双極の理創造   作:シモツキ

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第二百三十八話 負ける気も、譲る気も

 妃乃に託され、魔人を妃乃と綾袮に任せ、俺は飛んだ。御道の後を追い、地下空間のある場所へと向かった。

 間に合うかどうか分からない。分からないから、突っ走るしかない。そんな思いで駆ける中、見えたのは空に浮かぶ赤い光。そこへ向けて、少しズラして、俺はライフルで一発発砲。撃った後も、接近を続け…俺は、相対する。ゆっくりと振り向いた……御道へと。

 

「…さっきの魔人は、妃乃さんが?」

「あぁ。今はまだ綾袮と一緒に戦ってるだろうが…じきに来るだろうさ」

「…そっか、綾袮も……」

 

 振り返りざまに反撃…って事も考え警戒はしていた俺だが、御道は構える事もなく、自然な雰囲気で訊いてくる。それに俺が答えると、御道は俺の後ろへと目をやり…視線を戻す。

 

「よくもまあ、ここまで来たもんだ。頑張り過ぎだろ」

「それは、どっちの意味?」

「…さぁ、な」

 

 この戦いで、ここまで侵攻を果たした事に対して言っているのか、それとも『こんな今』にまで辿り着いた事、行き着いてしまった事に対して言っているのか。…そんな御道の問いに、俺は答えをはぐらかす。どっちの意味かだなんて……俺自身も、決めちゃいない。

 

「…俺は、ここまで来られて良かったと思ってる」

「そりゃ、両方の意味でか?」

「うん、両方の意味でね」

 

 問いも、答えも対照的。…意趣返し?いいや、違う。御道はきっと、思っている通りの事を言っただけだ。この対称性が…そのまま俺と御道の違いなんだ。

 

「…そんなに、諦められないかよ」

「諦められないね。諦められないし、諦めたくもない」

「俺からすりゃ、元から御道は充実した毎日を送ってたように見えたんだがな。…それが御道にとっては、味気なかったって事か?」

「そんな事ないよ。霊装者になる前から、それなりに良い生活を出来ていたと思ってるし…霊装者である事を抜きにしたって、今の俺にある…俺にあった毎日は、充実していた。だけどそれは、俺が望んだ日々じゃない。それはそれで充実してるから良い…そう思って妥協出来る程の望みじゃないんだよ。それに…ただ想像してた頃より、一度知ってから失った後の方が、状況は同じでもずっと堪えるもんだよ?」

「…まあ、それはそうだろうな」

 

 価値観も望みも人それぞれだが、最後の部分は理解出来る。確かに人は、何も知らない時より、知ってから失った後の方が辛く感じるものだ。それがある喜びも、それがない喪失感も知ってしまうからこそ、人は失ったものを取り戻したくなる。俺だって、もしも緋奈を失ったら…今ある繋がり、昔は得られなかった結び付きを無くしてしまったら、その時の悲しみは昔の比じゃないだろう。取り戻そうと、躍起になるのは間違いない。

 けど、だからって俺は、御道をそのまま行かせる訳にはいかない。俺だって、そんな柔な気持ちで今ここにいる訳じゃない。

 

「千嵜こそ、どういう風の吹き回しでここに?まあ、任務だからって事なら、そりゃそうだなって話だけど」

「…深い意味はねぇよ。ただ、分かっただけだ。自分の本当の、望みってやつが」

「…変わったね、千嵜」

「御道こそ……いや、御道は変わってないのかもな。俺が、知らなかっただけで」

 

 前の俺は、戦いや霊装者の世界そのものを避けていた。俺の望む日常と、霊装者の世界は違うと。関われば関わる程に、再びそちらの人間に染まっていってしまうと思って。

 それが多くの人と知り合い、色んな経験をし、日々を重ねていく中で、何気ない日常以上に、守りたいって思うものが増えた。そして今は、はっきりと言える。霊装者の世界も、何気ない日常も、結局は要素に過ぎないんだと。俺の本当の望みは…自分が大切だと思うもの、尊いと思えるものを、全部取り溢さずに、掴んで守る事だって。これは人に誇れるような、立派な望みじゃないのかもしれないが…それで結構、大いに結構。元から人に誇れるような人間じゃねぇのが、この俺だ。

 

