双極の理創造   作:シモツキ

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第百五十二話 落ち着ける場所

 冬休みと言えど、俺が家でやる事は変わらない。早く起きて朝食を作って、昼には昼食を、夜には夕食を作って、食器洗いや洗濯だって勿論やる。ラフィーネさんが手伝ってくれるから、最近は少し楽になったけど、それでも昼辺りまで寝て〜…なんてのは、今となっては完全に過去の事。けどやっぱり、学校はないし一つ一つの家事ものんびりと出来るから……長期休暇が素敵である事には、変わりない。

 

「んふぅ……」

「はふぅ……」

 

 時刻は正午前。そろそろ昼食を作ろうかね…とリビングに俺が入ると、そこにはこたつに入って心地良さそうにしているフォリンさんとラフィーネさんの姿。…なんかもう、見慣れた光景である。

 

「…ほんとこたつ好きだよね、二人共」

「暖かいですからね〜…」

「一度入ると、中々出られない…」

「はは…まぁ、気持ちは分かる」

 

 少し前、綾袮さんに言われてこたつを出した初日から、二人はこたつを満喫していたけど…今はもう、二人がこたつに入ってない日はないと言っても過言じゃないレベル。確か最初は、こたつそのものへの興味もあって入っていた筈だけど……ほんと凄いよね、こたつの魔力って。

 そんなこたつへ俺も入りたい(…や、疚しい意図はないぞ!?ないからね!?)気持ちはあるけど、それよりまずは昼食の準備。一度入るとほんとに出たくなくなっちゃうから、一度こたつで暖まってから…って訳にもいかない。…と、思っていたら……

 

「よいしょ、っと。…ふー…霊装者も魔人も、これには敵わないっすねぇ……」

 

 共にリビングへと来ていた慧瑠がぽてぽてと歩いていき、何とも自然な感じでこたつの中へと入っていった。…暑さにも寒さにも強いんじゃなかったのかい、慧瑠さんや……。

 

「…まぁ、いいけどさ……」

「……?顕人、何か言った?」

「ううん、独り言」

 

 二人と一緒に(まあ認識されてないけど)ぬくぬくしている慧瑠を半眼で見つつ、俺は一人台所へ。

 別に恨めしい…とかは思ってない。慧瑠は元から料理の手伝いをしてくれる訳じゃないし、仮に手伝ってくれるとしても、二人がいる以上は意思疎通の為に話す事もままならないから。だったら近くにいようとこたつの中にいようと変わりない訳で……それに口には出せないけど、女の子三人がこたつでほっこりしてる姿を眺められるのは、正直悪い気分じゃない。

 

(さて、ちゃっちゃと作っちゃうか)

 

 という訳で、俺は手を洗って調理開始。暫くしたところでラフィーネさんが手伝いに来てくれて、そこから二人で昼食作り。そうしてもうすぐ出来上がるというところで、出掛けていた綾袮さんが帰ってきて……今日は食卓ではなく、こたつを囲んで昼食を食べるのだった。

 

 

 

 

「ねぇねぇ、うちもクリスマスに何かやろうよ!」

『え?』

 

 食後、いきなり綾袮さんはそんな事を言い出した。前置きも、一切の脈絡もなく、全員揃って訊き返してしまう程突然に。

 

「いや『え?』じゃなくてね、わたしはクリパがやりたいの!」

「何その焼肉が食べたいな言い方…色々気になるけど、取り敢えず一番疑問に思った事訊いてもいい?」

「ならば答えてしんぜよう」

「それはどーも…うち『も』、ってどういう事?どっかでクリスマスに何かやるって話でも聞いたの?」

「うん。妃乃がね、悠耶君の家でちょっとしたパーティーやるんだって」

 

 やりたいオーラが溢れ出している綾袮さん。一先ず一番気になった部分を訊いてみると、案の定人から影響された様子。…子供か……。

 

「パーティーねぇ…協会の方じゃ用事は何もないの?」

「ないよ?本分は戦闘の組織が、わざわざクリスマスだからって事で何かすると思う?」

「あ、そりゃそうか…でもパーティーったって、具体的には何をやりたい訳?」

「んっと…楽しい事と、盛り上がる事かなっ!」

「OK、具体的な部分は何も考えてないのね……」

 

