双極の理創造   作:シモツキ

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第百三十七話 寒空の下で

 自分で言うのもアレだけど、俺はどちらかといえば優等生タイプだと思う。…いやほんとなに自分で言ってんだって話だけど、成績に関しては『良い方だけど上位と言える程じゃない』位のものだけど、生活態度や素行と呼ばれる類いの要素は、結構高評価をされているんじゃないかと考えている。……マジで自画自賛甚だしいな、これ…。

……こほん。とにかくそんな俺だけど、だからって休みの日にまで学校に来ようとは思わない。だってそこまで勉強熱心な訳じゃないし、そもそも休みの日は学校閉まってるし。…だが俺は今日…休みの日でありながら、学校にいる。

 

「お待たせ、はい」

「ありがと、顕人君」

 

 近くの自販機で買ってきたホットココアを、代金と交換で茅章に渡す。それを受け取った茅章は、両手で持ってその温かさに表情を緩める。

 学校にいると言っても、ここは学校に面した路上であって、厳密には校内じゃない。…そう、今は茅章とデート中。……と言うのは勿論嘘で、今はもっと真面目な目的の最中。

 

「なんかもう、温かい飲み物を選ぶのが普通の時期になっちゃつたね…。顕人君は何にしたの?」

「お汁粉」

「へぇ、お汁粉……え、お汁粉!?…わっ、ほんとだ…」

 

 訊かれた俺が自分の缶を見せると、茅章は二度見。…うむ、思った通りの反応だ。

 

「…お汁粉、好きなの?」

「いや、普段はあんま自販機利用しないし、折角の機会だから買ってみようと思っただけ」

「あぁ…大概スーパーとかの方が安いもんね」

 

 自販機において缶のお汁粉は、所謂色物枠の代表。勿論缶のお汁粉が好きだって人もいるだろうし、それを否定するつもりなんて毛頭ないけど、そもそもお汁粉はジュースや茶とは系統が違う(餅入ってるし)んだから、飲料の中に並んでいたら異彩を放つのは当然の事。…って、俺は何を語ってるんだ…。

 

「…ふー……あっつ…!」

「大丈夫?」

「あ、大丈夫大丈夫。しっかし分かってたとはいえ、ほんとあっついな……」

 

 勢い良く飲もうものなら舌も喉も火傷しそうなお汁粉を冷ましながら、少しずつ飲む俺。茅章も同じようにココアを冷ましつつ、俺達は寒気で冷たくなった身体を温めていく。

 さて、じゃあ俺達は何をしているのか。真面目な目的とは何なのか。…それは当然、霊装者絡みの事に他ならない。

 

「そういえば、結構かかってたみたいだけど…もしかして、結構遠くまで探しに行ってくれたの?」

「あーいや、自販機はすぐに近くにあるんだけど、ちょっと買う時に後輩と会っちゃってね。変に思われないよう、少しだけど雑談をしてたんだよ」

「それはタイミングの悪い偶然だったね…。…今、どの位進んだのかな?」

「さぁ…それに関しちゃさっぱり分からん……」

 

 現在校内では、許可を得た霊装者達があるものを探知しようとしている。で、俺達は他にも何ヶ所かに分かれている人達と共に、警戒中。この役目に俺が選ばれたのは、ここの学校の生徒なら近くにいてもおかしくないから…というもので、茅章は俺の友人(=やはりいてもおかしくない存在)だから。……何を探知しようとしてるか?そんなのは、前に俺達が探していた、魔人が見つけようとしていた『何か』に決まってる。

 

「顕人君は、何が探していたものの正体だと思う?」

「あー…その話は千㟢ともしたなぁ…結局答えは出なかったけど」

「そうなんだ。…普段から二人はよく一緒に行動してるんだね」

「…んまぁ、クラスも一緒だし、綾袮さん妃乃さん以外じゃ同じ学校の霊装者なんて千㟢しか知らないし、何だかんだでつるんでるのは事実だね」

 

 こくり、と一口飲んでから言葉を続けた茅章に対し、少し視線を逸らしながら言う。…そうだよ、で済めばいいものをわざわざ長ったるか言ったのは…分かるよね、と俺は言いたい。十代後半で、「○○君と仲良いんだね」と言われてそれを肯定する事の恥ずかしさを。

