双極の理創造   作:シモツキ

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第二百三十話 するべき事、したい事、出来る事

 戦いではなく、和解での…話し合いでの解決を目指す。…顕人君達離反した(元)霊装者達への対応として、初めは戦い以外の道も探そうって意見は出た。出たけど、すぐにそういう意見は立ち消えになっていった。話し合うも何も、こっちから向こうに呼び掛ける方法がないから。顕人君達自身が言葉じゃなくて力で今を変えようとしてきてる以上、何もなしに対話なんて成立する筈がないって結論になったから。

 組織としての、全体としての利を優先し、一部の霊装者にその弊害が及んだ事が、そのような体質の組織である事が原因の一端であるのは事実で、離反した霊装者達へと配慮すべき点はある。だが協会の敵となり、協会を危機に陥れようとするの以上は、元同胞であっても戦い、そして倒す他ない。…それが、協会全体の方針。それを踏まえて、顕人君達…それにいるかもしれない別勢力を排除する為の計画が、聖宝(偽)移送作戦で…その準備は、進んでいる。

 

「うん、そう。だから道路だけじゃなくて、その周りの土地とか環境も確認しておいて。早い段階で移動させる事に気付かれたら、先回りして待ち伏せしようとしてくるかもしれないから」

 

 今いる数人の隊長に、それぞれへの指示を伝える。指示の内容そのものはわたしが一人で決めた事じゃないから、今してるのはどっちかっていうと中継役で、決してわたしからの指示とは言えないけど…中継だって、必要な仕事。それに大まかな部分は決まってても、実際にやる上で気になる細かい部分は、隊長と話しながら決めるって事になってるから、ただの中継役って訳でもない。…って、これは誰に対する、何の説明なんだろう…。

 

「分かってると思うけど、出来るだけ目立たないようにね?早めに気付かれた場合に備える為の確認で、逆にこっちが何しようとしてるか気付かれちゃった…じゃ洒落にならないもん」

 

 最後に一つ注意してほしい事を言って、話は終わる。隊長達は早速歩いていって、それを見送ったところでわたしはふぅ…と一息吐く。

 

(この作戦が上手くいけば、顕人君達と、本当にいるかどうか分からない別の勢力の、その両方に対処が出来る…仕掛けられる前にこっちが状況を動かせば、余裕を持って対応が出来る…。…策としては、間違ってない…間違ってないけど……)

 

 わたしは宮空綾袮で、協会の人間の一人。だから、協会としてこうする、って決まったならその中で最善を尽くすし、わたしはその決定までに口を挟める、意見を言えるだけの立場にもあった。その上で、今があるんだから…わたしは本気で、この作戦に当たるつもり。わたしには、立場と責任だってあるんだから。

 だけど、心は乗り気じゃない。乗り気になれる訳がない。…顕人君と敵として見て、顕人君も戦うなんて…嫌で嫌で、仕方ない。

 

「…でも、それはわたしだけじゃないよね…皆だって、仲間だった相手と戦いたい訳ない…なら、わたしだけ拒むのは、違うよね…。…ううん、わたしには責任がある。自分の知らないところで起きた事の結果じゃなくて、自分も関わってる事の結果なんだから、拒める訳ない……」

 

 拒める訳ないし、やらなきゃいけない事もある。離反したのは顕人君だけじゃないし、顕人君の事だけを考えるのも間違っている。全体を見て、宮空綾袮としての行動を、しなくちゃいけない。立場、責任、責務…そういうものが、わたしにはあるから。それがあるおかげで、自由にやれたり、自分の意見を通せたりもするんだから、恩恵を受けている以上は、義務も果たさなきゃいけない。

…自分で自分を追い詰めてる、っていうのは分かってる。こんな事を考えても、余計苦しくなるだけって理解してる。…でも、思ってしまうのは止められない。

 

「…はぁ…わたし、前はもうちょっと良い意味で楽観的だった筈なのにな……」

 