 これまた案の定というかなんというか、綾袮さんは衝動だけでやりたいと言っている様子。まぁ、パーティーってのは盛り上がる事を目的にしてる面あるし、そういう意味じゃ回答として間違っていなくもないけど……。

 

「ねー、やろうよー。顕人君はやりたくない?」

「いや…やるのはいいよ?いいけど…それ絶対、面倒な事は全部俺がやる事になるよね?」

「いやいや、わたしもちゃんとやるって。ね?だからやろ?」

「…ほんとにやる?嘘だったら俺怒るよ?」

「うん、ほんとにやる」

 

 信用してない訳じゃないけど、地味な準備や片付けを綾袮さんがしたがらない事を俺はよーく知っている。だから念を押すようにじっと綾袮さんを見つめて訊くと、綾袮さんも俺の目を見てこくりと首肯。その目には、かなり真剣な意思が籠っていて……

 

「…なら、約束だよ?楽しい事だけじゃなくて、面倒な事もちゃんとやるって」

「勿論!じゃあ、顕人君はOKなんだね?」

「そうだよ。…俺だって、パーティーに興味ない訳じゃないし、さ」

 

 何だかちょっと素直じゃない人みたいな答え方になってしまったけど、とにかくこれが俺の本心。それを聞いた綾袮さんはぱっと表情を明るくさせて、そのまま今度は視線をロサイアーズ姉妹へ。

 

「二人はどう?きっと楽しいよ?」

「楽しいなら、やりたい」

「私も構いませんよ。私達は恐らくその日も予定ないですし」

「なら決まりだね!よーし、それじゃあ早速パーティー会議だよ!」

 

 俺の時とは打って変わって、二人は殆ど即決で了承。全会一致での賛成となって、綾袮さんも上機嫌。……因みにこの時、「自分はそこで何をしましょうかねぇ…」なんて声が上がったりもしたけど、まあそれはどうでもいい。

 

「えー、酷いっすよせんぱーい。魔人はパーティーなんてるなと?」

「いやだって突っ込み待ちなの目に見えてたし…」

「でも分かってても突っ込むのが先輩でしょう?」

「俺だって時にはスルーするっての…後止めて、誤魔化すのも大変なんだからスルーさせて……」

 

 残念ながら慧瑠はスルーさせてくれず、俺は変に思われないよう飲み物を取りに行きながら慧瑠へと反応。小声で返したから、三人には聞こえてないと思うけど…次はちゃんとスルーしよう、うん……。

 

「パーティーといえば、やっぱりパーティーゲームだよね!」

「そんな事ない。パーティーといえば、豪華な食事」

「食事かぁ…七面鳥とか?」

「うん。七面鳥」

「七面鳥…あれは美味しいよねぇ…」

「…買えと?」

 

 わざとらしく言ってくる綾袮さんに半眼で訊いてみると、じーっとした二人の視線が返ってくる。…えぇー…何故に無言の圧力……?

 

「あー、はいはい分かったよ。他には何食べたい?」

「ケーキ!」

「グラタン」

「ケーキにグラタンね。ラフィーネさんは?」

「私ですか?私は…その、出来ればどっちも作ってみたいです。…出来ますか…?」

 

 食べたい物を即答してくる二人とは裏腹に、少し考えた後伺いを立てるようにおずおずと訊いてくるフォリンさん。自由奔放な二人とは違って良識的で、俺の都合や負担を考えつつも、普通の女の子らしい思いを抱く彼女の存在は、ほんと俺にとって支えというか心の安堵。時にはラフィーネさんと共謀してからかってくるけど…なんかもう、こういう気遣いをしてくれると許せてしまう。

 

「そうだね…上手く出来るかは不安だけど、やってみようか」

「はい…っ!」

「むー…顕人君、なんかわたし達の時と反応ちがーう」

「そりゃ回答も日頃の行いも違うからね」

「顕人、贔屓は良くない。…でも、フォリンに優しくするのは良い」

「あ、うん…(つまりどっち…?いや、どっちも本心なんだろうけど……)」

 

 七面鳥にグラタン、それにケーキと何品か出たところで一先ず食事の話は終了。他をどうするかは…まあおいおい決めるとして……っと、そうだ。

 

