双極の理創造   作:シモツキ

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第二十三話 戦い方に合った武器

「逃がすかよッ!せぇいッ!」

 

牽制も兼ねたライフルの連射で魔物の足を止め、逆の手で持つ拳銃でダメージを与えつつ接近。その勢いのまま飛び蹴りを浴びせ、今度は両手の火器の掃射を浴びせながら後退する。

 

「綾袮さん!後は頼むよ!」

「OK、頼まれたよっ!」

 

俺と入れ違う様に前に出た綾袮さん。綾袮さんは俺がすぐ近くで射撃を行っているにも関わらず最小限の動きで魔物に肉薄し、俺の射撃の対応で手一杯の魔物の胴を斬り裂いた。

それまで致命傷でこそないものの、結構な数攻撃を受けていたところへ入った強烈な一撃。それは魔物の命を一瞬の下に奪い去り、魔物の身体を地面へと倒れさせた。

 

「討伐完了、っと。顕人君、怪我はない?」

「見ての通りピンピンしてるよ。…あーいや、正確に言うとさっきちょっと止まりきれなくて肩ぶつけたけど…まあこれ位は怪我に入らないよね」

 

魔物の消滅を確認した俺と綾袮さんは、武器をしまって顔を合わせる。…初陣に出たあの日以降、俺は綾袮さんの援護という形で今日の様に実戦に出ていた。…ま、今のところ俺がいなくても綾袮さんなら勝てそうな魔物としか出会ってないけど。

 

「異常がないならそれでいいけど、もし何かあったら放っておいちゃ駄目だよ?……けどそれはそうとして、今日もまた派手に戦ったねぇ」

「そりゃま、俺にとっては霊力を出し惜しみしない戦い方の方が安全且つ確実だからね」

「あーいや、それもそうなんだけど…」

「……?」

 

ほっと一息ついて雑談を交わしていると、ふと綾袮さんは曖昧な笑みを浮かべながら頬をかいた。…えぇと…急に何?

 

「こう…戦い方だけじゃなくて、テンションも派手になってるなぁ…って事。分かるでしょ?」

「テンション?……あぁ…うん、言われてみると確かに俺テンション上がってたかも…」

「ね?まぁ、ビビってるよりはそっちの方がずっといいけど…テンション上がり過ぎて冷静な思考が疎かになるのは危険だから、クールな心を忘れないでね?」

「そういう事か……ありがと、気を付けておくよ」

 

どんな含みがあるんだろうと思っていたところだけど…どうやら俺の身を案じてくれていたらしい。…割と適当なところあるし、かなりちゃらんぽらんだけど…綾袮さんってちゃんと俺の指導者兼守護者してくれるんだよね。ほんと感謝しないと…。

そうして雑談を交わした後、自宅へと戻ろうとする俺と綾袮さん。けれどそこで綾袮さんの携帯が鳴った。

 

「っと…ちょっと待っててもらえる?電話きちゃった」

「着信音なってるんだからそうだろうね…構わないよ。さっさと出てあげて」

「はーい」

 

俺から離れつつ、携帯を取り出して耳に当てる綾袮さん。綾袮さんが通話している間、俺は服についた埃を払ったり火器を再び取り出して眺めたりなんかして時間を潰す。…こう、あんまり現実離れしてないデザインの火器、一部の人に伝わる言い方をすればスーパーロボット系ではなくリアルロボット系が持ってそうな形状の火器には男を惹きつける魅力があるよね。何故魅力を感じるのか…と聞かれたら上手く答える自信ないけど。

 

(…ま、浪漫ってやつだよ浪漫。多分)

「へぇー……ま、じゃあ取り敢えず行くよ。丁度倒したところだからさ。…はいはーい、待っててね」

「…っと、終わったか……」

 

通話は終わった様で、綾袮さんは携帯をしまって戻ってくる。魔物の事を普通に触れてたし、通話の相手は協会関係者だとは思うけど…一体誰だったのやら。

 

「お待たせー。それでさ顕人君、悪いけどちょっと技術開発部に顔出してくれないかな?」

「技術開発部……ってえぇと、園咲さんが所属してるんだっけ?」

「そうそうそこ。というか園咲博士からのご指名だよ」

「ご指名?……何故に?」

 

その名の通り、霊装者の装備や道具の研究開発を行っているのが技術開発部。それはまあ知っているけど…俺が呼ばれた理由が分からない。園咲さんからのご指名、というとちょっと邪な事想像しちゃうが…まあ十中八九そういう事じゃないだろうね。園咲さんに会ってくれ、じゃなくて技術開発部に顔出してくれ、って綾袮さんは言ったんだし。

