双極の理創造   作:シモツキ

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第百九十五話 見つからないという事は

 前回…まあつまり本来の調査では、しっかりと広間に集まって最終確認やら何やらし、ちゃんと組織として一つ一つの事を進めていったらしい。だが初めに言ってしまうと、今回…俺が出る事になった、改めての調査任務では、その辺がかなり雑…というか、簡素なものとなった。

 まあ、理由は分かる。前回と違って今回は少数、それも色々と事情を知っている面々で行われる作戦なんだから、わざわざきっちりとした最終確認をする必要がないって事なんだろう。…って、訳で…俺は今、既に富士山にいる。

 

「さっぶ…やっぱ春になっても寒いな……」

「そりゃそうよ、富士山なんだから」

 

 そこそこの高度で飛行しながら、もうずっと思っていた事を遂に口にする俺。だが、それに対する妃乃の反応は冷たい。むぅ…寒さなんて気温で十分感じてるんだから、ここはもうちょっと温かい反応がほしかった…。

 

「…に、しても…ほんと、ぱっと見は普通なもんだな…ここだって、その光が発生していた場所なんだろ?」

「えぇ。あくまで物理的な影響力は持たない、エネルギー…っていうか、それこそ霊的な光だったんだと思うわ」

「……積もり積もった遭難者の無念とかじゃないだろうな、それって…」

「な訳ないでしょうが…演技でもない事言うんじゃないっての」

 

 霊的な力といえば、思い浮かぶのは幽霊。…という、凄まじく安直な考えから取り敢えず言ってみただけだが…実際、起こった事や聞いていた話の割に、富士自体は何の変哲も無い(ように見える)というのは、どうもやはり違和感がある。

 因みに現在、俺は妃乃と二人で行動中。調査済みの範囲もそれなりにあるとはいえ、広大な富士山を少人数で探すとなれば当然一つ一つのグループを大きくは出来ない訳で、他の組も大概は数人で動いている。

 

「…っと、ストップ。悠弥はここで周りを警戒していてもらえる?」

「あいよ」

 

 それから数十秒後。何かが気になったらしい妃乃は降下していき、俺は言われた通りに待機。このやり取り…っていうか妃乃が直接降りて調べに行くのも数度目で…だが調査を続けている事からも分かる通り、今のところ目ぼしい発見はない。

 そしてそもそも、結局何を調べ、何を探しているのかも俺は知らない。訊けば…まぁ、こんな状況となった以上は話してくれるだろうが、それは訊いて良いものなのか。訊いておいた方が良いものなのか。

…なんて感じの事を考えつつ、俺はぐるりと周囲を見回し……あるものを、発見。

 

(…あれは…動物、か?…いや、だが…ここは富士山だぞ……?)

 

 見つけたのは、するすると木を登っていった何らかの影。初めは猿かなんかだろうと思った俺だが…ここ最近で富士山に猿が生息してるなんて話は聞いた事がない。…と、いう事は……

 

「…妃乃、変な奴を見つけた。恐らく魔物だ」

「…分かったわ。すぐ逃げそう?」

「いや、ぶっちゃけ雪被った木の内側に入っちまったから、よく分からん」

「なら、急ぐべきね。どの木か教えて頂戴」

 

 渡されていたインカムで下の妃乃と意思疎通を交わし、俺は木の場所を伝えると同時に行動開始。俺は上昇した後、妃乃は今いる場所から目標地点へと向かって飛び、ある程度行ったところで妃乃の次の行動を待つ。

 その妃乃は、そのままの速度なら後一秒かそこらの距離まで近付いたところで一度着地。そこから俺へと目配せし、手にした天之瓊矛を構え…突進。積もった雪を巻き上げる勢いで雪原を蹴り、木の幹を駆け上がるようにして急上昇。枝と葉の広がる部分へと入った事で、一瞬姿が見えなくなり…次の瞬間、飛び出してくる猿らしき何か。

 

「やっぱり魔物か…ッ!」

 

 シルエットは、確かに猿。だが遠目じゃよく分からなかったが、その猿…いや魔物を覆っているのは、毛皮ではなく硬そうな鱗。加えてムササビの様に腕と胴の間には皮膜らしきものがあり…それを広げて、魔物は木から逃げようとしていた。