 

「…やっぱり、良いなぁ…そうやって普段から気兼ねなく付き合える男友達がいるっていうのは……」

「…茅章は、まだ学校じゃ遠慮を?」

「……うん。僕がちゃんと言えば良いだけなんだって事は分かってるんだけど、それでもやっぱり…いざ言おうとすると、勇気が出なくて……」

「…そっ、か」

「…ごめんね。顕人君も悠耶君も、いつも僕に良くしてくれてるのに……」

 

 それから茅章が発したのは、羨ましげな…けれどその裏に悲しそうな思いも感じられる声音の言葉。それに一瞬の逡巡の後、俺が訊き返すと…茅章は小さく頷いた。

 そして缶を両手で握ったまま、視線を落として俯く茅章。そんな茅章を見た俺は、一度頬を掻き……茅章の肩を軽く叩く。

 

「…別に、気を遣って良くしてる訳じゃないよ。確かに、あの時手伝うとは言ったけど…俺が茅章と接してるのはそれが楽しいからだし、千㟢だってきっとそうだ。俺達は友人として茅章と付き合ってるんだから、茅章だって負い目を感じる必要はないよ」

「顕人君……うん、そうだよね…顕人君ならそう言うよね…。…ごめんね、結局気を遣わせちゃって……」

「だから良いんだって…全く、茅章は気にし過ぎだぞ?」

「う、うん…それも、分かっては…いるん、だけど……」

 

 手伝うと言ったから、話を聞いてしまったから…とかではなく、ほんとに俺はただ友人として茅章と付き合っていただけ。だからそれに感謝されるのは何か違うし、負い目を感じる必要もない。

…と、言う事は伝わっていると思うけど、それでも茅章は謝ってくる。…まぁ、俺も時々ネガティヴな思考をしちゃう時はあるし、今に至るまでの経緯を考えれば茅章がそう考えてしまうのも理解は出来るけど……

 

「…あれだよ?あんまそういう気にしてる感出されると、逆に『なら何かしてもらおうか…』的な思考になっちゃうよ?」

「へ?…な、何か…って……?」

「そりゃあ、まぁ…ねぇ……?」

「えぇぇ…っ!?あ、顕人君何か企んでるの…!?顔が怖いよ…!?」

 

 わざとらしく悪い顔をして茅章を見やると、これまた分かり易く茅章は怯える。…いやぁ、ほんと茅章は期待通りの反応をしてくれるなぁ……じゃなかった、ごほん。

 気遣いのような言葉が逆に負い目を感じさせてしまうのなら、違う切り口でいけば良いだけ。俺も千㟢も茅章に早く変われなんて思ってないんだから、本質的なところから離れたって問題はない。…負い目だの何だのなんて気にせず、普通に友人として接する事が出来れば、楽しく話せればそれで十分なんだから。

 

「…とにかく、あんまり過度に気にしない事。OK?」

「は、はい…。……因みに、ほんとに何か企んでたり…?」

「え、聞きたい?」

「う……や、やっぱり言わないで…」

 

 そんな感じで茅章を弄りつつ悪い流れのリセットにも成功した俺は、心の中でふぅ…と息を吐きつつお汁粉を一口。少し冷めて飲むのに丁度良い温度となったお汁粉は美味しく……

 

(…あー、これは後々別の飲み物欲しくなるわ…餡子飲んでるようなものなんだから、当然っちゃ当然なんだけど……)

 

 ネタ感覚でお汁粉を買った事を少し後悔するのだった。…いや、ほんと美味くはあるんだけどね?身体もあったまるし。

 

 

 

 

 何を探しているのかは分からないけれど、わざわざ魔人(厳密には魔人に頼んだ存在)が探すようなものなんだから、『こちら側』にまつわるものだろう。そしてそうならば、霊力であったり魔物の力であったりの様な、霊装者が能力で探知出来るものである可能性が高いのではないだろうか。

 これが、この任務の根底となる思考。だから捜索には探知能力に長けた霊装者が当たっていて…中には各地の支部所属の人もいる。あくまで会議のついでという形らしいけど…こうして支部とも協力してる辺り、この件は本当に大きな事らしい。