 このまま考えてちゃ不味いと思って、わたしは廊下に。まだ次の用事までは時間があるから、少し気分転換か何かをしたい。

 でもほんとに、前はもっと前向きに考えられてた筈。事が事だから明るく考えるのは違うけど、前向きっていうか、自分を追い詰めるような事ばっかりは考えてなかったと思う。なのに今こうなってるのは、敵が人だからか、正しのは自分達だって胸を張れる状態じゃないからか、それとも顕人君の存在によって、わたしの中で変わった何かが……

 

「綾袮」

「え?…んぇ?」

 

 呼ばれた。肩を軽く叩かれた。反射的に、触られてる肩の方へ振り向いたら…頬を、指で突っつかれた。…え、何この多分昔からある悪戯は……。

 

「ん、やっと反応した」

「やっと…?…って、もしかして…何回も呼んでた…?」

 

 その悪戯をしたのはラフィーネ。隣…というか、斜め後ろにいるのはフォリン。つまり、同じ家にいる二人。

 もしやと思って訊くと、二人は同時にこくりと頷く。…全く気付かなかった…我ながら、思考の沼に嵌まり過ぎてた……。

 

「ごめん…ほんとに気付かなかった…」

「あ、いえ。そういう事でしたら別にいいのですが…作戦の準備に、難航してるんですか?」

「ううん、そういう事じゃなくってね…」

「…なら、顕人の事?」

「うっ…まあ、そうと言えばそうかな……」

 

 じぃっと見つめられながら大体合ってる事を言われて、わたしは思わずたじろぐ。ラフィーネは勘が良い方だし、雰囲気もあって迷わず言ってる感が強いから、それで本当に当てられるとどうしてもどきりとしてしまう。

 けど別に、当てられて困る事でもない。むしろ二人の場合、分かってもおかしくない訳だし。そして同時に、わたしはある事を思い…二人に言う。

 

「…あのさ、少し話せるかな…?急ぎじゃないから、用事があるならまた後でもいいんだけど……」

 

 問いかけに帰ってきたのは、二つの頷き。同じタイミングで、多分角度もほぼ同じな二人の首肯は、ほんと姉妹っていうか双子みたいで(いや双子も姉妹だけど)…ちょっぴりそれに笑ってから、わたしは二人をバルコニーに呼んだ。…今からしたいのは、誰かに聞かれたくない話だから。

 

「…移送作戦の事は、もう話したから分かってるよね?何をやるかも、その目的も」

「えぇ。…その中で、顕人さんと戦う事になるかもしれない…そうですよね」

 

 バルコニーに出て、周りに誰もいない事を確認して、早速わたしは話を始めた。まずは確認するように切り出して、返してくれたフォリンの言葉に、今度はわたしが頷きを返す。

 今は余裕のない状態なんだから、当然実力のある二人を出し惜しみなんてしない。二人にも作戦には出てもらうし…だけど二人は、本当は移送なんてしない事を知らない。殆どの霊装者は知らないし、知らせない…そういう事に、なっているから。

 

「うん。…二人は、どう…?二人は、顕人君と…戦えるの…?」

 

 二人の事を見つめながら、わたしは訊く。戦う事になるかどうかは分からないけど、もしそうなったとしたら、二人はどうするの…って。

 それに対して、二人は一瞬沈黙。でも、黙っていたのは一瞬だけで、すぐにラフィーネは頷いた。

 

「戦える。任務の為に、心を切り離すのは…慣れてる」

「……っ…それは……」

「…でも、辛い。辛いから…顕人を傷付けないで、止める。その為に、頑張る」

 

 首肯に続いて発されたのは、落ち着いた…でも、凄く悲しい言葉。割り切るとか、覚悟してるとかじゃなくて…心と行動を別のものにしてしまう、悲しい形。それが出来る事に、それをさらりと言えてしまう事に、わたしはやり切れない気持ちが湧き上がって……だけど、それだけじゃなかった。出来るけど辛いって、だから頑張って止めるんだって、そうラフィーネは言う。

 

「出会ったばかりならともかく、実力を伸ばしている今の顕人さんを、無傷で無力化するのは難しいでしょう。集団同士の戦いであれば、尚更困難です。…でも、私達は諦めたくないですから。その為に危ない目に遭おうとも、絶対に私達はそうしてみせます。出来たらいいじゃなくて、そうするんです」