「一つ訊いておきたいんだけど、クリスマスに何かあったらその場合はどうする?まさか魔物もクリスマスは休業…なんて事はないよね?」

「その時はその時だよ。というかそういう事言うと実際に起きちゃったりするから言うのはだーめ」

「えー……まぁ口は災いの元って言うし、ない事もないか……」

 

 綾袮さんの返しに納得した…って訳じゃないけど、根拠のない「もしも」を言い出したらきりがない。そう自分の中で結論付けて、その後も暫く俺達は会議続行。家の中でやる事だから、半分は雑談だけど…それでも大まかな事は決定し、当日の事が段々と想像出来るようになった辺りで会議は決着。外部からお客を呼ぶ訳じゃないし、何から何まできっちり決める必要はないよね…って感じでお開きとなった。

 

「それじゃ、皆準備はしっかりやろーね!」

「綾袮さんも、言ったからにはちゃんとやってね?」

「分かってるって。フォリン…は大丈夫だろうから…ラフィーネもサボっちゃ駄目だよ?」

「大丈夫。わたしも、やる時はやる」

 

 若干の不安はあるものの、綾袮さんもラフィーネさんも準備に対してはかなりやる気。それがちゃんと、いざ準備するという時、そして終わってからの片付けでも発揮される事を祈りつつ、俺は誤魔化しの為に持ってきたお茶をぐっと喉へと流すのだった。

 

 

 

 

 それから数時間後。うっかり部屋でうたた寝してしまった俺は、壁を背にベットに座ってあるものを調べていた。

 

「ふぁぁ…へぇ、結構種類あるんだなぁ……」

 

 調べ物と言っても別に課題じゃないし、何かに纏める訳でもないから、片手持ちのスマホでのんびりと検索。面白い…というか「お、これはいいな」と思える物も幾つが見つけられたから、それの名前だけメモのアプリに書き入れようとして…そこで、部屋の扉がノックされる。

 

「はいはい、空いてますよー…っとラフィーネさん?」

「うん、ラフィーネ」

 

 ベットから立って扉を開けると、廊下にいたのはラフィーネさん。…今名前を呼んだのは、どうしたの?…って意味だったんだけど…まぁ、ラフィーネさんらしいしいいか。

 

「ラフィーネさん、何か用事?」

「暇だったから来た」

「あ、そ、そう…なら、入る…?」

「入る。廊下寒い…」

 

 暇潰し感覚で来たらしいラフィーネさんは、俺の言葉を受けてすぐに部屋内へ。…わー、俺今女の子を部屋に連れ込んじゃったナ-。

 

「…顕人は、何してたの?」

「俺?俺はグラタンのレシピを調べてたとこだよ」

「グラタンの?」

「うん。どんなグラタンがあるかも気になったしね」

 

 そう言って俺が見せるのは、某有名なレシピサイト。流石に大手なだけあってグラタンのレシピも豊富で、簡単に作れる物から中々凝った物まで盛り沢山。まぁ勿論、俺が作れそうなのは比較的簡単なやつだけだろうけども。

 

「…どれも美味しそう…」

「だよね。ラフィーネさんは、この中じゃどのグラタンがいい?」

「んと…これ」

 

 数十秒程画面とにらめっこしていたラフィーネさんが指差したのは、具材たっぷりのシーフードグラタン。実はその上にチキングラタンっていうのがあって、それを選ばれたら七面鳥と鳥被りをするところだったけど…一先ずセーフ。

 

「シーフードグラタンね。レシピ…は、そこまで複雑でもないし、それならこれを第一候補にしておこうかな」

「顕人は、これでいいの?」

「俺は別に、何としてもこれが食べたい…ってものがあった訳じゃないからね。それに、元々グラタンが食べたいって言ったのはラフィーネさんでしょ?」

 

 食材や分量を確認しつつ(どうせ食材買いに行く時また見るだろうけど)答えると、ラフィーネさんは何も言わずにこくんと首肯。そして「何をしてたの?」から発展した話は終わり…代わりに沈黙が訪れてしまう。

 

「…………」

「…………」

 

 何となくの気不味さに俺が若干目を逸らすと、ラフィーネさんは眉一つ動かさずにぽふりと俺のベットへ座り、じっと俺を見つめてくる。じーっと見てる訳じゃなく、ぼんやり見てる訳でもなく、どこまでも普通にただ見てくる。