 

「……なんて、他人事みたいに考えるのは良くないか…」

「…何が?」

「いや、独り言」

 

 開始してから数時間。今のところ問題はなく、捜索班からの連絡もなし。…と言っても、緊急事態じゃない限り捜索班から連絡が、警戒班の一員に過ぎない俺や茅章に直接入ってくる訳もないんだけど。

 

「…あのさ、顕人君」

「ん?」

「仕事中なんだから、そんな気の抜けた事を考えてるんじゃないって言われそうな事だけど……」

「うん」

「……暇、だよね…」

「…分かる、超分かる」

 

 呆れ気味の苦笑いをしながら言った茅章に、俺は強く首肯。確かに警戒っていう任務の途中なんだから、気の抜けた事を考えているのは良くないし、敵襲なんてないに越した事はないってのも分かってはいるけど……全くもって、暇過ぎる。茅章がいるからまだいいものの、もし一人で警戒だったら…ぶっちゃけ、眠くなっていたかもしれない。

 

「こういう時は…あれだな」

「しりとり?」

「いや、定番だけどそれじゃなくて……っと」

 

 物凄くシンプルな茅章の発言を否定した次の瞬間、支給されているインカムに通信が入ってくる。その内容は、俺達の近くにこちらへ接近する魔物がいるというもので、通信を受けた俺と茅章は頷き合う。

 

「茅章、準備は?」

「大丈夫、出来てるよ」

 

 人目がない事を確認した後、俺達二人は飛翔。伝えられた方向へと飛びつつ、俺は縮小しておいた武装を本来のサイズへ拡大する。

 それから数秒後、俺自身も接近してくる魔物を探知。その感覚に従って視線を向けると、その先にいたのは四枚羽の黒い魔物。…あ、どうしようちょっと格好良い…。

 

「…そういえば、共闘するのは初めてだっけ?」

「そう、だね。戦った事はあるけど…。…僕が、前に出た方がいい?」

「いや、俺が前に出るよ。こんな装備ではあるけど、俺は動き回って撃つ方が好きだから…ねッ!」

 

 突撃してきた猛禽類の様な魔物に対し、俺と茅章は散開。旋回してくる魔物に向けて俺は右手のライフルを放ち、茅章も周囲に霊力を帯びた糸を展開する。

 

「……っ…やっぱ速いな…ッ!」

 

 目で追いながら霊力の弾丸を連続で放つも、それ等は全て飛行する魔物の後方へ。偏差射撃もしてはいるけど、羽ばたく度に微妙に速度が変わるせいで当たらない。

 

「来るか…ッ!」

「任せてッ!」

 

 弧を描くように俺の射撃を避けていた魔物は、ぐっと回って一気に俺達がいる方へ。そこで茅章が糸を放ち、放たれた糸は組み合わさって網の如く広がっていく。

 青い光を灯す、網目状の薄い壁。けれどそれがただの糸ではないと分かっているのか、魔物は激突の直前に急上昇。流石に激突からの自爆…なんて楽な展開にはなってくれないらしい。

 

「機動力もある訳か…茅章、その糸での拘束って魔物にも出来る?」

「勿論」

「だったら、俺が誘い込む…!」

 

 念の為に訊いた質問へ、返ってきたのは予想していた通りの反応。それを受けた俺は反転し、魔物を追って上昇する。

 

(二丁ともライフルにしたのは正解だったかな…!)

 

 推進力も強化しているとはいえ、今の俺と装備じゃ一気に距離を詰めて集中砲火…なんて芸当は出来ない。けれど追いかけて高機動をする事は出来るし、今の装備には両手共に魔物を追い立てられるだけの火器がある。

 魔物は飛び回りながら隙を見て急旋回からの突撃をしてきて、俺は射撃で追い立てつつも攻められた時は引き付けてカウンター。今のところどっちもダメージは与えられていないけど……こっちにはまだまだ余裕がある。それに、茅章もいる。

 

「逃がすかよ…ッ!」

 

 各部の推進器から霊力を吹かし、トリガー引きっ放しで魔物を追う。

 湧いてくるのは、興奮の感情。意味不明な体格や気持ち悪い姿を持つ事もある魔物の中じゃ今回の奴は結構整った姿をしていて、俺が奴と行っているのは長所を活かした高機動戦。それが湧き上がる興奮の源泉で……だけど俺の頭は、冷静な思考も忘れていない。

 

(これも訓練の成果、かな。…もう少し、もう少しだ……!)

