双極の理創造   作:シモツキ

229 / 245
第二百二十八話 真っ向から、ぶつかるだけ

 どんなに初めは混乱していても、時間が経ち、様々な情報が入り、情報が纏められて精査される事により、正確な状況が見えてくるもの。御道を中心とする、元霊装者の離脱についても情報が纏められ、離反した霊装者の推定人数が明らかになった。

 全体からすれば、それは一部。大問題ではあっても、それだけならば協会として致命傷にまでは至らない人数であるらしい。…だが、妃乃曰く、離反したのは元霊装者だけじゃないんだとか。離反した一部、その中の更に一部にはなるが、力を失った訳ではない霊装者の中にも所在不明になっている人間がいるとの事。離反した元霊装者に共感したとか、単に別の理由で協会に不満があり、この機に乗じただけとか、まあ理由は色々あるだろうが……それだって、協会がすぐに潰れる程のダメージには繋がっていない。

 なら、何とかなりそうなのか。ただの、組織内の騒動で済む話なのか。……いいや、違う。

 

「…………」

 

 双統殿内の廊下。背もたれのないベンチソファに座り、背もたれ代わりに壁へと背中を当てて……俺は、何もしていない。何言ってんだって話だが、実際俺は何かをする為にここにいる訳じゃない。

 元から一部の霊装者が力を失い戦えなくなった事で、協会の戦力は低下した。その対応及び協会内の士気を上げる為に、これまで俺は頑張ってきた訳だが…当然、離反事件以降士気はかなり不味い状態。単に仲間が敵になったというだけでなく、協会が秘密にしていた事が明かされ、組織へ対する信頼が揺らいだんだから、そんなの落ちるに決まっている。

 だが、話はそれだけじゃ終わらない。御道達の明かした情報は、協会内だけでなく、聖宝の存在諸共各国の霊装者組織にも渡ってしまっている為に、霊装者世界における外交的な問題と…各国組織から聖宝を狙われていてもおかしくないという、物理的な懸念も抱えているのが協会の今。

 

「…時間、か」

 

 携帯で時刻を確認し、担当の時間が過ぎた事を確かめた俺は、ソファから立ち上がる。所定の場所へ行き、終了すると報告する。

 今の協会は、戦力が低下してるにも関わらず、いつ何が起こるか分からない。御道達や、聖宝狙いの別組織に攻撃される可能性は勿論の事、更なる離反が起こる事だって否定し切れない。故にそんな事態へ備える為、双統殿及び各支部では、常に一定以上の数の霊装者が、即座に動ける状態で待機するという形を取る事になった。俺が今日双統殿にいたのも、それが理由。

 とはいえその待機は、そこまでかっちりしたものじゃない。通常の警備があった上で、状況が状況だからこそ念の為…と設けられている待機戦力。故に、指定された範囲内にいて、すぐ動ける状態ならば、何をしていても良いという事になっていて…だから逆に、俺みたいなやつは困ったりする。こういう時、時間を有効に使えない、俺みたいなやつは。

 

(せめて依未の部屋が範囲内だったらまだ良かったんだけどなぁ…って、無い物ねだりしてもしょうがないんだが……)

 

 そんな事を考えながら、帰る為に廊下を進む。今は妃乃も双統殿にいるが…今日は泊まりになるとの事。ここは妃乃の実家でもあるんだから、泊まりっていうのも少し変かもしれないが、まあとにかくそういう事で俺は帰る。

 

「…っとそうだ、帰りに電池を買って……ん?」

 

 ふと思い出した、TVのリモコンの電池切れ。こういうのは思い出した時に買っておかないと、またすぐに忘れてしまうもの。だから俺は、帰宅の途中でスーパーに寄る事を決め…た時だった。エレベーターの前に立つ、見覚えのある後ろ姿を発見したのは。

 

「茅章…?」

「へ?…あ、悠耶君…」

 

 声を掛けてみれば、やはりその人物は茅章。…なんというか…双統殿内で、こうして会うのも結構久し振り…の、ような気がする。

 

「悠耶君は…待機任務?」

「あぁ。茅章もそうだったのか?」

「ううん。僕は…なんだろう、事情聴取って言えばいいのかな……」

 

