双極の理創造   作:シモツキ

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第百六十四話 決行、擬似合コン

 思いもよらぬ展開となったクリスマス(イブ)も、のんびり過ごした大晦日も、朝っぱらから出掛ける羽目になった上魔物討伐する事にもなった元旦も終わり、そのまま冬休みも終了した。…くそう、まただ…また平日は毎日学校に行かなくてはならない日々が始まってしまった…。

…みたいな心境で始まった三学期の、最初の週末。と言っても、三学期は週の中頃から始まったからすぐ週末になった訳だが…まあともかく、明日と明後日は休みだって事で少しだけ気分のいい俺は今、双統殿の技術開発部…その奥にある、園咲さんの部屋にいる。

 

「…という事で、調整点はここに纏めておいた。要望通りにしたつもりだけど、一応確認してくれるかな?」

「あ、はい」

 

 ここの主、園咲さんからタブレットを受け取り、軽くだが武器の調整の内容を確認。その殆どが性能には直結しない、多少使い易く感じられるかなぁ…位の調整ではあるが、その程度であろうと武器は武器。戦いに絡む事を、おざなりには出来ない。

 

「どれどれ…」

「見んな変態」

「なんで!?いや、勝手に見るなってだけなら分かるけど…何故に反対!?」

「さぁ?」

「うん、だろうね!適当に言っただけだろうなとは思ってたよ!」

 

 同じく部屋にいる御道が覗き込むのに気付いた俺は、殆どそちらへは意識を傾けず思い付いた言葉を口に。…御道は元気だなぁ……。

 

「あー、五月蝿い五月蝿い。…大丈夫です、園咲さん」

「それは良かった。…今回も、調整だけで良いのかい?」

「えぇ。今のままで十分です」

「ふむ、そうか……」

 

 調整だけで良いのかというのはつまり、本格的な強化や改修やしなくても良いのかという事。それに俺が首肯すると、園咲さんは少しだけ残念そうな表情を浮かべる。…いや、まぁ…そういう反応されると少し申し訳なくもあるが、だからってそんな理由で必要でもない改修をするのはちょっと……。

 

「…こほん。まあそれはそうと、これ以外にも俺達に何か用事があるんじゃないんですか?」

「おや?どうしてそう思うのかな?」

「先に済んだ御道を引き留めた事と、その時俺が何かあるなら先に済ませてくれれば良いって言った時、そうはせずに調整の話を優先した事から、俺達両方に用事があるんじゃないかと思っただけです」

「…鋭いね。その通りだよ、悠耶君」

 

 推理なんて程でもない、単に想像してみただけの事口にした俺だが…どうやら合っていたらしい。

 

「あ、そうだったんですか…それで、用事と言うのは…?」

「うん。と言ってもこれは、私個人の話…というか、相談のようなものだ。霊装者ともあまり関係しないから、軽い気持ちで聞いてくれて構わない」

『は、はぁ……』

 

 発された返答に、若干の困惑を抱く俺達二人。園咲さんは、リラックスしてもらおうと思ってこれを言ったんだろうが…俺達からすれば、園咲さんは成人している年上の女性。その女性に個人的な相談なんて言われても、正直あんまりリラックスは出来ない。

 

(…まぁ、調整で何度も世話にはなってるし、聞くだけ聞いてみるか……)

 

 とはいえ、リラックス出来ないってだけで断る程俺も器量のない男じゃない。それは御道も同じなようで、俺達がソファに座ったまま佇まいを正すと、園咲さんも話し始める。

 

「さて、それじゃあ結論からだが…私は君達に、食事に付き合ってほしいんだ」

「あ、食事ですか……え、食事?」

「食事って…俺と、千嵜にですか…?」

「うん、そうだが…流石にこれじゃ伝わり辛かったかな?すまない、多少噛み砕いた表現をしたのが裏目に出てしまったようだね」

「い、いえお気になさらず…えぇと、では結局何を…?」

 