 

 心は燃えていながらも、頭ではしっかりとモンスターの次なる行動とその対応を考えている。考えられている。…そうだ、俺はまだまだベテランには程遠いけど…もう霊装者になりたての、初心者でもない…!

 逃がさず、けれど深追いもせず、付かず離れずの距離を維持し続けて、魔物の注意を俺だけに向けさせる。そしてそれが出来たと感じた段階で、俺は敢えてチャンスを逃した。

 

「来た……ッ!」

 

 その瞬間、しめたとばかりに魔物は急旋回。俺に向かって突っ込んできて、対する俺は右のライフルを腰に掛けつつ左のライフルで甘めに牽制。撃ち込んだ弾丸は全て外れ、魔物は更に加速してくる。

 ここまでは全て狙い通り。後一手で完璧になる。そう心の中で意気込んだ俺は、正面から魔物を見据え、その場で静止。そうして魔物が両脚を振り上げ、刃物の様な爪で俺を突き刺しに来た瞬間……腰から純霊力剣を振り抜き、爪ごと魔物を受け流す。

 

「茅章ッ!」

「うんッ!」

 

 背負い投げの如く受け流した先にいるのは、ここまでずっとスタンバイしていてくれた茅章。俺の言葉に茅章は答え、飛んでくる魔物に向けて糸を射出。即座に糸は網状に…さっきよりも数段目の細かい、より広範囲に広がる網となって、飛び込んできた魔物を捉え包む。

 

「いけるよ、顕人君ッ!」

「応よッ!これで…ッ!」

 

 完全に包まれた魔物は甲高い声を上げて暴れるも、糸の拘束は外れない。それどころか糸はもがく魔物の身体へと喰い込み、一度に全身へダメージを与える。

 その姿を視認しながら、俺は二門の砲を展開。一気に霊力を込めつつ射線上に茅章が入らない位置へと移動し、推進器の細かな操作で姿勢制御。そして、必殺の意思を込め…二条の光芒を、魔物に向けて撃ち込んだ。

 放った霊力ビームは、二条とも狙い違わず胴体を貫通。貫かれた魔物は痙攣し、小さく鳴いて……貫通部位を起点に、崩れるように消え始める。

 

「…ふぅ、顕人君お疲れ様」

「茅章こそお疲れ。…よし、完全に消えたな」

 

 完全に消滅したところで、俺は構えを解き、茅章も糸を引き戻す。続けて撃破を連絡すると、労いと共に学校前へ戻るようにと指示が飛ぶ。

 

「結構速い魔物だったね。複数体だったら辛かったかも…」

「確かにね。…そういえば、最後の砲撃で糸も何本か切っちゃったけど…大丈夫?」

「あ、うんそれは心配しないで。切れたのは全部霊力だけで編まれてる糸だから」

「へぇ、それなら良かっ……そうなの!?え、それ…凄くね!?」

 

 言われた通りに戻る中、茅章の返しに驚く俺。全部霊力だけでって…それ要は、純霊力の剣を何本も同時に伸ばして、しかもそれを自在に動かしてるって事だよね…!?…マジか……。

 

「ふふん、僕も操作だけは少し得意だからね。…って言っても、実際に細かく動かしてるのは実体のある一部だけで、他は全部追従させてるだけなんだよ?ほら」

 

 驚いた俺を見て茅章は珍しく自信ありげに胸を張り、それから頬を掻きつつ逆側の袖から一本の糸を引っ張り出す(袖から、ってのも格好良い)。

 その糸に茅章が霊力を流した事で糸は浮かび、更にその周囲に発現する数本の純霊力糸。そこから実体のある糸は細かな波を作りながら上昇し、純霊力糸も追随するけど……実体糸に比べると、純霊力糸の作る波はかなり緩やかなものだった。

 