 

「なんでも、顕人君に試してほしいものがあるんだってさ。それもねぇ、話からすると恐らく試作品だよ試作品」

「試作品?……それはちょっと気になるかも…」

「やっぱりね。まあだから今から双統殿に行く事になるんだけど、大丈夫だよね?」

「あぁそれは大丈夫。っていうか俺が呼ばれてるなら、綾袮さんは先帰ってても大丈夫だよ?」

「いや、わたしも行くよ。わたしも少し気になるし、まだ顕人君双統殿には慣れてないでしょ?」

「それは…そうだね」

 

もう何度か双統殿には足を運んだけど、やっぱり場所が場所だからか足を踏み入れるとつい少し緊張してしまう。だからそういう意味では綾袮さんが同行してくれるならそれは助かる事だった。

気になる気持ちと待たせるのは申し訳ないという気持ちが相まって、早速双統殿へと向かう俺。…因みに今回はちゃんと自分で飛んでいる。

 

「試作品って、霊装者の武器なの?」

「口ぶりから察するに、多分そうじゃないかな。まあそこは実際に会えば分かる事だよ」

 

そんな会話をしながら飛ぶ事数十分。例の如く隠し出入り口を通って俺と綾袮さんは双統殿へと立ち入った。

 

「……あ、綾袮様。本日もご機嫌麗しゅうございます」

「あはは、ありがとねー」

(反応軽っ……)

 

技術開発部へと向かう最中、偶々廊下であった見知らぬ霊装者。その人は綾袮さんに恭しく挨拶を述べ、対する綾袮さんは登校時に友達と会った様な感覚で言葉を返していた。…後、俺の事は知らないらしく(相手を知らないのは俺もだけど)訝しげな視線を送るだけで特に何も言ってくれなかった。

 

「…もう少しちゃんと返した方がいいんじゃないの?あの人からすればとんだ肩透かしだと思うんだけど…」

「あー、いいんだよ別に。あの人もどうせ社交辞令でそう言ってるだけだろうし」

「え、そうなの?」

「生まれてこのかた丁重な扱いを受ける事なんて飽きる程あったからね。だから何となく分かるんだよ。それが本当に敬意を持ってくれてるのか、社交辞令で言ってるのか、わたしに取り入ろうとしてるのか…っていうのはさ」

「…そうなんだ……」

 

淡々と、いつも通りの声音で教えてくれた綾袮さん。でも、そう言う綾袮さんは……ほんの少しだけ、寂しそうな顔をしていた。けれど、その後すぐに綾袮さんは言葉を続ける。

 

「ま、そんな事より早く行こ。顕人君、場所は覚えてる?」

「そりゃ、まぁ…一応は…」

「だったらわたしは後ろを着いて行こうかな。それはもう、ドラクエばりにね」

「そんなしょうもない事しなくていいから…」

 

さっきの会話は流れてしまい、その後も切り出すタイミングがなくて結局お流れに。そして、それから数分後…俺が記憶を頼りに技術開発部まで辿り着いた時にはもう、その事は忘れてしまっていた。

 

「…ここでいいんだよね?」

「…………」

「……え、違った?あ、あれ?」

「いや合ってるよ?」

「ならここでいいって言ってよ!何で不安煽るの!?」

「えー、わたし黙ってただけなのにー」

「普段お喋りなのにこんな時だけ黙るかねぇ普通!」

 

ぶーぶーと文句を言う綾袮さんだけど、どう見てもわざとの顔をしているので俺は全力で突っ込む。こういう場合、一番ダメージ与えられるのは突っ込まずむしろ乗っちゃう事だけど…それをしたら突っ込み役の名折れ。俺はそんな事しないね!いや出来ないね!

 

「…ってそんな事はどうでもいいんだ…失礼します」

 

…なんて考えていたところで園咲さんが待っている事を思い出した俺は軽く頭を振り、意識を切り替えて部屋の中へ。

 

「ん?あぁ…君は新人の、ええと……」

「あ、御道顕人と申します」

「そうそう確かそうだった。……そして綾袮様、わざわざ御足労頂きありがとうございます」

「わたしは単に着いてきただけだけどね。それで博士はいる?」

「奥にいますよ、少々お待ち下さい」

 

俺達に気付いた技術開発部のお兄さんは、爽やかな態度で園咲さんを呼びに行ってくれる。技術開発部=変人集団、と思うなかれ。確かに技術開発部の中には変わった人もいるが、今の人の様にまともなお方もいるのである!…って、俺は誰に言ってるのやら……。

 