 一体どんな相談なのか。そう思っていたのに、出てきたのはなんと食事のお誘い。しかも口振りからして、その食事というのは恐らく外食。相談云々以前に訳が分からな過ぎて逆にスルーしかけてしまった俺だが、どうも園咲さんなりに伝わり易くしてみようとした結果らしい。…まぁ、その結果は自覚した通り完全な裏目な訳だが…下手に噛み砕いた結果だというなら一安心。御道が改めて訊いてくれたし、今度こそ何の話だか分かる……

 

「──擬似合コン。二人には、それに付き合ってもらいたい」

 

……前言撤回。二回目も何の話だか全然分からねぇ。むしろ余計に分からねぇ。つかそもそも…擬似合コンって何!?それが意図するものどころか、言葉の意味すら分からないんですけど!?

 

「…勿論、嫌だと言うのなら無理強いはしない。けれど協力してくれるなら、当然食事代は全て私が持つし、謝礼も……」

「いやいやいやいやいや!ちょっ、何で普通に話を進めているんですか!?」

「…不味かったかい?」

「不味いも何も、飲み込めてすらいないんですが!?え、ちょっ…合コン!?擬似合コン!?それは霊装者の用語か何かで!?」

「そんな霊装者用語あるか…!…すみません、時間かかってもいいんで一から説明をお願いします……」

 

 まさかの説明無しに思いっ切り突っ込む御道に続き、俺も軽く額を押さえながら説明を要望。…駄目だ、この人感性が独特過ぎる…天然にも程があるって……。

 

「そうかい?と言っても、そこまで深い理由がある訳じゃないんだ。つい最近、友人から新年会を兼ねた食事会…まぁ、合コンに近いものに呼ばれてね。でも私はそういうものに無縁過ぎて、友人の助けになれない可能性が高いんだ。だからその練習をしたい…という事さ」

「あ、あぁ…やっと少し話が見えてきました…。…友人の助け、というのは…?」

「この食事会、私の友人が『意中の相手とより仲良くなる機会が欲しい。けれど大胆な事は出来ないし、それなら食事…それもそこそこの人数でやるものならどうだろうか』…という考えから発生したものでね。そこに参加してほしいと頼まれたんだよ」

「…俺から言うのもアレですが、それって断る事は……」

「そうだね、場違いにも程がある私が言っても邪魔になるだけと、一度は断る事も考えた。けど、他に頼れる相手がいないようでね……彼女は昔からの友人で、他者やその場に合わせるのが苦手な私と周りの間を上手く取り持ってくれていた恩人でもある以上、力になりたいんだ」

 

 質問を重ねる毎に、はっきりとしていく擬似合コン…ってかその裏にあるものの輪郭。…最初からこんな感じで話してくれれば…ってのは口にしない。

 てか、考えてみりゃ擬似合コンなんて結論が突飛過ぎる以上、多少噛み砕いても意味不明なままなのは当然だわな……。

 

「…どうだろうか?先にも言った通り、嫌ならば断ってくれていい。お礼はするとはいえ、君達にとっては無関係な話なんだからね」

「いや、まぁ…けど、俺達に相談してきたって事は……」

「情けない話だが、頼めるのが君達位しかいなくてね。…いや、正確には全くいない訳ではないのだが…なにぶん事が事な以上、誰でも良いとはいかないんだ」

 

 若干返答に困りながらも言葉を返した御道へと、園咲さんも肩を竦めてすぐに答える。

 それもそうだ。合コンの練習ってならその時点で同性じゃ駄目だし(…あれ?いやでも、友人が女性だともその友人の意中の相手が男性だとも言ってないな…異性の俺等を呼んだんだから、間違っちゃいないとは思うが…)、年齢層もある程度は限られてくる。それでも「本当に俺達以外いないの…?」感はゼロじゃないが…交友関係に関しちゃ、俺も人の事言えないもんなぁ……。

 

「…………」

「…すまないね、こんな事を頼んでしまって。すぐに答えを出すのが難しいのであれば、一旦……」

「…いえ。俺も合コンの経験なんてないですし、あまり役に立てないかもしれませんが…それでも良いのなら、協力します」

「…いいのかい?」

「はい。園咲さんにはお世話になってますし、そういう事でしたら断れません」

「そうか…ありがとう顕人君。恩に着るよ」

 