「…ね?純霊力の糸は維持してるだけで操作はしてない…というか、霊力を流してる糸を追わせてるだけみたいなものだから、見た目より楽なんだよ?…まぁ、この説明もざっくりしたものなんだけど…」

「そうなのか…いや、でも凄いって。俺がやったら間違いなく即拡散するか、射撃みたいに飛んでくかのどっちかだろうし…」

「僕からすれば、顕人君の方がずっと凄いよ。僕が顕人君と同じ戦い方をしたら、絶対途中で霊力が持たなくなりそうだもん」

「いやいや、俺は元からそういう才能があっただけだし」

「いやいやいや、才能を活かすのも実力だって」

 

 お互いに相手のやっている事は凄いと思った結果、褒め合う形になってしまった俺と茅章。…気分?そりゃあ勿論、悪くないどころか普通に良いさ。相手は茅章だし。

 というか、そうか…具体的な原理は分からないけど、そんな親機と子機みたいな使い方も出来るのか…自分の為に、もう少し色んな知識を持った方が良いかな…。

 

「…こほん。ともかく降りようか」

「あ…それはそうだね」

 

 武器を仕舞い、着地し、持ち場に戻ってふぅと一息。戦闘中は内心テンションの上がっていた俺だけど、後で湧いてくるのは無事に済んで良かったという安心感。…って違う違う。接近してきた魔物の撃破は済んだけど、当初の任務はまだ終わってないんだった…。

 

「こっちは何か進展あったのかな?」

「どうだろう。ただまぁ、簡単には見つからないでしょ。楽に探知出来るようなものなら、綾袮さんや妃乃さんがこれまでに気付いてるだろうし。…ってか、結構時間が経ってんだから今の時点で簡単には見つかってないか…」

「…ゲームとかだと、伝説の武具だったら何かの封印だったりだよね」

「あ、やっぱそう思う?定番の展開はそんな感じで、後は異界へのゲート辺りだよなぁ……」

 

 とはいえ、何か起きない限りこっちは何もする事はない。勿論ただ突っ立ってるんじゃなく、『警戒』をしなきゃいけないんだけど…警戒して○○、じゃなくて警戒単品なんだから、手持ち無沙汰にもなるというもの。

 

(何かしらはある、ってか何かしらなきゃ魔人は来ないと思うけど…まさか、もう魔人に確保された後…なんて事はないよな……?)

 

 ちゃんと周りに視線を送りつつも、俺は考える。見つからない場合、まず考えられるのはどこか見落としている場所があるか、探し方が悪いかだけど……もう持ち去られた後、って事も考えられる。もう無いのならどれだけ探したって見つかる訳がないし、持ち去った証拠を見つけるのも難しい。だって、魔人が一体どんな証拠を残すのか、残せるのかって話だから。増してや目当ての『もの』が分からない以上、それを探すのも魔人の証拠を探すのも、結局虱潰しにやるしかない。つまり……やっぱりこれ、やってる事が途方もねぇ…。

 

「…なんか、また冷えてきちゃったね……」

「あー…さっき動いた分余計に冷えを感じるよね…また買ってこようか?」

「ううん、大丈夫。それにあんまり飲み過ぎると…ね」

 

 あぁそれもそうか、と心の中で俺は首肯。元々寒いのに、何杯も飲み物を口にしたらどうなるか。買いに行けた事からも分かる通り、まぁ催したら最悪行けばいいんだけど…出来れば催さずに済ませたいよねって話。

 ともかく、俺達は警戒を続ける。見つかるかどうかは分からないけど、少なくともやらないよりは何か見つかる可能性があるし、見つからなければその失敗から次の策を練る事だって出来るんだから、『発見』という成功に至らなくても無駄じゃない。……と、思う。

 

(…というか、こんな寒い中何時間も立ってるんだから、意味あるものだって考えなきゃやってらんないよね…)

 

 そうして警戒を続ける事数十分。疲れた脚を解そうと屈伸していた時、通信が入り……それからすぐに、校舎の中から捜索班が姿を見せた。それが意味する事は…一つ。

 

「…こうなると、次もまたどっかの捜索の警戒任務が来るかもなぁ……」

「はは…出来るだけ早く見つかってほしいね…」

 