 

(これはあれだ。言いたい事があるとか、何かを待ってるとかじゃない。マジでただ、これといった目的も無しに俺を見てるんだ……)

 

 慣れというのは凄いもので、もう俺は表情どころか瞳ですらラフィーネさんの気持ちが分かってしまう。……まぁ、分からない事も多いけど。今回だって、別に感情が読めてる訳じゃないけど。

…ともかく、何か意図あっての視線じゃないって事は何となく分かった。つまり、「どうかしたの?」と訊いても大方「別に」と返ってくるだけで……はは、これはもう俺が話のネタを探すしかないな…。

 

「……あ、そうだ…」

「……?」

「ラフィーネさんさ、もうここでの生活は慣れた?」

 

 何かないかと考えていた俺の頭に浮かんだのは、そんな質問。これは勿論、話題を探す中で思い浮かんだ事だけど…同時に俺にとっては、至極真剣な質問。

 

「…慣れた。けど普通」

「普通?」

「環境に慣れるのは、わたしやフォリンにとって当然の事。これまで、色んな国の、色んな場所へ行ってきたし…環境程度で躓いていたら、わたし達のしていた事は成り立たない」

「…そ、っか……ごめん、野暮な事聞いちゃったね…」

 

 この家が、この環境が、ラフィーネさんやフォリンさんにとって住み良い場所かどうか。これからもきっと暮らす事になるここへ、慣れる事が出来たかどうか。…そんな思いで訊いた俺へ返ってきたのは、感情の籠らない淡白な言葉。とても楽しい気持ちを抱いてるなんて思えない、沈むばかりだった過去の話。

 多分ラフィーネさんは、こんな事を話させて…なんて思ってない。無意識の部分までは分からないけど、意識の上じゃただ事実を言っただけ…そう思ってるんじゃないかと思う。

 だけど俺がしたかったのはそんな話じゃない。決別した過去を掘り起こす話なんて、俺もラフィーネさんも何一つ楽しくない。だからもう俺はこの話を終いにしようとして……

 

「…でも、ここは…ここでの生活は、落ち着く。BORGの、ずっと暮らしてた部屋より……ずっと」

 

 だけどラフィーネさんは言ってくれた。ここでの生活は、自分にとっていいものだって。落ち着くんだって。…その顔に、頬に、ほんの少し柔らかな表情を浮かべながら。

 

「…なら、良かった」

「…うん」

 

 嬉しいし、安心したし、温かい気持ちになる。素直で良くも悪くも正直なラフィーネさんだからこそ、その言葉に嘘偽りはきっとない。心からそう思ってくれてるんだって、信じられる。

 抱いた気持ちは沢山。だけど、今は多くを語る時じゃないような気がして、俺は静かにラフィーネさんの隣へ座る。ラフィーネさんも、俺の答えに小さく一つ頷いて……再び部屋に訪れる静寂。

 

(…落ち着く場所…気が休まるって、ここなら心を張り詰めてなくてもいいんだって…そう、思ってくれてるのなら…あぁ、そうだ。…幸せだ)

 

 俺はラフィーネさんとフォリンさんに、普通に暮らして、普通に笑顔になれる…そんな未来へ歩んでほしいと思った。傲慢だけど、まだ俺には足りないものが多いけど……それでもその思いは、その未来へは一歩ずつ進んでいる。…それが俺には嬉しくて、幸せだった。良かったって、心から思えた。

 

「…顕人。あの時言ったのは、あの時だけの言葉じゃない」

「……へ?」

 

 それから十数秒後、不意にラフィーネさんが発した言葉。けど…正直言って、何を言っているのかよく分からない。

 

「…覚えてないの?」

「お、覚えてないっていうか…いきなり『あの時』って言われても、どの時か分からない……」

「…それは、確かに。ごめんなさい」

「う、ううん、それは別にいいけど…いつなの?」

「顕人が、魔人を連れて行こうとしていた時」

「……!」

 

 説明不足を理解してくれたラフィーネさんに訊き返し、その答えが明らかになった時、俺は一瞬どきりとした。

 でもそれは、慧瑠と直接関係する事じゃない。ラフィーネさんが言いたいのは……

 