「ねぇねぇ、顕人君はこういう事に興味ある?」

「こういう事って…開発系の事?」

「うん。ほら、男の子ってプラモとかの自分で作る玩具好きでしょ?だからこういうのにも興味示すのかな〜って思ってさ」

「あぁ…全員が全員そうって訳じゃないけど、俺はまぁ興味あるかな。…うん、自分で装備作ってそれを使えるならそれは興奮しそうだ」

「やっぱそうなんだ。だったらここに所属するのもいいかもね。部…って言っても部活感覚でやるものじゃないけど」

「そりゃそうだろうね…」

 

会社経験どころかバイト経験もない俺でも、社会における○○部というのが学校の部活とは全然違うという事位は分かっている。…っていうか、俺は現状どういう扱いなんだろう…綾袮さんの直属、って事は知ってるけど…。

…と、そんな会話で時間を潰してたところで先程の人に呼ばれた園咲さんがやってくる。

 

「やぁ、よく来てくれたね。では早速…といきたいところだが、流石に資料無しではお互いに大変だからね。取り敢えずは着いてきてくれるかな?」

 

そう言ったのは勿論園咲さん。園咲さんの言葉に俺達が頷くと、園咲さんはくるりと振り返って歩き出す。…ここでお願いしますって言ったらここで説明してくれたんだろうか…言わないけど。

 

「…そういえば私が電話をかけた時、丁度戦闘が終わって一息ついていたところだったらしいね。綾袮君は聞くまでもなく活躍したのだろうけど…顕人君、君はどうだったのかな?」

「私ですか?私は…何とか援護程度の事は出来ていたと思います」

「…落ち着いて謙遜が出来ている、という事はそれなりに満足のいく戦いが出来ていたんだろうね。そうだろう、綾袮君」

「そうだね。顕人君は動き回って撃ちまくってたよ、その分ちょこちょこ外してもいたけど」

「うっ…め、面制圧が目的だったからいいんだよあれで…」

 

今日の戦闘の事を話しつつ、今いる部屋を通って『部長室』と書かれたダグの付いている奥の部屋へ。

 

「ここに入るのも久し振りだなぁ…相変わらずよくある博士・教授キャラっぽい感じになってるね」

「私は研究者、開発者としての能力以外は目も当てられない駄目人間だからね。これでも整理の努力はしている方さ」

「それを言ったらわたしだって霊装者関連抜いたらただの可愛いハイテンションガールだもん、気にする事はないよ」

 

一体どういう関係性なのかはよく分からないが、綾袮さんと園咲さんは立場を気にしないで話せる間柄らしい。…そういうのって、ちょっと憧れるよな……さも当然かの様に思い切り自虐したり、しれっと自分の事を可愛いって言ったりするのは憧れの対象外だけど。

 

「ふふっ、気遣い感謝するよ。……じゃあ、改めて本題に入ろうか」

「あ、はい。お願いします」

「あぁ。まずは…顕人君、君は何故霊装者があまり多くの武器を装備しないのか知っているかな?」

「それは………霊装者は量より質を重視するから…ですか…?」

 

知っているかどうかと言われれば、答えはNO。でも知らないからって何も考えずただ知らないというだけじゃ芸が無いし、思い出してみれば前に聞いた綾袮さんの『最高レベルの大太刀一本(とトップレベルの能力)だけで事足りるから、無意味に装備を増やしたりはしない』というのは今回の問いに少なからず関連している筈。そう思って自分で考えた答えを口にしてみたところ……園咲さんは、ふむふむと頭を縦に振った。

 

「その答えは当たらずとも遠からず…といったところだね。その言い方に沿って述べるのなら…大半の霊装者は、量より質を取らざるを得ない、といったところさ」

「取らざるを得ない、ですか?」

「あぁ。例えば君が十発の弾丸を持っているとしよう。その時に五丁の銃を渡されたとして、その時君は一丁の場合より高戦力だと思うかい?」

「…五丁を同時に放てるなら、高戦力かもしれないですけど……そうじゃないなら二丁か三丁あれば十分な気がします。少なくとも五丁はあってもしょうがないかと…」

「いい着眼点だ、そしてその通りだよ。霊力が武器の質や量に関わらず本人次第な以上、武器の数だけ増やしたところで霊力を回しきれず、無用の長物になってしまうのがオチという事さ。ちょっとずつ振り分けて無理に全部使おうとするよりは、一つの武装を使い続ける方が安定もするからね」

 

そりゃあそうだ、と俺は心の中で相槌をつく。エネルギーである霊力だけあったって何の意味もない(身体強化があるから全く無意味という訳でもないけど)けど、逆に武器だけあったって霊力を回さなければ良くて普通の武装、悪いと単なる鈍器になってしまい、それじゃ魔物相手じゃデッドウェイトにしかならない。それに武装を使い分けるにしたって、武器持ち替えの度に霊力を装備にチャージし直してたら戦闘中に何度も隙を見せる事になるんだから、使い手としたら当然たまったものじゃない。

