どうせやるなら、楽しめる方がいい。折角やるんだから、最低限の事だけじゃ物足りない。ただ遊んで、いつもより豪華な食事をするだけじゃ、楽しくはあっても味気ない。だって、やろうとしているのはパーティーなんだから。
計画して、準備を始めた俺は、そんな事を思うようになった。俺一人で準備をやるなんてとか、片付けどうこうとか言いはしたけど、いざやるとなると華やかなものにしたいと思い始めた。要は、クリスマスパーティーで得られる楽しさに期待していて、わくわくしてるって事なんだけど……多分これは、ごく普通の事だと俺は思う。
「ま、取り敢えず輪飾りは定番だよな。それと風船と、旗…あぁこれガーランドフラッグって言うのか。ツリー…は、綾袮さんが用意してくれるって言ってたし……ウケ狙いでヒゲメガネも買っておこうかな」
ぶつぶつと小声で独り言を言っている俺が今いるのは、行きつけ…って程よく行く訳じゃないけど、時々お世話になってる百均。そこで何を買っているのかといえば…今言った通り、パーティーグッズとそれに使えそうなアイテム。
「はー…我ながら、ノリノリだなぁ俺……」
見るからに楽しみにしている、楽しみにしてなきゃやらないような事をしている自分自身に、思わず苦笑いをしてしまう俺。別に悪い事じゃないとは思うけど、やっぱり男子高校生としては、家での、身内だけでのパーティーの準備を積極的にやってる自分というのは少し恥ずかしい。でもまぁ、だからって止める程俺は子供でもない(と思いたい)んだけど。
まずは元々考えていた物を買い物カゴに入れて、それからパーティーグッズ売り場をうろうろしながら「あ、これは良さそう」と思った物を手に取る時間を過ごす事十数分。あんまり沢山買っても使わず仕舞いになる物が出てくるだけだし、この辺にしておくか…と思ったところで、俺はある人物を発見した。
「ん?千嵜?」
「…この気配…御道だな?」
「いや百均で気配での判別とかしなくていいから…絶対使いどころ間違ってるって……」
どんなに格好良い事でも、やるタイミングと場所を間違えるとふざけてるようにしか見えなくなる。それを体現した(或いはそれを狙ってわざとやった)人物は、やっぱり千嵜。持っているカゴの中は、俺と似たようなラインナップになっていて…ははーん。
「千嵜もパーティーの買い出しなのね」
「も?…あぁ、そういう事か。帰りにスーパーも寄ってくつもりだけどな」
案の定同じ目的だった千嵜は、俺の言葉とこっちのカゴで全てを理解した様子。こりゃ多分、誰がパーティーなんて言い出したかも見抜かれてるなぁ…。
(…って、うちは面子的に推理するまでもないか)
考えるまでもなかった事に、俺は内心苦笑い。俺は積極的にパーティーを企画するタイプじゃないし、フォリンさんも同様だし、ラフィーネさんは言わずもがな。慧瑠に至ってはそもそも認識されてないんだから、まあ綾袮さん以外ないよね。
「けど意外だな。千嵜が買いに来るなんて…」
「さっきも言った通り、スーパーに行くついでだ。何買うかは殆ど緋奈が決めてるしな」
「へぇ。っと、じゃあお先に」
会話しながらレジへと並び、俺が先に会計へ。そこそこの数買ってはいるけど、百均だから当然商品は全て百円。…まぁ、折紙とか風船は他で買ってもそこまで値段変わらないだろうけど。
「そういや、冬休みの課「やってない」早ぇって…まだ『か』しか言ってねぇじゃん……」
「御道こそいい加減覚えろよ。俺が課題を毎日コツコツやる訳ないだろうが」
「何を偉そうに言ってんだ…俺が被害被る訳じゃないからいいけど…」
そんな会話をしながら俺達は百均を出て、俺は帰路に、千嵜はスーパーへの道に。と言っても今のところ道は同じだから、男二人で並んで歩いて……って、あれは…。
