双極の理創造   作:シモツキ

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第二百三十一話 覚悟は決まり…?

「あんた、いつの間にか霊装者として戦う事に対して、積極的になったわよね」

 

 偽移送作戦の決行日が、近付いている。その一度で決着がつくのか、ずるずると続いていく事になるのか…だが何れにせよ、負ける訳にはいかない戦いが。

 そんなある日、俺は依未を家に呼んだ。けど別に、何かをしようって訳じゃない。ただ、偽移送作戦の後、どういう事が待っているか、何が起こるか分からないんだから、時間の合う今日は、家にでも呼ぼうか。そんな事を考え家に招き、いつもの調子でゲームをしている最中…依未から、そんな事を言われた。

…因みに、何が起こるか分からない…って事の中に、俺が生きているかどうかは含めていない。死ぬ気なんざ、微塵もないんだから。

 

「それは俺が積極的になったんじゃなくて、協会が使える戦力を遊ばせておく余裕がなくなったって話だろ。組織の人間は、あくまで指示を受けて動くんだからよ」

「そういう意味で言ってるんじゃないっての…」

「そうだよお兄ちゃん。後、それについてはわたしも同感かな。わたしの事抜きにしても、今のお兄ちゃんは積極的でしょ?」

 

 コントローラーで操作しつつ淡々な調子で返答すると、依未からは不満げな、同じ部屋(リビング)にいる緋奈からは自分も気になる、という雰囲気の声を返される。…まあ、なんだっていい雑談のネタとして振られた訳じゃないのは分かっていたが…どうも、二人は俺が思っている以上に本気でそれを訊いているらしい。…だったら依未も依未で、ゲーム中に訊くなよ…まあいいけども。

 

「…まあ、確かに前より積極的なのは否定しねぇよ。けど、さっき俺が言った事も、別段間違っちゃいないだろ?」

「それは…まぁ、そうだけど…」

「そもそも何にもなきゃ、平穏無事なら、俺だってのんびりしてるさ。けど、今はそうもいかない現実があって、俺も俺で前とは考え方が…いや、違うな。考え方と、思いが変わった。戦う理由、自分の出来る事に向き合う意味が増えた。ただ、そんだけだよ」

「…そんだけ、って割には、複数言ったね…」

「う…そこはいいんだよ、そこは……」

 

 重箱の隅をつつくような緋奈の指摘に言葉を返し、まだ説明が必要か?…と二人を見やる。必要だ、って返されて場合、これ以上の説明なんかないんだから困る訳だが…どうやら二人はそれで納得してくれたようだった。

 

(…積極的、か…前の俺にゃ、呆れられるかもだが…後悔はねぇさ)

 

 ありきたりな日常さえあれば良いと思っていた、去年度初めの俺からすれば、何を血迷ったんだ…とか思われるかもしれない。だが、守りたいものが増えた事を、今の俺は後悔していない。後悔どころか、増えてよかったとすら思っている。そして、ただ守りたいものを守るだけじゃなく、失いかけてる『日常』を取り戻す為にも、俺はこれからの戦いを……

 

「はい、隙有り」

「あっ……」

 

 無防備なところへ容赦無く攻撃を浴びせられ、無残にもやられる俺の操作キャラクター。画面では依未の操作キャラが、隣では依未本人が満足そうに口角を上げており……え、ズルくね…?語らせといてそれは、ズルくない…?

 

「戦いは非常よ、悠耶」

「…よし、ちょっと俺の部屋行こうか依未。今言った言葉の重み、しっかりと理解させてやるからよ…」

「えっ、ちょっ…うぇっ!?」

「え、お、お兄ちゃん…!?」

 

 俺が軽く流すような返答をしたら不満そうに返され、真面目に考えて言い直したらその隙を突かれ、しかも何故か煽られた。……ほーぅ…今日はまた、随分と舐めた事をしてくれるじゃないか依未…。

 と、いう訳でお返ししてやろうと思った俺はゲームを止め、おもむろにに依未の腕を掴んでゆっくりと立つ。すると依未は目を見開いた後途端にあたふたと慌て始め、頬も赤く染まっていく。何なら緋奈も依未と似たような声を出している。