 あまり浮かない様子で答えた茅章に、俺は「そうか…」と軽く頷く。

 事情聴取、なんて言うからには、それも今回の件絡みだろう。俺同様、茅章も御道と親しかったから(ひょっとしたら茅章の周りで他にも離反した人間がいたのかもだが)、茅章自身に離反の可能性がないか確認する事も兼ねて、話を聞いた…十中八九、それで間違いない。

 

「…まあ、あれだ。事情聴取されたからって、別に気にする事はねぇよ。そもそも気にしてないなら、余計なお世話以外の何物でもないが……」

「そ、そんな事ないから大丈夫。それに…気持ちの方も、大丈夫だよ。…ありがと、心配してくれて」

 

 少なくともされて気分の良い事じゃないんだから、と俺がフォローを口にすると、茅章は小さく笑う。そして一度、会話が途切れる。

 茅章はエレベーターを待っていた。俺も帰る為にここへ来た。茅章の方は、帰るのか上の階に行くのかはは分からないが、どっちにしろ乗るんだからここに引き止めるのも悪い。そう思って、俺が話を終わらせようと考えた時…少し伏し目がちにしながら、茅章は言った。

 

「…顕人君…帰って、くるよね…?」

 

 それは、不安と願いの混ざった言葉。帰ってきてほしい、そんな思いの込められた問い掛け。

 どうして離反を、という疑問ではなく、自分が何か気付いていれば、という後悔でもなく、帰ってきてほしいという思いを初めに言うところに、茅章らしさが出ているな、と思った。

 それに、良いも悪いもない。そこにあるのは、物事に対する心の在り方のみだから。

 

「…御道に、錯乱した様子も自暴自棄になった様子もなかった。俺にだって、分からない事は多いが…今御道がしてる事は、御道の意思で、御道が本気でやってる事なんだよ、きっと」

「…顕人君の、やりたい事……」

 

 きっと戻ってくる。…そう言えれば一番だが、根拠もなくそんな事は言えない。そういう耳触りが良いだけの言葉を、気持ちを吐露してくれた茅章へ言うのは間違っている。

 

「…それって、何なのかな…僕は、その場にはいなかったから、顕人君の言っていた言葉も又聞きだけど…不満とか、怒りとか、後は功名心とか…そういう理由じゃ、ないと思う。顕人君は、そういう人じゃないから」

「…そうだな。少なくとも、そういう理由だけでやってる訳じゃないんだろうってのは、俺も思う。…御道は…正義を示す、とは言ってたな…」

「正義…つまり、顕人君は今、正しいと思う事を、思える事をしてる…そう、なのかな……」

「……やってる事を、前向きに考えてるって事はあるんだろうな。それを、正義って言い換えてるのかもしれないが…」

 

 普段は落ち着いてる御道だが、あれで割と行動的というか、感情の爆発で無鉄砲な事をするのは知っている。だがだからこそ、俺は茅章に同意出来る。もし今の…そしてあの時の御道が感情先行の行動をしているなら、もっと感情が剥き出しになっている筈で…けれどあの時はむしろ、感情を完全に律しているようだった。仮に原動力が感情だとしても、ちゃんと向かう先を見据え、覚悟を決めた人間の目をしていた。

 それは間違いない。だがそれならば、その原動力かもしれない思いは何か。正義っていうのは、本当に自分が信じているものなのか、正当化の為の方便として言っているだけなのか。協会への不信や是正、気取った言い方をすれば天誅が全体としての目的のように語ってたが、それも御道自身思っている事なのか、それともこれも方便か。……分からない。想像は出来ても、こうだと言える事なんて、まるでない。

 

「…駄目だな……」

「え……?」

「すまん、茅章。はっきりした事は何も言えない…ってか、ほんとに分からない。御道の意思で、本気でやってる…ってのも、雰囲気からそう感じたってだけで、確たる証拠がある訳でもないしな…」

 

 御道の事はよく知っている…なんて言うつもりはない。それなりには知っているが、逆に言えば「それなり」で済む程度で…意図的に、踏み込み過ぎないようにもしていた。ただの高校生として、霊装者も魔物も何も知らない御道だからと、適度な距離感で付き合うのが一番だと思っていたあの頃のまま、今に至るまで関係を続けてきた結果がこれ。人付き合いの形なんて自由で、だからそうしてきた事が間違いだとは思わないが…もっと踏み込んでいれば、分かる事があったのかもしれない。事前に気付けたのかもしれない。そう思うと、微かに自嘲的な笑みが浮かんできて……