「…止めるなとは、言わないよ」

「あぁ。俺も止めはするが、考え直せとは言わねぇよ」

 

 互いに、相手を説得しようとは思っていない。戦場だろうが何だろうが、戦わずに済むのなら、それに越した事はないが…もう、そういう段階じゃない。相手の思いや真意が分からない、不理解故の対立ではなく…これは互いに譲る気のない、自分の行動を、思いを貫く為の戦いだ。

 俺はそれ以上の言葉を言わず、御道も何かを言う事はなく、正対したままで静寂に包まれる。穏やかではない、だが張り詰めているとも違う、上手く形容出来ない空気がこの場に流れ……先に動いたのは、御道の方だった。

 

「ふ……ッ!」

「……ッ!」

 

 背中から腰の左右へ滑り出るようにして、俺へと向けられた二門の砲。反射的に俺は斜め上方へと飛び退き、次の瞬間赤色の砲撃が放たれる。

 先制攻撃と、それに対する回避。すぐに俺はライフルを向け、反撃を与えようとしたが…すぐに気付く。向けられた砲は二門ながら、放たれたのは一条だけである事に。砲撃に移らなかったもう一門は、俺の動きを追っている事に。

 

(やってくれるじゃねえか…!)

 

 初めに向けられたのは二門。だから同時砲撃が来るものと思った俺だが、当たり前の話として、向けた砲は全て一度に撃たなきゃいけないなんて道理はない。ブラフとしては、誰だって出来る単純なもので…だが単純化しがちな「一瞬の判断」を利用したブラフだからこそ、案外強い。

 今度こそ放たれたもう一門の攻撃も避ける為、俺は反撃中止。身を翻せば、当然次の攻撃が、二丁の携行火器による追撃が俺を襲ってくる。

 

「なんだ、逃げないんだな…ッ!」

「この程度で逃げても、碌に距離は稼げないだろうからね…ッ!」

 

 傾向火器と、四基の内の二つ、合わせて四門の射撃と砲撃があれよあれよと飛んでくる。反撃したいところだが、下手に射撃戦をしたとしても、火力の差で押し切られるとは明白。

 その一方で、御道の動きはそこまで激しくない。どうもあの砲は主推進器を兼ねているらしく、その内二つを攻撃に回してるなら、機動力が大きく落ちるのも当然の事だが…だからって、安直に高機動戦を仕掛け、火力を活かせない近距離にまで接近を…という訳にはいかない。

 

(あの装備の各部にも砲があるって話だったな…全く、飛び抜けた霊力量をフル活用出来る装いをしやがって……)

 

 如何に多くの霊力があっても、一度に使える武器の数には限界がある。だから霊力は多いに越した事はないが、霊力量だけあっても有効活用は難しい、ってのが普通の考え方な筈だが…御道の今の装備は、武器にしろ推進器にしろとにかく増やして強引に霊力の多さを活用出来るようにしている。御道のバックにいる組織がそれだけの技術を持ってるって事なのか、それとも身体に負荷をかけて無理矢理実現してるのか…何れにせよ、弾幕の正面突破は難しい。頑張れば出来るかもしれないが、わざわざ大火力も正面からやり合う必要もない。

 それに、必要不要の話で言えば、別に勝つ必要もない。妃乃や綾袮が追い付いてくるまで足止め出来りゃ、それだけでも勝利はほぼ確実になる。…が……

 

「狙いが甘いんだよッ!」

 

 上昇をかける…と見せかけ、右手の直刀を横へ振り出し方向転換。俺の上を通り過ぎていく攻撃を視界で捉えながら、やっと俺は御道に反撃。ライフルを向け、射撃を御道に浴びせていく。

 当然御道は回避する。回避中は攻撃ばかりに意識を向けられない分、弾幕の質は大きく落ちる。

 

「悪ぃがそっちが連戦だからって、手を抜くつもりはないからな…ッ!」

「当、然…ッ!」

 

 薄くなった弾幕を避けながら、射撃と共に接近をかける。こっちも魔人からの連戦ではあるが、疲労は間違いなく御道の方がしている筈。

 とはいえ御道も、そこまで簡単にはやられない。下手に回避に徹するのではなく、薄くなろうとも射撃と砲撃を続け、俺の接近を阻まんとする。そして、撃ちつつ近付こうとする俺と、回避しつつ迎撃を図る御道との最初の攻防は、御道へと軍配が上がった。