「…俺の、願いの為に……」

「そう。…あれは、わたしとフォリン、二人の思い。わたし達の、大切な気持ち。だって顕人は、わたし達の…諦めて、考えないようにしていた事を、叶えてくれたから」

 

 俺の方を向いて、澄んだ目で俺を見つめるラフィーネさん。真剣で、純粋で……混じり気のない、真っ直ぐな眼差し。それが俺を見ている。俺だけを、見つめている。

 

「だから、次何かあったら…その時は、わたし達に声をかけて。説明なんて必要ない。迷う必要もない。一言言ってくれれば……それだけで、わたし達は力になるから。どんな事でも、何回でも」

「…ありがとう。なら、次は…ううん、次も二人を頼りにするよ。けどそれなら、俺だってまた力になる。…いいよね?それで」

「…ん。でも、いいの?」

「いいの」

 

 発されたラフィーネさんの言葉からは、危うさも感じる。…いや、実際危ういんだ。多分ラフィーネさんとフォリンさんは、俺が頼めば本当に何でもしてしまうから。慧瑠を連れて逃げようとした時は、俺の為に事実上の命令違反をしていた訳だし……俺はまだ覚えている。フォリンさんがラフィーネさんの為とはいえ、俺に夜這いをかけてきたあの日の事や、俺の物になると本気で言ってきたあの夜の事を。あれを思い出すと、今も顔が熱くなる…というのはともかくとして、あんな事をやってのけるのが、ラフィーネさんとフォリンさん。だからこそ俺は、二人の事を頼りにしたいし……俺もこれからも、二人の力になりたい。二人の気持ちは嬉しいけど、俺は尽くす尽くされるの関係にはなりたくないから。

 

「…………」

「…………」

 

 三度目の沈黙。でも何故か、今はもう気不味さを感じながった。何というか、このまま何もせず、ラフィーネさんと二人でいるのも悪くないような気がしてきて……そんな中、ぽふりと俺の肩に心地の良い重さがかかる。

 

「…ラフィーネさん?」

「…駄目?」

「…仕方ないなぁ」

「嬉しくない?」

「……まぁ、男としては…嬉しい、けど…」

「なら、問題ない」

 

 寄り添うように、俺の肩は頭を乗せてきたラフィーネさん。そちらを見てみれば、変わらず純粋な目で嬉しくないのか、なんて訊いてくる。そしてそれに、誤魔化す事なく答えてみれば、ラフィーネさんは少し悪戯っぽく笑みを浮かべて……全く、なんで問題あるかどうかをラフィーネさんが判断するのさ…。

 

「……♪」

(…けどまぁ、いっか)

 

 天然だし、言葉足らずな事もあるし、綾袮さんと同じく子供っぽい一面があるし、でもこうして時々『男としての俺』をからかってくる。全くもって、ラフィーネさんは自由奔放だ。力になると言いつつ、俺を振り回しまくるのは一体どういう事なのか。

 でも、それでいい。それがいい。そういう自由奔放で、考えてる事が分からない事も多くて…けど妹の事を深く愛しているのが、ラフィーネさんなんだから。そういうラフィーネさんの事を、俺は大切に思ってるんだから。

 

「……反撃、させてもらうよ」

 

 そう呟いて、俺は逆の手で軽くラフィーネさんの頭を撫でる。聞こえていないのか、聞こえた上での無言なのかは分からないけど、俺の手を嫌がる素振りはない。だから俺は触れて、撫でて、ラフィーネさんの柔らかな髪の感覚を掌でゆっくりと感じた。

 それから数十分位しただろうか。気付けばラフィーネさんは寝息を立てていて、肩にかかる重みもいつの間にか増していた。けれど俺は雰囲気に当てられたのか、それすら俺には心地良くて……

 

(…ラフィーネさん。ここでの生活だけじゃなくて…俺の側が、こうして俺と居る事も心の安らぎに繋がっているのなら……俺は、凄く嬉しいよ)

 

 再び俺は、ラフィーネさんの頭を撫でるのだった。この可愛らしい女の子が、ここまで俺に気を許してくれている事に、確かな幸せを感じながら。

 

 

 

 

 

 

……ただまぁその後、「あれ?これって…ラフィーネさんが起きるまで、俺動けねぇじゃん…」と気付き、段々手持ち無沙汰になってしまったんだけど…それは、秘密って事で。


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