 だがそれは最悪手。妃乃一人なら(逃げられるかどうかは別として)それも悪くないんだろうが…今は、俺もいる。しかも、より上方にいる。つまり…俺からすれば、向こうから的が飛んできたようなもの。

 右手に携えていた直刀を逆手に持ち、急降下。勢いのままに距離を詰め…逃げる魔物の背中を一突き。刃は鱗を砕き、貫通し、そのまま俺と共に真下へ。雪原に激突する寸前でスラスターを蒸し俺が止まると、慣性で魔物は直刀から抜け落ち…落下。どさりと落ちた時にはもう息が無く、すぐに魔物の消滅が始まる。

 

「やるじゃない。鱗諸共一撃なんて」

「……いや…こいつ、見た目に比べて鱗が然程硬くなかった…妙な位に、な…」

 

 軽く振って直刀を収める中、軽やかに飛んでくる妃乃。着地しつつ労ってくれる妃乃だったが…俺としては、それを素直には受け取れない。そして抱いた感想を口にすると、逡巡の後妃乃は首肯。

 

「…この魔物、霊力をイマイチ感じなかったのよね。鱗が妙に脆かったっていうなら、多分それとこれとは関係があるわ」

「言われてみりゃ、確かにな…。…ん?これって……」

 

 確かめるように妃乃が片膝を突き、近くで消えつつある魔物を見る中、ふと俺が思い出したのは正月の事。あの時も確か、えらく弱い魔物がいて、しかもそれを妃乃達は感知出来なかった。…これは、偶然だろうか。いや、こういう場合…まあ、偶然じゃねぇだろうな…。

 

「……妃乃、さっきの場所で何か見つかったか?」

「いや…何もなかった、って訳じゃないけど、発見と呼べるようなものでもなかったわ。あれの影響か、前に来た時と比べて変になってる所も多いし…これは結構、骨が折れるかも」

「そうか…」

 

 魔物の完全消滅を確認し、それから俺達は調査へ戻る。骨が折れる、となった場合、普段だったら「えー…」とか言う俺だが、今回は事が事。流石に文句を言ったりはしない。

 

「悠弥、まだ体力は大丈夫?」

「大丈夫だ、問題ない」

「それすぐに大丈夫じゃなくなるやつじゃない…本当に大丈夫なのね?」

 

 言葉選びのせいで逆に心配されてしまったが、本当に俺はまだまだ平気。それはちゃんと伝わっているらしく、俺が肯定を返すと妃乃は頷き、再び空へ。俺も飛翔する妃乃に続いて、先の長い調査活動を再開する。

 そうして数十分が過ぎ、数時間が過ぎ、正午を疾っくに過ぎた頃。そこで漸く俺達は長めの休憩を入れ、かなり遅めの昼食に入る。

 

「こんな寒い中で食欲なんか湧くか、って思ってたが…まあ、湧くな。寒いだけあって、めっちゃ湧くわ」

「ま、当たり前ね。むしろ空腹を感じなかったらそっちの方が問題だもの」

「だよなぁ……」

 

 吹雪いてる…訳じゃないが俺達は見つけた洞穴へと入り、そこへ腰を下ろして昼食を食べる。携行性と食べ易さを重視して作られた食事だから、あんまり食としての楽しさはないが、流石は現代の技術と言うべきか、味自体は悪くない。というかもし俺が普段台所に立つような生活をしていなかったら、物珍しさが勝ってむしろ楽しめていたのかもしれない。…んまぁ、その楽しさは一回や二回で途切れるだろうが。

 

「行程としちゃ、今はどの位だ?」

「順調だけど、想定の範囲内ね。食べた後もまだまだ動くわよ」

「…さっきの話じゃねぇが…妃乃こそ、体力は大丈夫か?」

「あら、私がもうへばったように見える?」

「いいや。けど、妃乃は責任や使命感で無理をしちまう、無理が出来ちまうタイプだからな。…どうせ今は俺しかいねぇんだ、気を抜けるとこは抜いてけよ?」

「…そうね、貴方の前で気丈に振る舞ったってしょうがないし、出来る範囲でそうさせてもらうわ」

「おう。警戒位なら任せろ」

「……ありがと、気遣ってくれて」

 