 

「そう簡単に…近付かせるかよ…ッ!」

 

 いけるか、と思った瞬間、肩越しに俺を狙う追加の二門。ここまで飛行と回避に回していたもう二基も攻撃に転じさせ、真正面から俺の接近を押し返す。

 尚且つ御道は、主推進器全てを砲にしたからか軽く落下。他の推進器で姿勢はすぐ立て直しつつも降下していき…高度を下げる形で、距離を取ってくる。

 

(…上手いな。随分と、戦い慣れてるじゃねぇか)

 

 落ちるを降りるに、落下を降下に置き換えた、技術ではなく発想の技。さっきのブラフもそうだが、御道は大火力を持ち味にしながらも、ゴリ押しはしてこない。大火力や手数の多さを活かしつつ、欠点や足りない部分を上手く発想で補っている。純粋に強い、シンプルに格上である妃乃や綾袮には敵わなくても、そうじゃない相手となら…御道は自分の能力以上の相手にも食らい付き、躱して凌いでここまで到達したんだろうと、本気でそう思わせるだけの力を、実力を感じる戦いを御道はしていた。

 

「……けど、甘いな。上手いが…まだまだ甘ぇよ、御道」

「……っ、何を…くぉ…ッ!」

 

 降下する御道を追う。真っ直ぐにではなく、渦巻きを描くように旋回しながら、その形で少しずつ距離を詰めながら俺は撃つ。回避を主体にしやがらも左手で撃ち、右手の直刀で迎撃を斬り払い、俺は御道への接近を続ける。

 霊力量という才能はある。技術も悪くないし、戦いの思考や上手い発想だって備えている。それに御道は感情…激情を力に変えられるタイプだし、戦闘が長引けばそんな部分が出てくる可能性もあるだろう。はっきり言って、一筋縄じゃいかない相手である事は間違いない。だが既に、強みと同時に、俺は御道の弱みも見つけていた。

 

「言ったろ?こっちは手を抜く気はない、ってよ…ッ!」

 

 焦る事はない。落ち着いて狙い、落ち着いて見極める。動きを、弾道を見切って、それに合わせて射撃や斬撃を叩き込む。加減速をかけながらの旋回で、曲線主体の動きでしっかりと避け、避け切れない分を的確に対応して、カウンター気味にこっちも仕掛ける。

 俺が見つけた弱みは二つ。一つは、攻撃にしろ動きにしろ、結局のところは霊力量任せだという事。それに合わせた装備を纏い、フル活用する事で中々の弾幕形成をやってのけてるんだから、凄くはあるが…質を量で誤魔化すような攻撃故に、纏めて対処しようとすると厄介だが、一発一発は大した事ない。きっちり避け、残りを防御するというスタンスを徹底出来れば、弾幕にも対応出来るし…動きに関しても、急な加減速や細かな部分の滑らかさに欠けている。制御、調整が求められる部分を、別方向へのより強い推力で強引に捩じ伏せ動いているんだから、どうしてもそこが欠けてしまう。…まあ、見方を変えりゃ得意分野でそれ以外を補ってるとも言える訳だが。

 

「そっちはまだ余裕そうだね、千嵜…ッ!」

「ったりめーだ、連戦云々抜きにしても…こっちは年季が違うんだよ…ッ!」

 

 時に宙返りを混ぜ、時にはわざと射撃を変な方向に外す事で困惑を引き出し、攻撃と接近を続行。近付けばその分、弾幕の密度も上がるが…当たりはしない。

 当たらない理由の一つは、その為の動きをしているから。連射される光弾は勿論、砲撃も一見強そう…というか当たったら一溜まりもないが、しっかりやれば両断出来る。高密度の収束ではなく、とにかく霊力量を増やして威力を上げているだけだからこそ、斬って斬れない事はない。

 だがこれだけなら、御道にはまだ届かない。何せ俺だって、妃乃レベルの実力がある訳じゃねぇんだから。恐らく霊装者としての能力は、今の俺と御道とでそこまでの差はなく……されどある一点で、俺は御道を遥かに上回っている。御道の弱みでもある、とあるもう一つの点においては。

 