 口元に手を当て、少考していた御道。それを見て園咲さんは何か…恐らくは後でも良いという旨の言葉を言おうとしたが、それを制する形で御道は頼みを引き受ける。…そういう事なら断れない、か…人が良いなぁ、ほんと……。

 

「…千嵜はどうするの?」

「俺か?俺はまぁ…日程次第ですかね。その擬似合コンはいつやるつもりなんです?」

「明日でも来週以降でも、君達の都合の良い時で構わないよ。勿論、本番前ならば…だけどね」

「なら、善は急げで明日なんてどうでしょう?早めにやるに越した事はないですし」

「…という事は……」

「…えぇ、俺も引き受けますよ」

 

 提案しつつも御道の方へと視線を送り、明日で大丈夫かどうかを確認。御道からは何も返ってこなかったが、何もないって事はつまり大丈夫って事。そして園咲さんからの言葉に頷き…俺も意思を表明する。

 

「二人共…あぁ、やはり君達に頼んで正解だったよ」

「ま、俺も前に使ってた武器の件で恩がありますからね。それに御道一人だと、不安でこっちまで落ち着かなくなりそうですし」

「失礼な…てか、早めにやるに越した事はないって、よく千嵜そんな事言えたね…」

「うん?俺は元々そういうタイプだぞ?必要な事はさっさと片付けるし、そうじゃない事はそもそもやらないんだからな」

 

 安心したように頬を緩める園咲さんへと肩を竦め、そこから俺は御道を見やる。御道からは半眼を返されたが、まぁそれは想定済み。だからその半眼を軽く流し…俺は明日、擬似合コンと称して外食をする事になるのだった。

 

 

 

 

 ドレスコードを気にしなければならない…という程ではなく、けれども高校生が立ち寄るにはちょっとハードルが高い、街中にあるそんな感じのレストラン。そこへ今日、つまり園咲さんからの相談を受けた翌日の夜…俺と千嵜は、予定された時刻に訪れていた。

 

「…よくよく考えたらさ、家族とか親戚って訳じゃない大人の女性に食事に誘われるって…中々に凄い事じゃない…?」

「そうか?…あー、まぁ…そんなもんか……」

 

 厳密に言えば今俺達がいるのはそのレストラン内ではなく、レストランが見える距離の待ち合わせ場所。立ち合わせるなら双統殿の方が分かり易いと思ったけれど、このレストランがあるのは俺の家から見ても千嵜の家から見ても双統殿より手前の位置。なら双統殿まで来る必要はないだろうと、園咲さんがここでの待ち合わせを提示してくれた。

 まぁでもそれはそうとして、ほんとよく考えたらこれは凄い事な気がする。だって擬似とはいえ合コンだし。相手は大人の女性だし。

 

(うーむ…というか、人生初の合コンが擬似になるとは…ある意味レアってか、擬似合コンなんて殆どの人はした事もないんだろうけど……)

「すまない。待たせてしまったようだね」

 

 動揺とまではいかないにしても、あまり落ち着かない心境の俺。そこへ不意にかけられたのは、昨日も聞いた落ち着いた声。

 

「あ…こ、こんばんは園咲さん…」

「こんばんは、二人共」

「どうも…俺も御道もそこまで待ってた訳じゃないんで、お気になさらず…」

 

 はっとして振り向いた先にいるのは、当然ながら園咲さん。普段は制服の上から白衣を着ている彼女だけど、プライベートである今は黒のコートに白のブラウス、深い赤のフレアスカートに茶色のブーツという、園咲さんらしく落ち着いた服装。けれど華美でも着飾っている感じでもないからこそ、その服装は大人の女性ならではの魅力というか、綾袮さん達とは全く違う類いの雰囲気を醸し出している。

 

「それは良かった。では、外にいても寒いだけだし早速入ろうか」

 

 そう言って、先導するように園咲さんは歩き出す。一応俺も男だし、擬似とはいえ合コンなんだから、むしろ俺が回す位の気概を見せたいところだけど…それ以前に園咲さんは大人の年上であり、これも園咲さんが言った事。男らしさを取るか、目上の人を立てるかという二択であり……まぁ、そこは後者を取りますわな…。