 

「…質を取らざるを得ない、ってのは量を増やすには霊力っていうネックがある…って事ですか……」

「まとめればそういう事だよ。装備が少なければやれる事は少なくなるけど、そこは複数の霊装者で役割分担すればいいだけだからね。というか、霊装者は複数人で戦闘に当たるのが普通で、綾袮君の様に単騎で戦う方が少ないのさ」

「わたしはスーパーエースだからね〜。…でも博士、それは理由の半分だよね?」

「ん、そうだね。霊力問題とは別に、駆け引き的な面でも理由はあるけど…それは研究職の私より、スーパーエースの綾袮君の方が分かり易く説明してくれるんじゃないかな?」

「あ、そう思う?ならわたしから説明しよっかな、えっとねぇ…」

 

園咲さんの振りはそこはかとなく皮肉っぽかったけど…綾袮さんはそんな事気にせず(もしかしたら気付きすらせず)説明を考え出す。そして、言った園咲さんの方も皮肉を言ったらしき様子は欠片も無かった。……え、何?俺の勘違いだったの?…それならそれでいいけど…。

 

「んー…そうだ。顕人君はさ、もしこの状況でわたしに斬りかかられたらどうする?」

「ど、どうする?どうするって……死あるのみ?」

「あ、ごめんごめん説明が足りなかったね。身を守る道具がない時に、斬りかかられたらどうそれに対処するか…って事だよ。反応は出来てるものとしてね」

「そういう事なら…まぁ、避けるかな。出来る事なら真剣白刃取りしてみたいところだけど」

「だよね。斬りかかられたら避けるか白刃取りするかの二択で、真面目に考えたら避けるの一択になる。…じゃあ、右手に剣、左手に刀を持っていて、更に盾を背負ってる状態で斬りかかられたら?その時はどうする?」

「うーん……絶対、じゃないけど多分剣で受けるかな…」

 

右手に剣、左手に刀ってどういう武器のチョイスをしてんだ…とは思ったものの、質問内容から察するに武器の種類は問題外っぽいから俺はそれを指摘せず、数秒考えた後に剣での防御を選択する。因みに、他を選ばなかった理由としては……

 

刀…三つの装備の中で最も受けるのに向いていなさそう

盾…持ち替えるにしても背中向けて当てるにしても他よりワンテンポ遅れる

避ける…さっきと違う条件なんだから回答も変えた方が良いかと…

真剣白刃取り…両手が塞がってて無理。スーパーコーディネーター宜しく武器を上に投げて白刃取りしろってのか

 

…と、こんな感じである。

それはともかく、選択を口にした俺。すると綾袮さんは、満足そうな表情を浮かべた。

 

「うんうん、いいね顕人君。わたしの求めてたもの通りの反応だよ」

「えーと…そうなの?」

 

腕を組んで頷いている綾袮さんは我が意を得たりな様子。でもそれだけじゃ俺には何が何だか全く伝わらず、首を傾げていると、綾袮さんもそれに気付いて説明を始めてくれる。

 

「顕人君さ、最初の質問の時より二問目の方が考える時間長かったでしょ?それが答えなんだよ」

「…つまり?」

「つまり、武器が多いと考える時間が増えちゃうって事。何にもない時は実質一択、あっても一つだけなら実質二択で済むけど、武器が多いとそれだけ選択肢が増えるよね?それに避けるにしたってどの方向にするか、防御するにしたって受け止めるか受け流すか弾くかっていう選択肢が発生するし、技量次第ではカウンターだって選択肢に入ってくる。選択肢が沢山あったら選ぶのにも時間がかかっちゃうけど……その間、敵や攻撃が待ってくれる訳ないよね?」

「選択肢が多い故の難点、か…選択肢が多いのはいい事だと思ってたけど、そうとも限らないんだね」

「そう、そうとも限らないんだよ。選択肢が多ければ戦闘のバリエーションが増えるし、対応出来る状況も増えるから選択肢は多くても少なくても一長一短なんだ。で、選択肢が多い事のメリットは人数を確保する事である程度賄えるのと、迷ってる間にやられた…っていう最悪のパターンを出来るだけ避けるのとで協会では少ない選択肢の方を選んでる…ってところかな」

 

綾袮さんの言葉は、実際に戦闘に精通してるからこその説得力があった。…こうして考えると、本当に戦闘中には様々な選択肢があるんだな…大概は無意識か一瞬の内かで選択してるから気付かなかったんだろうけど、この事は今後の為にも頭に入れておかないと…。