「年季…確かに年月じゃ千嵜の方が上だろうさ、でも『今』の経験だけで言えば……」

「──そういう意味じゃ、ねぇんだよ」

「な……ッ!?」

 

 仕掛けるタイミングを計り、無理に攻めず、だがプレッシャーは与えられるギリギリの距離を保つ俺。御道もその微妙な距離を保たれるのは不味いと思ったのか、砲撃で追い立てつつ、左手のライフルを向けてくる。

 そうする瞬間を…ライフルによる偏差射撃をする瞬間を待っていた。砲は使わず、ライフルでのみ…もっと言えば、どちらか一丁のみが偏差射撃に移る瞬間を、俺は狙っていた。

 偏差射撃…つまり今の俺の先を狙う動きが見えたと同時に、俺は空で急ブレーキ。一気に速度を落とすと、御道もそれに合わせて銃口を予測地点から今俺がいる場所、俺自体へと向け直す。その一瞬で、俺は心の中でほくそ笑み…身を、翻す。射撃が来ると分かった上で、自ら的になるが如く真っ直ぐに突っ込む。

 

「……ッッ!…ぁ、しま……ッ!」

 

 普通ならそれは、自殺行為。銃口が自分に向いている状態で突っ込むなんざ、撃ってくれと言うのと同義。……だが、放たれた霊力の弾丸は当たらない。俺の側を掠めはすれど…御道自身が銃口を逸らした事により、攻撃は外れる。

 これが、御道に欠けるもう一つの点。なんて事ない、単純な、シンプルな…人を殺す事への躊躇い。俺は御道の攻撃が、さっきからずっとギリギリズレている…一発で致命傷となる、急所への直撃にはならないように放たれている事に気付いていたからこそ、それを利用した。わざとその直撃コースに入る事で、御道の攻撃を鈍らせた。

 別に、短所だとは思わない。人を殺す事に躊躇いを持つのは当然で、まともな精神があるならそうそう出来る事じゃない。……相手が見える状態で、命の取り合いを何度もしているような人間でもない限りは。

 

「そこだッ!……なんて、なッ!」

「あぐ……ッ!」

 

 突進する俺に対し、御道は逸らした。そうなれば当然、一気に俺は距離を詰められる。そして格闘戦が出来る距離まで接近した俺は、直刀を持つ右手を振り上げ…左脚を振り抜く。直刀での攻撃を囮に、直刀で斬ると見せかけて、手薄な腰の辺りを蹴り付ける。

 諸に蹴りが入った事で、回転しながら落ちていく御道。大きな隙を作り上げた俺は、今度こそ本命の攻撃を仕掛けようとし…だがそれは、例のユニット各部からの砲撃によって阻まれる。回転しているからか、狙いは滅茶苦茶だが…結果それが拡散攻撃の様になって、俺は回避を余儀なくされた。

 

(一発蹴りを入れられたとはいえ…一回限りの手で得られた成果としちゃ、正直薄いな……)

 

 仕方ない、と俺は思考を切り替えながら、構え直す。殺しへの躊躇いは意識したからって消えるもんじゃないが、二回目は一回目より冷静に対応される可能性が格段に上がる。そうでなくとも、反射的に逸らせない攻撃ってのもある訳で…この奇策は恐らくもう使えないか、かなりの工夫をしなきゃ通用しない。

 

「だが……ッ!」

 

 連射は出来ないようで、各部からの霊力ビームはすぐに収まる。その直後に俺は再度突進をかけ、二度目の近接戦に入る事を狙う。成果は薄くても、一撃は一撃。先に一発当てられたという事実だけでも、意味はあると切り替えて。

 

「御道!御道じゃ俺には勝てねぇよ!将来はどうか知らねぇが…少なくとも、今はなッ!」

「あぁ、かもね…だけど、こっちだって負ける気はないんだよ…ッ!」

 

 立て直す御道を射撃で妨害しつつ、接近。再びの近接攻撃を仕掛けようとし…だがそこで、御道の方から突っ込んでくる。

 左手のライフルの銃剣を用いた、突進そのままの刺突。そう来るとは思わなかった俺が直刀で逸らすと、御道は次の攻撃に移る事なく、逸らされたままに加速し俺から離れていく。ちっ、これを狙ってやがったか…!