 という訳で、俺も千嵜も園咲さんに続いて入店。店員さんに案内された席へと移動し、座ったところで上着を脱ぐ。

 

「取り敢えず、先に注文してくれればいいよ」

「は、はい。…でも、合コンの場合って各々が自分の頼んだ料理だけを食べる…ってもんじゃないよね?」

「さぁ?それは俺に訊くな」

「えぇー…まぁ、じゃあ…全員で食べられるような一品料理も、一つか二つ注文する…で、いいですか…?」

「勿論」

 

 役に立たない千嵜を早々に諦め、俺は頭を捻って合コンらしい事を提案。その後やってきた店員さんに注文を伝え、ふぅ…と小さく吐息を漏らす。

 

「…で、えぇと……」

「何かな?」

「何だよ?」

(…やり辛ぁッ!分かってはいたけど…この面子、絶対合コン向いてないよねっ!)

 

 まだ始まって数分…というか、合コンとしては始まっているかどうかも怪しいというのに、既に感じるやり辛さ。まぁ、そりゃそうなんだけどさ!合コンって積極的に関わっていく場(だと思う)な以上、我が道を行くタイプは光るか浮くかの二択に決まってるんだけどさ!そして三人中二人がそれじゃ、光るも何もないんだけどさッ!……はぁ…。

 

「…あの、いきなりで悪いんですけど…そしてある意味もう遅いんですけど…俺と千嵜の二人だけで、練習になります…?」

「それは…どうだろうか。私自身合コンというものをよく知らない以上、何とも言えないのが実際のところだ」

「それつまり、上手くいってるのかどうかすら分からないって事じゃないですか…」

 

 園咲さんも判定出来る人材、こういうのが合コンだと分かる人間がいないのは宜しくないと理解はしてくれている…と思うけど、こんなやり取りが出てきてしまってる時点でなんかもうアウトな感じ。…いや、そもそも合コンに決まった形がある訳でもないんだろうけど…うぅむ…。

 

「…別に、そこはそこまで気にしなくてもいいんじゃね?」

「…なんでさ」

「だって、園咲さんは合コンを主催する訳でも合コンで成功したい訳でもない…言ってしまえば、頭数として邪魔にならない程度の事が出来ればいい訳だろ?だったら無理に盛り上がる必要はねぇし、それこそ話を振られた時に上手くやれればそれだけでいいんじゃねぇの?」

 

 困った。非常に困った。…そんな事を思う中、運ばれてきたお冷を一口飲んでからおもむろに口を開く千嵜。また適当な事を…と発された言葉に呆れ混じりで訊き返した俺だけど、それに対して返ってきたのはなんと至極真っ当な論調。

 

「…………」

「…ん?なんか間違ってたか?」

「いや…うん、その通りだわ…」

「だろ?…って、なんでちょっとテンション下がってんだよ…」

 

 全くもってその通り。反論のしようがない千嵜の言葉に納得してしまった俺は、だからこそ「じゃあ頑張って合コンらしさを考えてた俺は何なのよ…」という気分になってしまう。…や、千嵜は悪くないけどね…?要は俺が空回りしてただけだし……。

 

「…ご、ごほん。じゃあ、こっちから何か質問を……」

「分かった。答えられる限りで回答しよう」

「えと、取り敢えず本番はもう少しフランクでも良いと思います…。…えーっと…あ、そういえばここにした理由は何かあるんですか?」

「ここには何度か来た事があってね。初めてのレストランよりはやり易いと思ったんだ」

 

 十数秒の消沈を経て当初の目的、園咲さんに協力するという事を思い出した俺は、気を取り直して質問開始。そこから俺達と園咲さんは、暫しの間質問と回答を繰り返す。

 

「それは…っと、料理来たみたいですね」

 

 回答に対する更なる質問を千嵜がしようとしたところで、運ばれてくる料理。若干のタイムラグこそあれど注文した料理は全て来て、そこからは一旦食事に移行。そこそここの形式で喋っていた事もあってもう俺は落ち着いており、料理も普通に喉を通る。