「あ、茅章だ」
「うん?あ、ほんとだ…よう、茅章」
「うぇ?あ、二人共…」
横断歩道を渡る直前、向こう側にいた茅章を発見。俺の言葉で気付いた千嵜が呼ぶと茅章もこっちに気付いて、小走りでこっちに来てくれる。
「今日は二人で買い物?」
「偶然だ偶然。茅章ならともかく、休みに野郎と二人で買い物になんか行かねぇよ」
「全くだね。茅章ならともかくとして」
「え、えーっと…この場合、僕はありがとうって返せばいいのかな…?」
うんうんと千嵜の言葉に同意していると、茅章は頬を掻きつつ困り顔に。うーん、ここで最初に出てくる言葉が「ありがとう」な辺り、茅章の優しさは今日も健在だなぁ…。
「…そうだ、茅章。うちでクリスマスイブにちょっとしたパーティーやるんだけど、茅章もどう?」
「え?僕?…いいの?」
「いいも何も、茅章なら大歓迎だよ」
ぶっ飛んだ事をする事もなく、気配りも出来る茅章なら、楽しさは増えても面倒事が増えるなんて事はきっとない。そう思って茅章を誘ってみる俺。けれど茅章が答えてくれる前に、何故か千嵜が口を開く。
「まあ待て御道。うちって言ってるが、あくまで家主は綾袮だろ?ならその綾袮に何も言わず家でのパーティーに逆呼ぶのはどうなんだ?」
「う、それは……って待った。別の家でのパーティーならともかく、自分の住んでる家ならよくね…?」
「それはどうだろうな。って事で、うちはどうだ茅章。うちは一応俺が家長だから、問題ないぞ」
「おいこらそれが目的か。人の足引っ張りやがって…」
「いやいや俺は後でトラブルになったら大変だと思って言っただけだぞ?それにどうするかは茅章の決めることだしな」
「そりゃまあ、そうだけど……」
微妙に筋は通っている、けど釈然としない千嵜の主張。ただ少なくとも最後の言葉は全くもってその通りだから、俺は視線を茅章の方へ。
どうするかは茅章次第。うちに来るか、それとも千嵜のところへ行くか。その答えを聞くべく、俺達は茅章を見つめて、茅章も迷うような顔をして、そして……
「…その…ごめんね、二人共。クリスマスイブは僕、予定があるんだ…」
そもそも、どっちにするとかの話じゃなかった。それ以前に、予定が空いていなかった。
「あ…そ、そっか。こっちこそごめん、先に空いてるかどうかを訊くべきだった……」
「う、ううん気にしないで!それに僕、誘ってくれたのは嬉しかったから!」
「そう言ってくれると助かる…茅章も誰かと何かするのか?」
「うーん…まあ、それも間違ってはいないかな。ライブに行くつもりだから」
「ライブって…あのライブ?」
「どのかは分からないけど、世間一般で言うライブだよ」
少し意外な答えに俺が訊き返すと、茅章はこくんと一つ首肯。ライブか…どのジャンルかは知らないけど、茅章はそういう趣味があったのか…。
「…ま、そういう事なら仕方ないな。それじゃ暫くは休みなんだし、別の日に飯でも行こうぜ」
「あ、うん!他の日は大概何もないから、僕はいつでも大丈夫だよ」
「なら、大晦日より前いいだろうね。それ以降は年末年始で開いてる店が少ないだろうし、開いてても混むのは確実だしさ」
それから俺達は近いうちに食事に行く事だけは決定し、家に帰る道中だったらしい茅章と別れる。飯か…そういや、双統殿以外で初めて茅章と会ったのもラーメン屋だったなぁ…。
「しっかしライブか…茅章にそういうイメージはなかったなぁ……」
「同感。でもほら、普段の性格や好き嫌いが趣味に直結するとは限らないしね」
「あー…うん、それはマジでそうだよな。後…ほんっと、茅章と話すと和むよな……」
「分かる…凄く分かる……」