 皮肉っぽく言いはしたものの、その数秒後に視線を俺から外へと移し、その状態でぽつりともう一言だけ呟く妃乃。…ほんと、素直じゃないが…多分ずっと前なら、「ありがとう、でもそれには及ばないわ」とか言って、出来る範囲で気を抜く事に同意なんかしなかっただろう。そして前と今とが違うのは、俺が変わったからか、妃乃が変わったからか、或いはその両方か。…まあどちらにせよ…こういうのは、悪くない。

 

「…ふぅ、ご馳走様、っと。すぐ出るか?それとももう少し休憩するか?」

「慌てる必要はないし、食後なんだからもう少し休んでおきましょ。…どこで、戦闘になるかも分からないんだから」

「…だな」

 

 落ち着いた声音の言葉に頷き、食後も十分前後休憩を続行。寒いせいで気持ちはいまいち休まらなかったが、それはもはや仕方のない事。むしろ変に気が休まって眠くなりでもしたら、それこそ一大事。

 そういう訳で俺達は食事+αの休憩を取り、それから調査を再開。ここまでと同じように基本は雪原がちゃんと見える高度で飛行し、何かあれば妃乃が確認し、外れ(?)を引いてはまた移動するを繰り返す。

 

(何もないのは良い事なのか、それとも悪い事なのか……)

 

 思っていたより戦闘や複雑な行動がなく、ともすれは『暇』と感じる瞬間もあるのがこれまでのところ。そして調査のやり方や具合から考えるに、「結局何もありませんでした」となる可能性もあるのかもしれはい。…ま、光の柱の件を思えば、何かしらはあるんだろうが…何にせよ、それはこの調査が最後まで進めば分かる事。

 あまり先の事を考えても仕方ない。先を見越した行動は大切だが、今は今に意識を集中するべきだろう。そう、俺は自分自身に言う事で気を引き締め…妃乃と共に、調査を続ける。

 

 

 

 

 またもや前回との比較になるが、前回は富士山内でキャンプを張り、それて夜を明かしたりもしたらしい。まあそれは普通というか、そりゃそうだなって話だが…今回は、少なくとも俺と妃乃の組は特にそんな事はなく、毎日支部まで戻るって事になっている。

 理由としちゃ、人数が少ない分移動に時間がかからないってのと、数が少ないんだから一人一人のパフォーマンスにより気を付けなきゃいけないってのが大きいんだろう。…後はまぁ、雪山で年頃の男女が、二人きりでテント…ってのは、色々不味いと判断された可能性もある。

 兎にも角にも、一日目の調査を終えた俺と妃乃は、一直線に支部へと帰還。一日富士山にいたとなれば、もう身体はキンキンに冷えている訳で…支部へと着いた俺は、最低限の事だけやってその後は大浴場へと直行した。

 

「あ"ーー…ほんと癒される……」

 

 冷え切った身体への、外からの熱。外側から暖まり、その熱が身体の中に籠っていくのを感じながら、俺はぼんやりと思考。

 一日目の、という表現からも分かる通り、調査が終了になるような結果は今のところ出ていない。ちらっと聞いた程度だが、他のところも同じな様子。であれは、まだ調査任務が続くのは、ほぼ確定。

 

「…いや、何かを発見したらそれで終了…って事もねぇか…確保するのか、破壊するのか、どうすんのかは分からねぇが……」

 

 学校の課題ならともかく、調査ってのはそれをするだけで終わったりはしない。というかそもそも、その先にある目的に必要だから調査をするのであって、詰まる所何かしらの事はするんだろう。そこに俺の出番があるかどうかは分からないが、それだってその段階になれば分かる事。

…にしても…男の風呂なんて、描写的に必要か?楽しいか?ぶっちゃけこれ、他の場所でもなんら問題ないよな…?……よし、出よう。

 

「……ふぁ、ぁ…風呂入って眠くなるって…子供か、俺は…」

 

 という訳で身体も十分に温まった俺は入浴を終え、割り当てられた部屋へ行く為廊下を歩く。子供か、と自分で自分に突っ込んだ俺だが、一日活動した上での風呂なんだから、そりゃ眠くなってもおかしくは……

 