 

(うん、それなりに高いだけあって美味いなぁ…擬似合コン云々は別として、ちゃんと帰りにお礼を言わないと……)

 

 そんな事を考えながら、俺はふと顔を上げる。するとそれは、丁度園咲さんがミネストローネを口に運ぶタイミング。

 

「…ん……」

 

 艶のある白の髪がスープの中へと落ちないよう指で耳にかけ、掬い上げたスプーンへと口を付ける園咲さん。それは何か特別な事をしている訳じゃない、本当にただスープを飲んでいるだけなのに……なのに凄く、絵になる光景。上手くは表現出来ないけれど、それが俺の目には美しく映る。

 というか実際のところ、園咲さんは本当に美人だと思う。基本静かだからこそ大人っぽいというか、整った顔立ちが映えるというか……

 

「……?どうかしたかい?」

「へっ?…あっ…え、えーっとその…あぁそうだ、ご友人!もし良ければ、その人の話をもう少し聞かせて頂けたらなー…と…」

「ふむ…そうだね、いいよ。色々勝手に話してしまうのは彼女に悪いし、何でも…という訳にはいかないけれど」

 

 気付けばこちらを見ていた…というより俺の視線に気付いた園咲さんに尋ねられ、俺は慌てて誤魔化しにかかる。割と良い事が思い付いたから、何とか誤魔化しに成功したけど…食事中の女性を見つめるとか、デリカシー面でアウトだな…(後、千嵜には誤魔化してる事がバレてたようで、「何言ってんだこいつ…」みたいな視線を向けられていた)。

 

「彼女は…そうだね、一言で表すなら快活な人間だよ。綾袮君程ではないけど、私とは正反対な性格さ」

 

 一方園咲さんは一度スプーンを置き、友人の事を話し始めてくれる。これを訊いたのは視線を誤魔化す為だったけど…どういう人なんだろうとは思っていたし、ちゃんと聞こうと俺もその場で座り直す。

 

「私は昔から興味のある事にばかり没頭しあまり周りの事は気にしない性格だったが、彼女は社交的な上気遣いも出来る、所謂コミュニケーション能力が高い人物でね。実を言うと、ここも初めて来たのは彼女となんだ」

 

 語り始めた園咲さんが、その最中で浮かべるくすりとした笑み。

 それだけで伝わってくる。園咲さんにとって、その人は本当に仲の良い相手なんだって。

 

「今思えば、彼女がいなければ私の学生時代は本当にただ過ごすだけの日々だっただろう。そしてそれを、味気ない日々だとすら思わなかったかもしれない」

「…普通を知らないと、自分がどういう状態なのかも分からないものですもんね」

「そういう事さ。けれど彼女がいたから、学生時代に様々な思い出を作る事が出来た。…なんて、君達にはあまり面白くもない話かな」

「そんな事ないですよ。俺から訊いた話ですし」

「えぇ。それに…俺は分かりますよ、その気持ち」

 

 一度区切って肩を竦めた園咲さんの言葉を、俺は否定。続けて千嵜も俺に同意し…そういや千嵜も、かなりしっかり…てか、真剣に聞いてるな…。

 

「それなら良かった。こういう話は、普段した事がなかったからね」

「…園咲さん、その人とはどういう経緯で友人に?」

「経緯かい?経緯は…何か特別な事があった訳じゃないよ。ただ、彼女は私の事を前から知っていた…というか見ていたみたいでね、彼女から話しかけてくれたんだ。で、それについて訊いてみた時、彼女はこう答えたよ。なんだか面白そうな子に見えたから、とね」

「面白そう、ですか…(…そういや千嵜との関係も、元々は俺が興味を持ったからだったな……)」

「…あ、それと『後、美人さんだし!』とも言っていたよ」

『へぇ……え?』

「うん?言っていなかったかな?彼女はちょくちょく私に抱き着いてくるんだよ。何度か頬擦りされた覚えもある」

 

 千嵜からの問いに答えた園咲さんは、それから懐かしむように目を細め、その時言われた言葉を口に。それを、俺もまた連想から少し懐かしい気持ちで聞いていたところだけど……続けて発された斜め上過ぎる発言に、思わず俺も千嵜も呆然。え、何?ちょくちょく抱き着いてくる…?頬擦りもされてる…?