 

「…すまんって、どういう事?」

「…へ?」

「今のって、もしかして僕が求めてた答えを出せなかった事への謝罪?…だとしたら、それは違うよ。だって、僕だって分からないんだから。僕だって、顕人君の友達で、でも全然分からないんだから、それは悠耶君が謝る事じゃない。勿論、付き合いの長さは違うけど…そういう問題でも、ないでしょ?」

 

 いつの間にか、俺は向けられていた。茅章からの、少しだけ怒った…というか、不満そうな視線を。

 その茅章に言われて、気付く。確かにその通りだ。俺と茅章は、御道との付き合いの長さは違うが…関係性で言えば、そこまでは変わらない筈。同じ「男友達」という枠になる筈。にも関わらず、俺がまるで「教える側」かのように考えるのは……違うってものだ。

 

「…ごめん。茅章の言う通り…ここで俺が謝るのは、違うよな。……あ、勿論今の『ごめん』はまた別だぞ…?」

「それは流石に分かってるよ。それに…ふふっ。違うって言ったけど、実はちょっとだけ、嫌でもないように思う気持ちもあったんだ」

「嫌でもないように思う気持ち…?」

「だって、ああ言うって事は、悠耶君なりに顕人君を理解してたって気持ちがあった証拠でしょ?…僕にとって、二人は大事な友達だもん。その二人が、仲良いなら…それは、嬉しい事だよ」

 

 そう言って、茅章は笑う。それもただ口角を上げただけでなく、ほんのりとはにかむように。そんな表情で、そんな事を言われたら、こっちだって恥ずい気持ちになる訳で……だから俺は、ちょっと茅章の頬を引っ張る事にした。

 

「うぇっ!?ちょっ…ゆ、ゆーやくん…!?」

「そういう事を、面と向かって言うんじゃない。…後、柔らかいな…」

「えぇぇ……!?」

 

 今の何か不味かったの…!?…と動揺している茅章の反応を余所に、俺は茅章の頬をむにむにとやる。…いや、ほんと同年代の同性とは思えない柔らかさだな…ヤバい、反応含めてちょっと楽しい…。

 

「…ふぅ」

「うぅ、理不尽だ…しかも、なんで満足気な顔してるの…?」

「まあ、そこは気にするな。それと…俺にしたって茅章にしたって、御道の事は分からねぇ。だから…うだうだ考えるより、直接御道に訊くとしようぜ?案外世間なんて狭いもんだ、機会とチャンスさえ見逃さなきゃ、それが出来る瞬間がいつかは来るさ」

「悠耶君……うん、そうだよね。分からなかったら訊く、それは当然の事で…友達なんだから、それ位出来るに決まってるよね」

 

 魔が差して少々長めに弄ってしまった事はさらっと流し、俺は少し真面目に…その上で軽く口角を上げて言う。半分は茅章に向けて、もう半分は自分自身の心へと向けて。すると茅章は、初めは目を丸くして…それから深く、頷いた。

 出来るに決まってる。それが、実際に会えたなら訊ける筈だという意味なのか、それとも友達なら再び会うチャンスを、可能性を掴む位当然の事だっていう、中々に前のめりな意味なのかは分からない。けど世の中には、言霊なんていう考え方もある。それが本当なら、言葉にも力があるのなら…それを味方に付けられるのは、茅章位本気で言い切る人間なんだろう…。

 

「…しかしまぁ、さっきの言いようといい、友達って言葉といい…茅章は、あんまりそういうのを気にしないっていうか、恥ずかしいとは思わないタイプか?」

「…どういう事?」

「…って事は、やっぱそういうタイプか…まあ、しょうもない見栄や斜に構えた考えをするより、そういうスタンスでいる方が、人としては胸を張れるよな…」

「え、え?ほんとに何の話をしてるの…?」

 