 

 続くフォリンの言葉も、そこに込められた思いは同じ。二人共、戦うと決まれば相手も事情も無視出来て…その上で、思いはちっとも捨ててなんかいない。

 そんな二人を、わたしは凄いと思った。…ううん、凄いなんてものじゃない。そういう心の持ちようは、わたしよりずっと先を行っている。勿論わたしにも二人に負けないと思える事はあるし、立場も経歴も全く違うんだから、出来る事出来ない事の違いがあるのは当然だけど…うじうじ悩むばっかりの自分が情けなくなる程、二人の答えと思いは凄くて、格好良かった。

 

「…強いね、二人は」

「それ程でもある」

「綾袮さん程ではありませんが、私達も積み重ねがありますからね」

「あ、否定は全くしないんだ…らしいっちゃらしいけどね…」

 

 そういうところも含めて、これが二人の強さなのかもしれない。その強さを手に入れた経緯は、凄く悲しいものだと思うけど…それは誇れる強さだって、わたしは思う。

 

「…じゃあさ、もう一つ訊いてもいい?」

「なんでしょう?」

「二人は…顕人君に、付いていこうとは思わなかった…?…ううん、違う…二人にとっては、そっちの方が良かったんじゃないの…?」

 

 二人の覚悟はよく分かった。だからわたしは、もう一つの問いも口にする。

 これは、二人の気分を害する…二人にとって失礼な質問かもしれないと思っていた。だから、訊くのは少し迷っていた。でも今はもう、迷いはない。一つ目の答えを聞いて、一つ目の答えで、わたしはそう思えた。思えたからこそ、わたしは訊いた。

 さっきは一瞬だった、二人の沈黙。でも今度は、二つ目の問いは、確かに数秒の間黙っていて……それから二人は、ゆっくりと頷く。

 

「…ずっと、迷っていた。わたし達は、どうすればいいか。顕人の力になる、その為に顕人を追う…それも、考えた」

「受け入れてくれた協会や、その為に色々としてくれたのであろう綾袮さんには、恩も感謝も感じていますが…それ以上に私達は、私達に光を、二人での未来をくれた顕人さんの力になると、顕人さんが望むなら剣にも盾にも、何にでもなろうと決めていましたから」

「だったら…なら……」

「でも、顕人は言った。わたしとフォリンに、わたし達がしたいと思う事をしてほしいって」

 

 強い思い、きっと誰にも譲りはしない想いを二人が持っている事は知っている。今も、それが間違いじゃない事が分かって…ならどうしてと、わたしは問いを重ねようとした。それこそが、二人の望みじゃないのか、って。

 だけど、わたしの言葉を遮るように、ラフィーネが言う。二人は、言葉を続ける。

 

「その言葉を受けて、私達はよく考えました。私達の願いは、顕人さんの力になる事、顕人さんの為となる事です。ですがそれは、顕人さんに付いていく事で果たされるのか、本当にそれが顕人さんの為に、私達が出来る事なのか、二人で考え続けました」

「考えて、考えて…やっと、分かった。顕人は、わたし達を信じてくれている。だけど、わたし達を呼ばなかった。必要だって、力を貸してほしいって、言わなかった。…だから、分かった。わたし達に、出来る事は…ここにある」

「…それが、顕人君を止めるって事……?」

「そうです。そうですし…考える中で、思ったんです。それは、私達のしたい事でもあると。顕人さんの力になりたいと思うと同時に、戻ってきてほしいと…ここで、今の私達の日常で、顕人さんと共にいたいと、私達は思っていたんです。…だから、止めるんです。追うのではなく、取り戻すんです。それが私達の、したいと思う事ですから」

 

 思いを、心を語る二人の言葉。そこに、淀みはなかった。二人は通じ合っていて、同じ思いを抱いているんだと言うように、二人は交互に話してくれて…フォリンが言い切った時、ラフィーネは一つ…深くも浅くもない、けどしっかりとした頷きを添えていた。

