め息だった。…うーむ、ちょっと真面目パートが長過ぎたか…。

 

「…一応言うけど、そんな作戦実行出来ないから」

「あ、うん…それは分かってる…」

「ボコボコとか吊るす以前に、霊装者を餌に…って事自体出来ないから。そんな信用を失う様な真似、まともな組織ならおいそれとは使えないから」

「お、おう…」

「百歩譲って出来たとしても、罠としては怪しさがありすぎるから。絶対怪しまれるから」

「え、と…あの、時宮さん……?」

「魔人らしき情報がないって事はその魔人が慎重派だっていう証明で、そんな魔人は「悪かった!あんなふざけ方して悪かった!だからもう勘弁して下さい!これいつ終わるの!?」…ふん、人の期待を裏切るからよ」

 

謎の淡々とした攻撃ならぬ口撃に、俺は耐えかね謝罪。いや、これは流石に無理っすわ…どんよりと曇った瞳で、冷めた声音で淡々と無理な理由を言われ続けるとか謎過ぎて怖くなってくる…。

 

「ほんとすんませんでした…因みに、もう一個思い付いたんだが…聞くか?」

「…ふざけないって保証は?」

「今度はちゃんとしたやつだよ。もしふざけたらハイヒールで飛び蹴りしてもらって構わん」

「ここにハイヒールは持ってきてないわよ…けどそう言うならまぁ、聞いてみるわ」

「あいよ、つっても単純なもんだけどな。わざと魔物を見逃して後をつけるってのは駄目なのか?」

 

魔物が個体によっては殺した筈なのに絶命していない、という事象は魔人によって何かしらの能力を付加されているからだと俺達は踏んでいる。これはあくまで推測で、確定情報ではないが…これが合っているとすれば、魔人と魔物はどこかで接触していなければおかしい。そしてその際魔人は魔物を配下に加えている可能性があるのだから、魔物の後をつければ魔人、或いはその手がかりへと辿り着けても不思議はない。そう思って俺は提案したが…時宮の反応はイマイチ。

 

「そうねぇ…案としてはまぁ、悪くないと思うわ。けど、それってかなり運に左右されるわよね?」

「ん、そうか?」

「だってまず、魔物自体草むらやら洞窟やらを歩いていればランダムエンカウントする様な存在じゃないし、仮に遭遇してもそいつが逃げてくれるとは限らないでしょ?」

「…まぁ、そうだな」

「ある程度傷付ければ逃げる可能性はあがるけど、それでもやっぱり確実じゃないし、逃げる余力が残る程度に傷付けるってのも難しい話。で、上手く逃げてくれたとしても道中人を襲うかもしれないから、追う側としては一切油断が出来ないわ」

「あ、そうか…追う際の負担は考えてなかったな…」

「更に魔物の状態によっては途中で絶命する事だってあり得るし、それ等を全てクリアしたとしても魔物は魔人と全然関係ない所に行くかもしれない…とまぁ、ぱっと思い付くだけでもこれだけ不確定要素が多いのよ。運が良ければトントン拍子で進むかもしれないけど…」

「しょっちゅう運が絡む案なんか、作戦として採用出来ない…って事か」

「そういう事。もし運が味方してくれたら狙ってみる価値はあるかな、位で積極的に狙っていくべきではないと思うわ」

 

おふざけ案は当然として(採用されたらそれはそれで困る)、真面目な方のセカンドプランも残念ながら採用には至らなかった。別に内申だとか組織内評価に関わる訳じゃないし、関わるとしてもそんなの激しくどうでもいいが…やっぱり真面目に考えた案が駄目ってなるのは残念なもんだな。

 

「ふーむ…なんかいい案思い付かねぇかなぁ…」

「…妙に協力的ね、自分の案を採用してほしくなったの?」

「……別に。…あ、確か俺と御道の事を予知した予言者がいるんだったよな?そいつなら魔人の事も予知出来るんじゃないのか?」

「それは無理よ。予言の的中率は驚異的なものだけど、彼女の予知は任意に使える能力じゃないもの」

「本人の意思とは無関係に働くってやつか…てか、その予言者は女性だったんだな」

 

彼女、と言ったのだから予言者は女性で間違いないだろう。…予言者に対しては興味も何も抱いてないし、分かったからって何にもならない情報だが。

 

「……ま、これまで通り地道に探すとするわ。勿論手っ取り早い案があればそれに越した事はないけど…千里の道も一歩から、塵も積もれば山となる、急がば回れ…ってやつよ」

「それぞれちょっとずつ意味違うけどな…ならまぁ頑張れ、俺は自宅警備員の職務を遂行する」

「自宅警備員って…悠弥はほんとふざけるの好きよね」

「そりゃ折角生まれ変わった訳だからな、楽しく生きなきゃ転生が無駄になっちまうってもんだ。……人生はいつでもやり直しが効くなんて言うが、本当の意味でやり直しなんてそれこそ奇跡が起きなきゃ出来ないんだから、な…」