話していると楽しい人、もっと色んな話を聞いてみたいと思う人はそこそこいるけど、『和む』という点においては恐らく茅章がトップクラス。そしてこの点は、今後もそうそう抜かれる事はないと思う。
てな感じで茅章と別れた後も数分話しながら俺達は歩き、それから十字路で千嵜とも別方向へ。さてさて、パーティーに飯か…夏休みも色々あったけど、この調子じゃ冬休みも何だかんだ色々ありそうで…やっぱ、楽しみだな。
*
戦いは、始まる前から勝敗が決まっているという。まあこれは色々な理由、様々な要素があった上での事だが、その中の一つに『準備』があるのは間違いない。
本番は、準備の上に成り立つもの。ぶっつけ本番なんて言葉もあるが、基本的に準備はしておくべきで、それをどれだけしっかりやれるかが本番の成果に直結する。そしてそれは、戦い以外でも言える事。準備とは即ち過程であり、過程なくして結果は存在しないのだから。
なんて、それっぽい事を並べ立ててみたが…要は、家での(ほぼ)身内パーティーだろうと、準備は入念にしておいて損はないってこった。
「食材はどれも不足なし、っと。緋奈ー、飾りの方はどうだー?」
「順調に進んでるよー。お兄ちゃん、そっちは一人で大丈夫?」
「だ、大丈夫だ。というか、緋奈がこっち来たら飾りの準備が進まないだろ?」
「まあ、そうだよね。こっちは任せて」
一瞬ひやりとしたが、すぐ緋奈が引いてくれた事で一安心。それと同時に「こりゃのんびりしてたら、先に飾りの方が終わっちまうな…」と、自分のエンジンを入れ直す。
緋奈に返した通り、今妃乃は家にいない。何でも今日は協会で外せない仕事があるとかで、前日準備は俺と緋奈の二人でやる事に。まあ勿論責任感の強い妃乃なだけあって、代わりに昨日かなり飾りの準備を進めてくれていた訳だが。
(…そういや、前日から料理だなんて、久し振りだな……)
引き受けた(というか緋奈には任せられない)料理の作業を始めながら、ふと俺は思い返す。
家庭料理において、前日から準備を…なんて事は基本しない。そんな当日だけじゃ作れない料理なんて大概は本格的なものだし、本格的な料理を食べたいのなら、無理に作るより店に行った方が美味いし確実。ましてや家の食事は一日三食作るもんなんだから、そもそも一食にそこまでの労力はかけられない。実際今日だって、今日の内に済ませられる行程はやっておこうとしているだけで、何時間も掻き回し続けたり寝かせたりする料理をしている訳じゃないしな。
「…あ、そうだ緋奈。今更だが、緋奈は友達に別のパーティーに誘われたりはしなかったのか?」
「え、どうして?」
「いや、もしそれを断らせてたなら悪い事をしたな…と思ってさ」
「なんだ、そんな事気にしないでよお兄ちゃん。そもそもこれは、わたしが提案した事なんだから」
確かにその通り、今回のパーティーの提案者は緋奈で、その緋奈がやむを得ない訳でもない理由で抜けたらなんじゃそりゃって話になる。だがそもそもと言うならば、緋奈が提案したのは俺の為。俺を気遣って提案してくれた訳なんだから、その結果別の事を断らせてしまったのなら、それは本当に申し訳ない。
なんて、思っていたが…口振り的にも、緋奈が何か残念そうにしている様子はない。…これなら、明日は気兼ねなく楽しめそうだ。
「それに、クリスマスイブだよ?少なくとも彼氏がいる子なら、何よりもまず彼氏と過ごすに決まってるじゃん」
「あぁ、それもそうか。…………」
「……お兄ちゃん?」
「な、なぁ…一応、一度訊くが…緋奈には、いないよな…?」
続く緋奈の言葉に納得をした数秒後、とてつもない不安に駆られて恐る恐る訊いてみる俺。…ま、まさか…いや、まさかな…。…けど……
「あはは、安心してお兄ちゃん。わたしは、お兄ちゃん一筋だよ」