「……って感じね。そっちはどうだったの?」

「うーん、妃乃と大体同じかな。やっぱり富士山全体が乱れてるっていうか特異さが増しちゃってる感じあるよねぇ…」

「あ……」

 

 角を曲がるのとほぼ同時に聞こえてきたのは、聞き覚えのある声と、それ以上に聞き覚えのある声。この声は…と思いながら曲がり切れば、やはりいたのは妃乃と綾袮。

 

「これだと大部隊で来てたとしても、かかる時間はあんまり…っと、悠弥君じゃん。やっほー」

「あぁうんやっほー、それを言うなら向こうの方角だと思うぞ?」

「え?…あ、そっか実際に山が近いもんね。いやぁ、これは一本取られたよ」

(いや、取ってないけどな…)

 

 こちらへ背を向けていた妃乃より先に綾袮が気付き、呼ばれるようにして俺は二人のいる方へ。休憩所の様に少し出っ張った場所、そこのソファに座っていた二人は、どうやら今日の事を話していたらしい。

 

「今日は一日お疲れ様、悠弥君。妃乃もちゃんと労ってあげた?」

「え?まあ、過去に戻った時にお疲れ様、位は言ったわよ?」

「その言い方だと、ほんとにそれ位しか言ってないね?んもう、駄目だよ妃乃。妃乃ってば素だとちょっと素っ気ないところあるんだから、意識して言う位の事しないと」

「素っ気ないとは失礼ね。なら綾袮こそ、ちゃんと言ってるの?」

「うん。それはもう軽快に、『はーいお疲れお疲れ〜』ってね!」

「いやそれ部活のノリじゃない…気さくを超えて、それじゃただの場違いだっての…」

 

 やっほー、と言われた以上スルーは出来ないなと思い、近くに行った俺……だったが、俺に対する言葉はそこそこに、二人はすぐ二人だけの会話を始めてしまう。

 

…………。

 

……いや、ほんと俺呼ばれたの?呼ばれはしたんだよな?それとも何か?山彦感覚でやっほーとだけ返して、後は素通りするべきだったのか?…だとしたら俺…普通に間抜けじゃね…?

 

「…あ、ところで悠弥、明日の事なんだけど……って、何黄昏てるのよ」

「訊くな、そういう気分だったんだ…」

「そ、そう…明日だけど、ポイントCまでは今日と同じ所を探すわよ。一日通して考えると、その辺りまでが特に気になる感じあったし」

「あ、おう…結構簡単に変えられるんだな、捜索ポイントって」

「そうよ、だって感覚頼りな部分も多いもの。…因みに、貴方は何か感じた事ってない?」

「え?寒いなぁってのと、近くで見るとやっぱ富士山は圧巻だよなぁって事位だな」

「あ、分かる分かる。わたしもそう思ったんだよね」

「あそう…そりゃ、富士山も喜んでるんじゃないかしらね……」

 

 答えた内容自体は冗談だが、特別気になる「何か」は感じられなかった、というのが実際のところ。俺より探知能力が高いであろう妃乃でも「気になる」止まりなんだから、それで言えばむしろ目に見えるおかしさ、違和感なんかを探した方が良いかもしれない。

…と、思ったところでまた出る欠伸。それ自体は噛み殺したが、噛み殺したって眠気が消える訳じゃない。

 

「あー…俺はもう寝るわ」

「そうね、ゆっくり休んで。…ま、私もそう長く起きてるつもりはないけど」

「現場に集中しろ、って言われてるもんね。じゃあ、わたしラフィーネとフォリンに話をしたら寝よっかな」

 

 一言言い、返答を聞き、更に綾袮の言葉も耳にしながら俺はその場を離れていく。特に何も考えず歩いていく俺だが…ふと頭に残ったのは、二人の名前。

 

(ラフィーネ、フォリン、か…もし巻き込まれてなきゃ、御道もいたんだろうな……)

 

 実力を伸ばし、綾袮からかなり信頼されている御道ならば、きっといたのだろう。いたら何か変わっていた…という事はないのかもしれないが、それに関しては誰だって同じ。

 そして、今俺は御道の事を、幸せだとは思っていない。戦いなんて無い方が良いに決まってるが、…今でも俺は、双統殿で言い争った時の事を覚えている。あの時と違って、今の俺は力がある事に強い価値も感じている。…だからこそ…今の御道の事を思うと、どうにも俺の中では複雑な思いが渦巻くのだった。