「あ、貴方が言うと言葉の重みが違うわね…」

「だろ?しょうもない奴だって、それなりに経験や体験は積んできてるんだよ」

 

時宮が『地道に探す』という締めを言った事もあり、話は普通の雑談へと移行。そのうち緋奈も帰ってきて、完全に魔人関連の話は終わりを迎えた。…ま、話半分の内に出てくる案なんて協会内で既に出尽くしてるだろうし、名案が出ないまま有耶無耶になるのも致し方なし、なんだろうな。

 

 

 

 

その日、時宮は役目があるからという事で双統殿へと行き、千嵜宅は俺と緋奈だけになった。で、今俺は……家の屋根の上にいる。

 

「全く、なんで時宮がいない時に現れるかねぇ…」

 

風呂から上がってふぅさっぱり…なんて思ってたところで感じた不快感。…そう、魔物が近くにいる時の感覚である。数度実戦を行ったものの、相変わらず訓練なんて碌にしてない俺の探知能力は当然高い筈がなく、そんな俺でも探知出来るという事は無視出来ない距離にいると見て間違いない。

 

「…やっぱ探知能力は鍛えておくべきか…?」

 

器の出力やら機動力やらは多少不足していても技量や経験で何とかなるが、探知に関してはどうしようもない。交戦開始してしまえばそこまで重要じゃない(探知能力が高ければ戦闘で役立たせる事も可能だが)上、転生前は部隊単位で戦う事が基本だったから正直あまり探知能力を重視してなかった俺だが……分かるのは魔物がある程度の距離にいるという事だけで、正確な…どころか大体の位置すら掴めていない現状では、その認識を改めざるを得なかった。

魔物の目的が分かっている、又は周りに民間人がいないという状況なら、積極的に動いて探し出すところだが、家の中には最優先すべき緋奈がいる。万が一の事を考えれば、ここから離れる訳にはいかない。

 

「…んー、暗いしあんま変わらんかもしれないが…やるだけやってみるか」

 

数分間程屋根の上から目視での索敵を続け、埒があかないと思った俺は跳躍した。屋根の上だろうが夜空だろうが目視で探す以上根本的な索敵能力上昇には繋がらないが、それでも多少はマシになるんだからやってみる価値はある。そう思って跳び上がった俺は、続けてスラスターを点火──

 

「いてっ……」

 

どんっ、という鈍い衝撃が頭に走った。一瞬なんだか分からなかったが……どうやら俺は頭をぶつけたらしい。…んだよ、空中に物置いとくなっての。どこの誰だか知らないが、そのせいで頭ぶつけたじゃねぇか……って、は?

 

「……まさか…」

 

ゆっくり、ゆっくりと目線を上げていく俺。ほんとにまさかとは思うが、一体どんなレベルの低確率を引き当てたんだとは思うが……実際問題として俺は空中で頭をぶつけたんだから、確認しない訳にはいかない。

そういう思いを抱きながら、俺は視線を上げ続けて……目が、合った。

 

「……やっぱりかよぉぉぉぉおおおおッ!」

 

目があった瞬間、そいつは…魔物は鉤爪で引き裂きにかかってきた。それを俺はスラスターを吹かせる事で避け、即座に引き抜いた拳銃で牽制をかけながら急降下し自宅の屋根へと着地する。

 

「う、上って…あっぶねぇ……」

 

着地した俺は牽制を続けつつ実体刃の直刀を抜き、直前の危機的状況に戦々恐々としながらも魔物の姿を観察する。

全高と互角かそれ以上と思える程大きな翼に、全体的に細い印象を抱く身体。一言で言うならば、そいつはプテラノドンの様な魔物だった。…これマジもんのプテラノドンじゃないよな?魔物なんているんだから、現代に恐竜なんて絶対いない、とは言い切れないが……それでもマジもんのプテラではないよな?

 

「って、んな事はどうでもいいんだよ…速攻倒せるといいんだが、なッ!」

 

牽制射撃を受け、プテラ…もとい魔物が嫌そうに高度を上げた瞬間、俺は拳銃をホルスターに戻しつつ再度跳躍。真っ直ぐな軌道で一気に魔物へと肉薄し、霊力を纏わせた直刀で刺突をかける……が、刺突は魔物が身を翻した事によって躱されてしまった。

 

「……っ、ならッ!」

 

避けられた俺は即座にその場での攻撃を諦め、そのまま飛翔。極力速度を落とさない様にしながら空中で旋回し、二度目の接近を試みる。すると魔物は俺の意図を理解したのかその場に留まり、俺の方へと鉤爪を向けてきた。

飛行能力(浮遊能力ではなく)を持つ魔物に空中戦を仕掛けるというのは、当然ながら相手の土俵で戦うという事。昔の俺はともかく今の俺はスペック的に優秀な霊装者とは言えないんだから、飛行能力持ち相手の時は射撃で飛行能力を削るか、森林や洞窟の様な飛行に適さない場所へと誘い込むのがセオリーと言えるが…生憎ここは住宅街。住宅は障害物としては若干低いし、主戦場を地上にしてしまうと緋奈を始め民間人に被害が及ぶ可能性が跳ね上がる。常に民間人の事が気になっちまう事を考えたら、相手の土俵だろうが空中で戦った方がまだ楽だよな。