 自分の願いと、したい事。それは同じなようで、実際近いもので…でも、必ずしも同じという訳じゃない。願いは結果で、したい事は手段…行動だからこそ、一見食い違っているように見える事もあるし…両方を見つめ直す事で、自分でも気付いていなかった別の望みや、そういう望みがある中で自分が出来る事なんかも、見えてくるって事もある。そしてそれを経たからこそ、二人はこんなにも落ち着いて、こんなにも信念を持って、「自分はこうするんだ」って決められているんだと…そう、思う。

 

「本当に…強いんだね、二人は」

「…綾袮は、強くない?」

「どう、かな…。今のわたしは、自信がないや…やらなきゃいけない事は見えてるし、理想もわたしの中にはあるけど……」

 

 自分の胸に手を当てて、呟くような調子で言う。やらなきゃいけない事は、支えにならない。考えずに行動する為の、言い訳にしかならない。理想も、それだけじゃ漠然とし過ぎていて、遠くのものを眺めているのと変わらない。…でも……

 

(自分の願いと、したい事…それは確かに、わたしの中にもある。わたしの願いは何?わたしのしたい事はどれ?その為に、わたしは…何が出来る?)

 

 分からない、自信がないからって、何もしなかったら本当に変わらない。それで良いの?迷いと躊躇いを抱えたままで、やらなきゃいけない事に逃げて、追うのはぼんやりした理想だけで…それでわたしは、納得なの?良かったって思える結末に、辿り着けるの?……違うよね、わたし。

 

「……ふー…」

 

 一回思考を中断させる為に、ゆっくりと息を吐く。出し切ったところで、今度は少しだけ吸って…自分の両頬を、叩く。

 痛い。叩いてるんだから、当然痛い。だけど叩いて、その痛みで、喝が入った……気がする。

 

「ありがと、ラフィーネ、フォリン。二人に話を聞けて、良かったよ」

「……?よく分からない、けど…綾袮の為になったなら、良かった」

「さっきも少し言いましたが、綾袮さんにもお世話になっていますから。そのお返しが出来たという事なら、私としても嬉しいです」

「ふふっ。…わたしさ、まだ思いがごちゃごちゃしてるけど…顕人君を、顕人君との毎日を取り戻したいのは、二人と同じだよ。だから、わたしも…全力を尽くす。それにじゃなくて…全部に、全力で」

 

 わたしには理想とか、わたし個人としての願いの他にも、宮空家の人間としての使命だったり、やらなくちゃいけない事がある。けどそれは、嫌な事じゃない。顕人君と同じように離反した人達にも、協会に残ってる人達にも、それぞれに思ってる事があって……だけど、どれか一つだけを選んで、他を諦める必要はない。出来るなら、出来る事全部に、全力を尽くす。それは凄く単純で、でも難しくて…だけどそれなら、わたしは迷わずにやれる。ごちゃごちゃ後ろ向きな事を考えるんじゃなくて、わたしらしく、わたしのしたい事は全部やるっていうのが…一番、わたしに合ってるもん。

 

「よーし!それじゃあわたし、先に戻るね!」

「あ、はい。…って言っても、私達もすぐ戻りますけどね」

「うん。ここにいても、やる事ない」

 

 ま、それもそっか、と二人の声に対して思いながら、一足先にわたしは中へ。曲がり角からいきなり人が出てきても大丈夫な位の早歩きで、わたしは次の用事に向かう。

 結構わたしって、単純だと思う。単純だから一人で考えて、ぐるぐると悪い部分で思考が堂々巡りして、さっきまでみたいに悩んじゃう事もあるし、単純だからこそ、切っ掛け一つでこんなにも元気になれる。それが良い事か、悪い事かと言えば……それはこれから、わたし自身が証明する。わたしが、わたしの望む結果を目指す事で。だから…覚悟していなよ、顕人君。本気になったわたしは、凄いんだから。

 

 

 

 

「これが、能力及び脳波検査の結果です」

「あぁ、ありがとう。相変わらず、仕事が早いね」

 

 これまでに数度、顕人が訪れたホテル。今日もそこには、ウェイン・アスラリウスの姿があった。

 

「ふむ…個人差はあれど、やはり皆こうなるか。中々君や顕人クンの様にはいかないね」

「むしろこれが普通かと。私はともかく、彼が例外的なのです」

 