 

「(上手くやられた…が、背中を見せるなら追うまで──)うぉ…ッ!?」

 

 即座に反転し背後を取る、ドッグファイトなら有利な位置につけた俺だが、四基の主推進器の内二つが後ろを向いたまま切り替わり、背後へ向けた砲撃を放ってくる。連続で予想外な事をされた俺は回避に移るのが手一杯で、御道に距離を取られてしまう。

…やはり、油断は出来ない。勝機はあるが…油断をすれば、こっちが負ける。

 

「そう何度も、簡単に近付けると思うなよ…ッ!」

「そっちこそ、策を駆使すれば何とかなるなんて…思わねぇ事だ…ッ!」

 

 距離を取ったところで振り向いた御道は、再び射撃と砲撃を撃ち込んでくる。ライフルで応戦しつつ次の機会を探っていた俺だが…やっぱりさっきより警戒されている。同じ調子じゃ切り込めない。

 だが、それならこっちも攻め手を変えるまで。俺はライフルを純霊力の刃へと持ち替え、二刀流に移行。二振りの刃で迎撃を斬り裂き、狙うは弾幕の正面突破。

 

「ごり押し…!?」

「だと思うなら、押し返してみやがれッ!」

 

 真っ向からの突破を狙うとは言っても、高速連射…要はマシンガンタイプの射撃は捌き切れない。だからそれは避け、右程そこまで連射速度が高くない左のライフルの射撃と、砲による単射を斬り裂きながら進む。少しずつ御道の射撃に慣れてきた事で、見えてくるのは攻撃の隙間。

 

(けど、もう一手だ…もう一手、重ねる事で……)

 

 引き撃ちに移行する御道と、斬り払いながら追い掛ける俺。攻撃に向かう事になる俺と違い、取り敢えず下がれば良い分また距離が開き始める…が、御道だってこれじゃ勝負が付かない事位分かっている筈。そして御道はのんびり戦ってなどいられない以上、必ずどこかで仕掛けてくる。

 そう思い、突撃を続ける。近付く事を止めず、諦めず、しつこく御道に追走をかけ……その瞬間が、訪れる。

 

「千嵜が強いって事は、分かってさ…!だから、これで……ッ!」

「……ッ!」

 

 不意に、突如として止む攻撃。反射的に俺は、一気に距離を詰めようとし…だが経験が柱となった勘とでも言うべき何かが、俺の意識に待ったをかける。本能的に、俺はその勘に従い……次の瞬間、放たれたのは無数の光。二丁のライフル、四門の砲、そしてユニット各部の砲……その全てを用いた一斉掃射が、俺の視界を埋め尽くす。

 

(これ、は……ッ!)

 

 殆ど思考を介さず、直感的に俺は二振りの刃を走らせる。出来るかどうか、どう捌くのが一番効率的かなんて全く考えず、ただひたすらに下がり、捌き……霊力刃の発振部、謂わば持ち手と刃の境に光弾が直撃した事で、爆ぜる霊力剣。何とか爆ぜる直前に手放した事で、手が駄目になる事は避けられたものの、俺は落ち……

 

 

 

 

 

 

──次の瞬間、複数の刃が御道の纏うユニット、その一部を貫き斬り裂く。

 

「な……ッ!?」

 

 衝撃と、それに恐らくは驚愕で止む御道の攻撃。武器を一つ失い、身に纏う戦闘用のコートに細かな焼け跡が幾つも残ってしまう状態になりながらも、一斉掃射を切り抜けた俺。そして御道の攻撃を終わらせた刃は…五基のユニットは、弧を描くように飛びながら使い手の下に……俺の下に、戻ってくる。

 

「遠隔操作端末…?…まさか、さっきの一瞬のタイミングで……」

「言ったろ?御道じゃ俺には勝てねぇって。…負ける気なんざ、こっちだってねぇんだよ」

 

 空中で立て直し、改めてライフルを抜き、俺は歯噛みをする御道を見やる。構え直し、神経を研ぎ澄ます。

 俺と御道の戦い。予言された霊装者同士の…依未が見た通りとなってしまった戦い。勝機はあるが、絶対に勝てるとは限らない。負ける可能性もゼロじゃないが、勝つ可能性だって十分にある。そんな、俺達の戦いは……まだ、終わらない。


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