 純粋、と言うとまるで子供っぽいようにも聞こえるが、意識的にしろ無意識的にしろ、そんな心を忘れず、恥ずかしがらずにいられるのは、芯のある人間じゃなきゃ無理だと思う。少なくとも俺には無理な事で…やっぱり茅章は凄いと、俺は思う。

 御道にしたってそうだ。正しいか否かはともかくとして、度胸があるにも程がある。方向性は違えど、御道も茅章も心の中に強い芯を持っていて……だがそこで、凄いと思った上で「負けられないな」という思考に繋がった辺り、俺も捨てたもんじゃないだろう。…なんて、な。

 

(面と向かって、問い質す…悪くない目標だ)

 

 自分で言った言葉だが、それがすとんと心に落ちた。御道の離反、御道の行動…それに対しずっともやもやしていた気持ちに、一つの道標が出来た。

 当然これは、努力すれば何とかなるって話じゃない。最終的には恐らく運で、それは自分じゃどうにもならない。…けど、そういう事は目標にしちゃ駄目か?確実性のある目標じゃなきゃ意味がないか?…そんな訳ない。そんな訳がないんだから…本気でそれを目指してやる。…そう、俺は心に決めた。

 

 

 

 

 協会に反旗を翻し、俺は異なる道を歩み始めた。その道の先は、俺一人では辿り着けない場所で…俺ばかりが真実を知り、俺だけが力を取り戻せていた状況を、俺は良しとしなかった。それで良いとは、出来なかった。

 だから俺は仲間を集め、一人ではなく集団として動いた。仲間と共に、今の協会を否定した。けれど、その時纏っていたのは、協会の装備。それも、ある程度の味方を、協力者を協会内で得られたとはいえ、好き勝手に装備を持ち出せる筈がなく、あり合わせの装備になってしまった部分もあった。でも、そんな状態も…今日で終わる。

 

「……っ…これが、俺の……」

 

 全身に装備を纏い、霊力を流す。火器に、推進器に、一つ一つへ霊力を行き渡らせ…軽く、動かす。

 電話で呼ばれ、まずエントランスへ、続いて体育館…の様な広間へと移動した俺は、用意された装備を…ウェインさんから贈られた、BORGで秘密裏に作られた装備を纏って、動作テストを行った。広間は訓練に使えるような、本格的な施設じゃない分、出来る事も限られるけど…それでも、感じる。想像出来る。この装備によって実現出来る、俺の戦いを。

 

「はははっ、凄いなこれは!こんなものがあるなんて、BORGは協会よりも進んでるって事か?それとも、協会は俺等にこれだけの物を作れるのに用意してくれなかったってだけの話か?」

「さぁな。けど、不都合な事は隠すのが協会なんだ、後者だったとしてもおかしくねぇよ」

「ま、どっちでも良いじゃない。これがあれば、あたしもこれまでよりずっと戦える…!」

 

 そしてそれは、俺だけの話じゃない。全員あり合わせの装備だったんだから、当然といえば当然だけど、ここには全員分の装備がある。

 聞こえてくる声の通り、用意された装備は凄い。正直、俺は園咲さんのテストを兼ねた装備を使っていたから、そっちに関しては一概にどっちが凄いとも言えないけど…ライフルを始めとする通常装備の方は、確かにこっちの方が高性能なのかもしれない。

 技術の差なのか、つぎ込んだリソースの差なのか。けど、それを確かめる手段はなく……それよりも気になる事が、俺にはある。

 

(ウェインさんは、俺に協力してくれている。俺の知らない、分からない事もしているんだろうけど…それでも俺は、ウェインさんを信用している。…でも、それは…この協力は……)

 

 自分で言うのもアレだけど、ウェインさんが俺に協力してくれるのは分かる。俺の理想とウェインさんの夢は同じ方向を向いていて、互いにそれを叶える為に協力しているようなものだから。

 でも、皆に対しては違う。目的の為には仲間が必要で、その話をしたのも、その手助けはすると言ったのもウェインさんで、実際ウェインさんの作り出した結晶の力により、皆も再び霊装者となった訳だけど…ウェインさんが必要だと見ているのは「戦力」であって、決して一人一人じゃない。言い換えるなら、ウェインさん視点での皆は、皆じゃなくてもいい訳で…同意の上とはいえ、皆を引き込んだ俺としては、一抹の不安は拭えない。それに……