 手渡されたタブレット端末、そこに表示されたデータを一つ一つ見ていったウェインは、肩を竦める。

 協会より離反した元霊装者及び、顕人の弁で彼の側についた一部の者達。ウェインの固有能力により赤い霊力を灯す事になった彼等のデータは……予想通り、異変を起こしている事を示していた。

 

「上手くいかないものだね。…いや、顕人クンのおかげで、これでも上手くいっている方だと言うべきかな」

「それは確かにそうですね。…霊装者としての力を引き出す一方、心身にも影響を…貴方の在り方に侵食とでも言うべき影響を受ける。貴方らしい、何とも業の深い力です」

「酷いなぁ、君は。僕だって、別に意図してこういうものした訳じゃないというのに。…まあだからこそ顕人クンに一切の影響がない…というより、影響を受けている筈にも関わらず、変化していない事が嬉しいんだけどね。それは彼が僕の思いに共感してくれる、同じ思いを抱く者だという、これ以上ない証明なんだから」

 

 そう言って笑うウェインの表情は、どこか子供のよう。そんな風に思わせる純粋さが、思いに対する真っ直ぐさがあり……同時に、他の霊装者に対する影響などは然程気にしていない、少なくとも心配という感情は抱いていないのだという事を表していた。

 そしてそれを、ゼリアも特に指摘はしない。そもそもそんな事は重要でもないとばかりに、軽く流され話は続く。

 

「それで、協会の方は何かしているかい?」

「いえ、今の段階では主だった動きはありません。ただ、どうやら聖宝の移送を計画しているようですね」

「移送?…ふむ…確かに奪われないようにするなら、もっと防衛し易い場所に移すのが当然の選択。けれど、あれはそう簡単に動かせるものでもない筈。…そうだろう?ゼリア」

 

 顎に親指と人差し指を当て、ウェインはそれが本当の事なのか、本当に出来る事なのか考える。その最中に、一度ゼリアの方を見やり…見られたゼリアは、深く頷いた。迷いなく、それをとてもよく知っているかのように。

 

「何か、裏がある可能性も大いにあるかと。どうなさいますか?」

「どうも何も、あれは彼等が狙っているものだよ。僕達は協力しているだけであって、上部組織でも出資者でもない。だからどうするかは、彼等次第さ」

「…………」

「はは、怖い顔をしないでくれ。…君にとってあれがどういう意味を持っているかは分かっている。僕は顕人クンを友であり、同士だと思っているけど…ゼリア、君との関係も唯一無二のものだと思っているよ」

 

 我関せずと言うように語るウェインに対し、ゼリアが向ける鋭い視線。絶対強者たる彼女の視線は、ただそれだけでも他者に恐怖を抱かせるには十分なだけの威圧感があり…されどそれを、ウェインは軽い調子で受け止めた。受け止めた上で、ふっと真面目な表情を浮かべた後、右手を伸ばして彼女の頬に触れ……彼の返答を受け取ったゼリアは、それなら良いとばかりに視線を緩めた。

 そう。彼等とて、本当にただ顕人の望みを後押しする為、ウェインの言う「見たい世界」を実現する為だけに行動している訳ではない。二人には顕人に語った以外の目標もまたあり……特にゼリアにとって、その目標は絶対に譲れぬものであった。

 

「とにかく、はっきりと分かる事がないのなら、よく考えた上で、最後は実際に動いて確かめるしかない。顕人クンも、それは理解しているだろうさ」

「…えぇ。彼が奮闘してくれれば良いのですが」

 

 期待するような声音で言うウェインと、期待外れにならなければ良いが…と言うような雰囲気で答えるゼリア。そこからも二人は会話を交わし、今後起こり得る事、その場合に選ぶ行動についてを確認していく。

 協会、顕人達離反者、そしてウェインとゼリア。聖宝を狙う別勢力の存在も頭の一角に留めながら、それぞれの立場、それぞれの勢力での…それぞれの思惑が、戦いに向けて渦巻いていた。それは偏に、思いを…望みし願いを果たす為に。


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