 全くもって予想通りの、思った通りの反応。だから俺は内心でほくそ笑みつつ、表面上はそれ一切出さずに…一拍置いて、言った。

 

「うん?何慌ててんだ二人共。俺は俺の部屋にある別のゲームの内、誰にするか選ぶ為に依未も連れて行こうと思っただけだぞ?」

『…へ……?』

 

 きょとんとした表情を浮かべた数秒後、再びみるみる内に顔が赤くなっていく二人。…もう、完璧に狙い通りである。歳下の女子(それも片方は実妹)に勘違いを誘発するような事を言って、こっちから知らんぷりしてその勘違いを指摘し、恥じる姿を見て勝利の感慨に浸る。……冷静に考えるとヤバい男だが、依未はともかく緋奈はとばっちりもいいところだからちょっと可哀想でもあるが…気分はとても良かったです、はい。

 

「くっ……ほんっとあんたって、捻くれてるっていうか捻じ曲がってるわよね…!」

「はっはっは、それはお互い様だろ依未」

「あたしはあんた程は……ぐっ、うぅぅ…!」

 

 優越感たっぷりな今は毒づかれても余裕で返せる。逆に依未はといえば、言い返そうとしたっぽいが途中でその言葉は途切れていた。…自分を省みて、否定し切れないと思ったんだろうか。そしてそれで止めたのなら…やっぱり依未は、表面的な性格が捻くれてるのとちょっと後ろ向きなだけで、根は普通に良い子なんだと思う。

 

「…まぁ、それはともかく…なんでまた急に、そんな事を言い出したんだ?」

「…別に…ただふと思ったから、言っただけよ…」

「本当か?…ここ最近の事、これからの事…そこに思うところがあって、だから言ったんじゃないのか?」

 

 ちょっと上がってたテンションを戻して俺が訊くと、依未は今し方してやられた事もあってか目を逸らす。だが何となく、本当にそうだとは思わなかった俺がじっと見つめてもう一度訊くと…依未は、小さく頷く。

 

「…こういう時だけ、無駄に鋭いんだから、あんたは……」

「悪いな。…で、なんなんだ?」

「…前に、話したでしょ?…あたしは、未来が見えていた…見えてたのに、何も出来なかった……」

 

 そう言って、依未は小さく俯いた。情けない、申し訳ない…そんな感情を、言葉に籠らせて。

 俺は、思い出す。確かに俺は、依未の見たものを、予言を聞いていた。赤い光と、敵対しているように見えた俺と御道の姿…それは現実となったものであり、避ける事が出来なかったというのも間違っちゃいない。そしてもし、避ける事が出来ていたのなら…そっちの方が、ずっと良かったに決まっている。…けど……

 

「なんだ、そんな事気にしてたのか」

「そ、そんな事って…どう考えてもこれは、『そんな事』で片付けられる事じゃ……」

「そうだな。けど避けられなかったのは、何も出来なかったのは、俺や妃乃も同じだ。その事を聞いていた人間は他にもいて…全員が、何も出来なかったんだ。だから別に、依未が責任を感じる事じゃねぇよ」

 

 気にするのは分かる。自分が発端なら、気にしてしまうのも無理はないのかもしれない。だが、だったらこれは依未が悪いのか?こうなったのは、依未のせいか?…そんな訳があるものか。依未の話した通りの光景だったってなら、実際に起こった事を予想するなんざ土台無理な話で…それでも責任を求めるのなら、それは全員の力不足ってものだ。

 

「……でも、友達でしょ…?友達が、取り返しのつかない事をする前に止められてたら…そうは、思わないの…?」

「うん?…なんだ依未、もしかして責任感じてたってよりは、俺に悪いと思って気にしてたのか?」

「……っ!?ぁ、う、そ、それは……」

「…だったら、尚更気にする事なんざねぇよ。まあ勿論、事態的には起きずに済んだ方が良かっただろうが…御道だって、あいつなりの覚悟や信念を持ってやってるんだ。そういう心構えで以って行動に移した筈だ。…だから俺は、それを無視してただ『未然に防げていたら』なんて思ったりはしねぇよ。…それは、御道に失礼ってもんだからな」

 