 

 

 

 

 二日目、午前中。俺と妃乃は昨日話した…というか言われた通り、まずは昨日と同じルートで、改めて同じ場所の調査をしていた。

 

「うー、ん……」

「…何にもない、って事はないが…って感じの顔だな」

「…えぇ、その通りよ」

 

 一度降り、ぐるりと周囲を見回した妃乃。その後の顔は、見るからにぱっとしておらず…やはり、思った通りらしい。

 

「こう、遠くには感じられてるんだけど、何か違うような気がするっていうか、その正確な位置が掴めないっていうか……」

「…それって、今いる位置の反対側位遠く離れた位置とかじゃないだろうな…?」

「幾ら何でもそこまでは遠くないわよ…そんな遠くのものを感じてるなら、この辺りが気になったりはしないし…」

「分かっちゃいたが、骨が折れるなこりゃ……」

 

 そう言いながら、俺もゆっくりと周囲を見回す。どこを見たって雪山としての景色しかないが、そう決め付けてしまうのは早計。目を凝らせば何か変な物あるかもしれないし、そうでなくとも何かしらのヒントは見つかるかもしれない。……まぁ、凝らしたって今のところ雪と木しか見えてこないが。

 

「…まさか、雪に埋もれちゃってるのかしら…もしそうなら、いよいよ見つけるのは困難ね……」

「…………」

 

 時々止まったり降りたりしつつ、低速で進む事数十分。妃乃はあってほしくない可能性を、独り言として漏らし……それを聞いて、俺はある事を考える。

 雪に埋もれているのか否か。…考えたのは、それじゃない。考えたのは…そもそも埋まるものなのか、という疑問。見つけようとしているものが分からない以上、仮に今の発言が俺に向けてされたものだとしても、それに答える事は出来ない。

 一体何を見つけようとしているのか。それっぽい理由で有耶無耶にしていたが、ここまで来て聞かないというのは流石におかしいってものだろう。聞いた結果答えるのを拒否されたというのならともかく、この期に及んでまだ敢えて聞かないというのは……

 

「……って、あ」

「え?何かあったの?」

「いや…ほら、もうここまで来たのか、ってな……」

 

 その瞬間、俺の視界に映ったのは、昨日遅めの昼を食べた洞穴。いつの間にかここまで、もっと言えばもう一度調査すると言った場所から、新たに行く場所の境となる付近まで来ていたのかと俺は驚き……

 

 

……あ、いや、待てよ…?まさかとは、思うが…そんな都合の良い展開ある?とは思うが…。

 

「…妃乃、ちょっと待っててもらえるか?」

「……?良いけど、やっぱり何かあったの…?」

「気になる事は、な」

 

 妃乃へ一言断りを入れて、洞穴へ向けて急降下をかける俺。着地の直前で逆噴射をかけ、軽く走る形で雪原に降りる。そこからそのまま洞穴の中へと入っていき、用意しておいたライトで中を照らす。

 昨日の段階では、ただの洞穴、ただのちょっとした横穴程度に思っていた。だがそれは別に、ちゃんと調べた訳じゃない。ぱっと見の判断で、単に「ここ昼食食べるのに良さそうじゃね?」位の感覚で見た結果そう思っただけで、本当にそうなのかはまだ分からない。

 だからライトで照らしながら、奥へと進む。本当にただの洞穴なのか、何の変哲もない穴なのかを確かめる為に、俺は奥へと向かって歩いていく。そして……

 

「…………」

「あ…悠弥。何か見つかった?」

「…ここ、昨日入った時奥は壁になってるように見えたよな?」

「えぇ、見えたけど…違うの?」

「あぁ。どうも奥は登り坂になってて、結果地面が壁に見えてたみたいでな。……あったよ、その奥に。結構な広さのありそうな、地下洞窟へと繋がる穴がな」

 

 何か、を隠していたのは、積もった雪ではなく地面そのもの。地下という、近くとも全く見えない場所。…その可能性を生み出す空間が…洞穴の下、洞穴の先には広がっていた。


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