 そう言って俺も茅章も苦笑い。そうして今日の任務は終わり……今日の夕飯は温かいものにしようと、俺は心の中で決めるのだった。

 

 

 

 

「皆お疲れ様〜。ごめんねー、本部の仕事に協力させちゃって」

 

 今回の仕事、校内の調査を『発見無し』という形で終わらせたわたし達は、ぞろぞろと校舎の外へ。わたしはその先頭を歩いて、皆に労いの言葉をかける。

 

「いえ。これも任務ですから」

「そ、それに綾袮様や妃乃様とご一緒出来て光栄でした!」

「ふふっ、ありがと。私達も普段交流のない貴方達と協力出来て良かったわ」

 

 ここには支部所属の人達もいて、妃乃の言う通りわたしも良かったと思ってる。…けど、成果は上がられなかったんだよねぇ…探知で発見出来るようなものじゃないって事は判明したけど、そんな事より魔人が探していた『何か』を見つけられる方がずっといいもん。

 とはいえ、探知は時間をかければ結果が変わるってものでもないし、終了って決めた以上は切り替えなきゃいけない。それが上に立つものだからね。

 

「……あれ?」

 

 なんて事を考えながら歩いていたら、何か気になる声が聞こえてきた。何だろうと思って振り返ると、それは支部所属で、身長がわたしと同じ位の女の子の声。

 

「どうかしたの?忘れ物?」

「い、いえ。…え、っと…あそこにいる方…あき…あき……」

「顕人君の事?」

「あ、はいそうです彼です。…うち、最後にもう一回って思って探知をかけてみたら、その探知に彼が引っかかったんですけど…何だか、会議の時よりやけに霊力が減ってるみたいで……」

「……?会議の時にも探知かけたの?」

「えっと…霊力量が凄いって聞いたので、どれ位あるのか気になって……」

 

 その子の目線の先にいたのは、警戒の為に立っていた顕人君と茅章君。霊力が減ってる、って……

 

「彼は警戒中に一度魔物の撃破をしたらしいし、その時の消費がまだ残ってるって事じゃないの?」

「あ、だよね。妃乃もそう思うよね?」

「そう、なんですか?…でも、一回の戦闘でそこまで減るのかな…」

「…そんなに減ってるの?」

「はい。複数回戦闘をした後みたいです…」

 

 イマイチ納得してない感じの女の子。特に慌てるような事もない今測り間違えるとは思えないし、かと言って何度も戦ったっていう報告もない。顕人君は霊力量に物を言わせた戦い方をするから、一度の戦闘で消費する霊力の量も自然と多くなるんだけど……複数回戦闘をした後みたいってなると、この子が顕人君の戦い方を知らないだけって訳でもないと思う。

 

(うーん…無意味に垂れ流してたって事もないだろうし…でもそうなると、どういう事なんだろう…。霊力なんて、消費しなきゃ勝手に減る訳……)

 

 霊力は血液とかスタミナみたいなものだから、普通に生活していれば自然と回復する。だから、妙に減ってる事自体はそんなに問題でもないんだけど……何故減ったかが分からないっていうのは、ちょっと引っかかる。…ほんとに、どういう事なんだろ…急に能力が衰える訳ないし、別の事に使ったってのもあり得ない。それに霊装者のエネルギー源って言っても、電気やガソリンみたいに盗まれる訳も……

 

「……ん、んん…?」

「…どうか、しました……?」

「あぁ…何か考えてるのよ、これは。…何考えてるのかは分からないけど……まだ支部の人達の前なんだから、あんまりぼけーっとした姿は見せるんじゃないわよ…?」

「うぇ?…あ、そ、そうだね…」

 

 なーんか気になってごちゃごちゃ考えていたら、いつの間にか顔を近付けていた妃乃に忠告をされちゃった。んもう、こっちは真面目に考えてるのに…と言いたいところだけど、宮空家の人間としてあんまり抜けてそうな姿は見せられないし、また後でかな…とわたしは首肯。けれどやっぱり気になっちゃったわたしは、もう一度ちらりと顕人君の方を見て……それから、この引っかかりを一旦保留にするのだった。


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