 もし未然に防げたのなら、そっちの方が楽だったのは間違いない。苦労や苦心をせずに済んだ人も多いだろうさ。けどそれが、今御道の中にある意思の行き場を失わせる事なら…俺はそれを、望めない。力を失い、それでも…どんな形であれ再び進んでいた御道から、意思の行き先をも奪うというのは、違うだろうと俺は思う。

 だが…それとは別に、今俺はある事を思った。だから俺は、それを伝えようと思い…依未の、頭を撫でる。

 

「…けど、ありがとな。俺の事、気にしてくれてさ」

「……っ…べ、別に…こんなの、感謝されるような事じゃ…」

「いいんだよ、俺が言いたかっただけなんだから。…いいだろ?感謝したって。俺は、嬉しく思ったんだからよ」

 

 また顔をほんのり赤らめる依未へ俺は軽く笑い、そのまま言葉も撫でるのも続ける。

 もし依未が俺の事をどうでも良いと思ってたなら、こんな話はしないだろう。そして、昔の俺でもまぁ、気にかけてくれた相手を邪険に扱う事はなかった…と思うが、今ははっきりと、気にかけてくれた相手には感謝を、ありがとうって気持ちを伝えたいと思っている。だから依未へ、何だかんだ言ってもよく俺の事を気にかけ心配してくれる依未へと感謝を伝え……そこで感じたのは、背後からの視線だった。

 

「…お兄ちゃんって、依未ちゃんとは結構躊躇いなく距離詰めるよね…」

「ふぇっ…!?ひ、緋奈ちゃん…!?」

「ん?…あー、言われてみるとそうかも…?」

 

 振り返れば、緋奈は見るからに不満そうな顔。その発言を受けた俺は、言われてみるとそうかもなぁ…なんて普通に受け止め、一方依未は更に赤面。

 

「気にかける云々なら、わたしも普段からお兄ちゃんの事、凄く気にかけてるんだけどなー?」

「なんだ、そういう事か…勿論、緋奈が気にかけてくれてるって事も分かってるさ。緋奈からの気持ちは、もう俺にとっては自分の一部みたいなもんだからな」

「い、一部って…あんた、何言ってるの…?」

「ん…分かってるなら、良いけど…」

「え…緋奈ちゃん…?…待って、今のは緋奈ちゃんにとってスルー出来るレベルなの…?」

 

 身近過ぎて気付かないものってのは色々あるが、どれだけ身近でも忘れたりしないのが緋奈の思い。そう思っている俺が普通に頷き、緋奈もまだちょっと不満を残している様子ながらも「なら良い」と言ってくれて…一人、依未だけは唖然としていた。…まあ、仕方ないね。俺と緋奈の絆は、言葉じゃとても言い表せない領域なんだから。

 

(…っていうのは、置いとくとして……)

 

 別に今の思考はふざけてた訳じゃないが、それを考えてたところで何かが変わる事はない。

 それより考えるべきは、緋奈の思い。さっきは普通に返してしまったが、本当にここ最近は今まで以上に色々気にかけさせて…心配をさせてしまっただろうし、次の作戦だってそうだ。俺は緋奈に色々心配をさせて…なのにいつも、変わらず俺に日常の温かさを、家族の幸せを感じさせてくれている。感謝を示したいと思えるのは…決して、依未に対してだけじゃない。

 

「…緋奈も、ありがとな。いつも俺の事を、待っていてくれて」

「…うん。それが今の…まだ弱いわたしに、それでも出来る事だから」

 

 依未を撫でていたのとは逆の手で緋奈を手招きし、緋奈の事もゆっくりと撫でる。普段感じている、いつもの感謝を…何気ない、けれど凄く大切な事を。

 

「ほんとに、いつも助けられてるよ。こういう言い方をすると、緋奈としては不満かもしれないが…緋奈がいつも通りにいてくれる、それが俺にとっては嬉しいし安心するんだ」

「分かってるよ、お兄ちゃん。…どんな形でも、お兄ちゃんにとってそういう存在でいられるなら、わたしは嬉しいな」

「…くぅ…!良い妹だろう、依未…!」

「いや、この流れであたしに振らないでよ…。……分かるけど。ほんと緋奈ちゃん良い子過ぎるっていうか、見てるだけで心が癒されていく感あるけど…!」

「あ、おう……」

 