 

「ふふ、お茶目な友人だろう?」

「え、えと…そう、ですね…(これをお茶目で済ませているのか…流石は園咲さん……)」

 

 全く嫌そうな素振りのない園咲さんに、付いていけないこっちサイド。…いや、まさか…ご友人の意中の相手って、園咲さん自身だったってパターンじゃないよね…?女性サイドの人数が足りないから…っていうのは建前で、園咲さんと友達以上の関係になるのが望みだったとかなら、びっくりにも程があるぞ…?

 

「…まぁ…そんな感じで、彼女は本当に大切な友人なんだ。私が彼女の為に出来る事があるなら何でもしたいし、彼女が幸せになってくれるのなら、それは私にとっても嬉しい事だ。…私は彼女に、これまで沢山のものを貰ってきたからね」

「…大丈夫ですよ。俺、合コンの事は何も言えませんが…それならきっと、その人も園咲さんが隣にいる事で安心出来ると思いますし」

「…だよね。園咲さんの気持ちは、きっと伝わってると思いますよ」

「…そう、だろうか。…うん…そうだったら、いいな……」

 

 実際のところ、ご友人が誰と結ばれたいのかは分からない。けれど、園咲さんがそのご友人を大切に思っている事、一緒にいて楽しいと思える間柄である事は本当に伝わってきたし、もし仮に上手くいかなかったとしても…園咲さんは、園咲さんの出来る形でその人を支えてあげるんだろう。…締め括る言葉を聞いて、俺は自然にそう思えた。

 それからも、訊いて答えてのやり取りは続いた。途中からは擬似合コンだからではなく、ただの雑談として、食事しながら園咲さんと色々話した。それが合コン繋がるかどうかは分からないけど…楽しい時間だった事は、間違いない。

 

「ご馳走様でした、園咲さん」

「こちらこそありがとう、二人共。今日は良い予行練習になったよ」

 

 食事を終え、レストランの外へと出た俺達。決めていた通りにお礼を言うと、園咲さんも感謝の言葉を返してくれる。

 

「…何かあれば、また連絡して下さい。ほんと、合コンとか全然分からないっすけど…出来る範囲で、また協力します」

「そうだね、何かあればまた頼むよ。それじゃあ、二人共夜道は気を付けて」

「はい。園咲さん…は、この後また何か研究したりするんですか…?」

「いいや、今日はこのまま帰ってゆっくりするつもりだよ。予行練習の振り返りもしたいからね」

 

 園咲さんも気を付けて。そう言いかけて「目上の人にこういう事言うのは良いのか…?」と不安になった俺は、そこから何とか方向転換。それに答えて園咲さんは歩き出し、俺達二人も帰路に着くべく身体の向きを……

 

「…ああ、そうだ。顕人君、悠耶君」

『……?どうしまし……』

「──今日は、とても楽しかったよ。もし良ければ…また一緒に、食事をしてくれないかな?」

 

 その瞬間、背を向けて歩き出そうとしたその時振り向いた園咲さんが浮かべていたのは、穏やかで、大人っぽく…けれどどこか可愛らしさもある、にこりとした笑み。夜の街並みを背景に、綺麗な白の髪とコートの裾を軽くはためかせながら俺達へと向けられた、大人の女性の純粋な好意。それに、その言葉と微笑みに、一瞬俺は息を飲み……こくりと一つ、首肯をするので精一杯だった。

 

「…………」

「…………」

「……ねぇ、千嵜…」

「ん……?」

「…お前も、また誘われたら行くんだな…」

「…うっせ…」

 

 そうして、擬似合コンという訳の分からない食事は終了。これを通して俺達は園咲さんの交友関係を少し知り、園咲さんの人となりをこれまでより一歩深いところまで理解し……そして最後に、俺の心にはこんな思いが浮かんでいたのだった。

 

 

(……年上の女性も、素敵だな…)


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