「だ、だよな…(良かったぁぁぁぁぁぁ…っっ!)」
まるで裁判所で判決を言い渡されるかの如き緊張感と(いや俺そんな経験した事ないが)、そこから解放される圧倒的な安堵感。…良かった…本当に良かった……。
「あ、やべ…安心し過ぎて逆に手が震える……」
「…手が震える?お兄ちゃん、大丈夫?」
「お、おう…大丈夫だぞー、緋奈。ちょっと何かの中毒症状が出ただけだ」
「そっか……ってそれは全然大丈夫じゃないよ!?え、中毒症状!?何の!?」
「…か、かき氷……?」
「この時期にかき氷を中毒症状起こすまで…!?というかそれ、中毒云々じゃなくて単に身体冷えただけじゃない…?」
煩雑な俺の誤魔化しを間に受けた緋奈は、それはもうがっつりと突っ込みをしまくってくれる。何かのと言いつつすぐ具体的な事を言えてたり、そもそもかき氷中毒ってなんだよとか、他にも色々突っ込むべきところはある訳だが……まあ多分、緋奈も本当は分かっているんだろう。だって、現にこっちに来る気配はないし。ちょっと覗いてみたら、もう飾りの作業に戻ってるし。
(…まあ何にせよ、良かった良かった。緋奈の彼氏なんて…うん、誰であろうと絶対想像したくないしな)
心の中で安心の溜め息を吐きつつ、俺も俺で調理再開。兄として良い事なのか悪い事なのかは分からないが…緋奈が彼氏を作るなんて、本当に嫌だ。これはもう、完璧にエゴだが…これからも緋奈は、俺の側にいてほしい。
「……ふっ…」
「…今度はどうしたの?」
「いや、今度は本当に何でもねぇよ」
そう思った数秒後、半ば勝手に漏れ出た笑み。料理中、何もないのにいきなり笑い出したらいよいよヤバい奴だなと表情は戻すが、思考はそのまま続いている。
去年…春のあの出来事が起こるまで、俺にとって大切な人は緋奈一人だった。少なくとも、側にいる人の中で、何としても守りたいと思っていたのは妹である緋奈だけだった。…けど、今は違う。今の俺は、妃乃や依未だって守りたい。これまで築いてきたものを、絶対に失いたくなんてない。
その枠にいたのは、両親が死んで以降ずっと緋奈一人だったのに、この一年足らずで二人も増えてしまった。しかもそれが両方同世代の女の子だなんて、全く俺は何を考えているのか。…でも……こうして大切にしたいって思える人が増えた今は、全然嫌じゃないし…悪くない。
(…ま、こんな話緋奈達には話せないけどな)
この思いを、正直に話したらどうなるか。妃乃なら間違いなく、「へぇ、無愛想な癖に中々可愛いところもあるじゃない」とか言って煽ってくるだろうし、依未は「……きもっ」と一言で俺の心を抉ってくるだろうし、忘れちゃいけないが緋奈も時々俺の事を弄ってくる(※これは悠耶こと俺の勝手な想像です)。こんな話、普通に話すだけでも恥ずいだろうに、その上で弄られたり煽られたりしたら……流石に引き篭もっちまうだろうな。数時間位。
「……よし。こんなもんか」
そんな事も考えながら、料理の準備を進めて数十分後。一先ず前もって出来る事を全て終わらせた俺は、ラップをかけて冷蔵庫へ。これで明日は、多少なりとも楽になるな。
「緋奈ー、そっちは…」
「…ふぅ。ご覧の通りだよ」
台所からリビングに戻ると、俺を迎えてくれたのは何本もの輪飾りを始めとする各種飾り。緋奈と妃乃、二人の性格が表れてるのかどれも作りは丁寧で、たった一日…それも家でのパーティー用としては勿体無いなと思う程。
「お疲れさん、緋奈。まだ何かあるか?」
「ううん。残りは後数分で出来ると思うし大丈夫だよ」
「なら、俺は茶でも入れてくるよ」