 ほんとに緋奈は、俺の心をがっちり掴むような言葉を言ってくれる。その嬉しさを噛みしめるように、俺は依未へと軽く自慢し、依未はそれに対して呆れ……たものの、その後小声で、ギリギリ聞こえるか聞こえないか位の声で、がっつり俺に同意していた。…緋奈だって近くにいるのに、よく言ったな依未……。

 

「…後、いつまで頭に手を乗せてるのよ悠耶…流石にもう、何これ感が凄いんだけど……」

「っと、悪い。確かにそれもそうだな…」

 

 とか何とか思っていたら、今度は依未が半眼で俺を見やってくる。

 ほんと確かに、何もせずただただ頭に手を乗せられるだけ…というのは、何これ感が凄い。俺から見てもなんじゃこりゃなんだから、依未からすれば反応に困るなんてレベルじゃないんだろう。だから俺は、すぐに手を離そうとし……

 

「……悠耶?」

「…お兄ちゃん?」

 

 二人の頭から離そうとした手。それを俺は、離しかけたところで止める。そして、きょてんとしている二人の頭に触れ直し…再び、撫でる。

 

「…俺は二人に、心配すんなとか、いつも通りに戻ってくるとか、そういう言葉しかかけてやれない。二人には、待っていてもらうしかない。依未は能力の事があるし…緋奈だって、まだ自衛以上の訓練はしていないんだから、力を貸してほしいとは言えない。…それは、誰も幸せになれない事だからな」

「…分かってるよ、お兄ちゃん」

「そこは気にしないで頂戴。自分が、そういう事は出来ない人間なんだって事は理解してるし…ずっと前に、割り切ってるから」

「そっか…でもな、自分勝手な考えかもしれないが…そう言える相手がいるのって、凄く心強い事なんだよ。…や、心強い…って表現だと、微妙に間違っているような気もするんだけど、さ」

 

 柔らかな二人の髪を撫で、その手触りを感じながら、ゆっくりと俺は二人に話す。緋奈も依未も、今の自分に対しては冷静に、それが現実なんだと受け止めていて…けどそれは、諦めによるものなんかじゃない。今を受け止め、その上で前を、未来を見ている…二人の表情からは、そんな風に感じられた。

 だから俺も、言葉を続ける。そんな二人がいてくれるからこそ、俺がいつも思えてる事を。抱けている気持ちを。

 

「昔の俺は、その場の事が全てだった。一人じゃなかったが、俺が世話になった相手は皆、同じように戦場に立っていたからな。それが普通だったし、ある意味楽でもあったよ。何せ、全員が当事者だからよ」

「…昔…そっか、お兄ちゃんは……」

「あぁ。だから、家族だとか友達だとか、待ってる人がいるってのは、さぞ大変だろうなと思っていたよ。重荷が多いと、身動きも取り辛いんだろう…ってな」

 

 何一つ守るもののない人間は、弱い。弱点がないんじゃなく、生きる意志や目的もないんだろうから、脅威になんかなりゃしない。それは分かっていたが、戦うなら身軽な方が、余計なものは少ない方が良いとも思っていた。だから、昔の俺はその時の環境が(満たされないものはあっても)生きるのには適してると思っていたし、そういう考えも多分間違っちゃいない。…けど、今の俺は……違う。

 

「でも、緋奈や依未っていう存在が出来て、そういう立場で戦って…分かったんだよ。待ってる人がいるってのは、他のどんなものより、死ぬ訳にはいかない…って思わせてくれるってな。そりゃ勿論、誰もがそうって訳じゃないだろうが…俺にとっては、重荷どころか苦難の中で踏み留まる為の楔、流されないようにする為の錨みたいになってくれるんだよ。…だから、心強いんだ。二人の存在が、俺の底力を引き出してくれるから」

 

 だから、感謝してるんだ。守りたいんだ。待っていて、ほしいんだ。……そう、俺は二人に伝えた。こんな話をするのは恥ずかしくもあるが…伝えられて良かったと、そう感じた。

 

「…勝手なんかじゃ、ないわよ。仮に、勝手だったとしても…あたしはあんたに、悠耶にそう思われても…ちっとも、嫌だとは思わない」

「…そうか?」

「そうだよ。待つしかないのはもどかしくて、辛いけど…そう思ってもらえるなら、そう思ってもらえるから、わたしは…ううん、わたし達はお兄ちゃんを信じられる。お兄ちゃんは絶対裏切らないし…帰ってきて、くれるって。…ね?依未ちゃん」