 

「ま、それは精神的な問題だ…がッ!」

 

激突の直前、魔物は羽ばたく事で若干ながら高度を上げ、鉤爪を俺の頭へ引っかかる様な位置へと持ってくる。俺の振るう刀から避けつつも、俺の頭を搔っ捌こうとする、所謂カウンター戦法。何とかそれに反応出来た俺は首を傾け紙一重で避けるが…斬撃の軌道修正までは手が回らず、また空振ってしまった。その瞬間魔物は大きく羽ばたき、俺から距離を取る。

そこからは、互いに旋回と交錯を繰り返すヒットアンドアウェイ戦となった。どうも魔物は俺に懐へ潜り込まれたら圧倒的不利だと分かっているらしく、一切スピードを緩める様子はない。そして空中でのヒットアンドアウェイとなるとスピードで勝る魔物の方が若干有利で、どうしても俺は魔物を捉えられずにいる。

 

(ちっ…互いにこの速度で飛んでるんじゃ銃撃も碌に当たらねぇだろうし、カウンターを狙うにも空中じゃ踏ん張りがスラスター頼り…結構厄介だな、こりゃ……)

 

向こうも回避を優先しているおかげか大きなダメージは今のところ受けてないが、このままじゃジリ貧は免れない。かと言って現状有効打を与えるチャンスは見受けられず、ただただ互いに接近してはギリギリで避けて…を繰り返してばかり。これが時宮なら能力に物を言わせて追いつき一撃を…ってところなんだろうが、俺にそこまでの能力はなく、持ち味の技量もこんな攻防戦じゃ活かしようが──

 

(…いや、待てよ…互いに空振りばかりとはいえ、何度も肉薄はしてるんだ…だったら、そこでの駆け引き次第で突破口はあるんじゃねぇのか…?)

 

今の魔物の動きを、これまで見せた動作を思い出し、俺の戦闘知識と照らし合わせ、戦法を構築する。戦いながら頭の中でシュミレートを行い、最適解を導き出す。…俺の予想通りになってくれる事が前提となるが…この前提通りになれば…いける!

もう何度目か分からないすれ違いを行った瞬間に俺は身体を振って方向転換をし、スラスター全開で一気に地上…住宅街の道路へと突撃する。そして激突の直前にもう一度身体を振るい、今度は真っ直ぐ上空へ。

下降時に発生した慣性に身体を押さえつけられながらも、スラスターの噴射で舞い上がる俺の先にいるのは…やはり魔物。その魔物へと俺は直刀の切っ先を向け、最初の交錯を再現するかの様に刺突を放つ。

一瞬、俺と魔物の視線が交わる。魔物はこれが先と同じ流れだと気付いた様で、先と同様…いや、先程より無駄のない動きで身を翻し、俺の一撃を避けようとする。その時……俺は勝ちを確信した。

 

「それじゃ…甘いんだよッ!」

 

刺突を繰り出すと同時に右腰へと伸ばしていた、フリー状態の左手。そこから俺は刀の柄を掴み……振り抜く。そして…俺のすぐ横で身を翻していた魔物は胴を斬り裂かれて体勢を崩した。

俺の左手に握られている刀の柄。そこから伸びているのは金属と特殊素材で構成された実体刀ではなく、霊力が編まれ収束された光の刀。俺は抜き放ちながら霊力で刀身を構成する事により、魔物を斬り裂いたのだった。

 

「もしこっちも実体刀だったら、体勢的に上手く引き抜けなかっただろうな…こういうのも利点なんだろうな」

 

左右の手で直刀を構えながら、魔物の方へと振り向く。今の一撃は確かに有効打となってはいたが、まだ魔物を殺すには至っていない。……が、見るからにヨタっている魔物は、もう既に先程までの厄介さは感じられなかった。

 

「胴をバッサリやられりゃ、そりゃ動きが鈍るに決まってるよな。んじゃ、次の一撃で終いに──」

 

前傾姿勢を取り、最後の一撃を仕掛けようとした俺。だが……その瞬間、全く予想していなかった方向から二条の青い光が駆け抜けた。その青い光が向かった先にいるのはフラつく魔物。既に満身創痍の魔物の身体を青い光は容赦なく貫き(一条は翼を掠めるだけだったが)……魔物の命を刈り取っていった。

 

「……増援、か…?」

 

今しがた駆け抜けた青い光は間違いなく霊力ビームで、その時点で味方である事はほぼ確実。だが、俺はそんな話は聞いていない。だからなんだろうかと思い、光の発生源へと視線を伸ばすと…そこにはこちらへと飛んでくる数人の霊装者がいた。そして、その中の一人は……

 

「……場所的にまさかとは思ったけど…やっぱ、千嵜だったのか…」

「……マジか…」

 

──背に見慣れない二門の砲を背負う、御道顕人その人だった。


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