 

「使用してみた感覚は如何ですか?何か、不調は?」

「あ…ゼリア、さん…」

 

 不意に聞こえた声が、思考を遮る。振り返ればそこにはゼリアさんがいて…訊いて当然の問いに対し、俺は首肯。

 

「悪くない…いえ、凄く良いです。まだ全力は試してませんが…これならきっと、思うように戦える筈です」

「問題がないのなら、何よりです。何か、ご質問は?」

 

 丁寧且つ淡々としたゼリアさんからの問いは、何となくお役所的なものを感じる。…いや、役所になんて殆ど行った事ないけども。完全にイメージでしかないけども。

 と、いうのはさておき、質問があるかといえば…答えは、YES。

 

「あの、俺の装備は、皆とは違うように思うんです。これって、もしや特注……」

「いえ、基本的には他の物と同じです。貴方からの意見と要望を反省させ、最適化こそされていますが、別物という程ではありません。あくまで基本の装備は、ですが」

「あ、そ、そうですか…」

 

 直接比較をした訳じゃないから確信はないものの、自分の装備は少し違う気がする。その疑問について訊き、決して別物ではないという回答を受け……内心ちょっと、がっかりした。何せ、俺は男だから。多くの男にとっては、専用機とか、フルカスタム装備とかに憧れるものだと思う。……量産機も量産機で格好良いけどね。試作機も魅力的だけどね。

…ごほん。まあとにかく、がっつり違うものではないらしい。けどまあ、重要なのは互いの有無ではなく性能な訳で、そこに懸念点はないんだから問題な……って、ん?

 

「…基本の装備、は…?」

「えぇ、貴方の戦い方に合わせ…そして、中核となる貴方に必要なだけの力を用意する為の、追加装備も存在しています」

「……!」

「そちらはこの場での確認に適さない為、別途また確認して頂く事になりますが、宜しいですか?」

 

 それで良いかと訊かれたのだから、勿論俺は首肯。自分の為の装備で、しかもそれは戦いの為のものなんだから、確認しない理由はない。

 

「では、私はまだ用事がありますのでこれで。後の事は、彼等に伝えてありますので」

「あ、はい。……じゃない、ゼリアさん…!…もう一つ、いいですか…?」

 

 その言葉と共に、ゼリアさんが見たのは装備の調整担当者達。彼等もBORGの人間らしく…本当に、俺達はBORGのバックアップを受けている状態。ある意味、協会とBORGの間接的な衝突状態。

 そうして話の済んだゼリアさんはこの場を去ろうとし…それを俺は、引き留める。引き留め…聞こえてくるのは、皆の声。

 

「ふふっ、やってやろうじゃない…これは協会が、わたし達を騙してた結果なんだから…!」

「そうだな。だから示してやろうぜ、本当に正しいのはどっちなのかをよ…!」

 

 闘志は十分な、今すぐにでも戦えそうな、皆の様子。普通に考えればそれは心強いし、後悔してないって事なら安心もする。

 けど…初めから皆、こうだっただろうか。こうも好戦的な人が多かっただろうか。…いや、違う。俺が誘い、同調を得た時点じゃ、こんな敵意剥き出しだったようには思えない。…だとしたら、それは……。

 

「……ゼリアさん。俺は、ウェインさんを信用しています。逆にウェインさんにとって、皆は同じ思いを持つ者なんかじゃないって事は、分かっています。…なら…ウェインさんは、皆を…どう、思っているんですか…?」

「それは、私には分かりかねます。ですが…少なくとも彼等は、彼等の意思でここにいる。貴方が誘い、ウェインが力を与えたのだとしても…選択は、彼等自身がした。…違いますか?」

「……っ…」

 

 否定は、出来ない。その通りなのだから。何があろうと、なんであろうと、結局ここにいるのは、全員自分の意思でそれを選んだ人間だから。俺も含めて、自分自身で選んだ以上…その責任も、自分にある。

 そしてそれは、今だけの話じゃない。これから起きる事だって、全部そうだ。これから先の、協会との戦い…それは避けられないものであり、その先に果たすべき目的があるのであり……その日は、そう遠くない。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。