くるりと台所へと戻り、二人分の茶を入れて再度リビングに入る俺。今更だが、緋奈はソファではなくカーペットへぺたんと座っての作業をしていて…その後ろ姿が、とても愛らしい。いや勿論、前から見たって緋奈は愛らしいんだけどな。
「ほいよ」
「ありがと、お兄ちゃん。料理の方はばっちり?」
「おう。明日は期待しておけよ?」
湯飲みを置き、自分の分の湯飲みは持ったまま俺はソファへ。緋奈も丁度完成したようで、軽く片付け俺の隣に腰を下ろす。
「良い出来じゃないか」
「それはそうだよ。明日は大事なパーティーだもん」
「…ほんと、ありがとな。わざわざ俺の為に…」
楽しむ為とはいえ、準備というのは面倒なもの。それも丁寧にやってるんだから、少なからず苦労もあった筈。そしてそれは、そもそもしなくてもいい事によって発生した苦労な訳で……
「…もう。わたし達は兄妹なんだから、余計な気遣いは不要でしょ?」
「……っ…緋奈……」
「…そうでしょ?お兄ちゃん」
顔に出てたのか、それとも声から察したのか、俺の心を見透かしたような事を言う緋奈。はっとして振り向くと、緋奈はこっちをじっと見ていて……ははっ、やっぱ緋奈には敵わないな…。
「…そうだな。でもそれを言うなら、先に気を遣ったのはこれを提案してくれた緋奈の方じゃないか?」
「う…それは、その…親しき仲にも礼儀あり、とか…?」
「じゃ、やっぱり気遣いは必要だな」
「うぅ……」
なーんて思いつつも、ふと魔が差して意地悪な事を言ってみると、緋奈は言葉を返せず軽く追い詰められた顔で俺を見つめてくる。…あ、ヤバいな。これは虐めたくなってくる……。
「…なんて、な。気持ちはちゃんと伝わってるから、大丈夫だぞ緋奈」
「むぅ…お兄ちゃんの意地悪……」
「んー、俺が意地悪だってか?」
「だって……あぅ…」
実際意地悪な自覚はあったし、緋奈の文句は尤もなんだが、困らせたい欲求のあった俺はそれ以上の言葉を封殺するようにくしゃくしゃと緋奈の頭を撫でる。すると案の定緋奈はまだ何も言えなくなり、可愛らしく声を漏らして素直に頭を撫でられていた。…よし、ここまでにしておこう。じゃないとマジで変なテンションになる。なんか変な事しかねない…!
「ご、ごほん。それじゃ、飾りは一度仕舞っておくか。明日までに破けたりしたら悲しいしな」
「あ……そ、そうだね。飾り付けはそこまで時間かからないし…」
という訳で俺は緋奈の頭から手を離し、緋奈と共に飾りを仕舞う。緋奈はそこそこの量の飾りを作ってくれたが、元々飾る予定なのはリビング一部屋だけだったから、その作業もすぐに終了。…これでほんとに、後は明日を迎えるだけだな…。
(っとそうだ、一応食器も確認しておくか。あるつもりでいたら無くて、結果料理と全然合わない皿に盛り付ける事に…ってのは虚しいもんな)
「…ね、お兄ちゃん」
リビングから出ようとしたところで俺はその事が思い浮かび、扉に手を掛ける直前でストップ。扉前から台所の方へと方向転換しようとして、そこで後ろからかけられる声。それに何気なく振り向くと、緋奈は言った。
「──明日は、忘れられない日にしようね」
「うん?…あぁ、そうだな」
にっこりと、何も迷いがないような笑みでそう言った緋奈。忘れられない日だなんて、やけに大仰な言い方な気もするが…それ位楽しみにしているんだろうと俺は思い、軽く首肯し同意する。
クリスマスイブ、それにそのパーティーを控えた前日でも、俺と緋奈はいつも通り。俺にとって大切な、普段通りの日常と時間。…そう、俺は思っていた。そう思っていたから、俺は緋奈の中に、緋奈の心の中に潜む思いに、微塵も気付く事が出来なかった。そして全てが済んだ明日の夜、漸く俺は知る事になる。緋奈がパーティーを開こうとした、本当の理由を。その笑みの、その言葉の……本当の、意味を。