「う……そう、ね…うん。…信じてるわ、悠耶。あたしだって…緋奈ちゃんに、負けない位」

 

──それが、その思いが、どれだけ嬉しく心強いものか。あぁ、言える、断言出来るさ。こう言われ、こう思われたのなら…この先何があろうと、どんな事が起きようと、絶対に俺は帰るんだと。裏切ったりなんかするもんかと。

 

「…よし。じゃあ、行ってくる」

「うん、行ってらっしゃいお兄ちゃん」

「待ってるから、気張りなさいよ。悠耶……って、ん…?」

 

 大切にしたい。絶対に悲しませたくない。その為なら、幾らでも力を出せる。そんな思いを胸に抱きながら、俺は感謝を込めて二人を撫で…手を、離す。

 心の準備は、もう万端だ。気負う必要はない、何故ならこれは重荷でも責任でもなく、俺を支えてくれる力なんだから。

──最後に一つ、二人に向けて頷いて、それから俺は行く。二人の信頼と期待を胸に、帰ってくる為に、俺は戦いへと向か…………

 

 

 

 

 

 

「…いや、今からじゃねぇよ!?今からでもなきゃ、今日でもねぇよ!?俺今、どこに行こうとしたんだよ!?」

 

……俺は突っ込んだ。自分の行動に対して、それはもう全力で突っ込んだ。…何しとんねん、俺…雰囲気に流され過ぎやろ…。

 

「し、知らないわよ…それはこっちが訊きたいわよ…。…あたしも最初、普通にそれを受け入れちゃったけども…」

「は、はは…なんかもう、完全にそういう雰囲気だったよね…わたし、何にも疑わずに見送っちゃいそうだったよ……」

 

 流石に阿呆過ぎる勘違いに俺が項垂れる中、依未は自分含めて呆れたような声を出し、緋奈も乾いた笑い声を漏らす。…本当に、訳が分からない。雰囲気に流されたってのは間違いないが…なんで、疑問を抱かなかったのか…。

 

(…でも、ま…受け取った思いは、なくなったりしないしな)

「…あ、ところで依未ちゃん、今日は泊まっていける?」

「え?…えと、め…迷惑じゃなければ……」

「そんなの勿論だよ。お兄ちゃん、いいよね?」

「構わねぇよ。…さて、もうちょいしたら夕飯の準備をするか。二人共、何かリクエストは?」

 

 何ともまぁ、馬鹿馬鹿しい勘違いをした俺達三人。他に誰もいなかったから良かったが、もしもこの勘違いを誰かに見られていたら、さぞ赤っ恥だった事だろう。…まぁ、依未に関してはそれ以前に、撫でられている姿を見られた時点で恥ずかっただろうが。

 とまぁ、そんな馬鹿な事をした訳だが…最後は馬鹿馬鹿しくても、受け取った思いは本物だ。それを受けて、俺が感じたものも、本物だ。だから無駄にはならないし……思いが変わりも、しない。

 ああ、そうだ。俺は妃乃を支え続けるつもりだし、世話になった多くの人の為にも俺なりに出来る事をするつもりだし、御道には面と向かって訊くつもりだ。そして、その上で……帰ってくるさ。必ず、ここに。

 

 

 

 

 千嵜悠耶。嘗て一度、戦いの果てに穏やかな日々を、温かな日常を望んだ彼は、再び戦いへの道が開き、初めはその道を否定しながらも数々の出来事を、人との関わりを重ねて……今、戦場に立つ。大切なものを、守る為に。

 御道顕人。ありふれた日々の中で夢を抱き続け、その夢の舞台に踏み入れてからも進み続け…消失の果てすら超えて突き進む彼は止まらない。妥協を捨て、望む世界を掴む為に……今、戦場を駆ける。大切な思いを、貫く為に。

 予言とは、これを指していたのかもしれない。二人の霊装者が指し示すのは、この事だったのかもしれない。──二つの理想、対極の場所から始まった思いが、真なる決意として交錯する瞬間は……まもなく、訪れる。


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