 

「…さてと、今までの話は理解出来たかな?」

「はい、理解しました」

「では、その上で…君には思うところがあるんじゃないかな?特に、前者に対して」

「前者に、ですか?……それは…」

 

霊力量と、選択肢による弊害。それが理由だという事を俺はきちんと理解出来た。その上で思うところ…と言われれば、確かにある。そう、霊力量と言えば……

 

「……霊力量が元から多い霊装者なら、前者の問題はクリアされるのでは…?」

「その通りだよ。霊力量を気にせず戦えるレベルの霊装者は往々にしてかなりの実力者だから、綾袮君の様なスタイルになっていくのだが…君は違う。霊力量だけが異様に飛び抜けている君だからこそ、呼んだんだ」

 

そう言いながら手元のパソコンを操作し、画面を見せてくれる園咲さん。そのパソコンを覗き込むと……画面には、コンテナにも砲台にも見える二基のユニットが映し出されていた。

 

「…これは?」

「固定型追加装備の一種、言い換えれば…背中と肩で保持するキャノン砲さ」

「お、おぉ……!…こほん。この流れで…という事は、当然霊力に関わる装備なんですよね?」

「ご明察だね。これは元々、霊装者の単騎での戦闘能力を向上させる為には発案された、手で持たずとも撃てる装備なのさ。だが、霊力の問題がある以上根本的な戦闘能力向上には繋がらず、それどころか砲の操作を全て霊力頼りにしている為にまともな運用をしようとするととても一般霊装者では霊力が持たない…という事で非実用的と判断された、哀れな系統の武装の一つ。……でも、君になら実用的な装備として使える…私はそう思ったんだよ」

 

真っ直ぐに俺の瞳を見据える園咲さんの言葉を、頭の中で理解し易い様噛み砕く。えぇと、早い話がエネルギー問題があるからお蔵入りしていた装備が、俺になら使えそう…って事か。……え、何この燃える要素。それにこの装備って、もしや……

 

「……ねぇ綾袮さん。綾袮さんは俺の戦い方をよく知ってるよね?」

「それは、まぁ…さっきもそれに触れたし、よく知ってるけど…」

「だったら…俺は、この装備が俺の戦い方に合ってると思った。綾袮さんはどう思う?」

「……わたしが合ってるって言ったら、使う気?」

「使ってみたいとは思ってるよ。…そういう話ですよね?」

「そういう話だよ。顕人君にその気があるなら、君用に調整したものを用意しよう」

「ちょっ、博士!確かに顕人君の成長は早いけど、まだまだひよこみたいなものなんだから焚き付けちゃ駄目だって!顕人君も、さっき言った選択肢の問題は忘れてないよね?」

「勿論覚えてるよ。けど、とにかく動き回って武装問わずに撃ちまくるって事であれば選択肢の問題はそこまで深刻にならないんじゃないかな?…まぁ、それが通用するのは雑魚だけなんだろうけど…」

 

武装選びに迷うのであれば全部撃ってしまえばいいし、霊力量が圧倒的なら霊力残量で頭を悩ませる必要もない。正直なところ、好奇心も無くはないけど…それを抜きにしても、霊力だけが突出してて戦闘能力自体は然程高くない俺と、戦闘能力向上には繋がるものの霊力消費に難のあるこの武装とは親和性が高い…そう俺は思っていた。けれど、綾袮さんは不安を感じてるらしくあまり乗ってくれない。

 

「わたしは元から才能バリバリのタイプだったから、経験で語る事は出来ないけど…それでも冒険をするのはもう少し後でもいいんじゃない?」

「綾袮君の言う事も一理あるが…私も無謀な事を頼む馬鹿じゃない。見込みがあると思って彼を呼んだんだ。ここは一つ、試すのを許してあげてくれないかな?もしそれで君が危険だと判断したなら、私はその判断に従おう」

「……博士がそういうなら、まぁ…顕人君、使う時はまた言うけど…絶対に調子乗っちゃ駄目。慎重に使うんだよ?」

「…分かった、気を付けるよ。…それでは園咲さん、お願いします」

「あぁ、きちんと準備しておくよ」

 

園咲さんの頷きで会話は終わり、俺達は今度こそ帰る事となった。結果的に綾袮さんの意見を否定する形になった為、綾袮さんは不満げになるかな…と思っていたけど、特にそんな様子はなくて俺は一安心。そうして俺はその装備を使った戦闘の事を思い浮かべながら、綾袮さんと共に部屋を後にするのだった。


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